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テーマ 仕事中、テンションを上げるために聴く「アルバム」

過去のレギュラーセレクター

この質問は回答者の仕事内容によって大きく傾向が変わるんでしょうね。ちなみに僕は基本的に小説を書いてお金をもらっています。某有名作家の方は、執筆中に映画をかけたり、テレビをつけておいたりするらしいです。でも自分の場合は全然だめです。音楽のなかに言葉があったり、気持ちをせかすような曲だったりすると、仕事できません。あと質問のなかにある「アルバム」という概念もやっかいでした。iTunesのプレイリストに曲単位で登録してあるので「アルバム」で流すことはあんまりないかも。

ペルト: アリーナアルヴォ・ペルト

数年前、編集者にすすめられてアルヴォ・ペルトの音楽を聴き始めた。それ以来、執筆中に聴く音楽のひとつになった。『ファウスト』という雑誌の企画で数名の作家といっしょに沖縄へ連れて行かれて小説を書いたことがあるのだけど、そのときも一日中、アルヴォ・ペルトの音楽を聴いて執筆した。細田守監督にお会いしたとき映画『時をかける少女』の音楽がアルヴォ・ペルトに似ていたという話をしたことがある。実際、アルヴォ・ペルトをイメージして作ってもらったらしいですよ。ほらどうですか、聴いてみたくなったでしょう。

Towa Tei BestTOWA TEI

小説を書くときテンションの上がる曲は聴かない。心をおだやかにするため、しずかな音楽をかけている。絵を描く仕事と、言葉を綴る仕事は、逆なんじゃないかと勝手に想像しています。でも、心を鎮める儀式としての音楽は、ある意味で、テンションを上げるという言い方になるのかもしれないですね。それはさておき、このアルバムに収録されている「Incense&A Night of UBUD」という曲を仕事中のプレイリストに入れています。頭の中に言葉が生まれるのを邪魔しない、すばらしい曲だとおもいます。

Breezin’コーネリアス

アルバムじゃないけど、まあいいか。勘弁してください。「Kling Klang」という曲を仕事中によく聴いています。鈴がずっと鳴っているかのような美しい曲です。『Sensuous』というアルバムには、これに似た曲が入っていて、そちらも仕事中のプレイリストに入れてます。それにしても僕はしずかな曲でないと仕事はできないのですが、かといって無音で仕事をするというのもなぜかできないのです。執筆というひとりきりの作業におもむくため、なにかこう、心を日常から切り離す装置として、音楽をつかってるような気がします。

Music for Airports: Ambient 1/Remasteredブライアン・イーノ

これを作ったブライアン・イーノという人は飛行機嫌いだったそうですね。そんなイーノさんが空港で聴くための音楽を作ったのがこれだそうです。これを作ったときのイーノさんのかんがえのなかに「空港という場所と目的に関係して、死に備えられるような音楽であること」というものがあったそうです。たしかにこれ、安らかに死ねる曲です。映画『ラブリーボーン』のOPに使われていたのはそのせい? Amazonのレビューに「神経が疲労しきって外界の刺激が一切受け入れられなくなった時、唯一聴けた音楽でした」というのがあって、なんてすばらしい音楽なんだろうかと、あらためておもいました。

BTTB坂本龍一

これに収録されている「Aqua」という曲が好きで、仕事中のプレイリストに入れています。あまりに感動的な曲なので、そちらに意識がそれてしまい、逆に仕事に集中できないこともあります。あとこのCDのおもいでと言えば、愛知に住んでいたとき、いっしょの自主映画団体にいた男性会社員Oさんのことです。僕と友人は映画撮影のために名古屋へ行ったとき、何度かOさんの部屋に泊めてもらったのですが、寝るときにこのCDをかけていました。いや、あれは『ウラBTTB』の方だったかもしれない。そんなおもいで。

乙一さん

78年生まれ。小説家。96年、栗本薫らの推挙を受けた『夏と花火と私の死体』で鮮烈なデビューを飾り、03年の『GOTHリストカット事件』で本格ミステリ大賞を受賞、人気を不動のものとする。

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