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テーマ 「雑誌」について語らせろ!

レギュラーセレクター 曜日

生まれてから今まで何冊の雑誌を読んだか? 見当すらつきませんが、小説よりも多く読んだのは確実です。小説となりますと意識が切り替わり、気分を高めて(あるいは滅入らせて)読みますが、雑誌はもっとフランクに、オレンジジュースなぞを飲みながら読めますからね。今日も雑誌を買い、読み、読んだことを忘れ、雑誌を買ったことも忘れるのでしょう。そして町でたまたま見つけた商品を指差し、「あ、これってあの雑誌に載ってたやつだ」と、苦もなく思い出したりするのでしょう。

Begin世界文化社

物心ついたときから家に置かれてました。そのため、佐藤の物欲や価値観の基礎となり、今もなお、ここに記されているものに反応してしまいます。「ロレックスのアンティークはビッグバブルになると手が出せないなぁ」とか、「ハンティングワールドのリュックタイプが似合うのは外国人だけだなぁ」とか思いながら読んでいましたね。何という嫌な子供でしょう。しかし、「Begin」から刷り込みを受けた佐藤少年は、これからどんどんいけ好かない方向に進むのです。

クウネルマガジンハウス

自殺した妹の復讐のために女の子を攫っては監禁する主人公や、70人以上もの女の子を襲う殺人鬼が出てくる小説でデビューした弊害として、『クウネル』からまだ原稿依頼がきません。せっかくの機会。この悲劇的な誤解を解きましょう。佐藤はですね、かわいらしいお弁当とか、ふわふわした布とか、昔の食器とか、おばあちゃんが作る料理とか、そういうの大好きなんですよ。マガジンハウスさんの雑誌は、『BRUTUS』や『Tarzan』や『Hanako』や、もう白状しちゃいますが『an・an』だって読んでいますよ!

通販生活カタログハウス

「物心ついたときから家に置かれ」てあり、「まだ原稿依頼がこない」という、1と2のパターンを合わせた激しい片思い。佐藤は『通販生活』で、のど飴から座椅子まで購入してまして、そういう意味ではライフラインとなっています。政治的主張と誌面デザインがまるで合ってないのに、購買層がイメージしやすいという不思議な雑誌。最近狙っているアイテムは、スイス・ブラストン社のボネコ気化式加湿機です。

不思議ナックルズ(現・「怖い噂」ミリオン出版

本コラム火曜日を担当する太田さんは、『実話ナックルズ』が愛読書のようですが、佐藤は断然こっちです。山の牧場レベルの最凶怪談から、他人の書いた絵馬を盗み見るというほっこりした企画まで、日本に存在するあらゆる怪異を、独特の視線(今回挙げた全部がそうだけど)で見つめようとする本誌を読むたび、かつて発動していた男子センサーがよみがえり、心霊スポットに行きたくなります。行ったことないけど。怖いの苦手なんだ。

ファウスト講談社

佐藤の青春時代を象徴する雑誌。といっても、読者ではなく執筆者に立場を移しています。これは噂の域を出ませんが、『ファウスト』の最新号、数年ぶりに出るらしいですよ。郵送事故によって大幅に遅れて届いた手紙のようです。果たして、どのような気持ちで読者は読み、どのような気持ちで佐藤は書くのでしょうね。

佐藤友哉さん

1980年生まれ。作家。『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』でメフィスト賞を受賞し、「戦慄の19歳」としてデビュー。2005年、『1000の小説とバックベアード』で第20回三島由紀夫賞を受賞。本年『デンデラ』が映画化され、6月より公開される。愛称は「ユヤタン」。

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