ここから本文です。

佐藤友哉という重力を振り切るための、宣戦布告

なにもかもが終わってしまった。1000ドル小説である。散々ツイッターで買う買う宣言していて、このざまである。

購入ページに入った瞬間から、嫌な予感はした。

購入ページの上部部分にある表示が「9」となっていた。何を意味するのか考える余裕はなく、事前にWordに表示させておいたメアド、クレジット情報をコピペして張りつけていく。暗証番号の部分は下何桁を入力するのか、年/月はどういう入力をするのか。ここで多少手間取った。

事前にGumroadの購入方法が書かれているページは確認していたから、必要なクレジット情報が三つのみであることは分かっていた。それをどういうふうに入力するのか、までは調べていなかった。想像以上に簡単な手続きに思えたから、そこまでやらないで大丈夫、と思ってしまった。そこまでやるべきだった。

僕が入った瞬間にすでに9人が購入手続き終了していたとしても、現状の世界の購入状態を考えるなら、あの段階からでもまだ3人は購入できたのだ。

わずかな手間取り、ためらい、遠慮。

それらが勝敗を分けたとしても、おかしな話ではない。

 

クレジット情報を打ち込んで、購入ボタンを押した。

メールアドレスを入力した欄の少し下辺りに表示されたのは、

Sorry〜という言葉。

 

買えていない。それだけはすぐにわかった。入力情報を打ち間違えた。それ以外の可能性を考えなかった。購入者数を示している数字はまだ「9」のままだった。携帯とWordに書いておいたクレジット情報を見直す。でも間違いはない。Twitterのタイムライン上では購入できたという声がちらほらあがっていた。焦る。見直す。大丈夫合っている。もう一度クリック。でも表示されるのはSorry〜ばかり。

なんでなんだよ、と思っていると、佐藤さんが一言「え」とだけツイートした。

 

異常で非常な現実が、僕のパソコン画面には表示されていたのだ。

何度もクレジット情報を打ち直して、購入ボタンを押した。表示されるのは、Sorryという言葉だけ。

変化のない状態に嫌気がさして、F5を押した。

更新された画面。そして「9」と表示されていた購入者数の欄に「-2」と表示されていた。

 

 

やっちまったと思った。

正直、クレジットの番号とか、暗証番号とか、カードの有効期限の書き方とかを間違ったせいだと思っていた。僕が間違っているわけない、とかなり本気で思っていた。

愚かだった。

そうではなかった。あの後どうしても納得がいかなくて別の人の作品を試しに購入してみた。これで買えなければ、これを言い訳にしようと画策した。アホだった。

当たり前のように買えてしまった。メールも届いた。DLもできた。

つまりは僕はあのときあの瞬間あのGumroadの場にいた、あの12人に敗北したのだ。

そういうことなのだ。

 

 

おめでとう。

この記事を書いている時間帯で、販売開始からそろそろ丸一日が経過する。

それだけの時間が経っているからこそ、あえて、それだけは言わせて欲しい。悔しいし切ないしふざけんなとまだ少し思っているけど、それでもあえて言わせて欲しい。

 

佐藤友哉の1000ドル小説を購入できた12人。おめでとう。

 

 

 

丸一日経って購入者におめでとうがいえるぐらい冷静になった今、ちょうどいい機会がやってきた、と思い始めている。

1000ドル小説を買えなかったという現実は、佐藤友哉という重力から立ち上がるためのいい機会なのかもしれない。いまこそ挑むべきなのかもしれない。

佐藤友哉の文学的守護神はサリンジャーだ。僕にとってのサリンジャーに当たるのが佐藤友哉だ。

だから小柳粒男は、いつかは佐藤友哉に挑むべきなのだ。

今がその瞬間かもしれない。

 

1000ドル小説を購入しようとした動機に、恩返しがあったことは、確かだ。

今の今まで作家としての小柳粒男の人生は、佐藤友哉があったからこそ成り立っている。これを断言することに、いくぶんのためらいもない。

だからこそ、恩返しがしたかった。

でも1000ドル小説は買えなかった。神の悪戯なのか。悪魔の嫌がらせか。それとも、運命なのか。

買えなかったという現実は、僕に決断と決意を与えてくれた。

 

別のやり方で恩返しするしかなかった。

小柳粒男にできうる、佐藤友哉への恩返しとは、何だろう。

 

考えるまでもなかった。散々面倒を見てもらった後輩がやるべき、先輩への恩返しなんて一つしかない。

 

 

成功することだ。

小説家・小柳粒男として、小説を売ることだ。小説で評価されることだ。小説家として名を知られることだ。

どのくらい、そうなるべき?

無論、佐藤友哉よりも、だ。

 

今日、佐藤友哉という重力を振り切ることを、決めた。

昨日までの僕は、書いていったらいつの間にかにそうなっていけばいい、というレベルで考えていた。その気持ちを、まず破棄する。

今日からは自覚的にそうすることにする。

 

要は。

今日から、あなたの小説のすべてを、超えるために小説を書いていきます。

「佐藤友哉よりも面白い」という評価を得ることが、今日からの望みです。

「佐藤友哉より好き」という読者の声を聞くことが、今日からの願いです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

小柳粒男を応援しよう! 

小柳粒男の作品
(このリンクよりご購入頂いたアフィリエイト収入は作家活動への応援として、小柳粒男へお送り致します)



本文はここまでです。