編集部ブログ昼の最前線

2010年10月25日 17:00

『坂本真綾の満月朗読館』第二夜終了!

好きな秋の味覚はマツタケ!
でもじっくり味わえるほどの量は食べたことがないよ!
そんな庶民的感覚の持ち主、アシスタントエディター・平林です〜。 

 

さて、先週土曜日に配信されました『坂本真綾の満月朗読館』第二夜、おかげさまで大好評でした。

ご覧になってくださった皆さま、ありがとうございました! 僕もPCの前でtweetしながら見ていました。

当日は晴れだったので、「窓の外は満月だったよ!」という方も多かったようで、風情たっぷりでしたね〜。『山月記』の世界に没入しながら見てくださっていた皆さんのtweet、嬉しく思いながら拝見していました。

さて、第一夜も多くの皆さまに見ていただきましたが、今回の瞬間最大視聴者数は約7,200人、総視聴者数は約34,000人と、セ・リーグCSシリーズが最高に盛り上がっていた日とは思えない盛況ぶり。総視聴者数が激増したことと関係があるのか、回線が不安定というご意見も多かったので、第三夜に向けて解決を図っていきたいと思っています。

その第三夜の詳細に加え、再配信についてもこちらで発表しております。年末までお楽しみいただければ幸いです!

 

ここからはおまけ。

今回『山月記』の下調べを細かくやったのですが、その過程で出てきた面白い話をいくつか。長い&ややこしいので、興味のある方だけどうぞ!

 

 

というわけでつらつら書いてまいりましょう。

まずは、原典との異同から見ていきましょう。『山月記』では自分の性情の所為で虎になってしまった李徴ですが、原典と言われる『唐人説薈』収録の「人虎伝」では結構同情できない感じになっています。

1,虎になる直前、発狂した李徴は10日間に渡って夜な夜な従者を鞭打っている

2,『山月記』では李徴の詩に対して冷静に評価する袁傪だが、「人虎伝」ではべた褒めに近い感想を抱いている

そして、一番驚く異同が次なんですが……

3,李徴はある未亡人と密通し、その家族に発覚して殺されそうになったので、逆にその一家を焼き殺して逃げた。「多分それで虎になったんじゃないかと思うんだよなー?」と自分で言ってる。

「人虎伝」の李徴は相当ひどい奴であると共に、因果応報譚の性格が強いこともわかりますね。

 

 

そして、『山月記』ではテーマから外れるため生かされていませんが、「人虎伝」では非常に細かな設定がなされていることも面白い点でした。

まず、『山月記』でも冒頭の文章に採用されている「隴西の李徴」という設定。隴西の李氏は凄い名族で、五胡十六国時代に西涼を建てた李暠(りこう)も隴西李氏です(唐の詩人・李白はその子孫らしい)。で、後に唐を建国した李淵は異民族出身なんですが隴西李氏を名乗ります。「人虎伝」に於ける李徴はその末裔、つまり皇族という設定になっています。

また、袁傪の本籍地は陳郡と記されていますが、陳郡袁氏も大貴族です。前漢の袁盎(えんおう)あたりから記録に登場し、後漢に入ると分家筋(?)の汝南の袁氏が躍進します。『三国志』の袁紹はこの家系で、袁氏はその後も門閥貴族として成長していきます。袁傪はそういう血筋の人物として設定されています。「人虎伝」の最後では後に兵部待郎(国防次官)になったと書かれていますが、確かにこのくらい血筋が良ければ出世するのも不思議ではないです。

最後に、時代設定ですが、李徴が進士に及第したのは「人虎伝」では「天宝十年」(『山月記』では「天宝の末年」)。唐が最も繁栄した玄宗治世の再末期にあたります。この四年後、天宝14年には安禄山が蜂起し、都の長安がたちまち陥落、以後8年間にわたって大規模な反乱が続くことになります。

「人虎伝」でも『山月記』でも、読み手の教養を前提にして書かれているため、表立ってそういうことを書いてはいませんが、物語の背後では、大唐帝国を揺るがす大反乱が起きているんですね。正直、この辺の設定の緻密さについては全然気付いていなかったので、今回下調べして新たな発見が沢山ありました。

長くなりましたが、皆さんの読書の参考に少しでもなれば幸いです。

 

山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)