テーマ なぜこれが売れないのか分からない!
レギュラーセレクター 火曜日 釣巻 和さん
2011.11.15
売れて欲しいの。だけど、これが売れる世界に暮らすのは、ほんのすこし、怖いの。
エコールルシール・アザリロヴィック
数年前に渋谷の映画館でこれを観ました。静かに漂うような綺麗な画なのに、最後まで張りつめて目を離せませんでした。静かに縛り付けられるみたいに、じっと映画館の椅子で身を固めてしまって、終わった後はぼんやりと。外の空気を吸ってやっと、冷たくて心地よい沼の底から出たような気持ちです。たくさんの少女が出てきます。生物としては、わたしもかつては少女だったはずなのに、永遠にああはなれないだろうなあと、哀しいようなほっとするような不思議な気持ちに、なりました。
VEGEMITE ベジマイト
知っていますかベジマイト。わたしは、ニュージーランド人の知人からもらった時がお初です。日本でいうなら…「納豆」とか。そんなかんじのいわゆる「珍味」です。中濃ソースによく似た色味のペーストは、うっすらと伸ばし、焼きたてトーストにつけてざっくり、食べるのが基本だとか。少量でかなりシオッカライので、うすーくのばすのがおすすめですが、その一口に、いろんな味がする…気がする、発酵食品です。はじめ「!?」となったわたしですが…えええ…なんだろ。気がついたら、また食べたくなってる。そう、そうなのよね、きらいじゃないの。むしろ、す…。すき…? ちょっと、素直になれないだけなんじゃないの、ねえみんな? 食べてみて。
よだかの星(CD付絵本)宮沢 賢治
高校時代、図書室で、何年も貸りられていない絵本がありました。それが、この「よだかの星」。このお話の絵本は、他にも数多く出ていると思います。けれどあえてこれを選ぶのは、朗読CD付きの文字。これが、わたしの心を射貫きました。きゅん。あがた森魚さんの独特な語り口と、キラキラ滲むような音が重なって、夜空みたい。言葉になんて、できません。ただ、きれいなだけじゃないのが、この朗読の旨味です。ときおり掠れるような声が、言いようも無く切なく、よだかのこころに迫るから、わたし泣けないです。よだかの星は、最後いつも泣いてしまいそうになるけど、この朗読を聴いていると、夜空を見上げて涙を飲み込むような気持ちになるからです。つらくて優しい。
釣巻 和さん
87年生まれ。漫画家。代表作に『童話迷宮』『くおんの森』『水面座高校文化祭』などがある。2010年11月に坂本真綾の満月朗読館・第三夜『ベッドタイム・ストーリー』(著・乙一)にイラストを寄せ、その繊細な絵筆によって多くの視聴者を魅了した。
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