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テーマ 最高に“怖い”話

レギュラーセレクター 曜日

“怖い”というのは世界の枠組みの境界線が揺らぐ感覚です。一人ひとりの心の中にある世界の枠組み、それがグラリと揺らぐ。枠組みの外側の闇の向こうにも世界が底なしに拡がって在るんだという予感。“怖い”。不快でストレスフルな感覚のはずなのに、その予感の中には、“甘い悦び”が、必ず滲んでいます。それが、人間の心というものの特質です。“怖い”は最も根源的な人間の心の悦びです。

ねないこだれだせなけいこ

親の大きな膝の上で息を詰めて聞いた「こわいおはなし」。誰しも鮮明に覚えている、人生ではじめての最高にドキドキする体験。怖くてたまらないくせに、面白くて、うれしくて、しあわせで。 安全が確保された状態での“怖い”は人間にとって最高の楽しみです。小説、映画、漫画、TV……。世間は“怖い”をいくらでも与えてくれます。ああ、でもあの子どものころに味わった“怖い”ほど、人の魂を一生あたためてくれるものはありません。

饅頭こわい桂 枝雀

「好きなものは何か?」よりも「怖いものは何か?」への答がその人の本質をあらわにします。その人が恐れるものが、普段は観ることの出来ない、その人の世界の枠組みの輪郭線をくっきりと浮かび上がらせます。「自分とは何者か?」を問うことは、自分は本当は何が怖いかをジッとひとり考えることだと思います。そこに答があります。「○○を怖いと思う者」というのが一人ひとりの「自分とは何者か?」への、誰にも秘密の回答です。

怪人二十面相江戸川乱歩

少年期、こっそり「怖い本」に熱中した思い出は誰にとっても大切な宝物です。ちょっぴり、でもはっきりと自分が少し大人になった手応え。ドキドキドキ……。幼子は親の膝から降りて、やがて自力で自分の“怖い”を求めはじめます。知らない闇の向こうに、その手を伸ばします。そうして手にした様々な“怖い”は、その人の世界を形作り、誰かを愛することに育ってゆきます。社会的な使命感に育ってゆきます。人の魂は“怖い”を糧とします。豊かな“怖い”を持ちたいですね。

田中ユタカさん

66年生まれ。マンガ家。主な作品に『愛人[AI-REN]』、『ミミア姫』、『愛しのかな』、『もと子先生の恋人』。『初夜』などの純愛系作品、多数。“恋愛漫画の哲人”、“永遠の初体験作家”、“愛の作家”と呼ばれる。携帯コミックでも新作を意欲的に発表。

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