レッドドラゴン
第六夜 第十五幕〜第十七幕
「最前線」のスペシャル企画「最前線スペシャル」。三田誠がFiction Masterとしてシナリオを紡ぎ出すRPF、『レッドドラゴン』。参加者は虚淵玄、奈須きのこ、紅玉いづき、しまどりる、成田良悟の夢の5名。音楽を担当するのは崎元仁。最高の布陣で最高のフィクションを創造します。
『第十五幕』
それは、もはや竜と人との争いではなかった。
それは、むしろこれより先の世界を占う、一連の儀式に近かった。
虚空の神殿で向かい合った〈赤の竜〉と人の子らは、単なる生存競争を超えて、それぞれの担う宿命を天秤へ載せるようにも映った。
忌ブキ: 《魔素の勲》を、霊母と白叡を除く、範囲内の全員にかけます。
FM: なるほど。婁さんと〈赤の竜〉は最初から範囲外ですしね。む、ドナティアの人間にもかけるのか。(少し考えて)……それだと、祝ブキが戸惑いながら、声をあげますね。
その空気に耐えられなくなったように、もうひとりの皇統種が兄へと問う。
「どういうつもりですか、お兄様!」
忌ブキ: ……どういうことも、何もない。スアローさんがこちらを手伝ってくれるなら、ドナティア単独で〈赤の竜〉を倒すことはできないだろう。だったら、一時的には協力できるはずだ。
FM: なるほど。だったら、エヌマエルが声をあげるよ。「つまり、ドナティアに恩を売ると?」
忌ブキ: そのつもりです。ぼくたちは、この戦いが終わった後のことも、考えなきゃいけないでしょう。
スアロー: (楽しそうに)ほほう。
忌ブキ: (祝ブキに向かって)君は、今まで何も見てこなかったんだから、これから一緒に見ていけばいいじゃないか。
禍グラバ: おおっと、突然上から目線に(笑)。
忌ブキ: だ、駄目ですか?
禍グラバ: いえ、いいですけど、禍グラバの視点からすると、忌ブキも言うほど見てないだろうと思うのだけど(笑)。
忌ブキ: はい、自覚してます。
FM: じゃあ、祝ブキは少し考え込んで、今度はスアローに言うよ。「じゃあスアローさんはどうなんですか! 黒竜騎士は新たに〈赤の竜〉の力も得てニル・カムイを守ってくれるのではなかったのですか!?」
スアロー: それは黒竜騎士としての信条だ。でも、僕はもう黒竜騎士じゃないから。
禍グラバ: 〈黒の竜〉の力を使いたいだけ使っておいて(笑)。
スアロー: これが人間っていうものだろう? でも不思議なことにまだ〈黒の竜〉さんは僕に力を貸してくれてるんだよね。おっかしーなー。
禍グラバ: 〈黒の竜〉とドナティアの意思が必ずしも一致しないということか。
スアロー: 選択は任せる、と言われたしね。
FM: だったら、祝ブキはぎゅっと胸のあたりで拳をつくります。「分かりました。今だけは、敵対しません。ですが、すすんで協力もしません」
禍グラバ: 攻撃はしてこないが、だからといって守ってくれるわけでもないか。
忌ブキ: うん、十分だ。
スアロー: 背中から撃たれないだけでも助かるしね。黄爛の方は、ちょっと交渉できる気がしないし。
婁: (手をあげて)あ、FM。会話の間に少しスアローたちの方に移動しておきたい。
FM: 了解です。
スアロー: この魔人は本当に止まらないな!(笑)。
行動順
- 〈赤の竜〉 91
- ヴァル 79
- スアロー 72
- 婁 71
- メリル 70
- 禍グラバ 66
- 白叡 65
- 雪蓮 64
- ダグナ 59
- 祝ブキ 51
- エヌマエル 51
- エィハ 47
- 阿ギト 37
- ジュナ 37
- 忌ブキ 36
FM: さて、では行動に移りましょう。最初に行動するのは【反応速度】91の〈赤の竜〉からです。
禍グラバ: 91!?
FM: さて、どうしたものか。いちばんやばげで止めておかないといけないのは……。
スアロー: エヌマエルだろ?(笑)。
忌ブキ: いえ、霊母でしょう(笑)。
禍グラバ: そういえば〈赤の竜〉は婁さんには気づいてるんですかね?
FM: 生体魔素で知覚しているから気づいてるよ。ただ、敢えて婁だけに行く必要もこいつにはないので。
禍グラバ: なるほど。
スアロー: それに、婁さんは僕たちみたいにバックアップを受けているわけじゃないから、そういう意味ではあんまり脅威に見えないんだよね。
FM: よし、じゃあ移動してヴァルの目の前まで行きます。
婁: ん、ヴァルの目の前?
そして、〈人竜〉が囁く。
「人が手にした最初の武器は木の枝」
まるで、神話でも語るような、荘厳なる言葉。
「ただの枝を槍として使ったそのときから、お前たちが生物を殺すための模索は始まった」
すぐ隣の竜樹に手を伸ばすや、摑んだ枝がたちまち棘を生やし、伸び上がる。
いかなる魔槍よりも鋭い、神の槍と化す。
FM: 直線上、幅3タイルの敵にダメージを与えます。だからメリル、スアロー、忌ブキ、エィハ、ヴァルが対象です。
スアロー: そうか、範囲攻撃か!
忌ブキ: め、メインどころに来ましたね。
FM: ははは、みなさん良い死に時ですよ(笑)。
禍グラバ: でも、どんどん婁さんに有利になっていく気が!
FM: (サイコロを振って)よし、成功。[達成度]28で攻撃。ひとりずつ命中部位も出していきましょうね。――まず、ヴァルの右後脚に命中。
エィハ: ……っ!
FM: で、忌ブキの右脚。次にスアローは頭。メリルは胸部で、ダメージは84点。
忌ブキ: う、そんなの喰らったら死んじゃう。現象魔術の《シールド》を使って……駄目だ、まだ60ダメージが通ります。
忌ブキの念とともに、不可視の盾が発生する。
現象魔術。
厳密には、それに酷似した皇統種ならではの防御魔術だった。よほどの剣豪の一撃でも食い止める、魔術の守り。
それでも、枝槍は止まらない。
魔術さえも食い破って、忌ブキの体へと突き進む。
エィハ: ……だったら、エィハの《ほどきとまもりのうた》で軽減するしかないですね。槍のダメージもあるけれど、ごめんヴァル。耐えて。
「……忌ブキ!」
少女の叫びとともに、ヴァルの身体が弾ける。
血肉は、彼女とジュナだけの魔術を掘り起こす。
《ほどきとまもりのうた》。
自らの――あるいはつながった魔物の肉体を形成する魔素をほどき、誰かを守るための歌。ほどけた肉体はそのまま傷となるが、それでも忌ブキだけは守らねばならなかった。
いや。
忌ブキだけじゃなく、自分だって一撃で死ぬわけにはいかない。
そう、あの時のように。
エィハ: 《ほどきとまもりのうた》を使います。ヴァルの背中と腹部に10点ずつ、左脚に30点のダメージを受けて、忌ブキが受けるダメージを50点軽減します。
忌ブキ: ……ありがとう! 右脚のFP残り10で耐えられました。あと、《シールド》を使ったんで、【反応速度】を10消費ですね。
FM: では、明らかに忌ブキの脚をちぎるほどのダメージが、ヴァルのほどいた魔素によって食い止められます。次はメリルとスアローだけど、このふたりはほぼ無傷だね。
スアロー: 頭部ならガイーン! だよ。
FM: まあ、スアローはブリキングの次に硬いしね。で、〈竜〉の次の攻撃です。
忌ブキ: 二回攻撃!?
FM: 〈竜〉が一回攻撃だと誰が言った(笑)。
静かに、〈竜〉は続けて囁いた。
「ほぼ同じくして手にしたは小石。投げるという概念の取得は、より遠く、より安全な位置から生物を殺すという思考を、お前たちに刻みつけた」
足下から、自らの拳大の石を拾い上げる。
投げつけたその小石は空中で爆散し、無数の礫となって降り注いだ。
禍グラバ: ホントに学習してる――!
FM: というわけで、3×3の範囲に攻撃を行います。禍グラバ、白叡、祝ブキ、エヌマエルの四人に対して、〈竜〉が投げつけた石が隕石の雨のようになって降り注ぎますね。(サイコロを振って)[達成度]は18。
禍グラバ: 祝ブキ!?
対して、
「――岩よ、我らが思うがごとく盾となれ!」
祝ブキとエヌマエルが、同時に呪句を叫ぶ。
すると、創造魔術によって、彼らの目の前に岩の盾が形成される。
FM: 祝ブキとエヌマエルはふたりがかりの《彫像作成》で、岩の盾ブロック。60点ダメージを軽減するよ。
忌ブキ: か、硬い……。
スアロー: まあ、守りに特化したおハゲ様だからねえ。
禍グラバ: (計算して)私はノーダメージですね。どの部位の防護点でもそれは通りません。カンカンと石が体の上を跳ねていきますね。
エィハ: 降ってきただけだ(笑)。
FM: 白叡もダメージは受けないな。まあこの段階だと仕方ないか。
忌ブキ: この段階?
スアロー: 要するに、文明の発展を辿るように攻撃が強くなっていくってことでしょ。しかも、一回の攻撃で複数段階パワーアップしてく。……最後は核攻撃とかしかねないぞ。
禍グラバ: ……速攻で決めないと、ダメージが2000とかになってそうですね。
FM: では、禍グラバは《天性の勘》を振ってみて。
禍グラバ: (サイコロを振って)こ、こんなところで自動失敗!
FM: それだと何も分からないね。
禍グラバ: くう! しかし、銃と火薬あたりまでいくと、多分やばい……。
忌ブキ: 火薬は見たくないですね……。
FM: さて、次は【反応速度】79でヴァルだね。まあ、〈竜の爪〉を預かればダメージが通るであろうことは予想がつくだろうね。
忌ブキ: 〈竜の爪〉は、ぼくが念じさえすれば、エィハに移るんですか?
FM: ええ。〈竜の爪〉は特別です。あなたが念じた相手に所有権が移り、その持ち主に相応しい姿となります。ヴァルの場合は、牙や爪を〈竜の爪〉が覆うことになるでしょうね。
エィハ: ……いえ、まだ待機です。動くべきときに動きます。
婁: ほう。
FM: じゃあ、次は【反応速度】72のスアローですね。
スアロー: (少し考えて)……そういえば、生体魔素ってジャスト0になったらどうなるの?
FM: ふつうは気絶で済みますが、スアローの場合は契約印に喰われて死にます。
禍グラバ: で、その喰らったところを媒介にして〈黒の竜〉登場ですね(笑)。
スアロー: そこまで責任持てるか! じゃあ、まず剣が届く範囲に移動しよう。うおおお、ヴァルに背中を向けることになる……が、スアローはなんかヤバそうだとか何も知らないのだ! い、忌ブキさん。君の剣はちょっとどうかと思うよ?(一同爆笑)。
禍グラバ: 剣の立場からしたら、君の使い方もどうかと思うが(笑)。
スアロー: そうだった!
忌ブキ: 忌ブキから見たら、エィハは最高の剣ですよ。
エィハ: (強くうなずく)。
スアロー: 言うようになったなあ!
FM: さて、スアローからは接近してすぐ殴れる距離ですね。今の〈赤の竜〉は十分小さくなっているので、命中部位表が発生しますよ。
スアロー: なるほどね。じゃあ、また十回殴ろうか。また、例の魔法の剣を十本フルに使うよ。(サイコロを振って)まずは効果的成功! [達成度]は148で、ダメージは558点!
怒濤のごとく、スアローが魔剣を振るう。
片端から砕けていく剣の列は、しかしさきほどよりは遥かに力強い手応えを伝えてきた。大きさと同様に、〈赤の竜〉の生命力も減退している。たとえ未知の相手だろうが、これなら自分と剣が尽きる前に砕くことも可能だろう。
だが。
だからこそ……拭い切れぬ不安が、スアローの首筋を伝った。
スアロー: (目を見張って)ご、五連続で効果的成功! 総計ダメージが2700を超えたぞ……。
禍グラバ: な、何か嫌な予感がしてきた……うっかりスアローさんが削り倒してしまわない内に、忌ブキさんが割り込む準備をしておいた方がいいかも(笑)。
エィハ: わたしは、いつでも割り込めるようにしてます。
スアロー: 想定外だ! なんで今日に限ってこんな調子がいいんだよ、僕は! (さらにサイコロを振って)六撃目……01!??
FM: ここで決定的成功!? それも任意の部位に!?
スアロー: (深く考え込んで)……いくら絶好調とはいえ、変身直後だしまだ決まらないよな。あと一押しで忌ブキさんが殺せるようにするためには、どこを狙えばいいんだ? 頭を《黒の刃》で狙ったら吹き飛ばないか?
忌ブキ: 勢い余って首が飛ぶかも(笑)。
スアロー: これで首が飛んだら台無しだよね(笑)。
FM: ちなみに人間の場合、基本的に頭部は防護点が高くてFPやBPが低い。腹部だと逆に防護点は低めでFPやBPが高め。胸部だとどれも高めだね。ま、あくまで人間ならだけど。
スアロー: ……よし、腹部にいこう。
FM: 誰であってもダメージの通しやすい場所か。じゃあ[達成度]を3倍にしてダメージを出してください。
スアロー: じゃあ[達成度]225。で、《黒の刃》を使う! (大量のサイコロを振って)よっし975ダメージ!
FM: 975!? よくもそんだけ頑張りやがったな。黒い魔素の刃が大きく人竜の腹をかっさばく。……そして、同時に、こう告げよう。
「ああ……その一撃は確かに我を進化させるに足る」
忌ブキ: (目を見開いて)……な。
スアロー: ぎゃーっ!
「国を守らねばならぬお前たちは、そのために砦や城壁を築いた」
〈竜〉の声が流れた。
「守るという美名のもとに、自分たち以外の者をひたすら排除し続けた」
不意に、〈竜〉の前に壁が屹立したのだ。
スアローの黒刃の威力さえも、その壁は減じせしめた。
FM: 具体的には120点ダメージを軽減するね。
スアロー: ……やっぱりそうか。時間経過もそうだけど、迂闊に手を出しても、こいつはバンバン進化していくんだ。なんつう化け物だよ……。
FM: そう。ただ、割り込み行動で〈竜〉の【反応速度】が3点下がる。
スアロー: 仕方ない。次いくぞ!
スアローの全力を込めた十連撃が終わる。
大きく傷ついた〈竜〉は揺らいだ。衰弱した〈竜〉にとって、けして無視できないだけの損壊を、青年の刃は与えていたのである。
しかし、〈竜〉は再び、空に向かって声をあげる。
「――王というシステムは、国の運営に効率的だった」
スアロー: またか!
忌ブキ: ど、どんどん強化されていく……。
「かつては一族の長という意味合いしかなかったそれは、領土に封じられることによってより特別な権威を帯び、何度もの競合の果てに王と貴族を上位とするカタチをつくりあげていった」
〈竜〉の囁きが、その周囲に幻影を形作る。
人の歴史の再現。
自らを守るために、他人を利用するというその概念。
FM: 〈竜〉の周囲に兵士たちが三体現われます。場所はスアローの隣に一体、ヴァルの隣に一体、ダグナの隣に一体。
スアロー: くう、やっぱりか!
忌ブキ: う、割と近い……。
スアロー: でも、ある意味いい位置に来てくれた。
忌ブキ: いい位置なんですか?
スアロー: ここに来るであろう何者かを阻止する位置にいるからね(笑)。
FM: で、幻影の兵士が出現したところで、次は【反応速度】71の婁さんなんですよね。
スアロー: ホントにキタアア――ッッ!!
禍グラバ: 来てしまった……!
婁: 悩ましいよねえ。霊母に斬りかかっても何だし……ここは〈赤の竜〉に斬りかかるしかないよな。
スアロー: ……そ、そうだ。忌ブキさんにトドメを刺してもらおうとばかり思ってたけれど、下手すると婁さんに仕留められる可能性もあるんだ。
禍グラバ: そうなったら、〈天凌〉軍が島の外に出られるわけだから、ここで婁さんを滅ぼしておかないとどうしようもなくなる(笑)。
婁: よし、回り込んで、〈赤の竜〉の背後から攻撃しましょう。場所としては〈竜〉を挟んでスアローの反対側で。
FM: なるほど、了解です。ちなみに、今回は七殺天凌を見せっぱなしでいいですか?
婁: (悠然と頷く)隠す必要はないですね。せっかくなんで言いましょう。――人の在り方を学ぶと貴様は言ったな? ならば、教えてやろう!
FM: じゃあ、スアローの腰に差さっていた剣の一本――知恵ある剣が甲高い声で反応するよ。「緊急連絡! ご主人様、来ました!」
スアロー: 来たか、婁震戒!
忌ブキ: え?
スアロー: いや、こういうときのために用意してたんだよ。禍グラバさんに用意してもらった知恵ある魔剣。名前はナンシー。敵意を持った人間が間合いに入ると「ナンシーから緊急連絡」とエマージェンシーしてくれる。それのみに能力特化したのでたとえ相手がスネークでも気づける。奇襲もクソもなく真っ直ぐやってきたから無駄になった!(笑)。
婁は、愛剣を抜く。
まずは仇敵ではなく、剣の欲する相手へと。
「これじゃ! この〈竜〉のためにこそ、我らはニル・カムイまで来たのじゃ! 婁よ、かの魂をわらわに捧げよ!」
婁: もちろん! 遍く魂、すべて我が君への捧げ物よ!
FM: では、婁が剣を抜いた瞬間に、全員の【意志】判定が発生しますね。
スアロー: もうやめとけって!(悲鳴)。
禍グラバ: 前みたいに、《天性の勘》で割り込んで気づいて目を背けるとかはありですか?
FM: まあ、それはありですね。
エィハ: ヴァルは目を覆ってますけど……。
FM: ああ、ヴァルには無効ですね。ただ、エィハが見ていれば同じだけど。
エィハ: ……そうですね(笑)。
FM: そして、基準になる七殺天凌の【意志】判定[達成度]が……(サイコロを振って)え、97で自動失敗!?
スアロー: え?
忌ブキ: つまり……?
FM: み、みんな判定しなくてもいい。七殺天凌さんってば〈赤の竜〉に夢中になりすぎて、魅了の魔力を使ってない!(一同爆笑)。
スアロー: ここにきて、天が我々に味方した(笑)。
FM: もっとも、みなさんが抵抗に成功したわけじゃないので、次の手番にはまた判定しますけどね。
忌ブキ: ゆ、猶予ができただけ……。
禍グラバ: 抵抗に成功すれば、以降は大丈夫なんです?
FM: ええ、今回の場合はこちらの自動失敗なんで、そもそも魅了の魔力が発揮されてませんからね。きちんと判定勝負になって勝利すれば、もう七殺天凌に惑わされることはありません。
禍グラバ: く、首を真綿でしめられていくようだ……(笑)。
婁: さてさて。意外な結果になりましたが、〈赤の竜〉に十一回攻撃といきましょう。命中率は低いですが、当たればすべて効果的成功です。
FM: ウルリーカを殺したときのあれか!
スアロー: これ、決まっちゃうんじゃないですか?
忌ブキ: いや、マジでやめてください!(悲鳴)。
婁: ずいぶんスアローが削ってくれたしね。《部位狙い》でひたすら腹を狙いましょう。
スアローとの戦いで、〈竜〉の特性はある程度見切っていた。
人間に近づいたのならば、それは暗殺者である自分の領分だ。殺しやすくなったと、そう言ってもよい。
スアロー: あああ、ここに来てまた裏目裏目に……!
婁: (サイコロを振って)まず一発目は外れ。二発目が出目13で効果的成功。[達成度]は107。ダメージは172点!
FM: うおおおお、ダメージはスアローよりずっと低いんだけど、生体魔素を奪われるのが……。
さらに六撃を続け、婁震戒は慎重に、現在の〈竜〉の性質を見極めていく。
婁: ……ちなみに、媛は蓄えた魔素を使っても構わないとお考えですか?
スアロー: ん、蓄えた?
FM: ここで使う分には文句を言わないね。その辺りの采配は婁に任せます。
婁: なるほど。
FM(七殺天凌): 「いくらつぎ込もうが構わぬ。ここで一番肝要なのは、〈赤の竜〉を殺ること」
婁: 承知しました。――(サイコロを振って)で、九撃目は失敗。十撃目が効果的成功。致命表は17。
FM: 『みぞおちに衝撃走る。[達成度]を2倍に計算し、さらに二段階不利で【頑健】判定を行い、失敗すると膝立ち状態になる』! (サイコロを振って)よ、よし、判定は成功。しかし、そっちの[達成度]は――
婁: [達成度]107。ダメージは152。(少し考えて)……よし、ここですね。腹も決まってるようですから、媛の生体魔素から三分の一を使わせてもらいましょう。
忌ブキ: えええっ!
スアロー: ここまで来て、まだそんな手を隠してたのか……!
それこそ、婁の切り札だった。
いや、婁と七殺天凌、双方の切り札であった。
これまでイズンの岩巨人やウルリーカから喰らいに喰らった生体魔素を、婁は自らの奥義をもって、剣の威力に変換することが可能であったのだ。
――まさしく〈無二打〉。
人でも魔物でも打ち倒す、必滅の一撃。
婁: (計算して)これでダメージは652点。
一同: おお……っ!
忌ブキ: た、単純なダメージ量でもスアローさんに並ぶように……?
FM: それは一気に通りました。先ほどのスアローの《黒の刃》にも劣らぬ一撃が〈竜〉の腹部を傷つけ、その体が大きく揺らぐ。
スアロー: やばいな……。今のダメージで生体魔素を吸うと、僕が八人分ぐらいミイラになるぞ。
FM: いえ、媛の生体魔素で《二の打ち要らず》を使う場合、七殺天凌の魔素吸収機能は発揮されないんですよ。使えるのはどちらかだけです。それでも今の一撃はかなり致命的でしたけどね。スアローにもずいぶんやられたし、そろそろ半分近くになってきてます。
スアロー: これで半分かよ!
忌ブキ: それはそれで……。どっちを応援したらいいのか……。
婁: (サイコロを振って)と、十一撃目は失敗。これでこちらの攻撃は終了です。
スアロー: (大きくため息をついて胸を押さえ)し、心臓に悪い……。
『第十六幕』
戦闘は、さらに混迷を深めていた。
革命軍、ドナティア、黄爛それぞれの陣営の思惑。
忌ブキやエィハ、スアロー、それぞれに〈赤の竜〉との因縁を持つ者たち。
〈赤の竜〉の変化(進化)。
さらには、婁震戒の乱入まで。
あまりにも絡み合った宿命、あまりに濃縮された時間が、この戦いを誰にも窺い知れぬ境地へと追いやっていた。
果てなくそびえた竜樹だけが、静謐とともに睥睨する。
人と竜。
生き延びるものはいずれや、と。
FM: では、次は【反応速度】70のメリルですね。ヴァルは動きますか?
エィハ: ……いえ、まだ待機です。
スアロー: よっし。じゃあ僕の剣をチャージしつつ、行動に余裕があったら幻影の兵士を殺っちゃって!
FM: スアローの隣にまで移動してサブ行動で剣を十本渡す。で、メイン行動で幻影の兵士を攻撃だな。(メリルの持っている剣の数を確かめながら)すごい勢いでスアローが剣を使ってるなあ……。
禍グラバ: 全部禍グラバの金で買った剣ですね!
スアロー: そうそう(笑)。
忌ブキ: これが湯水の如きスアロー。
禍グラバ: そういえば、キャラクターブックの二つ名はそうでしたよ。
スアロー: ようやく、最後の最後でつけておいた二つ名が機能した(笑)。
FM: (スタッフから戦闘の結果を受け取る)メリルの連続攻撃によって幻影の兵士の胸部が半壊、右脚が千切れる寸前か。倒すまではいかなかったな。
メリルが、疾走する。
その剣は凄まじい力と速度を伴って、たちまち幻影の兵士を打破していく。
黒竜騎士としては凡庸ながら、しかし常人など比較にもならぬ――その力こそ、メリル・シャーベットの実力であった。
禍グラバ: ちなみにメリルさんのダメージはどのぐらいですか?
FM: 一撃で50点から60点ぐらいですね。連続攻撃は三~四回ぐらい。
禍グラバ: 強っ!
スアロー: いやあ、メリルさんはおっかないなあ。
FM: その十倍近く出してて何を言う(笑)。次は【反応速度】66で禍グラバですね。
禍グラバ: じゃあ、空を飛んで祝ブキとエヌマエルさんの頭上辺りに行きましょう。いざとなったら祝ブキやエヌマエル、霊母を庇えるように。
忌ブキ: 霊母もですか!?
禍グラバ: ……本当は霊母は庇わなくてもいいんですけど、昔のしがらみがあるんで。
FM(雪蓮): 「あらあら、ずいぶん親切にしてくれるじゃない」
禍グラバ: いやあ、どんな理由とはいえ、一時期はともにいた女性を無下にできるほど非紳士ではないのでね。
FM: では、雪蓮はなんともいえない笑みを浮かべますね。子供の頃、一緒に悪戯をした友人を見つめるような表情で、「そうね、アンタはそういうヤツだったわね」と囁く。
禍グラバ: で、移動した後は奥にいる幻影の兵士を万破腕で撃ちますかね。
FM: あ、万破腕は範囲武器なんで、そこから撃つと傍にいる阿ギトが巻き込まれますよ?
禍グラバ: 阿ギトか……(笑)。
エィハ: (にこやかに)いいよー!
忌ブキ: (爆笑しながら)い、いいよって……。
禍グラバ: 上空からの角度で撃っても、巻き込みます?
FM: ちょっと待ってね。(スタッフが持ってきた測定結果を見て)……阿ギトの頭に当たる(笑)。
エィハ: うっかりうっかり(笑)。
忌ブキ: そんなうっかりないですよ!
禍グラバ: 測定結果が変わるほど上昇すると、今度はかばえなくなりそうだしな。……じゃあ、敢えて様子見に努めましょう。五行躰の自己修復機能と禁傷符を使って左脚のFPを合計24点回復しました。
(……見守るだけか)
そう、禍グラバは判断した。
自分がここにいる理由だ。
けして、〈赤の竜〉に引導を渡すことではない。
そして……しかるべきタイミングがあれば、必要な相手に、自らの手を伸ばすこと。
だから、その準備を始める。
FM: 了解。次は白叡だけど……判断が難しいな。近くにいる幻影の兵士を殺すか。……あ、この配置なら阿ギトごと殺せるか。
エィハ: (満面の笑みで何度もうなずく)。
FM: (配置を確認しながら)……いや、白叡の装備でこれなら、〈赤の竜〉ごと、阿ギトとジュナ&ダグナとスアロー、しかも婁まで一緒に攻撃できるぞ。
婁: な、何!?
スアロー: こっちもマップ兵器かよ! あいつもこいつも惜しみなく切り札を!
ふわりと、万人長はその唇に笑みを浮かべる。
「さあてとね。ちっと悪いが、さすがにこれ以上、うちの姫様の機嫌を損ねるわけにもいかねえんだよ」
巫山戯たようでいて、しかし殺気の秘められた声音だった。
その右腕の五行躰がたちまちカタチを変えて、巨大な砲門を形成する。
番天印。
魔素を練り上げ、直接放出することで外敵を葬り去る第五階梯の宝術兵器。数ある道宝の中でも、とりわけその威力と射程で恐れられる品を、白叡は身体の内に蔵していたのであった。
禍グラバ: まあ、白叡からすれば阿ギトは「お前さえ〈赤の竜〉が来ることを事前に知らせていれば!」みたいな相手ですしね。
FM: 本当だ! 俺の麒麟船を間接的に破壊した男だ! (サイコロを振って)よし、〈魔法投射〉判定も普通に成功して[達成度]31!
禍グラバ: い、移動しててよかった……。射線の外にいる。
FM: ダメージはエネルギー属性で82点。ただし、これは身体の一部ではなく全身に当たります。
婁: 全身だと……!
FM: ええ、一部ずつのダメージが軽微でも、全体で一気にスタミナを奪われて倒れる可能性が高い攻撃です。爆炎を全身に浴びてるのと同じですから。
忌ブキ: それなら、第四夜と同じ《強風発生》を!
FM: あ、確かにそれが一番安全に守れる手段だね。阿ギトも、ここまでに持ってきていた霊符を大量にばらまくよ。
エィハ: 符?
番天印より迸る、魔素の奔流。
対して、阿ギトが咄嗟にばらまいたのは、大量の霊符だった。
革命軍の資金を使い、ぎりぎりまで集めさせていた――炎や爆発を封じ込める禁炎符。
スアロー: ああ、そっか。そら何の用意もないってことはないよな。
FM: さらに、ジュナが「阿ギト!」と一言叫んでダグナに庇わせます。《つながれもののうた》で防護点がエネルギー属性にも有効になってるから、全身にそれなりにダメージを受けますけど、死んだりはしません。
忌ブキ: 阿ギト、無事――!
エィハ: ジュナが、守ったのね……。
「……はは、世話無いな」
無精ひげをこすって、快活に革命家は微笑した。
本来は、〈赤の竜〉の吐息対策として用意してきた禁炎符だった。一度ぐらいは忌ブキを庇うことができるだろうと考えていたが、結局はこのざまである。他人どころか、自分の身を守るので精一杯。
ジュナがいなければ、それさえもできたかどうか。
(……だったらやっぱり、できることなんて決まってるか)
そう、自分に語りかける。
婁: こちらは一マス移動して《軽功回避》します。(サイコロを振って)判定も成功。
スアロー: く、婁さんは余裕か! こっちは忌ブキさんが軽減してくれてるから、FPで耐えられそうだけど。(……データを確認して)あ、駄目だ。エネルギー属性だと普通の装甲無視だから頭を吹っ飛ばされる。《黒の帳》を使いましょう。
スアローの周囲を覆った漆黒の魔素が、番天印の魔素と激しく拮抗する。
――《黒の帳》。
以前、〈黒の竜〉に与えられた恩恵であった。
その力がいまだ使えることで、青年は〈黒の竜〉が自分を見限っていないことを知る。
(……まだ、見ているのか)
そうも、思う。
自分が、けして〈黒の竜〉の有利に物事を進めないことは分かっているだろう。
それでも、超越者としてただなりゆきに任せるつもりか。あるいは、そもそもからして、なりゆきに任せるしかないシステムなのか。
スアロー: 《黒の帳》の防護点だけで、ダメージはキャンセルだね。……とはいえ、さらに生体魔素5点と【反応速度】が2点減少。生体魔素が残り16点か。
FM: ここで契約印に喰われて死亡とかにはならなくてよかったね。とはいえ、次のターンになるとかなりやばいだろうけど。
スアロー: そうなんだよねえ……。
「……っ」
意識が、一瞬遠のくのを感じた。
スアローとて、常人ならざる生体魔素を所持している。
しかし、契約印の解放に《黒の帳》。連続した恩恵の行使は、それでも補いきれないほどの魔素を喰らい尽くす。
この戦いが終わるまで、はたして立っていられるのか。
忌ブキ: みんなのリソースがどんどん削られてる……。
FM: さて、次は雪蓮ですね。こちらは彼女の興味本位で動きますからね。あと、基本的に状況をひっかきまわせる方向で。
スアロー: 愉快犯のテロリストか!
禍グラバ: これ、下手すると、部下の白叡も殺りかねないですよ(笑)。
忌ブキ: 暴君……!
FM: うむ。よし、メリル、スアロー、幻影兵士、〈赤の竜〉を順々に殴っていこう。
スアロー: ぶほおっ! さ、最悪、僕の生体魔素をさらに使って、メリルにも《黒の帳》を……。
雪蓮の身体が、虚空の神殿を搔き回す。
絶技としか言いようのない剣が、メリルやスアローへと次々に襲いかかる。
《黒の帳》に守られたスアローこそ無傷ながらも、たちまち幻影兵士はなで切りにされ、メリルの身体に憑いていた聖霊が身代わりとして弾け飛んだ。
スアロー: あ、そうだった! 聖霊憑けてもらってたんだ!
禍グラバ: もうエヌマエルさんに足向けて寝られませんね(笑)。
スアロー: いやいや、あの時はまだドナティアの騎士として当然の権利を行使しただけですよ(笑)。
忌ブキ: まさか、エヌマエルさんが最終決戦の場に残るキャラだとは夢にも思ってませんでしたが(笑)。
FM: スアローが延々連れ歩いたからね。
スアロー: だって楽しいんだもん(笑)。
FM: (スタッフから結果を受け取って)うお、そして致命表の結果で、〈赤の竜〉が転倒させられただと!
少女の剣が、さらに乱舞する。
幻影の兵士をなで切りにして、さらに〈人竜〉と化した〈赤の竜〉へ肉薄。円舞のごとく鮮やかに、その剣は世界の真理を体現して、〈人竜〉の足をすくいあげる。
竜の鱗は穿てぬまでも、その鮮やかな手腕は〈竜〉のバランスを崩してのけた。
エィハ: 転倒するとどうなるんですか?
FM: 攻撃が二段階不利になるほか、いくつかの不利益がありますね。立ち上がるためには【反応速度】をかなり消費するので行動が遅れますね。
婁: これで霊母が〈赤の竜〉を倒しちゃったら、黄爛が黄色と赤が混じってオレンジ爛になっちゃうな(一同爆笑)。
禍グラバ: 言われてみれば(笑)。
婁: 真面目に言うなら橙爛?
FM: とはいえ、霊母は〈竜殺し〉でもないし、〈赤の竜〉を自分で殺しても役得はないんだよな。さて、次はまた禍グラバです。
禍グラバ: まず自己修復機能で右脚を10点、左脚を2点FPを回復します。後は待機ですね。
FM: では、祝ブキ、エヌマエル、〈赤の竜〉の順。……むう、阿ギトよりはマシに見えるので、祝ブキがエィハの近くに移動するか。
禍グラバ: そ、そっちはダメ!
スアロー: 一番殺意の高いところに!
エィハ: いやいや、もうターゲッティングから外れてますから(笑)。
FM: で、近くの幻影兵士に、創造魔術の《岩石作成》で岩を作って攻撃します。
祝ブキとエヌマエルは、それぞれ幻影兵士と雪蓮を狙う。
結果、幻影兵士はまた一体消滅するが、雪蓮はまったくの無傷。
そのまま、再び〈赤の竜〉が動き出す。
FM(赤の竜): 「お前たちは知識をより効率よく収集するため、文字をつくりあげた」
スアロー: また来たよ!
禍グラバ: あああ、どんどん進化していく……。
「この結果として、お前たちの知識は永遠を生きることとなった。お前たちの進歩は一代にとどまらず、積み重なっていくこととなった」
体勢を崩しながらも、〈竜〉の声は落ち着いて響いた。
むしろ、新たな重みと威厳を獲得しつつあるようにも聞こえた。
「それによって一部の異能者だけが意識していた生体魔素の活用法を、魔術というカタチで学問にすることに成功した」
忌ブキ: (額を押さえて)一部の異能者……。
禍グラバ: 活用法ということは、今度は魔法か……!
「ドナティアの三大の中でも現象魔術がとりわけ先んじたのは、その原始のカタチが雨乞いなどといった自然現象に向いていたためだ」
突然、風が吹き荒れる。
強烈な颶風は、〈竜〉の身体さえも起き上がらせる。
スアロー: かっこいいことを言っておいて、結局立ち上がってるだけ! でもやっぱり怖い! なんだこれ!
FM: 要は、さっきの忌ブキと同じ《強風発生》ですからね(笑)。これなら【反応速度】の消費は3点だけですむけど、途中にエィハの番が入るな。
エィハ: こちらは《つながれもののうた》に重ねて《よろこびのうた》を歌います。ヴァルの判定すべてを一段階有利にしますね。
FM: 了解です。じゃあ、すぐまた〈赤の竜〉ですね。
「……やがて、人は剣を手に入れる」
再び、〈竜〉は囁く。
人が歩んできた歴史を口ずさみ、その意味を受け容れていく。
「最初は石器、次は青銅器、さらには鉄器。素材を変えるたび、お前たちの牙と爪は獣たちを超えていった」
FM: さきほど手にしていた木の枝が今度は剣となり、言葉に応じるようにその色を変えていきますね。スアローを二回、婁を三回攻撃します。
スアロー: 来るかあ……。
婁: こちらですか。
FM: これまでの脅威度から攻撃の対象を決定してますから。といっても、この進化度だと《黒の帳》を発動したスアローは捉えきれないかな。
スアロー: やめて! このままじゃガス欠で、次のターンにはパンピーよ!
剣では、まだスアローたちに一日の長があった。
スアローは《黒の帳》で耐え凌ぎ、婁は〈竜〉の剣を見極め、軽功をもってその範囲外へと逃れる。
FM(赤の竜): く、さっきの婁の攻撃で、腕の筋を切られてたのが効いてるな。右腕の判定が一段階不利になってる。
忌ブキ: やっぱ婁さんすごい……。
FM(赤の竜): 仕方ない。範囲外に逃れられたし、次の進化に移ろう。
禍グラバ: やっぱりまだ進化する……!
「……石は弓となり、弓は弩となった。より遠く、より強力に、殺すための思考は鋭さを増す」
〈竜〉の持っていた石が弓となり、クロスボウに変わる。
そこから射出された矢が、次々と人を傷つけていく。
FM: 範囲は5×5マスなので、スアロー、ダグナ、阿ギト、メリル、忌ブキ、ヴァル、雪蓮、エヌマエル、禍グラバ、幻影の兵士を範囲に捉えて攻撃します。
忌ブキ: 多い!
スアロー: 待て、幻影の兵士もかよ(笑)。
FM: 〈竜〉はそんなことには頓着しないですね。投射攻撃で[達成度]は29。ダメージは95点。部位は個人ごとに決めます。
忌ブキ: こちらも《強風発生》で防御を!
いくつもの防御魔術をもってしても、今度の〈竜〉の攻撃は防ぎきれなかった。
メリルの腕から血がしぶいた。
忌ブキを守ったヴァルが頭と背中に傷を受け、悲しい絶叫をあげる。
FM: メリルが右腕に26点。ヴァルがそろそろ危険域に入りますね。
禍グラバ: ヴァルさーん!
エィハ: (顔を歪めて)それでも、まだ……。
竜の力は、やはり圧倒的だった。
人間に近づいたからこそより切実に分かる――その違い。
さらに、まだ〈竜〉は囁く。
「……武器だけではない。お前たちを変えたのは農業というシステムでもある」
スアロー: ちょ、ちょっと待って! 二回攻撃じゃなかったの!
FM: そんなの言った覚えないよ。ついでに言えば、攻撃でもない。
忌ブキ: ちょ、まさか……。
禍グラバ: ……嫌な予感がしてきたぞ。
FM(赤の竜): 「土地に根付いたお前たちはその土地を守ることを覚えた。国の始まりであり、戦争の始まりであり、多くの人を連れて働かさねばならないという意味で奴隷の始まりでもあった」
エィハ: これ……。
FM: ええ、回復魔法です。〈竜〉の周囲に結界が張られ、このマスにいる間さらに〈竜〉が受けるダメージを軽減・回復させていきます。
スアロー: おい待て! ここまで削ってラスボスが回復魔法だとお!
FM: ちなみに、この結界も魔素流によるものなので、〈楔〉を三本使えば無理矢理解除することはできますよ。スアローなら一本ですね。
スアロー: もう一本しかないのに……。だ、だがこれはどうしようもない! 最後の一本を投げつけて結界を解除する!
苦渋の決断で、スアローが最後の〈楔〉を投擲する。
結果、〈赤の竜〉の結界は消え失せ、再生は停止した。
一進一退。
ここまでは、ある意味、〈竜〉と人との削り合いである。〈竜〉の進化が人を食い止め、人の力が〈竜〉の進化を阻むという競争だ。どこまでも熾烈に、どこまでも苛烈に、互いの状況を一手ずつ追い詰めていく。
そして、やはり、それだけでは終わらない。
――魔人が、再動する。
『第十七幕』
婁震戒にとって、それは結局いつもの戦場でしかなかった。
同時に、いつもの戦場からはかけ離れていた。
それは単に戦う相手や舞台のことではなく、自分自身のことだ。でなければ、暗殺者である彼が、自ら姿を現すなどありえなかっただろう。
FM: では、スアローが〈楔〉を使って〈竜〉の結界を打ち消します。次は婁さんですね。
婁: 結界は消えましたか。
FM: ええ、消えました。そして婁さんが攻撃するなら、再び七殺天凌の魅了判定が行われます。
スアロー: ここでカオスが始まるのか……。
FM: 今回は媛の【意志】判定を虚淵さんに直接振っていただきましょう。
婁: 承知しました。(サイコロを振って)89で普通に成功ですね。[達成度]は13です。
もちろん婁は、自分が姿を現す危険性について承知していた。
彼の本質は暗殺者であり、堂々と戦う騎士でも戦士でもない。修めてきた技術も、鍛えてきた能力も、すべてはその方向に特化している。
しかし。
その上で、彼にも抗えぬ欲望があった。
(……見よ!)
心中で叫び、自らの想い人を高々と掲げたのだ。
いくつもの死をつくりあげてきた妖剣・七殺天凌が――今度こそ、魔魅の光を放った。
スアロー: 13かあ……。
FM: スアローは《粉砕の呪い》によって所有欲そのものに影響があるので、判定に成功さえすれば[達成度]を三倍にしていいよ。
スアロー: おお、それなら! しかし、もともと【意志】は50%なんだよね。(サイコロを振って)……63、魅了されました。
禍グラバ: やっちまったーっ!
忌ブキ: よりにもよってスアローさんが!?
脳のすみずみまでを、その光が侵略するのは一瞬のことだった。
「……」
言葉はなかった。
ただ見るだけでよく、ただ感じるだけでよかった。
自分という存在のすべてが、刃のきらめきに吸い込まれてしまったかのようだった。
スアロー: あの剣は、素晴らしい……。
FM: (サイコロを振って)あ、メリルも判定に失敗して魅了された。
忌ブキ: ちょっと!?
禍グラバ: ふたり揃って!?
スアロー: (少し考えて)……よし、ある意味助かる。僕が成功してもメリルが失敗したら意味がなかったしな。
忌ブキ: ぼくは[達成度]15で魅了されませんでした。
エィハ: ええと、わたしは【意志】が180%あるんで自動失敗以外なら大丈夫ですね。うん、33だったから大丈夫。ヴァルは目隠ししてるから問題ないし。
FM: (スタッフから結果をもらって)黄爛は白叡が堕ちた!
エィハ: うわあっ!
忌ブキ: ま、まさかの白叡……さん……っ!
FM: 自動失敗を起こした……(笑)。祝ブキとエヌマエルは大丈夫だったけど。
禍グラバ: でも白叡と、何よりスアローとメリルが堕ちたんですよね……。
スアロー: いやあ、僕のはある意味予定調和ですよ。サイコロは裏切らない(笑)。
禍グラバ: (サイコロを振って)……よし、私は成功。五行躰の効果で【意志】の[達成度]は最低でも15になるんで。
FM: おお……では、抵抗に失敗した人がどうなるかについて説明します。魅了された方は、いかにこの剣を持って生き延びるか、が第一になります。どんな行動を取る際にも、あの剣を奪うための筋道ができてなければいけません。
スアロー: ……なるほど。
FM: もっとも死んでは剣も得られないわけですから、生存は最優先にしてもらって大丈夫です。やったら絶対死ぬという選択肢を取る必要まではありません。つまり、白叡の場合だと雪蓮を裏切ることはないわけですね。で、「この剣を手に入れた方が〈竜〉を容易に倒せると思ったんです」という言い訳はできる。
婁: じゃあ、声高らかに叫ぶね。
七殺天凌を振り上げ、婁震戒は歓喜とともに言う。
「我が君は〈竜〉の血をお望みだ!」
一同: (大爆笑)。
禍グラバ: これは……! 白叡に剣を奪って〈竜〉を殺せと言ってる!(笑)。
FM: 白叡の行動は限定されるなあ。スアローとメリルの行動は、プレイヤーのきのこに任せるよ。
スアロー: ……スアローの目から見ても、あの剣が大変凄まじい威力を持っていることは分かっちゃう? あの剣なら〈竜〉も殺せそう?
FM: 分かるとも。そして、幼い頃は持っていたであろう所有欲が、心の底から沸き立ってくる。
禍グラバ: これ、悪のボスとかが言う、まさか私にまだこのような感情が残っていようとはってやつですよね!
スアロー: 手がわきわき(笑)。問題はあの剣を手に入れるために、先に〈竜〉を片付ける必要があると考えるか、それともあの剣を手に入れてから〈竜〉を……いや、ちょっと待てよ。
禍グラバ: これは、エィハさんにちょっと風が吹いてきたか。
エィハ: いやあー、今メチャクチャ考えてます。
スアロー: ……今FMが言ったように、七、八歳の頃の所有欲が蘇っているのであれば、それはまっしぐらに行きますわ。
「ああ……」
思わず、吐息が零れた。
胸の欠落が、みるみるうちに埋められていく。
あまりに長かった欠落ゆえに、その名前をスアローは認識していない。
ただ、ひたすらに飢えている。血塗られた刃を見たそれだけで。
FM: 七、八歳。……およそ二十年か。長いなあ。
スアロー: うん、長すぎてよく分かってないところがある。今すごくわきわきしてるんだけど、これって何ていう感情だっけ、って感じ。
禍グラバ: メリルさんは?
スアロー: メリルは……メリルも行っちゃうよねえ……。
婁: (たまらないように肩を揺らして)ふっふっふ。
スアロー: とはいえ、こっちの方が詰んでるんだよねえ。メリルがとち狂って〈天凌府君〉に襲いかかる前に、僕が〈天凌府君〉を殺すしかないんだよな……。
FM: ……あ、婁さんの次は、メリルの手番だ(一同爆笑)。
忌ブキ: メリルさん!
スアロー: (手をあげて)FM、ちょっと相談したいんで別室に移動していい?
FM: うん、いいよ。
(スアローとFM、しばし別室に移動し、戻ってくる)
スアロー: (朗らかに)いやー、詰んだなあ。こりゃ詰んだわ。
禍グラバ: 白々しい笑顔が!
FM: で、そもそも婁さんはまだ剣を掲げただけなんで行動が残ってます。どうします?
婁: うーん、スアローもまだ健在なんだよなあ。
FM: 見た目は健在ですね。生体魔素的にはぼろぼろだけど(笑)。
婁: 媛の望み自体はこちらの〈赤の竜〉ですからね。――よし、ここは待ち受けつつ、〈赤の竜〉に十一回攻撃を行いましょう。(サイコロを振って)一発目、二発目は失敗。三発目は腹に効果的成功。致命表は38。
FM: 『防具の隙間への痛烈な一撃。[達成度]を2倍に計算し、相手の防護点を0として扱う』!
婁: なら[達成度]104で、ダメージは139点を素通しです。
FM: ぐ……防御魔術もアリだけど、【反応速度】が落ちるのも痛いんでそのまま喰らいます。そろそろ腹部が辛くなってきたな。
婁: (計算して)これで媛が1302点まで腹を満たされたか……。
禍グラバ: あああ……〈赤の竜〉に攻撃すること自体が、さっきの奥の手のチャージになってるのか……。《黒の帳》を吹っ飛ばせるぐらいに溜めてきてる……。
忌ブキ: 何から何まで理にかなってる……。
婁: (続けてサイコロを振って)あれ。四発目、五発目、六発目、七発目、八発目は外れ。
スアロー: え、何をしてるんだあなたは!?
婁: (サイコロを振って)九発目と十発目も外れですな。
忌ブキ: ええっ!?
婁: あ、十一発目も外した。
炸裂した歓喜が、さしもの暗殺者の手元をも狂わせたか。
至上の十一連撃が、ただの一度しか〈竜〉に痛撃を浴びせられぬまま終わる。
FM: それをウルリーカのときにやってくださいよ!(一同爆笑)。
エィハ: これは、いけそう?
スアロー: いや、むしろ足りない。もう少し頑張ってほしかった……。
禍グラバ: 〈竜〉にできるだけダメージを与えてほしいが、婁に倒されても困る。なんというジレンマ。
FM: では、メリルはどうしますか?
スアロー: うん。メリルなら一気に婁さんに突っ込むだろうけど、そこをスアローが右手を伸ばして制止するよ。
禍グラバ: それは、待て、あの剣は僕の物だっていう感じ?(笑)。
スアロー: いや、逆だよ。
まるで昔みたいに――優しく笑って、スアローは言った。
「……あの剣はふたりで手に入れよう」
一同: ちょっとおおおお!(爆笑)。
スアロー: ちなみに、これは超本心だよ。
禍グラバ: ああ。スアローがあの剣を所有するには、メリルさんがいないと不可能ですからね(笑)。
FM: なるほどね。では、メリルも答えます。「分かりました、スアロー様がそう仰るのでしたら。ですが……あの剣は放ってはおけません」
スアロー: もちろん。それは色んな意味で分かっている。というか、僕もあの剣を使いたくて仕方がない(一同爆笑)。
忌ブキ: こう、すごい。すごく腹筋に来る。
禍グラバ: そのとき、七殺天凌に電撃走る(笑)。
FM(七殺天凌): 「ああ。まさか堕ちるのがあの三人になろうとはな」
婁: 媛の魅力をもってすればむべなるかな、とノリノリですよ(笑)。(スアローを見ながら心底嬉しそうに)――あの男も、ようやく執着というものを覚えたようで。
かつて、決裂の夜に、スアローは婁震戒へ告げた。
――『僕にはその、ひとつの事柄にこだわるという考えが、どうしても持てないんだ』
――『だから興味があったんだ。もしかしたら、あなたを見ることで僕にもそういう感情が学習できるのではないかと』
それは青年にとって、真実の告白だった。
まるで言葉遊びのようにも聞こえながら、しかしほかの誰にも打ち明けなかった、スァロゥ・クラツヴァーリという男の最も中心に位置するがらんどうだった。
対して、婁震戒はスアローへと告げた。
――『約束というか予言というか、ひとつだけ断言しておきます』
――『いずれあなたも、この気持ちを思い知ることでしょう』
禍グラバ: 第三夜の予言が的中したーっ!
FM: 本当だ!
婁: このときを待っていた……!
FM(七殺天凌): 「実に、実に愉快そうじゃな、婁よ」
婁: (何度もうなずく)ええ。ええ。執着というものを知った上で死ぬ、その無念を味わわせてやりましょう……!(一同爆笑)。
FM(七殺天凌): 「そうか……ならばやはり、ここに来た甲斐があった」
婁: ええ!
スアロー: なんというジョーカーども(笑)。あ、メリルは納得してくれたなら僕に剣を渡して終わりだね。
FM: 分かりました。まあ、メリルとスアローなら、ふたりで所有するというのはぎりぎりあり得るからね。なにしろスアローが所有できない。
そう。
本来ならば、七殺天凌に魅了された者がまともに協力することなどありえない。ただ一振りの剣を争って、最後のひとりまで血で血を洗う惨劇を繰り返すよりほかはないのだ。
だが、メリルは知っている。
いやと言うほど、知らされている。
この主人には、何も所有できないことを。
スアロー: うん。僕たちにとっては、本当の意味で初めての共同作業なんだよ。
禍グラバ: でも、その代わりにメリルさんが夜な夜な人を斬り殺すようになりそうな(笑)。
FM: 剣が欲しがるなら仕方ないよね! ヴァルの手番ですが、まだ待機中ですか?
エィハ: (唇を引き結んで)……じっと待機してます。
FM: 忌ブキから〈竜の爪〉を借りず、まだ堪えるんですね……。
エィハ: ……ええ、まだ待つわ。
スアロー: あああ、あっちもこっちも怖え!
FM: さて、次は白叡ですね。
禍グラバ: よりによって魅了されたヤツから、次々来る(笑)。
FM: 媛が〈竜〉の血をお望みだと言われたし、全力で攻撃するか。……宝術《紅蓮解放》で、手持ちの三級放出魔素固定具に溜め込まれた魔素40点をすべて破壊力に転換。ダメージをプラス120点した番天印を撃つ。
スアロー: ちょっと待て。今すごく気軽にプラス120とか言わなかったか!
FM: 言いましたよ。万人長の本気です。それぐらいは言います。〈赤の竜〉狙いだと、相手はさっきと同じで、〈赤の竜〉、阿ギト、ジュナ&ダグナ、スアローになりますね。婁はさっき射線から逃れてますし。
エィハ: (悲壮な声で)ジュナ……!
忌ブキ: せめて、《強風発生》でダメージ軽減を……。
FM: ダメージは[達成度]も加えて184+10D10だ。(サイコロを振って)うん、241点だね。
忌ブキ: それじゃ、焼け石に水だ。でも……。
エィハ: ……使わないで! ジュナは、もう助からない。
再び、番天印に、異様なまでの魔素が凝集する。
さきほどの一撃も驚異的だったのに、今集まった魔素はさらにその数倍。血に狂った白叡の殺意を体現するかのように、紅く、黒く、捻子巻きのように膨れあがる。
その光の中、エィハは親友を見た。
別れは告げない。それはもう、ここに来る前に終えたことだ。再び会えることを、約束さえしなかった。
自分には自分の望みがあるから、いつかあなたを裏切るかもしれないと。
その時はその時さ、とジュナは笑った。
ふたりの少女はまどろみながら口にしていた。
――『それでも本当に、あなたが好きだったのよ』
――『あたシもだよ……』
その思い出を嚙みしめるように。
ただヴァルだけが、悲痛な鳴き声をあげた。
FM: どうする? 《強風発生》は使わない?
忌ブキ: ……はい。ぐっと唇を嚙みしめて、挙げかけた腕を下ろします。
エィハ: (忌ブキの腕を摑んで)わたしたちが望むことは、〈赤の竜〉の消滅よ……わたしたちには対抗する術がほとんどないの……。忌ブキに無駄な力は使わせられない……
FM: では、距離が近い順に処理しましょう。阿ギト、蒸発。ついに、この戦闘で死亡者が出ました。そして番天印の光に吞まれるその瞬間、阿ギトは忌ブキではなくエィハの方を見ます。
エィハ: わたしを?
FM: ええ、あなたとヴァルの目には、唇がこう動いたように見えます。「全部……俺に、押しつけておけ……!」と。
スアロー: 押しつける、か。
エィハ: ああ……(口元を押さえる)。
それは。
エィハも、薄々分かっていたことだった。
どうして、こんな局面まで阿ギトがついてきたのか。
超人でしか戦えないような果ての果てまで、戦力的には常人でしかない阿ギトがのこのことやってきた理由は、一体何なのか。
忌ブキ: それって、つまり……。
禍グラバ: ……そうか。最初からこのつもりだったか。
すでに、革命軍は多くの犠牲を島民に強いている。
ドナティアと黄爛の不興を買ったことは言うまでもなく、シュカが〈赤の竜〉によって壊滅するのを見過ごしたことなど、革命軍によってもたらされた被害はけして軽んじられるものではない。大小かかわらずそうした被害を数えていくならば、丸一日筆記し続けても足りないだろう。
それらすべての責任を、阿ギトは自分に押しつけておけと言ったのだ。
押しつけられたまま死ぬために、この〈契りの城〉までついてきたのだ。大罪人はあくまで阿ギトであり、革命軍や忌ブキには責任はないのだと、そう主張する材料にしろと。
忌ブキたちに、順番を譲るために。
その思想は、ある意味でエィハと同一。それを感じていたからこそ、エィハは最後まで、阿ギトと心を通わせようとはしなかった。阿ギトもまた同じであった。
――そう。
ひょっとすると、革命軍において、エィハの同志と言えたのはジュナではなくて――
エィハ: 分かっていたわ……わたしも一緒よ……。
忌ブキ: ……(言葉にならず息を吞み込む)。
FM: ジュナとダグナもまた、阿ギトを庇おうとしたまま焼け焦げていく。オーバーキルで蒸発する阿ギトと違って、かろうじて姿形だけは残る感じですね。さしもの〈赤の竜〉も、装甲無視のエネルギー属性で全身にこれは応える……。
エィハ: ――ジュナは、還ってくる?
FM: それは分かりません。すでに〈楔〉も打った後だし、この場所は普通のニル・カムイとは違い過ぎます。
エィハ: ……そう。
FM(ジュナ): 「……順番は、譲ったわ……」とだけ、あなたの鋭い耳に届きますね。
忌ブキ: 彼女たちは、やっぱり順番の話なんですね……。
エィハ: (うなだれて頭を押さえたまま)それでも、もしも、わたしが死んだ後に、あなたが還ってくれたなら……。
忌ブキ: (拳を握りしめたまま)……これが、犠牲を出してでも為すべきを為す、と決めた結果か……。
禍グラバ: 十四万分の二だ。そういうことだよ、忌ブキくん。
禍グラバが、言う。
けして悠長に言葉を交わしていられるような場ではない。
それでも、交わすべき言葉はあった。
忌ブキ: 辛そうな顔をしますが、でも言い返せないので歯を食いしばった後、言います。……この二は、僕の胸に刻みます。絶対に忘れません。
禍グラバ: 他の十三万九千九百九十八は忘れるということかい? ……いや、ここで苛めるのはやめよう。
FM: で、その様子を見て祝ブキは「蒸……発……!?」と呟き、エヌマエルは「あ、あれが黄爛の万人長……!」と震える声を押し殺します。今まで白叡はずっと力をセーブしてたしね。
婁: 白叡が正気を失っているのは傍目にも明らか?
FM: 少なくとも婁には明らかですね。他の人間からしてみても、ここまで豹変するのは異常です。なにせ今までは、霊母と一緒に傍観しているスタンスだったので。
禍グラバ: 雪蓮は?
FM: 彼女は何が起きたかを、おおよそ把握してるようです。なにしろ婁に指令を下した人間ですから。「ああ、そうか」と呟くぐらいですね。
禍グラバ: ああ、そうかって!(笑)。
婁: 忌ブキやエィハが動揺しているのは見てて明らか?
FM: まあ、明らかでしょうね。
婁: じゃあここは意地悪く笑いましょう。――勘違いするなよ小童ども!
スアロー: 何を言い出すんだこの男(笑)。
高らかに、婁震戒は笑う。
「あの男は〈竜〉を攻めたのではない! ただ己の欲に駆られただけのことよ!! これが人の欲の為せる業だ!」
FM(白叡): 「それがどうした! その剣を奪いたいと考えて、何が悪いと言う!?」
婁: さあ、大人の醜い争いが繰り広げられますよ(一同爆笑)。――戦いに崇高さなどはない!
忌ブキ: 今のは、ぼくが言われた気がする!
禍グラバ: 虚淵さんが今までで一番活き活きしている(笑)。
スアロー: いや、この人はこれを言うためだけに、一年間布石を打ち続けたから(笑)。
エィハ: (誰に言うともなく)だとしたら、生きることにだって。
FM(白叡): (ひどくうつろな口調で)「……俺は、俺はその剣をもって、霊母様にお仕えする!」
禍グラバ: あああ。今まで、あそこまで理性的だった男が……。
婁: それこそただの口実だ! 見ろ、これが戦いだ! 欲にまみれた真実だ! お前らの大義とは関わりないところで血は流れ続けるのだ!
禍グラバ: そんな白叡さんを責任持って止めないといけない人も、一緒に魅了されてますからねえ。……〈赤の竜〉も人の欲望を知らされて、学習する恰好の機会だ。
FM: はからずも、そうなりましたね。さて、次はさらに雪蓮が。