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テーマ 不覚にも?「笑ってしまった」作品

レギュラーセレクター 曜日

「人は、完全のたのもしさに接すると、まず、だらしなくげらげら笑うものらしい。全身のネジが、他愛なくゆるんで、之はおかしな言いかたであるが、帯紐といて笑うといったような感じである。諸君が、もし恋人と逢って、逢ったとたんに、恋人がげらげら笑い出したら、慶祝である。必ず、恋人の非礼をとがめてはならぬ。恋人は、君に逢って、君の完全のたのもしさを、全身に浴びているのだ。」(『富嶽百景』 太宰治)

人間失格太宰治

中学生のころから太宰治作品が好きでした。ある時、『人間失格』は喜劇として書かれているという文章(正確な出典は失念いたしました)に接し、ビックリして、読み慣れた『人間失格』を再読すると、さらにビックリ。確かにこれは喜劇です。やたらと芝居掛かって大仰な物言いの主人公が、望まぬまま女に次々と「惚れられて」、どんどんひどいことになっていく。「人間、失格」は落語におけるサゲの言葉。笑っていいんだと思います。太宰治は本当にすごい作家です。読者の前で自分を哀れんでなどいない。M・Cです。

カラマーゾフの兄弟ドストエフスキー

「あ!! これ笑うとこだ!」「笑っていいんだ」、改めて意識するとドストエフスキー作品は喜劇的人物、喜劇的場面に、驚くほど満ちています。それも超濃厚で圧倒的にパワフルな笑い。『カラマーゾフの兄弟』の中盤、ドミートリイが金策に奔走する場面はまさに白眉。読んでいるこっちまでカッカして、もう半泣きになってきます。たとえ歴史的名作といわれる作品でも、身構えすぎて読んでちゃ美味しいところを味わい損ねてしまいそうです。古典的名作は今読んでもちゃんと「面白い」から、ずっと現役として生きているのだと思います。

男はつらいよ山田洋次

ずっと笑うことが出来ませんでした。子どもの頃の僕は『寅さん』映画に笑うどころかむしろ何かいたたまれないような気持ちになりました。漫才、落語に始まり、吉本新喜劇も松竹新喜劇もドリフターズも『トラック野郎』シリーズも、笑いなら何でも大好きな子どもだったのに、これだけはなぜか笑うことが出来ませんでした。それから数十年。ごく最近、第1作をDVDで観て、僕ははじめて『寅さん』を心から楽しみました。ちょっと泣きながらでしたが、ついに、笑うことが出来ました。

田中ユタカさん

66年生まれ。マンガ家。主な作品に『愛人[AI-REN]』、『ミミア姫』、『愛しのかな』、『もと子先生の恋人』。『初夜』などの純愛系作品、多数。“恋愛漫画の哲人”、“永遠の初体験作家”、“愛の作家”と呼ばれる。携帯コミックでも新作を意欲的に発表。

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