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テーマ シビれた「装丁」、ヤラれた「ジャケット」

過去のレギュラーセレクター

そういえば本を出すときに編集者から「どういう装丁にしたいか?」という質問をされるのだけど、あんまり主張したことがないですね。なんとなく、装丁は編集者にとっての楽しみな仕事というイメージがあります。それを邪魔したらわるいような気がして。今まで自分でも気づかなかったんですが、自分のセレクションを見ると、『火蛾』とか『ラピスラズリ』のような装丁が僕の好みらしいですね。CDジャケットでもいろいろかんがえたけど思い浮かびませんでした。

火蛾 (講談社ノベルス)古泉迦十

かっこいい装丁は何? と言われてまっさきにおもいだしたのがこれだった。書店に行って講談社ノベルスの棚を見ると、この本だけが妙に目についた。今、実物が手元にないので、詳細な説明がうまくできないけど、とにかく自分の好みだった。内容は『鉄鼠の檻』のような、ミステリと宗教的思想をからめた小説だった。くわしい内容はすっかりわすれているけど、いまだに、蛾を見ると、この小説の存在をおもいだす。物語というよりも、本そのものを。

ラピスラズリ山尾悠子

幻想小説の本である。もう信じられないくらいすごいらしい。実はまだ、最初の数十ページくらいしか読んでないけど。でもそれだけで、これは傑作にちがいないという予感。内容は「人形と冬眠者と聖フランチェスコの物語」らしい。帯にそう書いてある。それにしてもこの装丁、素敵すぎるので、部屋にかざっている。箱入りの本なのだが、この色合いがなんともすばらしい。本に半透明の、なんか、うすい紙が巻いてあって、さわるとパリパリ音がする。時代を超えて、はるか昔から存在する本のようなたたずまいがすごい。

小津安二郎 DVD-BOX 第一集小津安二郎

小津監督の映画のDVD-BOXだ。このシリーズは、どれも箱の外側に布がはられている。さわるとざらざらする粗い生地の布だ。もうピンと来た方もいらっしゃるかもしれない。小津映画の冒頭に登場するあれだ。小津映画の冒頭にながれるスタッフロールには、いつも布みたいなやつが背景につかわれている。あれとおなじもの(かどうかよくわからないけど似ている)が箱の外側にはられている。手に持ってみると、まるで小津映画そのものを持っているような気持ちになる。映画という質量がなくて手に触れられないはずのものを、重みとして実際に触れられるという、不思議体験。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)伊藤計劃

ゼロ年代最高のフィクション。小島秀夫監督のゲーム『メタルギア』シリーズを彷彿とさせる。実際、作者の方は小島原理主義者だったらしい。『メタルギア』の小説も書いている。そして、若くしてお亡くなりになってしまった。惜しすぎる。そしてこの装丁、格好良すぎる。真っ黒な背景に文字だけのデザイン。Amazonには、帯のついてない写真と、帯のかけられた写真が掲載されている。この帯がまた格好良いのだ。黒色で幅の広い帯をこの表紙にかけると、表紙との境目がなくなったように見える。完全にテキストで埋めつくされる。言葉というものをテーマに据えたこの物語を象徴しているかのようだ。

ニンギョウがニンギョウ (講談社ノベルス)西尾維新

西尾維新先生の脳内からだだ漏れるテキストが一冊の本になったような作品。妹がたくさん登場する幻想小説。この装丁がすごい。西尾ファンは所蔵してかざっておくべき一冊。箱に入っていて、本のまわりには、ぱりぱりのうすくて半透明の紙が巻いてある。あの紙! 正式名称がなんだったかおもいだせない例の紙! 表紙の題名も大正時代のモダンな感じで素敵だ。印刷されている本文の文字も凝っていた。今、手元に実物がないので確認できないけど、特別な印刷方法だった気がする。実際に目で見て、触れて、確認してほしい。思想が貫かれた、本というアート。

乙一さん

78年生まれ。小説家。96年、栗本薫らの推挙を受けた『夏と花火と私の死体』で鮮烈なデビューを飾り、03年の『GOTHリストカット事件』で本格ミステリ大賞を受賞、人気を不動のものとする。

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