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テーマ ザ・ベリー・ベスト・オブ・「富野」

レギュラーセレクター 曜日

この種のコラムの大半がそうであるように、本文は妄想と思いこみによって構成されています。しかも富野由悠季という、妄想と思いこみが極めて発芽しやすいクリエイターが生産したものを語るとなると、「自分語り」をするしか、甘苦いミルクを飲み下した記憶をほじくり出すしかありませんが、なるべく客観的に書こうとは思います。ま、無理だけどね。知り合いに富野信者がいたら、「富野のベスト作品って何?」と聞いてみると良いでしょう。その人はきっと、困ったような怒ったような表情を浮かべるはずですから。

機動戦士Zガンダム

カミーユ・ビダン。このメランコリックでパラノイアックな響きを持つ名前の少年が主人公という時点で、この物語がどのように始まり、どのように終わるのかは決定されていたのでしょう。ロボットアニメとしても、ビルドゥングスロマンとしても、かの名作『機動戦士ガンダム』の続編としても、不成立となるように最初から運命づけられていたのです。『機動戦士Zガンダム』という長い物語の本質は「ただ不成立であること」。こうした物語が必ず迎えるとんがった結末を、皆さん体験されたし。

機動戦士Ζガンダム A New Translation

そんな『機動戦士Zガンダム』を、「不成立」から「成立」へと強引に改変したものが、この劇場版です。ストーリーの大部分、フィルムの大部分は当時のままですが、ラストが変わっています。公開当時、「誰も知らないラスト」というコピーが押し出されていましたが、ファンでなくとも予想できる、つまりは「誰もが知っているラスト」でした。しかし佐藤は断然支持。『ごんぎつね』や『チロヌップのきつね』に出てくる可哀想なきつねたちを、みんな助けてやるように書き直すなんて、凄く苦しいことだもの。

百式

どう見ても戦闘には向かない色彩。どう呼んでもロボットには向かない名称。「百年使えるモビルスーツ」という、イナバ物置と同じセンスで名づけられた百式は、お約束のように百年使われることなく、ラストではボロボロになりました。「この装甲じゃビームには耐えられんな。よし、かわせるように軽くしよう」なる間違った設計思想のもと作られた百式は、それでも最後まで戦い抜きました。百式の一点突破な造形と名前と生涯は多くの人々に共感され、中村一義のバンド『100s』の元ネタになっています。

SDガンダム

「おいこら、『Z』なんてクソだろクソ!」なる一派が多くいる中で語ってきましたが、さらなる異端を挙げたいと思います。というのも佐藤が「ガンダム」という概念を知ったのは、この三頭身で不格好な、武者や騎士のコスプレをしたロボットが最初だからです。お年玉や誕生日といった数少ない収入のほとんどを注ぎこみ、テレビゲームに目覚めるまでは娯楽の中心にありました。SDガンダムをきっかけとしてガンダムにハマり、今こうしてガンダムを語れるようになったわけです(つづく)。

カードダス

(つづき)おチビ時代の佐藤は、SDガンダムやカードダスに全財産を注ぎこみ、やがて『G』によって等身大ガンダムを知り、『W』で完全にやられました。しかしガンダム界において聖書とも呼べる「宇宙世紀もの」を無視したので異端視されていまして、星海社副社長にして担当編集者の太田さんは当初、佐藤のスタンスにブーブー文句を云っていました。ですが『ガンダム無双』発売日の深夜に電話があり、「佐藤さん! ヒイロと東方不敗のコンビはアリですね!」と話されていたのを聞いて、ニヤリとしたのを今でも覚えています。

佐藤友哉さん

1980年生まれ。作家。『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』でメフィスト賞を受賞し、「戦慄の19歳」としてデビュー。2005年、『1000の小説とバックベアード』で第20回三島由紀夫賞を受賞。本年『デンデラ』が映画化され、6月より公開される。愛称は「ユヤタン」。

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