テーマ ベスト・オブ・新潮文庫
過去のレギュラーセレクター 安倍吉俊さん
2011.07.01
この5〜6年、年を追うごとに読書量が減り続けています。本に触れる時間が減った理由のひとつはネットでブログやニュースサイトの記事をGoogleリーダーで流し読みするようになって、そこで活字を目で追いたいという欲求が満たされてしまっている事、もうひとつはポケットの中の一番の暇つぶしの座をiPhoneに奪われてしまった事でしょう。なので、どうしても選択が昔の本になってしまいますが……。
シャーロック・ホームズシリーズコナン・ドイル 延原謙 訳
ホームズは、新潮文庫の延原謙訳版が好きです。というか、最初にこれを読んで、言葉のリズムがすっかり気に入ってしまって、他の訳者の訳したものを読んだら全くセリフ回しなどが違いすぎて読む事ができませんでした。ドラえもんが大山のぶ代じゃなくなってしまったようなものです。
村上朝日堂村上春樹 安西水丸
高校を出て、漫画のアシスタントと文房具屋のバイトと美術系の予備校を行き来していた時期に繰り返し読んでいました。暗い、不安の多い時期だったので、村上春樹の一連のエッセイの脳天気さにずいぶん救われました。挿絵とのバランスも素晴らしいです。しかし、これが書かれたのがもう20年以上前というのにちょっとショックを受けますね……。
脳と仮想茂木健一郎
19歳で絵を描き始めた時、ある固有の明暗のパターンを見てそれがガラスだと分かる、その分かる、を支えているこの感覚は何だ?という疑問が湧き、以来20年ぼんやり考え続けています。それがクオリアという概念だと知ったのはつい最近の事です。ずっと書きたいと思い試行錯誤している物語の核となる題材なので、早く科学的に解明して欲しいのですが、難しいみたいですね。
旅のラゴス筒井康隆
僕が読んだのは徳間文庫版だったかもしれませんが……。数百円、数時間で人生ひとつぶんの体験。僕にとっての物語とは、読み手を列車のようなものに乗せてゴトゴトとどこかに運んでゆく事なのですが、こんなに上手に見事に運ばれてしまったのは初めてで、読み終えたあと、自分の日常に戻るのにしばらくかかりました。文字という記号を並べただけでこんな事ができるのかと驚かされました。僕の最も幸福な読書体験のひとつ。
安倍吉俊さん
71年生まれ。漫画家。イラストレーター。東京芸術大学修士課程修了。代表作に『灰羽連盟』『ニアアンダーセブン』『リューシカ・リューシカ』などがある。自他共に認めるデジタルガジェットマニアだが、初期不良を引き当てる特異体質の持ち主でもある。
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