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テーマ ベストオブ「少年ジャンプ」

過去のレギュラーセレクター

毎週ジャンプを買うようになるのは高校生になってからで、それまでは月に一度、父の実家に行った際に従兄弟が買ったものを読んでいた。「毎週ジャンプを買える」というのは、子供的にはなかなかの財力であった。それにしても、『ドラゴンボール』『スラムダンク』『幽遊白書』などの名作が覇を競っていたジャンプ黄金時代に少年時代を過ごしたくせに以下のような変梃なセレクトになってしまったのはなぜだろう。

密リターンズ!八神健

1995年〜1996年の足掛け2年間という短い期間の連載だったにもかかわらず、今でも一番好きなジャンプ漫画である。転生を繰り返し、すれ違いを繰り返しながらも求め合い、障害を乗り越えていく恋人たちの物語。主人公・端島密は少年漫画の主人公としては結構いい年(29歳)なのだが、しっかり少年していて好もしい。当時中二病真っ最中でひねくれていた僕だが、「こういうまっすぐな大人になるのも悪くないかもな〜」と上から目線で思っていたのは公然の秘密である。僕はあの地震の日に端島先生と同い年になったが、比べるのもおこがましいような状態で、本当にもうどうしたらいいんでしょうか……。

白い戦士ヤマト高橋よしひろ

犬がハァハァ言いながら戦う漫画を描き続けている高橋よしひろ先生の大傑作。本作は後に描かれた『銀牙』や『WEED』とは違って、少年・藤原良と秋田犬・ヤマトとの友情と成長を描いた闘犬漫画である。次々登場する土佐犬やマスチフといった大型犬に果敢に立ち向かうヤマト。そして盟友・石垣子助と彼の相棒・ジャンボ(ブルドッグ)。次々に繰り出される必殺技にハラハラドキドキしながら読んでいた。なお、本作を読みながら、「家の犬もジョークラッシュ(必殺技)ができたらいいのになぁ」と考えていたアホな少年は僕一人ではないと信じたい。

孔子暗黒伝諸星大二郎

諸星氏の作品を本格的に集め出したのは大学に入ってからである。本作は諸星氏の中国ものを代表する作品の一つであり、同ジャンルに挑むことのハードルを恐ろしく引き上げた一作である。古典的名作と言って良かろう。仏陀と孔子に導かれ、宇宙の理に迫っていく赤とアスラの物語はあまりにも壮大で、読み返すたびに脳の内部が拡張されるような感覚を味わう。リアルタイムで読んだわけではないが、ジャンプの偉大さに感じ入った一作。酒見賢一氏の大傑作『陋巷に在り』の源流の一つでもある。

はだしのゲン中沢啓治

本作は学校教育を通じて、僕の世代の共通言語となっているのだが、これは日教組の機関誌が最後の掲載誌であったことと関連があるらしい。経緯はどうあれ、ここまで人口に膾炙しているのはやはり作品の持つ力故であろう。日教組の皆さんには悪いが、僕は本作を読みながら英子姉ちゃんの裸に興奮していた。作品の持つ生々しさ故のエロス、というかなんというか。因みに、アニメ版の『はだしのゲン2』にはオリジナルキャラクターのかっこいい原爆孤児が登場します。

セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさんうすた京介

この漫画の連載が開始された時の衝撃をどう伝えたらいいものか。「こんなギャグ漫画ありなの?」という新鮮な驚き。「そうそう、こういうのが読みたかったんだよ!」という相反する気持ち。今だから言えることだが、時代を変える作品はこの二つを同時に感じさせてくれるのかもしれない。もう一つ忘れてはいけないのが、懐かしさと優しさを持っている漫画だということ。尖ってはいたけど、少年漫画の魂がしっかり込められている。

平林緑萌

星海社エディター。1982年奈良県生まれ。
立命館大学大学院文学研究科博士前期課程修了。書店勤務・版元営業を経て編集者に。2010年、星海社に合流。歴史と古典に学ぶ保守派。趣味は釣りと料理。忙しいと釣りに行けないので、深夜に寂しく包丁を研いでいる。

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