編集部ブログ夜の最前線

2022年12月11日 02:35

『魔法使いの夜』ガイド──やがて大魔法使いとなる少女の物語

※本稿は『魔法使いの夜』を2012年4月までに公開されていた情報(とくに『月姫読本』)をもとに紹介するものです。いずれの作品についても読み味を損なうようなネタバレの範疇に踏み入る意図はありませんが、ある程度の内容には触れますので前知識なしで諸作品を体験されたい方はご注意ください。
  


『魔法使いの夜』を初めてプレイした2012年の4月、僕は2度目の大学受験を備えた浪人生でした。
高校生のときに図書室にあった『空の境界』(講談社ノベルス)を読んで、奈須きのこさんと武内崇さん、ひいてはTYPE-MOONさんの存在を知り、その世界観に釘付けとなって当時の年齢で嗜める作品は可能な限り追いかけたことが懐かしい。
そのなかには、気付けば「いくぜ星海社!」という帯が巻かれて書店に陳列していた『Fate/Zero』なんかがあり......いまや『空の境界』の担当編集者の下で働いていることがすごく不思議な気分です。
  
時は経て2022年12月8日、コンシューマ版『魔法使いの夜』がリリースされました。

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プレイしていると、あのときの気分が蘇り......どんな気分で『まほよ』に触れていたかを残しておこうと勢いでこの紹介記事を書いています。
  
◆やがて大魔法使いとなる少女の物語
  
さて、『魔法使いの夜』はどんな作品なのか......告知されていたキャラクターのひとりには、ほかのTYPE-MOON作品にも登場していた「蒼崎青子」がいました。
蒼崎青子......『月姫』の主人公である遠野志貴=物の死を視る能力に覚醒し人として崩壊しかけていた少年に、能力を抑える〈魔眼殺し〉の眼鏡を与え、彼が生きる倫理に決定的な影響をもたらしたお姉さんです。
  
『月姫読本 Plus Period』に収録された「月姫用語辞典 改訂新版」によると、蒼崎青子は「現存する五人の魔法使いの一人」「なんで魔法使いかっていうと、辿りついちゃったからである。ワケがわからない人は『空の境界』を参照のこと。もっとも青子は辿り着いただけで、それが何処なのか何なのかちんぷんかんぷんだったそうだ」「蒼崎の後継者となってからはトランク一つで西へ東への根無し草人生」「魔術協会ではマジックガンナー・ミスブルーと呼ばれている。魔術師としての腕前は平均以下なのだが、とにかく壊すという事においてのみ稀代の魔女と呼ばれているとか」......などと紹介されています。
一方で『魔法使いの夜』公式サイトのキャラクター紹介では、「中学校までは魔術世界とは関わりのない日常を送っていたが、高校入学から魔術師として祖父の遺産を継ぐ事となった、もと、フツーの女子高生」と評されていました。
  
『空の境界』を履修した方は、彼女の姉である蒼崎橙子さんのこともご存知でしょう。
同じく「月姫用語辞典 改訂新版」によると、蒼崎橙子は「蒼崎の遺産を妹に横取りされたショックで師である祖父をぶっ殺し、魔術協会に鞍替えした人。青子とは異なり、魔術師としての能力はトップランク」とのこと。
『空の境界』では、魔術世界への案内役を担う人物でした。
  
どうやら魔術師の家系・蒼崎の後継者──第五魔法「青」の担い手は、姉の橙子に受け継がれるはずが、青子へと受け継がれたらしい。
なぜ青子が魔法を受け継いだのか、そもそも第五魔法「青」とはなにか、という謎がそこにはあります。
  
『魔法使いの夜』はその謎の核心に迫る、『月姫』に登場したキーキャラクター、TYPE-MOONの世界において破格の存在である魔法使いのひとり・蒼崎青子の過去を物語るストーリーなのです。
(『ゲド戦記』シリーズでジブリがアニメ化した『さいはての島へ』が『月姫』だとしたら、大賢人ゲドの過去編である『影との戦い』が『魔法使いの夜』なんです)(かえって伝わりにくい喩えでは?)
  
TYPE-MOON作品は作品ごとすべて異なる世界線上での物語が展開されていることは前提として、『月姫』『Fate/stay night』『空の境界』、いずれの作品よりも時系列の過去に当たる話が『魔法使いの夜』。
ゲームとしてリリースされたのはいちばん後になりますが、しかしいずれの作品よりも前に原型が執筆された、TYPE-MOON世界の原点の物語。
  
そう、過去の話......『魔法使いの夜』は1980年代、文明が惑星を覆い尽くす過渡期が舞台です。
  
◆三者三様の星の巡り
  
───坂の上のお屋敷には、二人の魔女が住んでいる───
  
1980年代後半。華やかさと活力に満ちた時代の黄昏時。
都会に下りてきた少年は、現代に生きる二人の魔女とすれ違う。
  
少年はごく自然に暮らしてきて、
彼女は凛々しく胸を張って、
少女は眠るように隠れ住んで。
  
三者三様の星の巡り。
交わることなんてもってのほか。
何もかも違う三人の共同生活が始まるのは、あと、もうちょっと先の話───
  
出典:PC版『魔法使いの夜』公式サイト
  
作品のエッセンスはこのあらすじに集約されているでしょう。
『魔法使いの夜』はこの惑星のひとつの記憶を──ありふれた偶然にして運命によって巡り逢い、その交差は永遠に続くはずもなく、だからこそ奇跡のように美しく、懐かしく、愛おしい......そんな三人の出逢いと共同生活を──誰にでも訪れる「青春」の在り方を真っ直ぐに描き出します。
やがて共同生活を始める「三者三様」を、少しだけご紹介しましょう。
  
・蒼崎青子(あおざき・あおこ)
  
未来で傍若無人の魔法使いになる彼女、まだ表向きの顔は三咲高校に通うフツーの女子高生。
この三咲高校の生徒たちは本当に愛おしいバカどもが多く(『Fate/hollow ataraxia』でも顕著ですが奈須さんが描く賑やかなモブ生徒たちが僕は大好きです......水泳部の部長のビジュアルを見たい!)、常日頃から剣呑な空気を発し、全校生徒に恐怖される生徒会長である青子は彼らに度々喝を入れます。
彼女もそんな日常が心地好かったり。
  
しかし裏の顔は一介の魔術師見習い。
なぜか魔法などというご大層なものを受け継いでしまったため、三咲市一帯の魔術的な共同管理者であり坂の上のお屋敷の主である久遠寺有珠と同居し、遅ればせながら魔術師としての手解きを受けています。
  
ある日、創立記念日の休校につきベッドで微睡みを堪能するはずであった彼女は、しつこい黒電話のベルで起床を余儀なくされます。
担任教師から山育ちの転入生の学校案内役を頼まれ、休校日に登校させられた不機嫌な彼女は「彼」と出逢い、なぜか純朴な田舎のイメージそのものな少年に"納得いかない"という反発を覚えるのでした。
  
・静希草十郎(しずき・そうじゅうろう)
  
「彼」──木訥という言葉を体現したような転入生。
電気も学校もない山門異界で育った彼にとっては見るものすべてが新しく、あまりにも天然でときに常識外れな振る舞いを見せて周囲をハラハラさせます。
生活費も学費も自分で用意せねばならずバイト戦士と化す彼ですが、蒼崎青子と出逢ったとき、彼自身は言語化できない感情を抱くのでした。
  
・久遠寺有珠(くおんじ・ありす)
  
青子が住まう坂の上のお屋敷の主である彼女は、魔法より魔法染みたプロイキッシャーと呼ばれる使い魔たちを使役する魔術師のなかでも規格外の存在。
(彼女の出自=純血の魔女・マインスターの血統については『FGO』の2部6章「アヴァロンルフェ」で少し言及されます)
青子とは違い、幼少から(あるいは生まれる前から)心身ともに魔術師として育てられた生粋の魔術師です。
伝統を重んじお屋敷を愛する彼女の態度は冷徹で頑なですが、そんな彼女が驚くほどデレることになるのはもうちょっと先の話。
  
◆いつか過去になる──三人の共同生活の行方は?
  
静希草十郎がどうして二人の魔女と共同生活することになるのか......まずはその謎を追ってみてください。
もちろん魔術バトルも見所で、青子と有珠が管理する三咲市には何者かが魔術的に侵攻を仕掛けており、ふたりは夜毎その迎撃に繰り出しています。
果たして敵の正体はどんな魔術師なのか......。
  
魔術戦が勃発する非日常の世界/学校生活とやがて来たる共同生活で織り成す日常の世界を往還するなかで(三人に恋愛感情が生まれるのかを疑ってみることも楽しいでしょう)、この三人の在り方は克明に照らし出されます。
まったく異なる出自を持つ彼らですが、とくに異なることのひとつは過去/翻って未来との向き合い方。
  
魔法の後継者にされ人生を突如捻じ曲げられたにもかかわらず、気高く省みず、未来を向き続ける最新の魔法使い──青子。
老成して見えるけれど、紛れ込んでしまった都会は居心地が薄くてすべてを帰れない過去=山と比べてしまう少年──草十郎。
時代に取り残されたような旧き魔術師の在り方に準じながら、しかし同居生活に慣れていくことに一抹以上の感傷に浸る最後の魔女──有珠。
  
少年にとってふたりの魔女は、ふたりの魔女にとってひとりの少年は......互いの目にはどのように映るのか。
その過程を追う先で、あの日の出逢いの意味──青子が草十郎を見てなぜ反発を覚えたのか、草十郎は青子を目撃してなにを感じたのかが明らかになります。
  
ひとは過去と向き合う中で「後悔」「郷愁」「懐古」......さまざまな感傷を覚えることでしょう。
『魔法使いの夜』という、いつか過去になる青春の日々を見つめ、あなたの胸に去来する感傷はなにになるでしょうか。
  
◆あまりにも個人的な余談
  
余談としてごく私的な話を。
『魔法使いの夜』には「帰省」が重要なシーンとしてあるため、年末にさしかかるいまプレイすることを心からオススメします。
僕は年末年始に帰省すると──駅から久遠寺邸に向かうくらいの坂道を登って山際にある実家へ向かうたび『魔法使いの夜』のことを、それをプレイした地元にいた日々を自然と思い出してしまいます。
『魔法使いの夜』は、僕が初めてリアルタイムに摂取することができたTYPE-MOON作品だったので思い入れも一塩です。
  
『魔法使いの夜』のED曲であるsupercellの「星が瞬くこんな夜に」は、高校時代に最も聴いた曲のひとつ。
supercellはボカロP・コンポーザーのryoさんを中心とするユニットで、僕が明快に存在を意識したのは『化物語』のED「君の知らない物語」がきっかけでした。
(ryoさんは直近では『機動戦士ガンダム 水星の魔女』ED曲「君よ 気高くあれ」のサウンドプロデュースをされるなど依然活躍中──当時からのボカロシーンが懐かしい方はこんな本を担当したので読んでください)
ちなみに当時のボーカルはnagiさん──ニコニコ動画では「ガゼル」名義で、いまは「やなぎなぎ」名義で活躍されてます。
(『俺ガイル』OP曲の「ユキトキ」や「春擬き」が知られてますかね......マイフェイバリットは『あの夏で待ってる』ED曲の「ビードロ模様」です)
  
この「星が瞬くこんな夜に」は、2010年8月にリリースされたシングル収録曲でした(『NARUTO 疾風伝』ED曲「うたかた花火」と併録)。
『魔法使いの夜』の発売は2012年4月、つまり1年半以上も発売を心待ちに「星が瞬くこんな夜に」を聴き込んできたわけで、ゲームのエンディングとして聴けたときの感動は言葉にできないものでした。
ゲームのストーリーとは独立した恋の歌として聴くこともできる歌詞ですが、あるフレーズは絶妙にゲームの心情とリンクして聞こえるはず。
  
都会では月くらいしか見えない夜空に、実家では星が無数に輝いていて──「後悔なんてのはね、草十郎。するものじゃなくて無くしていく為にあるものなのよ」というセリフが脳裡に甦ります。
年齢的には大人になっても後悔なんて晴れるより降り積もるもののほうが多いことを味わう日々ですが、その声に励まされて僕は今年も生きていこうと思うのでした。