はるかぜのふく頃に
#03 対談@秋葉原 Part 2
竜騎士07&はるかぜちゃん
春の気配漂う3月のある日、秋葉原でひとつの出会いがありました。『ひぐらしのなく頃に』の作者である竜騎士07と、Twitterでの都条例反対ツイートで注目を集めた、子役の”はるかぜちゃん”こと春名風花さん。はるかぜちゃんが『ひぐらし』の大ファンというきっかけから実現したこの出会いから、歴史的対談に入る前のひととき――。秋葉原を散策する2人のうららかな春の日をお楽しみください。
活字離れの終わり
はるかぜちゃん 竜騎士さんの『ひぐらしのなく頃に』は、キャラのしゃべり方が文章だけでも、全員誰なのかわかりますよね? そういう文章はどこから出てるんですか?
竜騎士07 そうですねぇ……私がこれまで読んだ作品から来てるんですけど、基本的に書いてるのは文字しかない世界じゃないですか。アニメなんかと違って、誰かの顔が出てくるわけじゃないから、誰がしゃべってるかわからない。
はるかぜちゃん はい。
竜騎士07 だけど、いちいち「沙都子がしゃべった」とか「梨花がしゃべった」なんて書いてると、非常にテンポが悪い。ホントの人間の会話っていうのは、セリフだけがどんどん羅列しているのであって、レナがしゃべりました、沙都子がしゃべりましたっていちいち書いてるわけではないですよね。だから、セリフだけで話を進めたいんだけど、誰がしゃべっているかすぐにわからせたい。なので各キャラに特徴的なしゃべり方、つまり梨花ちゃんだと「~なのです」だったり、沙都子だと「~ですわ」って、セリフだけで誰がしゃべっているかわかるようにしようって最初から決めていたんですよ。
はるかぜちゃん ほぉー。
竜騎士07 いや正直、昔『ひぐらし』を書いた頃は、一般的なファンからは「変なしゃべり方をするキャラクターばっかりだ」って言われたんですけど、ここまで私の真意を読み切ってくれたのがまさか10歳の女の子とは思わなかったです。
はるかぜちゃん うふふ。
竜騎士07 なんか今日は、はるかぜちゃんの爪の垢をわけてもらってみんなに配りたい気分です(笑)。
一同 (笑)。
―― 竜騎士さんのキャラクターの「書き分け」は、文芸のステージをひとつ上げたんじゃないかって僕は思ってるんですが、みんなそれがわからないんですよ。
竜騎士07 一般的な方は……いわゆるライトノベル的な、過剰に味付けされたしゃべり方だと認識されると思うんですよね。ただ、私の中ではそれはいい記号だと思ったんですよ。私たちが全員、「こんにちは」って言っても全員イントネーションも声色も違います。それを文字しかない世界でやろうと思ったら、誇張しすぎるくらいしゃべり方を特徴的にすべきだろうなって感じたんですね。幸いなことに、それがライトノベルを読む方々にとっては馴染みのあるやり方だったんで、抵抗なく受け入れてもらえたんですけど。
―― 部活のメンバーだけでも5人いるわけじゃないですか。その5人が次々にテンポよく話をしていっても、誰が話をしたかわかるんですよ。それはやっぱり希有な表現方法だなって思うんです。
竜騎士07 5人も仲良しの仲間が集まったら、みんなで楽しくぺらぺらおしゃべりするじゃないですか。それをありのままにノンストップで書いていきたかったっていう……。自分でもすごく上手くいったと思います。
―― うん……伝わってますね、はるかぜちゃんには。
竜騎士07 今日それを、一番目の質問に上げてくれるとは……。嬉しいとともに感動してます! ありがとうございます、ホントに。
はるかぜちゃん ぼくもそれを目指して書いているので……。
竜騎士07 小説を?
はるかぜちゃん あ、小説じゃなくってTwitterとかで、文章だけでも、誰が読んでも絶対ぼくだってわかるっていう文章を目指して書いてるんです。楽しいんだけど、自分1人分だけでもすっごい辛かったので、竜騎士さんはどうやってるのかなって。
竜騎士07 初めて事務所を通してメールをもらったとき、とても個性あふれる可愛らしいメールだと思いましたよ。今はTwitterの時代ですから、文章をパッと見ただけで自分だってわかるって大事ですね。……うーん。私はひょっとして、今、「新人類」と話をしているのでは(笑)。
一同 (笑)。
竜騎士07 Twitterっていうのは、声色のない声ですよね。そこで自分の個性を出すのって大正解ですね。私はちょっと古い世代なんで、Twitterっていうのはせいぜい自分の話し言葉で書くのが限界だろうって考えてしまうけど、はるかぜちゃんの言うことは正しい。文字しか無い世界で自分を出そうとしたら、Twitterの世界独特の表現になっていいはずなんです。そうそう、実はうちのスタッフは、Twitterでリツイートした時に出る「RT」ってあるじゃないですか。あの「RT」をペンネームだと思ってたんですよ(笑)。
一同 (爆笑)。
竜騎士07 Twitter の話題が出たときに、RTさんってものすごく物知りだなって言い出したんですよ(笑)。RTさんはアニメのことも漫画のことも、政治のことも詳しいし。
07th Expansionスタッフ オバマさんのbotにもちゃんとRTさんが出てくるって(笑)。
竜騎士07 そう! なんでRTさんは英語を使って返事を書いてるんだっていう(笑)。
一同 (大爆笑)。
07th Expansionスタッフ そのころからおかしいなって思い始めたんですけど……。
竜騎士07 っていうくらい、私たちはおじさんおばさんなんですよ。でも、はるかぜちゃんを見てると、これから文字の文化は面白いことになるだろうなって思います。一時期は「活字離れ」なんて叫ばれたけど、これだけコミュニケーション手段が進んで、また活字が意味を持つ時代に戻ってきたっていうのはすごく不思議なことです。今、Twitterにおけるはるかぜちゃんの個性の表現について聞いたわけだけど、私なんかよりも10歳の彼女の方がよっぽど、文字が相手に与える印象を理解しているように思うんですね。すごい衝撃を受けると同時に、私は物書きのくせに文字が「今」に与える影響をどうも侮っていた気がします。
はるかぜ文体のヒミツ
―― はるかぜちゃんの文章の原点は『ひぐらし』なんですね。
はるかぜちゃん はいー。あのー、最初は羽入と梨花が好きだったので、梨花とか羽入の真似をしようと思って書いてたんですけど、自分なりの個性を出さなきゃだめかなぁと思って……。それでどんどんどんどん進化して、ついにここまで至ったっていう。
竜騎士07 はるかぜちゃんらしい自分の文体になったんですね。
はるかぜちゃん はいー!
―― 「るっ」っていうのはそこからなんですか?
はるかぜちゃん あーはい。「るっ」とかも、なんか「るんるん」とかだったら、すっごい普通なので「るんるん」の「る」だけを抜いて、「る」ってやって、それで「っ」を付けたら可愛いかなと思って「るっ」にして(笑)。
一同 ……かわいい(笑)。
竜騎士07 しかし、今って本当に自己表現の時代だなって思いますね、やっぱり。物書きの話に無理矢理すり替えると、人気があって絶大な支持を受けている先生方には「奈須節」「虚淵節」なんて呼び名があって、やっぱりそう呼ばれるだけの強烈な個性、時には、日本語の体裁を壊してでも、独特の世界観を構築なさっている。ファンでない方が「日本語が破綻している」って言うのは凄く簡単なの。そうじゃなくって、「酔わせる」っていうのかな。文体、個性っていうのが凄く大事なんですよね、それを10歳にして、ただ「るんるん」ではつまらないから、「るっ」でいったっていうのは、ただただすごい……。
はるかぜちゃん けど、最近Twitterのしゃべり方が頭の中に入ってきて、それで自分の言葉さえ忘れて……Twitterみたいな言葉になってしまうっていう現象が起きてます(笑)。
竜騎士07 しゃべり方がTwitterと同じになってしまったんですか?(笑)
はるかぜちゃん はい(笑)。
―― どういう時ですか? 例えば。
はるかぜちゃん えっと、嬉しいときに「にょほう」とか使ってるんですけど、そしたら「にょほうダンス」とかを思いついて(笑)。
竜騎士07 「にょほうダンス」……(笑)。
はるかぜちゃん それで、楽しい時とか、るんるんしているときは、「るっ」って自分で言うようになっちゃって(笑)。
竜騎士07 すごいね、文字が頭から溢れ出してきたみたいな感じですね。
はるかぜちゃん はい!
竜騎士07 へぇー、すごいなぁ。でも、物書きはずっと頭の中にキャラクターが反復しているんで、私なんかもトイレに入るとぶつぶつぶつぶつ言ってます(笑)。
はるかぜちゃん そうなんですかぁ。
―― やっぱり梨花ちゃん書くときなんかは、「にぱ〜」とかいって書いたりします?
竜騎士07 さすがに口には出さないです(笑)。ただ、きっと私なりの表現で「にぱ〜」って顔をしながら執筆しているとは思います。……だから、最近は慣れてきたんですけど、昔は人前で執筆するのが苦手でした。「にぱ〜」って顔しながら打っていると思うと、恥ずかしかったんです。作業場にテレビの撮影が来たときに、「なんか執筆しているとこ撮らせてください」って言われると、殺伐としたシーンを打ってました。殺伐としたシーンの方が、顔がキリッとしてるはずなんで(笑)。
はるかぜちゃんのTwitterライフ
竜騎士07 はるかぜちゃんは、いくつの時から文字を打ってるんですか?
はるかぜちゃん ぼくが文字を打つようになったのは、ママが元々ブログを書いてて、そこにぼくの写真を載せたら、ぼく宛にもレスがくるようになって、その人はぼくに話しかけてくれてるのにママが返事するのも変だから、それで、返事やってみてって言われて、やり始めたのがきっかけで。
竜騎士07 じゃあキーボードで打ったんですか?
はるかぜちゃん はい、キーボードで。今、記憶に無いんですけど、「この文字はここ」って教えてもらったらしいです。今はブログをやめたので、代わりにTwitterに登録してもらって、それからは一人でやってます。
竜騎士07 文字を打つのはけっこう速いんですか?
はるかぜちゃん うーん、どうかな……。でもこのごろ、携帯のボタンがへこんできちゃって(笑)。なんかちょっと、文字を書きにくい……(苦笑)。
―― ちょっと、「今、竜騎士07さんとアキバにいます」みたいにツイってもらって大丈夫ですか?
はるかぜちゃん (携帯を取り出して)このごろへこんできたんで、やりにくいんですよー。なんか、一見普通に見えるんですけど、実は……ここを打つと、ここがこうなって……。
竜騎士07 あぁ、他のところが押されちゃうんですね。
はるかぜちゃん はい。なので、打ちづらい……。いつも気をつけてるので、なんかこのごろは、昔はけっこう速かったんですけど……。
竜騎士07 うーん、ジェネレーションギャップだな。携帯を持つのは大人だって思い込みがあるんで、はるかぜちゃんが携帯を持っている光景に違和感を覚えるんだけど、これが当たり前の光景なのですね。
はるかぜちゃん はい、そうなんです。
―― 携帯持つと、お顔がキリッとしますね。武器を持ったみたいな感じで(笑)。
はるかぜちゃん (Twitterにpostしようとして)はぁ……なんか……うーん! 変換が出来なーい! あっ……しかもカナになってる。
―― Twitterは一日何時間くらいやってるの?
はるかぜちゃん えっと、ぼくは、塗り絵と漫画とアニメと……音楽を聴きながら、いつもTwitterしています(笑)。
竜騎士07 じゃあ、アニメを流しながら音楽を聴いてるの?
はるかぜちゃん はい(笑)。音量すごく下げて、なんか話の途中で流れるメロディーみたいな感じで。
竜騎士07 へぇ~。
―― あ、はるかぜちゃんのpostがTLに流れてきた!
竜騎士07 え、もう流れてるの?
―― 流れてますよ。
「いま竜騎士さんといますん(ω)るっ」
一同 かわいいー(笑)!
竜騎士07 ところで、今フォロワーどのくらいいるんですか?
―― 2万くらい……?
竜騎士07 ひゃー! ……2万って、すっごいな。
はるかぜちゃん ええっとぉ、正確にはもう少し……!
竜騎士07 2万何千人ですか?
はるかぜちゃん (操作しながら)ここを見て……。ひゃぁー(笑)! フォロワーとか、いっつも見ないので驚いちゃった。……えっと、26610人。
竜騎士07 うわー! すごい人数……2万6千っていうと……。
―― ちょっとした村くらい?
竜騎士07 いや村どころか、町ですよ町! 私がTwitterやったら2万は来ない! いいとこ1000人くらいだろうなぁ。
―― そんなことないですよ。
竜騎士07 いやいやいや、2万人は凄いな。2万人の人って想像できます? だって、今日もこの店内に、せいぜい20人くらいかしら? この20人の……1000倍!
はるかぜちゃん (目をまわして)自分で……自分でわかりません(笑)。
竜騎士07 でも、はるかぜちゃんの過去のTwitterを見させてもらったんだけど、なんかいろんな方からリツイートが来ても、ちゃんとお返事を出したり、Twitterに対する責任感なんかが凄いしっかりしてますね。10ヶ条でしたっけ? 「人に悪口を言わない」とか、「みんなが読んでることを意識して書く」みたいな、そんなことが書いてあってね、凄い。
はるかぜちゃん ツイり10ヶ条?
竜騎士07 そうそうそう!
はるかぜちゃん その中に、「自分に批判的な意見はなるべくリツイートする」っていうのがあったんですけど、それだけとある事情で中止になっちゃって……。
竜騎士07 ははは。そういう人にはわざわざ近づかない方がいいですよ。世の中近づくべきと近づかない方がいい人とがいて、「君子危うきに近寄らず」ってね。触らぬ神に祟りなし!
はるかぜちゃん はい……。
竜騎士07 今ちょっと私、人生悟ったんですけど、人はおっさんになるんじゃなくて、若者の前でおっさんになるんですね。
―― そうですね(笑)。今、僕もまさにそうですよ!
竜騎士07 ネットの世界には色んないい人もいるけど、あんま良くない人も沢山いる。私は心が打たれ弱いんで、ちょっと心ない人にメッセージをもらうとへこんでしまうんですよ。はるかぜちゃんはそういうとき、つらくならないですか?
はるかぜちゃん うーん、まず話し合って、それで自分のことを認めてもらえたなら嬉しかったし、けど、話し合って「わかってもらった!」と思ったのに、実はダメだった……ってことがあったら、ちょっと悲しくなります。
竜騎士07 そうですよね……でも、Twitterで文体だけ見てる人たちは、ホントに10歳だって知らないんじゃないかなぁ。なんだろう……「自称」とか思ってるんじゃない?
―― お母さんがやってるとかね。
竜騎士07 そうそうそう! だってこうやって、面と向かってお話ししてて、今流れてきたpostを見ても、目の前の携帯から発信されたとはにわかには信じられませんもの…。
これから「小説」が復権する
竜騎士07 私は、Twitterとかブログとか、活字による自己発信が当たり前になった時代だからこそ、私が活字で書いた作品が読者に伝わったんじゃないかって気がするんですよ。私が社会人になったばかりの頃に、ポケベル――ポケットベルが初めて登場したんです。聞いたことあります?
はるかぜちゃん ポケットベル……うーん、聞いたことはあるけど、あんまりよく知りません。
竜騎士07 ポケベルってのは電話の出来ない携帯電話みたいなもんで、ただベルが鳴るだけ。つまり、ポケットベルに電話をかけると、相手のベルが鳴る。そうすると、ポケベルのディスプレイに数字が表示されて、「あ、誰かが呼んでる」ってわかる、ただそれだけのものだったんだけど、これで初めて人が電話の前にいなくても連絡が取れるようになった。
はるかぜちゃん ほおぅ、そうなんですかぁ!
竜騎士07 そこからだんだんPHS・携帯電話とかが出始めた。で、その頃は「やっぱりコミュニケーションっていうのは、会って直接話すのが一番だね。会わないで文字だけでコミュニケーションしていると、心が伝わらないから良くないね」なんて言われていたんですよ。つまり、言葉だけだときつくなりがちでしょ? 「こんにちは」とか「さっきはごめんね」なんて文字だけで書いても、上手く伝わらない場合があるじゃないですか。ところが、そのうち文字で感情を伝える技術として、顔文字が登場してきたり……例えばはるかぜちゃんの「るっ(ω)」がいい例ですね。今のるんるんした気持ちを伝えられるじゃないですか。そんな感じで文字の中に感情を伝える方法が徐々に開発されてきて、そして今ではこうやって活字に心をこめて、逆に活字に相手の心を読み取るスキルを持っている子供たちが生まれはじめた。だから……案外、活字からものを読み取る能力としては、私たちの世代は……完全に遅れているのかもしれない。
―― うーん……。
竜騎士07 そしてそういう意味では、これから小説は復権するのかもしれない。
―― うん、そう読み替えると実にいい話だ……!
竜騎士07 はるかぜちゃんたちの世代にとっては、文章から当たり前のように生きた感情が読み取れるんですよ。でも、私たちの世代は耳からしか人の感情を聞き取る訓練をしていない。アニメやドラマから感情を読み取ることはできるけど、文字から感情を読み取るには絵とかあるいは音楽といった、演出を必要としてしまう。しかし、はるかぜちゃんたちは違う。文字から相手の喜怒哀楽を読み取れる技術をもっている。だから、これから小説は……。
―― 生き残れるかもしれない! いや、“大復活”にモードが切り替わるかも!?
竜騎士07 そう、私は今まで暗澹たる気持ちでした。「モバゲーとかソーシャルゲームが流行っているくらいだから、今の子供はゲームしかやらない、活字なんか……」ってよく言うじゃないですか。漫画の読み方を知らない子供すら出てくる昨今なんで、これからの子供にとっては本なんてもってのほかだと思ったけど、とんでもない! 今日はるかぜちゃんに会って、小説はむしろ、これからの時代のものだと。
―― (ここぞとばかりに)小説書きましょうよ! 竜騎士さん!
竜騎士07 はるかぜちゃんに読まれるとわかったら、かなり気をつけないと。いつものノリではちょっと……(笑)。
―― いえ、いつものノリで書いてください(笑)。
竜騎士07 私は普段は悲観論者で、「日本は沈んでいく一方」とか「あと10年で破滅する」とかすぐ思っちゃったりするんですけど、今日はるかぜちゃんとお会いして「とんでもない、日本の未来は明るい!」と。暗いと思っているのは私たちだけで、未来自体は明るいんです。むしろ私たちが活字から人の感情を読み取る勉強をしなければならないなと、思い知らされました。私たちの親世代は、キーボードやインターネットを使えない世代という意味において、インターネットのひとつ前の世代じゃないですか。それと同じように、今度は活字から感情を読み取るというスキルにおいて、完全に私たちはひとつ後ろの世代です。これを学んでいかないと、はるかぜちゃんたち以降の世代がメインになっていったときに、私たちは完全に置いてかれるんですね……。
―― わかってるつもりが……。
竜騎士07 わかっているつもりが、実はわかっていない。さんざん若者の活字離れだとか偉そうなこと言っておいて、活字から離れているのは自分たちで、若者の方がよっぽどTwitterなどのやり取りで、活字からの感情の読み取りに長けている。
―― あいつ信用出来るとか出来ない、みたいな判断ですね。
竜騎士07 そう、私たちは耐性がないじゃないですか。ネットで馬鹿だのアホだの言われたらすぐカチンと来る。はるかぜちゃんたちになると、「これは大して意味の無い発言だな」と切り捨てられたり、あるいはその馬鹿という言葉の裏側に本当の悪意を感じたり、あるいはただの日常的なもので……。
―― 裏側に本当は愛情があることをわかってしまう。
竜騎士07 そう、だから私たちに読み取れないものが読み取れる世代になっている。今はまだ10歳だけど、10年後には20歳。私がまさにメインとしている年齢層に入ってくる。だから、そんな嗅覚を持った世代に読み取ってもらえる作品を書かないと。つまり、「こんなの若い人が読み取れるわけないだろ」と思って書いた作品は、実は逆に彼女たちには如実にわかってしまうので、私たちは新しい世代を侮ってはいけない。はるかぜちゃんに恥ずかしくないような作品を書いていかなければならないって、ホントに思いました。今日はドキッとさせられることの連続で。
―― うん……僕もです。
竜騎士07 10歳のはるかぜちゃんは30歳のときの私よりもよっぽど熱心で、本を読むことに長けているに違いない。はぁー、驚きました。今日はべた褒めです(笑)! 脱帽します正直! 写真で見ると、40歳近いおっさんとかわいい猫耳をつけた10歳の女の子の対談なんだけど、皆さん写真にだまされないでほしい!
はるかぜちゃん でもぼくはモバゲーもグリゲーもやりますよ(ω) ウフフフ。
一同 (笑)。
竜騎士07 彼女がこれからの新世代なんです。私たちは彼女たちを侮ったら、これからは通用しない。今の世代に通用する読み物は、次の世代に通用しない。なぜなら、次の世代は今の世代より嗅覚が強い。だから、私たちは常に今の彼女たちを、侮らない作品を書いていかないと置いてかれる。
―― でもそれはねぇ、ちょっと僕たちも思いますよ。「にぱ〜」なんて言う人はいないなんて、未だに言っている人がいるんだけど、実際に出てきてるんですよね、そういう人は(笑)。
竜騎士07 そうそう(笑)。
―― 彼女たちからするとやっぱり、「ですわ」なんていう小説の方が、むしろよくわかる。だから、それに対応して書いていかなきゃいけないというのもあるのかもしれない。
竜騎士07 私たちの頃は、話し言葉と小説になる言葉はすべて同じでなければならないって思い込みがありました。でも、はるかぜちゃんの世代では文章を読んだだけで私だってわからせるための個性をつけたいっていうんだから、文章と口語体が違う発信物であるということを初めから理解していることになるんで、これは相当凄いことですよ。
はるかぜちゃん あのう、ぼくは、別にすごくはないと思うけど、誰が書いたかわからない文章は絶対書きたくないです(ω)
竜騎士07 いやぁ、間違いなくはるかぜちゃんは今、時代の最先端をいっている。これからもいろんな本を読んでください。恥ずかしながら、私の本より面白い本はいっぱいあるんで(笑)。きっと太田さんが悪くて楽しい本……いや、楽しい本を沢山すすめてくれるんでね。
はるかぜちゃん はいーっ!
竜騎士07 きっと何年か後には、感想文ももっと素晴らしいものを書けるようになっています。それどころか、はるかぜちゃんのような人が自分の感情をダイレクトに文字に起こすことを、スキルとしてではなく、デフォルトとして持ち得たら国民総執筆世代なんていうのがくるかもしれないなぁ。
―― あー、あるかもしれないですね。
竜騎士07 ホント、はるかぜちゃんがあと10年もしたら、普通に本を書いているかもしれない。はるかぜちゃんが本を発表して、もしも、お許しをいただけるのでしたら、私が帯に推薦文を……(笑)。
一同 (笑)。
―― そりゃ最初は竜騎士さんに書いてもらわないと! ぜひ、出版は星海社で!
はるかぜちゃん はいー!
竜騎士07 ぜひ太田さんにお世話になってください。太田さんもぜひ、はるかぜちゃんの原稿を読んであげてくださいよ。
―― 勿論です! はるかぜちゃんに一番最初に原稿依頼(注「最前線セレクションズ」のゲスト原稿)したのは他ならぬ僕ですからね(笑)。
究極の文科系クラブ!?
はるかぜちゃん 実は今、学校でクラブを作っていて……。
竜騎士07 どういうクラブですか?
はるかぜちゃん えっとぉ……あの、小説&漫画&演劇クラブです!
―― それは究極の文科系クラブだな……(笑)。
はるかぜちゃん 自分たちで作った小説や漫画を、劇にしてやるっていうクラブです。
竜騎士07 それはマルチメディアですね! 自分たちで世界観作って、漫画も小説も演劇もやるなんて……!
はるかぜちゃん はい!
竜騎士07 これ、私がいつも思っていることですよ。私は「漫画をやるにはインクと定規が必要」なんて思っていて、方法論に溺れて本質に気づかずに30歳まで過ごしてきたけど、彼女はもうわかってるんですね。別に「漫画でなきゃいけない」「小説でなきゃいけない」なんて縛りをもっていないんですよ。私たちの頃には、変なハードルがあって、小説家と漫画家はお互いが意識して競い合っているみたいな。
―― ありました、ありました。
竜騎士07 小説と漫画と演劇はそれぞれバラバラで、むしろ喧嘩している関係にあったんです。「私たちが優れている」「漫画はカッコいい」「小説は偉い」「演劇は立派だ」なんてふうに反目していたんです。でも、はるかぜちゃんの目から見れば、それは全部同じものですもんね。今出た3つは全部私が好きなものですし。私から見れば、ハンバーグとフルーツポンチとアイスクリームが出てきた感じ(笑)。
はるかぜちゃん ウフフフフ(笑)。
竜騎士07 私がその学校にいたら、ぜひ入部したいです(笑)。
―― 発表会があったら、絶対に呼んでくださいね。
はるかぜちゃん あの、部員は集まってるんですけど、なんか……先生がいるかどうかっていうのが問題で……。
竜騎士07 そうか、顧問の先生がついてくれないとね、部活に認定されないんですね。
はるかぜちゃん はい……。
竜騎士07 そっかぁ、誰かいないのかなぁ……。
はるかぜちゃん なので、今度、「小説と漫画と、あと演劇の好きな先生はいますか?」って聞いて、もしいたらその先生にお願いしようと。
はるかぜママ 去年も作ろうとしていたんですけど、ダメだったんですよ。今年もまたやってるんですけど……。
はるかぜちゃん 前は演劇クラブって書いただけだったので、人は集まらなかったんですけど、自分で作るっていうと、だいぶ人が増えました。去年はだめだったけど、今年は絶対クラブにしたいです。がんばりまん(ω)
竜騎士07 私も小説の真似事をしてみたり、あるいは漫画の真似事をしてみたり、演劇の脚本を書いてみたこともあるんですよ。私が『ひぐらし』を書くまでに体験したことが全部出てきましたね。
―― そう、僕もそう思って聞いてました。
はるかぜちゃん えっ??
竜騎士07 『ひぐらし』ってね、元々は舞台脚本なんです。
はるかぜちゃん 舞台脚本……!?
竜騎士07 私のお友達がみんなでお芝居をやってたんですけど、私だけやってなかったんです。それで、すごくうらやましかったんです。でも、舞台に出るってなると稽古が大変でしょ? 私なんかいきなりお稽古を受けても上がれるもんじゃない。じゃあ私に参加できることはなんだろうかって考えてたときに、劇場の後ろに「舞台脚本募集中 賞金10万円!」みたいな張り紙が出てたんですよ! それを見て、「よし、日本語なら書ける!」って思って書いたのが、『雛見沢停留所』って名前の舞台脚本で、それが『ひぐらし』の原型になる話だったんですよ。
はるかぜちゃん ほぉー! なんと!
竜騎士07 それを投稿したんですけど、まぁボツになっちゃったんです。その後2年間ほど、その脚本は眠っていたんですが、後にそれをパソコンゲームで作ってみようって話が出ました。でも『雛見沢停留所』ではなんと、魅音と梨花ちゃんしかいなかったんですよ。しかも、魅音の方が年下で、梨花ちゃんの方が年上だったんですよ。
はるかぜちゃん キャー(ω) ちっさい魅音見てみたいですん(ω)
竜騎士07 そこからレナとか圭一とかを増やして、もっと大きな話に膨らませようって書き直したのが、『ひぐらしのなく頃に』なんですよね。
はるかぜちゃん そ、そーなんですかー!
竜騎士07 だから過去の私が、はるかぜちゃんのクラブに入って勉強したら、きっと『ひぐらし』を書いていると思いますよ。それにしても、今からこんなに自己表現に熱心だなんて本当に凄いです。それはとても素晴らしいことだと思いますよ!