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テーマ シビれた「装丁」、ヤラれた「ジャケット」

レギュラーセレクター 曜日

神や美は細部に宿るものらしい。もしそうだとするならば、小説の美しさや音楽の美しさは、本やレコードの外部、つまり「装丁」や「ジャケット」にこそ宿るものなのかもしれない。

煙か土か食い物(講談社ノベルス版)舞城王太郎

いきなり登場、僕の担当作品。全面に蛇革をあしらった装丁で、爬虫類の危険かつ官能的な皮膚の感触をUV印刷という技法でカバーに封じ込める魔法を使ってあります。その魔法は、当時手に入れたばかりのお気に入りの「赤い蛇革の靴」から閃いた……のはここだけの秘密。本は「触覚」が大事。だって読んでいるときはずっと本を「触って」いるわけだからね。装丁/斉藤昭(veia)

GOTH リストカット事件(ハードカバー版)乙一

滅多に嫉妬しない僕だけど、この装丁には嫉妬しました。乙一さんには悪いけど、『GOTH』はこのハードカバー版しか購入しては駄目。デザインの「仕掛け」についてはあえてコメントしないけれど、無事に手に入れることができたら、ちゃんと気がついてね? そうそう、今思い出したんだけれど、あの西尾維新さんの『ヒトクイマジカル』(講談社ノベルス版)で僕が取り組んでみた装丁のイメージの原型は、このハードカバー版『GOTH』にあるのだ。

ブギーポップは笑わない上遠野浩平

滅多に嫉妬しない僕だけれど、この装丁には嫉妬しました。「ライトノベル」の新たな水準をつくった記念碑的な装丁です。新しい作家。新しいイラストレーター。そして、新しい装丁。三位一体の美しさ。(とはいえ、イラストの緒方剛志さんは正確にいえば、当時すでに知る人ぞ知る大きな存在だったわけだけど……)後日、西尾維新さんと竹さん、そしてデザイナーの斉藤昭さんと一緒に『クビキリサイクル』(講談社ノベルス版)をつくるまでは、僕がこの装丁に抱いた嫉妬心はどうしても抜けきらなかった。

ビッチェズ・ブリューマイルス・デイビス

すさまじいイラストの力。有無を言わせぬ「迫力」という言葉はこのジャケットのためにある。マティ・クラーワインのこのイラストは、新世界が一気に広がっていく予感に満ち満ちている。『ビッチェズ・ブリュー』というアルバムはエレキトリックなマイルス・デイビスを代表する、まさに新時代を切り開いた歴史的な一枚なわけだけれど、当時のリスナーがレコードに針を落とす前、このジャケット・ワークからすでに新時代は始まっていたのだ。(ちなみに、アナログ盤なら「見開き」でクラーワインのイラストが堪能できます!)

LED ZEPPELIN IVLED ZEPPELIN

タイトルは『LED ZEPPELIN Ⅳ』。でも、謎めいたジャケットのどこを探してみても、そんな文字は一文字も——一文字も存在していない。「わかるよな?」というわけだ。己の説明は一切無用。ただ、俺たちの音を聴け。なんという傲岸不遜さ。まさに「これぞロック」なジャケット! ZEPPELINのジャケットは、僕はどれもが大好きです。こんなふうにカバーに一文字も文字が載っていない絶対の「自信」に満ちた装丁、いつか僕もやってみたいな。

太田克史さん

72年生まれ。編集者。95年講談社入社。03年に闘うイラストーリー・ノベルスマガジン『ファウスト』を創刊。舞城王太郎、佐藤友哉、西尾維新らをデビュー当時から担当する。10年、未来の出版社を目指し星海社を設立。代表取締役副社長に就任する。

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