“サイコポップ”が『ダンガンロンパ/ゼロ』に至るまで——

前編

足かけ4年、ついに終わりを迎えた『うみねこのなく頃に』の旅。ラストエピソードとなる Episode 8 を発表直後の竜騎士07に迫る! 『うみねこ』は“何”を僕たちに残したのか?

上巻刊行直前!

小高さん、今日はお忙しい中インタビューにご快諾くださって本当にありがとうございます。さっそくですが、できたてほやほやの刷り出し(※製本直前の印刷見本)をお持ちしました。

小高 おお、これはすごいですね。紙も実際のものと同じですよね? この柔らかさがいいですよね。

同じです。小松崎さんに頑張って頂いたイラストもかなり綺麗に出ていると思います。

小高 上巻でも結構厚くなるんですね。もっと薄くなっちゃうのかなぁと思ってた。最後かっこいいですね(次回予告を見ながら)。

『ダンガンロンパ/ゼロ』はまだできてないんですけど、僕が今まで作った本の中で一番いい上下巻ものになるんじゃないかと思ってます。

小高 ありがとうございます。小松崎の絵もたくさん入っていて、満足度も高くなりそうですよね。

編集者として長く本を作っているわけですけど、3ヶ月に一回ぐらい自己記録を更新したな、という瞬間があるんです。今回はそこに到達できた感じがすごくあるんですよ。小高さんと小松崎さんのお陰ですね。本当にありがとうございます!

小高 そこまで言われると、逆にこわくなっちゃう(笑)。

今改めて問う、『ダンガンロンパ』について

それでは、インタビューに入らせて頂きますね。もうこれまで何度も答えられているとは思うんですが、『最前線』の読者に向けて改めて『ダンガンロンパ』ってゲームの企画はそもそもどんな風にスパイクさんの中で始まったのか、ご説明頂いてもいいでしょうか。

小高 そうですね。まずやっぱりどうしてもオリジナルでコンテンツを作りたいというのがありまして、新しい企画を立ち上げたいと思ったのがきっかけです。一応シナリオが自分の強みだと思ってたんで、そこを中心にした推理モノのゲームをやりたいと。それで、企画もいっぱい出したんですけど、どれもなかなか通らず

ジャンルとしても「超キャッチー!」みたいなゲームじゃないですからね。

小高 そうやって行き詰まってた中で、「俺は推理モノでなにが本当に好きなのか」をちゃんと考えたときに、メフィスト系のああいうものがふと浮かんだんです。メフィスト系ってゲームの層とあってるんじゃないか、と。それまでの推理モノって『逆転裁判』シリーズを除くと、ガチガチのミステリしかなくて。

社会派系ミステリ?

小高 社会派というより、トリックを解かせる事に主眼を置いたパズルとしてのミステリですね。そんな流れの中で『逆転裁判』はライトな方向を向いていたのですごく良かったと思ったんですが、僕はもっとアニメやライトノベル的な方向に向けてみたいと思ったんです。それらがメフィスト系とくっついて

ゼロ年代以降の新本格ムーブメントですね。

小高 そう。だからあの辺のムーブメントをゲームに取り入れたいなと思っていたのが原点ですね。

それ、きっと社内で言葉が通じませんよね

小高 ええ、社内で全然通じないんですよ。メフィスト系に詳しい人がいないどころか、知ってる人がまずいない(笑)。なので、その辺のことは全然言わないで、とにかくアクが強い推理モノ、として企画を書いていました。それで“サイコポップ”とか言い張って。だからサイコポップは元々、僕の中ではメフィスト系なんですよ。

そうだったんですか!

小高 ただメフィスト系ってサイコ寄りなものが多いじゃないですか。グロさがきつかったりとか。ああいったところはもうちょっとライト寄りにして、そうした落としどころとしてできた言葉がサイコポップなんです。

じゃあ最初から新本格ムーブメントの最前線というか、末裔というか末裔だともうちょっとで滅びそうな感じで縁起が良くないんですけど(笑)、そういう意識は持たれてたんですね。

小高 そこはすごく意識してましたね。北山猛邦さんや、西尾維新さんといった僕と同じぐらいの年代の人が「こんなすげぇもの書くんだ」っていう思いがずっとあって。

ちなみに小高さんは何年生まれでしょうか?

小高 僕は78年です。

じゃあ滝本竜彦さんや北山さん、あと乙一さんとも同年代ですね。乙一さん、北山さん、滝本さん、佐藤友哉さん、西尾さんの順番ですから。いつ頃からそのあたりの作品を読まれてたんですか。

小高 僕、実はそんなに小説って読まなかったんですよ。

映画だったんですよね。

小高 そうです。ずっと映画ばかり見てて。アニメも中学の時だけ一回ガッと見る瞬間はあったんですが、それっきり見てないんです。『エヴァンゲリオン』もリアルタイムで見てないんですよ。ただ大学の先輩が京極夏彦さんの作品を大好きで、それを初めて読んだときに、正直「こんなメチャメチャなものがあるんだ」と。

大学時代からだったんですね。

小高 そうですね。で、すごい面白くてがーっと読んじゃうんですけど、読み終わったときに、プロットで考え直してみると、とんでもない話だなぁと(笑)。そこから京極さんの作品を一気に読んで、そのあと清涼院流水さんとかに行って、僕がミステリとして想像してたものってカッチカチの凝り固まったものだったんだなぁと思い知ったというか。その頃、僕は大学病なのかもしれないですけど、ジャンルレスなものに興味をそそられる年頃で。

「ボーダー、崩していくぜ!」っていう(笑)。

小高 そういう時期だったんです(笑)。それで実際にそういう作品を目の当たりにしてすげー、と。

わりと中二病って行ったり来たりしますよね。ジャンルを偏愛したり、ジャンルを壊していったり、あの病気はその両極端を反復運動するんですよ。では、出発点は京極さんで、そのあと綾辻行人さんや法月綸太郎さんへと過去に戻るというよりは、同時代で書いている人がいるんだって方向で、メフィストからファウストみたいな感じの方に流れていったと。

小高 そうですね、そこはもう好みとして読み進めてました。一方で仕事としてゲームシナリオを書くようになったので、勉強をかねて、法月さんや綾辻さんのような新本格の作品も読んでました。

同時代人ってことを考えるとそっちにいっちゃいますよね。僕はやっぱり京極さんから入ったら、一回過去の作品に戻ってもらって、そこから舞城王太郎さんとか佐藤さんとかを読めばいいのにって思うんですけど、やっぱり同い年の連中が何書いてるんだろうって気になりますよね。僕の場合、70年代前半なので同年代の作家さんがそんなにいないんですよ。福井晴敏さんや伊坂幸太郎さんは同年代なのですが、「流れ」みたいなのが希薄で。確かに80年生まれ前後には流れがありましたよね。僕のお陰で(笑)。

一同 (笑)

まぁでも、その流れが回収されて今の時代にゲームになってるっていうのが面白いですよね。

小高 『ゼロ』が出せるようになったというのはまさに太田さんのお陰だったので、運命的なものを感じてしまいますね。

そうですね。とにかく『ダンガンロンパ』というゲームは、メチャクチャ面白かったんですよ。ネットかなんかで発売前の評判を見て、これは俺がやらんといかんと。それで発売直後ぐらいに買って一気にやったらこれが面白くって。小高さんが仰ってたような新本格の末裔スピリットっていうか、作品としてのDNAにちゃんと僕の好きだったものがあって。しかもデコレーションの部分では、僕の「好きなもの」ではなく、僕が「やってきたもの」がベットリ塗られてるみたいで。知らないうちに僕の担当した作家さんたちが「『ファウスト』なかなか出ないから、俺たちでシナリオ書いたよ!」みたいな感じで連合でシナリオを書いたんじゃないかと一瞬思ったりしながらプレイしてたんですよね(笑)。

小高 なるほど(笑)。

あとは小松崎さんのイラストもすごいキャッチーで、こういう面白いイラストを描く人もまだまだいるんだな、と。玄人くさくない、新人らしい元気さがある。すごく魅力のある絵で、ちょっとないデザインじゃないですか。

小高 僕も小松崎くんも、『ダンガンロンパ』の企画を始めるまでは、アニメとか、萌え系のものって全然知らなかったんですよ。そこが逆にいい方向で小松崎の絵に働いたんじゃないかなと思ってます。

じゃあわりと萌え要素とかを考えずに『ダンガンロンパ』を作られてたんですね。

小高 全然考えてなかったですね。だから男のキャラでも石丸が人気だったりするんですけど、そういう盛り上がりが全然分からなかったり。

勉強する必要はないです。狙うと外す、というのがこの業界の鉄則なんで(笑)。狙わない方が最終的に勝利するらしいんですよ。

小高 そうなんですね。だから石丸なんて「絶対人気でないよ」とか言われてたのに、意外に人気があったりして、びっくりしましたね。

僕が声をかけないでどうする

と、まあ、とにかく『ダンガンロンパ』がめっちゃ面白くて、これはなんとしても僕がコンタクトを取らないといけない、と。あと、失礼な話なんですけど、多分こういうのを面白がる人はごく一部だから、僕が音頭をとって盛り上げていかないとまずい! みたいな(笑)。

小高 そう思ってくれてる人が多いんですよ。それこそ成田(良悟)さんとか三田(誠)さんとかもそうなんですけど、一般のユーザーさんたちもそうで、「これは救ってやんないと」みたいな感じだったんです(笑)。

とても10万本前後のタイトルじゃないような熱さがあって、みんなが「俺たちが『ダンガンロンパ』をなんとかしなければ!」みたいな使命感に燃えてる感じが、当時もあったし、今もありますよね。僕、新宿東口のヨドバシカメラによく行くんですけど、先週行ったときにもまだ棚の目線の位置に『ダンガンロンパ』がありましたから、ああ、きっとこの売り場に好きな人がいるんだ、と(笑)。

小高 そうなんですよ。ゲーム屋の店員さんにも好きな方が多いらしくて、いい扱いをしてくださったりするんですよね。年明けにとあるゲーム屋さんに行ったとき、いまだにモニタで動画流してくれてて。

えっ! すごいですねそれ。普通発売前後の一週間ぐらいですよね。どんな大きなタイトルでも二週間でしょう。

小高 ありがたいなぁと。

みんなが地道に布教活動をしてるって感じですよね。まぁそれが高じて小説までお願いしたってところがあるんですけど。あと、これは笑い話ですけど小高和剛ってもしかしたら西尾維新の変名かもしれないし、と思っちゃって(笑)。

一同 (笑)

で、調べたら「ヤバイ、小高さんtwitterやってるじゃないっスか!」とすぐに気づいて。

小高 ちょうど僕がtwitterはじめて一週間ぐらいの頃ですね。

確か僕がフォローしたときにちょうど100番目だったんで、「きた、なんか運命的なモノを感じるぜ!」的なことを勝手に思ってたんですが(笑)。それで、声をかけさせていただいたんですよね。

小高 最初は「あやしいな」と思ってたんですよね。

一同 (笑)

小高 なんか噓くさいぞ、と。twitterで話しかけてくるなんて、これtwitterのワナなんだな、と思って。

そのときは僕の名前はご存じだったんですか?

小高 存じてましたね。

じゃあ信じて下さいよ!

一同 (笑)

小高 ただ、星海社を立ち上げたというのを全然知らなくて。

そりゃ知らないですよね。『最前線』が9月に始まったからちょうど2ヶ月ぐらいで。

小高 確か『ひぐらし』が文庫で出ますよってのを言ってた頃ぐらいです。

じゃあまだ『Fate/Zero』が出るって事も言ってなかったかもしれませんね。

小高 だから最初、自費出版の営業だと思ってて。

ああ、碧天舎さんとか。今はなくなっちゃったけど。

小高 ああいうのたまにメール来てたりしたんで、「ああ、それか」みたいな。

一同 (爆笑)

小高 「誰が出すかい!」みたいにイライラしながら(笑)。で、スルーしようとしてたら、twitterにいるゲームライターのkawapiさんが「ドキドキする」みたいなことを言ってて「え、ドキドキする人なのかな」って。それでちょっと星海社さんを調べてみたら、「あ、新しい会社だ」って。

すみません(笑)。ちゃんとtwitterのプロフィール書き直さなきゃだめだな。まぁでもよかったですよ。あのときは新しい会社をはじめたばかりで、当たり前なんですけど「なんか新しいことやらないとなぁ」と考えてたときに、こういう素晴らしいゲームに出会うことができて、これは自分が行かないとまずい、みたいな。そう感じるときが時々あって、最初に感じたのは『月姫』の奈須きのこさん、次が『ひぐらしのなく頃に』の竜騎士07さんかな。『シュタインズ・ゲート』の時も少し思ったんですが、これはちょっとアニメ寄りで、大好きなんですけど、僕が関わらない方が多分上手くいくだろうなってところがあって。今回の『ダンガンロンパ』は「とにかく俺が行かなきゃならぬ」という感じでしたね。

小高 「救ってやらねばならぬ」みたいな(笑)。

それだとちょっと大袈裟なんですけど(笑)。まぁファンと同じですよ。みんなが多分今そう思ってるんだと想像してます。

小高 そうだと嬉しいですね。

しかし最初は自費出版の会社員だと思われていたとは(笑)。

小高 そもそも僕は仕事でしか書けないんですよ。趣味で書かない。『ゼロ』を書くときもそうだったんですけど、しんどくてしょうがなくて。

体力いりますよね。

小高 そう。あと書いてる自分に自信が持てない。「やだー」みたいな感じで逃げちゃうんじゃないかなって。

仕事以外で書きためたりとかしてないんですか?

小高 それはほんと『モノクマ劇場』レベルのものですね。あれぐらいの二小節というか。僕、昔から中原昌也さんがすごく好きで。

へえー。暴力・温泉・芸者、的な。

小高 そうですね。中原さんのように、思いついたものをひたすら書きつらねるようなものは一時期書いたりしてましたけど、ちゃんと筋道立てて物語に、みたいなものは趣味では書かないですね。

わりと純文学的な衝動というのはあるんですか? 中原昌也的な。

小高 そうでもないですね。僕は面白いものを面白がるだけなんです。感性というか、なんとなくこれがピンときた! みたいな感じで好きになっただけなんで。舞城さんとかもそういう感じで好きになりましたね。

好きな作家さんというとどういう方が挙がるんですか。

小高 そうですね、さっき言ったみたいにメフィスト系の方は大体読んでます。特に舞城さん、ユヤタン(佐藤友哉)が好きですね。あとはベタかもしれないですが、東野圭吾さんはほとんど読んでます。

東野さんは何読んでも面白いですからねぇ。

小高 そうですね。あと勉強になるんですよ。ちょっと「アレ?」と思うようなくだりもあったりするんですけど、そのごまかし方もうまい。ああ、こういう風に自然に持っていくんだ、って。勉強になりますね。

無理筋もあったりするんですよね。僕も東野さんの本は三冊ぐらい作らせてもらってて、『私が彼を殺した』とかは僕ですね。懐かしいな

小高 あの頃のノリでもう一度書いて欲しいですね。

東野さんが『秘密』で評価されたあと、僕の上司だった宇山(日出臣)さんが「もう東野さんは他で書いてもらった方が東野さんにとっていいんじゃないか」みたいなことを言い始めたんですよね。僕も今だったら「宇山さん、なに言ってんですか」って反論すると思うんですけど、当時は「そんなものなのかなぁ」って。でも逆なんですよ。東野さんがそうやってバリバリ世間に評価されるものも書いてる中で、「でも、たまにはこういう『誰得?』みたいなの書きたいですよね?」って口説くべきなんです(笑)。今、こういう凝り凝りの、3万人ぐらいしか分からないようなミステリーをたまには書きましょうよって言ってくれる編集者って、東野さんの周りに多分だれもいないと思うんですよね。「100万部行きましょう」とか「初版10万部ですよ」みたいな話をする人しかいないんじゃないかなって。僕はもう東野さんとは随分話してないけど、いつかもう一回『私が彼を殺した』みたいなのをやりましょうよ、ってどこかで言ってみたい気もするんですよね。

小高 星海社から東野圭吾作品が出たら事件ですね。

熱いですよねー。でも筒井康隆さんと一緒に仕事してるって事を考えるといつかはアリかもしんないですよ。

小高 そうですね(笑)。

東野さんと一時期めっちゃ仲良かったんですよ。特に僕、文芸図書第三出版部の新人だったんで、「こんなに講談社の人によくしてもらったこと、太田さんが初めてです」って東野さんに言われたことあるんですよ。「いままでの人はインタビューのときとかでも同席してもらったことすらなかった」なんて言われて「申し訳ございません!」って平伏したり(笑)。書店の挨拶に一緒に回ったりしてね。楽しかったなあ。

『ダンガンロンパ』の遺伝子

しかし本当に僕は『ダンガンロンパ』のことが大好きなんで、今回小高さんと一緒に『ダンガンロンパ/ゼロ』を作れてよかったです。これ、他社の批判ではまったくないんですけど、よくあるメディアミックスみたいな方向にこの作品を持っていかせたくないな、って思ってたんですよね。偉そうな話ですが、そういうラインからこの作品を救わねばならぬ、と思ったんですよ。とにかく文三(講談社 文芸図書第三出版部)の遺伝子のある編集者がこの作品に声をかけないといかんと。

小高 逆にライトノベル的な、ベタベタなものを要求されたら、僕はできたかどうかわかんない気がします。

キャラクターがとにかくよく立ってるがゆえに、案外そっちの方が売れる作品になったかもしれないんですけど(笑)。でもそうじゃなくて、文三のDNAを色濃く受け継いでいると僕は公言してるので、そういう人間がこれに声をかけないようじゃダメだし、たとえばよくあるライトノベルレーベルでこれのノベライズが出るなんて許しちゃならぬ! と使命感にかられてtwitterで声をかけさせていただいたんです。なのにまさか自費出版と思われていたとは(笑)!

一同 (笑)

小高 『ダンガンロンパ』と星海社の立ち位置って僕はすごく似てる気がしてるんです。ライトノベルじゃないけど、ライトノベルのファンに訴求するラインナップもあるし、それとは別に「星海社朗読館」シリーズとか、原くくるさんの『六本木少女地獄』のような戯曲、そして新人・小泉陽一朗さんの『ブレイク君コア』とか。『ダンガンロンパ』もそうですが、ガッチガチのミステリにも行かないし、ギャルゲーにも行かないし、どっちにも行かないという感じがあって、だからこそアクが強く生きられるみたいなところが似てるなと思ってました。

ありがとうございます。でも僕もまったくそうで、編集者としての僕のスタンスって、純文学の方から「これは文学じゃない、ラノベでしょ(笑)」って言われて、ライトノベルの方から「これはラノベじゃない、文学じゃん(笑)」みたいに、両方から石が飛んでくるラインを歩いているという。片っぽに行けば片っぽからしか石は飛んでこないはずなんですけど、ちょうど右からも左からも、矢とか石とかが飛んでくるあたりにしか面白いモノがないと思ってやってるんです。先日twitterでも呟かれてたんですけど「キワモノばっかりやってるから星海社は嫌だ」っていう人もいて。ただ、そういう人から嫌悪感をもたれるところを歩いていかないと、10年後にメジャーになれないんですよ。今メジャーなものをやってても10年後にどうなるかわからない。これは別に強がりじゃなくて、たとえば2000年前後に、「2011年、虚淵玄がその年最も爆発的にヒットしたアニメのシナリオライターになってる」なんて事実、誰も信じないし僕も信じないですよ! ほかにも西尾さん原作のアニメがゼロ年代で『ガンダム』よりも売れたテレビアニメになってるとか。劇場系では『ヱヴァンゲリヲン』とジブリのアニメを除けば奈須きのこさんの『空の境界』がDVD売り上げナンバーワンになってるとか。僕がやってきたことって結局はメジャーになってるんですよ。でも、そうやってメジャーになったのはすり寄る形でそうなったんじゃなくて、あくまでその両方から石が飛んでくるラインを崩さないまま走り抜いた結果としてメジャーになってるってことをこの10年間で証明できたと思ってるんで、だから『ダンガンロンパ』もそこでいいんだと思っているんですよね。編集者としてのこだわりをすべて捨てさって、ただ今当たっているものにひたすら徹すれば、シリーズ100万部ぐらいのヒットはすぐに作れると思いますよ。ただ、僕はそういうのに興味がないんです。あのマイルス・デイヴィスがロックのコンサートのステージに立ったときに「必要とあらば世界一のロックバンドだって俺は結成できる」って言って、彼はそれを実際にやったんだけど、それは彼がやりたかったからやっただけのことであって、100万部のライトノベルの編集者をやりたいかって言ったときに、僕は別にそんなのどうでもいいなって思うからやらない。でもやれって言われたらできます。できると思います。

小高 やれって言われたらできますっていうのはすごいですね。多分僕とか小松崎は、やれって言われてもできないタイプですね。

そういう方向性では頼まないと思います(笑)。

小高 太田さんの仰る「どっちにも行かない」ってのは僕らが生き残るために狙ったところなんです。ライトノベルをそのままやっても勝てないし、ミステリーだとしてもそれだけじゃダメで、勝つための道を探して、ニッチな部分を狙ってやっていった結果が、多少の個性に繫がったんじゃないかな、と。それを出さない限りは勝てないなと思ったんですよね。

どこにも属さないって気持ちは大事です。そういう気持ちって実は一番強かったりするじゃないですか。だからその空気が最初お目にかかったときから小高さんから感じられたので、「この人とはいい仕事ができるだろうな」って思ったんですよね。

小高 会うと僕、「結構まともな人なんですね」って言われるんですよ。

 (一瞬の間)

一同 (笑)

小高 これを書いてる人ってどんな変な人なんだろうって、『ダンガンロンパ』を書いたあとにすごいよく思われるようになったみたいで。でも会ってみると意外とまともで安心しました、と(笑)。

それはまだ小高さんへの理解が足りてないね。やっぱり小高さんって変わった人だと思いますよ(笑)。

小高 そこからもうちょっと仲良くなると「腹黒い」って言われますね。

多少、変なところはあると思います。

小高 そうですか。残念だなぁ

一同 (笑)

擬態が失敗してますね(笑)。

あっという間だった半年間

しかし嬉しい驚きだったのは、ここまでのスピードですね。最初お目にかかったときにも話がこんな感じで盛り上がって、「これはいい感じになるな」と思ったんですけど、そこまでは結構どんな方とお目にかかってもそうなんですよ。会って話して、盛り上がるんだけど、実際にプロダクトになるのにすっごい時間かかって、結局なにも形にできてないとか、そういうことも今までたくさんあったんです。なので今回も長い付き合いにはなりつつ、なかなか本が出なかったりするのかもなぁって思ってたら、会って一年も経ってないのに本まで出ちゃいましたからね。

小高 そうですね。

しかも頼んでもなかったのに上下巻のボリュームになるっていう(笑)。いやいや、これは結構笑いどころなんですけど、「上下巻でいきましょう」なんて僕は一言も言ってないですからね。気づいたら「えっ、これ600枚ぐらいない?」みたいな感じで。

小高 最初に書き終わった後に「上下巻にしましょう」って太田さんに言われてから、直すのがすごい楽になったんですよね。それまでは「これ一冊にするとすげぇなげえな」と思っていて、どうやって削ろうとかあんまり増やさないようにしようって注意してやってたんですけど、上下巻で割り切ってからは結構楽になりましたね。

盛り上がりもね。「2km走れ」って言われるとしんどいかなって思うんですけど「1kmを二回走れ」だと意外と走れる気がするじゃないですか。そういう感じはよかったのかもしれないですね。

小高 でも僕、本当はすごくビビリなんですよ。最初に太田さんと会ったときも「やりますよ、俺」とか言ってたんですけど、あとになって「やれんのかホントに」って不安はありましたね。

だって久しぶりの小説カムバックですよね。『神宮寺三郎』以来。

小高 でも前の小説書いたときも、べつにやれる自信はまったくなくて、ただ「やりますよ」って。

あれはどんな経緯だったんですか?

小高 あれは『神宮寺』のアプリのシナリオを何本かやってたときに「小説化したいんですけど」って話があって、僕に「書ける?」って話がきたんです。正直そのときはそんな書ける気がしなかったんですけど、ここで断っちゃ本物になれない気がして。そのときはできる自信はなかったけどやるんだって気持ちでした。

やっぱりそうですよね。昔、清涼院流水さんに「伸びる人は手を挙げる人」って言われたんですよね。とにかくハイッて手を挙げるのをさくっとできる人じゃないと伸びないって。

小高 でも結果として『ゼロ』もすごく苦労して。部屋の中をひとりでぐるぐるぐるぐる回ってましたね。どうしようって。

一同 (笑)

小高 やっぱり太田さんが、自分が好きだった『メフィスト』をやってた方ってのがあるし、そこで久々の小説ってのもあって、どうやって書けばいいだろうって随分悩みました。最初はすごくよくある小説のように書いてたんですけど、途中で「これ俺が書く意味あるのかな」って迷いが出てきちゃって。綺麗な文体で、読みやすい、そういう小説を俺が書いて商品価値があるのかなって。結局は『ダンガンロンパ』っていうところに意味を出す、自分が書いた、自分でしか作れない物にしていかないと意味が無いかなってところに落ち着きまして。

それでいいと思うんですよね。

小高 そこからはもう、自分が感覚的にいいなと思ったモノを書いていくみたいな形で進めていきました。それでなんとかなった、かなぁと。

それはすごく作家としては正しい立ち位置かなぁと思いますよね。たとえば、奈須さん以上に初版の刷れる作家ってそんなに何人もいないと思うんですけど、教科書的な見地からすれば、奈須さんの文章は良文か悪文かって言ったら、悪文じゃないですか。パッと見では読みづらくてとっつきにくいし。ただ、それはやっぱり彼にしか書けない唯一無二の文章なんですよね。人を強烈に惹きつける魅力があるんです。

小高 そうそう、そうなんです。だから『ゼロ』では僕自身が思う僕のリズム感を大事にしたと思います。逆にばーっと読むと読みづらいのかもしれませんが。

ゲームシナリオと小説の違い

小説と、ゲームシナリオってどういうところが違いますか?

小高 僕にとっては全然違いましたね。奈須さんとか竜騎士07さんが作られているのはノベルゲームじゃないですか。ト書きもあり、台詞もありで。一方で僕のやってるのは、ト書きがほとんどなくて。

ほんとシナリオなんですね。

小高 そうです。シナリオですし、しかもテキストウィンドウがあって、その中に字が収まるように書かなきゃいけない。ほんと制限だらけで。このシチュエーションをこういう風に表現したらすごく雰囲気出るな、というのは思いついたとしても入らなかったら意味が無いんです。だからどんどん簡潔になっていく。とりあえずテンポ良く、ボタンを押して気持ちいい字の並びを大事にするので。あとゲームは絵がありますが、小説は文字だけで膨らませなきゃいけないので、やはり書き方も違いますね。

どっちが好きですか、書いていて。

小高 どっちも楽しいですね。『ダンガンロンパ』みたいに制限がある中で台詞を書いていくっていうのも楽しいですし、小説みたいに自由に書けるのも楽しい。

よく竜騎士07さんや奈須さんとも話をするんですが、両方面白さがあるんですよね。ゲームはやっぱりいろんな人が関わってくる面白さとしんどさがあるし、小説はひとりでやる面白さとしんどさがあって。それぞれまったく違うものなんで「両方やるといいんじゃないですか!?」ってのが僕の定番の口説き文句なんですけど(笑)。

小高 『ダンガンロンパ』の場合、アクション推理とか色々なものが入っているので、ああいうゲーム的な要素とシナリオが混ざっていく感じは小説じゃ出せない面白さだと思うんですよね。

ちなみに『ダンガンロンパ』をやってた頃から『ゼロ』の設定ってあったんですか?

小高 『ダンガンロンパ』をやってた頃は『ゼロ』の設定は全くなかったですね。ある程度裏設定とかは決めておかなきゃならなかったので決めてたんですけど、『ゼロ』をやるときにその辺はもう一度整理して掘り下げました。やると決まってから考え出した形ですね。

逆に言うと『ゼロ』を書いてみてから『2』に繫がる部分というのはありましたか?

小高 ありましたね。一度整理して、時系列を俯瞰できたっていうか。書きながら膨らましていくのはどうなのかってのもあるんですけど(笑)。逆に言うと『ゼロ』は『ゼロ』でゲームを作れるんじゃないかって思いますね。

『ダンガンロンパ/ゼロ』のどこを読む?

今回本当にいい小説に仕上げていただいたわけですが、小高さんとしてはどこを読んでもらいたいですか? 

小高 そうですね。下巻ですね。

(笑)。下巻は是非読んでほしいですよね! 

小高 こんなこと言っていいかわからないんですけど、最初に上巻と下巻に分かれるなんて思わずに書いているので、上手く配分できていないんですよね。上巻の後半に山をもってきて、下巻につなぐぜ! みたいな気持ちとか入っていなくて

でも、よく盛り上がっていましたよ。

小高 多少なんとかなったかなとは思っているのですが、『ダンガンロンパ』の5章から6章へのつなぎのような、ガッと頂点までいって次みたいなのが出来なくて、結構スタッフにも見せたりしたんですけど、「まあ、下巻“は”面白いよね(苦笑)」みたいな。「は」がつくんだって(笑)。

(苦笑)

小高 ただ、小松崎はバトルシーンが好きなので、上巻が面白いって言ってました。

おー。なるほど。

小高 「戦いだすと面白いよね」みたいな。「もっと戦わないの?」って。そこだけか! って思うんですけど(笑)。

いろんな読み方がありますよね。

小高 まぁ、まずは上巻をじっくり読んでキャラクターをつかんでもらって、そんなキャラなんだなって感情移入しつつ読んでもらうと、より下巻も面白く読んでもらえるかなと思っています。

ちなみに『ゼロ』で好きなキャラはなんですか?

小高 僕、神代くんですかね。

なるほど。

小高 神代くんはいいキャラですよね。ああいう年下のエロみたいなのは、前からちょっと入れたいなぁと思っていたので、あれは好きですね。

彼はやっぱり絶倫なんですか?

小高 絶倫ですね。なんか小松崎の絵でもこう衣服の上からでもわかるような盛り上がりをしているんです。立ってるぜこいつみたいなね(笑)