ここから本文です。

テーマ この「才能」には、嫉妬せずにいられない……

過去のレギュラーセレクター

基本的に嫉妬はあまりしません。客観的に見て負けているなら自分の問題だし、納得いかない理由で負けているならそれはもうどうでもいい事なので。僕は元々、他の事はもちろん絵に関してさえ、人より秀でているものが何もなかった人間で、長所を伸ばすと言うより、欠点を潰して前に進んできたので、他者と比較して自分の欠点を見つけるのは娯楽のようなものです。欠点というのは直視できないとやっかいですが、把握して言語化してしまえば潰すのは比較的楽なので。まあ、楽なのはマイナスを0にするところまでで、0をプラスにするのは大変ですけど。そんなわけで嫉妬というか単に自分と違う方向性で好きな作風の方々。

沙村広明

理想の絵柄のひとつ。自由自在の構図。人体の重心の置き方、関節に加わっている力の表現のうまさ、動きのうまさ、コマ運び、明暗の配置、背景もうまい。シリアスもギャグも描ける。緻密な描写もできるし、荒い筆致で、記号的な説明する事なく『それっぽい感じ』を出すのもうまい。こんな風に描けたら、と思う事はよくあります。

okama

色のセンスが素晴らしい。現在の、選択範囲でくくってグラデ流し込むタイプの画風の大きな流れを作ったと思う。ポンとただ一色置いただけでも色が映える。強い色を複数使っても画面がばらけない。モノクロもうまい。輪郭の途切れ方で光を表したり、黒の使い方がうまい。光沢感のある黒が出せる。線が本当に自由で、現実の制約に囚われずに描きたい通りに描いている感じが羨ましい。僕は現実を意識しすぎて、引きたい線を引けないことがよくある。

小畑健

僕自身はガチャガチャと汚い線ではっきり言い切らない曖昧な部分を残した絵柄ですが、志向しているのはどちらかというと線に情報を集約して画面をきちっと整頓し、はっきり言い切るタイプの絵柄です。綺麗な線でコントラストの強い影のついた、一目で情報が伝わるような絵を描きたいのですが、僕は生まれつきの傾向として細部に目が行きがちな人間で、線を整えると細部に固執しすぎて全体のバランスの崩れた、弱い絵になるのが分かったので、そういうスタイルからは距離を置くようにしました。でも憧れる絵柄ではあります。

たかみち

僕は輪郭を引かないと形を取る事ができないので、たかみちさんのように、色面で形を構築できる人は羨ましいです。たかみちさんの絵の良さは、やはり対象の特徴を大掴みに捉えて、適切な形、色、彩度で画面に再現できることでしょう。大掴みの説明が圧倒的にうまいので、細部を過剰に説明しなくても、その物の実感が見る側に伝わります(しかも描き込んでもうまい)。昔見たラフなスケッチで、白い背景にグレーの点がいくつかあるだけで、そこが公園で、木漏れ陽が地面に落ちているのが分かる絵があって、かなり衝撃を受けました。真似たいけど真似できないですね。

安倍吉俊さん

71年生まれ。漫画家。イラストレーター。東京芸術大学修士課程修了。代表作に『灰羽連盟』『ニアアンダーセブン』『リューシカ・リューシカ』などがある。自他共に認めるデジタルガジェットマニアだが、初期不良を引き当てる特異体質の持ち主でもある。

フォローする

POPとして印刷


本文はここまでです。