ここから本文です。

テーマ ザ・ベリー・ベスト・オブ・「富野」

過去のレギュラーセレクター

これは難しいなあ。「ザ・ベリー・ベスト」なんて挙げるほど、富野さんとその作品について、僕は詳しくないからだ。「勇者ライディーン」も「伝説巨神イデオン」も「戦闘メカザブングル」も観たけれど、やはり僕にとっては圧倒的に「機動戦士ガンダム」。しかし、観たのは最初のシリーズだけ。Z以降は、僕には合わなかった。なので、申し訳ないけれど「機動戦士ガンダム」の最初のシリーズだけを挙げて、思い出話を書いた。

機動戦士ガンダム 1

最初にテレビで観たのは小学生のとき。再放送とはいえ、第一話をテレビで観て強い衝撃を受けた。そのときの新鮮さと妙な違和感をいまも覚えている。そこから最終話まで一話も逃さず観た。いちど、友達の父親に車で遠くに遊びに連れていってもらったとき、ガンダムの放映時間までに帰ることが難しくなって、「どうしても観たい」「ガンダム観たい」と大騒ぎして喚いて懇願して、どこかの蕎麦屋の小さな赤いテレビで、巨大な緑のビグ・ザムを観たのはよい思い出。ちなみに、その友達は、数ヵ月後、僕の家に泥棒に入って、僕に捕まった。

機動戦士ガンダム 2

ガンダムを最初に観たときは、物語の構造を深く理解していなかった。まあでも、連邦軍とジオン軍が戦っているというベースを頼りに、アムロやシャアを中心とする人間ドラマにハマっていった。モビルスーツ同士の戦闘シーンより、登場人物のドラマが深まっていくことが、面白かったのを覚えている。そして、なにより衝撃だったのが、「ニュータイプ」という概念だ。そこで僕の中のガンダムは一つ跳ねた。「そんなのアリか!」と興奮したものだ。しかし、僕がいくら唸っても、祈っても、棚の中の「王将駒」の置物はぴくりとも動かなかった。

機動戦士ガンダム 3

ガンダムのモビルスーツはなんといっても「ザク」である。ガンダムの成功は、量産型のザクの造形が大きいと思っている。まるで、トヨタ車のように、まるで山手線のように、同じ姿をしたモビルスーツがいっぱい存在するという、その「量産されたカッコよさ」に痺れた。ザクのプラモデルが欲しくて、欲しくて、手に入らなくて、「大量入荷」の噂を聞きつけ、朝の7時からダイエーに並んだが、入手できたのは木馬=ホワイトベースだけだった。その悔しさをクリエイティブにぶつけて、ものすごくプラモデル作りが上手になった。

機動戦士ガンダム 8

ガンダムの名場面の1つは、シャア専用ズゴックの鋭い爪がジムを突き刺すシーンだ。人間で言えば、素手で相手の内蔵を抉って殺すわけだから残酷。僕はそのシーンをなんとか再現しようと、時間をかけてジオラマを作った。それまでは単体でプラモデルを作って、自分で満足していただけだったが、コンテストに出して受賞した。しかし、残念ながら準優勝。優勝はどんな作品かと見てみると「リブギゴ」という「Dr.スランプ」に出てくるモビルスーツのジオラマ。それを選ぶというセレクトの良さに感動して、僕は一つ成長した。

機動戦士ガンダム 11

さて、最後。ニュータイプ候補と、旧タイプが、ニュータイプの女を取り合う、という宇宙に行ってからの展開に戸惑いを覚えたが、最後の戦地である、ア・バオア・クーの名シーン、片手と首まで捥げてしまったガンダムが、天に向かってビームライフルを撃つ姿は、ジオングの首だけではなく、僕の心まで完全に撃ち抜いた。あの美しさ。首が捥がれた状態で、二本の足はしっかりと地を踏みしめ、体を捻って天に向けて、ズギューン。特にポスターが素晴らしかった。というわけでガンダム・エッセイはお終い。ありがとうございました。

飯野賢治さん

70年生まれ。クリエイター。95年、ゲーム制作会社ワープを率い『Dの食卓』を発表、ゲーム界の風雲児となる。その後、『エネミー・ゼロ』『風のリグレット』などを発表。現在に続くクリエイターオリエンテッドなゲーム製作者の先駆けとなった。

フォローする

POPとして印刷


本文はここまでです。