編集部ブログ昼の最前線

2025年7月31日 13:57

描きたい人を解き放つ。むんこ『夫の遺言が「同人誌描け」だったもので』星海社コミックス第2巻発売記念トークイベントレポート

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4コマ漫画を描き続けて、商業デビューして20年になるむんこさん。その原点には同人誌があるといいます。現在、ツイ4で連載中の『夫の遺言が「同人誌描け」だったもので』は、タイトル通り同人誌をテーマにした作品です。

漫画を描くこと、イベントに出ること、自主制作漫画誌展示即売会「コミティア」の存在。
単行本第2巻の発売を記念してブックファースト新宿店にて行われたトークイベントにて、むんこさんがたっぷり語ってくださいました。しかも、コミティア実行委員会会長の中村公彦さんも客席に!
イベントの一部始終を、漫画の担当編集の栗田がお届けします。

<むんこプロフィール>
漫画家。著作は『らいか・デイズ』『だって愛してる』『花丸町の花むすび』『春と秋について』など。商業デビュー後も同人誌を描いている。

ホワイトボード.JPEG

栗田:
皆様、本日はご来場いただきまして誠にありがとうございます。
今回の『夫の遺言が「同人誌描け」だったもので』の編集を担当しております、星海社の栗田と申します。よろしくお願いいたします。
それでは早速、むんこさんをお呼びしたいと思います。むんこさん、どうぞ。

むんこ:
拍手をいただきまして、ありがとうございます。拍手って、やめどきがわかんなくなりますよね、もう大丈夫ですよ。ありがとうございます。

栗田:
むんこさん、緊張されてますか。

むんこ:
多少。でも今日は前回と違って配信がないから大丈夫です。でっかい声で話せばいい!

栗田:
でっかい声で話しましょう!

イベント様子.JPG

オリジナルの同人誌を描く、という2巻の方向性が決まるまで


栗田:

では早速、刊行したばかりの『夫の遺言が「同人誌描け」だったもので』2巻について、お話しをお聞きしていきます。

むんこ:
Twitter(現X)のツイ4ってアカウントで連載してますけど、まだ読んでない方っていらっしゃいますか。いますよね。すごいネタバレを矢のように食らうと思うんで、覚悟してください。申し訳ありませんけど、そんな楽しみ方もございますので。

栗田:
1巻では、主人公の弥子さんが夫の遺言で二次創作の同人誌をつくって、イベントに出るところまでが描かれました。これは読み切りをつくったときからほぼ決まっていたんですよね。ここまでをゴールに1巻をやろうって。

むんこ:
そうですね。っていうか、そもそも読み切り、つまり単行本の第1話をつくるのが、ものすっごい大変だったんです! ああいうふうに振ったらねえ、同人誌つくって出すまでがワンセットでしょうよっていう話だから。計画的にというより、自然な流れでしたね。

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栗田:
そうですね。「2巻はどうする?」っていうのを、1巻のラストのネームを描いてもらってるときから相談をしていて。

むんこ:
そこで自分の経験がベースになって。あたしも、二次創作の同人誌から入って、「じゃあ、そろそろいってみる?」みたいな感じで、オリジナルにいったんですよね。もうすべては、曙はる氏のお導きで。

栗田:
高校生のとき、漫研でむんこさんは副部長、部長が曙はるさんだったんですよね。のちに商業で活躍されるおふたりですが、高校卒業後も同人誌をつくられていて。曙はるさんもむんこさんも、二次創作とオリジナル、両方の同人誌を描いていたんですよね。
やっぱり同人誌って二次創作とオリジナルどちらもあるから、この作品でも両方やりたいですねっていう話になったのを覚えています。

むんこ:
そう。ただ、弥子さんが二次創作の同人誌には熱い思いがあったわけだけど、オリジナルを描くきっかけがなかなかね。いきなり「じゃあわたし、オリジナル描くわ」ってなるかっていうと、違うでしょう。そこでニイムラさん(文具屋のおじいちゃん)が使えるわけで。わたしの漫画は、みんな花丸町が舞台で、どの作品もつながっているんです。カメオ出演も多いから、使えるものはなんでも使え! ってことで。

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栗田:
むんこさんの作品は、『らいか・デイズ』も『だって愛してる』も『ファニーランドの鬼ババア』も、すべてつながっているんですよね。

むんこ:
ニイムラさんはオリジナルで同人活動をしてる設定がすでにあたしの他作品であって。自分の中である程度キャラクターが固まってると、すごくやりやすいんですよね。「この人こういう人だから」っていう前提があって描き進められるので。なので、ニイムラさんに誘われて、弥子さんもオリジナルを描くことになりました。

栗田:
自然な流れになりました。

むんこ:
理由の後付けが得意なんです(笑)。ニイムラさんの相方が他界したとか、そういうエピソードを描いたんですけど、ああいうのも、さもはじめから考えていたかのように。ニイムラさんサイドのエピソードを、描かないとちょっと不自然かなと思って。

栗田:
あとですね、1巻で登場した女子高生の香ちゃん。「あの子、いいキャラだからもっと出そう」となって、2巻も結構おいしいところで出てきて、今後、3巻でもかなり活躍する予定です。

むんこ:
いっぱい出てきますね。あたしはどうしても「縦の関係」が描きたくなるんです。年齢的に上と下をつなげたくて。恋愛だろうが友情だろうが何だろうが、なんでもジェネレーションギャップがある奴同士を結び付けたくなる傾向があります。おいしい! って(笑)。なので、弥子さんのお友だちになってもらいました。

栗田:
作画された香ちゃんを最初に見たときに、「あっ、この子はこれからも出る子だ」って思いました。

むんこ:
髪の毛にスクリーントーン貼ってるもん、特別感があるよ。その程度だよ、あたしの思考回路なんて(笑)。

栗田:
そうですよね、いまもすべてアナログで描かれていて、トーンも貼ってらっしゃるから、手間がかかって。

むんこ:
ひと手間、ひと手間よ。

栗田:
そういえば、連載中にニイムラさんのトーンを忘れる事件がありましたね。

むんこ:
そうそう、ニイムラさんのトーンを貼り忘れたことがあって。ニイムラさんの頭は弥子さんと同じなんで61番を貼ってるんですけど、なぜか白髪だと思い込んで、ずっとトーン貼ってきたのに真っ白なまま提出しちゃったんです。提出して、写植(セリフ)が入りましたって画像を送ってもらったときに「なんか白いな」と思って、気づきました。
栗田さんに「すごい今更言いにくいんですけど、ニイムラさんの頭トーン貼り忘れました」って言って。その日のうちに浦和駅前の喫茶店に来てもらって、あたしはスクリーントーンとカッターを持って行って。謝りながらトーンを貼りました。

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栗田:
トーンを貼るところを初めて見させていただいて、これは職人技だなと感動しました。本当に作業が早いですし、「ここをこう切ったらロスがなくうまく貼れるんです」とかお話ししながら。

むんこ:
トーンは人と話しながらできますね。話しながらできないのは、ネームだけなんです。だけどね、スクリーントーンも技術があって。あたしは描いた丸の中に丸く貼る、これくらいしかしないし、できません(笑)。

栗田:
いえいえ。トーンもそうですが、アナログで書いてくださってるってことが、すごくうれしいなとわたしは思ってまして。

むんこ:
ほんとかな? すごい迷惑なんですよ。

栗田:
そうですね、とても正直に言ったら、めんどくささはありますよ。それは(笑)。

むんこ:
そう、真っ白な頭のニイムラさんの原稿をスキャンしちゃったんですから。スキャンした画像を綺麗にクリーニングもしてくれてね。なのに、ニイムラさん髪の毛を貼ったら、もう1回スキャンからやり直さないといけないんだからね。もう!

栗田:
ただその手間なんて、ちいさなことです。物質としてちゃんとあって、この先も残っていく原画がある。これは宝物だなと思っていつも拝見してます。

むんこ:
ありがたいけど、トーン貼り忘れたら罰金払わなきゃいけないね!


「描きたいと思えるのは才能ですよ」というセリフに込めた思い


栗田:

今回の帯には「描きたいと思えるのは才能」という言葉を入れました。弥子さんの長男の郷くんが言ったセリフからでして、絵が下手なんですっていう香ちゃんに、励ますでもなく思ってることを言ってるんですよね。

郷くん.jpg

郷くん2.jpg

むんこ:
この「描きたいと思えるのは才能」っていうセリフを、いろんな方からいいと言っていただく機会がありました。ちょっと描きたい気持ちはあるけどどうしようとか、そういうふうに悩んでらっしゃる方に共感していただけるセリフではあるんですね。ただ、たとえば、あたしの兄弟や友だちでも、創作活動に一切縁がない人からすると、すごく当たり前のことで。
身近にいる兄なんかは全然、音楽をつくるだの絵を描くだの、料理も含めて、なんにもつくりたいと思わないと。だから上手い下手とかは知らんしその基準にも自信がないが、紙と鉛筆があって、「絵を描こう」と思うのがすごいと。「描きたいと思えるのは才能」って言葉は、すごく当たり前に思ってることだと兄は言ってましたね。

栗田:
このセリフが商業で20年以上漫画家をやってきてるむんこさんから出てくるっていうのが、すごいなと。

むんこ:
まあ、そうですね。「あたしにも、その才能があるのよ!」なんて言いたいのではなく、「描いてるから......」みたいな感じなんだけど。でもそうね、何かがカセになっちゃって、つくることをためらってる人には、「いやいやいや」って言いたい。
この漫画に出てくる、女子高生の香ちゃんのお母さんは、娘の創作活動に否定的なんですけど、ああいう人もきっと世の中にはいっぱいいて。
うちの親とかはまったくそんなことなかったですけど、「お家の中でお絵描きなんかして、まったくけしからんっ!」みたいなことを言う大人がどうやらいるらしいぞと、知ってはいます。だけど、「そこは頑張って跳ね返そうぜ」と思っていて。適当にね、「はいはい〜」っていう感じで受け流してね。別にみんなに肯定してもらわなきゃ、できないものでもないからね。「知るかよ」って話だから。

栗田:
自分で決めてやるだけですからね。

むんこ:
そうだよ。だから、やりたきゃね、馬鹿にされようが何しようが知ったこっちゃないんでね、やりゃいいっていう話で。
だから、描きたいと思ったら、もう描くしかないよね。それをネットで出すも出さないも、本(同人誌)にして発表するもしないも、自由だけど。でも描きたいと思えるだけでもう十分才能だから、発表してみようかなっていう気持ちさえあれば、「もうどんどんやっちゃえ!」っていう感じですね。

栗田:
わたしが個人的にこのセリフをいいと思ったっていうのももちろんあるんですけど、やっぱり今回この作品を通じて、描く人が増えたらいいなっていうのが、むんこさんとわたしの気持ちとしてはあるので。

むんこ:
ほんと、そうです。そんなことがあったら、めちゃくちゃうれしいですね。もしもいま、「お絵描きなんて」とか言われる渦の中に、運悪くね、いちゃったとしたらね。ちょっと二の足踏んじゃうじゃん。そういう人の腕を引っつかんで、連れ出したいよね。

栗田:
そうですよね、弥子さんみたいに忙しいとか、いろんな事情は別として。

むんこ:
それは大変だけどそれ以外でね、「描くのをやめて時間が経っちゃったわ」とか、「わたしの絵はもう古いかしら」とか。「わたしはまだ下手かしら」とか思ってらっしゃる方がいるとしたら。もうね、そんなのいいから! 鉛筆を渡したい。「ほら」って。


コミティア実行委員会、中村公彦さんとの25年


栗田:

単行本2巻の帯には「人生初のオリジナル漫画でコミティアに出展!」とも書かせていただきました。オリジナル漫画のイベントといえば、コミティアですよね。単行本化する際に、名称を使わせていただきまして。Twitter(X)で連載していたときは、「コミテック」という架空のイベント名でした。

むんこ:
書いちゃまずいかな〜と思ってて。

栗田:
コミティアの名前を使わせていただくことになったのは、むんこさんの2月のコミティア参加がきっかけだったんですよね。約5年ぶりに東京コミティアに出られて。

むんこ:
そのときに、コミティア実行委員会の会長である、中村公彦さんにお会いしたんです。こちらに座っていらっしゃる。

栗田:
そうなんです、今日は中村さんが客席に来てくださってるんです。

むんこ:
中村さんがあたしのブースに来てくださったときに「いま漫画の連載で、コミティアを前提としたコミテックというイベントを描かせていただいてます」とお話したら、「コミティアでいいじゃない」っておっしゃって。「ええええ! いいんですか!?」って。
そこから単行本化するときにセリフを変えたり、漫画に登場するイベントカタログを「ティアズマガジン」って題名に描き変えたりとか、細かい部分を変更して。ありがたくもコミティアになりました。

栗田:
せっかくなので、客席にいらっしゃる中村さんにもお話しを聞きましょう。わたしたちも、中村さんが来てくださることをさっき知りました。まずこの会場に来たら、コミティア実行委員会からのお花が届いていて、びっくりしまして。ここ、ブックファースト新宿店の書店員の渋谷さんから「お客さまの名簿に中村公彦さんのお名前があります」とお聞きして、「そんなことが!」とさらにびっくりして。

むんこ:
あたしはもう、度肝を抜かれました。お花もいただいて、ありがとうございます。

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栗田:
もともと今日は、「中村さんの話は絶対にしよう」とむんこさんと決めていました。コミティアの話をしたら、中村さんの話題は外せないので、思う存分、中村さんの話をしましょうって。そこになんと、ご本人が来てくださって。せっかくなので、中村さんにもぜひお話ししていただきたいと思います。
(マイクを持って移動して)中村さん、『夫の遺言が「同人誌描け」だったもので』2巻では、コミティアが舞台になっていますが、中村さんは読んでどんなふうに思われましたか。

中村:
うれしかったです。ウェブサイトのほうでも連載を読ませてもらってたので、「これ絶対コミティアがモデルだな」と思って。だから遠慮してもらってるんなら、もうストレートに名前出してくださいって声かけちゃったんです。ですから、こういう形になってうれしいです。

むんこ:
ありがとうございます。もう激しく遠慮しました(笑)。

栗田:
作品の感想もお聞きしてもよろしいですか。

中村:
楽しく読ませてもらっていまして。やっぱり、むんこさんってキャリアがすごく長いので。同人キャリアでいうと何年でしたっけ?

むんこ:
商業デビューは29歳なんですよ。多分コミティアの出始めが25歳ぐらいですね。コミティアのほうが古いです。いま51歳だから、同人キャリアは多分25年ぐらいです。

中村:
うん、だから同人誌のエピソードが「わかる、わかる」って感じになるんですよね。同人誌や同人イベントの芯の部分をちゃんとわかって描いていただいてるっていうのが、すごく感じられて。「描きたいと思えるのは才能」って言葉もそうだと思うんです。なので、すごくうれしいなと思って、読ませていただいてます。

栗田:
ありがとうございます。中村さんがむんこさんと最初にお会いしたのはいつですか?

中村:
『ティアズマガジン』(コミティアのカタログ)のフロントビューっていうコーナー用のインタビューのために、曙はるさんと一緒に事務所に来ていただいたのがお会いした最初だったかな。

むんこ:
そうかもしれません。ご連絡いただいて、池袋のコミティアの事務所のビルにお伺いして、インタビューをしてもらうっていう。商業デビューもまだしてないときに、インタビューですよ。「おれたちインタビューだぜ?!」みたいな感じでどきどきしてました。

中村:
当時、漫画がうまかったのと、伝えたいものをストレートにぶつけてきてる感じがして。なんだかすごく応援したいなって気持ちになったんですよね。

むんこ:
ありがとうございます。まだあの頃は東京のコミティアでも、ビッグサイトの東ホールの1ホールを使ってやっていて。今はもう4ホールにまたがってものすごい規模でやってますよね。1ホールを使って、こじんまりとは言えないですけども比べるとまだ規模もちいさくて。

中村:
まわりやすかったですよね(笑)。

むんこ:
まわりやすかったです(笑)。いまは大人気で入場規制がかかる見本誌コーナーも、待たずに入れたころのコミティア。そんな時代に、フロントビューのインタビューに呼んでいただいて。

中村:
そのあとに『だんなぼん』を描かれて。そこでなんかこう、肩の力が抜けた感じというか。ちょっとまた表現が変わったかなって感じがします。

だんなぼん.JPG

むんこ:
ありがとうございます。コミティアに出るために、あたしが『だんなぼん』っていう、旦那を題材にした4コマの同人誌をつくったんですよね。実はあれが、商業で4コマを書くきっかけにもなったものでして。
編集さんに「つくったから見てください」って渡したら、「あんた、4コマでいきなさい」って言われて。『だんなぼん』から4コマのルートに入った感じでした。『だんなぼん』をつくろうと思ったのも、コミティアが存在するからで。だからもう、あたしの漫画人生、何もかもコミティアにおんぶに抱っこです。

中村:
私はね、読者として、むんこさんが作家として成長していく過程をリアルタイムで見れたのが楽しかったです。

むんこ:
親......!

栗田:
いま改めてびっくりしました。おふたりに25年以上の歴史が。

むんこ:
はい、そうですよ。長いです。

中村:
お互い、頑張ってきましたね。

むんこ:
頑張ってきました。25年って、四半世紀よ。大変よ。なので、本当にお世話になったのでございます。ありがとうございます。

中村:
コミティア、またご参加ください。

むんこ:
はい、参加します!

栗田:
中村さん、今日はご来場くださっただけでなく、急遽お話しもしてくださって、ありがとうございます。

むんこ:
本当に、ありがとうございます!


【質問コーナー】むんこさんに、これが聞きたい!


栗田:

では、事前に募集していた質問にお答えする、質問コーナーに行きたいと思います。むんこさんは質問内容を事前に見ていないので、瞬発力で答えていただきます。

むんこ:
「考えるな、感じろ」ね!

栗田:
ではご質問、ひとつめ。主人公の弥子さんとむんこさん、似てるところはありますか?

むんこ:
太ってるところですかね。

栗田:
また、弥子さんのうらやましいと思うところはありますか?

むんこ:
やさしいとこですね。弥子さんやさしいわ〜。あのね、あの次男坊の源ちゃんが「母さんの時間を一番奪ったの俺だ」って言って、弥子さんが「大変だったのはあなたじゃない」って返すシーン。あたしあれ、ネームを描きながら珈琲館で泣いてますからね。尊敬するのはやさしいとこです。似てるのは太ってるとこです。

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栗田:
どんどんいきましょう、次の質問です。近々、新しい漫画を描く予定はありますか?

むんこ:
ありますね。っていうかもう、連載がいろいろ終わっちゃうんですよ。芳文社の『おみくんちはね』は最終回がもうほぼできてるんです。竹書房で描いてる『なんでモモさんは』も、あと連載2回ぐらいで終わるんですよ。
次回作については、設定とかご提案はいただいてて、やらせていただける気配はあります。なので、何かしら描きます。楽しんでいただけるように頑張ります。

栗田:
このイベントを一緒につくってくださった書店員の渋谷さんからの質問です。以前、雑誌「スーパージャンプ」の増刊号に漫画が掲載されていたと記憶しています。ご自身のテリトリーである4コマ漫画雑誌ではない場所で連載したいなど、4コマ漫画家としての野望はあったのですか。

むんこ:
ないですね(キッパリ)。

栗田:
渋谷さんからは、新聞の4コマ漫画やりたいとか、そういう野望はないのかなと。

むんこ:
いやいや、そんなすごい話はあたしのところにこないよ! 全然違う媒体で描けたらおもしろいかなっていう願望はちょっとありますけど。でも営業とかが難しい。ほら、新しい場所を見つけるためには、頑張って自分から働きかけをしないといけないから。
あとね、お世話になってるところが仕事を振ってくれるんだったら、そっちが優先じゃんっていうのも。

栗田:
そうですよねっ!

むんこ:
手広くやってる場合かと。

栗田:
そうですよ! ほんとにそう! いま、芳文社の担当編集者さんも客席で何度も頷いてますよ。
では次の質問です。竹書房の担当編集者さんから。2巻の後半で、弥子さんがお友だちと再会したシーン、これまでお互いに違った形で人生を頑張ってきたんだねと喜びあう場面で、思わずグッときてしまいました。改めて、この物語に出会えてよかったなと感じております。コミックス制作にあたり、特にこだわられた点や、描いていて楽しかったシーンなどがございましたら教えていただきたいです。

むんこ:
デザイナーさんに恵まれて、いつもね、どの単行本も素敵にしていただくんですが。

栗田:
この2巻のデザインをしてくださってる志村さんも、今日会場に来てくださってるんです。

むんこ:
2巻の背景の人のシルエットとかね、すごいかわいく綺麗にしてくださるんです。1巻の背景の桜もそうです。

栗田:
そう、とっても素敵にデザインをしてくださって、ありがとうございます。今回もカバーデザインのパターンをいくつか出してくださって、どれもよかったんですけど、今回コミティアの話なので、コミティアのロゴなどのイメージに合わせて、メインカラーをグリーンにしております。

むんこ:
描いてて楽しかったのは、弥子さん家のお隣のおばちゃん、有沢さん。このおばちゃんが大好きです。有沢さんが出てくるシーンはぜんぶ好き。有沢さんが出てくると幸せになります。

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栗田:
次の質問は会場の方から。描いているときに悩んだこと、誰かに相談して解決したことなど、記憶に残ってることがあればお聞きしてみたいです、と。

むんこ:
ネームがいちばん楽しくて、いちばん悩むんです。これまでネームで人に相談するっていうことがあんまりない作家生活だったんですよ。だけど今回、栗田さんがはじめて、ものすごい勢いでダメ出しをしてくるんで(笑)、わりとこの人と仕事をはじめてから、ネームって編集者と相談してやるものなんだなっていうのがわかりました。
過去、いままでの原稿に関しては、毎回毎回悩んでます。全ボツをくらったりすることもあって、すごい迷っちゃってぐちゃぐちゃした感じになったこともあります。編集さんからNGが出て、その日の夜に頑張って、次の日パーンと出し直したら「いいのができたじゃないですか。ありがとうございます」って言ってもらったこともありましたね。
ただ、漫画は基本的にあたしにとって癒やしなんです。実生活の悩みは尽きないんですけど、仕事をしてるときだけは純粋に幸せというか。なので、自分の欲として描くのがもう嫌だとか、もう何を描いたらいいのかとか、あたしは描いてていいんだろうかとか、そういう悩みはないですね。
真面目な作家さんだと、「こんな素晴らしい作家が世の中にいるのに、私が描く意味があるのだろうか」みたいなことをおっしゃる方がいるじゃないですか。あたしはこういう性格なんで、「そんなこと考えたこともねえや」と思って。誰がどんないいもん描こうが、おれはおれの漫画を描くよ、みたいな。
だから創作そのものに対して悩んだことはないと思います。

栗田:
ありがとうございます。いやあ、じーんときてしまいました。
そろそろお時間ですので、締めたいと思います。
2巻もほんとに素晴らしい作品になりました。わたしも編集者としてご一緒できて、うれしいなと思っております。
個人的な話なんですけども、先日わたしも生まれてはじめて、同人誌をつくりました。それをすっごい応援してくれたんですよ、むんこさんが。わたしが書いた小説にむんこさんにカバーイラストを描いてくださいまして。宝物をいただいてしまったんです。文学フリマに出店したんですが、その会場にもむんこさんが来てくださって。やっぱり、漫画に限らずつくる人を増やしたいっていう気持ちがすごく強くあるんだっていうのを、そのとき感じました。
『夫の遺言が「同人誌描け」だったもので』は、4コマ漫画として非常に魅力的ですし、同人誌に興味がない人にも楽しんでいただける作品だと思います。
いろんな方に読んでいただく中で、二次創作でもオリジナルでも、同人誌をつくってみようっていう方が増えたら、それはほんとうにうれしいことです。
連載は続きますので、引き続き応援をどうぞよろしくお願いいたします。

むんこ:
なんだろう、描きたい人を励ましたいという感じですね。描きたくない人は描かなくていいんですけど。描きたいっていう気持ちがあるのに、何らかのストッパーがかかっちゃってる人もいると思います。技術に自信がないとか、なんか恥ずかしいとか、そういったカセを取り除くきっかけになるとうれしいなと思っております。
同人誌は本当にあたしの根幹にあるものなので、それをモチーフに書かせていただきね、コミティアさんからの応援もいただいて。読んでくださる方が、今日こんなにたくさん集まってくださった。こんなありがたいことはないので、ありがたさをかみしめつつ、心のこもった漫画をつくっていく所存でございます。よかったらお付き合いください。よろしくお願いします。
今日はありがとうございました!

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