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テーマ 仕事中、テンションを上げるために聴く「アルバム」

レギュラーセレクター 曜日

「仕事中のBGM」というのは、音楽を手軽に再生できるようになって以降、作家から歯医者まで、多くの人々が参入している文化です。佐藤は仕事中はもちろん、外出中も読書中も音楽に溺れていますが、しかし「音楽によってテンションを操作する」のを苦手としています。テンション、割と一定なのね。とはいえ音楽と自作との関係は根深く、音楽なくしては生成されなかった多くの著作があるのも事実ですので、ちょっとそのへんについて書ければと思います。うーん。佐藤さんは面倒臭いなあ。

OOKeah!!スーパーカー

鳴り響くパワーコード。歪みまくったファズの嵐。極めて明快な曲調。ボーカルの声が全然聞こえない。といった、佐藤のあらゆるツボにハマったアルバムです。五曲目に収録されている『Flicker』は、デビュー作『フリッカー式』の元ネタになりました。「あーもー。やっと原稿できたのにタイトルが思い浮かばないぜ! 困ったぜ!」といったとき、本当にたまたま鳴っていたのが『Flicker』でした。作家になるには、努力・才能のほかに、運命も必要なのを知った瞬間でしたね。

cult grass starsTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT

記念すべき、否、再結成が不可能となった今となっては記念碑ともいえるミッシェルのデビューアルバム。四曲目に収録されている『世界の終わり』は、著作『世界の終わりの終わり』の元ネタとなりました。世界の終わりを轟音で高らかに、だけどちょっとセンチメンタルに歌うこの曲は、「ロックは好きだけど、くるりじゃオタ過ぎるし、ブランキーはガチ過ぎて怖い」という、微妙な文系ロックキッズに直撃しました。それは別としても、『世界の終わり』という彼らのデビュー曲は名曲なので、ぜひ聞いていただければと思います。

DIRTY KARATROSSO

ミッシェル解散後のボーカル、チバユウスケが組んだ次なるバンドのアルバムです。二曲目に収録されている『1000のタンバリン』は、著作『1000の小説とバックベアード』の元ネタとなりました。『1000のタンバリン』がなければ、あの一作は凡作となり、三島賞を受賞することもなかったでしょうね。とまあ、このような表現があまりにつづくのでフィクションみたいですが、すべて事実。ミューズは残酷で、すべての人の前に現れはしますが、その声はあまりに小さく、そっと聞き耳を立ててやる必要があるのです。

S-F-X細野晴臣

うがー好き好き。もうメロメロ。参っちゃうの私。というアルバムではありませんし、手元にもありませんし、タイトルの元ネタになったわけでもありません。しかしCDをかけずとも常に頭に鳴っていることに最近気づきまして、愕然となった一枚です。YMO「散開」直後に発売されたミニアルバムですが、ラスト六曲目があまりに最強。タイトルは『DARK SIDE OF THE STAR』。邦題、『地球の夜にむけての夜想曲』。ええと、これ以上、何か言葉が必要でしょうか?

チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調作品74カラヤン

ラストはかの怪物、手塚治虫について語ろうと思います。『交響曲第6番ロ短調作品74』。通称『悲愴』という、やや重々しい響きを持つこの曲は、手塚治虫が『ジャングル大帝』の最終回を書くとき、部屋中に響き渡るようにかけていました。このエピソードだけで、「ものづくり」と「テンション」の関係において最高の一枚であることは立証されているのではないでしょうか。ソース先が『まんが道』というのも美しいですよね。佐藤も真似して、『悲愴』をかけながら小説を書いた経験があります。いい体験だったなあ。

佐藤友哉さん

1980年生まれ。作家。『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』でメフィスト賞を受賞し、「戦慄の19歳」としてデビュー。2005年、『1000の小説とバックベアード』で第20回三島由紀夫賞を受賞。本年『デンデラ』が映画化され、6月より公開される。愛称は「ユヤタン」。

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