編集部ブログ太田克史のセカイ雑話

2014年3月 7日 14:25

『画展 空の境界』開催に向けて

星海社はこの3/20から『画展 空の境界』を中野のpixiv Zingaroにて開催いたします。『空の境界』のその誕生の原点からビジュアル面を担い続けてきた武内崇の全画業の中から、選りすぐりの作品を全19点展示いたします。皆様のご来廊を心からお待ち申し上げております。


さて、この度の画展では予てからお知らせしていたとおり、複製画の販売を企画いたしております。こうした複製画の販売は一部の業者による問題にあふれた販売方法のため、必ずしもイメージの良いものではありませんが、今回、星海社は良貨が悪貨を駆逐すると信じて、これに挑戦したいと思います。

 

まず、今までの複製画の販売方法にはどのような問題があったのか? 私見ですが、この場を借りていくつかの点を指摘してみたいと思います。

 

最初に、これは世間に広く知られた悪名の高い問題行為ですが、絵の販売に関して路上から会場に向けての強引な客引き行為がある点。また、販売会場においての過剰な接客行為のある点。これらの重大な問題行為は、星海社の複製画の販売ではもちろん一切行いません。

 

次に、彼らの主張する「限定」数はまっとうな美術商が取り扱う版画や写真作品の指し示す「限定」数とはかけ離れたものである点。(そもそも、世間に広く流通してしまっている「複製原画」とは実に奇妙な言葉で、複製してしまえばそれは原画ではありません。ですので、星海社では正しく「複製画」という言葉を使用したいと思います)

一般に、美術の世界においてはそれら「複製画」を「作品」のレベルに昇華するために数量の「限定」を謳いますが、その数は通常では5〜50部。どんなに多くても100部以下です。それ以上の数の場合は美術の世界においては「限定」だとは認められません。

一部の業者は(これは論外ですが)複製画の「限定」をそもそも行わない場合が多く見受けられます。また、作家の直筆サインもその多くの場合には入っていません。それらの商品は、美術の観点から見れば端的に言って、たんなるポスター以上の存在ではありません。それらはほとんど無価値なものなのです。また、一見して50部以下の適正な「限定」数を謳っている場合にもそこには悪質なトリックが往々にして存在していて、たとえば版画作品の場合では印刷の刷りを一版増やすことによって同じ絵柄を「これは別物」として新たに「限定」数を増設していたり、また印刷作品の場合、インクの色数を増やしたり印刷の方式を変えたり絵の出力サイズを変更することで同じ絵柄を「これは別物」として新たに「限定」数を増設していたりする事例が多々見受けられます。これらの問題行為を容認すれば、実際には「限定」などあってなきが如くの代物になってしまい、業者は無限に複製品を(高額な価格で)ばらまくことができてしまいます。(これらの問題の横行に関しては、個人的には、作家側の不勉強につけこむ悪質な業者はもとより、あまりにも不勉強な作家側にも一定以上の問題があるのではと感じています)

星海社は、これらの不適切な行為も一切行いません。50部以下の適正な限定数をできるかぎり守り、美術品の基準に則って、作家の直筆サインによって作品すべてに限定数を示すエディションナンバーを明記いたします。同一の絵柄の作品の新たな刷り増しは、作家の同意のもと、決して行いません。作家の同意がある場合も、それがセカンドエディション以降のものである旨を必ず明記いたします。

 

また、星海社が販売する複製画は、凸版印刷が誇る最新の印刷技術「プリマグラフィ」にて提供いたします。額装も専門の業者に委託し、作品ごとの世界観に沿った適切な額装を行います。これらのクオリティのチェックに関しては、作家自身の目による(今回の画展の場合に関しては武内崇自身)入念なチェックを行っております。

 

そういった観点に立って決定した、それぞれの作品の価格については以下のとおりです。

 

武内崇直筆サイン入り限定額装プリマグラフィ
(※クリックで大きく表示されます) 

 

プリマグラフィ・パネル
(※クリックで大きく表示されます)

 

 

これらの価格は作品のサイズと額装の有無、限定部数から導いた価格となっております。どれもたいへんに高価なものではありますが、適正なものであると確信いたしております。また、額装と限定数のないプリマグラフィ・パネルに関しては、できる限り安価に提供できるように配慮いたしました。これらのプリマグラフィ・パネルの印刷のクオリティに関してはサインと額装が入った限定のものと同一のクオリティとなっております。

 

さて、美術の世界においては、画廊を通じて作家が作品を販売する際につける一次的な価格をプライマリーマーケット価格と呼び、コレクター間での二次的な取り引きの際につく価格をセカンダリーマーケット価格と呼びます。

一般に、セカンダリーマーケット価格がつかない作家のプライマリーマーケット価格は低下していきます。逆に、セカンダリーマーケット価格が高騰する作家のプライマリーマーケット価格は上昇していきます。

 

今回の武内崇という作家の初個展のプライマリーマーケット価格として、星海社は先に掲げた価格が適正であると判断していますが、今後自然に形成されていくであろうセカンダリーマーケット価格の推移によっては、次回以降の武内崇による個展の開催が開かれる場合、その会場で販売される作品の価格には今回のプライマリーマーケット価格と比べて明確な上下動があることでしょう。

 

前述したような一部の不適切な業者が手がけた、作品というには名ばかりのお粗末な商品が、オークションや古物商で二束三文の値段で投げ売りになっているのにはそれなりの理由があるわけですが、我々の今回の判断が正しければ、『画展 空の境界』の作品群には何らかのプラスのプレミアムが生まれ、次回以降の武内崇作品のプライマリーマーケット価格にもプラスの影響を与えるはずです。そしてそれは作品の、作家の価値を高めることにもつながっていくと考えております。

そういった意味では、絵を販売するということは、絵を評価してご購入していただく皆さんと一緒に作家の価値を新たにつくっていく仕事でもあると思います。新しい時代をつくる、未来の出版社を標榜する星海社としては、それはきわめてやりがいのある仕事であると感じています。

 

このように、今回の『画展 空の境界』においては、美術品の世界の基準に基づいて展示作品の製作を行いました。また、これは悪質な転売防止のために考えたアイデアですが、当日は『空の境界』にまつわる5択のクイズを5問中4問以上正解した方に限って販売させていただきたく存じます。難易度は、『空の境界』のファンであるならば全問正解できるレベルの問題です。

そして、限定数のある作品(武内崇直筆サイン入り額装プリマグラフィ)の購入数は、一人一限までとさせていただきます。これは今回の画展にお越しいただいたなるべく多くの方に作品をご購入いただきたいと考えるからです。また、混雑に応じて、会場への入場制限も適宜行わせていただきたく存じます。

 

今回の『画展 空の境界』は、以上のように美術の製作販売基準と、おたくの製作販売基準とを掛け合わせたハイブリッドな催しとなっておりますが、これもいかにも星海社らしいのではと考えております。ご理解をいただけた武内さんには深く感謝いたしております。

 

このように、今回の画展は星海社らしく、新しい挑戦ばかりの画展となっておりますが、皆さまのご来廊を重ねて楽しみにいたしております。至らぬところもあるかとは存じますが、pixiv Zingaroさんと力を合わせて成功へと導いていきたいと思います。皆さまどうかよろしくお願い申し上げます。

 

星海社 太田克史