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テーマ 心に「名言」を刻んだ作品

過去のレギュラーセレクター

作中の「名言」は心に刻まれ、時にはその作品のすべてすら、たった一言に紡ぎ出されます。編集者にとって帯の文章やカバーの裏(表4)の文章−―リード文を考えることは一生の課題ともいえるものですが、それ故に名言の抽出というのは編集者としての力量が問われる気がして怖くもあり、楽しくもあり……。

NO MORE HEROESマーベラスエンターテイメント/グラスホッパー・マニファクチュア

「さあ 狂い咲きの園へ」とシルヴィア・クリステルが声高に叫んだのがこの『NO MORE HEROES』。Wiiというハードの性質を最大限活用したWii史上最高傑作のひとつだと思っています。世界殺し屋ランキングに名を連ねた、アクの強すぎる殺し屋たちを「ビーム・カタナ」で次々に殺戮し、ランキング上位へと駆け上がっていくという狂気の世界観に、次々と繰り出される外連味に溢れた名台詞の数々。その中でもこの台詞は特に切れ味と純度を感じさせる一言です。ゲーム開始後、最初にこの台詞が出たときの“体験”としての衝撃は未だに忘れることが出来ません。Wiiを持っていて、もしまだ遊んでないなら是非。荒削りな表現の中に流れる極度に研ぎ澄まされた「狂い咲き」の世界を体感して下さい。

iKILL渡辺浩弐/ざいん(イラスト)

「急ぐかい。それとも、ゆっくりやるかい」 この台詞をみると、本書第4話の残虐シーンが次々と頭に浮かんできて絶妙に気持ち悪くなります。フィクションの“痛み”は人間の想像力の根っこの部分を捉えて放さず、想像が出来るという悲哀、そして喜びを思い出させます。急ぐことの恐怖、ゆっくりすることの絶望、それぞれを感じさせるこの台詞、ある意味『iKILL』に描かれた全ての描写のなかで、読者に対してはもっとも痛烈で残虐な一文かもしれません。ところで『iKILL』は表面上残酷な物語ですが、希望の書でもあり、予言の書でもあります。現在のネットワーク社会に生き、インターネットを愛する、全ての人へ。

サンクチュアリ史村翔(作)/池上遼一(画)

「今の気分をどう表現する渡海さん…」「処女が股ァ開いて待っている………」 沖縄制圧を目前としたシーンですが、熱すぎだろ渡海さん……! 極道と政治、日本の裏と表から日本という国を変え、“聖域”に至ろうとした二人の男の物語『サンクチュアリ』、その極道・北条の兄貴分である渡海さんがとにかくカッコイイ。「刺せおら〜ッ!」「ほ、北条!! キスさせてくれ、キス〜〜〜!!」「…今日はオレがおまえにキスしてやるよ…」次々に繰り出される名言――ってかキス好きだなこの人……。これを読まねば男に非ずと星海社入りたての頃に太田さんに借りて全部読みました。最初のジャンケンのシーンを読み直すと今でも涙腺が緩みます。

連射王川上稔

「なぜならば、シューティングゲームとは、最初から最後まで本気を要求し、しかし何も残りはしないからです」 何事にも満足出来ず、日々の苛立ちだけを少しずつ心に溜めて学生生活をおくっていた主人公が、ある日『大連射』というシューティングゲームと、それを異常なまでのハイレベルでプレイする人に出会い、無益だと感じつつも、シューティングゲームにのめり込んでいく……というのが本作のストーリー。シューティングほど不毛で、本気を要求されるジャンルもそうはないでしょう。ところで、先日僕の友人が、あるゲームをついにクリアしました。7年以上かかったそうですが、そのゲームをクリアしたのは世界でただひとり。本気の大人は、カッコイイですね。

G戦場ヘヴンズドア日本橋ヨヲコ

「オレを震えさせてくれるのなら、この世界で、一緒に汚れてやる。」 僕がフィクションの中に編集者像としてまっさきに思い浮かべるのは『G戦場ヘヴンズドア』の阿久田鉄人だったりします。星海社に応募し、初めて自分の中で編集者になるという認識を持ったときにこの作品を思い出しました。この三冊の中にこれだけのキャラクターと物語を一気に凝縮した日本橋ヨヲコさんの漫画力にただただ圧倒されてしまいます。抜粋した台詞は町蔵と鉄男がお互いを戦友と認め合う瞬間を切り取ったもの。編集者として、戦友に出会うというのはひとつの夢でしょう。

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