編集部ブログ朝の最前線
おはようございます。櫻井です。
誰にでも、いくつかお気に入りや、宝物のような本があると思います。
私の本棚にあるお気に入りの1冊をご紹介します。
2013年に国立新美術館でみた「貴婦人と一角獣展」の図録です!
「貴婦人と一角獣展」は、フランス国立クリュニー中世美術館所蔵の
《貴婦人と一角獣》と題される6枚の連作タピスリーが、
メトロポリタン美術館を除いて、初めて国外に貸し出された展覧会でした。
クリュニー中世美術館が改装工事のため閉館する期間に、
奇跡的に実現した国外巡回展です。
赤地に貴婦人と一角獣、そして千花文様(ミルフルール)と
たくさんの動物がきっしり刺繍された超豪華タピスリー。
15世紀末に、おそらくフランドルで織られたものと考えられています。
6枚のうち5枚は「触覚」「味覚」「嗅覚」「聴覚」「視覚」と
人間の五感を表わしているのですが、
残る1枚には「我が唯一の望み À mon seul désir」という文言が入っていて、
これがなにを表しているのかは、解釈がわかれています。
このような謎めいた魅力もあるからか、このタピスリーは、
後世のいろいろな作品にモチーフとして使われていることでも有名です。
「機動戦士ガンダムUC」にもちらっと出てきています。
私が展覧会でみていちばん感心したのは、
中世に作られたこのタピスリーの品質についてでした。
というのも、ネットで写真をみてもわかると思うのですが、
これらのタピスリーは、下部数十cmの赤色が褪せて変色しているんです。
そこだけ水に浸かったり、日に焼けたりして劣化してしまったのかな、
と思ったのですが、実はそうではないんですね。
オリジナルのその部分が劣化していたのは確かなのですが、
現在、色褪せてしまっている部分は、それを19世紀の後半に修復した跡だというのです。
つまり、15世紀末に染色されたオリジナルの染料よりも、
それを再現しようとした19世紀の染料のほうが先に退色してしまったということです。
なんということでしょう......。
中世にはもちろん化学染料はありませんので、
赤だったら、西洋茜、ブラジルウッド、カイガラ虫など
自然から採れる染料を使っていたと思われます。
このような染料は、大量の材料からわずかな量しか採れないため高級品でした。
そして19世紀後半の時点で、15世紀末の技術を再現できなくなっていたわけです。
《貴婦人と一角獣》は、莫大な資金と時間、後世に劣らぬ高い技術の結晶であるために、
中世美術の至宝として現代まで残っているのですね。
将来フランスに行く機会があったら、絶対にクリュニー中世美術館で
またこの連作タピスリーをみたいと思います。