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魂だけは、合っていたからこそ、

心が折れそうになったときに手にとる漫画、小説、映画というものを決めている。

今、この瞬間とにかくどうあがいてもどうにもなりそうもないとき、それでも今すぐなんとかして、しおれかけた心に火を吹き込むために、別の作品に目を通す。

 

小説なら佐藤友哉。

映画なら押井守、今敏。

漫画なら、創作に関するもの、勝負に向かう男子の話が多い。

 

 

北海道にいたとき、持っていたそういう漫画を、上京してから何冊か買いなおした。

瞬間的に心を立て直してくれるそれを求めて。

そのうちの一冊が、「大東京トイボックス」

 

僕の目の前には、「大東京トイボックス」の作者であるうめ先生(@ume_nanminchamp @ume_asako)のサインが書かれた「東京トイボックス」がある。

 

 

 

身震いが起こる。

学生時代、10代の頃。

当たり前のように毎日書店に通っていて、気になった漫画があった。

 

東京という単語が使われたタイトル、特徴的な表紙の文字フォント、変身ポーズを決めている主人公、ゲーム業界の話。

 

前情報がなにもない漫画だった。

週刊少年系ばかり読んでいた当時の僕にとっては、青年コミックサイズのトイボックスは、多少敷居が高かった。

 

ちょっとググってみた。

「大」東京とついていることからも、想像できたけど、やっぱり続編だった。

「東京トイボックス」の続編だった。

こっちのほうから読もうと思った。

 

 

アマゾンでポチった。

数日して届いた。

 

 

そこにあったのは、モノを作る人達の漫画だった。

大人の顔をした子供がいて、子供のような大人がいる世界。

 

ゲームという世界を通して、天川太陽という男を通して、それが物語られていた。

 

僕がこの本に触れたのは、学生時代。10代の終わりの頃だ。

まだ小説家ではない、落選原稿をひたすら書きなぐっていた時期。

心に火が灯りやすい時期だった。

 

魂が違ったものは、作らない。

 

そういうことを思いながら、小説を書くようになったことは、さほどおかしなことではない、

と思う。

 

 

それから数年して僕は小説家になった。三冊、出版した。

そして売れはしなかった。魂が違ったものだけは、幸いにも作っていない。・・・さほどは。

ただ、売れなかった。届けたい人に届いているという実感は、まだない。次作が出来なくなったりも、した。

 

売れたい。届けたい人のもとまで、届けたい。次作が出来なくなったりも、したくない。

いまは、そういうことも思う。

 

 

 

4月の後半に、

山中さん(@seikaisha_ymnk)がちゃぶ台を持ってきてくれたとき、僕が東京トイボックスのファンであるこという話になった。

それから5月のイベントで山中さんがうめ先生と会ったとき、「二十四歳の地図」の話をしてくださり、

その後、うめ先生からサイン本が届いた、ということだ。

 

 

天川太陽が描かれたサイン本を見つめながら、思います。

 

彼の魂に、焦がれた一人として、

すべてのまだがんばっている人たちへ向けて、

僕自身の魂へ向けて、

今日も小説を書こう、と。

 

うめ先生、本当にありがとうございました。

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