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テーマ 不覚にも?「笑ってしまった」作品

レギュラーセレクター 曜日

笑う。という人間特有の行為には、多くの意味が含まれています。楽しいときにも、憂うときにも、怒るときにも、嘆くときにも、畏れるときにも、人は笑うことによって感情を表出するのです。次に挙げる3作を味わった佐藤は、まず笑いました。笑って、笑って、笑い終えてから、はてどうして笑ったのだろうと考えました。3作とも基本的に、笑うところはありません。それなのに笑った。笑って受け流さねば、脳髄に重度の損傷を受ける可能性があったから。

わたしは真悟楳図かずお

綾辻行人さんが、「『わたしは真悟』を読んで泣けない人とは友達になりたくない」という話を以前していたらしく、佐藤も同意見ですし、お題と矛盾するようですが、本書をヘラヘラ笑って読める人間にはなりたくありません。しかし、それでは交通が閉ざされる。これから狭い話をしますが、佐藤は『わたしは真悟』を読んで感動したという女性に会ったことがありません。以前までは「これだから大人の女は!」とムキーッとなっていましたが、最近は落ち着きまして、「そりゃそうだな」と。本書を読んで笑う世界が、女だよなと。

叶えられた祈りトルーマン・カポーティ

『冷血』によってセレブ界に進出したカポーティでしたが、例によって例のごとく己を特権視して、作中にあることないこと(中にはサリンジャーの挿話も!)書きまくり、「セレブたちのゴシップ小説」を執筆したため追放され、ついに未完に終わった作品です。「今回は最高傑作になる」と吹聴しては出版社に契約金を払わせ、実際に書き始めたらセレブ界を怒らせ、そのまま60歳直前に他界し、死後刊行されたら「最高傑作じゃない」と評され、散々な目に遭った本書は当然傑作です。これほど美しい悪夢はありませんよ。

佐藤友哉さん

1980年生まれ。作家。『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』でメフィスト賞を受賞し、「戦慄の19歳」としてデビュー。2005年、『1000の小説とバックベアード』で第20回三島由紀夫賞を受賞。本年『デンデラ』が映画化され、6月より公開される。愛称は「ユヤタン」。

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