第4回星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会

2012年1月16日@星海社会議室

96作品が寄せられるも、残念ながら受賞作なし! 今年最初の選考座談会は、いつになく沈んだムードで進行……。投稿者諸氏の奮起を期待する!!

テンションの低いスタート

太田 いやー、今回はなんかテンション上がんないよねみんなもそうだと思うけど。

岡村 気が重いです

柿内 つまらないのばっかりでしたからね

平林 とはいえ、座談会をやらないわけにもいかないので始めましょうよ(笑)。

太田 ええー、始めちゃうの?

山中 (強引に)じゃあ、僕が進行をやりますよ! はい、まずは『異世界リベンジ』から。これは竹村さん?

竹村 僕が振り分けられた中では一番いいなと思いました。この方は皆勤賞なんですね。

太田 前は誰が読んでるの?

竹村 前は平林くん、その前は岡村くん、最初は山中くんですかね。

山中 すごい、総なめにする勢いだ(笑)。

竹村 他の方は割と手先で書いている感じがあるんですけど、この方は参考文献をいろいろと読んだりしていて、意欲を感じました。高校1年生の主人公が樹海に迷い込んで、その樹海で出会った人に謎解きをお願いされて、島に連れて行かれてその島で謎解きをするという話なんですが

太田 何に似てるの? 『ライアーゲーム』みたいな話?

竹村 そうですね。謎解きをするときに参加者の1人が殺されて進んでいくんですが、トリックを解く段階で、密室殺人のはずがボタンを押したら縄が出てきて実は外に出れたというあたりがイマイチかなと。

山中 んん? 話だけ聞いてると、本当に「なんだそりゃ?」って感じですね。

太田 うん。ヤバいね、ミステリについて理解していない(笑)。

竹村 そんなわけで、ちょっとなあ~っていう感じでした(苦笑)。個人的には、新人の方なので大きいオチがドンとあるよりも『謎解きはディナーのあとで』じゃないですが短編的な仕掛けをつくっておくといいかなと思いました。

太田 まったく、一本目からテンション上がんねえなあ!

それにしてもテンションが上がらない

山中 はい次、『砂乙女』。

平林 僕ですね。この作品は兄妹の合作なんです。「将来的なことを考えて、合作にしました」みたいなことが書いてあったんですけど、ちょっと意味が分からない(笑)。内容も35歳くらいの人が書いたような古さ。合作ってやっぱり、弱いところを補いあったり、客観的な目で見られたりするからいいんじゃないですか? そういう合作の良さが出てないな、と思いました。

山中 合作っていっても、どうやって作ってるんでしょうね?

平林 チェック機能を妹が果たしているみたいですね。何もチェックできてないけど(笑)。

山中 なるほど~。仲いいですね。

太田 仲がいいのはいいけど、作品のほうをもっとよくしてもらいたいよね。

山中 では次、『喪服探偵aiko.』。「ぜひ太田編集長に読んでほしい」って書いてあったんですけど、僕が読んでしまったという

平林 ていうか、そういう指名ができると思ってるなら馬鹿すぎです。

岡村 気持ちは分かるけど、常識も考えてほしいですね。

山中 念願の探偵事務所を開いた女私立探偵が、老後に出版するための自伝を書いていると、いつのまにか事務所に女の子がたたずんでいてという内容なのですが、冒頭があまりに唐突でよく分からないのですよ。あとこの人なんで全裸なの!? 全裸の描写だけやたら細かくて怖いんですけど!!

太田 うーん。残念。それにしても、ほんとテンションが上がらないよ。

半村良先生を舐めるな!!!

平林 そんな太田さんのテンションを上げてくれそうなのが、こちらの『戦国送り』!

岡村 あ、これが例のやつですね(笑)

太田 えっ、なになに?

平林 「第一空挺団が樹海で訓練中、戦国時代に繫がる穴を発見した。日本政府は官僚団と護衛を派遣し、総督府を創設」っていう話なんです。

太田 それなんて『戦国自衛隊』!? いや、でもちょっとテンション上がったよ! 詳しく聞こうじゃないか!

平林 『ロストワールド』的に、穴の向こう側が戦国時代になってるんです。で、『帝都物語』の魔人・加藤みたいな奴が戦国時代に総督府をつくります。そこに囚人として送り込まれた不良高校生が主人公です。まあ、全体的には「半村良はんむらりょう先生舐めんな!」って感じですね(笑)。

太田 もしかして『戦国自衛隊』、読んでないのかなあ?

平林 いや、流石さすがに読まずには書けないんじゃないですかねえ。ところで、『戦国自衛隊』では、戦国時代へのタイムスリップがどのように行われるかというところに関して、いろいろな取り組みをしているわけですよ。比べてこの作品では、作者が何の工夫もしておらず、ちょっと都合が良過ぎる。こんなもの600枚も書いてもしょうがないだろっていう(笑)。

太田 ケチョンケチョンだね! ただ、『戦国自衛隊』って、歴史好きは皆好きだよね。僕も大好きだし。

平林 だから、そういうものを書きたいということはわかるんですよ。でも、志が低い。『戦国自衛隊』が好きで、そういうものをやりたいっていう気持ちしかなかったんじゃないかと思います。戦国時代に通じる「穴」っていうのがマヌケすぎて(笑)。要するに、そこには何の理論もないわけですよ!

太田 先行作品があるならあるでいいんだけど、やっぱりそれに対する新味が欲しいね。

柿内 『戦国送り』ってタイトルも、あまりにも芸がなさすぎて逆に面白い(笑)。

平林 あと、戦国時代に関してあまり勉強している感じがしないです。

太田 それはよくない!

平林 最近の新しい研究とかいっぱいあるんですよ。たとえば、これはもはや定説になりつつありますが、長篠の戦いで鉄砲三段撃ちは無かったわけです。小田原攻めの原因になったと言われる胡桃ぐるみ事件だって無かった可能性が出てきている。そういうのを勉強してフィクションに取り入れることだって可能なんですよ。なんで小手先で書こうとするのか分からないですよ。

山中 うちの編集部には歴史好きが多いからなぁ。その歴史好きを唸らせるくらいの新しい何かが欲しいです。

太田 ということで、残念だけど今回はそういうことだね。

平林 他にもクソみたいな歴史ものはたくさんありましたけど、その中ではネタとして楽しめました(笑)。

山中 緑萌もえぎさんはホント辛辣しんらつだなぁ。ブルブル。

太田 いや、歴史ものの読者は緑萌さん並みの人ばかりと思って差し支えないから、やっぱりダメなんだよ。というわけで、入魂の歴史ものを頼む!

リベラルアーツを舐めるな!!!

山中 次、『トランクにリベラルアーツ』。

柿内 あ、読んだの僕だ。もうね、タイトルがヒドすぎる!

岡村 これは無い(笑)。

柿内 海外の名車になぞらえた51話のショートショートになっていて、1話ごとにリベラルアーツが学べるようになっていると著者は主張している(笑)。最初は「男を振ることはあっても、振られる想定は全く無い。『FIAT500』ってどうよ」という話で始まるんだけど、女性上司と新入社員の若い男との掛け合いから始まって、最後はドライブしながらラブホテルに入っていくという、ベタなやつなんだよね。

平林 いいじゃないですか、70年代を感じますね(笑)。

柿内 いや、ていうか、この話のどこにリベラルアーツあんの? 「リベラルアーツをナメんな!」って感じですね。企画概要のところに「ユーモラスに語る」って書いてるんだけど、まったくユーモアが感じられない! 本当にセンスが古くて、この人はもう作家になるのを諦めた方がいいと思う。本当に。

太田 カッキー言うねえ!

平林 この人をトランクに詰め込みたい感じですね(笑)。

山中 (ぱらぱらめくりながら)うわー、これは確かにないですね。

柿内 もう、一行じゃ語り切れない! 頑張って読んでみたけど、どこにもいいところがない! 僕の時間を返してください!!

相撲は自分のふんどしで!

山中 次、『アヴァロンズ・タイム(Avallons>time)』。これは言いたいことがあります!

太田 よかろう、話したまえ(笑)。

山中 まず、これを読むと『スト4』が上手くなります!

平林 なにそれ(笑)。

太田 まず、どんな話か説明してくれよ(笑)。僕は『スト4』にはちょっとばかりうるさいよ!

山中 作中ではプロゲーマーが認められている世界で、元々『DDR』みたいなゲームの世界大会で二回連続優勝している主人公が、車に跳ねられてゲームができなくなるんです。しかし、プロゲーマー時代に偶然出会って発破をかけた女の子が有名な格ゲーマーになっていて、タッグを組んで世界大会に出るために主人公を迎えにくるっていうような物語でここで出てくる格闘ゲームが完全に『スト4』なんですよ! 設定まで全部『スト4』を使っていて、その説明で異常に長くなってしまっているんですね。僕が思うのは、そもそも新しい道を切り拓こうとして新人賞に応募してきているのに、人のふんどしでそういう小説書いていいのかっていう。せめて自分で設定ぐらい考えろよって(笑)。

岡村 好きすぎてそこから離れられないパターンですね。

山中 ゲームを扱った小説だと、たとえば川上稔かわかみみのるさんの『連射王』がありますけど、『連射王』はただの高校生が自分は何にも熱中できないということを払拭するためにシューティングゲームに没頭していく話なんですよ。この応募作に出てくる人たちは生活がかかってるはずなのに、そういう必死さみたいなものが全然無いんですよ。

平林 ゲームを扱った小説だと、『連射王』と『スラムオンライン』、あと『ソードアート・オンライン』なんかとどうしても比べちゃうから、かなり採点が厳しくなるよね。それから、米澤穂信よねざわほのぶさんの『遠まわりする雛』でも主人公がアーケードゲームをやっていて、明らかに『バーチャロン』なんだけど、当然ながら作中で登場人物に対して意味のある有機的な接合の仕方をしているんだよね。だから、ただゲームのことだけを書きたいのであればそれは小説である必要がないわけであってさ。

山中 そうそうそう! だから、ゲームとか『スト4』が凄く好きっていうのは読んでいてわかるんですよ。でも僕たちが求めているのは物語としての面白さなので、そういう意味では人のふんどしを使い過ぎだよなって思いました。

太田 星海社は歴史、リベラルアーツ、そしてゲームにも厳しいぞ、ということで。ぜひ僕たちをうならせてノックアウトする作品を送ってきてください!

上空一万メートルに悪霊が

山中 次、『ハイアーゲーム』。

柿内 これは、『エクスカリバー』の人です。当然読める作品なんですけど、「間違いなく面白い!」っていうレベルではなかったので、岡村くんにも読んでもらおうと思って渡したんだけどどうだった?

岡村 正直に言うと、前回の方が良かったです。

太田 どの部分がまずかったんだろう。我々も期待している人だから、ちょっと詳しく話そうよ。

岡村 前回はロケットを作る青春モノだったんですけど、今回はオカルトを絡めているんですよ。それが上手くミックス出来ていない。おいしいコーヒーに砂糖じゃなくてハチミツを入れちゃってる感じですね。これならオカルト要素は無い方が良い。

柿内 この人は、前とは違うパターンでやってみようとして、それが裏目に出てるんだよね。だから、ああいう風にしか書けないのかもしれないね。

岡村 うん、そうかもしれない。

柿内 でも、上空一万メートルに悪霊がいるという設定は抜群に面白かったけどね(笑)。そこにどうやって行くかっていうところで、戦闘機とか、航空力学部隊が入ってくるんだよね。

太田 B29って高度一万メートルで倒せなかったから、B29を倒せって感じだね。

岡村 今回は、その悪霊を倒さないと世界が滅びますからね(笑)。

一同 ヤバい!(爆笑)

柿内 やっぱりこの人は、『エクスカリバー』路線の方が向いてるんだろうということが分かったね。

岡村 確実にそうですね。飛行機のスペック説明やメカニック描写は読ませる力がありますから。

平林 技術的な部分に関しては、読みながら「この人はわかってる人なんだろうな」って感じますよね。それはやっぱり得がたい個性だと思うんです。

太田 どうしたらいいのかなあ? 素質のある人なんだけどねえ。

山中 もっと職人技術とかを魅せられる作品だといいんですかねえ?

岡村 やはりこの人は、「青春とメカ」だと思います。

山中 僕は技術ものが好きだから、現実に近い、技術路線を書いた作品を読みたいですね。

平林 理系の『MASTERキートン』みたいなやつ書けないかなあ。

山中 あ、そっちの方がいいと思う! 技術の部分でバックグラウンドがあるんだから、何か生かして欲しいですよね。

太田 もう一度、原点に戻って挑戦してもらったほうがいいのかなぁ。とにかく、今回の方向性は少し違うということが分かったので、やはり自分にとってのベーシックな方向に戻して考えてみてください。

狭い、あまりにも狭い!

山中 次は、『夢見るティッシュ箱』。妙なタイトルですけど、これは岡村さん。

岡村 はい、この方は今回最高齢の応募者ですね。おそらく、『もしドラ』を意識している作品です。「これを読めば、弁理士の特許の仕組みがわかる」みたいな。

山中 弁理士の方の作品なんですか?

岡村 そうです。ヒロインは学生の女の子で、その幼なじみの男の子がティッシュ箱を投げつけたら箱が変形して、それによって変形前よりティッシュが出しやすくなったんです。「これって、特許になるんじゃない?」ってことで、実際に特許を出願しに行きます。その話をクラスでしたら、男の子のことを好きな別の女の子が、大人の力を借りて勝手に特許を出願しちゃうんです。そこで、ヒロインが出す特許と別の女の子が出す特許でどちらが有効なのか、とかそういうところを描写してます。

竹村 岡村君の説明で聞くと面白そうだけど。

岡村 いやいや。文章が凄く読みづらいし、あくまで「特許のことを伝える手段として物語手法を使っている」のが見え見えで、物語に自然に落としこめてない。『もしドラ』は読ませますけど、これは読むのがとにかくつらい。

山中 弁理士の勉強はできそうな感じなんですか?

岡村 弁理士に関しても、「特許はどちらが優先か」というところに焦点を当てているので、狭すぎる気がします(笑)。

山中 それは狭いな!(笑)

岡村 多分、この人は小説をあまり読んでいない人だと思いますね。

太田 うーん、こういうのはもういいよねぇ。この賞は、ドジョウを獲りにいくような志の低い賞ではないので。

プロからの応募、だが

山中 はい、では次。『ドール&フレンズ 恋愛格差社会を生き抜く法』、プロの作家さんらしいんですよ。

平林 この方はジュブナイルポルノの売れっ子作家さんですね。

太田 それはそれとして、選考は平等にやるわけだけど、どうだった?

山中 アンドロイドが普及した世界で、手違いで主人公のところにセクサロイドがやってきてしまってという、世界観的にはこの前ニコ生でやっていた『イヴの時間』と少し近いものがあるんですけど、この作品の設定の稚拙ちせつさとかが凄く目についてしまって

平林 僕も少し読んだけど、まあコストがかかってないよね。文章も薄い。

山中 そう思います。言い方は悪いけど、手先で書いたんだなっていう気がする。

平林 たぶん、ジュブナイルポルノの方だと安定した質で量産できないといけないから、どうしてもそういう書き方になっているんじゃないかな、と思ったんだよね。

山中 このテイストのままでいくのであれば、うちに出すよりかは他に出した方がいいんじゃないかな、という気がしますね。もっと深い何かとか、考えさせられることとかが入ってないと厳しい。文章の手癖も壊して欲しい。

太田 うーん、やっぱりこれはないよね。というか、どうしてうちに出してきたんだろう? もし、また応募してくるのであれば、ちゃんと星海社が出している小説を読んでから応募してきて欲しいね。

前回有望者、あえなく討ち死に

山中 次、『いしのなかにいる!』。

平林 『君と出会った、マージナル・エデン』の人です。今回は密室系のミステリーで、コンクリートの部屋の中に2人の人間が閉じ込められるという状態で始まり、1話ごとに盛り上げてくるタイプの構成になっています。ただ、仕組み自体は割と面白いんですけど、キャラクターが上滑りしているんですよね。前作では全然そんなことなかったのに、なんでこんな風になっちゃったのかな、という感じです。ちょっとコミカルに書いているところがあって、そこがあまり良くない。もう少し静かな落ち着いた文体の方がこの人の良さは出るんじゃないかな、と思いますね。面白くないわけではないですけど、ミステリ的には弱いかな、という気がします。

太田 この人は、設定に魅力的なところがあるんだよね。覚えてる覚えてる。

平林 ただ、最終的にご都合主義的にまとめちゃうところがあって

太田 そうそう、そうなんだよ!

平林 そこがやはり、うちだと難点になってきますよね。予定調和も物語の質を担保するものとして必要で、そういうものを求めている読者の多いところであれば、十分通用するとは思いますけどね。他でデビューしちゃうかもしれないですけど、もしうちを選んでもらえるのであれば、もう一回読みたいなあっていう気はします。

太田 そうだね、今回の失敗で気落ちせずに、もう一度自分の強みが何なのか見つめ直して、是非次も送ってもらえたらって感じだね。

川に落ちた男、三たび!

山中 『Spiral Reflection Lights』川に落ちてたあと、失踪していた人ですね。

平林 彼は絶賛迷走中なので、一行でいいかなぁと思うんですよね

太田 おおっと!(笑)

平林 ああだこうだ言っても、もう仕方ないのかなっていう気がするんですよね。

山中 第1回は面白かったんだけど。

太田 あのときで全てだったのか

平林 思いっきりシンプルにやってみた方がいいんじゃないかなあ。

太田 たとえば?

平林 修飾関係を複雑にした文章を書くのが好きなタイプだと思うんですけど、そういう文章で構成された文体が失敗しているんですよ。雰囲気が出ていない。だから、本当に小学生が作文を書くときに教えられるようなシンプルな文体で書いてみて欲しいです。

山中 一番最初の投稿は、マツケンのところを除けば何のてらいも無く青春ものだったじゃないですか? あのときは研ぎ澄まされてないけど、何故か読まされちゃう、みたいなところがあったじゃないですか。そういうのはもうないんですか?

平林 多分、焦りが凄くあると思う。焦って自分を見失ってる感じかな。

山中 ある意味、自分を叩き付ける文章しか書けない人なんじゃないかな、という感じはするんですよね。

平林 岡村君、この文章読みづらくない?

岡村 いや、超読みづらいですよ(笑)。

柿内 なんでこんな技巧をやっちゃってんの? こういうのはうちら求めてないんだけどな。なんか、迷ってる感が凄くある(笑)。

太田 引き続き、川に落ち続けてもらうしかないのか。ザップン。

すごく、カッコ悪い

山中 次、『死神少女が禁止されたからといって財閥令嬢の戦いは終わらない』。

平林 さあ、喋りますか(笑)。前回、この投稿者に対しては、一行ですけど割と良かったのでまた読みたいです、というようなコメントをしたんですね。そしたら、ペンネームを変えてきました。ペンネームは池荷尾千朗(いけにおちろう)。そして、ヒロインが平囃子萌緑(ひらばやしもえみ)っていう名前で、主人公が山名慧(笑)。

山中 え、僕?(笑)

平林 柿内さんも割といい役で出てくるんですよね(笑)。

柿内 なんで皆そんなに「池(もしくは川)に落ちろ」に過剰反応してるんだろう。どういう意味で言ってるのかわかってるのかな? どっかの誰かがやったことを頭のなかで劣化コピペしてるだけで、リアリティや身体感覚がまるでない。そういうヤツは一回、池か川にでも落ちて、自分が生きているということをリアルに身体で感じ取ったほうがいいという意味なんだよ!! そのままの意味で、本当に今すぐそのヌクヌクした部屋を出て、多摩川か洗足池にでも自分から落ちたほうがいい。でも、死ぬなよ。

太田 アツいな

平林 か、柿内さん(笑)。とりあえず、前回の座談会で禁止されたのを全部ぶち込んでライトノベルにしてるんですけど、どうにも古臭くてライトノベルとしては評価できないです。あと、「こんなものを書いている暇があるのか?」と思います(笑)。こういう公開オナニーのようなものを300枚書くのはある意味凄いと思うけど、こんなの書いても誰も楽しくないし、幸せにならないです。

太田 それは本当にそうだよね。頭を使って考えてほしい。

山中 別に死神とか財閥使ってても、面白い作品であれば僕らは読みますよね。

太田 そうね。何のために小説書いているんだろうね。死神とか財閥令嬢を使っても面白く書いてくれれば何も問題はないんだけど、面白くないから凄くカッコ悪いんですよ。お互いの時間の無駄だし、こういう志の作品ならもう出してこなくていいよね。

正統派ファンタジー、一歩及ばず

山中 さて、あとはそれぞれが上げた作品を見ていきましょうか。まずは、『CROSS GROUND 烙印の魔女』。

岡村 僕が上げました。これは剣と魔法のファンタジーものです。主人公が、潜在的に一国を滅ぼす力を持った女の子を助けるというボーイミーツガール。ライバルが味方になるなど、良く言えば王道。悪く言えばベタな作品です。

山中 僕も最後まで読んだんですけど、凄く半端な『天空の城ラピュタ』。別にシータは空から落ちてこないけど(笑)。

平林 割と正統派だったけど、僕はちょっとキツかったかな〜。やっぱりちょっとファンタジーとしてレベルが足りないよね。デビューできるレベルが35だとしたら、この人はレベル29くらいなんだよ。

太田 うまいねー(笑)。まさにそんな感じだと思ったよ。

岡村 そうですか。今まで読んだファンタジーものがあまりにヒドくて、これを読んだ瞬間に「あ、なんかしっかり書けてるな」と思ってしまったんですよね。

山中 人間だから相対評価しちゃうところは絶対ありますよね(笑)。

柿内 『面接ではウソをつけ』にも書いてあるけど、本当に相対評価しちゃうね。

岡村 僕は小気味な設定が良かったなと思っています。現在のテクノロジーは失われているけど、発掘が可能『ターンエーガンダム』や『ミスマルカ興国物語』みたいな感じですね。主人公も、普段は凄くウブな少年なんですけど、戦場に行くと凄くリアリズムに満ちていて打算的なんです。

山中 主人公の少年が大剣を使ってるって書いてあるんだけど、大剣に関する描写がないから、どれくらいの大剣なのかとか全然わからなかったんだよね。

平林 そもそも10歳の子供は大剣振れないよね!

山中 うん。そういうところも、この作品はご都合主義すぎるんですよ! それでソッコー冷めちゃった。

平林 ゲームだとこういう描写は許されるのかもしれないけど、小説だと厳しい。

山中 そんなに少年が強くて、村の先頭に立てる人物とかって、「そんなことあんの!?」って思ってしまって(笑)。あるならあるで、それに足る具体的な何かが欲しいじゃないですか?

平林 母親の胎内に2年いたとかね!

一同 (爆笑!)

山中 だから、無茶苦茶でもいいから、そういう理由付けが必要ですよね。

太田 テンプレのファンタジーって、割とすらっと書けちゃうんだよね! この作品もテンプレファンタジーとしてはよく出来ていて、その範疇の中なら十分に合格点。だけど、響かないんだなあ。

山中 模倣はしてもいいと思うけど、僕らは新たなオリジナルを読みたいわけであって、別にジグソーパズルを読みたいわけではないですよね。

太田 一点でもどこかこの人にしか書けない「なにか」があるのであれば読みたいけどね。

山中 それはなかったな。

岡村 確かにそう言われると、そういうところは無かったですね

既存のジャンルを勉強すべし

山中 次は、『殺したがりの少女と、殺された僕』。これも岡村さんから。

岡村 何でも殺せるヒロインとゾンビになった主人公を中心に物語が展開していきます。悪魔やら退魔師などが出てくる異能ものですね。

平林 悪くはなかったけど、なんか小粒かな〜っていう

平林 あと、死神とかゾンビとか、そこら辺もちゃんと調べてないよね。

柿内 軽快でポップなだけって感じ。あと、定義的にこれゾンビって言わないからね。この人、ゾンビものをナメてるでしょ。

平林 ちゃんと勉強してないですよね。

柿内 使うなら、僕らに綺麗な裏切りを感じさせて欲しいよね。「え、そこでこうくんの?」みたいな。

太田 こういうジャンルのあるものは、しっかり勉強した上で、その歴史や法則にのっとるなり、裏切ったりしないとダメだよね。

平林 多分この人はゾンビとか好きじゃないんじゃないかな?

山中 便利だから使った、みたいな。

太田 そうだと思うね。それはそれでいいんだけど、それなら何か芸を見せて欲しいね。これではあまりにあまりでしょう。

長編での勝負を見てみたい

山中 今日は非常にサクサク進みますね(笑)。というわけで次、『噓つきは内定のはじまり』。これは柿内さん。

柿内 一番最後に読んだら、良く思えたんだよね。とても面白かったです。

山中 僕は今回の作品の中ではこれが一番好きです。

柿内 小説としては読めるんだけど、短編集でしょ? 面白いけど、際立っているわけではないし

山中 この作品はウェブの文法が割と使われているんですけど、ウェブ1.0なんですよ。2.0のところがあまりなくて、なにか古いんですよね。ウェブのインフラの部分が新しいものに入れ替わっていないところが凄く目につく。でも面白かった。

平林 僕でも容易に指摘しうる欠点があったと思う。

柿内 アマチュアのプロって感じ。

山中 ああ〜。草野球なら一番になれる的な。

太田 有吉の毒舌じゃないけど、「ブス界一番の美女」、とかね(笑)。

一同 (爆笑)

柿内 面白い映画を見ていると、時間とかチラチラ気にしないじゃん? 今回の下読みでは、何ページくらいでページ数を気にしちゃうかを計ってたんだけど、この人の作品は30ページを超えてた。他の人のは全部それより前に何ページ進んだか確認しちゃったね。つまらないから、早く終わらないかとページ数を気にしちゃうんだよ!

山中 なるほど。ところで柿内さんは1〜3話でどれが一番面白かったですか?

柿内 うーん、どれも一緒かな(笑)。

平林 3話は人物の書き分けが微妙なんだよね。

山中 そうですね。でもああいう、就活の大人の欺瞞ぎまんみたいなところって面白いですよね。ネット上の人格をコントロールしないと生きづらいというところは、今後誰かが言ってあげないといけないんじゃないかと思いますね。

岡村 表題作なだけあって、中身のある話でしたよね。結構緊張感もあるじゃないですか。

平林 むしろ、あの(3話の)ネタで一本長編書けるのであればそっちの方が良かったんじゃないかっていう気はしますね。

山中 なるほどね。でも、長編のプロットではないかな、っていう気もしますね。

柿内 やっぱり、もう一回かなぁ。

太田 そうだね。この講評を読んで、引き続き頑張ってもらいましょう。

「どこでもドア」のある未来!?

山中 次は緑萌さんが上げた、『ドアによる未来』。

平林 前々回、『或る魔王軍の遍歴』を送ってきてくれた人です。その時は長くて文章がまとまってなかったんだけど、アイデアは凄く良かった。今回は、アイデア的にはそこまでのものはないけど、ちゃんと小説の文章で書こうとして構成を意識しているし、ページ的にもまとめてきたということで、課題に対して非常に真面目に取り組んでくれた。突き抜けるところまではいかなかったけど、前回より高い点を出してくれたかな、と思ったので上げました。なので、もちろんもう一度挑戦して欲しいんですが、それにあたってどのようにしたらいいかというアドバイスを皆さんにいただこうと思っています。

山中 なんか真面目ですね〜、緑萌さんらしくない(笑)。

平林 失敬だな、僕はいつも真面目だよ! えーと、概要を説明すると、福岡で原因不明の災害が起こって、市街地が陥没・浸水し、その水に触れた人間はすべて死んでしまうという謎の事件が起こるんです。その原因究明のために駆り出された謀大学の准教授が主人公なんですけど、彼は水中に沈んでいるどこでもドアのような輪っかを発見して、それを研究室に持って帰って、解析するところから始まります。

山中 これ、「通り抜けフープ」ですよね?(笑)

平林 そうだね、でも作中ではドアと言ってる(笑)。最終的にはそのドアを搭載した原潜を使った核戦争になって、人類がどんどん減ってという展開になります。

山中 実験の過程が面白くて、そこは楽しく読めました。

平林 クリスっていう協力者がいて、2人でドアの技術を解析したりとか、軍事利用されないようにどう立ち回るかを考えたりするところが結構面白いんだよね。ただ、戦争が始まってからがつまんないんだよ!(笑)

柿内 結末も超つまんないよね。冒頭につなげるために、すごい超展開になってる(笑)。

平林 核戦争が始まってから、面白くなくなっちゃうんですよね。

山中 それはやっぱり、ドアを使って核兵器を運ぶってこと?

平林 原潜にドアを積んで、ドアの射程内まで目標に近づいて、そこから少人数の兵士を潜入させたりするの。ドアを原子力潜水艦で運用するっていうのは凄く現実的だと思うんだけど、どこでもドアの面白さがここにないんだよね(笑)。

山中 確かに現実的すぎる! 最初の実験のところなんかは結構ポップな感じじゃないですか? だから、映画の『サマータイムマシン・ブルース』みたいになるのかと思ってました。ああいうコメディなものだったら楽しく読める気がしたんですけどね。

太田 この人は頭がもう少し良くなれば、『DEATH NOTE』を書けるんではないかという希望をちょっと持ってしまうね。

平林 これがダメなのは、世界戦争の方にもっていったのがダメなんですよ!(笑) そうじゃなくて、資源開発とか、宇宙開発とか、そっちにもっていけば凄く面白くなるはずなんですよ。

岡村 この作品はどこでもドアが実在した場合のシミュレーションで、前半の部分は本当によく書けてると思います。だけど後半のシミュレーションがダメダメなんですよね。

平林 そうなんだよね。

太田 『或る魔王軍の遍歴』もアイデアは面白いと思ったんだよね。今回のどこでもドアはパクりだけど、「そういえばどこでもドアについてそんなに深く考えてみたことはなかったな」って思わされる作品だったわけですよ。つまり、『DEATH NOTE』というものが過去にあるわけなので、『DEATH NOTE』的な何かを発見して、それを書いて欲しいよね。あとは、キャラクターが弱いよね。

平林 女の子出てこないですしね。

太田 ハードルとしては、『DEATH NOTE』を書いてくれということと、いくらいい設定があっても、キャラクターをつくらないと物語が上手くまわっていかないということ。

山中 全体の設定だけでもっていこうとするのは厳しいですよね。

平林 前半は主人公が動いていたけど、後半は状況が先に動いていて、それに主人公が流されるっていう風になっていってしまってましたからね。

太田 『DEATH NOTE』のLとライトも、ライトには世界を変えてやるっていう野望があったわけじゃない? その前にLが立ちはだかるのが面白かったりするわけで、そういうのを入れたら面白かったかもね。

平林 前よりは確実に良くなったので、次はよりレベルの上がったものを読みたいです。

太田 というわけで、引き続き期待してるぜ!

減点するところは少ないが

岡村 次は、『キミのトモダチ』。僕が読みました。中身としては、主人公が嫌疑をかけられた女子高生の潔白を証明するためにいろいろと活躍するという話で、キャラクターとしてはクラスのアイドル的な女子生徒や妹や2人の巨乳などが出てくるんですよね。

太田 これ、ちょっと古くさく感じたんだよなぁ。

平林 そう、学生のイメージがちょっと古いんですよね。あと、ラスト凄くあっさりしすぎかな、と。それなりには読めたんだけど。

岡村 ストーリーは凄くシンプルですよね。それをキャラで補正している感じですね。

平林 僕は今回、これが一番面白かったかな。

太田 えっ、そんなに推したいって感じする?

平林 いや、あくまでも「今回読んだ中では」っていう(笑)。

竹村 今回は全体のレベルが低いから相対的に良く見えるけど、普段だったらこれは回し読みしないレベルですよね。なんか、減点するところが少ないからよく見えるタイプかな。

太田 その通りだね。この人はまとめる力はそれなりにある人だから、自分だけの強力な「売り」を作って欲しいね。

作品の切り出し方

山中 では次、『天に棘さす』。

岡村 これは僕が好きなテーマで国家間の謀略ものです。ハードなファンタジーで、メインキャラクターだけで8人くらいいるんです。誰かに焦点を置くわけではなく均等に焦点が置かれていて、1人ガンダムのシャアみたいなキャラがいるんですけど、その人を中心に謀略を仕掛けていく。それから、親の世代の活躍が終わったあとに子供の世代が顔を出し始めたりしてスケールも大きい。僕が今回読んだ中では一番面白かったと思いましたけど。最後まで読んだ人っています?

平林 最後までは読んでないけど、設定は面白いと思った。タワーの各階が国として機能してるとか。ただ、ちょっと長いんだよね。

太田 うん、長い。

岡村 逆にここまで重厚になってしまうと、長くなければ書けない気がするんですよ。

山中 僕は最初の設定でお腹いっぱいになっちゃった

平林 設定は凄くいいと思う。今回送られてきたファンタジーものの中で一番良かったと思うよ。

太田 僕は文体的にもう、途中でダメだったな(苦笑)。

平林 この人は前は現代ものだったから、両方書けることがわかったし、基本的な小説を書く力がある人なんだなっていうことはわかったよね。

岡村 うん、そうですね。

平林 でも、なんでこれをうちに送ってきたんだろう?(笑)

岡村 いや、でも文量的にうちくらいしか送るところないんじゃないですか? ライトノベルの新人賞とかだと350枚くらいで枚数制限がかかると思いますし。

山中 削ろう! そして出来ればこの凝った言い回しもやめた方が。僕はダメでした。

太田 僕もダメだ。

平林 僕は大丈夫ですけどね?

岡村 僕もいけますよ。

太田 本当? 僕は今日の疲れの5分の1くらいはこれのせいですよ(笑)。

平林 本当ですか? 僕は時間さえあれば全然苦にならないですよ?

太田 そうなんだ。

平林 こういうところは僕と岡村くんが似てるんだよね。

山中 僕は太田さんと似てるのか

平林 やっぱ山中くんは太田さんと似てるね!(笑)

一同 (爆笑)

平林 いや、でもこれはC★NOVELS的なんですよ。

太田 ああ、なるほど!

平林 講談社ノベルス的ではないですよね。僕はどちらも好きで昔から読んでますけど。

山中 C★NOVELSをうちでやる必要があるのかっていうところは疑問なんですけど(苦笑)。

太田 いや、C★NOVELSさん的なのは全然いいんだけど、レベルとしてね、もう少し欲しいなって思うんだよね!

岡村 そうですか。「登場人物全員が主人公」という書き方や、『ハチミツとクローバー』的な「全員が片思い」的な設定は読んでいてすごく面白かったんですけどね。

平林 僕が思ったのは、この作品はキャラクターが多いじゃん? でも井上祐美子さんの『五王戦国志』とか、ファンタジーでキャラが多いけど凄く読みやすい。だから、キャラクターをたくさん出すときにはコツがあるんじゃないかな。何らかの切り口を設けることによって全体の文量を圧縮しつつ、ちゃんと世界観の奥行きは残すようなことができればいいと思う。

岡村 確かに、そういう前例がありますからね。

受賞作なし!

山中 そして、これで全作品が終わってしまいましたが

太田 すべて終わった。今回はよくなかったね

平林 うーん、ダメでしたねえ。

太田 どうしようねえ?

山中 全然盛り上がらなかった

柿内 徒労って感じでしたね。

竹村 虚しい気持ちです。

太田 だよねえ。賞金も、あと二回でいい作品が出なければキャリーオーバーになっちゃうわけでしょ?

平林 そうですね。いっそのこと、僕らで分けます?(笑)

一同 (爆笑)

太田 一瞬「いいな」と思ってしまったけど、どんな正当性があるんだよ!(笑)

平林 だって、一生懸命選考したのに出なかったわけじゃないですか?(笑)

太田 まあ、そうだけどさ

山中 どちらかというと、僕らが不甲斐ないからいい作品が出てこないということで、僕らが罰金じゃないですか?

太田 うーん、さすがだ。山中さんはだいぶ僕の思考パターンがわかってきてるね。編集者は常に自罰的じゃないといけないからね(笑)。まあ、それをおいておいても、次第に投稿数は増えてるのにどうして授賞できるような投稿作がなかったんだろうね?

岡村 うーん、今回一回だけの特異な現象だとは思いますが

太田 新人さんと一緒に頑張っていこうと思うと2、3年はどうしてもかかっちゃうから、今後の星海社のためにも第1回の小泉さん、第2回の野中さんに次ぐ新人さんと続々とめぐり逢いたい。しかし、今回は新年早々残念な結果に終わりました。柿内さんはどうですか?

柿内 いや、残念でしたね。共通して言えるのは、これだけの枚数を書くなら、書く前に考えることにもっと労力を使って欲しいということですね。書くのと同じ時間を、考える時間に費やしてほしい。これは、フィクションだろうとノンフィクションだろうと同じことです。でも、大体の人は、ちょっと良いアイデア、良い構成を思いつくと、すぐに書き始めちゃうんですよね。本当はもっと良いアイデアがあるはずなのに、飛びついちゃう。もっと、咀嚼に時間をかけないとだめです。

太田 うん、それは言えるね。

山中 普通、書く前にどれだけ考えるかが、文章として出ると思うんですけどね。プロットとかは書けない人もいるかもしれないけど、一回、自分が書こうとしていることを紙にまとめて音読して欲しい。

柿内 一回立ち返って欲しいんだよね。

山中 いいアイデアなら、それを他の人に話した段階で賛同してくれる人が10人中、8、9人とかいると思うんですよね。それが、自分しかフィルターのない状況で自信満々に書いていくのは危ないですよね。

柿内 まあ、下手に他の人の意見を取り入れても駄作になるから難しいけど。

平林 プロットは皆できてないと思う。

山中 そう。みんな1つのアイデアに飛びついちゃってるか、ただ思いつくままに書いてるよね。そこに新しさとか面白さが本当に入っているのかというところをちゃんと見つめ直した方がいいと思う。

太田 そうだね。そういえばこの間、声優事務所について聞いたら、声優養成所っていうシステムがあるんだってね。あれが経営基盤になってるらしい。だから、僕らも規模が拡大したら、そのうちやってみる? 作家養成所。

山中 マンパワーが必要そうですね(笑)。

太田 この座談会くらいの話なら普通にできるわけじゃん? だから、50人くらいを月一、二回やって3ヶ月で卒業、みたいな感じでね。僕らもこれだけ力入れて読んでるわけだから、お金になってもいいかな、とか思うんだよね。今はとてもできないけどね。まあ、皆さん頑張って欲しいということで。

山中 次回はリベンジできるといいですね。応募要項はこちらです!

太田 じゃあ、皆さん今日はお疲れ様でした!

一同 お疲れ様でした!

第4回星海社FICTIONS新人賞 一行コメント

『殺人装甲キルボーグ』

どこかで見たことのあるパーツの寄せ集め以上のものではない。(平林)

『朝と夕と夜の犬達』

設定が物語にうまく活かされていない。読みやすい良い文体なので、他の小説をもっと分析して、しっかり中身を練って書いてほしい。(岡村)

『ハリウッドの宇宙人』

固有名詞やキャラクターの台詞まわしなど、全体的に古い。カテゴリーエラーです。(岡村)

『キミノカラヲ』

台詞、文体ともに淡々としすぎていて感情移入できない。キャラクターが決められたストーリーを機械的になぞっているだけ、という印象。(岡村)

『聖者になる』

こういうものを送って来られても困ります。これはクリティカルな問題です。(平林)

『みわこと明日の世界から』

小説うんぬんの前に日本語をもう少し学んだほうがいい。幽霊が怨霊になるというアイデアは面白い。(柿内)

『シアワセの終末論』

文章から自意識がにじみ出(過ぎ)ている。物語に入り込む前に書き手の顔がちらついて、読む気が起きない。(柿内)

『ウーズ/校舎は湿原に沈む』

思いつきで書かれたような若干安易な印象を受けた。もっといろんな作品を読んで研究してみてはどうか。(竹村)

『砂乙女』

明らかに勉強不足。世界を作るというのがどういうことか、しっかり考えてください。(平林)

『水無月恋夜』

読みたくなるような丁寧さはある。しかし、死んだことを認めたくなくて中学生にとりついて、なんて設定はご都合主義過ぎるのでは。読み終わった後に驚きもない。(山中)

『Process Before reaching R 〜selfishness〜』

携帯電話の矛盾、ヒロインの名前、ジョジョ的な能力名など、前回指摘した箇所を修正しているが、その修正が物語全体にあまり影響を与えていない。前作より良くなったとは言えない。(岡村)

『カラクリカラクエ 空繰リ、空喰エ

もっと整理してもらわないと読めません。(平林)

『狂乱の春雪』

舞台はいいところに目をつけたと思いますが、肝心の事件の内容が今ひとつ。「歴史物ならではの面白さ」というものにこだわって欲しい。(平林)

『Mouth putting of the earth』

やりたいことはわかるが、こんなに読みづらい序盤で誰が手にとってくれるのか。商業作家としてデビューするということをもう一度考え直して欲しいです。(山中)

『ワイルドウインド』

これはあかん。もう一度自分が書いたものを冷静になって読み返してみてください。(太田)

『そなたからふるなみだ』

設定は面白いが、描写が突然過ぎて兎に角わかりにくい。文体を「個性的な表現」だけでなく「読者へのサービス精神の現れ」としても機能させて欲しい。(山中)

『碧眼の行方』

このビジュアルの主人公・ヒロインにイラストがついたとき、最前線・星海社FICTIONSの読者層に受け入れられて売れるとは到底思えない。自分の作品が本になったときのイメージを持って執筆してください。(岡村)

『電脳仕掛けの仮面舞踏会』

重厚な設定に読み手を誘導できていない。全体的に説明的すぎる印象。あとビジュアルも考えましょう。「全員ヘッドギア装着」はキツい。(岡村)

『パイナップルサンド』

世界観に上手く入っていけない。グラフィティが本来的に備える反社会的な部分など、何の処理もないのは頂けない。(平林)

『Evolve』

タイトルも含め、昔のアニメのようで古臭い。あと、宇宙に進出して「数十億年」経ってるのにこれはおかしい。っていうか、おかしくないですか? おかしいですよね???(平林)

『プロブレマティカ』

恐竜の憑依というアイデアは◎。が、それだけ。(柿内)

『もしも彼女が神ならば』

独特の世界観で共感できなかった。突然の「彼女」の出現という展開の意味がわからず、好みではなかった。(竹村)

『俺と雪女と食人鬼のお話』

フィクションにおいてすら著しくリアリティのない「探偵」の主人公。なぜ探偵にしたのでしょう。(山中)

『古の蜘蛛の意図』

どう物語に入っていけばいいのかも不明瞭な序盤と、あまりに低いリーダビリティで、非常に読みづらい。(山中)

『Polarity World Nの章

面白い予感はあるんだけど、天才少年的な文法を便利に使いすぎている気がする。なぜ天才なのか? そこにもっと必然性を。(山中)

『僕とメロス』

全体に漂う空気感は好み。しかしキャラクターが弱い。こんなにたくさん出す必要はあったのでしょうか。少し制限をかけてみては。(山中)

『草の葉ラプソディー』

世界があまりにも狭い。小説を書いている暇があるなら、もっと自分の人生を生きた方がいい。(柿内)

『僕達の見捨てた世界』

途中から展開は読めてしまうが、戦う奴がどういう秘密を握っているかが気になり物語に引き込む。ただ〝荒削り〟では収まらないほど荒い。もっと整えて磨いてください。(岡村)

『死なない魚』

心理描写等、丁寧に書かれているが小さくまとまっている印象。読み終えたあとのカタルシスが足りない。(岡村)

『愛は地球を救わない』

あまりに品がないです。(岡村)

『顔のない人に向けて』

この設定でミステリーを書くのは矛盾している。文体も冗長。キャラは立っている。(岡村)

『大陸幻想 レトロジィ・ゴースト』

意気は買いますが、歴史を扱う上では甘い部分が目につきます。(平林)

『NA NA NA』

物語が破綻しています。(岡村)

『少年以上 少女未満』

味が薄すぎる。中国史と道教の勉強をしてください。基本的な書物を読んだ形跡がありません。(平林)

『フレンズ・オブ・アドバン』

作品に密度がなく、スカスカ。読後に何も残らない。(岡村)

『夢人は黒い服を着ている』

独自の世界すぎてわからなかった。「小説を書こう」としすぎなので、もっと自然に書いてみてはどうか。(竹村)

『朝顔の賦』

ちょっと地味ですね。もっと有名人をバシバシ出すなどの工夫が必要ではないかと思います。もちろんそれに伴って勉強の量は倍加しますが、避けて通れない道だと思います。(平林)

『彼女の中のクオリア』

MMORPGやソーシャルゲームといったモチーフを使っているのに、あまりに描写が古くさい。(山中)

『我が名はマシュマシュ』

展開、名詞センス、キャラクター台詞、全てが古い。(岡村)

『トラクト』

物語が破綻はしていないが、読みどころが分散されていて、ハイライトがない。華も品も足りない。(岡村)

『カラクニカグヤ』

テンプレートなキャラクターとご都合主義。それを書ききっているわけでもない。中途半端です。(岡村)

『無限コンティニュー!』

時間SFは好物なのですが、この内容なら分量はもっと圧縮できたと思います。密度が適正かどうか意識しながら書いてみてください。(平林)

『魔導が継ぐ神の物語』

これは小説ではなく、「聖書」ですね。労作だと思いますが、これをいったい誰が楽しんで読むのか、想像できません。(岡村)

『クロスフェードの恋人』

ありそうな作品に思えてしまう。自分にしか書けないものを探してもらえるとより良いかもしれない。(竹村)

『1980生まれのミステリ』

これはなかなかいい! だけど、出版は厳しい。いったい何件の許諾を得なければならないか。そして日常系のミステリだからこそ、トリックは大仕掛け、あるいは意外さがなければ「弱い」のです。次回、再チャレンジよろしくです。(太田)

『夕映えの増す頃に』

頭の中の妄想で書いている。もっと恋愛経験をしてみてはどうか。ちょっと退屈な印象だった。(竹村)

『父ちゃんが作業着のまま参観日にきたから冒険に出た』

面白くなかった。笑わせようとする文章はなかなか難しい。アイデアはいいと思う。(竹村)

『俺、神やってるけど質問ある?』

タイトルはさておき、冒頭の掛け合いはよかった。しかし後半の意外性の無さがもったいない。(山中)

『夢に参っている』

小説として形になっていない。鬼についても勉強不足。(平林)

『重力と狂気』

借りてきたものを、いかにも借りてきたように書くのは良くないです。(平林)

『君が染めるクロモサム』

ハウダニットが「異能力」の一言で片付けられるのは、あんまりです。文体は好み。(岡村)

『LABEL×DUEL×MUSIC』

キャラクターごとにザッピングしていく序盤の展開は、何かが起こりそうな雰囲気があって非常に良かったが、後半の展開が特に意外性もなく、尻すぼみで終わってしまった印象。(山中)

『神よ、なぜ私を見捨てたのですか?』

いろいろなエッセンスを作品に突っ込んでいますが、表面的な知識が集まっている、という感じで、読んでいて〝薄く〟感じます。(岡村)

『《ZAKURO》血みどろマッドガール』

文章が修飾過多で読みづらく、話もなかなか進まない。内容的にも悪い意味で平凡。(平林)

『無条件幸福』

意気込みは感じるが面白さに欠けた印象。タイムリーでメッセージ性は高く、他の「ただエンターテインメントをやりたいだけ」という作品とは一線を画している。が、伝わるという目的は達しづらく売れないと思う。(竹村)

『金魚は蛍のためにDSCHを』

つまらない。小説を書くのと同じ時間を「考える時間」に使いましたか?(柿内)

『七夕の行方』

主人公の行動の動機やら主体性のなさが非常に目に付く。もっとキャラと世界の接点を見直して欲しい。(山中)

『のびけしゅうへんのほおかい』

趣味のレベル。もっと人生経験を積んでから、そのときに書く意欲があれば再挑戦を。(竹村)

『十二支ウインドミル』

サバイバルゲームものだがその設定を活かせていない。多数登場するキャラクターも書き分けられてない。(岡村)

『写偽 リアルフィクション

小手先のテクニックやキャラに逃げない物語を書いて、ぜひもう1回チャレンジしてください。期待はしています。(柿内)

『ブラインド・ザ・ワールド』

メタフィクションにすればいいというものでもないでしょう。(山中)

『幽霊の墓参り』

ストーリーに「おっ」と思わせる意外性がある。ただ、ところどころ根拠が甘く、リアリティと物語の強度が低い。(岡村)

『ひとごろしって、チョーおもしれえェ!』

タイトル通りの内容がブレずに書かれているが、それだけ。(岡村)

『魔王』

緻密な設計は好感が持てる。しかし全体的に地味な雰囲気。この物語ならもっと読者を引きつける禍々しさが欲しかった。(山中)

『空と宇宙』

蒸気を使った設定とかもっとひねらないと。なぜその設定を選んだのか、作品全体に照らし合わせた必然性に大いに欠けている。(山中)

『CP ~覚醒した能力者達~』

序盤に詰め込みすぎて複雑になりすぎている。物語に入り込みにくい。(山中)

『人見知りはヒトデナシ』

冒頭から意味が分からない。小説を読むところからもう一度。(山中)

『箱庭のワンダラーズ』

冗長でひとりよがりです。読み手を意識してください。(岡村)

『ジン・ボトル』

まとまっており、それなりに楽しめましたが、小粒な感じが気になります。自分の中で最もスケールが大きく、最も自信のあるネタで取り組んでみては?(平林)

『元』少女

ワンアイデアだけでとても狭い世界を書いていて物足りない。話の流れも淡々としていて起伏がない。(岡村)

『モブヒーロー』

読者を物語に巻き込もうとするならそれなりの覚悟を。入り込めないときの冷め方が半端ではない。(山中)

『ヨミコミヨミコメ』

文体が軽くて読みやすいが、中身も軽い。この中身なら半分のページ数で足りる。(岡村)

『キチガイDAYラビリンス』

なんの前振りもなくただ激昂するだけの描写は考え直した方がいい。情景に対して理解が追いつきません。(山中)

『奇形の家で暮らして』

童話としてはよく出来ていたけど、やはり出版を考えると厳しい! リベンジ待ってます。(山中)

『時計仕掛けのオレンジデイズ』

なんたる中2! 1章まではニヤけて読めたが、続くとさすがにしんどい。精神は中2でも、文体・表現はもう少し大人になったほうがいい。(柿内)

『月が昇るまで待って』

雰囲気は悪くない、というか割と良い。ただ、エンタメ小説としてはちょっと静的すぎるのではないかと思いました。お若いので次に期待します。(平林)

『ダレカ』

「全てが55点」という感じ。決定的に駄目なところもないけど、「おっ」と夢中で読ませるところもない。(岡村)

『飛び跳ねスラップスティック』

前回とは別人かと思うくらいつまらなかった。世界観・キャラクター造形の双方で失敗している。(平林)