編集部ブログ夜の最前線

2017年2月23日 13:32

待望の「まっくぶっくぷろ」

丸茂は困惑した。

「まっくぶっくぷろ」なる文明が突如として眼前に現れたからだ。

丸茂には文明がわからぬ。

丸茂は、長野の出身である。

野をかけずり、カモシカと遊んで暮して来た。

だから文明に対しては、人一倍に鈍感であった。

 

この文明はよい文明なのか、悪い文明なのか……丸茂は悩んだ。

悪い文明だったら粉砕する!

丸茂はしかと決意して、オフィスに転がっていた軍神の剣(ダンベル)を握りしめた。

 

丸茂には同期がいた。

櫻井である。

櫻井はこの文明に対して、どのような反応を示しているのか……。

気になった丸茂は櫻井を、訪ねてみることにした。

 

櫻井は動じていなかった。

「まっくぶっくぷろ」を使いこなしていた。

 

「さ、櫻井さん……まっくぶっくぷろ、どうですか?」

「これ、すごく使いやすいですよね!」

櫻井は、笑顔でキーボードをカタカタさせていた。

 

これ見よがしに「まっくぶっくぷろ」を使いこなす櫻井の様子に、丸茂は表情を引き攣らせた。

「そ、そんなこと言って、ちゃんと使えてますっていうアピールしてるだけなんじゃないですか?」

 

櫻井は変わらぬ笑顔で丸茂に言った。

「だまれ、下賤の者」

そして丸茂を鼻で笑った。

「しょせん貴様は長野県出身の田舎もの。貴様にはこの文明、宝の持ち腐れだな」

 

「田舎ものでなにが悪い!」

丸茂は激怒した。

しかしそれは事実である以上、言い返す言葉を持たなかった――。

 

 

おめおめと自分の席へと戻った丸茂は、あらためて「まっくぶっくぷろ」を検分し始めた。

 

まず触れてみる。

かたい。冷たい。かっこいい。

いい文明!

 

続けて穴を確かめてみる……あれ?

大きい穴がない。

「ゆーえすびー」が差し込めない。

悪い文明!

 

いや落ち着こう、と丸茂は深く息をつく。

これは「USB-C」の穴だと、たしか紺野さんは言っていた。

いままで丸茂が「ゆーえすびー」と呼んでいたのは「USB-A」という古いアダプタなのだと。

つまりはこれが最先端!

つまりはこれはいい文明!

 

画面をひらく。

超キレイ!

すごくいい文明!

 

星海社に入社してからというもの、丸茂はたびたび文明の格差に悩まされてきた。 

Android携帯だからメッセージが確認できなかった。

PCがプリンターにつながっていないから、Google Driveを経由する手間をかけて共有のMacを使ってプリントしていた。

共有Macの調子が悪く、コンビニでプリントをしたことも少なくなかった。

Zipファイルを解凍したら二分の一の確率でデータが化けた。

Zipファイルに変換ができずに、またGoogle Driveを経由して共有Macで作業した。

愛用してきたWindowsPCには、それでも諸々ソフトをインストールしていたため、「ふぉとしょ」や「いんでざいん」のデータにもなんとか対処してきたのだが……やはり限界を感じていた。

 

しかし、この「まっくぶっくぷろ」さえあれば、そのすべてがクリアされる。

丸茂はようやく、軍神の剣(ダンベル)から手を離し、心穏やかに「まっくぶっくぷろ」を手配してくれた紺野さんに感謝を捧げたのだった……。