2016年夏 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会

2016年9月8日・13日@星海社会議室

史上初、2人同時受賞!伝説の誕生を目撃せよ!!

新人賞受賞作『ノーウェアマン』をぜひ読んでみてください

太田 みなさん、今回の座談会では、ぜひ受賞作を出したい! なぜなら、今回の受賞作品がゼロだと、累積した賞金がすべて先日刊行された新人賞作品、『ノーウェアマン』の著者である朝倉あさくらユキトさん一人だけのものになるからです。

石川 それはそれでいいんじゃないですかね?

岡村 今回受賞作が出なかったら、彼一人が総取り?

太田 そうなんですよ。その額、なんと300万円以上! 星海社FICTIONS新人賞の賞金は、読者の皆さんの応援があってのものなんだから、より多くの才能ある新人さんに持っていってもらいたいと思います。たとえば100万円あれば、若くて独身の小説家さんならば、数ヶ月は創作に集中できますからね。

大丈夫ですよ。今回はすばらしい作品が集まっていますから!

平林 もちろん、仮に朝倉さんが賞金をすべて手にすることになったとしても、なにも問題はありません。『ノーウェアマン』は、それに値する作品に仕上がっていると思いますよ。

石川 朝倉さんには、序盤を中心に、3ヶ月以上かけてねばり強く改稿していただきました。ぜひ、その成果を確かめてみてください!

改稿前の原稿は、話が盛り上がるまでが長いというかつらい感じでしたよね。

(編集一同、序盤を読む)

一同 こんなによくなったの!?

太田 うーん、もとからすばらしかった後半はもちろん、全体を通して非常にいい作品になったと思います。この作品を手にとって、損をしたと思う人はいないんじゃないかな。こういう優れた作品を世に問えるというのは、出版社と編集者の醍醐味だなと思います。

平林 新人が戦うには厳しい時代ではあるんですが、それは新人に限った話でもないですよね。みんなが厳しいこの冬の時代で、いかに戦っていくのかということですよね。

太田 そうです。一発目からどーんと数字が伸びる新人さんはもちろんいらっしゃるんだけど、その登場は、結構な年月をさかのぼっちゃう気がするんですよね。作品名ではなくて、小説家さんの名前で買おうと思ってもらえるところまで、誰もがいけてない。本当の意味での一本立ちができている新人作家さんの名前がぱっと浮かばないのは、悲しいことです。

平林 『ランボー怒りの改新』の前野まえのひろみち先生には、ぜひともそうなっていただきたい! こちらの対談、ぜひご覧ください!

太田 一本立ちの問題は、小説家さんではなくて、我々出版社にこそ非常に重い責任があると思います。だからこそ、この座談会のような作家志望者と編集者が真剣勝負する場の希少価値は、すごく上がっている気がします。投稿数もずーっと減らないんだよね。だいたい50〜60くらいをキープしてて。

平林 今回は、前回に比べてちょっと投稿数が増えましたからね。

太田 他にいくらでも投稿できる場があるにもかかわらず、星海社FICTIONS新人賞にご投稿いただけるということは、本当にすばらしいことですよ。ひとつがんばっていきましょう。

一同 よろしくお願いいたします!

誰も読んだことのない百合物語がほしい

石川 では、早速始めていきましょう。まずは、僕が読んだ『私のことが好きなあの娘はとっても可愛い』。これは、前回岡部さんが上げた『ゆかりさんとわたし』の人ですね。文章は引き続き達者なんですけど、今回は長編としてはネタが小粒すぎるんです。六〜七編入っている百合漫画の中の一短編のような感じなんですね。

わかります。水で薄めすぎたカルピスみたいな作品ってありますよね。

石川 そうなんです。原稿用紙で350枚以上あるんですが、同じネタを使って、たぶん10分の1くらいの分量で書けるんですよ。関係性がどう展開していくのかということも、ある程度百合に親しんでいれば容易に想像がつくようなもので。

平林 つまり、今まで誰も読んだことがないような百合を書いてくれ、ってことだよね。

石川 そうですね。百合が好きなことは間違いないと思うので、その熱量をまずは先行作品の研究に向けてみてほしいです。

失われたデータを求む

石川 次は林さん、『剪定者ナイン』。

このお話では、童話や伝説の世界は「剪定者」という使者によって管理されているんです。例えば『シンデレラ』の世界でフェアリーゴッドマザーは裏で魔法を使って泥棒してるんですよ。でもそれだと『シンデレラ』の物語が崩壊してしまうので、剪定者はフェアリーゴッドマザーを逮捕したり更生させたりして、童話を正しい方向に修正する。こうやって様々な童話に干渉してゆくのですが、『ハーメルンの笛吹き男』の世界では笛吹き男がいきなり火あぶりにされてたり非常にページをめくるのが楽しい作品でした。

太田 『グリム』とか『ワンス・アポン・ア・タイム』に似てるの?

はい。メタ構造を逆手に取った『シュレック』が一番近いと思います。ただ、このお話のポイントは、剪定者が「童話の修復が不可能」だと思ったら、童話の存在を消してしまえること。でもその童話の登場人物は生きてるから、別のお話に亡命させる。『ピーターパン』の人魚たちはずる賢く剪定者と交渉したことで童話『人魚姫』が生まれたとか。この辺りの設定が非常によくできている。

太田 話を聞いていると、すごいおもしろそうなんだけどな。

そうなんですよ。世界の見方がちょこっと変わりましたもん。私が忘れてるだけで、剪定者によって消された童話があるんじゃないかって。ただ残念ながら、話の運び方があまり上手でない。

平林 一本を通して、ひとつの話になっていないってことかな。

起承はしっかりしてるけど、転結がゆるくスピード感がない。だから、もう一歩という感じでした。あとこの作品は『キングダムハーツ』とすごい似ている。

太田 『キングダムハーツ』、僕はやったことないけど、どんな話なの?

様々なディズニー世界の物語を、主人公が旅をしながら修繕していくというお話ですね。私は『キングダムハーツ』が好きすぎるので、この作品をかなりひいきめに読んでいる気がします

平林 『キングダムハーツ』さ、ディズニーキャラが出てくるという理由だけでやってないんだよね。どうしてもディズニーキャラが好きになれない

太田 僕はそこまで言ってないから

話を小説に戻すと、主人公のナインの正体はネバーランドから消えたピーターパンだったことが明かされるのですが、話が盛り上がりと一致していないのも残念でした。

平林 なるほどね。

素材は大変すばらしいので、ぜひ次回作も拝見したいです。

平林 そして次回こそは、ちゃんとデータをつけて送ってほしいね。この人、2回ともデータがついてないでしょ? 次回ついてなかったらもう読まないということで。

応募規定は守っていただきたい!

読者を巻き込む結末を

今井 僕が読んだ『NOTE』なんですが、アイドル×アニメ『PSYCHO-PASS』みたいな話です。この世界には、モラリティセンスという、いかにモラルがあるか、どれだけ善行を積める素質があるか、を数値化した指標があります。上限値は100です。

平林 林さんはモラリティセンス低いんじゃない?

かなり低いと思いますね〜。

太田 僕は100近くあるね、きっと。

今井 (太田を無視して)国民的アイドルであるルイスミドルというユニットは、二人ともそれが90を超えている。容姿も中身もパーフェクトな、めちゃくちゃいい子たちです。世の中が作っているイメージとしては、ももクロみたいな感じですね。で、そのうちの一人が殺されちゃって、しかもそれをやったのが相方であると。本人も「私がやりました」と言うんです。

平林 おもしろそうじゃん。

今井 そこから始まって、「おっ」とは思うんですけど、結論は、実は◯◯◯がやりましたという

真犯人をかばっていた理由を探ることが、ミステリになるんじゃないんですか?

今井 そこはそうなんですけど、結局真犯人は、記憶を消され顔も変えられ、もともと低かったモラリティセンスも高くなっちゃってたんですよ。で、このシステムには、まだまだ穴があるよね、みたいな終わり方で。

架空のシステムや社会問題の弱点とか言われても、共感しにくいですよね。

今井 風呂敷を広げるところまではよかったんですけど、たたみ方を考えずに書き出しちゃったのかなという感じがしました。

400人の妹は偉大だが、まだ壁を破れていない

石川 次は『マイス・メガロマニアック』。最近おなじみの「400人の妹」の方です。

一同 ああ〜。

岡村 400人の妹、偉大だなぁ。その設定だけで投稿作品を思い出せるよ

石川 3回連続5回目の投稿になるんですけど、少なくともここ数回についてはずっと同じような指摘をしてきたと思います。「勉強が浅い」「独りよがりである」「途中でわけのわからない切り替えが入るのでついていけなくなる」ということですね。また続けての投稿だったので心配していたんですが、今回は少し期待をして読み始めたんです。というのも、手書きのメッセージがありまして。

太田 メッセージ

石川 「座談会がとても参考になりました。この作品でお返しができると思います。よろしくお願いいたします」と。

これは期待できる!

石川 ミステリ作家志望の大学生が、どれだけがんばっても作家になれないので、自殺志願者が集まる家に行って死のうとするところから話が始まります。メッセージも相まって、どうしても作者本人の姿が透けて見えてくる設定で、冒頭は鬼気きき迫るものを感じさせてよかったんですけど、全体としては、まだ足りない。これまで書いた作品の類型から抜け出せていない印象ですね。書く力はあると思うんですが、それを売り物にするための努力が圧倒的に足りていない。やっぱり間をおいてでもいいので、これまで自分が作ってきてしまった「型」から離れたものを、腰を据えて書いてほしいと思います。

平林 一回会って、お茶くらい飲んでみたら?

石川 うーん、もう少しステップアップが見えたらそれもありなのかもしれないですけど、まだそこまでじゃないかなと。

平林 石川くんもなかなか厳しいね〜。

「伝説の重言」とは?

平林 歴史ものがいくつか僕の担当になってるので、いくつかまとめて話をしていいですかね。まず『幸村転生』なんだけど、これはねマジでやばい。

どうやばいんですか?

平林 真田幸村が異世界転生するんだけど、文章がやばいのよ。特に「伝説の重言」と言われる言葉が出てくる。今、僕が勝手にそう名付けたんだけど。

太田 それってなに?

平林 ふたつあって、ひとつ目は「頭痛が痛い」。

一同 あー。

平林 もうひとつはなんだと思う?

「馬から落馬」?

平林 そう、それが出てくる! まさか生きてるうちに、本気でそう書いてある原稿を読めるとは思っていなかった。その時点でね、投げ捨てましたね、原稿を。

太田 その一箇所だけで!? ちょっと厳しすぎない? 僕はそんなことしないけどね。

平林 しかもデータのみしかない。

太田 ええっと、いいところはなかったの?

平林 ないですね。とにかくつまらなかった。「『真田丸』が好評であることから、真田幸村がネット小説の文法としておなじみのファンタジー世界へ転生する物語を企画」って書いてあるけど、お前『真田丸』見てないだろ! って内容なんですよね。そして、丸島和洋まるしまかずひろさんの『真田信繁の書状を読む』は絶賛発売中です!

担当作の宣伝につなげてきたよ!

平林 え〜、次は『二十九の星後漢光武帝戦記』です。これが今回読んだ歴史ものの中では一番読めました。10年前にファンタジア大賞の佳作を受賞してる方です。「二十九の星」というからには、雲台二十八将と光武帝の話なんだろうと思って読み始めたんですがそもそも二十八将が出揃わない。

太田 どういうことなの?

平林 要するに、途中で終わっているんです。前座にあたる王莽おうもうの話を細かく書きすぎて、全然物語が進まない。あと、勉強はしてるんですけど、ちょっと古い研究を読んでしまっている。奴隷さがし競争時代の研究は流し読みでいいと思います。それよりも自分で漢文を読めたほうがいい。あと、本格的な歴史ものなのか、キャラクター小説なのかという点でも、どっちつかずな感じになってしまっていると思いました。努力は認めるんだけれども、作品としてはいろいろ瑕疵かしがあるという感じですね。

岡村 「一番読めた」と言いつつめっちゃダメ出ししてますね

平林 で、最後は『修羅は春の花のように』。この方の作品は、以前に石川くんと林さんが読んでるんだけど、覚えてる?

石川 特に思うところはなかったかなと

すいません、全然覚えてないです。

平林 これはですね、孫子そんしの話なんですが、まずリアリティレベルがわからない。歴史ものなのかファンタジーなのかというのが示されていないので、どう読めばいいのかがわからない。力が及んでいないのに逃げているみたいな、そんな風に感じました。歴史ものは難しいので、とにかく史料にとりくむ覚悟だけは決めてから取りかかっていただきたいと思います。

ミステリ大賞最終候補作の登場

岡部 次は『蹄の音を聞いたら縞馬ではなく馬だと思え』ですね。これは、横溝正史よこみぞせいしミステリ大賞で最終候補作まで残った作品です。

石川 僕も読んでみました。ざっくり言うと、2時間ドラマの医療ミステリと刑事ものをドッキングさせて、そこに探偵を登場させた、みたいな話です。だから、視点は探偵と医者と刑事の三つあるんですね。探偵サイドは、この物語の中ですでに名探偵として数々の事件を解決している名探偵と、その姪っ子にして助手の女子小学生が出てきます。医者サイドでは、ERで働く女性医師が視点人物。刑事サイドには、40歳くらいのガチムチ系の警部が出てくる。

平林 なんかいろんなものをぶち込んでくるな。

石川 事件もいくつか起こります。ひとつ目は、子供向けアパレル会社の社長が殺されて、彼の子供である兄妹が監禁される事件。なので、まずこの殺人と監禁の犯人は誰なのかというのがひとつ目の謎です。ふたつ目は、その監禁されていた兄は失語症になってしまっている。しかし、ただの心的外傷ではないらしく、脳機能にも障害はない。じゃあなんで失語症になってしまったのか、というのがふたつ目の謎。三つ目は、同じころに、アナフィラキシーショックを起こして一人の女の子が病院に搬送されてくるんですが、アレルゲンの特定がまったくできない。なにが原因なんだ、というのが三つ目の謎です。そしてもうひとつ、最後に効いてくる第四軸の事件として、バラバラ殺人があります。男性が一人殺害され、内臓がきれいに切り分けられていた。

太田 おもしろそうじゃん。

石川 まず、アパレル会社社長殺人事件については、一人の容疑者が浮かび上がります。それは、アナフィラキシーで入院していた女の子の父親なんですね。その父親を追う中で、女の子がアナフィラキシーを起こした原因もわかってくる。実は、◯◯アレルギーだったんですよ。◯◯が体内に残っていて、アレルギー反応が起きていた。だから、いくら調べてもわからなかったと。

平林 調べてわからないなんてこと、ありえるの?

石川 うーん、どうなんでしょう。結局その父親は殺人犯ではなく、◯◯を守るために◯◯が殺した、というのが真相でした。というのも、その社長は、5〜9歳の子供に異常な執着を覚えていたんですね。

(一同、石川を見る)

石川 なんでこっち見るんですか!!

平林 (頷きながら)そういう人もいるよねぇ

石川 5〜9歳の子供の、あらゆる表情を写真に収めたいと思っていて、そこには◯◯◯されている姿も含まれている。だから〜(と真相を語る)。

太田 ◯◯の◯◯だったのね。

石川 ◯◯◯◯は◯◯の問題なので、◯◯は関係なかったんですよ。

太田 そうなんだ、◯◯◯◯は◯◯関係ないんだ。勉強になった! ロリコンと◯◯◯◯は違うんだね。

石川 まったく違います。

今井 ロリコンの石川くんが言うと、説得力ありますよね。

石川 ここまでまったく探偵サイドの話を出してないんですけど、この探偵助手の少女がメインの人物です。彼女は11歳にして、なぜか異常な医学の知識を持っている。その知識を使った推理で、おおよその謎は解決していくんですね。では、なぜ彼女はそんなに博識なのかというと、実の父親に虐待を受けながら無理やり教育を詰め込まれていたからなんです。それを見かねた叔父=探偵が彼女を引き取ることになるわけなんですけど、ここに、さきほどのバラバラ殺人事件が絡んできます。つまり〜(とさらに真相を語る)。

太田 ◯◯は死ぬんだ

石川 そこはさらっと死にますね。というところで完と思いきやさらに仕掛けがあります。バラバラ殺人の被害者は、推理作家でもあったんですね。それで〜(と結末を語る)。

太田 なるほど、やばい人だったのね。ミザリー的な人だったと。これは何枚くらいあるんですか?

石川 トータルで600枚以上あります。しかも、真相が明かされて盛り上がってくるのが、後半の4分の1〜5分の1くらいからなんですね。それまでは、職場内の人間関係とか、結構だるいんです。

岡部 ER内の恋の行方とかが書かれてますよね。

石川 それこそ2時間ドラマ的なものが展開されていて、しかも視点が三つあるので分量も三倍なわけです。解決の手つきや盛り上がりはさすがによかったんですけど、それ以外は文章力含めて二、三歩足りないかなと。

平林 今回上げたものよりも劣るってことね。

石川 劣りますね。

太田 ええ〜。せっかくの横溝賞最終候補作なのにな。僕もこれから読んでみるよ。

映画好きがニヤつく映画小説を待ってます!

次は『悪夢の効用』ですが、これは自主映画で村おこしするお話です。

平林 夕張は映画で活性化されなかったけどなぁ。

主人公は役場の人間。「うちの村でロケしませんか?」と営業をするのですが、唯一手を挙げたのが気鋭のホラー映画監督。村を「呪われし村」として演出したい監督と、そんな村のネガキャンは許さないという主人公のドタバタ話ですね。

今井 監督が突っ走るのは、現実にもよくあることだよね。 

監督の暴走を止めたいけど、映画が完成しないと困るという主人公のアンビバレントな葛藤もよくできているんですよ! でも、ここは映画好きとしてもの申したい! こんな適当なロケハンはないし、現実の映画監督の方がもっとクレイジーだよ! 黒澤明くろさわあきら監督は、情景に合わないからって民家を潰しちゃうんですよ!?

今井 中の映らないタンスの中に着物を入れておくとか。

平林 ヤカン待ちとかね。

監督のおもしろエピソードなんて、掃いて捨てるほどあるんですよ。『エクソシスト』のウィリアム・フリードキン監督って、撮影中ずっと銃でキャストを脅してたんですって。

岡村 え、それって本物の銃?

時々マジで発砲したらしいです。だからキャストはビビって、いい恐怖の表情が撮れたんだと。小説でも、そういうエキセントリックな監督にしてほしかった。なんかこの監督にはカリスマ感が全然ないんですよ!

今井 逆に今みたいなエピソードが入っていたら、映画ファンはニヤッとするってことだよね。

そうですね。あと、撮影を通して村の人たちとのケミストリーがないのも残念。沖田修一おきたしゅういち監督の『滝を見にいく』という映画があるんですけど、ロケハンに参加してた現地のおばちゃんをそのままキャスティングしちゃったんですよ。映画撮影を通して、現地の人も変わっていく、そんなドラマチックな展開が必要だと思いました。

太田 盛り上がらなかったんだ?

単に色々あったけど映画完成してよかったね、って話になってる。設定を考える力はあると思うので、次回作に期待します!

ふたつの組み合わせは相性が大事

石川 次は『魔女は目を開けない』、岡村さん。

岡村 これ何の話だと思います?

魔女がずっと寝てるんですか?

岡村 いや違う、囲碁の話なんだよ。主人公はめちゃくちゃ囲碁の強い女性で、囲碁のプロ棋士なんです。囲碁棋士には、プロ棋士と女流棋士がいます。両方ともプロなんですけど、女流棋士というのは女性限定のプロです。一方のプロ棋士は、女性もなる資格があるんですけど、今のところ現実では男性しかいない。少なくとも今現在はプロ棋士と女流棋士はプロ棋士のほうがレベルが数段上で、未だかつて一人の女性もプロ棋士試験に受かったことがないんです。ただこの話の中では、主人公の女の子は女流棋士ではなくプロ棋士になっていて、しかもタイトルを獲得しているトップレベル。だけど、目が見えない。盲目とかそういうことではなくて、精神的な理由でまぶたが開かない。というところまでが前提となって話が進みます。

今井 岡村さんって、囲碁詳しいんでしたっけ?

岡村 いや、僕は『ヒカルの碁』くらいしか読んだことがないんだけど、その僕が読んでも囲碁に関する部分はおもしろい。僕が囲碁の作中描写を完全に理解できているわけではないのですが、棋士の必死に戦ってる姿や、人生のバックグラウンドとかが伝わってきて熱い。ただ悪いところとしては、この作品は、囲碁とミステリを掛けてるんですね。なにかふたつを組み合わせるって、題材としてはキャッチーで好きなんですが、それがうまくハマってない。

太田 囲碁ミステリには、竹本健治たけもとけんじさんの『囲碁殺人事件』という傑作があるけどね。

岡村 主人公の女の子のまぶたが開けられない理由が、七年前の自身のプロ試験時に起きた殺人事件で、そのショックで事件時の主人公の記憶が抜け落ちています。これについてまず違和感を覚えたのが、いくら目が見えないからって、7年間この殺人事件についての情報が主人公に対してシャットアウトされているのは少し無理があるのでは、ということです。

太田 7年間はさすがに長いな。

岡村 特に主人公は、女性かつプロ棋士のタイトルホルダーというスターなのでメディアにも出ている。記者会見とかでもしっかりと受け答えしてる。だから本人が望んでいるわけではないのですが、普通の人より目立った生活をしているんですよ。あとは、この殺人事件には実は黒幕がいるんですが、黒幕についてのエピソードにも違和感がある。黒幕が殺人者に対してマインドコントロールの知識を駆使してカウンセリングをしてあげていたのがこの事件の起因なのですが、それと囲碁が正直、嚙み合っていない。これならストレートに囲碁ものを書いてもらったほうが読み手の胸を打つと思いました。もし今後、なにかふたつのものを組み合わせる設定でやるのなら、それが組まれたら本当におもしろいのかどうかを最初にかなり考えてから書いたほうが良いかと。

いいから鉄道を書いてくれ!

皆さん! 『魔法使い鉄道』は、あの電車が好きすぎる高校生の新作ですよ! しかも今回は魔法学校ものなんです!

一同 な、なんだってーー!!?

びっくりですよねぇ。お話は、何十万人に一人が魔法使いとして生まれてくる世界が舞台。生まれたときから魔法使いは世間と隔絶された特殊機関で育てられるんです。高校生の主人公はそれまで何不自由なく魔法使いとして暮らしていたのですが、ある日、魔法使いが人を殺してしまって、「魔法使い=悪」だという世論になってしまう。秘密の場所にあるはずの学校もヘイトスピーチ軍団に包囲されちゃいます。

平林 なぜ場所がわかったんだ!

今井 色々おかしくない?

そう、序盤でかなり設定が破綻しているけど、本当にすごいのはここからです。世論のイメージUPのために、主人公とクラスメイトは高校を卒業して鉄道会社に就職するんです!!!!

一同 いやいやいや!

太田 鉄道キターーーーーーーー!!!!

岡村 魔法使いと鉄道がぜんぜん結びつかないんだけど

一応理由は書かれています。鉄道というのは1日に何十万人という人の命を預かる責任ある仕事で、人身事故を防ぐために魔法が必要だと

今井 命を預かるってことなら、国防にまわってもらったほうがいいのに。

平林 ミサイル撃たれた時に止めてほしいよね〜。彼さぁ、色々書いてくれてるけどもういいから鉄道だけ書けよ!

私もそれが言いたいんですよ! 彼らが学校から勤務先まで行くために、生まれて初めて鉄道に乗るシーンがあるんですけど、そこの描写はやっぱりよかった。

平林 いつもそうなんだよ。僕が担当した時も、鉄道に関する描写だけはいきいきしていて、読ませるんだよね。だけど、自分の興味のない題材を書いている時は、明らかに手抜きになる。

だからこの方が今後どうすればいいのかを考えました。異世界に行って鉄道を作っちゃえばいいんじゃないかな!!!

今井 それいいね。鉄道を敷くってことだよね? ダイヤも全部自分で作って。

太田 それおもしろそうじゃん。鉄道ものの異世界転生はあるの? もうあらゆるものが転生してると思うけど

石川 (ネットを検索して)「小説家になろう」にいくつかありますね。書籍化まではされていないみたいですけど。

太田 さすがだなんでもあるなぁ。じゃあダメかぁ。

今井 あとは、ゴールドラッシュ時代の鉄道ものとか? 誰も手をつけてない題材を見つけてほしいですよね。それにしてもこの方、本当に投稿ペースすばらしい。

太田 18歳でこれはすごいよ。この人は人生のすべてを鉄道に捧げてるかのようだよね。鉄道ミステリとかはどう? なにかないかな、最前線の電車トリック。今更新しいなにかが出てきたらビビると思うけど。やっぱりさ、ダメなものって思われてるじゃん、鉄道ものって。思い返せば、綾辻さんとかが出る前の本格ミステリはそうだったんだよ。探偵とか、館とかはださいものだったんですよ。だからこそ、電車ものの再発明ってあるんじゃないかな。だって、電車の漫画とかドラマとかは世の中にたくさんあるわけじゃないですか。でも、ミステリだけがない。

石川 でもこの人、ミステリ書けるんですかね?

平林 いや〜どうだろう。この人が緻密に設定できるのは、鉄道関係だけなのでは。でもそれは、18歳だから仕方ない。これだけのペースで作品を完成させられるだけでも大したものだよ。

岡村 やっぱりガチで鉄道を書いてもらったほうがよさそうですね。

石川、本当に残念がる

石川 次は『アレグロ』ですね。これ、途中までは本当によかったんです。舞台は架空の近世ヨーロッパ。浮浪児だけど語学の才能がある少女が、貴族に通訳として買われ、壮絶な経験をしながら立身出世していきます。女性向けのレーベルから出ていてもおかしくない雰囲気の作品で、けっこう苦手なタイプだと思ってたんですが、面白くてまったく気になりませんでした。ところが、最後の最後で結末から逃げてしまった印象なんです。ヒロインが八方塞がりの状況に陥ったところから、最後にどうやってオチをつけるのか楽しみにしていたんですね。うまく落としたら新人賞に推そうと思っていたんですが、最後の数枚でそれがマイナス評価に転じてしまって、すごく残念でした。これはこれでひとつの結末なのかもしれませんが

岡村 最後以外はとてもよかったと。悔しそうだね

石川 地理的なこともよく考えられていて、国自体は架空なんですけど、国家間や地域間の関係とか、それぞれの地域のカラーとか、地政学的なこととかまで、けっこう踏み込んで書かれているんです。

岡村 めちゃくちゃおもしろそうじゃん!

石川 話の内容は結構ハードなんですよ。ヒロインは、生き延びるために娼館しょうかんに身を寄せたり、身体のパーツがお金になる街で自分の爪をはがして売ったり、恩人だったはずの貴族に殺されかけてすべての記憶を失ったり。で、自分を買ったその貴族というのが、実は自分の両親を間接的に殺した人間だったんですね。そこで、最終的な主人公の行動原理は、親の仇である貴族に復讐を果たす、ということになるんですけど、同時にその貴族に好意をもってもいるわけです。自分を見初みそめて引っ張り上げてくれた人物なので。

岡村 復讐を果たすべき相手なのに恩人でもある、ってことで苦悩やドラマが生まれるわけね。

石川 そうです。しかも、貴族が溺愛する息子とは恋仲になってしまう。そういう複雑な関係性のなかでの心理描写もよくできていて、書く力はかなりあると思います。それだけに、惜しいとしか言いようがない! 結末から逃げずに、最後までしっかりと書ききった一作を、また投稿してほしいです。

石川推薦の方から、まさかのご投稿

石川 ここからはそれぞれが上げた作品ですね。まずは、僕が時間があったら読んでおいてほしいと言った『girl kill it』。この方はすでに他社でデビューしていて、実は以前太田さんに、お声がけしてみたいと言ったことがあるんですよ。今が2016年であることを忘れるほど、濃厚なゼロ年代成分をまとった方です。あいにく、そのときは僕が太田さんに企画を通すことができませんでした。そんな方が、今回偶然にも投稿してくださったと。

太田 僕も目を疑ったよ。

今井 実は石川くんが手引きしたとかではなく?

石川 まったくないですね。で、ご投稿いただいた作品なんですが、例によって、ゼロ年代の残り香をゼリーで固めたような

太田 そこ、ゼロ年代って言っていいのかなぁ?

石川 うーんとにかく〝かつて熱狂していたもの〟に似てるというか数行読むだけでも伝わると思うんですけどなんだろうなぁなんて説明したらいいんですかね

いつもはロジカルに説明する石川くんが当惑している!? それくらいエモーショナルなものってことなんですね!?

石川 こういうのが好きな人はきっと世の中にまだ100人くらいはいると思うんですけど、逆に言えば、100人しかいない。

太田 破滅的な殺人鬼の女の子が現れるけど、その子にもちゃんとトラウマ的ななにかがあって、少年とのボーイミーツガール的な交流の中で、お互いの傷をお互いに認識していくみたいな話なんだよね。

石川 ただ、その傷とかトラウマがなんなのかは、はっきりとは書かれない。なんとなく「俺たちは傷ついているんだ」的なノリで最後まで進んでいく。

太田 ちょーっと殺伐としすぎてるんだよね。

石川 この話に「殺伐としすぎてる」という感想を抱く人は、きっとこの話が届いて、ちゃんと読んでくれる人だと思うんです。でも、それ以前に大多数には拒絶反応を起こされてしまって、届かないんじゃないかなあと。

太田 なんで届かないんだろう。

石川 そういうミームが失われてるんじゃないですかね。

太田 なるほどなぁ。当然、僕はそういうミームはあるんだよ、悪くないとは思う。だがしかし! って感じだよね。どうします?

石川 声をかけて好転するんだったら、一回お話をしてみたいんですけど。文章を書くことを商売にしたいんだったら、自分の書きたいものに、なにか別の皮を被せて届けるということをしないといけないと思うんですよ。

太田 それは極めて重要なことですね。この人は「ものを書きたい」というリビドーがむちゃくちゃある方だから、そこは本当に応援したいんです。ただ、星海社は自費出版の会社ではないから、なんでも書籍化できるというものでもない。本を作る上での金銭的なマイナス面はすべて出版社が負うっていうのが日本の出版の流儀だからね。僕はこの人の作品はおもしろいと思えるんだけど、しかし売れる売れないで判断しろって言われると売れないんです。そこを無理して出版すること自体は簡単なんですけど、それはある意味で、この方をもっと追い詰めちゃうことになりかねないんですよ。

石川 出してダメだったという実績ができちゃうってことですね。

太田 ある意味この人もよくないのよ。方向性を変えたほうがいいのは明らかなのに、ただ同じベクトルで質を上げられても困るということだね。未だに「初期衝動だけで書いちゃった」って感じがするんだよね。同工異曲をよくない意味で繰り返し続けて、小説家として成長できてないところはあると思うんですよ。

石川 僕は彼のデビュー作を買いましたけど、自分みたいな人間がそんなにたくさんいるとは思えない。

太田 やりたいことをやって、市場からもそこそこ以上に受け入れられるってのが一番いいじゃないですか。この方がそれをできるかどうかだよね。

石川 たぶん衝動だけで書いていて、細部の描写がほとんど捨象されているので、そこを直してほしいですね。

太田 読者のことは、きっとほとんど考えてないよね。

石川 この手のノリがわかる人は、いろんなことを補いながら読めるんですけど、わからない人は、「なんでこの女の子は人殺しをしているのか」とかまったくついていけないと思う。

太田 ダメなコーマック・マッカーシー、そんな感じだよね。あとはダメなジェームズ・エルロイとか。たぶんそういうのが好きなんだろうなと。こういう話は、石川さんとならずっとできるんだけど、残念ながら、そういう人は世の中に少ないんだよ。エルロイにしてもマッカーシーにしても、ちゃんと土台があった上で書いてるんだけど、今のこの人にはないんですよ。そこでやっぱり、がらっと変われるなにかを、石川さんがヒントくらいは出してあげるべきなんじゃないかなと思います。

石川 わかりました。そのへんを伝えてみようと思います。

太田 逆に言うと、これだけ小説家になるための作法本があふれている中で、こういうのを書いちゃうのはすごいと思いますよ。これはもちろん褒め言葉ですよ! 傾向と対策があるつまらない世界になっちゃってるわけだから。ある意味テンプレ的な小説作法というものが厳然としてあって、それにきちんとついていきましょうという編集者や小説家もたくさんいると思う中で「これかよ!」という驚きがありますね。

すさまじいラグビー小説に、編集部がどよめく

石川 次は今井さんの上げた『花園』ですね。

今井 えー、ある日突然地球に現れた宇宙人「ヘルへイム」によって、アフリカの小国が跡形もなく消えます。世界中が警戒態勢に入るのですが、宇宙人の要求はひとつで、「自分の星の代表と、地球のどこかの国の代表とでラグビーの試合をしたい。もし我々が勝ったら、アフリカのときのようにその国を消す。負けたら、見逃してやる」のみ。運悪く敵国に対戦指名を受けてしまった日本は、国をあげて最強のラグビーチームを組織します。もちろんベースは日本代表チームなのですが、異分子が四つ。人間を含めあらゆる生き物の声を聴く能力を持つ女子高生みすず、何かしらの超能力を持つ同じく女子高生の里衣奈、監督に抜擢されたのは20歳の車いすに乗った天才大学生乃亜、そして

登場するキャラ多いけど、みんな魅力的ですよね。特に詩織!!!!

今井 地底人として発見された二足歩行する異形のおお蜥蜴とかげ「詩織」。ちなみに、詩織の第一声は「ケシャアアアアアアアアアアアアアッ!」です。この4人の少女を加えたラグビー日本代表が宇宙人とどう戦っていくかというお話で、むちゃくちゃおもしろいのですがみなさん本当にすみません! 未完結でした!

太田 本当にひどかったよ

今井 次々と広げられていく風呂敷を見て、これを畳めたらすげえな、と思いながら読みました。とくに詩織。

詩織ちゃん物語を破綻させかねないキャラですよ。この発想、並の人間にはできない

岡村 いやいや、『範馬刃牙はんまバキ』でもピクルが出てくるじゃない。だから、ギリギリありですよ。

記者会見シーンとか読んでて私声出ましたもん。「ええ、うそ!?」って。『週刊少年ジャンプ』の引きだったら、最高だと思いますよ。

太田 でもこれ、基本的に僕が小説として認めたくないタイプの読み物なんですよ。テーマがないんです。僕は、ただおもしろいだけのものは、「小説」じゃなくて「読み物」だと思うから。小説には、やっぱりある種の文体とか作家性とかテーマが必要で、でもこの作品にはそれがないんですよ。最後まで読んでもわからなかった。しかし、抜群におもしろいんだよね。

今井 一応ありえるのは、危機管理ですね。

太田 危機管理なるほど。

平林 でも違うでしょ。これ絶対さ、これとこれを合体させたらダメだろってやつを合体させて、無理やり力技でおもしろく書くっていう類の小説だと思う。

一同 ああー。

この作品がすごいのは、ラグビーがまったくわからなくても読めるところ。わからないなりに読ませるんですよね。ラグビーってめちゃくちゃルール難しいじゃないですか。

太田 最初は、「またくだらないもの上げてきやがって!! 今井め!」と思ったんだけど、おもしろい。正直、早く続きが読みたい。だからこそ途中で終わった時の切望感。「え!?」っていう。こっからじゃないですかって。

今井 僕も、これは絶対当たりだと思ったから、全部読みきる前にみなさんにご連絡したんですよ。読みながら、おいこれついにおれの担当から新人賞出ちゃうぞと思って。

太田 僕も悔しいけど、これは小説じゃなくて読み物なんだけど、もう新人賞を差し上げざるをえないだろうと思ったもの。ところが驚愕のラストだよ。途中で切れてるっていう。しかも異星人との試合がはじまる直前!

まだ人間同士の練習試合しかしてないですからね。

今井 日本代表と、20歳の女監督率いる下部リーグのチームが戦うやつね。あれも、「監督が知略を尽くして圧倒!」みたいなことを、短絡的にやらないのがいいじゃないですか。

岡村 そうそう。いい意味で期待を裏切っていくのが非常にうまい。それにキャラがすごく個性的。監督が記者会見の場で、意味がわからないけど自分の腕にはさみをぶっ刺して血文字書くじゃない。「この血にかけて誓います。私は彼ら日本代表を必ず勝利に導きます」って。もう最高にかっこいい。ほんと惚れる。

めちゃくちゃだけど、理にかなってるんですよね。やってることはちゃんとしてる。練習試合のくだりも、日本代表チームの実力証明と同時に監督のキャラ説明ができていて無駄がない。

太田 おもしろさって、予想を裏切るってことだよね。この作品は主人公のテレパス能力だけだとちょっとどうかなって思うけど、やっぱり詩織だよ。本当にすいませんでしたってなるもの。

平林 この中断しているところから書くとしても、詩織を実戦で使い物にできるのかな? 記者会見のときに伏線を張ったけど、うまくそのあと活かせてないじゃん。だから、難しいと思うんですよね。なんで書き上げて、次回に送ってくれなかったのかな。これで受賞はさせられないよ。

今井 そうなんですよ。

太田 ちょっと連絡とって、完成してるんならそっちを送ってほしいって伝えてくださいよ。これはあまりにもカルト的ななにかなんで、賞は無理だけど、うちで連載やってもいいよ。いや、むしろやりたい。本当に僕もね、18年選考をやっててこんな気持ちになることは初めてだからね。ある意味で敗北を認めてる。小説にはテーマとかそういうものは必要ないかもしれないっていう。ただおもしろいだけでもいいんじゃないかって。

区切るところもしっかりとしてるんですよね。だからWeb連載向きだと思うんですよね。

太田 ただ、僕はラグビーをくわしくは知らないから、ラグビーのシーンがよく書けてるかどうかはわからない。野球でやったほうがメジャーだと思ったけど、わざわざラグビーを選ぶってことは、ラグビーシーンもよく書けているはずなんだよ。少なくとも素人が読んで、破綻はなかった。

今井 なら、ぜひ実写で見たいですね。あの銃で詩織の背中をかくところとか。

太田 もうダメだ。今井さん大急ぎで連絡とって。とにかく続きが読みたいんだよ!!!

今井 編集部一同、心から続きをお待ちしていますと伝えればいいんですね。

太田 ここからはじまるってところで終わってるからずっとダメだって言いたくて読んだわけなのに。

今井 ある意味、難癖つけようと思って、あら探ししながら読んだってことですね。

太田 そうなんだよ。僕とこの方の試合は5回裏くらいで終わってて、僕が負けてるんだよ。今のままだと5回裏で負けを認めないといけない。でも最後まで読んでやっぱりダメだったじゃないかと言いたいんですよ。だから、ぜひ最後まで読ませてもらいたい。お話としての展開はすごいレベルとしか言いようがないんだから、最後までやってほしい。最後にあっと驚くなにかがあったら、これは本当に文句ないですよ。詩織に思いも寄らぬすごい活躍があったりしたら、俺泣いちゃうよ。

今井 これ、作中では日本中でいろんな問題が起きてるはずなんですけどね。

石川 そのあたり、もうどうでもいいですよね。

今井 そうそう。そういうのも気にならないんだよね。

太田 日本社会がパニックになるはずだし、どう考えてもさ、みんなテレビとか見る前に、日本から逃げ出すでしょ。

一応逃げ出す描写はありますけど。

太田 二行くらいでしょあれ。ほんとにぞんざいだったよね。やる気ねえよ。そもそも、ラグビー場を維持するような発電とかが行なわれているはずがないんだよ、どう考えても。これはね、作品のタイプとしてはあの『進撃の巨人』にちょっと似てるのかもしれない。中学校のときとかに、となりのクラスまで回し読みされちゃうタイプのものなのよ。

哲学を学べるメイド喫茶小説

石川 次は、『欠けているものに住まうこと』。舞台は、メイドや従業員が哲学的な問答を繰り広げる、あるいは哲学的な受け答えで客の悩み相談にのることが売りのメイド喫茶です。そこでの一春の成長物語ですね。

岡村 僕は好きですねこれ。

石川くんごめんねこれまで石川くんが推薦した百合ものは、ことごとく苦手でした。でもこれはすごくおもしろかったです!

平林 僕も今ひとつわからなかったんだよ。ただし、力量は認めるという感じ。

太田 まず、番外の戦いになるんだけど、原稿に添付されている手紙がよかった。この人が書店で僕たち星海社の本を見つけて、「いいな」と思ったというのは、僕的にすごい好感度アップなんですよね。あとね、略歴の説明文から彼の非凡さがわかる。「どこそこでなになにをした」という書き方で統一していて、全部一行。六行で半生の小説になってるんですよ。異様なセンスがあるんですよこの人は。

岡村 投稿作品も、めちゃくちゃ文章がうまい。読んでいてストレスをまったく感じない。

この物語、ミッドポイントまでは完璧ですよね。

石川 衒学げんがく的な内容なので、やりようによっては嫌みになりかねないんですよ。でも、上品でまったく鼻につかないところがすごい。

太田 そうそう。そうなのよ。あとね、こんなに綺麗な印字は見たことない。この紙の厚みのセレクトといい、素人離れしてるよね。

石川 内容が内容なので、途中までは、僕は好きだなくらいに思ってたんですよ。でも読み進めていったら、あ、これは普通に薦められるなと。

太田 『数学ガール』と近い感じがあるよね。あっちは理系だけど。嫌な感じがしないっていう。

でも中盤以降、明確な敵やライバルが現れないのですこし退屈に感じました。ピンチはあるけど、スリルがない。

太田 あと、親との和解っていうラストも、ベタだし、それからするとちょっと長いんだよね。

岡村 僕は知らないことを教えてくれる小説は好きなんですけど、これがすごいのは、それを教えつつ、説明的じゃないんです。言いたいことはわかるけどまどろっこしい投稿作は多いんだけど、この作品はそういうことは一切なかった。

太田 会話のセンスとかはすごいよね。しかしやっぱり話がちっちゃいのと、解決されるものに対して小説が長い。それくらいだよね、瑕疵は。

話が長い部分は、編集でなんとでもなる気がします。

太田 どうします、これ? センスはピカイチだと思いますが。

平林 とりあえず、他の候補作を見てから考えませんか? これだけで判断することじゃないと思うので。

投稿作品の続編は難しい

平林 次は『不幸のジュリエットなんて時代遅れですから!』なんですけどこれ、前回の『図書館猫は銀河の彼方の星に住む』の続きなんです。前回が不完全な『姑獲鳥うぶめの夏』だとしたら、今回は不完全な『絡新婦じょろうぐもことわり』なんですよね。前の作品を読んでないとわからないし、前回のもデビュー作にするにはちょっと足りない感じだったけど、そこで指摘された点を直しきれてない。主人公の偏差値問題とかね。

石川 おもしろいんだけど、その2割くらいは前の作品を読んでるからこそというか

平林 そもそも、これじゃデビュー作ですって出せないですよ。予備知識が全然ない状態で、読者に投げちゃうことになる。主人公とメインキャラクターたちにこの関係ができてるのは、前作の事件があってこそなんだから。

岡村 そうなんですよね。あとちょっと長いです。この人、すべてのシーンにおいて、今の文章を3分の2くらいに短くしてくれないかな、と思っちゃうんですよね。

石川 確かに、ちょっと冗長ですよね。イマイチ謎が謎になりきってないし、解決が解決になりきってない、というところも気になりました。

岡村 ネタとか単語とかガジェットはすごいおもしろいんだよね。前もそうだったんだけど。あとは、やっぱり主人公に対して違和感を覚えてしまう。

平林 やっぱり、前回の問題点を解決できてないんだよ。

主人公が賢すぎる問題ですよね。

岡村 性格もよくわからない。チェーンメールを意図的に送っておいて、いや俺悪くねえと開き直るその淡白さがよくわからない。あとサッカーを本気でやってるわりには、アクティブに世界中に行く暇がありすぎでしょう。強豪校のサッカー部とか、普通選手はもっとサッカー漬けだと思うんですよね。

平林 サッカーやるシーンが出てこないし、あと、なんだろうね、物語にとって都合がいいように主人公を動かしすぎているので、キャラクター像が固まらない。話はしっかりしてるんだけど、そのせいで主人公のキャラがぶれているとか。

岡村 そうなんですよね。「通訳的な立ち位置」という、主人公がメインキャラクターについていく理由はちゃんとあるんですよ。けど、それが話のおもしろさ的に必要かといえば、僕はいらないと思うんですよ。だから読んでて違和感がある。

太田 やっぱりさ、続きはよくないよ。そこに尽きるんだよねこれは。投稿作で続きを書くのは怠惰な気がする。尻切れはまだ許せる気がする。「最後まで書けよ」という感じだから。ダメさを糾弾しやすいし。

平林 この話の内容だったら、前回のキャラを流用しなくても、何らかの形で書けたと思うんだよね。

たしかに。でもこれほかの新人賞でそこそこいってませんでしたっけ?

平林 野性時代フロンティア文学賞最終候補作。

太田 残るよなぁ。残ると思うよ。

残るレベルなんですよね。本当にミステリの手つきとかはいいんですよね。外国の描写もちゃんとしてて、噓っぽくない。

岡部 でも僕は、IT知識の部分に違和感を覚えちゃって、のめり込めなかったんです。たとえば、OS間で感染するウィルスはないと断定していたり。私設図書館にウィルス付きのメールを送って被害が出たということだけど、どうやって感染してどれくらいの被害が出たのかとか。

平林 技術的に解決できる問題ではあるんだけどね。

石川 やや細かい指摘だという気もするんですが、この作品のリアリティレベルとか、描写の細かさからすると、そういうところのこだわらなさは瑕疵になりかねませんよね。

平林 ロシアってビザ要るだろうとか、それなりの研究者なのに、英語喋れなすぎじゃないかとか。

あったあった。

平林 英文サマリーくらい書けないと理系の研究職は務まらないだろうから、流石にあれはできなすぎる。

岡村 最初にいとこが「つまりジュリエットは戦術が足りなかったんですよ」と言うところがあるじゃないですか。その後にもう一回同じ言い回しを繰り返すんだけど、そこでは「戦術」ではなく「戦略」になっていてそういうのを見つけてしまうと、僕は途端に作品が悪い意味で「軽く」読めてしまうんですよね。一語で意味が全然変わっちゃうのに、そういうところは気をつけてないのかな? って思ってしまう。

平林 改稿してるのかってくらい、誤字が多い。粗い。急がなくていいので、新しい舞台、新しいキャラクターを用意して、新しいものを作ってほしい。ただ、ポテンシャルは非常にある。たぶん、ものを書くための調べ物もできる人だと思う。もしうまくひとついいものができて、それでデビューができて、それなりの売り上げを出すことができれば、そのキャラクターをあらためて使っていけばいいんだよ。

太田 僕もこの人は一回この世界から離れたほうがいいとは思う。あと、英文の中に◯がないっていうオチは、ちょっとやっぱり弱いんだよね。

石川 形式としては、前回の八進数と同じですよね。

太田 こういうのが、最後になんかのメッセージでちらっと振られてたら、おしゃれなのにね。西尾維新にしおいしんさんの『クビシメロマンチスト』の最後みたいにさ。それだとエレガントな気がするんだよね。なのに「これが一番の料理です」って感じで放ってくるのには「えこれなんだ」って感じになっちゃうと思う。

平林 でも、全体的にこの作品は、かなりいいほうに入る。読んでてつまらないとかは全然ない。

岡村 話を大きくするのもうまいですよね。

平林 技術的になんとでもなる部分はあると思うんだよ。だから、もうちょっと、引き続き頑張っていただきたいです。

より質の高いものがあるからつらい

平林 『キリンは電車に乗って』ですね。この方は前回『山羊の降る夜に会いましょう』を送っていただいた方です。最初に言っておきますが、僕はこの人は辛く見ます。

石川 前回よりは、断然こっちのほうがおもしろかったとは思います。

平林 いやいやいやていうかこれ、オチてなくない? あとさ、舞台はどこなの? 和菓子屋とか喫茶店とか稲荷神社とかさ、現実にある駅名を設定すべきところだと思うんだよ。

太田 そこはちょっと日常から浮いた感じを出したかったのかなと思う。

平林 そもそも、これってヒロインの話になってないんだよ。語り手が章ごとに交互に変わる、いわゆる往復書簡形式に近い形をとってるのに、最初に出てきた語り手がどんどん物語から外されていくのは問題があると思うんです。

中盤から登場する「狐」が、ヒロインの存在を喰っちゃってますよね。

平林 そう。で、結局、彼女の話ではなかったみたいなオチになり、なんか、本当の戦いはこれからだみたいな感じで終わってるじゃん。なんだろう、とにかく小器用で、ちょっと鼻につく感じで。

石川 鼻につく感じは相変わらずあるんですが、前回から多少は改善されてる気もしました。

太田 すごい進歩してると思いましたけどね。

平林 『ランボー怒りの改新』という本物を読むとね、つらい。圧倒的に、背後にあるデータベースの量が足りないのがわかるから。たぶん22歳の全力を振り絞ってるんだとは思うんだけど。

石川 その都度その都度、〝なんかいい感じ〟な描写をしているだけなのでは、とは思いますね。描写の積み重なりによってどうなる、ということがない。雰囲気イケメンみたいな小説なんですよね。

平林 あと、よくわからないシーンがあるじゃん。和菓子屋で他の客と話をするところ。あれ、いらないよね。後半はもっと、ちゃんと物語をドライブして収束させていかないと。

太田 僕は、逆に受賞でもいいかなくらいに思ったんだよ。

平林 60点が合格だとしたら、なんか51点か2点くらいの感じ。僕は一定水準以上だとは思ったので上げましたが、授賞には全力で反対したい。森見さんや前野さんと比べて、この人にしかないなにかがあるかと言われた時に、なにかあると現時点で言えますかね?

石川 僕も平林さんに近いです。これを読んで、自分の人生は変わらない気がします。

太田 ちょっとね、ふわっとした感じなんだよね。そこは確かにそうなんだと思う。

平林 そこそこよくできてて、口当たりはいいんだけど、残るものはないというか。

太田 でもそういう小説じゃないよ、これは。雰囲気を楽しむ小説なんですよ。僕は受賞でもいいとは思う。けど、積極的にあげたい感じではない。熱い担当者がいたらいいかなと思うレベルなんです。

石川 僕は、上品な感じの中で雰囲気を楽しむってことだったら、断然メイドのほうを推します。

岡村 それは同意!

平林 僕も好みってわけじゃないけど、作品としてはメイドのほうを推すかな。あっちのほうが独自性がある。

太田 あるね。でもあれはね、大元は哲学書ですよ。

石川 それをああいう形にしたというのが新しい。しかも、哲学は哲学でも、今ではあまり顧みられない領域ですからね。

太田 うーん、まあでも、熱い人がいないんだったら今回は無理に推すことはないかなって感じでしょうか。残念です。

最有望作を残して、座談会は2日目へ

石川 ということで、残るは1作品ですね。今回の最右翼はこれだと思ってます。

平林 一番才能があるのは間違いないね。

太田 すみません! この作品はしっかり腰を据えて読みたくって、実はまだ読めてません! なので、もう少し時間をいただいてもいいですか?

岡村 わかりました。では、後日再戦ということで。

今井 ラグビーの方には連絡をとってみますね。

今のところ、受賞作はありそうですか?

平林 授賞については、今後、どういうものを書けるかという資質とかもやっぱり考えるからね。そうすると、その再戦で取り上げる人か、『不幸のジュリエット〜』の人かなと。

太田 『不幸のジュリエット〜』の人はさ、あのクラスのものを何個か書けるというのがわかったわけだからね。

平林 あとは、もうちょっとだけレベルの高いものを一回書いてくれれば、安心してデビューさせられる。一方の『キリン〜』の人は、現状ではこれしか書けないのでは?

太田 引き出しがね。そこを見せてほしい。

平林 『欠けているもの〜』の人は、アイディア次第でいろいろ書ける人だと思う。

岡村 この人、めっちゃ才能あるよ。

太田 そうだね。だから今回はすごい豊作だったんだよ。

石川 いいものを送ってくださって、本当にありがとうございます!

岡村 これだけあれば、再戦でひとつくらい受賞作が出るんじゃないの?

太田 よくある、エンタメでそこそこ秀作のものよりも、星海社らしいものを出したほうがいい気がするよね。

そう考えると『キリン〜』はちょっと、って感じはしますよね。

岡村 やっぱり、ここはラグビーじゃないですかね。

今井 3作くらい同時に出たら、『ジャンプ』っぽいですよね。

太田 そっか、三つくらい出すのもアリだよね。

今井 おもしろいと思います。3ヶ月連続刊行とか。

石川 それでは、再戦まで、よろしくお願いします。

(座談会は、怒濤の2日目へ突入)

ラグビー、花園まで行けず敗退

石川 再戦ということで、よろしくお願いします。

今井 まず『花園』なんですが、今日までに書くことはできないということで、とりあえず今ある部分だけで評価することになりました。

平林 ということは、なしですね。

岡村 完成原稿じゃないから、仕方ないね。

平林 僕は完成しててもちょっと足りないんじゃないかと思うけどね。

今井 そうですか?

平林 最高の状態でフィニッシュしたとしても、難しいと思う。あれだけの枚数を費やしてあそこまでしか行ってないわけだから。完成しても水準に達しないと思う。

太田 僕は、読み物としては水準に届いてると思う。

少なくとも、みんなが熱っぽく語った作品ではありますね。

岡村 監督が最高でしょう。あの意味のわからん感じ。

今井 監督好きですね。

太田 まあ、さすがに未完成だからなぁ。でも、未完成でもね、文句がなければ受賞でも別にいいと思うのよ。しかしやっぱり、この作品に関しては、いよいよ「これから!」ってときじゃん。

岡村 たしかに。要は、評価ができないって話なんですよね。今の段階でおもしろいけど、後半がとてもつまらないって可能性もある。

受賞作は、あの作品の続編!?

石川 それでは、今回の大本命『ビアンカ・オーバーステップ神の世界に月はない』です。筒井康隆つついやすたかさんがタイトルだけお考えになっていた、『ビアンカ・オーバースタディ』の〝続篇〟です。主人公は、『オーバースタディ』のヒロインであるビアンカの妹、ロッサ北町。ある時突然、姉のビアンカがこの世界から消えてしまう。そして、ビアンカの行方を時間と空間と次元を超えてロッサが探す、というのが物語の骨格ですね。

平林 あんまり言うと、ネタバレになるんだよね

石川 そうなんですよね。投稿作という枠を超えて、最近読んだ小説の中では抜群におもしろかったです。ひとつの作品としてもそうだし、反則的ではありますが、ひとつのデビュー作と考えても、これに比肩するものはなかなか思いつかない。最初、このタイトルだけ見て、もうこれはペラっとめくって終わりにしようと思ってたんですね。他にも投稿作はあるし、ふざけてるのかと。そう思って読み始めたんですけど、すぐにただ者ではないことがわかった。ひらがなの使い方ひとつとっても、本当に新人なのかわからなくて、これはすでに経験のある方がおちょくって書いてきたのかなと疑いました。

太田 誤字脱字は結構多かったぞ。

石川 たしかに誤字脱字はありましたが、言葉の選び方も版面の作り方も綿密に考えられてますよね。たとえば、「ページがめくられた」と書かれているところで本当に紙のめくりが来るとか。

それは思った。すごい考えてるなって。

石川 これだけの完成度のものを読んだら、反則的だろうと上げざるをえませんでした。今回は下読みでこの作品を読めて、うれしかったです。

石川くんが、悟りの境地に達してる。

太田 逝くんじゃないか!?

石川 本にして世に問うまではまだ死ねませんね。筒井さんのところに土下座に行く覚悟はできています。

太田 いや、土下座に逝くじゃなかった、行くのは僕なんだけどな

平林 正直、これが図抜けてレベルが高かった。僕も2作品上げましたけど、ちょっと勝てない。

他のものも書けそうだなという期待感が一番あったのがこの作品でしたね。

太田 じゃあ、なんで他のものを書かなかったんだよ!

今井 それはすごい思いましたね。なんでこれを書いてしまったのか

太田 仮に彼が筒井ファンなのだとしても、ど真ん中の世代じゃないはずなんだよね。なんで『ビアンカ』だったんだろう。もしかしたら、26歳なわけだから、筒井さんの作品が教科書に載ってたからなのかもしれない。

岡部 ラストがメタ的に終わるじゃないですか、あそこがまったく違和感なく、最初からすっと読み込めたので、それはすごいなと思いましたね。

太田 普通は引っかかるものなんだよね。ああいったメタ的なラストでうまくはまっていた作品というと、何と言っても深水黎一郎ふかみれいいちろうさんの『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』だね。あれは本当に見事としか言いようがないオチだった。ただ、この作品が『ウルチモ・トルッコ』と違うのは、あれはそのオチのために書かれた本なんだけど、この作品は、作中に出てくるいろんな技の中のひとつでしかない。そこがすごい。

石川 (遠くを見ながら)この作品は全部が好きなんですけど、特にそのラストシーンは美しい

一同 (笑)

今井 石川くんに当たったことに運がある感じがしますよね。

太田 これはね、SFの歴史をある程度踏まえてないとおもしろさが伝わってこない作品なんですよ。石川さんにはその素養があったわけ。でも、仮に誰に当たったとしても、このレベルだったら編集部の誰もが上げてくれた作品だとは思う。たしかにすごい筒井リスペクトがあるんですよ、この作品には。

岡村 石川くんの今の気持ちは、なんとなくわかる。僕は、ここ3年の世の中の全刊行物の中で、最近さいきんさんの『アリス・イン・カレイドスピア』が一番おもしろいと思ってるからね。だから、本当におもしろいと思う作品に出会うと、まわりに何と言われようともう刊行したくてしょうがなくなる。あの本を刊行するときに、10回近く原稿を読み直してるけど、やっぱり今読んでも楽しい。だから、石川くんがそこまで思ってるんだったら、なにかしらの形で出してあげれば、お互いにとっていいんじゃないかな。

太田 まあねぇ。ただなぜ、僕が浮かない顔をしているのか。それは、この人が困った投稿者だからなんですよ。ある日、僕のツイッターのDMに、原稿を送ったのでみてください、みたいなメッセージが来て、ああ、うっとうしいなと思うじゃないですか。それがこの人だったんですよ。こういう、ある種のなれなれしさは、困ったなぁと思うんですよね。

岡村 まぁまぁ落ち着いて。

太田 しかし読んでみたら、石川さんほど熱狂的じゃないにしろ、平林さんに近い感想を持った。要は、新人賞に応募する作品としても、新人がデビューする作品としても、『ビアンカ・オーバースタディ』の続篇としても、ここは押さえておかないといけないという要素があるわけですよ。そこがね、全部80点くらいで綺麗にまとまってる。しかも着地点もいい。『ビアンカ』の続篇を冠する小説を書くときに、妹のロッサに着目するのも、やっぱり正解なんだよね。SF小説に求められるもの、ライトノベル的な読みものに求められるもの、星海社FICTIONS新人賞に求められているもの、筒井さんの作品の後継作として必要なもの、すべてのパラメーターが80点ある。贔屓目なしで見ても、60点以下のところはないよね?

石川 ないと思います。

太田 現代SFの単品作品としてもそうなんだよね。たぶんこれ、現代SFを書いている人は、読んだら結構悔しがると思います。もし、この作品が世に出ることになったら、みんな最初は「はあ? 筒井を舐めるなよ!?」と思って読むと思うの、僕と同じように。でも読み終わった後は、たいていの人は僕と同じ感想になると思うよ。なんか、小憎らしいけど、80点以上あるんだよなって。あらゆるもので80点を取るって、いつもの僕としてはけなし言葉なんだけど、それはやっぱりすごく難しいことだと思うんだよね。とくにこういうものにとっては。それが本当に成功してるから、本当に憂鬱になってくる。しかし、本当に言いたい、これだけのものが書ける方がなんでオリジナルで書いてこないの?

今井 本当にそう思います。全部80点というのもわかります。捨て曲のないアルバムみたいな感じですよね。

太田 そうなのよ! なんか破綻がないんだよね。唯一不満があるとするんだったら、その破綻がないことこそが不満ですよ。模範解答が来ましたみたいな。

石川 でも、かといって小さくまとまっている感じでもないじゃないですか。

太田 ないない、そうなんだよ! そこも、すごく嫌な感じがする。しかもそれは、完璧に80点をとるためにやって、実際にとりましたから、みたいな嫌な感じなんだよね。読者として負けを認めないといけないっていう嫌な感じがあるんだよ。爽快な負けじゃないんだよね。なんかさ、破綻はあるけどすごい勢いがある長編だよね、みたいなものならば、爽快な負け感があるわけですよ。今回だと『花園』みたいな作品がそうですね。

平林 この人は駆け引きができる人なので、付き合うのに体力がいる作家になるだろうね。ただ、非常に優れた書き手だと思う。

岡村 というか太田さんのこの作品に対する話しぶりって、まるで受賞させられない理由を探して列挙してるような。大前提として、すごい作品だっていうのはあるけど、無理やり難癖をつけてる感がありますね。

今井 石川くんに読ませたのをミスったと思ってますよね。

一同 (笑)

太田 いやいや、さっきも言いましたけど、今の編集部のレベルなら、石川さんほど熱狂的じゃないとしても、これは上がってきますよ。それに、これだけのものを書ける人だから、『ビアンカ』の続篇を書いて応募するってことがどういうことなのか、それなり以上にわかってると思う。

岡村 もし仮に筒井さんにご承諾いただけたら、いとうのいぢさんの絵で出せるんですか?

太田 出せる。というか、いとうのいぢさんに頼まざるをえない。帯も筒井さん以外はありえないんだから。

平林 正直、筒井さんのご承諾をいただけなくても、受賞はさせるべきだと僕は思います。受賞はしました、賞金は払います、でも筒井さんのご承諾を得られなかったので出せません、はありだと思う。

太田 なるほど。それはロックでいい!

岡村 石川くんの目を見てくださいよ。もうやりたくて仕方ない目をしてるじゃないですか。

平林 これはやったほうがいいよ。

太田 頭のいい人なんですよ。ここに送ってきたのも完璧な計算があるわけですよ。それが透けて見えるようだから、また嫌な感じになるわけ。いやいや、わかるよ? 作品で勝負しろってことでしょ? わかってますよ。でもそうしたら80点なんだもの。要はこの作品は、優れた小説なんですよ。

一同 おおっ。

太田 それは最初から言ってるじゃない。

岡村 じゃあ、結論は出てるんじゃないですかね。

太田 えぇじゃあ、聞いてみる? 筒井さんに。でもなぁ、なんか僕の嫌な心の中まで見透かされている感じがする。

平林 太田さん、余計なこと考えすぎですよ。

半分は妄想じゃないですかね。

太田 いや、当たってるって。僕もね、先読みの太田と呼ばれた男なんだよ。僕がこの世で読めないものはただひとつ、女心だけです。

平林 新人賞として門戸を開いているところに、優れた作品が来たわけだから、相応の処遇をするしかないですよ。それが我々の仕事ですから。

太田 だから、やること自体は反対じゃないんだよ。

平林 でもやりたくなさそうじゃないですか、露骨に。

太田 この、動かされている感が、はっきり言って気に食わない。ただ、平林さんはいいことを言った。これは新人賞なんですよ。だからやっぱり水準があって、水準を満たしているものにあげればいいんですよ。なぜなら、僕たちはそういうスタンスで看板を掲げて編集部をやってきているわけだから。この作品が水準を満たしていないっていったらさ、恥をかいちゃう。だからこの作品を認めざるをえない! というところまで、この人は読んでるかもしれない。それこそ妄想かもしれないけど。

太田さん、それは妄想が妄想を呼んで、永遠に終わりがこないやつです。

太田 もうわかった。平林さんの言う通りで、これは新人賞なんです。だから、いい作家、いい作品が来たら、あげるしかないんです。だからこの人に新人賞をあげればいいんですよ。ただ、発表するしないは、これは僕たちでは判断できない。筒井さんにご承諾をいただかなければ世には出せない本なんだから。そこは仕方ない。しかし、出せないからといって、新人賞に値しないかといったら、そういうわけでもない。水準を満たしたわけだから。そうしたらもうこの傑作は、我々編集部だけが読んだ幻の作品になる。それでいいじゃないですか。美しい話です。いや正直、今年読んだSFの中ではベストだと思いますよ。

じゃあ、なんの問題もない。

平林 今までの話はなんだったのか(笑)。

太田 いやいやいやいや。まあね、そこがまた嫌な気持ちになっちゃうわけ。じゃあこれは、受賞させましょう。

一同 はい!

受賞作は1作品では終わらない!

太田 ひとつ受賞作が決まったわけだけど、他の作品はどう?

平林 今回のレベルなら、もう1作出すのになんの問題もないですよね。で、出すんだったら、メイドかなあと思います。

岡村 確かにメイドですねえ。

今井 うん、僕もそう思います。

平林 他のものも書けそうなポテンシャルを感じるし、売れなかったとしても、作品として無駄にならない気がするから。

キリンの方は、少なくとも今はたぶん似たような話しか書けないのかなって思います。

太田 その通りなんだよね。やっぱり、彼はそういう意味だと、今回の投稿は、方向性として悪手だったわけ。似たようなもので、完成度が高いものを送ってきちゃったんだよ。

平林 オリジナリティのあるものをくれって言ってるんだから、それじゃダメなんですよ。

太田 でも、僕は全然ありだと思いましたよ。ただ、語っていることが、本質的に前回とまったく同じなんだよね。

一番初めはキリン推しだったんですけど、どう考えてもメイドのほうが、新人賞としては勝ちだと思うんです。

平林 ふさわしいよね。あんまり好みじゃないんだけど、出すんだったらメイドかなと思う。

今井 メイドって誰が担当してるんでしたっけ?

石川 僕です。

平林 今回、石川くんのところにいい原稿が行ったなあ。

今井 でも、さっきとのテンションの差が(笑)。

石川 そんなことないですよ!! さっき熱弁をふるったせいでだいぶ消耗してる感はあるんですけど、ぶっちゃけこれも相当好きなんですよ。

太田 そうねぇ、メイドの方は、どんな感じの作家になると思う?

石川 放っておいたら、商業で小説を書く意味を積極的に見出さないんじゃないかと思うんですよ。ひょっとしたら、同人誌とかでそれなりに質の高いものを出して、書くこと自体はずっと楽しんでいくのかもしれない。だから、そこに補助線を引ければなと。

平林 この人、若いんだよね。

石川 僕と同い年です。

太田 才能の水準は全然満たしてると思うよ。

平林 それに、これは確実に本にはできる。『ビアンカ』はわからないけど。

太田 『ビアンカ』が出せたら、2作品同時刊行とかしてみる?

もしくは、2ヶ月連続とか。まあでも、改稿しないといけないから時間は必要ですよね。

太田 中盤がちょっとばかりだるいんだよね。

岡村 でも、今後このレベルのものが投稿されるのかというと、ちょっと微妙なラインだと思いますよ。

太田 じゃあ、受賞かな。新人賞は出さないとこないからね。

石川 むしろ今回は、この人にとってもチャンスだと思うんですよ。『ビアンカ』のような、ある意味飛び道具的な作品と同じ回で、肩を並べて賞をとったってことになるので。

岡村 きっと石川くんがすごい売り方を考えてくれるんですよ。

ばっちりのイラストとかをあげてくるんじゃないですかね。アニメアニメしてない感じになるのかな。ラノベラノベしてないというか。淡い感じの。

平林 むしろ逆に、めっちゃラノベっぽくてもいいと思う。

太田 僕は、ちゃんとメイドもので名を馳せている人がいいと思いますね。じゃあ、これは出してみるか。

平林 いいんじゃないですか、2作品で。

太田 2作品いきますか!

石川 お願いします!

座談会を終えて

太田 『ビアンカ』の人の電話番号教えて。今電話かけちゃうから。

石川 電話番号の横に「need to hurry」って書いてありますよ

一同 ああああ

太田 わかる? こういうのが嫌だ。こういうのが僕はすごい嫌なの。

岡村 石川くん、それは言わなきゃよかったんだよ

太田 (電話をかけて)星海社の太田と申します今ちょっと会議をしたんですけど、これは、編集部の総意として、受賞です。ただこれはもうあなたが一番おわかりだと思うんですけど、発表ができるかどうかは別問題です。筒井さんのご承諾を得られなかったら、受賞はしたけど発表はできませんでしたという幻の作品になりますじゃあ、ちょっと石川に代わります。

石川 (電話を受け取って)星海社の石川と申します。はじめまして。正直言って、めちゃめちゃおもしろかったんですが、読んだときに頭をかかえましたよ。だって、これじゃ推せないじゃないですか。なので、これがどうなるのかはわからないですけど、ぜひ一緒に世の中を騒がせていきましょう。よろしくお願いします。

太田 (電話を受け取って)他人に迷惑なDMとか送っちゃダメだよ。じゃあ、おめでとうございます。力の入った作品をご応募いただいて、本当にありがとうございます。また連絡します。失礼いたします。

どうでした?

太田 全力で書いたって言ってたから、そこはすごい好感度が上がったな。

石川 むしろあの作品で全力を尽くしてなかったとしたら、驚愕ですよ。

太田 ではあらためて、今回は2作品も受賞作が出ました。これはすごいことですよ!

2作品同時受賞は、初じゃないですかね?

太田 あれ? 前になかったっけ?

岡村 一回の座談会で2作品は初めてじゃないですかね。

太田 それは本当にすごい。みなさん、すばらしい作品をご投稿いただき、ありがとうございます。これからもこの座談会は、みなさんのご投稿がある限り続けていきますので、今後も熱のこもった作品をお待ちしております! 

岡部 次回の〆切は、2016年12月12日(月)です。応募規定はこちらをご覧ください!

太田 それじゃあみなさん、お疲れ様でした!

一同 お疲れ様でした!

一行コメント

『花ぐわしグノシエンヌ睡眠譚』

独自の世界観を作ろうという意気込みはいいのですが、文体や道具立ての面で読者を遠ざけるほうに作用していると思います。分量的にも長すぎますし、全体的に読者を意識して書いていただきたいです。日本語のおかしなところも散見されました。(平林)

『糞坊主は夜に啼く』

やりたいことは想像できるのですが、技術が追いついていないように思いました。(平林)

『あなたと一緒に■(イ)きたいの』

前回からの課題をクリアできていないです。テーマが複数あるため、全体的にぼやけた印象を受けます。(林)

『葉(イエ)の名の下に』

まったく意味のとれない文章(特に一人称視点の地の文)が続くため、読み進めることが困難でした。(石川)

『Maybe Human-s』

同タイトルの作品を以前投稿していただいているようなので改稿後の投稿でしょうか。シリアスなシーンに緊張感が感じられませんでした。その原因は文章がただの状況説明になってしまっていることにあると思います。(大里)

『隣の天使』

破綻なくまとまっていて読めましたが、ところどころ類型的すぎたりご都合主義だったりするのが残念でした。いいものが書けたら、また応募して下さい。(平林)

『フラジャイルの世界にいる。』

一応まとまってはいるのですが、面白さや新規性がないので、読んでいて退屈なものになっています。登場人物もあまり魅力が感じられなかったです。(平林)

『フラグメント』

文章力が高い人が、読み手のことあまり意識せずに書きたいことを書いている印象です。テンポよく読みやすいですが、内容がかなり内向きで、作品が読者を選んでしまっているのがもったいないと思いました。(岡村)

『約束の場所』

ロードレースは過酷なスポーツだと思うのですが、大会走行中のロードレーサー同士の会話がさすがに饒舌すぎるのでは、と疑問に思いました。文章に関しては改行後の行頭一字下げをしていませんし、基本的な文章作法の勉強と改善がもっと必要です。(岡村)

『魔界王子の遺伝子改変』

「勇者」、「エルフ」等の王道要素を少し斜めから見たような設定は興味をそそられました。ただ、ギュウギュウ詰めすぎて渋滞を起こしています。少し、書くことを絞ったほうがいいのではないでしょうか。(今井)

『死神と妹』

一人称の小説作品としては語り手の魅力のなさが致命的です。残念ながら面白く読むことができませんでした。(大里)

『黄昏のセカイ、群青のユメ』

ほとんどの謎が解明されないまま終わっているのですが、もし続篇を前提に書いているのであれば、新人賞投稿作としてはNGです。内容面では、キャラクターが立体的に見えてこないこと、ナノマシンが万能すぎることが気になりました。(石川)

『エア・マスター』

書き出しは良かったです。しかし、全体的にネーミングのセンスやセリフ回しが古く感じられ、話に入り込むことができませんでした。(大里)

『最も不幸な少女の、最も幸福な物語』

倒しがいのあるライバルがいないため、盛り上がりに欠ける印象を受けました。(林)

『ジャンゴクエスト』

安易にメタフィクションにはしないほうがよかったのではないでしょうか。この展開で読者を揺さぶるには、もっと切実に没入できる主人公や物語をつくる必要があります。それと、作中に僕たちへのメッセージを仕込んでこなくて結構です。(石川)

『ニ十分後の魔術師』

設定や世界観、作中で何が起きているかは丁寧に描かれているのですが、それらに対して登場人物が淡々というか血が通っていないような印象を受けました。もっと彼ら彼女らの人間らしいところが読みたかったです。(岡村)

『Helau!』

「実は超能力者だった」など後から明かされる要素の出し方に唐突感をおぼえました。(今井)

『先生、私を殺してください 安楽死処方医師 峯崎真一

舞台は現実世界、テーマは安楽死と、センシティヴさが要求される物語であるのに対し、司法まわりの手続きなどが非常になおざりです。視点や主人公が定まっていないこと、文章(特にセリフ)がこなれていないことなども気になりました。(石川)

『夜勤』

「昼生まれ」「夜生まれ」という設定は魅力的でしたが、無駄な展開や必要のないキャラクターが目立ち、物語をうまく畳めていない印象を受けました。(大里)

『ミチノカナタ 〜〜物戻る街で〜〜』

不思議な世界観の作品でした。突飛な設定には興味をひかれましたが、話があちこちに飛び、まとまりがありませんでした。(今井)

『Little stories』

丁寧に書かれた作品ですね。新味のある設定・キャラクターを創造できればもっと延びるとも思います。(林)

『虹まき物語〜タフィとゆかいなハイパーランド!!〜』

作品自体は悪くないと思います。しかし、対象年齢が小学生くらいの作品なのでFICTIONS読者には響かないと思います。(林)

『夕べ成る皇(ゆうべなるすめらぎ)』

丁寧なつくりで、文章も悪くなく、キャラクターにも好感がもてました。世界観は突き詰められているか、「こうきたか!」と思わせるような展開はほかになかったか、削ぎ落とせる部分はないかなどもっとこだわって、もう一段上のものを読ませてください。(石川)

『殺し屋はカルーアミルクがお好き。』

起承転結の起と承の間が長すぎるのではないでしょうか。何がこの作品の「見所」なのか、序盤で見せつける必要があると思います。(林)

『星人祭 ほしびとまつり

題材が地味すぎます。エンタメとして読者の興味をひく工夫が必要です。(大里)

『貢院夢界』

医療という現実にあるものを扱っているにもかかわらず、各キャラクターの行動や言動があまりに非現実的で、感情移入することができませんでした。(今井)

『ポケットに入れた狂気』

話を大きくしたいのか小さくしたいのか、また、何をテーマとしたいのか。いずれも最後まで伝わってきませんでした。(今井)

『リビングデッド・コープスハート』

主人公は好みが分かれると思いますが、キャラクターはよく書けていました。「死霊術」や「腐鬼」のあり方がぼんやりしているのと、世界中を巻き込むような設定なのに局所的な物語に閉じてしまっているのはもったいないなと思いました。(石川)

『s.i.N.i.n 眠る少女の血染めの瞳

主人公の行動原理がよく分からず、最後までお話に集中できませんでした。各章、各ページに読み手を飽きさせない工夫を考えましょう。(林)

『砂漠の探し屋レオナルド』

設定が過不足なく説明されていて、完成度の高い作品だと思います。それぞれの短編も良くできているのですが、全体で見ると盛り上がりに欠ける印象を受けました。(林)

『Lunatic Artist』

唐突なヒロイン(?)とのエピソードもそうですが、展開を根本的に見直す必要があると思いました。固有名詞のセンスもいまいちですね(石川)

『アルゴラグニアの楽園』

現代日本に対するパロディ、という試みは面白いのですが、書きたいことを書きすぎていて、読み手のことをあまり考えていない印象を受けました。リズムよく読める文体ですので、他の作品も読んでみたいです。(岡村)

『イヌ』

変態モノは、突き抜けるか笑わせるかだと思うのですが、この作品は中途半端でした。(今井)

『恋する風と裁きの海』

独特の雰囲気はあったのですが、世界観のための世界観になってしまっているところが残念でした。(平林)

『きっと僕達はすぐに死ぬんだ』

序盤はすごく期待して読めたのですが、全体を通すと尻すぼみだった、というのが正直な感想です。ヒロインのうちの一人である娘の広島弁(かな? あまり方言に詳しくなくてすみません)はめちゃくちゃ可愛かったです。(岡村)

『小学生女児とタイムトラベルに関する示唆深い報告』

明快で読みやすい文章は好感が持てましたが、話に動きがなく単調です。事件をもっと前半で起こし、クライマックスにもうひとつヤマを持ってくるとよかったのではないでしょうか。(今井)

『KILLER'S BET ZERO』

設定は面白いのですが、先が予測できてしまい読んでいて途中から「またこのパターンか」と思ってしまいました。ただ登場するだけで魅力が伝えきれていないと感じるキャラクターも多かったです。(岡村)

『十三番目の鍵を巡る冒険』

「鍵」がそもそもどういうものなのかわからないうえ、セリフで世界観の説明をしすぎていて、これでは物語に浸れません。視点の設定も中途半端かなと思います。(石川)

『THUNDERSTRUCK!!《サンダーストラック!!》』

異能バトルもので戦闘シーンが格好よくかけていないのは致命的です。(大里)

『イン・ヴィヴォ』

他の作品でも指摘したのですが、この作品だけできちんと終わらせてください。(石川)

『死にかけ探偵Dの事件簿』

設定・キャラは個性的でピカイチ。ただし会話シーンがくどく、トリックに集中できないところがマイナスポイントです。(林)

『名誉市長』

物語に対してページ数が多すぎます。革命ものとしても、力不足を感じました。(林)

『吾罪鏡 カマクランラプソディ

鬱勃たるパトスを感じましたが、言葉遣いなど含め、ついて行くのがしんどかったです。何かある方だとは思うので、書きたい題材を、どう料理すればより多くの人に楽しんでもらえるか、考えていただければと思います。(平林)