はるかぜのふく頃に
#04 対談@秋葉原 Part 3
竜騎士07&はるかぜちゃん
春の気配漂う3月のある日、秋葉原でひとつの出会いがありました。『ひぐらしのなく頃に』の作者である竜騎士07と、Twitterでの都条例反対ツイートで注目を集めた、子役の”はるかぜちゃん”こと春名風花さん。はるかぜちゃんが『ひぐらし』の大ファンというきっかけから実現したこの出会いから、歴史的対談に入る前のひととき――。秋葉原を散策する2人のうららかな春の日をお楽しみください。
竜騎士07による「フレデリカの詩」解説
―― はるかぜちゃんからも、質問ガンガンお願いします!
はるかぜちゃん ええと……あっ、そうだ! 梨花の詩(『ひぐらし』各編の冒頭にあるフレデリカの詩)の意味を聞きたかったんですけど。
竜騎士07 (漫画版を広げながら)えっと……これですか?
はるかぜちゃん はい、そのやつです。蛙の死ぬ意味を聞きたくって……。
竜騎士07 祟殺し編の「井戸の中の蛙は幸せでした」ってやつですね。
はるかぜちゃん はい。最後の部分の「私は初めて蛙の王さまの言葉の意味がわかりました」っていうのも、聞きたかったんですけど。
井の中の蛙は幸せでした。
井戸の外に何も興味がなかったから。
井の中の蛙は幸せでした。
井戸の外で何があっても関係なかったから。
そしてあなたも幸せでした。
井戸の外で何があったか知らなかったから。
祟殺し編
井戸の外の世界が知りたくて。
私は井戸の底から這い上がろうとしました。
井戸の外の世界が知りたくて。
何度、滑り落ちて全身を打ち付けても上り続けました。
でも気付きました。
上れば上るほどに落ちる時の高さと痛みは増すのです。
外の世界への興味と全身の痛みが同じくらいになった時、
私は初めて蛙の王さまの言葉の意味がわかりました。
皆殺し編
井戸の外にはどんな世界が?
それは、知るために支払う苦労に見合うもの?
井戸の外にはどんな世界が?
それは、何度も墜落しても試すほどに魅力的?
井戸の外にはどんな世界が?
それを知ろうと努力して、落ちる痛みを楽しもう。
その末に至った世界なら、そこはきっと素敵な世界。
例えそこが井戸の底であったとしても。
井戸の外へ出ようとする決意が、新しい世界への鍵。
出られたって出られなくったって、
きっと新しい世界へ至れる…。
皆殺し編(エンドロール)
竜騎士07 端的に言うと、深い井戸の底に閉じ込められちゃった蛙が、井戸の外に出たいと願っているんですよ。だから這い上がるんですけど、井戸が深いのでなかなか外に出られない。登ってダメだと下に落っこちる。ということは、ちょっとしか登らないで落ちたときには、あんまり痛くないけど、もうちょっとで出られるってとこで落ちた時はすっごく痛いでしょう? 何回も登っては落ちてって繰り返していると、だんだん登るのも凄く疲れてくるし、登れば登るほど落ちた時に痛い。そうすると、一番痛くないのは、登らないことじゃないですか。だからあれは、「努力すれば努力した分、失敗した時の落胆が大きくなるので、その努力と落胆が見合わないならば、努力しない方が楽なんじゃないかな」っていう悲しい歌なんですよ。
はるかぜちゃん それは……羽入が言っていること?
竜騎士07 そう、蛙の王さまっていうのは、この場合は羽入のことですね。羽入はこれまでずっと、登って落っこってを繰り返し過ぎたんで、すっかり井戸を登ることに疲れてしまったんだね。登るから落ちて痛い。「登んないで井戸の底にいれば、井戸の底も悪くないんじゃない?」っていうのが羽入の考え方なんですよ。梨花も、何度も死んだり生き返ったりを繰り返しているうちに、だんだん辛くなってきて、やっと羽入の言葉の意味が理解出来るようになってきたっていうことが書いてあるんです。
はるかぜちゃん ほほぉー! ……たぶん、羽入と梨花のことだと思ってたんですけど。
竜騎士07 その通りですね。で、井戸の外にはどんな世界がっていうのは、それに続く話で、「頑張って登れば井戸の外には素敵な世界があるよ」っていうこと。「大事なのは、井戸の外に出るためには登る努力が必要だから、失敗を恐れちゃいけないよ」っていうことが書いてあるんです。頑張った末に、あの上までたどり着いたなら、それは頑張りに見合うだけの素晴らしい世界ですし、頑張った結果動けなくなっちゃっても、「たとえ出られなくっても、努力をすればその結果にかかわらず、納得は得られるんだよ」っていうことが書いてあるんですよね。やっぱり人間物事を諦めるとき、努力をした上でダメだったんなら諦めがつくけど、努力したらなんとかなったのに、っていう時は、悔しくっていつまでたっても諦めがつかないでしょう? 努力した結果なら、成功しても失敗しても幸せなんですよ。
はるかぜちゃん 全部意味が深いんですね……。
竜騎士07 ありがとうございます(笑)。
―― 他には……?
はるかぜちゃん (皆殺し編を取り出して)えっと、あとこれも。
どうかこの夜に何があったか教えてください。
それは例えるなら猫を詰めた箱。
どうかこの夜に何があったか教えてください。
箱の中の猫は、生か死かすらもわからない。
どうかあの夜に何があったか教えてください。
箱の中の猫は、死んでいたのです。
皆殺し編(綿流し終了後)
竜騎士07 これはですね……「猫を詰めた箱」っていうのは、シュレーディンガーの猫っていう難しいお話があって……。
―― 高校生レベルの話ですよね、これは。量子力学のたとえ話ですから。
竜騎士07 そうですね……。えっと、梨花ちゃんは死んでしまう直前の記憶がないじゃないですか。だから梨花ちゃんは、なんで自分が殺されたかが分かってないんですよ。でも、自分の殺される瞬間にこそ答えがあるはずなんですよね。だから、「どうかあの夜に何があったか教えてください」。いったい何があったのでしょうね、何があったかわからない、でも結果だけはわかってる。私が殺されるということだけはわかっている、っていうことが書いてあるんですね。ちょっと謎めいた言い方なんですけど。
はるかぜちゃん はぁー、ありがとうございます。
竜騎士07 皆殺し編っていうのは、前後で2つの話に分かれていて、前半は沙都子を助けるために全員で協力する話で、後半は鷹野を中心とした、村で暗躍している黒幕が初登場する話なんです。そのちょうど折り返しのところに今の詩を入れることで、ここから話の展開が変わりますよって意味合いがあるんですね。
はるかぜちゃん はぁー、そうなんですかぁ!
フレデリカとラムダデルタ
はるかぜちゃん 他にはぁー、えっと……なんかいっぱい聞きたいことあったはずなのに……!
はるかぜママ 携帯見れば?
竜騎士07 そっか、今メモも携帯なんですね。
はるかぜママ 昨日いっぱい質問考えていたじゃない。
―― 昨日作戦会議したんですね!
はるかぜママ きっと全部ぶっ飛ぶと思ったので。……実際飛んでますね(笑)。
竜騎士07 すごいリラックスしているように見えますけどね。
はるかぜちゃん (携帯のメモ帳を見ながら)えっとぉ、あのー、竜騎士07さんの名前の「07」は「レナ」ですよね?
竜騎士07 まぁ、そうですね。「レナ」って意味でつけたんですけど、読みは「ゼロナナ」ですね。
はるかぜちゃん でも、登場人物では、どうして梨花ばっかり出てくるのかって気になって……。竜騎士さんは、レナが一番お気に入りなのかなって思ってたから(ω)
竜騎士07 『ひぐらしのなく頃に』の陰の主人公は梨花なんですよ。だから梨花がいっぱい出てくるんですね。あと、私の相棒にBTさんっていう人がいるんですけど、その男が梨花ちゃん大好きだったんですよ。その男は、今日は都合があってここには来れないんだけど、もし来ていたらきっとはるかぜちゃんの写真を撮りまくってると思いますよ(笑)。とにかく梨花ちゃんが大好きな男だった!
―― お友達のリクエストに応えて、梨花ちゃんをいっぱい出してたんですね。
竜騎士07 お気づきのように、梨花ちゃんていうのは物語の中で非常に大事なキャラクターなんですね。陰の主人公といってもいいような重要なキャラクターなんです。そうそう、知ってました? フレデリカ・ベルンカステルっていうのは梨花ちゃんのことなんですよ?
はるかぜちゃん はい、『うみねこ』ではフレデリカ・ベルンカステルが出ていて、『ひぐらし』では古手梨花が出てきて。
竜騎士07 「古手梨花」だから「フレデリカ」なんですよ。
はるかぜちゃん ぼく的には、古手梨花が100年の旅をして、それで人生をちゃんと生きて、それで最後に死んで、そして目覚めたら魔女になっていたみたいな感じだと思う。
竜騎士07 なるほどね。『ひぐらし』と『うみねこ』は、一応つながってない話っていう設定にはなってるんですけど――『祭囃し編』の後に、『賽殺し編』っていう梨花ちゃんを主人公にした話があるんですよ。この話の中で、『ひぐらしのなく頃に』でみんなで仲良くエンディングを迎えたあと、梨花ちゃんがこれまでの自分と決別して、人間として生きていこうって決意するんです。そのとき梨花ちゃんの中に、これから前向きに生きていこうとする良い自分と、都合の悪いことが起きたらまたリセットすればやり直せるじゃんという悪い自分がいたんですよ。人間の人生は一度しかないから「都合が悪かったら死んでやり直す」なんてないじゃないですか、私たち。だからそのとき梨花ちゃんは、都合が悪ければやり直す自分を切り捨てたんですよ。これは公式設定ではないんですが、このとき切り捨てられた梨花の中の悪い部分が、フレデリカ・ベルンカステルだったのかなっていうのが、私の解釈です。
はるかぜちゃん はぁー! あ、でも古手梨花とフレデリカ・ベルンカステルは会うことがあったじゃないですか。『皆殺し編』の最初の方に、かけらの中の世界で。
竜騎士07 あ、大人になった梨花が出てくるみたいなシーンがありますよね。
はるかぜちゃん あぁ、はい。背は同じですが。
竜騎士07 そうですね(笑)。あれはひょっとすると、そうなのかもしれないですね。それははるかぜちゃんの想像に委ねたいところです。
はるかぜちゃん はい……。あ、あと『うみねこ』と『ひぐらし』の話は一応分かれてるって言ってたんですけど、鷹野とあと……。
竜騎士07 ラムダデルタですか?
はるかぜちゃん ラムダデルタが、すっごい顔が似てて(笑)。しかも、鷹野のちっちゃい頃の、顔とか背とかも、すっごい似てるので、同じなんじゃないかって思ったんですけど。
竜騎士07 よく見てますね(笑)。一応物語は分かれているんで同じキャラではないはずなんですけど、なんか似てるなぁと思ったら、ひょっとしたらはるかぜちゃんの中では同一人物なのかなぁって疑ってくれてもいいですよ。
はるかぜちゃん はい。ぼくは一緒の魂だった方が、なんかうれしいです(ω)
竜騎士07 そう考えると、『ひぐらしのなく頃に』で敵同士だった2人が仲良くなったのかなぁなんて考えると面白いですね。
はるかぜちゃん むふん(ω)
―― それにしても、こうやって原作者から手ほどきを受けるのって、贅沢でいいですねえ。
竜騎士07 テープさえ回ってなければ、全部ネタバレしちゃうんですけどね(笑)。
―― そうすると夢がなくなっちゃうから!
竜騎士07 でも私もラムダデルタは、大好きなキャラクターなので、凄い楽しく書いてました。ベルンカステルとラムダデルタはとても楽しいですよね。
はるかぜちゃん ラムダデルタとベルンカステルは、なんかあんなにすっごい仲良しなのは、なぜなんですか?
竜騎士07 なぜなんでしょうね。ずっと長いこと……『ひぐらし』の中では100年旅をしてますけど、『うみねこ』の世界では、もう1000年旅をしていることになってるんですよ。1000年も旅をしていると、いろんなことがあって、同じ仲間として友情が芽生えたんじゃないでしょうか。特にあの世界では、一人ぼっちで世界を放浪しなければならないので、そんな中自分と同じ境遇である2人は、やっぱり仲良かったんじゃないですかねぇ。1000年も生きてるとね、きっと人生が退屈なんですよ。そんな中、ラムダデルタみたいにいつもちょっかい出してくれる子は、ベルンカステルにとってすごい嬉しいことだったんですよ。だからベルンカステルは一見まとわりつかれてうるさそうにしているけど、実は嬉しかったりするんですね……。そんなツンデレな話を公式設定にしちゃっていいのかな(笑)?
はるかぜちゃん フフフ。
ゲームはコミュニケーションで成立する
はるかぜちゃん ……最初に『ひぐらし』をゲームで出したとき、選択肢はほとんどないのに、ゲームにしようと思ったのはどうしてですか?
竜騎士07 ……よくぞ聞いてくれました(笑)。最初はね、入れる気だったんですよ。
はるかぜちゃん 入れる気?
竜騎士07 選択肢のあるゲームにするつもりだったんです。最初に正解ルートを作っておいて、あとで間違いルートを作るつもりだったんですよ。そのために、最初に鬼隠し編を出した時には正解ルートしか作らなかった。正解ルートしかないってことは、圭一が魅音に人形をあげるという部分で、魅音にあげないでレナにあげるとか沙都子にあげるとかいう選択肢を作って、そこでゲームオーバーになる選択肢を後から追加するつもりだったんですよ。それでとりあえず1本話を作ったんですよ。そうして鬼隠し編を発表した時、感想のお便りがいっぱい来たんですけど、「選択肢はないんですか?」とか「選択肢はいつつくんですか?」とかみんな聞いてきたんですよ。だから私はそれに対して「完成版になったら、選択肢はつきます」って返事をしたんですよ。ところが、鬼隠し編をいざ書き終わってみたら、ゲームオーバーの選択肢を書くよりも、次の綿流し編を書くほうが楽しかったんですよ(笑)。「鬼隠し編のゲームオーバーの選択肢なんかいつでも書けるから、綿流し編書いちゃえ!」って。それで、綿流し編を書き終わったら、「こんなもう書き終わってる話、なんでこれからゲームオーバーになる話書かなきゃならないんだろう」と思って。そうして、どんどん選択肢のないまま進めていっちゃって2年くらいしたら、「うちの作品は選択肢がないのがウリです!!」って開き直っちゃったんです。
はるかぜちゃん ほほう(ω) どちらに進みますか、とかないんですね(笑)。
竜騎士07 そう、選択肢が一切ない。だから、そういう意味ではうちの作品はゲームというよりは小説に近い。ただ、ゲームっていうのは本来、1人で遊ぶものじゃないですよね。誰かと一緒に遊ぶものが本来のゲームだと思うんですよ。例えば一見1人で遊んでるテレビゲームでも、点数を出すことで「僕は500点とったけど、君は600点とったんだね」って誰かと競い合ってるじゃないですか。ゲームって、誰かとコミュニケーションをとって初めて成立するものなんですよ。そういう意味では『ひぐらしのなく頃に』を読んだ後に誰かと、「これってどういうことだったんだろうね?」って話すこと、例えば「フレデリカの詩ってどういう意味なんだろうね?」「蛙の王さまって何のこと言ってるんだろうね?」っていうことをお友達と議論していただけたら、それは立派なゲームなんです。だから、今私と一緒に、「この詩はこういう意味なんですよ」「ああそっか羽入のことだと思ってました」とかいうのも、これは立派な『ひぐらし』にとってのゲームなんですすよ。
はるかぜちゃん そうなんですかー!
竜騎士07 そうそう。『ひぐらしのなく頃に』はなんか難しい謎がいっぱい書いてあって、答えがあんまり書いてないじゃないですか。それは実は、読んだ後に友達同士で話し合ってもらいたい、ゲームとして楽しんでもらいたいなって思うからなんですよ。
はるかぜちゃん ほぉー(ω)
竜騎士07 だから今、図らずも、私とはるかぜちゃんはゲームをしてしまっていて、不幸にも私が原作者だったが故に、ゲームをした挙句に答えまで出てきちゃったわけなんですけどね(笑)。
はるかぜちゃん ネタバレにょほう(ω)
竜騎士07 だから、読んだ後に議論をしてほしい。でもこれは『ひぐらし』に限らず、世の中のいろんな事でも出来る事ですよ。例えばご家族と一緒に映画を観に行ったとする。で、「あの映画、どういうことだったの?」って言いながら家族でご飯を食べるとするじゃないですか。これだって立派なゲームなんですよ。あるいは、新聞や漫画を読んだり、アニメを観たりして、「これってどういうことなの?」「私はこういうことだと思うんだけど、お母さんはどう思う?」って聞くのも、これは立派なゲームなんですよ。一人で漫画を読んで、「面白かった」で終わってしまったら、これはゲームじゃないんですよ。漫画読んでみて、「これ面白いけど、あなたはどう思う?」って、漫画を中心に三角形が出来たとき。三角形になって初めて、ゲームになるんですよ。
はるかぜちゃん ほぉ、なんと!
竜騎士07 コントローラーを持って操作するのだけがゲームじゃないんです。いろんな経験を共有して議論すること、それが私の中ではゲームであり、遊びの本質なんですよ。
―― はるかぜちゃんは毎日、Twitterを通じて、竜騎士さんの言うゲームをやってるっていう考え方もありますよね。
竜騎士07 そうですね、だからはるかぜちゃんがTwitterを通じて、ある一つの共通の社会現象について発信し、それに誰かがリツイートして……っていうのも、立派なゲームですよね。勝ち負けのゲームじゃない、遊びとしてのゲームですよね。いい意味で、Twitterはいいゲームだと思います。しかも、はるかぜちゃんは自分の名前を明かした上でやっているわけだから、ちゃんと社会的責任を負った上でやっているわけで、無責任にやっているゲームじゃないんですね。しかし、私が一番やってほしかった『ひぐらし』の遊び方を、彼女は初めから会得している。なんか冗談抜きで、あと10年たったら……もう1回『ひぐらし』を読んでもらいたいなぁ。
―― うんうん、そうですね。
竜騎士07 今まで『ひぐらし』を知らなかった新しい世代にもね、知ってほしいと思います。
―― 10年後に新作を書いてもいいじゃないですか! 『ひぐらし』の新作を!
はるかぜちゃん 新作を! 新作を!
竜騎士07 ふふ、そうですね。機会があったらぜひいつか……。
子供は馬鹿じゃない!
はるかぜちゃん えっと……ちょっと話が変わって深刻になるんですけど、残酷な事件が起きて、アニメが打ち切りになったときに、竜騎士さんはどう思ったんですか? パソコンで竜騎士さんの日記(2007年9月23日付けの制作日記)も見させてもらったんですけど。
竜騎士07 そうですね……それは悲しかったですね。はるかぜちゃんも言われている通り、チラっとしか『ひぐらし』の世界を見ない人はテーマを誤解しちゃうじゃないですか。その誤解した一面だけが取り上げられてしまったというのは、すごい悲しかったし悔しかったですね。世の中には、はるかぜちゃんみたいに作品をちゃんと読んで評価してくれる人ばかりじゃないんですよ。本を読むのがめんどくさいから、他の人の感想だけを聞いて、それを鵜吞みにして、あたかも読んだみたいな気分になる人たちも大勢いるんです。「『ひぐらし』っていうのは、残酷でひどい話らしいよ」っていう噂を聞いたら、さも自分が読んだかのように、「『ひぐらし』っていうのは残酷な話なんだよ」って他の人に語る。するとどんどん広がっていって、それが真実になってしまう。つまり、無責任ないくつかの発言が伝播することによって、真実になってしまうんですよ。だから私は、あの事件はホントに悲しかったんです。でも、はるかぜちゃんが「ちゃんと本は読んで判断します」という言葉を聞かせてくれたので、私のそんな悲しい気持ちはもう癒されてしまったんですよ。
はるかぜちゃん ううー! ありがとうございますぅー! 家で日記見ているときも感動しちゃったんですけど、今も感動して泣きそうです。
―― はるかぜちゃんは、その……竜騎士さんの日記の文章を読んで、どんなふうに感じました?
はるかぜちゃん ぼく的には『ひぐらし』はすっごいいい作品なのに、ママに「事件がおきて、アニメ打ち切りになっちゃったんだよ」って聞いて、「あれっ、これを読んだらもっと事件は減るはずなのに」とわけわかんなくなって。『ひぐらし』は悩んでも人を殺したりしてはいつまでも幸せにはなれないってことを言っているのにー! 何故こういう事件が起きたのかわかんなくって……それでもう、パソコンで日記を見たときは、もう涙が止まらなくって、なんかちょうくやしくって、その晩徹夜しました。泣きながら……。
―― そのとき、アニメの放映をやめちゃおうっていう考え方についてはどう思った?
はるかぜちゃん ホントやめないでほしいです。何故かというと、竜騎士さんがちゃんと「ダメだ」っていうことを言いたいのに、反対に受け取ってしまう人は、「ちゃんと」見てないからだと思います。それに、パラッと見たりチラッと読んだりするだけで、「これは子供に見せちゃいけない」とか「これは残酷な話だから、中止にしよう」とかって言えないはずです。そういう人はちゃんと見てないだけで、ちゃんと見れば何故こういうことになったのかっていうのもわかってもらえると思うので、打ち切りになったっていうのが……もうもうもうもう!!
竜騎士07 悔しいですね。まるで、私の作品のせいで事件が起きてしまったって断定されたようで……。
はるかぜちゃん けど、時代劇とかだって、両親殺したり。
―― そうそう! ホントそうなんだよ!!!
竜騎士07 ドラマでは人を殺しても許されるのに何故アニメではいけないのか。
―― 北陸の方で「前日に時代劇を観て、犯行を決心しました」って殺人の動機を自供している少年がいるんですよ。それでも時代劇は毎週流れる。しかし一方、『ひぐらしのなく頃に』は打ち切りだって言われる。
はるかぜちゃん アニメだと「子供が観るから」とか言って、やめさせられちゃうんですよ。時代劇とかドラマには言わないのに、使ったものとかが似ているからといって、アニメだけ打ち切りにされるのは、なんか変だと思います。
竜騎士07 うーん……なんでアニメだけ、こんな差別的な表現を受けるのかって話……。あれ、なんだかとてもホットなネタに踏み込んできたような……(笑)。
―― しかし、なんでそうなっちゃうんでしょうね。
竜騎士07 「子供が観るから」「子供に悪影響を与えるから」っていうのが、大義名分としていつも出てくるんですよね。逆に私は、25時台、26時台に子供にテレビを観せる家庭環境があるなら、そのあたりにも問題があるのではないかと思います。『ひぐらし』はそんな時間にやってましたからね。
はるかぜちゃん 子供の代表として言わせてもらうんですけど、子供はそんなに馬鹿じゃないです! 大人たちは、「こういうものを見せたら悪影響を与える」とかいうけど、子供だってちゃんと理解してるし、「どうしてそうなったのか」とか、「こうすればよかった」とか、自然に学んでいくと思うんですよ。というか、自分の子供がそんなに信じられないなら見せなきゃいいし、信じられるんなら見せて、「こういうことはしちゃダメ」って注意深く言ったらいいんじゃないかと思うんですけど……。
―― テレビ局が判断することじゃないのかもしれないですよね。親御さんとか、子供が一人一人判断すればいいことで。もしかしたら本当に『ひぐらしのなく頃に』で人を殺してる人がいるかもしれないけど、そう思う人は、観なければいいと僕は思うのね。
はるかぜちゃん 観なければいいと思うし、子供に見せちゃいけないって自分勝手に思っていればいいと思う。
竜騎士07 (目頭を押さえながら)なんだか泣きたいくらい嬉しいです……。こんな素晴らしい読者に出会えて、何より彼女は10歳という若さですから……。こんな素晴らしい世代の読者が、これからどんどんやってくるんだってことが嬉しい。次は私なんかじゃなくて、もっと素晴らしい小説家の方と対談した方がいいんじゃないですか?
―― いや、最初の1人はやっぱり竜騎士さんしかいないですよ。
竜騎士07 これからはるかぜちゃんも、いろんな物書きの方とお会いすることになりそうですけど、たぶん物書きの方はみんな私と同じ感動をするんじゃないでしょうか。とくに、ある種物書きに一度疲れてしまった先生なんかは、はるかぜちゃんに会ったらきっとまた、筆を執る力を取り戻すのではないでしょうか。
―― 竜騎士さんはどうですか?
竜騎士07 私は、すごく勇気をもらいました。『うみねこ』を書き終えた後、少し燃え尽きて疲れていたんで。実はさっきはるかぜちゃんにプレゼントとしてPC版の『うみねこのなく頃に』も入れたんですけど、ぜひはるかぜちゃんにプレイしてほしいと思った。はるかぜちゃんならあの物語の本質を理解してくれるんじゃないかと思う。『ひぐらしのなく頃に』は「正解率1%」っていうのがキャッチコピーなんですけど、『うみねこのなく頃に』のキャッチコピーは、「愛がなければ視えない」というものなんですよ。はるかぜちゃんもこれから思春期を迎えて、恋愛とかにも関心が出てくると思うんですけど、そんな中で『うみねこのなく頃に』を読んで、もし理解してもらえたなら、私はすごく嬉しいです。
はるかぜちゃん はい!!
竜騎士07 ……良き読者に出会えて、それがこれからやってくる若い世代の人だっていうのは、これ物書きにとっては望外の喜びですね。
大切なのは「学ぶ姿勢」
はるかぜママ うち、実は『×××』禁止なんです。
―― 『×××』禁止? なんでなんですか、それは!
はるかぜママ 殺人の動機が浅いから。
一同 あぁーっ!!!
竜騎士07 ごめんなさい、私『うみねこのなく頃に』で大々的にホワイダニットをないがしろにするなんてことをやっちゃってます……。
―― それはお母さんが禁止されてるんですか?
はるかぜママ そうですね、うちの規制は、よそのおうちの規制とはまた違うんです。殺人ものの2時間ドラマや『×××』なんかは禁止なんです。理由がちゃんと書かれてないものは、見せたくないんです。だから、『ひぐらし』はオッケーなんです。
竜騎士07 (涙声で)ありがとうございます!
はるかぜママ 謎解きのために余計に人を殺してるのとかは……ちょっと。
―― 『ひぐらし』ではそれはないですね。
竜騎士07 祟殺し編において、圭一が金属バットで沙都子のおじさんを殴り殺すという場面を書いたときには、殺人に至るまでの衝動が若さと情熱であっという間だったことと、意外と殺した後の死体処理を長く長く長く長く……書いたんですよ。それはもう端的に、人間殺そうとすれば一瞬で殺せる、でも殺した後の現実は拭いきれず、長く長く残るんだよっていうのを、泥臭く書きたかったんですよ。どうも、私たちの世界にある漫画って、決定的な瞬間でいつもページが終わっちゃうんですよね。何かにつけて、悪党をやっつけて終わりになってしまう。殺す殺す殺す殺す……って言葉が、やたら安っぽく氾濫しているんだけど、殺した後具体的にどんなことが起きるのってことが書いてない。それを泥臭く書くことによって、人を殺すってことは簡単に安っぽく決断出来るけど、殺しちゃったら何も取り返しはつかないんだよ、っていうことをしっかり書きたかったんですよ。私たちは、やるのは簡単だけど、やったら取り返しのつかないことになるっていうのを、想像しなければならない。でも、それを教えてくれないんですよ、最近のフィクションはね。だからそういうことをあえて泥臭く書いたのが『ひぐらし』っていう作品なんですよ。
はるかぜちゃん なんかそういうことを教えちゃうと、また子供に悪影響を与えるとか、そういう言葉を覚えちゃって、それで好奇心でわざと自分からやっちゃうかもしれないっていう過剰な心配をしている人たちがいるんですけど、それはきちんと教えたほうがいいと思う。
竜騎士07 そうですね。そう、誰の言葉だったか「子供が仮に漫画と同じ方法で人を殺したとしても、それは方法を学んだに過ぎず、仮にその漫画を読まなかったら、他の手段で殺人を遂行しただろう」っていうんですよ。だから大事なのは、方法を教えたか教えてないかじゃないんですね。その方法を遂行してはいけないということを教えるのが一番大事なはずなんですよ。だいたい、細かく言い始めたら『桃太郎』とかだって教育に悪いですよ。「鬼やっつけていいのかよ」って話になる。桃太郎は財宝の所有権が誰にあるのか確認しないまま、略奪に行ったんですよ(笑)!
はるかぜちゃん ふふふふ(笑)。
竜騎士07 しかも鬼は事実上、ずっと財宝を所有してたわけで、もしかしたら鬼に所有権が移っちゃってるかもしれない……!
―― そう、50年くらいあれば……(笑)。
竜騎士07 世の中悪いように見れば、どんなことも悪く見える。逆に、ちゃんとものから読み取ろうというような目で見れば、どんなものでも教訓は得られるんですよ。はるかぜちゃんのような目線がある限り、どんな番組があったとしたって観る観ないは自分で決めればいい。仮にちょっと悪い番組があったとしても、この番組でやっていることを真似しないようにしようと思えば、それは立派な勉強になる。学ぶ姿勢さえあれば、どんなものでも学べるんですよ。
後期クィーン問題!
はるかぜちゃん さっきの『×××』の話の続きなんですけど、主人公の○○○って探偵で、謎を解くのが好きじゃないですか。その○○○が「今度はどんな事件かなぁ」って楽しみにしてるっていうシーンがあるんです!!!
竜騎士07 ……それは(笑)。
はるかぜちゃん それはなぁ……と思って。なんか、ちょうウキウキしてるんですよ(ω)
竜騎士07 「今度はどんな事件かなぁ」ってつまり、「今度は誰が死ぬのかな」ってことだもんね(笑)。
はるかぜちゃん ……そっちのほうが教育に良くないと思う!
竜騎士07 それはね、エラリー・クィーンという偉い作家の先生が、ずっと疑問にしてて「探偵がいるから事件が起こるのではないか?」「探偵に罪はないのか?」という議論があるんですよ。探偵が来ることを計算の上で、犯人が事件を仕組んでいる場合もある。そういうふうに、探偵が来ることを織り込み済みで犯行を起こす犯人がいると、それはもう、探偵が事件を起こしているのと同じでしょう。
はるかぜちゃん 同じですねー。
―― 10歳で後期クィーン問題にぶちあたるとは……はるかぜちゃん、熱すぎる……。
竜騎士07 探偵がいたから事件が起こった。実はこの議論は大昔からけっこうされていて、はるかぜちゃんのその議論は正しいと思います。だから探偵は軽々しく「僕は探偵です」って言うべきではないし、迂闊に温泉旅館に行かないほうがいい。
一同 (笑)。
竜騎士07 だから私は『うみねこのなく頃に』を書いたときに、そういう探偵を皮肉ったシーンを入れたんです。「探偵は人の生き死になんかは知ったこっちゃない。ただ我々は事件だけわかればいい」――ちょっと悪役の探偵がそんなことを言うシーンがあるんです。『うみねこのなく頃に』っていう作品は、よりミステリー的になってるんですよ。密室殺人なんかも出てくるんですけど、大事なのは密室殺人のトリックじゃなくて――いや勿論トリックもあるんですけど、「なんで犯人はこんなに酷い事件を起こしている?」という動機を一番のテーマにしたミステリーなんですよ。
―― いや、深いなぁ!
竜騎士07 深いですよ! 私は10歳のとき、こんな深いこと考えてなかったなー。私が小学4年生のころといったらゲームウォッチ全盛期なんで、「いやぁ、ソーラー電池で動くゲームウォッチ凄いよねー。電池切れないんだぜ!」なんて言ってる時代ですよ!
―― 僕もそんな感じでしたね。
竜騎士07 いや、はるかぜちゃんは素晴らしい! いっぱい勉強して、素敵な大人になってくださいね。絶対なれますよ! そのまま一生懸命勉強して大人になったらきっと、さっき言っていた、素晴らしい女優さんになれますよ。私ははるかぜちゃんの将来を応援してますんで。頑張って勉強してください!
はるかぜちゃん はいーっ! ありがとうございます! にょほう(ω)
竜騎士07、コスプレ疑惑?
はるかぜちゃん 最後に、すっごい楽しい質問が残ってるんですけど……。
竜騎士07 はい!
はるかぜちゃん あの、竜騎士さんはメイド服を着たことがあるのですか!?
竜騎士07 え、私ですか? 私はさすがに……ないですよ(笑)。
はるかぜちゃん ウフフ、ほんとうですか? にやり(ω)
竜騎士07 作中に圭一がリアルなコスプレをしたシーンがありますけど、あれはすべて作家の想像力で書いてますからね。決して等身大フィギュアに着せたことがあるから、そういう服装に詳しいなんてことは、全くありませんからね(笑)! いやでも、それ(はるかぜちゃんのメイド服)すっごく似合ってますよ。すっごくかわいらしいと思います。
はるかぜちゃん ありがとうございますっ。
竜騎士07 やっぱり、女の子を羨ましいと思うところは、服を楽しむ幅が広いってとこですね。私は、服とか全然気にしないたちなんで。私の7歳の頃なんて、半ズボンに、鼻水を拭いたような袖でね……。
はるかぜちゃん 実は今日、「罰ゲーム」用に竜騎士さんの分の猫耳を持ってきちゃいましたん(ω)
竜騎士07 え、私がつけるんですか?
はるかぜちゃん (白と黒の猫耳を取り出して)お願いしますっ!
竜騎士07 じゃあ、私はその黒い方を……(笑)。
はるかぜちゃん はい!
竜騎士07 折れちゃわないかな? 柔らかいのか……逆なのか?
(と猫耳を装着)
一同 (大爆笑)。
竜騎士07 やだな、これどういう絵なの……。
―― 写真撮ってもいいですか?(笑)。
竜騎士07 こんなカチューシャしたの、生まれて初めてです。あんなに酷い罰ゲーム書いてるわりには実体験はしてないんで(笑)!
―― これでもう、次に罰ゲームを書くときには完璧ですよ!
カメラマン ではこっち目線くださーい。
対談を終えて
竜騎士07 はるかぜちゃんは、こんなかわいらしい10歳で、しかも中身が素晴らしい、こんなに物事を深く考えてるとは思わなかった! 今日は勉強することが沢山あって、「子供は馬鹿じゃない!」っていうのは、他でもない私に言われたような言葉ですね。今までも侮ってたわけじゃないんだけど、一層侮らないで考えて書くようにします。私の作品には『ひぐらし』の梨花と沙都子のように、大人を騙すような子供たちが出てくるのですけれど(笑)。
はるかぜちゃん フフフ。
竜騎士07 「子供は馬鹿じゃない!」。全くその通りだと思います! 私は、今日でその認識を大きく改めようと思う。しかもそれが、どうもはるかぜちゃんは10歳の今だからじゃなくて、下手するとそれが小学校1年生の時からそうだったみたいです。本当にすごいなー!
―― すごいですね。竜騎士さん、はるかぜちゃん、今日は本当に素晴らしい対談になりました。ありがとうございます!
竜騎士07 こちらこそありがとうございます。お会いできて嬉しかったですよ。
はるかぜちゃん ありがとうございましたっ!
一同 (拍手)
―― じゃあ、最後に一言ずつメッセージをいただいて締めましょう、動画で。
竜騎士07 えっ、動画?!
はるかぜちゃん ど・う・が! あぁあうあう!