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テーマ 人生を変えた「教科書」

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「教科書」なる言葉に誰もが抱く気持ちとして、「うざったい」というものがあるのではないでしょうか。自ら進んで獲得したのではなく、上から与えられるという感覚です。しかし……義務教育を終えて久しいので云いますが……与えられるという子供の特権は、大人になれば当たり前に喪失し、あるのはただ無為なる日々、または自発的な勉強だけです。今回は、「おチビ時代に教科書として与えられたが、結果的には最高で最強だった」という作品を挙げます。

かいじゅうたちのいるところモーリス・センダック

恥ずかしい話をしますが、佐藤は中学生になるまで、小説をほとんど読んでいません。理由は主に2つで、1つは「難しかったから」。もう1つは「自分と関係ないから」です。しかし本書は別でした。おチビ佐藤に自覚症状はありませんでしたが、現実世界の「生きづらさ」を、絵本というかたちでそっと教えてくれた本書は、かわいらしい表現を使えば、永遠の宝物でしょう。怪獣よりもっと怪獣じみた人間たちのいるところで、今日もしっかり生きています。怪獣のコスプレをやめてね。

ターミネーター2ジェームズ・キャメロン

再び恥ずかしい話をしますが、佐藤は映画をほとんど観ていません。生涯で観たのは10本くらい? というレベル。映画は「文化人たるもの必ず摂取しなければならない」そうですが、知ったこっちゃないね。そのような佐藤でも本作は大好きでして、自作の大半はこの映画のフォーマットに従って作られています。敵が無駄に強い。重要キャラほどザコ。現在より未来が大事。人がバンバン死ぬけど本筋と無関係。何が起きているのか結局良く解らない。とか。

The End of the World那須正幹

『ズッコケ三人組』という、日本の子供の大半が知っている超有名シリーズの著者ですが、本書は安心して読める小説ではありません。佐藤が本書を読んだのは(ルールから外れます)成人してからですが、表題作が見せる残酷な世界とストーリーにやられました。さらには、「傑作」と呼ばれる作品に必ず付属する、「ええええええ! ここで終わっちゃうのかよ!」という心地にもやられまして、続きを書きたくて仕方ありません。

宮沢賢治全集宮沢賢治

宮沢賢治の気味悪さを、何とか言語化しようという苦しい努力は、現在もつづけられています。ここで断言しますが、宮沢賢治の物語は気持ちが悪いです。なぜこれを親が子供に与えるのか、さっぱり解りません。ご多分に漏れず我が家にも、『宮沢賢治全集』なる書籍がありましたが、怖くて怖くて読めませんでした。しかし、『なめとこ山の熊』を例外として我が身に取りこんでいたことを、熊が出てくる本ばかり書いている現状を思い返して、愕然としています。

高瀬舟森鴎外

これは国語の教科書に載っていまして、初めて読み通した文学作品であり、初めて何かしらの心地を抱いた小説でもあります。もちろん、おチビ佐藤は森鴎外を知りません。明治政府の中枢にいたことも、多くの孫がいることも、エリスという女性が日本文学に光と影をもたらしたことも。それでも、そうだとしても、おチビ佐藤は『高瀬舟』を読み、読み終え、感銘を受けた。とまでは云いませんが、うーん、そうだなあ、吃驚しました。リアクションとしては地味ですが、吃驚って、そうそうしないものですよ。

佐藤友哉さん

1980年生まれ。作家。『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』でメフィスト賞を受賞し、「戦慄の19歳」としてデビュー。2005年、『1000の小説とバックベアード』で第20回三島由紀夫賞を受賞。本年『デンデラ』が映画化され、6月より公開される。愛称は「ユヤタン」。

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