ここから本文です。

カテゴリ: 編集部より

記事カテゴリ:太田克史のセカイ雑話

Gumroad私考・僕たちが買っているのはデータであってデータではない

僕がGumroadを知ったのは2月13日の昼下がり、深津貴之(@fladdict)さんのTweetがきっかけだった。知った瞬間に、「おもしろい!」と感じたし、それからウェブを通じて改めて15分ほど自分なりにGumroadについて調べた後、隣のデスクで仕事をしていた部下の星海社アシスタントエディターの山中(@seikaisha_ymnk)に声をかけて、「これ、おもしろいから何かやろうよ!」と力強く誘った。

それが星海社が日本の出版社の先陣を切って青春離婚(紅玉いづき(@benitamaiduki)・Illustration/HERO(@dka_hero))の電子書籍をGumroad経由で販売する、ちょうど12時間前の出来事だった。

 

sr_gumroad.pngのサムネール画像

 

Gumroadというウェブサービスの詳細については深津さんのブログを参照していただければ概略がすぐにわかる(http://fladdict.net/blog/2012/02/gumroad.html)。Gumroadは、今もっとも未来の「可能性」をリアルに感じさせてくれるサービスのひとつだと僕は感じている。ウェブを通じたマイクロペイメントが創作に与える可能性については、作家の渡辺浩弐(@kozysan)さんと10年以上前からずっと話をしていたから、Gumroadの出現はまさに「待ってました!」という気持ちでいっぱいなのだ。(渡辺さんの未来予測本『ひらきこもりのすすめ2.0』(講談社BOX)は名著なのでぜひ読んでほしい)

 

しかし、今のGumroadの状態は、よくもわるくもごった煮の闇市でしかない。本人以外には到底価値を認めがたい写真や、ポエム、小説……そんなガラクタが売りものの大半であって、つまりは混沌そのものだ。Gumroadは、例えれば、いいところテント張りのバザール……、つまりただの「売り場」であって、近代的な「商店」はどこにも存在しない。原始社会の市は、たぶんこんな感じだったのだろうな、と思う。

でも、今はそれでいいのだ。なぜなら、そもそも表現の9割は他人にとってはただのクズでしかないのだから。そして、だからこそ、他人を感動させることのできる残りの1割の表現に深い価値が生まれてくるのだ。そういった1割の表現はよく探せば今のGumroadにも確実にあるし、そしていずれはアップデートによってもっとずっと、その1割の表現にみんなが到達しやすくなるはずだ。

 

Gumroadはまだまだ荒削りなサービスだけれど、効率よくクリエイターとユーザーとがくっつく仕組みが切り開いてく未来を感じさせてくれるサービスであることは誰もが否定できない事実だと思う。そして、本当のプロフェッショナルな編集者・プロデューサー・キュレーターならば、そういったクリエイターとユーザーの関係性をよりハッピーに成り立たすことのできる「潤滑油」たりえるはずで、われわれ星海社もそうありたいと願って活動している。

 

おかげさまで、紅玉さんの『青春離婚』も、その後Gumroadを通じて売り出した竹さんの壁紙彼女の画集出版を記念してUstreamの星海社チャンネルでお絵かきUstreamを行い、そこで完成したイラストを壁紙にして売り出してみた)の売り上げも、紙の商業出版に比べればきわめて慎ましいながらも好調だ。今、星海社にはまだ見ぬ未来を切り開くことに対して積極的な才能ばかりが集っている。本当に感謝しているし、心から嬉しい。

 

tkgru_wp.pngのサムネール画像

 

……というわけで、星海社を通じて、しばらくGumroadで実験してみようと思う。未来がやってきたときに、乗り遅れたくないからね。

 

さて、最後に、Gumroadの危険性(なりすまし販売や違法コピー販売など)を指摘・懸念する声が方々で上がっているけれど、そういった危険性のほとんどは、ほぼすべて既存のウェブサービス、つまりYoutubeやニコニコ動画、メールや電子掲示板などにもそっくりそのまま当てはまることなのでとくに特筆すべきことではないと思う。それらはウェブと人間性が本質的に抱えている問題であって、Gumroad特有のものはほとんどない。

そしてGumroadの、個人(を感じさせる組織)発のTwitterやFacebookを通じて「知っている人・あこがれている人から直接データを買う」という体験はユーザーにとっては何ものにも代えがたい、得がたい体験であって、不明瞭なリンクから買ったなにものかとは、同じデータであってもまるで価値が違うはずなのだ。Gumroadで僕たちが買っているものはデータであって、データではない。僕は、そこに次代をつくっていく新しい価値観の鍵を感じている。

(written by 太田克史



本文はここまでです。