編集部ブログ朝の最前線

2016年3月16日 15:58

大卒1年目の編集者が直面した現実:「週末リーディング・ミーティング」に寄せて

僕が大学を卒業したのが2015年3月25日、星海社に加わったのが翌26日だったので、もうすぐ編集者になって1年が経つことになります。
そして、この年一番の衝撃はどこまでも暗い形で受けることになりました。

先月、取次大手の太洋社が自主廃業することを発表し(ちょうど昨日、自主廃業を断念して破産が決定したとの報道がありました)、その余波でいくつもの書店が閉鎖に追いやられたのは記憶に新しいところです。

こんなブログを読んでくださっている方々には釈迦に説法かもしれませんが、念のため超おおざっぱに解説すると、本というのは基本的に出版社と書店だけが存在してもみなさんのお手元には届きません。
出版社と書店のあいだに入り、書店に本を配る「取次」が必要不可欠(というのが現行の出版流通システム)なのです。
なので、取次がなくなれば書店はそもそも売る本を入荷できなくなり、出版社は本をつくっても書店で売ってもらえなくなり、いずれも立ちゆかなくなります。

今回の一連の騒動のなか、高田馬場の芳林堂書店さんが大変なことになっているとの話を耳にしたのはいつのことだったでしょうか。
芳林堂は太洋社帳合(=取引先の取次)なので、当然太洋社の業務がストップすれば新刊は入ってこなくなるわけですが、その影響が目に見えて棚に表れている、らしい。

僕は大学が早稲田だったこともあり、週の半分は、途中から1階にドンキができて若干かしましくなったあのビルの3階と4階と5階に立ち寄っていました(残りの半分はあゆみBOOKS早稲田店さん)。
くわえて、本を読む行為とひょっとしたら同じくらい「本を買う」という行為が好きなので、もちろん芳林堂でも、帰りがけに読むものからこんなのいつ読むんだよというものまで、せっせこせっせこ本をレジに運ぶ日々でした。

話を聞いて、いても立ってもいられず、太田とともに高田馬場へ向かいました。
これまでそうしてきたようにビルに入り、これまでそうしてきたようにエスカレーターを上がってまず目に入ったのは、棚の緑色がむき出しになった雑誌売場でした。
新聞に次いで回転の早い紙媒体は雑誌です。
そのぶん、新刊が入荷しない影響も、どこよりも早くありありとわかってしまいます。

それから、棚の幅を埋めるだけの物がなく、倒れたドミノのようになっている文庫棚。
そろそろ「新刊」とは呼べなくなってきている作品を、低く広く並べて空きを作らないようにしている漫画の新刊台。

店内を見て回っている最中、口をついて出てくる数少ない言葉は「これは……」「うーん……」「ちょっと……」といった意味をなさないものばかりでした。

同時に、思い入れのある書店の窮状に目を覆いつつ去来していたのは、自分がこの先食っていけるのかという切迫感でした。
いまさらかよ、とは思います。
出版不況が叫ばれて久しい、という言葉すら使われるようになって久しいこのご時世に進んで編集者になろうとしたわけですから。
甘く見ていたつもりはなかったのですが、それでもどこか遠くの話として捉えていたことも事実です。
それが、今回の一件で、もうすぐそこまで波が迫っていることが恐怖とともに実感されました。

紙の本はなくならないでしょう。
本というメディアも、形はどうあれ継続していくでしょう。
コンテンツは相変わらず必要とされるでしょう。

ですが、そういう次元の話ではなく、自分が生きてきた24年間は維持されてきたらしい日本の出版という仕組みが、どうやらマズいらしいぞということ、「詰み」になる可能性があるということを、自分が出版業界に足を踏み入れて1年目にして突きつけられるというのは、いささか強烈な体験でした。

もちろん、現実的な解としては、書籍に限らず「編集/エディット」という能力はむしろこの先においてこそ求められていくのだから、経験を活かして食いつないでいこうということになるのでしょう。
星海社の理念にも「デジタル、ペーパー、イベント」とあり、ペーパー以外での活躍はすでに必須とされています。

ですが――「ですが」を繰り返してしまいますが、そうそう割り切れるものでもありません。

 


「出版」のためというと大げさですが、僕自身、やれることはなんでもやっていきたいと思っています。
まずは、というか一にも二にも、多くの方に手にとってもらえる作品をつくることです。ここは本当に頑張らないといけない。
その先にあるものとして、あるいはその下地として、「読書人口」の拡大という分不相応かもしれない企みがあります。
最後に、その企みに繋がるかもしれないイベントのご案内をさせてください。

このたび星海社では、新イベント「週末リーディング・ミーティング」をスタートします。
詳しくはこちらをご覧いただきたいのですが、要は「書店に行って本を買って本について話すのは楽しいよね」という企画で、僕も少しだけお手伝いをしております。

第一回目のゲストは渡辺浩弐さん、そして場所は高田馬場です。

渡辺さんもおっしゃっていますが、この企画のポイントは、「読んだ本について話す」のではなく「買ったばかりのこれから読む本について話す」のだというところ。

直前のご案内になってしまって恐縮なのですが、ご興味をもたれたら、どうかお気軽に遊びにいらしてください。
最近本読めてなかったなーという方、思い切ってこの週末を読書の二日間にしてしまいましょう。

どうぞ、よろしくお願い申し上げます。