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カテゴリ: 編集部より

記事カテゴリ:太田克史のセカイ雑話

『レッドドラゴン』から考える「疾走」と「暴走」――。あるいは、僕が「立て看板」を立てたくない理由について

『最前線』の新企画、RPF(RolePlaying-Fiction)『レッドドラゴン』が好調なスタートを飾っている。この企画は僕がこの20数年来にわたって夢みてきた企画の実現なので、とても嬉しく思っている。ありがとう!

 

企画が滑り出したばかりの今のところは、『レッドドラゴン』を読んでくれているのは『最前線』の熱心なファンや、スタッフの作家さん作曲家さんたちのファンが中心なんだろうなと思う。彼らはいわゆる高感度なアーリーアダプター(新しい商品やライフスタイル、サービスをいち早く取り入れる人のこと)であって、『レッドドラゴン』の読者の数がこれからどこまで伸びていくかは誰にもわからない。そして、僕はこの『レッドドラゴン』において、そういった類いの数字に一喜一憂するつもりは一切ない。

 

正直に言ってしまえば、僕はただただ20数年前の「僕」――TRPG(TableTalk-RoleplayingGame)の世界を初めて知り、胸をときめかせた「僕」にだけ向けて、この企画を総指揮している。僕は『レッドドラゴン』の総指揮を通じて彼がどきどきすることだけをやりたいし、彼がかっこわるいと感じることは絶対にしたくない。それだけだ。

 

さて、先日、読者の方から星海社にひとつメールがあった。大意は、「『レッドドラゴン』における虚淵玄さんのプレイはとびきりのTRPG上級者のプレイであって、初心者はそういった上級者のプレイを形だけ真似ようとするあまりに結果としてプレイグループに悪影響を及ぼす実例があるので、公式のかたちでそういった注意喚起を行ってほしい」というものだった。

 

 

メールの文面はとても丁寧で、とても好感の持てるものだったし(ほんとにありがとう!)、考えの流れもよく理解できる。そして僕は一人の編集者として、読者の方からのご意見はできるかぎり尊重していきたいと常日頃から思っている。ただし、今回の件についてはノーと言わざるを得ない。


僕は以前から日本の観光地の山やら川やらにある「ここから先、立ち入り危険」的な立て看板が嫌いで、子供っぽい話だが、まさに子供のころからそれを見かけるたびに完膚無きまでに破壊したくなるくらいに嫌いだった。あれは、美しくない。

 

思えば、ああいった類いのものは外国の観光地には洋の東西を問わずあまりみかけない。崖のグランドキャニオンにもジャングルのアンコールワットにも ない。(ひょっとしたら、残念な話だが、ああいった立て看板は日本固有の文化なのかもしれない。そういえば、映画が始まる前の「映画泥棒」のCMにも僕は 似た匂いを感じる)

 

そして、今回のその読者の方からのお願いは、それを受け入れてしまうと、そんな退屈な立て看板を自ら実現して打ち立ててしまうことにとても似ている気がしてしまって、どうしても興がのらないのだ。



僕は読者の方からのリクエストを軽視しているわけではないし、TRPGの文化を馬鹿にしているわけでも(もちろん)決してない。ただ、これは先に述べたように僕の美意識の問題であって(編集者にとって一番重要なのは美意識だ)どうか今回はこのままで通させてほしい。お願いできないだろうか、というのが今日のブログの僕の大意なわけです。



虚淵玄は自らの責任においてこれからも『レッドドラゴン』で突っ走り続けるだろうし(いや、困ったことに今公開しているぶんの虚淵さんの走りのギアは本当にまだまだ一速……ほんのジャブ以下のパンチなんだよ……)、ここで思い切って本音を語ってしまえば、TRPGを知らない若い読者の人には、大いに彼のプレイに憧れてほしいとさえ思っている。初心者の勘違いゆえの「痛さ」を上級者が健康的に笑いとばして許容することのできないジャンルは常に病的だし、進化もない。僕はTRPGの世界はそんな了見の狭い、底の浅い、歴史のない世界では決してないと確信している。

 

そして、『レッドドラゴン』のフィクションリプレイをきちんと読み込めば、虚淵玄のプレイは他のプレイヤーたちとフィクションマスターとの間にある 強い信頼関係に裏打ちされたムーブなのだとたちどころに理解できるはずだし、それでもそのムーブの結果として「場」が壊れてしまった場合に、真っ先に責任 を取る覚悟があるからこその疾走なのだと理解できるはずだ。そしてそれは、暴走では決してない。想像してみてほしい。

一流のプロ・ドライバーたちがしのぎを削るF1マシンのレースをテレビで観るとき、常にテロップに「一般のドライブではこのようなスピードで走るのはご遠慮ください」と表示してあったら、僕たちは果たしていったいどんな気持ちになるだろうか――?

(written by 太田克史



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