編集部ブログ作品

2017年12月11日 21:06

sleep with me

 日めくりカレンダーの紙をあと一枚めくると、なにも起こらない時代がやってくる。アポロ11号は月に到着せず、大統領は銃弾に倒れない。

 

 なにかを始めてみたところで、日めくりカレンダー一枚で、なにも起きなかった瞬間に戻ってしまう。世界はくりかえし、くりかえし、ただ回る時計の針のよう。

 教会の扉の前に横たわった、衣服と手首を切り裂かれた不幸な彼女も、生き返ってはまた元通り。死んで、死んで、死んでゆく。愛を交わしたあの夜も、言葉を交わしたあの朝も、繰り返しては、ただ時刻を告げる時計の小鳥のよう。

 Srrangeblue  strangedays  夜が降りると

 Srrangeblue  strangedays  おなじ月が満ちる

 Srrangeblue  strangedays  世界はシャボンの泡みたい

 汚れは落ちるけれど、素肌にはなんの痕跡も残さない。

 死なないために、と今日も君は死んでゆく。殺さないようにと、今日も君は殺してゆく。死なないように、殺さないように。世界中でそんな戯れ言がツイートされてゆく。ネットは炎上。でもスイッチを消せばなにもみえない。

「水は誰からも傷つけられないよ」

 死んだ君はいう。

「銃弾を撃ち込んでも、珊瑚の隙間を魚は泳ぐ」

 笑う君はコットンキャンディ。雨の粒でとけてしまう。

「だから、私も君もいつかきっと遠くにいける」

 君の言葉が胸に響く。遠い声。遙かな夢。朝からの微熱で僕は甘いインセストの禁忌を犯す。死んだ君を、月の影で。

 夏の緑の草をナイフで切り裂いて、僕は荒れ地を歩いて行く。死んだ君を腕に抱えて。草が刃のように皮膚を破るけれど、君に僕の傷はみえない。

 日めくりカレンダーの日付を一枚もとに戻しても、なにかが始まる訳じゃない。

 ベトナムに消えた兵士がイラクで蘇ることもない。僕は死んだ君に砂をかける。安らかな眠りが君に訪れますように。

 Srrangeblue  strangedays  夜が降りると

 Srrangeblue  strangedays  同じ月が満ちる

 Srrangeblue  strangedays  君を愛していたのに

 Srrangeblue  strangedays  どうして殺してしまったんだろう

 Srrangeblue  strangedays  君の死体がとても

 Srrangeblue  strangedays  綺麗だったからなんて

 Srrangeblue  strangedays  いい訳しても許してくれないよね

 このまま僕は日めくりカレンダーをめくって、誰かが僕を糾弾しにくるのを待っている。

 でもきっとなにも変わらない。

 だって君がもうこの世界にいないのだから。

 君を僕だけのものにしたかったからだけど、それは罪と呼ばれることはしっていた。だから僕は罰を受けるために、生きてゆく。

 僕だけが、生きてゆく。

 君を抱いたまま、僕だけが。