編集部ブログ太田克史のセカイ雑話

2012年7月 7日 02:34

『佐藤友哉×星海社1000ドル小説の旅』全国ツアー第二日目 九州は赤く燃えている! 後編

昼下がりに着いた福岡空港。そこからタクシーで博多のホテルまで。軽く食事を済ませてから、佐藤さんと僕はホテルでお互いに仕事に。実はこの段階で、佐藤さんは1000ドル小説の12冊ぶんの原稿をすべては書き終えていないのだった! がんばれ佐藤さん!! 書きながら旅をするだなんて佐藤友哉はちょっとカッコいいぜ!!!

 

夕刻前、ロビーに集合。待ち合わせの駅まで電車移動。待ち合わせの場所はとある図書館にある絵本の本棚の前——なんで??? と思うような場所だけれど、後になって納得。

待ち合わせ場所に現れた三人めのお客様である彼は、18歳男子。今回の小説デリバリー史上最年少である。

そして、のっけからなんとなく挙動不審である。佐藤さんと僕が詰問したところ、今日は学校の自主学習の時間を仮病を使ってぶっちぎってきたとか。しかもその学校はこの駅のすぐ裏手にあるとかで、ああ、だから君は妙な帽子をかぶっているのか——ッツ! 変装か!! 初めてリアルで見たわ!!(笑)

 

先生に見つかると星海社的にもかなりまずいことになるので、急いで別の駅に移動。奥まった通りにある喫茶店に入り歓談へ。ここからが二時間半にわたる真剣勝負の始まりだった……。

 

まずは18歳男子の生い立ちをインタビュー。彼の生まれ育った場所はベッドタウンの学園都市で、その片鱗には僕たちも実際に少しだけ触れたのだけれど、まるで無菌空間のような場所で、あのサカキバラが出現した場所のように、何かこう、ある種の人間を抑圧し、歪ませてしまうような雰囲気に満ちあふれた街だった。なにしろ、まともな待ち合わせ場所すら何ひとつないのだ。

「上京しろ!」

と声をそろえて叫ぶ佐藤&太田。

 

そして立て続けにやってくる衝撃の展開。作家志望者であることをカミングアウトし、佐藤さんにおずおずと自作の小説のデータが入ったUSBメモリを差し出す18歳男子……。

「何枚書いたの?」「1500枚です

編集者太田、たまらず脇から「長すぎる!

 

その後は、作家としてデビューして生きていくためにはいったい何が必要かということについて、ずっと話をしつづけた。18歳男子に向けて、31歳の作家と、40の編集者が本気で話す。相手のあまりの「若さ」に思わず辟易する程度には、僕も佐藤さんも年を重ねてはいるけれど、それでもその相手の「若さ」に真正面から付き合う程度には、まだまだ二人とも「若さ」がある。

ぐったりするまで話をして、『ラストオーダーの再稼働 鏡佐奈はおわらない探偵』を手渡し。18歳男子と駅で別れる。この1000ドル小説企画、“濃い”読者としか出会えないのは必然か偶然か? 本の大量生産が可能になったグーテンベルク後の作家や編集者は、顔の見えない読者としか対峙しないことによって去勢されているのでは? ものをつくる、ものを買うことの本質ってなんだ? などなど、沸き上がりに沸き上がる疑問の数々を佐藤さんと一緒に話し込みながら、ホテルに到着。佐藤さんはこれから自主缶詰め。 

太田は、一人ハードボイルドに中州に繰り出す。博多の夜はこれからだぜ!

 

(第二日目 全部終了)