サエズリ図書館のワルツさん
あとがき
紅玉いづき Illustration/sime
「最前線」のフィクションズ。紅玉いづきが詠う、すべての書物への未来譚——。それは本の“未来”が収められた、美しく、不思議な図書館。あなたにとっての大切な一冊は、きっとここでみつかる。
あとがき
私達は長い間、治らぬ病にかかっています。
それは、「いつか本がなくなってしまうのではないか」と思い悩む病です。
不思議なことに、この病は本が好きな人しかかかりません。本を愛する人だけが、怯え、危惧し、未来を悲観し、惑います。本に馴染みのない人達は、ただの時代の流れとして、振り向くこともありませんでした。
私自身は、本の死をおそれたこともあったけれど、「そんなはずはない」と思っていました。何度訪れる「電書元年」も、本を駆逐する事など出来ない、と。
けれど、二〇一一年の春、この国をおそった震災の中、もしかしたら、本はなくなるのかもしれない、と思いました。もちろんそんなことはなく、未来のことも、わからないけれど。混乱と不安の中で、今、この物語を書きたいと思いました。
おだやかで、やわらかな、サエズリ図書館のお話を。
そしてそこに生きる、本を愛する人の物語を。
私が図書館に勤務していたのは、しばらく前の事です。
毎日愉快に忙しく、本に囲まれ働きながら、「探している本がどこにあるのか、手に取るようにわかればいいのに」と思っていました。ワルツさんが出来上がるきっかけはそんなささやかな願望でした。なかなか書く機会に恵まれず、あたため続けてきたのですが、星海社さんの「最前線」というWEBサイトを拝見した時に、この物語にふさわしいのかもしれないなと思いました。
文芸の最前線たる、WEBサイトから。一冊の本を、お届けしたいと。
本が出来上がるまで、根気強く物語と向き合って下さった、星海社の山中さん、イラストを引き受けて下さった、simeさん。本当にありがとうございます。
サエズリ図書館と、ワルツさん。もったいないほど美しい本になりました。
物語は、何度でも、問いかけます。
電書ですか? 本ですか?
彼女達は、何度でも、答えます。
やはり、本です。
これは、その理由を語り続ける、シリーズです。
第一話以降につきましては、書籍にてお楽しみください。
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