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テーマ ベストオブ「ゼロ年代」

レギュラーセレクター 曜日

ゼロ年代。2000年から2009年までの10年。アメリカのタワーに航空機が突っこむ朝で始まり、アメリカ初の黒人大統領が誕生した夜で終わったディケイド。CDショップが町から消え、書店数もどんどん減り、テレビが家庭の中心から外れ、ネットの通信速度だけが順調な上昇をつづけたゼロ年代という時の中で、日本の大衆文化は何を生み出したか。僕たち送り手が何を作り、あなたたち受け手が何を求めたか。年代順に検証していきましょう。次の10年のために。次のゼロ年代のために。

LOVEマシーンモーニング娘。

99年発売。ミレニアムへの期待と、それより少しだけ多い不安を内包させた、90年代最後の国民的ヒット曲。今改めて聴くと古めかしさを隠せませんが、しかし発表当時から「新しい」感じはなく、むしろ懐かしい、安心する響きを持っていました。アイドルを語るなんてオッサンみたいですが、佐藤は30歳のオッサンであり、みんなが大好きで大嫌いだったゼロ年代もまた、オッサンが動かしてきました。10年代を動かしているのがオッサンであるのと同様にね。

メタルギアソリッド2コナミ

01年発売。911当日、作家デビューしたばかりの佐藤は、「明日から、この事件を語る連中で地球はいっぱいになるだろう。でも、おれは語らないぞ。何も感じなかったから。何かを感じるのはオッサンの証拠だから」と誓いました。事件から数カ月後、自粛をくぐり抜けて無事に発売された本作は、『1』にはまだあった解りやすさが消え、人工的な悪夢をくり返すストーリーとなっていまして、それは、夢のような現実(つまり現実のような夢)を生きたデビュー直後の佐藤にも、ゼロ年代前半の世界風景にも、ぴったり嵌りました。

ファウスト講談社

03年創刊。この雑誌がゼロ年代の小説群に何をもたらし、何を失わせ、何を前進させ、何を後退させたのか。人の数だけ主張があるでしょうから、皆さん、自分の見たい現実を見てください。旗振り役の1人だった佐藤の感想は、「とても楽しかった」という、至極まっすぐなものしかありません。明らかな青春状態で書いた、明らかな青春の書。

虐殺器官伊藤計劃

07年発売。ゼロ年代の到達点といったところでしょうか。たった1冊の本でSF界はひっくり返り、余波は新本格ミステリにも、純文学にも、エンターテインメントにも……つまり、小説界の大部分に及びました。20代の佐藤が最後まで嗤いつづけた911。その瓦礫から生まれた奇跡のような小説を読み終え、30歳からは、10年代からは、青春状態に頼るのはやめよう、もうオッサンになったのだからと誓いました。2011年、日本は大震災とメルトダウンした原発に包まれています。

新世界より貴志祐介

08年発売。「セカイ系」という、「スチームパンク」や「印象派」のように、レッテル乃至は罵倒として使っていたのに、いつの間にか1つのジャンルとなったこの言葉が、ゼロ年代を席巻し、無数のセカイ系小説が生まれました(それにしても、セカイ系って言葉、初めて書いたよ。くすぐったい・笑)。上下巻として刊行された長大な本作を評価する際、どのような表現が適切なのかは知りませんが、セカイ系をめぐる1つの集大成なのは確実でしょう。

佐藤友哉さん

1980年生まれ。作家。『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』でメフィスト賞を受賞し、「戦慄の19歳」としてデビュー。2005年、『1000の小説とバックベアード』で第20回三島由紀夫賞を受賞。本年『デンデラ』が映画化され、6月より公開される。愛称は「ユヤタン」。

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