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Kindle/Kobo/iPhone/iPad、全4ハードへ最適化された電子書籍版『サエズリ図書館のワルツさん』についての詳細とそれぞれの組版についての解説

発売から少し経ってしまいましたが、紅玉いづきさん(@benitamaiduki)の最新作『サエズリ図書館のワルツさん 1』の発売を記念して、物語世界をより深く体験して頂く為に、そしてある種の小さな提案を投じる為に、 Kindle/Kobo/iPhone/iPad、全4ハードへ最適化された『サエズリ図書館のワルツさん』第一話+あとがきの試し読みpdfの無料配信を本日より開始しました。

 

 

詳細はこちらのお知らせを御覧いただくとして、ここでは事の経緯と、ちょっとマニアックな組版の話について語ろうかと思います。

 

 

すでに本作を読んでいただいた方はご存じかと思いますが、本作の舞台は電子書籍があたりまえに普及している近未来。あえて“紙の本”と表記しますが——“紙の本”がすっかり貴重になってしまった世界で、それでも本を貸し出し続ける私設図書館「サエズリ図書館」での“本”と“人”と司書の“ワルツさん”との出会いを巡る物語になっています。

そんな本作の担当編集として、やっぱり皆様からの感想は気になるもので、ちょいちょいtwitterやブログなどの感想を検索させていただいているのですが、やはり「本好き」を自認されている方に多く読んで頂いている印象を受けます。

 

さて、自分のことになりますが、私も本好きを自認しつつ、しかしその一方で自他共に認めるKindle好きの、所謂“自炊ユーザー”だったりします。しかも自宅に裁断機とScanSnap完備。新人賞の作品も添付していただいているテキストデータをすべて変換してKindleかiPadで読むようにしています。恐らく日本国内の編集者の中では比較的稀な部類に入る、日常的にKindleを使用している編集者です。

 

なぜ本ではなくKindleで読むのか。

理由は単純で、軽く、手軽に、楽に読めるからに他なりません。Kindleはともかく、Sony Readerや楽天Koboは触ったことがある方も多いのではないでしょうか。御覧頂ければ分かりますが、ディスプレイに採用されているE-inkは初めて見るとなかなか感動できる代物です。液晶に比べて目が疲れない。そして紙とそれほど変わらぬ読み味。ハードウェアも文庫本程度に軽く、小さく。初めてKindleを買ったときは「未来来てるな、これ」と思ったものです。

 

しかし本作で問われているのはあくまで“紙の本”の良さです。電子書籍に比べて不便であること、そして形を持ち、本そのものが劣化するものであることを、この物語は肯定し、美しいものであると語り続けます。

そんな物語に応えたくて装画も装幀もすごく気合いを入れて仕上げて頂いたのですが(simeさん(@simetta)、veiaさん本当に有難うございます)、他方で少しの悪戯心もあって、この作品そのものを電子書籍として読んでみたい、読んでもらいたい気持ちが膨らんできました。

 

ならば、いっそ完璧に作り込んだ電子書籍版と本とを、この物語を通して比較してもらうのは面白いのではないだろうか、と考えたのがきっかけで、このプロジェクトはスタートしました。

 

全4ハードに最適化されたpdfの組版は、本作のレーベル・星海社FICTIONSの組版も担当してくださった紺野慎一さん(@dragonsblueにお願いしました。同じ職人技による組版を本と電子書籍で比較して読んでいいただけるのは国内でも初めての例ではないかと思います。

 

ちなみにpdfを選んだのは、最も汎用性が高いこと、そしてレイアウトが絶対崩れないこと、この二点が理由です。

特に後者の理由が大きく、電子書籍というと文字が拡大できることなどがよく特徴としてあげられるのですが、改行や改ページを作品表現の手段として用い、発展してきた国内の小説において、組版を読者の意図で変えてしまうのはナンセンスだと思うのです。

 

そんなわけで電子書籍と呼ぶにはいささかエレガントさに欠けるような気もするのですが、これもひとつの正解なのではないかと考え、今回はあえてpdfを選択しています。

 

 

それでは、以下に各ハードウェアでの組版の特徴について触れてみようと思います。

 

≫iPad

 

 

最もオーソドックスで、星海社FICTIONSの組版とほぼ変わらないのがこのiPad版です。星海社FICTIONSの組版をそのまま活かした電子書籍版として楽しんで頂けると思います。

 

なお、これは全ハードに共通したコンセプトなのですが、本は天地と小口が外の空間に開き、ノドで固定されているの対して、電子書籍は画面の中、箱の内側にすっぽりと収まったようなイメージがあります。今回はそのイメージに沿うように、単ページ表記の場合、本文が必ずセンタリングされるように左右の余白を調整してもらっています。たとえば通常、本の原稿をそのままpdfに落とし込むと、右ページと左ページでそれぞれ左右の余白が変わると思います。そういったばらつきは出来るだけないようにしています。

また、電子書籍の場合ノンブル(ページ数表記)も必要ありません。ソフトウェア側で自動的に表示される場合がほとんどだからです。そういった、“本に必ず必要な要素”を今回のpdfではかなり大胆にカットしてもらっています。

 

iPad版は上記に加え、縦スクロールでページをめくる際に視点の調整が多少自由に行えるように、上下の余白を少し大きめに取ってもらっています。

 

 

≫iPhone

 

 

今回の組版で最もテクニカルなものがiPhone版です。

通常の星海社FICTIONSは一行40文字なのですが、iPhone版は拡大なしでの見やすさを優先して一行29文字で組み直してもらっています。当然ですが携行性は随一ですね。十分過ぎるほど解像度の高いスマートフォンが多い昨今、電子書籍は案外こういう方向に展開していくんじゃないかなぁという気が結構しています。

 

特徴的なのは、行末の句読点の扱いです。通常、星海社FICTIONSでは行末の句読点は<半角>固定にしていますが、今回のiPhone版は固定とはぜず<半角>とともに<全角>も併用。さらに行末の句読点を版面からはみ出させる<ぶら下がり>を許容しています。

 

 

こうすることで、短い行長の組版にありがちな、字間のぱらつきといった問題を回避。(細かい理屈はさておき)原稿用紙のます目に書かれたような、整然とした版面を実現しているんだと、紺野さんに教えてもらいました。書籍の組版ではこんな細かいところにも実は「仕様」が存在するのです。

 

 

≫Kindle/Kobo

  

 

こちらはベースが同じ仕様なので同時に紹介。組版の仕様はiPad版と同様ですが、文字の級数(サイズ)や上下左右の余白がKindle、Kobo用に調整されています。

 

余白のちょうどいい感じや、すこし級数が小さいゆえのシャープなレイアウトがすごく気に入っています。個人的には一番読みやすいのがこれですね。

 

実はここだけの話、Kindle/Kobo版は公開されているpdf以外にもう1バージョン存在していて、それは上下左右の余白を限界まで切り詰めた物になっているのですが、読みやすさはそっちの方が上だったりします。ただ、見た目の美しさが大いに損なわれるため、今回は前者のシャープなバージョンを採用させて頂きました。(見た目の綺麗さを選んでしまうところはなんとなく紙の重力にとらわれている気がしますね……、と紺野さんと話していたりします)

 

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さて、長々と語って参りましたが、お気に入りの電子書籍は見つかりましたでしょうか。

もし端末を複数持っているようでしたら、是非比較して見ていただければと思っております。

最前線ビューワーのものとも比較して頂けるとさらに面白い発見があるかもしれません。

 

そしてなにより、星海社FICTIONS版“紙の本”との読み味も、比較していただければと思います。

 

物語が投じた未来への一石、この機会にご堪能頂けましたら幸いです。

 

最後に、無茶な企画に大事な作品をお預けくださった紅玉さんに心からの感謝を。Gumroadでの『青春離婚』販売のときといい、紅玉さんのアグレッシブさが一緒にお仕事をしていてたまらなく嬉しいです。

またなんか思いついたら一緒にやりましょう!(笑



本文はここまでです。