編集部ブログ昼の最前線
2016年1月初旬。福島に行ってきました。目的はこちら。
「寺田克也ココ12年展」は、2013年に京都国際マンガミュージアムにて開催された「寺田克也ココ10年展」に続いての開催。その名の通り、寺田克也さんの「ココ12年」分の作品を集めた展示です。
会場は、「空想とアートのミュージアム 福島さくら遊学舎」。福島ガイナックスが運営するミュージアムです。学校校舎を改築した当館は、作りも設備も学校時代のものを受け継いでおり、とても懐かしい趣。
さて、寺田克也さん。
もう説明するのもおこがましいですが、「多彩」という言葉には収まらないほど、数多の作品を世に送り出し続けている漫画家、イラストレーター。『バーチャファイター』シリーズや『BUSIN』のゲームキャラクターデザイン、『ヤッターマン』メカニックデザイン、伊坂幸太郎さんの小説『ガソリン生活』挿絵……等々、多くの方がどこかで必ず目にしている寺田さんの絵。
僕は寺田さんの絵を、父親の愛読書『キマイラ』(著者/夢枕獏)カバーイラストではじめて知り、鳥肌が立ったことを覚えています(ほんとに)。『キマイラ』のイラストといえば天野喜孝さんですが、僕のなかでは寺田克也さんです。『キマイラ』カバーイラストを見たとき、「絵が上手すぎる、この人、なんなんだ。」、と。
それ以来、寺田さんの絵にめっきりハマってしまい、画集やらなにやらをいくつも買い漁りました。
ここ最近は海外での個展が多く、行ける機会を探していたところに、今回の画展。さらに、トーク&デジタルライブドローイングイベントなるものがあると。
実際にお会いしたことは無く、かねてから「筆が早く、多作、そしてあのクオリティ」というお話を聞いており、速攻で福島行き新幹線切符を購入。
さて、画展当日。
まずは、現地でいきなり物欲を刺激されます。
寺田克也イラストラベル付き日本酒「三春駒」! 銀メッキ調にあしらわれた寺田さんのイラストが、そりゃもう格好良くて。もちろん迷わず購入。
それと、販売されたばかりの寺田克也クロッキー帳。とある親しい書店員さんに「寺田さんファンなら買え!(口調、盛ってます)」と言われていたので、こちらも即購入。
「寺田克也ココ12年展」限定「新純米吟醸酒 三春駒」
『CROQUIS maruman SQ』(maruman)
寺田さんの絵で特徴的な点に「メカと人の融合」があると思いますが、どうやったらこういうアイディアが出てくるのか、といつも思います。こんなイメージが浮かんでくることも驚愕ですし、それを絵として表現する寺田さんの頭の中っていったい……。
さて、画展本編です。見所はなんといっても、全展示「屏風絵」であること。
絵の選定や、大きさ、配置などをどのように決めているのか、なんてことを考えながらじっくり鑑賞。撮影できる絵が限られていたことが少し残念でしたが、多数の屏風絵展示は迫力十分で、確実に記憶に残りました。
会場入り口の屏風絵。
会場に入るとすぐに出現する竜の屏風絵。
幅広の絵を何枚かに分けて展示している絵が多かった。
個人的には、メビウスの追悼イラストが展示されていたことに感激。『euromanga(ユーロマンガ)vol、7』(飛鳥新社)の掲載ではじめて見たこの絵がほんとに大好きで、これを大きな屏風絵で見られるとは思ってもいませんでした。
『euromanga(ユーロマンガ)vol、7』(飛鳥新社)追悼メビウス特集号
寺田さんの多彩さを表すように、代表作はもちろん、マーベルヒーローや映画『パシフィック・リム』のイラスト、サカナクションのメインボーカル・山口一郎氏のポートレートなど、寺田さんを今回はじめて知る人も存分に楽しめる展示という印象でした。
ここまでですでにかなりの満足度でしたが、いよいよトーク&デジタルライブドローイングイベントへ。
トーク&デジタルライブドローイングイベント整理券、無事入手。
そして、トークのお相手が『トライガン』『血界戦線』の内藤泰弘さんということを当日知りました!
なんとなく得した気分。
100名くらいの会場は、立ち見も含めて満員。
そして寺田克也さん、内藤泰弘さんとともにひょこひょこと登場。
最低限の挨拶を済ませたあと、なんとなく雑談しながら手元のiPadを操作開始。さながら自分の部屋のなかで、内藤さんと雑談しながら進めていくその様子は「物腰柔らかな、気のいいおっちゃん」。しかも「最近、どう?」みたいな話をしながら、ペンではなく指で描いているではないですか! これには驚きました。あの絵を指で……。
しかし、寺田さん、ほんとにずぅーっとしゃべりながら描いてました。お話は脱線しまくりで。これも本人曰く「黙ると描けない。しゃべっていると描ける。だから、だれか人を呼んで、酒とか飲ませてずっとそばにいてもらう。」らしいです。その呼ばれる人が内藤さんだったりするそうで(笑)
さて、寺田さんがお話ししていたなかで、印象深かったことがこんな内容です。
●「描いた線を否定する」意識を持っている。完璧に仕上げようとするのではなく、不完全さを残してもよいという意識で、描いては消し、また描く。
●映画監督ギレルモ・デル・トロとの交流録(デル・トロの話が出るとほんとに話が逸れまくっていた)。
●ハリウッドの徹底した分業体制について。若いクリエーターの平均スキルは上がっており、一定のクオリティは常に担保できるようになったが、その人にしかできない固有のなにかが出てくるとさらに素晴らしい。例えば「ギーガーのエイリアン」のような個性。
●フランス人イラストレーターのメビウスが出てきた時の衝撃。いままでに見たことのない「線」が出てきた、という感覚。日本で同様の衝撃は、大友克洋氏の出現。
●絵描きはアスリート。例えば葛飾北斎は体が大きく、フィジカルが強かったため高齢まで描き続けられた、という説に納得感がある。
どれも興味深い内容ばかりでした。繰り返しますが、これらのお話のあいだ、指が止まることはなかったのです。ほんとにすごい。
そして旧知の仲である造形作家・竹谷隆之さんのお話も多く出ていました。僕は『ファイナルファンタジー』シリーズのフィギュアで竹谷さんを知り、竹谷さんや寺田さんの周辺から世界的に活躍する気鋭の若手3DCGアーティスト・田島光二さんを知るなど、この方々がそれぞれに繋がって、リスペクトしあっているという点が非常に興味深いです。そう、寺田さんと竹谷さんの学生時代の出会いのエピソードは面白かった。まさに才能同士が出会う瞬間、というドラマのようなエピソード。
こうして、約3時間の末、絵が完成。
こちらは途中経過。ディテールに終始釘付け。
そして、完成……!!
これ、指で描いてます(しつこい)。すげぇよ寺田先生!
ちなみにこの絵に翌日のイベントで彩色していました。これも参加したかった……(しかもゲストが桂正和さん!)。
最後にしっかりサインも頂き、わずかですがお話もさせて頂き、感無量。
学びが多かったこのイベント。ぎゅっと自分の力に変えて、なにかの企画で具体化します。
みなさん、現在進行形のイラストレーター寺田克也さんに、ぜひご注目を。
それでは。