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世界で一番君のことを信じているから

僕は僕という存在について誰よりも理解しているからこそ全く信用していないけれど、小柳粒男という小説家のことは、信じている。

 

 

 

最近、ろくに書けていない。小説のことである。

 

どうして書けていないのか。

真っ先に浮かんでくる理由は、僕が小説を書くことを選んでいなかったから、だ。

小説を書くことより、この配達所のモラトリアムを選んでいた。

小説を書いて心と体をすり減らすより、モラトリアムを充実させることに心と体と時間を使っていたからでは、と。

 

選ぶならどっちか。どちらかしか選べなくなったとき、どっちを選ぶのか。

好きな子とそこそこ楽しく過ごせる毎日か、夢を得るために必死にボロ布になるまで走りきる毎日か。

両方手に入れることを目指していたはずだけど、上京してから半年近く経って、そういう考えでは、僕が何かを手に入れることは難しいと判断せざるをえない。

 

なにかを選ばないことでしか、なにかを得られないと考えてしまう。

心のキャパシティに限度があって、どっちかを選んだ瞬間、容量いっぱいになっている感覚。

どっちも大切すぎるものになってしまったから。

 

気づいたときには、モラトリアムを選んでいたのかもしれない。

お前らといるのがあんまり楽しくてさ、ということだったのかもしれない。

 

 

大切なものをどちらかしか選べないのなら、どっちを選びますか。

 

僕は現状について、配達所の誰かに相談することはせず、星海社最前線「二十四歳の地図」を書いている。すでに選択しているのだと信じたい。

ただ、このモラトリアムを捨てられるのだろうかという疑問は残る。

ただ、自らの意思で捨てられる勇気があるのかということ。

 

 

でもこれは賭け。

結果は早ければ一週間後か、遅くとも一ヶ月後には見えてくるはず。

 

小説を書くことを選んだのか、モラトリアムを維持することを選んだのか。

僕がどうするか僕は正直わからない。ここ三ヶ月の僕のことを考えると、僕は僕をそれほど信用できない。

でも小柳粒男という小説家については、まだ信じている。

 

だから僕は今、こういうふうに考えていることだけを示しておく。

一週間後か、一ヶ月後の僕へ向けて。小柳粒男がやってくれることを信じている。

体を動かすのは僕だとしても、心を動かすのは小柳粒男でもあるはずだから。

 

僕がモラトリアムを維持したい気持ちも、小説を書きたい気持ちにも嘘はない。

でも今という瞬間、どちらかしか選べないと突きつけられたとき、僕は小説を書きたいと思いたい。

 

 

本当に欲しいものは全部小説で手に入れたい。

2月のいつ頃か、そんなことに思い至った夜がある。

 

モラトリアムの世界から、友達として徐々に仲良くなっていくこともありだと思う。

でも夢も恋も幸せも不幸も、小説を書くことで手に入れたいとも、思う。

そっちのほうが嬉しいから。

僕にそれができるのかは、まだわからない。

小柳粒男がいるなら、それもできると信じている。

 

体を動かすのが僕だとしても、心を動かすのは小柳粒男でもある。

僕は僕をさほど信用しない。

だから今だけは僕の心も体も君へ任せたい。

 

 

この半年近く、特に直近三ヶ月は、よく笑っている気がする。毎日毎日無意味に喋ろうと努力していた気がする。

それは探していたけど全く見つからなかった、幸せと呼ぶにふさわしい三ヶ月だったと思う。

だからもう十分なんだと言い聞かせる。なにがそれなんだと、もう知っている。

だからもう大丈夫。

 

僕は僕にお願いしたい。小説書かせてくれませんか。あとしばらくでいいからあの子を見ている時間、あの子のことを考えている時間を返上してくれませんか。

僕にそんな勇気があるのかどうかわからない。

 

僕は僕の気持ちを小柳粒男という小説家へ委ねたい。

僕がこの問いにどう答えるのかは、これを書き終えてからの僕が答えてくれると信じている。小柳粒男か、小柳粒男の力を借りた僕がやってくれるのだと。

 

 

僕は僕という存在について誰よりも理解しているからこそ全く信用していないけれど、小柳粒男という小説家のことは信じている。

だから。今だけは、任せるよ。

 

 

ということで感傷の時間は終わりです。

次回以降の「二十四歳の地図」は、しばらくのあいだ、小説進捗報告及び小説本編の一時的な掲載場になる予定です。

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それでは、「僕が君の敵になった理由 VOL 0.1」でお会いしましょう。

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