レッドドラゴン
第三夜 第一幕〜第七幕
「最前線」のスペシャル企画「最前線スペシャル」。三田誠がFiction Masterとしてシナリオを紡ぎ出すRPF、『レッドドラゴン』。参加者は虚淵玄、奈須きのこ、紅玉いづき、しまどりる、成田良悟の夢の5名。音楽を担当するのは崎元仁。最高の布陣で最高のフィクションを創造します。
(静まりかえった舞台)
(光がともり、幕が見える)
「皆様」
「皆様、第三夜へお集まりいただき、ありがとうございます」
(いつもの、男の声があがる)
「第二夜にあっては、いくつもの勢力が入り乱れました」
「ドナティア、黄爛、そして不死商人・禍グラバ。かれらの激突に介入した混成調査隊は互いの利益から、禍グラバと共闘することとなり、〈赤の竜〉の手がかりを求めてオガニ火山へと旅立ちました」
「無惨にも甦らされた革命軍の還り人たちを討ち、手に入れたるは〈竜の爪〉。その意味を知るため、混成調査隊はひととき不死商人の街――ハイガへと戻っております」
(数秒、間がおかれる)
「同時に、革命軍の指導者たる阿ギト・イスルギと再会した忌ブキは、革命軍の王となることを決意いたしました」
「はてさて、混成調査隊の行く先はどうなることか」
「まずは、彼らの過ごした一ヶ月」
「その期間に、何があったかからお伝えいたしましょう」
(舞台の、幕があがる――)
【第三夜】『第零幕』
わたしも、ヴァルも。
多分、待つことには慣れている。
獲物をつかまえるためなら、一日だってじっとしてられる。うだるような樹海でも、虫が眼球を這いずっても、身じろぎひとつせず我慢できる。
だけど、
(……うまく、言えないけど)
それと、今は違うと思う。
自分から待つのと、他人に待たされることの差だろうか。
岩巨人――イズンから剝ぎ取った〈竜の爪〉を調べるのに、いささかの時間がかかりそうだと、禍グラバは言った。鉄の塊みたいな不死商人は居心地のよい部屋と、美味しい食事を用意してくれたけれど、わたしもヴァルもどうしても落ち着かない。
だから。
忌ブキと一緒にハイガの周辺を回ったのも、彼に順番を譲っただけが、理由じゃなかったと思う。
FM: (全員そろったテーブルの前で)では、『レッドドラゴン』第三夜を始めたいと思います。
一同: お願いしまーす。
FM: まずはレベルアップですね。第二夜の終了から第三夜まで、約一ヶ月ほど間があります。その間みなさんが何をしていたか、この表から選んでくださいませ。
虚淵玄→婁: ほほう。冒険と休暇の表がありますね。これはどっちかを選ぶんですか?
FM: はい。二週間に一回その表を適用しますので、今回だと二回選ぶことになります。冒険の表を二回ふってもかまいませんよ。
成田良悟→禍グラバ: (表を見ながら)なるほど、「ボート遊びをした」で〈操船〉技能があがったり、「砂嵐に巻き込まれた」で〈野外知識〉技能があがったりすると。「NPCと仲良くなる」なんてのもありますね。
FM: ええ、二夜までに出てきたNPCと仲良くなっておくためのものですね。
紅玉いづき→エィハ: あ、それ楽しそう!
FM: それとは別に、前回の冒険の成果でも技能をあげたり、新たな特技を取ったりできます。表とは別に、個人的な提案もできるので、そういうのがしたい人は申し出てくださいませ。
(わいわいがやがやと、表を見比べ、全員で話しながら)
奈須きのこ→スアロー: あ、だったら禍グラバさん。メリル用にちょっとした装置を作ってほしいんですけど。
禍グラバ: ほうほう、どんなのです?
スアロー: スアローの剣を束で射出する、大砲みたいなもの(笑)。遠距離から、メリルがスアローに向けて武器を飛ばせるようにしたくて。
FM: まあ、禍グラバのところの工房ならつくれるね。
禍グラバ: ……ふむ。大型馬車なんかに組み込めば運搬も楽になりますか。
スアロー: それだ! じゃあ、馬車に組み込んだ大砲みたいなので、戦闘になったら籠手みたいになったトリガー部分が出てきて、そこにメリルが腕を突っ込んで射出するって感じかな?
禍グラバ: 了解です。おいくらです?
FM: 黄爛のマジックアイテム――道宝扱いかな。(表を見比べつつ)金貨二百枚ってところだね。馬車と馬は別に買ってね。どっちにしても禍グラバにはお小遣いにもならない金額だけど。
禍グラバ: うん。構わないです。――(軽く咳払いして)婁くんにも義手をつくってるしね。ドナティア側と黄爛側でフィフティ・フィフティだよ。
スアロー: うほ、婁さんが義手――!
婁: 前のセッションが終わった後に、お願いしましたので。
スアロー: なんて頼りになるスポンサー……っ! じゃ、じゃあ〈赤の竜〉に遭遇した時の為の万が一の抑止力、備えとして……可能な限り、高価な剣も欲しい(笑)。
禍グラバ: まあ、高価な剣は用意しないこともないが。……しかし、私は直接見たわけではないが、先日の岩巨人との戦いを見るに、婁くんの剣は大変素晴らしい物のようだね(一同爆笑)。
スアロー: そう来たかーっ! なんで隙あらば同士討ちの火だねを蒔きやがるの?
エィハ: ビンビンとフラグの匂いが(笑)。
スアロー: 僕はセッション始まる前から退場しちゃうのか!?
禍グラバ: 婁くんはあの剣について中々語りたがらないが、もし用立てできる物であれば私が取り寄せることもできるだろう。何なら、君から婁くんに聞いてみたらどうかな?
スアロー: アレを譲ってもらおうなんてとんでもない! ……こ、こう見えても、物に対する人の愛着を見る目はあるんだ。婁さんがあの剣をとても大事に、それこそ己が恋人のように優しく扱っているのは僕でも分かる。
FM: 上手くかわすなあ……。
スアロー: 無心する必要上打ち明かしておくと、僕が使う道具は、大抵の場合一回使うと壊れてしまう。ただ、壊す代わりに、その武器は最大の威力を発揮する。
禍グラバ: ほほう。
スアロー: うん、だからそれほど大切な品を、一回きりの使用で壊すというのは忍びない。極力誰の手にも渡ったことのない新品の剣が欲しいんだ。
婁: 処女厨め!(笑)。
FM: (笑)。では、剣の内容については、セッションを始めるまでに決めましょう。
婁の場合
婁: とりあえず、休暇表を二回選択しまして、ハイガ周辺をほっつき歩いてました。その結果雪山に感銘を受けて【知覚】が上がったのと、放棄された無縁仏を見てしんみりして【意志】が上がりました。
スアロー: 行動だけ聞いていると、なんていい人なんだって感じなんだが(笑)。
FM: 一応僧侶だから念仏も上げられるしね。で、その合間に禍グラバさんの工房で左腕がサイボーグになったり。
婁: ええ、なくした左腕を、禍グラバと取引して火行の五行躰にしました。
FM: 禍グラバが、金に糸目はつけないと言いだしたので、最高ランクのものになりましたね(笑)。
婁: ええ、パワーアクチュエーターとかウインチワイヤーとかが入ってます。それとは別に、前回からの成長で取れる特技として《鞭絡め》を取りました。
FM: なるほど、それはいかにも婁らしい。
機械と秘紋の入り乱れる新たな腕を、婁は無感情に見下ろす。
生身の身体に、未練はない。
接続してすぐはかなり痛んだし、感覚を取り戻すまでにも数日の修練を必要としたが、それ以外に目立つ問題はなかった。筋力や各種機能についていえば、大幅に向上したぐらいだ。
五行躰の習熟は個人差が大きいそうだが、自分には適性があったらしい。
もちろん、定期的に保守点検は必要になるのだが、それを含めても自分の任務には好都合と思えた。
(――運が向いているのかもしれぬ)
満足げな七殺天凌の思念を感じて、婁はひっそりと――ほかの誰にも見せぬ笑みを浮かべた。
婁: ちなみに、今七殺天凌に蓄えられている生体魔素は……(メモに書く)。
FM: うへえ、こんだけ岩巨人から吸ったら、そりゃ七殺天凌もウハウハだわ!
忌ブキの場合
しまどりる→忌ブキ: 忌ブキは休暇中に、「ドナティア建国伝説の大がかりなオペラを見物し、ドナティア史に詳しくなった」ことで〈※専門知識 ドナティア史〉が上昇しました。
FM: 禍グラバ御用達のハイガならそういう劇場もあるか。忌ブキって割とドナティア寄りだよね(笑)。
忌ブキ: そうなんですよね。まあ、囓ったぐらいですけど。
FM: きっと演目は〝皇帝と〈黒の竜〉の出会い〟とかだったんだろうなあ(笑)。
忌ブキ: あと冒険の方で「水源に毒を投げ込み、大量殺人を目論んでいた革命軍の過激派をたたきつぶした」を選択。【敏捷】が上がりました。でも、多分説得してます(笑)。
FM: まあ、角見せれば一発だろうしね。
忌ブキ: いやいや、こんどはちゃんと説得してます! きっとしゃべれてますよ!
エィハ: 大丈夫かなあ(笑)。
忌ブキ: だ、大丈夫! ……多分(笑)。
FM: ちなみに特技の方は?
忌ブキ: 《呪文詠唱》を取りました。
FM: メイン行動を使って、次に使う魔法の消費を半減させる特技ですね。《コールレイン》とか、戦闘以外で大魔法使う時用かな。
エィハの場合
エィハ: エィハです。休暇で「変わった魚をごちそうになった」を選択。【頑健】が上がりました! がぶがぶ(笑)。冒険の方は、忌ブキと一緒にいたということで、水源に毒を投げ込んだ過激派の事件を解決してました。
FM: まあ、そこは一緒に居るのが自然だしね。
エィハ: で、ヴァルは《猛禽の眼》を取って、二十キロ先まで見れるようになりました!
FM: 目が潰れてるのに誰よりも見える、ってのは魔物らしいなあ! ドナティアの単位だと二十キリメルダですね。エィハとヴァルは感覚を共有できるので、事実上エィハも20km先まで見えるわけか……。
エィハ: はい(笑)。
スアローの場合
スアロー: 休暇では、エィハくんと一緒に、美味しい魚をごちそうになってました。
FM: なぜかエィハと仲良くしている(笑)。
スアロー: これ美味しいねえ。がぶがぶ(笑)。
FM: ちなみに、これで伸びる【頑健】は元値なので、スアローの場合は3倍になりますね。
スアロー: ……ってことは【頑健】が210%、契約印解放で630%か。
忌ブキ: 何ですかその数字!?
スアロー: んで、特技の方は《九死に一生》を覚えました。頭とかに当たりそうになったとき、違う場所にスライドさせる特技だね。
FM: スアローの場合、黒竜との契約印がある左脚も守らないといけないしね。
スアロー: そうなんだよねえ。 後、子供が逃がした子猫を追いかけて東奔西走し、とても感謝されるという心温まるエピソードの結果、【敏捷】が伸びました。メリルの方は休暇で黒竜騎士団のウルリーカさんと仲良くなってたりしてます。
FM: おお、ウルリーカさんと。
スアロー: 大使にされたしね!(涙)。スアローだと神経を逆撫でしちゃいそうだし、ここはメリルにとりもってもらうしか。
結局、大使らしい仕事はほとんどメリルがしていたということでもある。
エィハ: 泣きたいのはメリルさんの方なんじゃ……。
スアロー: いやいや、きっと仲はいいよ! こう、突然やってきた駄目黒竜騎士の扱い方をメリルなら全部教えてくれるし!
禍グラバ: 全部元凶はスアローさんじゃないですか(笑)。
FM: まあニル・カムイでの黒竜騎士団の活動については、ウルリーカさんがおおよそ取り仕切ってますからね。黒竜騎士の同胞として、メリルさんが手伝えることも多いでしょう。商会を率いていたわけですから、帳簿などの取り扱いはお手の物ですし。
エィハ: ああ、ウルリーカさんにお茶とかも淹れてくれますよね。普段の主と違って、カップが割れたりしませんし。
忌ブキ: メリルさん、天使のよう……!
スアロー: (ぼそっと)あんな天使がいるか(笑)。
FM: 了解です。では、最後に禍グラバさんを。
禍グラバの場合
禍グラバ: 禍グラバは二回とも休暇で、「海辺で寄せては返す波をじっと見る」を選択。一体何を考えているのか、ひたすらごろごろして過ごして【知覚】が上がりました。厳密には海辺じゃなくて、ハイガの地下海ですけどね。
忌ブキ: たしかに、休暇の表にそれはありましたけど(笑)。
スアロー: すげえなあ、しかも海の底だぜ。
FM: お、おお。
禍グラバ: 従者のソルとシャディは、それぞれ休暇の表で祭燕さんとエヌマエルさんにコネクションをつないでおく感じですねえ。
FM: へえ。黄爛の千人長と、ドナティアの〈教会〉に。
エィハ: あのハゲに?
スアロー: 名前で呼んであげようよ(笑)。てか、なんでそんな宗教バリバリのヤバイところに。
禍グラバ: 祭燕さんは前から付き合いがあるでしょうけどね。エヌマエルさんについては、むしろ地雷っぽいからこそ、セッション前に知り合っておきたい。
FM: まあ、エヌマエルさんはつながれものやまじりものを排斥しようとは考えてないしね。
スアロー: あ、そうか。あの男は……。
FM: だが異教徒は死ね!
スアロー: だよねー(笑)。
禍グラバ: そうそう。だから、異教徒の普通の人間よりも、〈教会〉に帰順する可能性のあるつながれものを大事にするだろうと。
忌ブキ: (ぽんと手を叩いて)なるほど……!
禍グラバ: むしろ黒竜騎士団の方に冷たい眼を向けているような感じも(笑)。
FM: それはそうですよ。黒竜騎士団は〈教会〉よりも〈黒の竜〉を大事にするので、「異教徒死ね!」と、「〈黒の竜〉むかつく!」のダブルですからね(笑)。――さて、それではセッションを開始します。
『第一幕』
島の怒りとは、そんな風景をいうのかもしれない。
天空へとつきあげる、真紅の火柱。雲の代わりにおびただしい灰と粉塵がたちこめ、大地もまた溶岩によって焼けただれていた。
この数十年ほどは目立った活動もなく、休止していたはずのオガニ火山が、突然炎を噴き上げたのだ。
スアロー: おおおおおっ!?
FM: (BGMをバトルに切り替えながら)今回、最初はNPCのシーンとなります。前回の事件からは二週間ほど後――あなたたちが岩巨人と戦ったあのオガニ火山が、突如噴火します。
エィハ: ふ、噴火!?
忌ブキ: いきなり戦闘の音楽と思ったら……。
禍グラバ: ……誰か余計なことしてませんでしたっけ? 貰いもの、落としたとか(一同爆笑)。
スアロー: ……!(必死に目をそらす)。
FM: 数十キリメルダの向こうからでも見えるほどの炎をオガニ火山が噴き上げ……その溶岩流は南に伝い、ロズワイセ要塞を吞み込まんとする。
スアロー: しょうがなかったんやー!(笑)。
エィハ: あああ、しょうがなかったで、街がひとつお亡くなりに……!
FM: が、雪崩れてくる溶岩流の眼前に、ひとりの黒竜騎士が立ちはだかります(iPadでイラストを見せる)。
――孤影。
要塞のはずれに佇む黒騎士には、その言葉がよく似合った。
従士もおらず、騎士団も率いず、ただひとり漆黒の鎧と巨大な両手剣を帯びて、迫り来る溶岩を睨んでいた。
忌ブキ: て、騎士団長のシメオンさん!?
FM: おお、覚えていてくれましたか。岩巨人対策のため、かの黒竜騎士団・第三団団長シメオン・ツァリコフはベルダイムの本部から呼ばれていました。そのため、この時点でロズワイセ要塞に滞在していたわけです。
エィハ: あの巨人、とひとりで戦えるって人……。
禍グラバ: って、まさか……。
スアロー: (手を振り回して)シーメーオーン! シーメーオーン!
FM: ええ、彼はこう呟きます。「――たとえ天災であろうが、私の守る都市は傷つけさせん」
「――解放」
それは、契約の言葉。
ゆっくりとその両手剣が持ち上がり――その右腕に刻まれた契約印の解放とともに、剣もまた三倍もの大きさに膨れあがったのだ。
振り下ろすところは、見えなかった。
凄まじい風圧で、嵐のごとく粉塵が巻き上がったためだ。
だが、その衝撃こそがすべてを物語った。
大地が割れる。
地形が変わる。
その先の、溶岩もまた。
今にも要塞を襲わんとしていた溶岩流が、たったいまできあがった地割れへ、滔々と呑み込まれていったのだ。
婁: なんと……(絶句)。
忌ブキ: う、わあ。
スアロー: ……いやあ、僕なんか子供だねえ。
禍グラバ: すごい! 黒竜騎士団ってこんなに強くて格好良かったんだ!
スアロー: こっち見ないで!(笑)。
FM: およそ百メルダにもわたる地割れは、ロズワイセ要塞に向かう溶岩を吞み込んでいく。蛇行した第二波も、めくれあがった地盤に誘導されて、ロズワイセ要塞を避けて通っていった。その結果に満足したか、シメオンも契約印を解除し、軽く息をついた。
「まずはよかろう」
小さく、呟く。
さしもの彼をして、今の一撃は疲労を強いたか、小さく肩で息をしていた。
そして、疑念とともに続けた。
「……だが、何が起きた? 巨人討伐以降、この辺りの魔素流は安定していたはずだぞ」
FM(シメオン): 「まさか、あの新しい黒竜騎士の……」そう言って、男らしい眉をひそめたところで、このシーンは終了します。
スアロー: いけないことをしちゃったのかなー(笑)。
『第二幕』
舞台は変わる。
時間は移りゆく。
岩巨人との戦いより、およそ一ヶ月。
不可侵条約の有効期限まで、残り三十七日となった正午。
ハイガに戻ってきた混成調査隊は――大使館落成のパーティに参列していた。
FM: (BGMを街に切り替えつつ)さて、PCたちのオープニングです。さきほどの噴火からおよそ二週間、禍グラバに異存がなければ、ドナティア大使館落成のパーティとなります。
スアロー: おっ!
禍グラバ: おお、できあがりましたか。
FM: 大使館の建物だけなら、一流の創造魔術師を使えば数日でできあがっちゃいますからね。一ヶ月というのは手続きやらなにやらでかかった時間。黄爛との膠着状態を長引かせる意味合いもあったし。
禍グラバ: もともとその言い訳のためにつくりましたからね(笑)。
FM: まあ、それは両国ともに分かっているので、落成パーティといっても事実上はハイガ市民へのお披露目ですね。一応両国の使節は来てますが、ほとんどハイガ市民への慰問行事となってます。
忌ブキ: 慰問行事!
エィハ: この街だと、禍グラバは人気者っぽいですものね。
FM: たったひとりで、つながれものやまじりものに解放区を与えた英雄ですからね。
禍グラバ: ふっふっふ、これは街中にふれまわりましょう。金貨もとりあえず二千枚ほど使って、飲み食い自由のパーティということで。子供たちを背中に乗せて空とか飛んじゃいますぜ。――(やたらいい声になって)みんな、ドリルの刃には気をつけるんだよ?(一同爆笑)。
スアロー: どんな足長おじさんだよおめーは!(笑)。
大使館という名目から感じるような、仰々しい様子は欠片もなかった。
走り回る子供たち。
酒杯を酌み交わす大人たち。
市民の多くがつながれものやまじりものであり、つながれた魔物や一見おぞましい昆虫のごとき複眼や甲殻類の腕が、大使館前の広場に集っていた。
正午にふさわしい陽気な音楽がかきならされ、そうしたつながれものやまじりものの有志も加わって、思い思いの楽器を手に取ったり好き勝手なリズムを取り出した。禍グラバのお祭りには慣れているのか、市民の誰もが快活に笑っていた。
(……やっぱり、夢みたい)
ぼんやりと、エィハは思った。
この街に来たときの、最初の印象。
起きたまま夢でも見ているような、そんな感覚を覚えたのであった。
忌ブキ: 凄いですねえ、本当に……。
スアロー: その様子を見ながら、メリルがフォークを使って僕にパスタを食べさせてくれている(笑)。 うんうん、あれは凄いねえ、もぐもぐ。
FM(メリル): 「不思議な方ですね」
スアロー: そうだねえ。あ、そうだ。うちのハゲ坊主が擁立してしまった皇統種の祝ブキさんだっけ? それについて調べてもらうことをメリルに頼むってできる?
スアローがあげたのは、もうひとりの〝いぶき〟のことだった。
祝ブキ。
ドナティアの〈教会〉が擁立したもうひとりの皇統種にして、忌ブキと同じ顔をした少女。
FM: ふむ、それはこの休暇でやってたことにしましょう。
スアロー: よし! じゃあ、あの祝ブキという少女の素性と、彼女の擁立はエヌマエルさんの独断なのか、ドナティアが全面的にバックアップしているのかどうかを。
FM: (サイコロを振りつつ)素性は皇統種の生き残りというだけ。後者のバックアップについては、〈教会〉だけでなくドナティアの黒竜騎士団がともに〈赤の竜〉を討伐すると発表している。
スアロー: じゃあ、シメオン団長もあれを認めてるわけね?
FM: そういうこと。
婁: ……あの御仁もか。
スアロー: ちょ、目を光らせないで婁さん!
禍グラバ: 私も、火山の噴火より後のことは、《広域商人》を使って調べていたことにしていいですか?
FM: いいよ。〈※地域知識 ニル・カムイ〉で判定してもらおうか。
スアロー: た、ただの自然現象ですよ。
忌ブキ: スアローさんが追い詰められてく(笑)。
禍グラバ: (サイコロを振って)成功、[達成度]は13です。
FM: [達成度]10以上なら問題なく成功だ。この噴火は、どう考えてもまともな自然現象ではないね。
スアロー: くそーっ!
FM: 硫黄の噴出とかはあれど、オガニ火山が噴火したというだけで、まず七十年ぶりの出来事。これだけの規模となると記録にも残ってない。君たちの戦闘行為で刺激された可能性はあるけれど、それだけとは信じがたいね。
禍グラバ: そうか……。
FM: それと、もう一回〈※地域知識 ニル・カムイ〉で判定して。
禍グラバ: 了解。(サイコロを振って)効果的成功! [達成度]は23です。
FM: (地図を指さして)では、オガニ火山を中心にしたニル・カムイ島中央域において、急激に魔物の跳梁が減少してるのが分かります。
禍グラバ: ふむふむ……。
FM: ほぼドナティア勢力圏ですね。で、その[達成度]だともう少し突っ込んだところまで分かりますが、それらの地域は魔素流が大きく変化し、場合によっては国家魔術圏レベルでドナティア寄りに変異してるようです。
エィハ: 国家魔術圏……。
それは、いわば魔素流による国土の領域だ。
この世界における魔素流は、あらゆる生物と密接にかかわっている。
たとえばドナティアの人間ならばドナティアの魔術圏に、黄爛の人間ならば黄爛の魔術圏に適応してしまっているのだ。結果として自国家の魔術圏ならば大きく魔術の威力はあがるし、消費した生体魔素の回復も魔術圏によるところが大きい。
つまりは国土防衛の多くが、この魔術圏に依存しているのだ。
婁: ほほう。(ちらりと隣を見て)ほとんど侵略行為ですな。
スアロー: お、思ったより大事に……。
エィハ: スアロー、顔色がどんどん悪化してるけどどうしたの(笑)。
禍グラバ: これはちょっと放っておけなくなりましたなあ。隙を見て、婁さんともふたりきりで接触したいところ。落成パーティはまだ続いてますかね。
FM: 続いてますね。子供のひとりがこんなことを言ってくるよ。
禍グラバ: ん?
ひそやかに思考する禍グラバへ、子供のひとりがこう口にしたのだ。
「ねえ、禍グラバ様! 禍グラバ様に奥さんがいるってほんと?」
スアロー: どええぇっ!?
エィハ: 妻っ!?
忌ブキ: ちょ、ちょっと禍グラバさん! 妻ですって!
禍グラバ: (あっさりとうなずきながら)ああ、それなら本当だよ。
スアロー: ぶ、ブリキの妻……?(笑)。スアロー的には子供に優しい禍グラバがかなりの好人物に見えるので、それをほほえましそうに見ていたところに突然のショックを受けるよ。奥さん……奥さん……と呆然と呟いちゃう。
FM: メリルもそれには興味をそそられるね「奥方様がおられたのですか?」とちょっと驚いた顔で訊く。
禍グラバ: はっはっは。なあに、妻はいつでも私の心の中にいるさ。
スアロー: き、綺麗な話はいいからもっと現実的な話を聞かせて欲しいんだ。主に僕の知的好奇心を満たすために(笑)。
禍グラバ: はてさて。語ると、ずいぶん長い話になりますが。
FM: メリルは聞きたそうな感じですね。
忌ブキ: (身を乗り出して)ぼくも聞きたいですよ!
エィハ: ぴこんとヴァルの耳が動くぐらいには。中のわたしは死ぬほど聞きたいですが(笑)。
「……はて」
禍グラバは、金属の円筒でできた頭をめぐらせる。
別に隠すようなことでもない。
さりとて、自分と妻のなれそめなど、他人が聞いて面白いかどうか。
それでも、この皇統種の少年や、黒竜騎士の従者が向けてくる視線と熱意は本物だった。パーティに煽られてのことかもしれないが、それを無視することも禍グラバには難しかった。
(……仕方ないか)
ひとつため息をついて、もう一度不死商人は口を開いた。
禍グラバ: ……妻の名は綺クリといってね。娶ったのはだいたい百数十年前になるかな。当時の私は八歳だったよ。
スアロー: 待てーっ!? と、おっと失礼。話の腰を折ってしまった。そ、早熟な子供だったんですね?
禍グラバ: (キャラクターブックを見返して)あ、ごめん、六歳だった。
スアロー: 間違えるにしても逆だろうそれ!(一同爆笑)。
禍グラバ: まあ、そうは言っても政略結婚だったのだよ。私の両親は黄爛の商人だったんだが、一族内の勢力争いに負けてね。両親は暗殺者に殺され、私はこの島に政略結婚の道具として売られたわけだ。その時出会ったのが、私の妻だった。
FM(メリル): 「政略結婚で、ですか?」
禍グラバ: ああ。
スアロー: (小声で)メリル、年齢! 相手の年齢を聞くんだ!
FM: すごく嫌そうにしながらも、本人も興味はあるので、「やはり同じぐらいの御年の?」と訊くよ。
禍グラバ: そうだよ。だから、お互いの意志なんて関係のない結婚だった。そして私が島にたどり着いた時、彼女もまた親戚内ではめられたのさ。私と出会った時には、彼女はもうつながれものとなっていたよ。
FM(メリル): 「つながれものに……されたんですか?」
禍グラバ: (うなずいて)されていたんだね。彼女は自分の意志ではなく、この近海で一番巨大な鯨の魔物とのつながれものになっていた。
鯨との、つながれもの。
思えば、態のいい軟禁のようなものだったのだろう。
簒奪者たちからすれば、彼女を一箇所につなぎとめておきたかった。それを誤魔化すように、自分が政略結婚の道具として売られてきたのも当然の流れ。
カタチだけでも、商会の一員であると証明したかっただけの話。
スアロー: だから、この男は睡眠中はいつも地下の海に潜っていたのか……。
禍グラバ: まあ、いろいろあってね。政略結婚ではあっても私を家族として受け入れてくれた彼女は眩しかった。だったらそれなりに一生懸命生きてやろうと、いろんな勉学に打ち込んだんだが……私が十歳のときに、もう一度家督争いが起こった。
そして、気がついたときにはこんな身体になっていた。
忌ブキ: じゃあ、そのときに……。
禍グラバ: 私は今はこんな体をしているが、実は既に十歳の時からこの体なんだ。これ以外の体を知らず、大人の体というのを味わったこともない。
スアロー: 十歳かー。
FM: 五行躰による全身置換の、世界最初の例なのは間違いないですね。
禍グラバ: 義体化しなければ確実に死ぬという話だったんだが、私の妻が――綺クリが残された財産をすべて投げ打って、私の身体を五行躰へと変えてくれたんだ。まあ、その結果、物珍しさに当時の霊母に呼ばれたりもしたがね。
スアロー: 当時の霊母って、今の霊母と中身一緒じゃねえか!
黄爛霊母。
西方の大国・黄爛を統べる、女王の称号だ。
転生の秘術を持つ彼女は、選ばれた者との婚姻によって次の霊母を育み、その魂と記憶を数千年前から伝え続けているという。
禍グラバ: そうなるね。まあ、一夜を共にはしたが……。
スアロー: (飲んでいた飲み物を軽く吹き出して)ま、ま、待って、今すごいことを言わなかったか?(笑)。
禍グラバ: 一夜を共にしたよ? 彼女に一晩の夜伽を命じられたものの、勿論この身体では何もできるはずもなかったが。
スアロー: それは、禍グラバさんの度量の大きさを褒めるべきか、霊母のマニアックさを褒めるべきか(一同爆笑)。
FM: 当時の禍グラバは十一歳ですね。
忌ブキ: 霊母が凄かった方ですね(笑)。
禍グラバ: まあ、それからはずいぶんと荒れて、好き放題にやったよ。――が、それもたいして長くはなかった。つながれものである綺クリの寿命が、ほんの数年で来てしまったからね。
エィハ: あ……(口元をおさえる)。
忌ブキ: ……っ!
禍グラバ: 笑えるだろう? それまで私は彼女をずっと放置してたんだ。こんな身体になったことを恨むのもできず、さりとて許すこともできず、無理に目を離していた。なのに、彼女がいなくなると思うや目の前が真っ暗になって、一日でも長く生きて欲しいと、ひたすらわがままに駆けずり回ったんだ。
「そのときになってやっと気づいた。――彼女が私を義体化したのも、今の私と同じ感情だったんだと」
遠く、禍グラバは言う。
以降、彼の人生は、妻の延命のためにあったと言ってもよい。
時には相場に手を出し、時には風聞を流して大儲けした。最新の商業知識を学び、海も砂漠も越えて外国の商人とも交渉した。汚い手だろうが何だろうがかまわず、死にものぐるいで商会の規模を広げていった。
その膨大な財産をつぎこむことで、衰弱した妻をひとまず長い休眠状態に落ち着かせることまでは成功したのだ。
禍グラバ: いまだに、それが正しかったかどうかは分からないがね。
忌ブキ: でも、奥さんのことでしょう……?
禍グラバ: だが、自然の摂理に逆らっているのは確かだ。それに、さすがの彼女の魔物――鯨も百数十年は生きられなかったからね。今となって残ったのは、多少の財産とこの街ぐらいのものだよ。
禍グラバが肩をすくめる。
つながれものと魔物は一心同体。
魔物が生き残れなかったということは、延命した妻が結局どうなったかも、明白に示していた。
スアロー: ううむ。スアローとしては、禍グラバさんほどの人物が百年懸けて努力しても救えない命があるということに、やっぱりという虚無感を感じるな。
禍グラバ: がっかりさせたなら申し訳ない。ただね、妻は最後に――私は幸せだった、と言ってくれた。
エィハ: しあわせ?
禍グラバ: 私は幸せだったから、他のつながれものやまじりものの子たちを私と同じように幸せにしてあげてくれ、とね。
エィハ: だから、この街ではつながれものをかばってるの?
禍グラバ: ああ。そうなるかな。私が人種差別主義者というのは間違いないだろう。普通の人間よりも、つながれものやまじりものに愛着を持っている。うん……結局、私は妻との約束が一番大事で、それ以外のものが何もないからこそ、つながれものやまじりものを命の限り愛し続けるだろうね。
忌ブキ: うわあ……壮絶な人生過ぎて、何を言っていいか分からないです。
FM: じゃあ、代わりに、メリルの方が口を開くよ。「奥様を、愛していらっしゃったのですね……」
禍グラバ: (笑って)それは、私の口から言うことではないだろう。君たちで判断してくれ。
FM(メリル): 「そうですね。私とは大違い」
エィハ: あぁ、気になるフラグのお話が……。(紅玉いづきの素に戻って)!
スアロー: えっと……(笑)。
禍グラバ: ちょっと、スアローの目をじっと見つめます(笑)。
スアロー: ! ! !(必死で視線をそらす)。
禍グラバ: ……ふむ。だがメリルさん、愛という言葉がひとつの形にとらわれるとは限らないよ。
FM(メリル): 「ええ、そう思います。でも、私は残念なことに育っちゃう系だったものですから」
婁: 育っちゃう系?
エィハ: あ、またその言葉出た。
FM: メリルはこほんと咳払いをする。「いえね、昔まじりものやつながれものは育たない、などと馬鹿な噂を信じていた方がいたんですよ」
エィハ: つながれものは育たないっていうより……。
スアロー: (小声で)純粋だったんだ、あの頃は……(笑)。
FM(メリル): 「ええ、とても純粋でした。それならと高い金を出して、見世物になっていた哀れなまじりものの奴隷を買ったぐらいですから」
禍グラバ: ほほう、そんな男がいたのか。
FM(メリル): 「ええ、ところが実際のところは――当たり前ですが――その子供も育ってしまいましたもので。ある日、おかしな眼で見てくるのを問い詰めてみたら、なんとこう言うんですよ。『育つとは思わなかったんだ』って」
禍グラバ: なるほど、そんな男がいるとしたら、そいつは相当なクズだね(一同爆笑)。
FM(メリル): (笑顔で)「まったくでございます。それは、百年の恋も冷めるというものでしょう」
忌ブキ: これはひどいですね(笑)。
エィハ: 完璧なクズですね(笑)。
禍グラバ: では、もうスアローは放っておいて、メリルに声をかけよう。――そうか、ならば君がまじりものとして何か新しい価値観を得た時、その冷めた百年の恋も、また別の形で心に残ることを願っているよ。
FM(メリル): 「そうですね。でも、今私はこの島にいます。それだけで十分ではないでしょうか?」
禍グラバ: そうか。これは野暮なことを聞いてしまった。
スアロー: 思わず食器とかに手を伸ばして、パリーンパリーンと割ってしまう(笑)。
FM: では、君たちがそんな話をしていると、「禍グラバ様!」と禍グラバの部下……まあ、ソルあたりがやってくる。
禍グラバ: ん、何事かな?
FM: では、ここから新しいシーンとしましょう。
『第三幕』
「禍グラバ様、来客が……」
息せき切って駆けつけた従者の少年――まじりもののソルが、禍グラバに呼びかける。
その後ろから、ごく少数の護衛を連れて、ひとりの騎士が現れたのだ。
漆黒の鎧を纏う女騎士。
黒竜騎士団・第三団副長、ウルリーカ・レデスマが歩み寄ってきたのである。
スアロー: わ、ウルリーカさんだ。
禍グラバ: (血相を変えて)ちょっと待って! ここに婁さんがいるんですよ!?(一同爆笑)。
スアロー: い、いかにあの殺人鬼といえども、大使館でのパーティ中に狼藉は起こさないはず!(笑)。
FM: まあ、ウルリーカは婁と会ったこともないですしね。
禍グラバ: じゃ、じゃあ会いに行きますか。ちなみに大使館でひっそり会う方ですか? それともパーティ会場でですか?
FM: そりゃパーティ会場だよ。大使館の落成式だって言ったじゃないの。
禍グラバ: そういえば言ってた……! 理由つけてお祭りすることしか考えてなかった……!
忌ブキ: スアローさんみたいなことを!
FM: ともあれ、ウルリーカは君の姿を見ると、うやうやしく一礼する。「こうして顔を会わせるのは久しぶりですね、不死商人」
禍グラバ: これはこれは久しぶりだ、ウルリーカ殿。相変わらず凜々しくあられる。大使館の落成式だとは連絡したものの、忙しい身のあなたに来ていただけるとは思わなかった。
婁: その声は聞き逃さないな。ほう、あれが……。
FM: うん、婁の背中でも七殺天凌が嬉しそうに呟く。「おおともさ。……あれは極上と見たぞ」
婁: (淡々と)お急ぎとあれば、いつなりとも(一同爆笑)。
スアロー: いつなりとも、じゃねーっ!(笑)。
FM(七殺天凌): 「楽しみにしておる。わらわの晩餐を差配するがよい」うわー、FMとしても言いたくないが、七殺天凌は絶対こう言うよなあ(笑)。
スアロー: う、ウルリーカさんの帰りが危ない(笑)。
ドナティアづくりの大使館を、ウルリーカはゆっくりと見上げる。
賑やかなパーティの様子も、この女騎士にとっては好ましく思えるようだった。
FM(ウルリーカ): 「大使館をおかれたおかげで、面談しやすくなりましたね。よいことと思います」
禍グラバ: いやいや。単に、自分の利のために動いただけのことさ。感謝の言葉は、大使役を引き受けてくれたスアロー君に。
FM(ウルリーカ): 「そうですね。ユニークな黒竜騎士だと思っておりましたが、そのユニークさにはますます拍車が掛かっているようです」
スアロー: 何だろう、この針の筵(笑)。
FM(ウルリーカ): 「何でも、黄爛の国債を買ったとか」
スアロー: (頭を抱えて)来た、来たよ!(笑)。
禍グラバ: (うなずいて)ああ、彼は彼なりに多くの考えを持っているのだろう。聞けば、彼はドナティアでも有数の貴族の血筋を引いているそうだね。
FM(ウルリーカ): 「そうですね。彼の生まれるまで、クラツヴァーリ家は、ドナティアにおいても五指に入る貴族でした」
禍グラバ: 今、生まれるまでって言った!
スアロー: うん、そうだよ(笑)。
FM: 事実ですから。
禍グラバ: おお……まあ、彼の人柄は従者を見ればよく分かるよ。
FM: メリルがぺこりと頭を下げる。何か言ったらまずそうだと思ったのか、特にコメントはしない。
禍グラバ: スアローは何か言います?
スアロー: いやあ、国債を買ったのが僕の一存だと思われるのは堪らないんですけど。まあ、禍グラバにそそのかされて、自分の名義で買った以上いずれこうなるのは分かってたんだが(笑)。
禍グラバ: なるほど。じゃあ口八丁のフォローでもしておこう。やはり、彼は彼なりに隠し財産を持っていたようだが……。
スアロー: そんなものねえよ!(笑)。
禍グラバ: あるいは、彼を支援するドナティアの商会や貴族が存在するのかもしれないね。商人というのは常に自分の利を優先して考えるものだよ。ある時は国益よりもね。――まあ、そんな風に誤魔化しています。判定が必要ならしますけど。
FM: いや、かまわない。ウルリーカは禍グラバを厳しい視線で見つめるが、これ以上問いつめるつもりはないようだ。
婁: (片手を挙げて)あ、ちなみに俺はずっと禍グラバにつきっきりでプレッシャーを与えているので(一同爆笑)。
スアロー: こ、こいつもぶれねえ! 仕方ない。僕も口を開く。――あー、禍グラバさんが言ったことは大まかには事実だ。思うところもあるだろうけど、我々は混成調査隊として〈赤の竜〉の調査、ないし討伐の仕事が終わるまでは、この島が動乱に巻き込まれるのは極力避けたいんだ。
FM(ウルリーカ): 「はい、そうでしょうね」
スアロー: ということですので、色々とマリオネ……操られ……まあ、上手く使われていることを承知の上で、黄爛への牽制として国債を買わせていただいた。別に祖国ドナティアに思うところがあるわけではありません。そこは理解していただきたいな、と(笑)。
FM: では、ウルリーカは少し口元を緩める。「勘違いされているようですが、別に責めたわけではありませんよ」
スアロー: え、本当なの?
FM(ウルリーカ): 「私個人としては、戦争など起きないに越したことがないと思っております」
スアロー: あ、ウルリーカさんはけっこう穏やかな方なのね。
FM(ウルリーカ): 「ただ、禍グラバ殿も緊張緩和に興味があられるなら幸いでした。私が来た甲斐があります」
禍グラバ: ほほう、それはこの島に何か新しい動きがあることを伝えに来て下さったのかな?
FM(ウルリーカ): 「ええ、このたびは正式にドナティアからの使節として来訪しました」
禍グラバ: ほう? 正式な?
面白そうに訊き返した禍グラバへ、ウルリーカはこう告げたのだ。
「十日後、シュカに黄爛からの融資を積んだ船が到着することとなりました」
禍グラバ: む、第二夜のラストに言っていた金ですね。
FM: そう。金貨二百五十万枚になる大規模融資だ。正式に決済されて、黄爛から運ばれてくるスケジュールが決定したわけだね。
禍グラバ: なるほど、それはニル・カムイにとっても重大事だ。
FM(ウルリーカ): 「まったくですね。そして、この融資を記念して、ドナティアと黄爛、ニル・カムイ議会で親善会議が開かれることになりました」
忌ブキ: シュカで親善会議!
禍グラバ: ほう?
FM(ウルリーカ): 「ついては、ニル・カムイを支えてきた重鎮として――禍グラバ・雷鳳・グラムシュタールを呼ぶべきだという声があがっているのですよ」
「この私を、正式な親善会議にか」
ウルリーカの言葉を、禍グラバは感慨深げに繰り返す。
禍グラバ: ……ご指名いただいたのはありがたいが、私は金を動かしてきたに過ぎないよ。新たな政治の場に、私のような汚れ者が顔を出してしまっても構わないのかね?
FM(ウルリーカ): 「たった今あなたが言われたではありませんか。――商人は自分の利を優先し、時には国益よりも大事なものを持つと。結果としてそれが国際的な平和につながるのなら、むしろあなたのような方を呼ぶことこそ親善会議の意義と考えます」
禍グラバ: (軽く額を叩いて)もっともだ。これは一本取られてしまったな。
FM(ウルリーカ): 「だから、嬉しく思うのです。そういうあなたがいることは、きっとこの島にとって救いです」
禍グラバ: むう。実際これ――私が顔を出さないと、ハイガを攻める口実にされかねないですよね。
FM: そうですね。なにせドナティアの大使と黄爛の同盟を両方やって、無理矢理バランスを取ってるわけですから。
禍グラバ: 仕方ないか。……分かった。そういうことなら出ようじゃないか。
FM(ウルリーカ): 「ありがとうございます!」
(……それに、目的は私だけでもあるまいしな)
女騎士の笑顔を見ながら、禍グラバは会議の裏に思いを巡らす。
おそらくきっかけは、一ヶ月前、阿ギト・イスルギが島中にばらまいた革命軍の封音符だ。あれが、ただでさえ〈赤の竜〉に頭を悩ませていたドナティアや黄爛の危機感に火を点けたのだろう。
ひとまず、あの革命軍――反乱軍こそが最大の仮想敵だと認識を共有し、島の民にもそう思わせるための会議。
(ならば……直接見てくるしかあるまい)
そんな風に、不死商人は覚悟を決める。
忌ブキ: (手をあげて)あの、ウルリーカさんは……この島のことが好きなんですか?
FM: お? 話しかけるんだね。じゃあ、ウルリーカは驚いた顔をする。なにせ自分のところが擁立した祝ブキと同じ顔だしね。
禍グラバ: ああ。ならば改めて紹介した方がいいだろうね。――こちらは、混成調査隊のひとり、忌ブキくんだ。いささか特殊な事情なのは見て分かるかと思うのだが。
忌ブキ: あ、初めまして、忌ブキです!
FM(ウルリーカ): 「そのような方がおられるのは聞いてましたが……なるほど、うりふたつですね」
禍グラバ: で、こちらのつながれものの少女と、黄爛の武僧は――
エィハ: エィハ。こっちはヴァル。名前だけ言って、忌ブキの近くから離れない。
婁: (両手を組み合わせて)以後お見知りおきを、婁震戒と申します。
FM: ではウルリーカも一礼する。「初めまして。黒竜騎士団・第三団副長、ウルリーカ・レデスマと申します。皆様、礼儀正しい方で幸いでした」
スアロー: 怖え……挨拶してるだけなのになんでこんなに緊張するんだ(笑)。ともあれ、禍グラバ商人が親善会議に出るなら、一旦ここでお別れかな。こちらは〈赤の竜〉の探索もあるし、不可侵条約の期限もあるしね。
FM(ウルリーカ): 「そのことですが、評議会議長の狗ラマ・カズサ様から、〈赤の竜〉の調査隊はなるべく親善会議に参加して欲しいとの言葉を受けております」
忌ブキ: ぼくらも?
禍グラバ: なるほど。私と接触したこともあるし、途中経過の報告はした方がいいかもしれないね。――〈竜の爪〉のこともあるし、とこれは口にしないでおこう。
FM: 一応付け加えると、この言葉には従っても従わなくてもかまわない。ただ、親善会議にはドナティア、黄爛からもそれぞれの重要人物が出席することは言っておくよ。
婁: ……ほう。たとえば黒竜騎士団の面々や、ドナティアについた皇統種も?
忌ブキ: ろ、婁さん?
FM: もちろんです。
婁: (抑揚なく)……でしたら、行かれた方がよいのでは。それぞれの国が持っている〈赤の竜〉についての情報を聞き出す良い機会でしょう。
スアロー: このパターンはいつものヤツ! だがスアローの性格的に疑えない! ろ、婁さんがそう言うなら僕はかまわないよ(笑)。
忌ブキ: ぼくは賛成です。祝ブキさんにも会ってみたいですし。
エィハ: 忌ブキがいいなら。
FM(ウルリーカ): 「ありがとうございます。ではこちらでシュカへの移動準備をしておきます。皆様はどうぞごゆっくり」
スアロー: あ、いや、待った。ウルリーカさんも一緒に来るの!? 僕らのことなど気にせず、先に戻られた方が……。
FM(ウルリーカ): 「いえ、皆様の護衛のために団員を連れてきましたので」
スアロー: だ、駄目だ、止める理由がない。よし分かった。もう運を天に任せる(笑)。
忌ブキ: 虚淵さんの眼が輝いてる!
婁: いえいえ。――(手を挙げて)FM、少し禍グラバ殿とふたりで話したいのですが。
FM: 了解です。ウルリーカもだいたいの用事は話しましたし、ここで切りましょう。次は婁と禍グラバのシーンになります。禍グラバは出ずっぱりになりますね(笑)。
『第四幕』
――夜も更けて。
すでに落成式のパーティも終わっていた。ウルリーカたちは護衛とともに大使館で泊まることになり、禍グラバの要塞から見下ろす街は寝静まっている。
要塞の窓を開けて、禍グラバは意外な行動に出た。
背中のプロペラを回し、要塞の屋根に飛び乗ったのだ。
FM: や、屋根の上!?
禍グラバ: 死角になってる屋根の上とかなら、他人を心配しなくてもいいかなと(笑)。
忌ブキ: ……なるほど。
禍グラバ: で、認識はしていないのだけど、多分いるに違いないと思って声を掛けます。……ひとつ、伝えておきたいことがあるのだが。
FM: 婁さんは出ますか?
婁: もちろん。
禍グラバが腰を下ろし、呼びかけてすぐだった。
陽炎のように、婁の姿が現れたのだ。
禍グラバ: 良かった。やっぱりいてくれたか。君の腕と引き替えにいただいた〈楔〉のことだが……(胸のハッチを開いて〈白の楔〉を取り出す仕草)。
婁: (抑揚なく)……気に入っていただけたかな?
禍グラバ: ああ、使いどころを選ぶだけではなく、実際に現物を一本貰えるとは思っていなかったよ。これは安い買い物をしたな。
取り引き。
それは、言葉通りのことだった。
最高の五行躰を用意する見返りとして、婁は自らが持つ〈白の楔〉の一本を禍グラバに差し出したのだ。
婁: 商人としての貪欲さは、信頼に値する。こちらとしても分かりやすい。
禍グラバ: 褒め言葉として受け取っておこう。だが、それとは別に興味深いことが分かった。最近、噴火があったことは知ってるだろう?
婁: あの大騒ぎか。
禍グラバ: あれに興味を持って調べてみたが、オガニ火山の周囲でかなりの魔素流の変化が起きていることが分かった。
婁: ほほう?
禍グラバ: この〈楔〉の力に非常によく似てるのだが……魔素流はドナティア有利に働いているようだ。かなりの広範囲にわたってね。
FM: そうですね。〈※地域知識 ニル・カムイ〉で判定して成功すれば、だいたいの範囲が分かります。
禍グラバ: 了解です。(サイコロを振って)成功。[達成度]は13ですね。
FM: (地図を取り出して)では、オガニ火山から半径6ヘクス分――おおよそこれだけの範囲が、ドナティアの魔術圏に染まっていることが分かります。
FM: (地図に記入して)大体こんな感じですね。
スアロー: 広い……!
禍グラバ: こ、これはひどい(笑)。
忌ブキ: 島のどまんなかを、半分ぐらい牛耳ってるじゃないですか!
禍グラバ: 南西側はハイガの手前まで来てますね……!
FM: ええ。この範囲内では魔物の跳梁もほぼなくなっており、ドナティアの創造魔術が異様なまでに効率よく使用できるため、噴火後の復興もハイペースで進んでます。
禍グラバ: うむ……私は岩巨人との戦いの時も、突然あの巨人の力が弱まったことを不思議に思っていたのだよ。だが、君も私も〈楔〉を使った覚えはない。
婁: (荷物に手をやって)俺が入手したのはすべてで十本。ここに残り九本。断じて俺ではない。
FM: なお、これだけの範囲に影響を及ぼそうとすれば、婁が祭燕から聞いた話から考えると、およそ六本の〈楔〉を落とす必要があります。
スアロー: (指折り数えて)あ、あれ、六本?
禍グラバ: ……つまり中心地を見るに、誰かがあの戦いの最中、この〈楔〉六本と同効果を持つ何かを使ったと。魔素流がドナティア有利に働いているのを見ると、この〈楔〉とは少し違うのだろうが。
婁: この手の魔術に造詣が深い訳ではないが、なにも黄爛の専売特許という訳でもなかろう。似たような物がドナティアにあってもおかしくない。
FM: なお、ニル・カムイの皇統種も似たような力は持っていますが、流石にここまで広範囲には影響を及ぼせませんし、持続時間も最大で数日ぐらいで、こんなに長期間維持することもできません。
禍グラバ: そうですね、それに忌ブキくんが隠し通せるとも思えない。
スアロー: 消去法で持ち主が絞られていく!
婁: いや、それは推理するまでもあるまいよ。そもそも、俺にこの〈楔〉が預けられたのは、調査団という立場を通じてどこへなりとも顔を出せるという有利さからだ。
禍グラバ: なるほど、同じ目的を持った者がドナティア側にもいると考えるなら……か。
珍しく、禍グラバは沈黙した。
いつも饒舌なこの男が黙り込むと、夜は凍りつくような静寂さに満たされた。
(――重畳)
ひそやかに、婁は笑みを嚙み殺す。
婁: さて、この島をこれ以上ドナティアに染めないためにも、貴様にとってはますます〈楔〉が必要になるのではないか?
禍グラバ: (ため息をついて)そうなるな。
婁: ……ここでひとつ商談がある、不死商人。
禍グラバ: ほほう、何かな?
婁: 更なる〈楔〉一本で、買い上げたい物がある。
禍グラバ: ふむ、さては黒竜騎士の泊まってる大使館の見取り図か何かかな?
スアロー: か、勘弁してくれー!
婁: そこまで事は急かない。こちらが買い付けたいのは、黒竜騎士ウルリーカ。
FM: ひぃっ!(笑)。
禍グラバ: ほう……。やばい、婁さんと話すだけで怖くて汗がでてきました(笑)。
婁: まあ、そもそも貴様の商品ではなかろう。だから仕入れるところから算段してもらいたい。――そうだな、あの女がひとりきりになるチャンスを見繕ってくれればいい。
(――おお、婁よ)
婁の背中で、七殺天凌が歓喜する。
人の姿なら、随喜の涙を流していたかもしれぬ。それだけの強烈な思念であった。
FM: ……あの、スアローさん。メリルさんとウルリーカさんは同じ部屋で寝てもいいですか?(笑)。
スアロー: (お手上げのポーズで)今日はいいけれど、護衛の間ずっとって……わけにも。
FM: そうだよね……。
禍グラバ: ……。
婁: 首尾よくウルリーカを仕留めた場合には、経緯はどうあれ〈楔〉一本は譲ろう。(取り出す仕草とともに)どうも貴様は、まだウルリーカの価値を計りかねているようだが、こいつの価値は十分に把握しているな。
禍グラバ: ……ああ。
婁: 価値を見定められる物と、価値を見定められぬ物の交換となれば、商人としては是も非もないのでは?
禍グラバ: まったくもってその通りだ。
スアロー: (空を見上げて)ウルリーカさんの命は風前の灯火かあ。ただ、スアローと違ってきのこ的には嬉しいんですよね。……婁さんのスペックが分かる(笑)。
FM: 婁震戒は黒竜騎士を殺せるのかどうか、殺すとしてどうするのか、だね。
婁: ひとまず、発注は受け入れてもらえたと思っていいか?
禍グラバ: そうだな、価値についての答えは待って欲しいが、発注は承った。私としても、彼女の存在の有無が私の守るべきものに影響を与えるか、まだ計りかねているのでね。
婁: 守るべきもの、か……こだわっているな。
禍グラバ: 君も、私などとは比べものにならないほどの守るべきものがあるのだろう? あるいは仕えるべきものと言うべきか。
婁: まあ、それにはしばらく黙っていよう。……貴様はつながれものたちのために、命を捧げてまで尽くす覚悟と、そう言っていたな。
禍グラバ: そうなるね。
婁: そんな自分を誇って幸せと思っているか?
禍グラバ: (少し考え込んで)君は、考えるまでもないという顔をしているな。
FM(七殺天凌): 「……少しばかり、目が鋭すぎる男ではあるな」と七殺天凌が小さく呟く。
婁: 仮に、貴様が自分が報われていると思うようであれば、貴様に命を捧げた者も、同じ感情を抱いたのではないのか?
禍グラバ: そうだな……。
婁: ……いや、喋りすぎたか。
禍グラバ: 彼らにはひとつ、言わなかったことがある。妻は最後に、禍グラバ――つまり私自身も自分と同じぐらい幸せになってくれ、とそう言い残していたんだよ。はたして私に、その価値があるのかどうか。
婁: 迷うことはない。死んだ妻の生き方を倣えばよかろう。
禍グラバ: 君は強い男だな。だが君にならば、この先暗殺されることになったとしても仕方ないと思えるよ。――もっとも、そんなことにならぬよう、せいぜい気をつけあうとしよう。
「それについては同意しよう」
重く、婁がうなずく。
ゆるりと、夜風が巻いた。
それにつられて禍グラバが視線を外した一瞬で、現れたときと同じように、暗殺者の姿は消えていたのだった。
禍グラバたちが話していたのと同じ頃。
夜のドナティア大使館では、もうひとつの密談が行われていた。
FM: では大使館の一室に、シーンを移しましょう。
スアロー: よっしゃ! 大使館のかっちょいい部屋を使って三人で密談中。ウルリーカさんと話すぜ。――ウルリーカ殿、少し禍グラバ商人についてお耳に入れたいんですが。
FM(ウルリーカ): 「はい、私はかまいませんが」
スアロー: うん。もともと禍グラバ商人とは〈赤の竜〉の手がかりを探るために接触したんです。いろいろあって手がかりは見つかったんですが、それを調べるにも彼の力がいる。なので、正直僕としては禍グラバ商人の機嫌を損ねたくない。
FM(ウルリーカ): 「なるほど。そういう事情なら分かります」
スアロー: でまあ、ちょっとこみいった――いやこみいってもないんだが、どうにも僕は彼を好きになってしまったようだ。
FM(ウルリーカ): (瞬きして)「禍グラバ商人を?」
スアロー: うん。ひとつのものを守り抜くという考えは、僕にはまったく理解できないが、そうできる彼は尊い人間なんだと思う。だから、極力彼と協調態勢を保ったまま、この任務を終わらせたい。
FM: ふむ、そこまで聞いたらウルリーカは少し表情を緩めるよ。「困った方ですね、スァロゥ・クラツヴァーリ」
スアロー: そうですね(笑)。これが、ドナティアの国益に繫がるものでないということも、一応理解はしている。
FM(ウルリーカ): 「まあ、困った話ではありますが、更に困ったことに、私個人も彼が嫌いではない」
スアロー: え! やっぱり、あのでっぷりとしたボディが? ウルリーカさんロボ萌えだったの!?(一同爆笑)。
FM: 後ろでメリルさんが、「今、ここでこいつに関節技を掛けられたら」って顔になるよ(笑)。
スアロー: いや、スアローは思ったことを口にしてしまうので(笑)。まあ、それは置いて続きを。
FM(ウルリーカ): 「あくまで個人的な見解ですが。――彼が七年戦争で取った、両軍を疲弊させることで戦争を続けられなくしたという手段については、好ましく思っております」
ははあ、とスアローは相づちを打つ。
なるほど、人命を失わないカタチで戦争を終わらせたことについて、そんな感慨を持つ者もいるらしい。
ただ、彼自身は――あまり興味のない事柄だったのだ。
スアロー: ふうん、なるほど。僕は単純に、この島を守ろうという態度に信頼をおいてるだけなんだがね。
FM(ウルリーカ): 「……ひとつ、スアローさんに尋ねたいことがあるのですが」
スアロー: え? あ、はい。
FM(ウルリーカ): 「さきほどお会いした忌ブキ様ですが……やはり皇統種で、祝ブキ様の親族なのですよね」
スアロー: う、やっぱり来たか。多分そうだと思うけれど、僕も詳しくは知らないんだ。祝ブキというのは、あのハゲ……じゃないエヌマエル師の擁立した皇統種のことだよね。
FM(ウルリーカ): 「はい。祝ブキ様とは少しお話させていただきましたが、聡明な方でした。あの少年が双子であるなら……皇統種に限らず皇族で双子は忌み嫌われます。おそらくはそれが理由で放逐し、『忌』の字をあてたのでしょう」
スアロー: まんまだなあ……。この土俗社会め。
FM: ドナティアでもわりと最近までやってましたけどね(笑)。
スアロー: おおっと。ちなみに、その祝ブキ様は本気で契り子になろうとしているのかな?
FM(ウルリーカ): 「そこまで深く話したわけでは無いのですが……親善会議にはいらっしゃいますので、あなたから直接聞いてみてはいかがでしょうか? 私も一度そちらの忌ブキ様とゆっくりお話ししたいです」
スアロー: 分かりました、僕の方で場を設けましょう。後、くれぐれも気をつけて(笑)。
FM(ウルリーカ): (不思議そうな顔で)「何のことでしょうか?」
スアロー: いや、何か第六感が言うんですよ(笑)。
FM(ウルリーカ): 「私がか弱く見えるのでしょうが、これでもあなたと同じ、〈黒の竜〉と契約を交わした身です」
スアロー: 黒竜騎士がどれだけ凄まじいかは、僕も己の身をもって理解したんだけど、世の中には同じような魔人もいるということを覚えておいて欲しい。まあ、そこまでかな。後は雑談。
FM: 了解です。まあ奈須きのこはともかく、スアロー自身は婁にそこまでの危険性を覚えてないしね。
スアロー: そうなんですよねー。まあ、ウルリーカさんは育っちゃった系だけど綺麗だよね、とかそんな話を。――あ、メリル、そこのワイン(指を鳴らして口を開ける)ごくごく(一同爆笑)。
FM: では、飲ませてもらったところで脇腹に肘鉄が入って。
忌ブキ: でも頭からかけたり、流し込んだりせずに普通に飲み物を飲ませてくれるあたり、メリルさん優しいですよね(笑)。
FM: 常人相手なら骨にひびぐらい入ってるかもしれないけどね(笑)。さて、では次のシーンとなります。ハイガを出発となりますね。
『第五幕』
――翌日。
ハイガの入り口では、見慣れた魔象が長い鼻を振っていた。
その足下には、一ヶ月ぶりに出会う獣師の民――ミスカも佇んでいる。鞭を腰にかけて、頭から分厚いフードをかぶった彼女は、護衛についた騎士団を見て不思議そうな顔をした。
忌ブキ: あ、ミスカさん。
FM(ミスカ): 「ずいぶん出世したものだね。黒竜騎士団の護衛つきとはさ」
禍グラバ: これはこれは。まあ、向こうが気を利かせてくれたものでして。
婁: ちなみに、騎士団の数は何人?
スアロー: 何人と来たか(笑)。
FM: なるべく禍グラバを刺激しないように来たので、せいぜい十二、三人ですね。
婁: (顎もとをおさえて)ほほう……。
禍グラバ: 私のいない間の留守番役として、従者のソルとシャディはこの街においておきますね。何か危ないことがあったら、ハイガの街のことはどうでもいいから皆を連れてすぐに逃げるんだぞ?
FM: じゃあ、ソルは厳粛な顔つきでうなずく。「禍グラバ様もどうぞご無事で」
忌ブキ: なんか眩しいなあ。
ふたりを見上げて、忌ブキは思う。
禍グラバと従者たちの関係は、何か貴いもののように、少年には映っていた。
あの阿ギトに、自分は王になると言った。
なら、自分のなるべき王は、こういうモノなのだろうか。
FM: では、そんな禍グラバの元に、ぱたぱたとシャディが走ってくるよ。「禍グラバ様、こちらをお持ちください!」と、袋にいれた棒状のものを差し出してくる。
禍グラバ: これは……(声をひそめて)〈竜の爪〉か。研究は終わったのかな?
FM: そうですね。現状禍グラバの研究所で調べられるところまでは終わった感じです。また、袋に入っている〈竜の爪〉ですが、あなたたちが最初に見たときよりもやや縮んでます。もともと大型両手剣ほどあったのが、今は片手半剣ほどのサイズですね。
禍グラバ: おおっ!?
FM(シャディ): 「研究している間に、勝手に形が変わっちゃいまして」
禍グラバ: 勝手に?
FM(シャディ): 「はい。どうやら、根本的には一定のカタチを持たないようです。使い手にあわせて形状が変化するようで、今は多分……戦士であればそこそこ扱えるぐらいの大きさになってるんじゃないかと」
禍グラバ: ふむ……そうすると、あの場では岩巨人を倒した者、スアローくんにあわせて、あの大きさになったということかな?
FM(シャディ): 「多分、そうだと思います」
禍グラバ: ふむ……。
FM(シャディ): 「また、〈赤の竜〉の魔素に極めて強烈に反応することが分かりました」
禍グラバ: ほうほう。糸で吊ってみたら、方位磁石みたいに〈赤の竜〉の方向を指さないかな?(笑)。
FM: 遠距離だと分からないですね。具体的には、ニル・カムイ地図で二マス内――つまり数十キロ以内にいれば分かるぐらい。
スアロー: (そわそわと横を見つめて)禍グラバさん、そんな物騒な物は、この作ったばかりのメリルの射出器にでも保管しておくのはどうだろう?(笑)。
禍グラバ: (無視して)なるほど、この剣があれば、竜にも致命的な一撃を与えることができるのかな?
FM(シャディ): 「そこまでは分かりませんが……強度や切れ味は、黄爛の最高位道宝と比べても遜色ないレベルです」
禍グラバ: ふむふむ……スアローさんはともかく、婁さんはどれぐらいこの剣に興味がありそう?
スアロー: 婁さんは浮気しないんじゃない?
婁: むしろ、嫌悪感かな。他の剣など、と。
FM(七殺天凌): そういう婁を、七殺天凌は「愛い奴よのう」という感じで見ています(笑)。
婁: なにせ、食事の時ですら刃物を使わないからね。どうしても使わないといけない時は、使用後に叩き折ってる。
スアロー: おお、凄い! 婁さんも僕と同じ体質だったのかと、ますます一方通行の友情が深まっていく(笑)。
エィハ: 変態ばっかりですね(笑)。最初は、ロマンスいっぱいのキャラクター配置だなって思ってたのに、蓋を開けたら変態ばっかりになってた。
スアロー: ひどい話だ。
FM: それから、エィハだけは別のものを感じますよ。
エィハ: え?
シャディの抱えた、その袋を見たときだった。
まるで魂ごと引っ張られるように――エィハの瞳は吸い付けられたのだ。視覚だけでなく、聴覚も嗅覚も味覚も触覚さえも、すべてその剣だけに奪われた気分であった。
(――なに、これ)
愕然と、思う。
その思考で、やっと自分の身体を認識する。
昼の強い光を受けて、少女は茫然と立ちつくしていた。
エィハ: わたし、だけが?
FM: エィハだけです。忌ブキは何か特殊な剣だなって感じるだけ。
スアロー: ふうむ?
FM: まあ、ウルリーカは改めて忌ブキとエィハに頭を下げますね。「おふたりも改めてよろしくお願いします」
忌ブキ: あ、はい。こちらこそ!
エィハ: (少し考えて)……ん、FMに訊きたいんですが、黄爛やドナティアが働きかけてきた場合どう対応すべきか、阿ギトから聞かされてます?
FM: いや、まったく言われてない。敢えて言えば、不死商人はなるべく監視して欲しいってぐらい。
禍グラバ: はっはっは。
スアロー: うむ。会話している忌ブキくんたち三人を見ながら、僕は内心焦っている。……やっべー。ふたりが革命軍よりだってこと、ウルリーカさんに言うの忘れてた(一同爆笑)。
婁: 肝心なことじゃないですか。
スアロー: いや! まさにそうなんだけどついうっかり!
エィハ: 分かりました。それなら特に何も答えないです。そもそも、ドナティアは奴隷だと思ってるだろうし、あまり会話したくない。
FM: 了解です。実際ウルリーカも、忌ブキについている護衛用の奴隷なんだろうなと思ってますしね。「では、旅の道中よろしくお願いします」そう言って、護衛の騎士たちに手をあげて――
婁: あ、その前に行動の宣言を。
FM: は、はい。
婁: ぶっちゃけ、ウルリーカさんの周囲の人数が、ウルリーカを含めて五人以下になったら、俺はチャンスと見るのでよろしく。
FM: 五人かあ……五人はちょくちょくありそうだなあ。
婁: 五回攻撃でいけるなら勝算がある、という目算なので。
FM: そうでしょうねえ……。ウルリーカ以外の騎士は黒竜と契約してませんので、婁が撫でればまさに鎧袖一触でしょう。
スアロー: ち、ちなみに、その五人の中にスアローがいたらどうするの?
婁: さて、どうだろうなあ……本音を言えば、〈赤の竜〉と会う前にスアローは斬っておきたい(笑)。
FM: そうですね、分かります(笑)。
婁: とはいえ、黒竜騎士ふたりだとやめておくかなあ……。よし、ここは敢えてウルリーカだけを狙おう。
スアロー: お、おお。スアローはウルリーカさんと忌ブキ&エィハの両方が気になるので、交互に一日ずつついてる感じで。
FM: 分かりました。なお、今回の移動は魔素流の影響で魔物が出なくなったため、一日に三ヘクス移動できます。で、スアローがついてない日は十面体ダイスを振って、1か2が出たらウルリーカ襲撃のタイミングになるということで。
婁: ……了解。
禍グラバ: あ、出発直前にソルにこっそり耳打ちしておきます。――私の移動中に、親善会議についての情報を集めておいてくれ。金に糸目はつけない。
FM: 糸目はつけないと来たか(笑)。了解です。では、シュカに到着する直前、(地図を見て)シンバ砦あたりで諜報員と落ち合うことになるでしょう。
禍グラバ: 金で安全が買えるならいくらだって(笑)。
FM: ですねえ。では、親善会議へ向けて、新たな旅をはじめましょう――! 不可侵条約の有効期限は残り三十六日となります。
ガダナンが、街道へと踏み出す。
騎士たちは自分の馬に乗って、その隣を併走する。
その重々しく、騒々しい足音を、ひどく複雑な気分でエィハは聞いていた。
(――まるで、戦の始まる音みたい)
そんなことを。
少女は、ヴァルの背中で思ったのであった。
『第六幕』
旅の始まりは、本当に快適だった。
火山の噴火で破壊されたはずの街道はあっという間に復興していたし、魔物や山賊に出くわすことも一度としてなかった。いままでずっとガダナン頼りだったが、整備された道というのはこれほどに進みやすいのだと、忌ブキは初めて実感していた。
また、ウルリーカの連れてきた騎士団の力も大きい。
とりわけ騎士団付きの創造魔術師は、ほんのいくつかの呪文で小規模の野営地をつくりあげてしまうのだ。このような魔術が当たり前なら、ドナティアの軍隊は世界のどこにあっても、最高の状態で戦えるのだろう。
他国からしてみれば、それがどれほど恐ろしいことか。
ドナティア。
かつて世界を征服しかけた大国の力を、初めて少年は肌で感じていた。
FM: (BGMをフィールドに切り替えながら)ウルリーカの先導もあって、旅は極めて順調ですね。一応移動表を振ってみてください。最初は忌ブキさんかな。
忌ブキ: あ、はい。(サイコロを振って)54です。
FM: えーと、この地域の表の54番は……『紛争で破壊され、村人が逃走した村を見つける。半日捜索すれば食糧や水を手に入れられる』。今回は関係ないですね。仮に山賊とかが出た場合も、ウルリーカさんと騎士団が相手をしてくれます。
スアロー: うっひょう、ウルリーカさん頼りになる!
FM: 野営地も、創造魔術師が魔法でつくってくれますので、きちんとした屋根付きの家で眠れますよ。部屋もそれぞれ別にできます。
婁: (淡々と)ありがたい。いたれりつくせりですな。
エィハ: どうして婁さんが言うと、当たり前の台詞が怖く聞こえるんだろう(笑)。
忌ブキ: ……うん(なにやら考え込む)。
エィハ: どうしたの、忌ブキ?
忌ブキ: ……いろいろ言いたいことがあるんだけど、うまくまとまりません。まとまったら、ちゃんと話すから。
エィハ: ん、分かった。
スアロー: あ、このペースだと、明後日にはロズワイセ要塞につく?
FM: そうなりますね。
スアロー: よし、それなら今日はメリルを連れてウルリーカさんと談話しよう。明日は運任せになるが、要塞まで着けばさしもの殺人鬼もすぐには手を出せまい。
FM: それでは二日目です。ここからは、もはや移動表を振る必要もありません。
忌ブキ: え?
FM: 完全にドナティアの魔術圏に入るからです。魔物が出る余地はなく、山賊たちも掃討されてます。ニル・カムイ独特の異常気象もこの範囲内では完全に収まってます。
禍グラバ: (唾を飲み込んで)……国家魔術圏が変わるとは、これほどのものか。
FM: そして、忌ブキとエィハのふたりは凄まじい違和感を覚えます。
それはたとえば、突然世界の色が変わるようなものだった。
青は赤に。
赤は黄色に。
視界だけではなく、聞こえる音も、砂の匂いも、何もかもがある瞬間を区切りに入れ替わってしまう。
エィハ: ……なんだか、いやな感じ。ヴァルの首をそっと撫でます。
忌ブキ: それって……やっぱり。
FM: さて。〈楔〉やら何やらは忌ブキは知りませんからね。ただ、何らかの人為的なものであることは想像できるでしょう。ニル・カムイの皇統種であるあなたなら、自分の身体の一部を――場合によっては、魂を踏みにじられたように感じるかもしれません。
忌ブキ: ……(ますます深く考え込む)。
スアロー: い、忌ブキさん? 僕、悪いドナティア人じゃないよ?(なぜか踊りながら)。
FM: では、肝心のウルリーカチェックを……(サイコロを振って)よし、今夜は婁の襲撃チャンスはありませんでした。
婁と忌ブキ以外の一同: よかった……!
三日目にして、一行はロズワイセ要塞に辿り着いた。
灰色の城塞は、変わらず砂漠に屹立している。
風聞からすれば、火山の噴火に真っ先にさらされたはずだったが、街の周辺にもそんな様子はまったく窺えなかった。
復興というより、もはや時間の巻き戻しにも似た風景。
「宿は、こちらで手配しておりますので」
ウルリーカの言葉通り、黒竜騎士団に案内されて、一行は要塞内の宿屋に泊まることとなった。
FM: (BGMを街に切り替えつつ)というわけで、ロズワイセ要塞です。
スアロー: とりあえず、ここまではウルリーカさんも無事についたと。よかった……。黒竜騎士の紅一点だもんなあ。
婁: (真顔で)いやあ、女キャラだったら虚淵的には殺す理由十分。ましてやおっぱいがでかければ(一同爆笑)。
エィハ: 婁さん!?
スアロー: マジかよ! 怖えよ!(笑)。
FM: これが虚淵イズム……! まあスアローも言ってましたが、本日のウルリーカは騎士の駐屯所に泊まるので、襲撃は難しいでしょうね。
婁: ですな。まあ、何とか商人があぶり出してくれれば違うけどねえ(笑)。
禍グラバ: えへんおほん!
エィハ: あ、宿屋についたら忌ブキと話したいです。ずっと顔色が悪いので。
FM: 分かりました。ではそこからやりましょう。いつもの通りだと、エィハと忌ブキは同じ部屋ですしね。
いまだに、人間がつくった建物にエィハは馴染めない。
いつもベッドは使わず、ヴァルの毛皮にくるまってるのだから、寝心地が変わるわけでもないのだが首筋にぞわりとした感じが残ってしまう。
ちら、と内装を見つめる。
小綺麗に片付けられた部屋だった。
貴族のお気に入りのつながれものもいるので、魔物が出入りできるような部屋は、ある程度の宿屋ならば用意している。前に禍グラバが手配した宿屋よりは少し落ちるが、エィハにしてみると、かえって今の方が落ち着いた。
(……昔)
昔、自分もそうしたお気に入りのひとりだった。
けして、悪い思い出ではなかった。楽しい思い出でもなかったが、少なくともあの貴族はそれなりの善人だったと思う。もしかしたら禍グラバと似た所もあったのかもしれない。
そんな自分が革命軍に入ったのは、力ずくで奪われたから。
同じつながれものの少女がエィハを打ち破って、これはあたシのものと宣言したから。
自分に、〈歌〉を教えてくれた少女。
友達の、ジュナ。
記憶を嚙みしめながら、同じ部屋の少年へ、少女は口を開く。
エィハ: ヴァルの毛皮にくるまったまま、その内側から訊きます。――忌ブキ?
忌ブキ: あ……うん。
エィハ: 何か、あったの?
忌ブキ: (思い切り狼狽しながら)ちょ、ちょっと待って下さい。色々考えてますんで。(考えを纏めるためにメモをとりつつ)……。
スアロー: 名人長考中(笑)。
忌ブキ: ええと……(胸を叩いて)エィハも、感じた? あの……この要塞に来るときの、違和感みたいなの。
エィハ: 感じたわ。
忌ブキ: なんだか……すごく嫌だった。踏みにじられるみたいな感じで。(しばらく考えてから)この島がドナティアに支配されるって、ああいう感じのことなのかな。だから阿ギトさんは、革命軍を起こしたのかな。
FM: お、うまい。
忌ブキ: 禍グラバさんだったら……どう言うんだろう。
禍グラバさんだったら。
その言葉に、む、と少女は唇をとがらせる。
エィハ: ――忌ブキが話したい相手は、禍グラバさんなの?
禍グラバ: 地雷踏んだ!
スアロー: やべ、エィハというか紅玉さんのゲージがなんか一瞬で貯まった!
エィハ: (手を振りながら)い、いえ、まだ怒ってませんよ? ちょっと優しくするかどうか悩んだだけですよ? まぁ禍グラバさんはちょっと鉄面皮ですけど紳士ですし?
スアロー: 何だろう、忌ブキさんの失言にシンパシーを感じる。キュピーン(笑)。
エィハ: 隣で嬉しそうにしてる人が(笑)。――(向き直って)ねえ忌ブキ、前にこの要塞の宿屋に泊まったとき、阿ギトと会ったのよね。
忌ブキ: ……うん。
忌ブキは、胸に手をあてる。
今でも、あのときの熱は残っている。
――『今、この島は叫んでいる』
――『阿ギト・イスルギは、あんたと戦うために帰ってきた』
質の悪い封音符から発せられた、阿ギトの言葉。
それが途切れるや、自らやってきた阿ギトは、忌ブキに協力を要請した。
そして。
忌ブキも答えたのだ。
――『ならば、万の民を救えるか』
――『それができると言うなら、ぼくはお前たちの王になってやる。お前たちがつくりあげた血の海に、ぼくも一緒に溺れてやる』
忌ブキ: あのとき、エィハに言ったよね。――ぼくに、ついてきてくれるかって。
エィハ: 言ったわ。わたしはあなたの剣よ。
忌ブキ: ぼくの、剣……。
スアロー: 重い。これは重い(笑)。
禍グラバ: 切れすぎる剣はヤバイですからねえ(笑)。
忌ブキ: (思い切ったように)だったら……。
エィハ: だけど、忘れないで、忌ブキ。
忌ブキ: え?
エィハ: わたし、あなたにつくと言ったのよ。阿ギトにつくとは言っていないわ。あなたには阿ギトの理想も必要だし、多分王になるための金も、他の国の味方も必要だと思う。
一拍おいて、少女は言う。
「でもわたし……あなたにはやっぱり、友達が必要だと思う」
FM: ……攻め寄ってきたなあ。
婁: 王は友達が少ない(笑)。
スアロー: 王とは孤独なもの。王とはボッチのことである(笑)。
エィハ: 忌ブキ。――わたしね、たとえヴァルの気が狂って何千人を殺したとしても、やっぱりヴァルとわたしはつながっていると思うの。うまく言えないけれど、だからヴァルがどうなっても、わたしはきっと強くあれるわ。
「忌ブキも、〈赤の竜〉とつながっていたらよかったのにね……」
スアロー: おお、これはうまい!
エィハ: 忘れないで、忌ブキ。わたしの使い手。わたしの王。――それだけ言って口を閉ざします。
再び、部屋に沈黙が落ちた。
ランプの光も落ちて、薄っぺらい闇に満たされる。
少年はベッドの毛布を摑んだまま、しばらく動かなかった。少女に言われたことを何度も何度も思い返しているようだった。
やがて。
ぎゅっと、毛布に皺を寄せて、
「……だけどエィハ。やっぱりぼくには分からないんだ」
誰にも聞こえない声を、ぽつりと呟いたのであった。
『第七幕』
宿屋では、スアローはひたすらベッドに横たわっていた。
家具を使わないようメリルに厳命されてるが、さすがにベッドは仕方ない。剣やグラスと違って、有機物でできたベッドや毛布はすぐさま崩壊することはないが、寿命は一日で数ヶ月分も縮むだろう。そこらの服にしてからがスアローに纏われれば数十日で摩り切れるし、鎧なんて毎日メリルにつけてもらってる始末である。
(……そういや有機物って言葉は、創造魔術師を目指してたときに覚えたんだっけ? あれ? それとも職人を目指したときだったっけ?)
天井を見ながら、ぼんやり考えている。
昔から、目指した夢は多かったのだ。
幼い頃手にした絵本は片端から破れ、傾倒した魔術は基礎の基礎も修得できぬまま貴重な触媒や宝具ばかり壊し、職人になろうとしては肝心の釜をたった一日で砕いてしまったとしても。
なんとなく、これが自分の人生なのだろうと、そんな風に諦めていた。
諦めているのだから、笑うことばかりが多かった。
FM: さて、特に行動宣言がないなら、この宿屋ではあるイベントが発生します。対象はスアローです。
スアロー: ん?
FM: スアローがひとりになった夜、不意に契約印――左脚の傷が痛み出します。
スアロー: ふ、封印された力が!(笑) で、何事だい?
FM: では……(iPadを操作し、音声を流す)。
「よくやった……スァロゥ・クラツヴァーリ。呪いの子よ」
忌ブキ: え、音声!?
禍グラバ: ふえ、何ですこれ!?
スアロー: (素に戻って)な、中田譲治さんじゃねえかあ! え、え、え? 何コレ? ひょっとして〈黒の竜〉なの!?
FM: ええ、〈黒の竜〉として、声優の中田譲治さんにスタジオで収録していただきました(iPadを操作して、音声を続ける)。
それは、スアローの脳裏に――いや魂に響く声だった。
黒い声だった。
声に色などあるはずがないのに、そう形容するしかなかった。
契約印を激しく疼かせて、その圧倒的な声はスアローの内側を貪っていく。
「お前の働きは、ニル・カムイを揺り動かすに足りた」
声が言う。
「大地は黒く蝕まれ、天空もまた大地にならう。我は以前よりも強くニル・カムイに干渉できる。……ああ、こうしてお前へ語りかけられるのも、そのひとつだ。ふふ……いまだ一方的な干渉に過ぎんがな」
スアロー: (口をぱくぱくさせて)……あの、俺を驚かせるためと喜ばせるために、どれだけの手間と金を掛けてるの? もう、うれしさを通り越して怖いわ(笑)。……しかし、あれを少し落としただけで、〈黒の竜〉がこの島まで干渉できちゃうわけね?
FM: ええ、そういう理由です。
スアロー: うひい。スアロー的にはドナティアと少年少女の未来で、ちょっと後者の方に心が動いてたんだけど。でも、もうこの一瞬で〈黒の竜〉こえーっ! やっぱやめよっかなあ……(笑)。
禍グラバ: ちょっと見方を変えて、この〈黒の竜〉は激辛麻婆豆腐が大好きなんだと思えば、少しは親近感が湧きませんか?(笑)。
スアロー: そんな、激辛麻婆豆腐をはふはふ喰ってるようなやつが、常に左脚から話しかけてきたら、怖いよ!(笑)。
FM: では、スアローが沈黙していると、〈黒の竜〉は更に語りかけてきます。
声は止まらない。
スアローへの侵食も、止まらない。
ただひたすら、青年の身体を苛み続ける思念の暴力。その声のひとつずつで、何度となく殺されているような錯覚さえする。
「ひとつ、褒美をやろう」
「……褒……美?」
かろうじて訊き返したスアローへ、〈黒の竜〉は満足げに囁く。
「お前の選択とは関係ない。これは我がお前に興味を持った――お前がそれに応えたがゆえの、純粋な好意だ。使うも使わぬもお前次第。だが、うまく使えばその命を長らえられよう」
FM: (iPadを操作しながら)ちなみに、ゲーム的にも理由はあります。第二夜で、裏ミッションであるところの『自分の国に有利なように〈楔〉を使用した』を、スアローが達成しているからです。
スアロー: なるほど……。この〈楔〉にはそんな意味もあったのか。くっそ二重三重に考え抜かれてやがる……。
そして、声は告げた。
「褒美の名は――《黒の帳》という」
スアロー: 黒の帳……。
刹那、痛みは極限に達した。
激痛が自らの本質をも塗り替えていくようだった。塗り替えられてはならないものも、奔騰する痛みが押し流していった。
同時に、それがいかなる〈力〉であるかも、青年は理解してしまっていた。
――《黒の帳》。
竜によって与えられた、新たな力のカタチを。
スアロー: 封印された力がーっ!(笑)。
FM: まあ、封印されていたわけじゃないのですが、新たな力があなたに注ぎ込まれます。こちらをキャラクターブックに貼ってくださいませ(シール状になったイラスト付きデータを渡す)。
スアロー: 何か用意してると思ったら、こんなものまで!
FM: せっかくのキャラクターブックですからね。ほかの黒竜騎士の能力の隣に貼ってやってくださいませ。
スアロー: く、〈黒の竜〉が俺にもっと輝けとささやいている。うん、人助けはしておくもんだね!
忌ブキ: 人助けというか竜助けというか(笑)。
スアロー: ワル助け?(笑) で、どんなステキ能力かな?(シールを覗き込む)。
禍グラバ: どれどれ、おじさんにも見せてみなさい。
スアロー: (キャラクターブックを隠しつつ)怪しいおじさんには見せられません!(笑)。
FM: 詳しい説明をした方がいい?
スアロー: いえ、大体どんな能力かは理解しました。(能力を吟味しながら)……俺、ひょっとしたらウルリーカさん守れるんじゃね?
忌ブキ: それ、できたらすごくかっこいいですね!
やがて、激痛は退いていく。
内側を抉ったおぞましい感覚は一向に去らず、気配だけは薄れていく。
最後に、声はこんな言葉を骨の髄まで響かせた。
「お前がその手と呪いで〈赤の竜〉を討つ……その時を我はここで待っていよう」
FM: そして、思念は途絶える。
スアロー: 行ったか。……まあ、今のところ〈赤の竜〉を倒すことと忌ブキさんを助けることは衝突してないのでブレはしないんだけど、彼が〈赤の竜〉を救いたいとか言い出したら困るなあ(笑)。
FM: そんな風に思ったところで部屋のドアが叩かれ、すごい勢いでメリルが入ってきます。「スアロー様!」
スアロー: あれれ、メリル? どうしたの?
FM(メリル): 「……いえ。今、ひどくおぞましい気配を感じて」
スアロー: ……ああー、そうか。僕が感じたなら、メリルは感じるか。
そう。
当然だった。
あれだけの〈黒の竜〉の影響をスアローが受けたなら、メリルにも必ず伝わる。
自分と彼女とは――つながっているのだから。
エィハ: んんん?
スアロー: 仕方ない。メリルには今のことを正直に話そう。――どうも、僕がしでかしてしまったことでドナティア有利に働いて、ご満悦な〈黒の竜〉は新しい力を譲ってくれたらしい。
FM(メリル): 「……はい。私の内側にもその力を感じました」
メリルが胸元を押さえる。
スアローは、ひどく困ったように笑う。
スアロー: ……ということなので、もし君が懇意にしている人物、例えばウルリーカさんと一緒に居る時に不審な何者かが現れたなら、僕のことは考えずにこの力を使って守ってあげてくれたまえ。
禍グラバ: (首をかしげて)……おや? メリルさんが守る?
FM: さてさて(笑)。――では、メリルは少し考えてから、スアローに口を開きます。「七年前と、同じですね」
スアロー: そうなるかな。
FM(メリル): 「……ご無理を、なされてませんか?」
スアロー: まあ、僕の人生はいつも無理めなことばかりなんだが。そうだな、メリルには言っておくか。……僕は、現状忌ブキくんの味方をすることに決めているんだが。
FM(メリル): 「はい」
スアロー: その結果、ドナティアの意に反することになるかもしれない。その時は……こんなことを言ったらぶん殴られると思うんだけど、僕はクラツヴァーリ家を再建するという考えはあっさり捨てるし、メリルもシャーベット商会に帰った方がい……ぶはぁ!(一同爆笑)。
FM: まあ、それは凄まじい勢いで正拳が入りますね(笑)。こう、大変腰の入ったのが鳩尾あたりに。
エィハ: スアローさん、吹っ飛んだー!(笑)。
スアロー: わ、分かった、分かったから! 何か、僕と忌ブキくんは本当に似ている気がする(笑)。
FM(メリル): (拳を軽く叩きながら)「この島まで来て、今更何をおっしゃっておられるのか意味が分かりません」
スアロー: ……〈黒の竜〉との契約で、僕のあの呪いが解けようが解けまいが、僕の本質は変わらないよ?
FM(メリル): 「なら私も同じです。傷を受けたのはあなたと私のふたりです」
スアロー: ああ……愛が重い。まあ、愛ではないんだけど(笑)。
禍グラバ: このふたりの関係は、我々にとっては未だに謎ですねえ。
スアロー: (ひらひら手を振って)まあ、いつもの面倒事だよ。気楽に対応してくれ。
FM(メリル): 「……分かりました。では、そのように」
スアロー: うんうん。ありがとう。
FM: そして退出する前にメリルは一回だけ振り返ります。「スアロー様、ひとつ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
スアロー: ん、何だい?
FM(メリル): 「もしも……もしもの話ですが」
遠慮深げに、メリルはこう問うたのだ。
「……私が本当に育たなければ、どのように思われましたか?」
ぴたりと。
スアローが、息を止める。
ひょっとしたら、〈黒の竜〉に話しかけられたとき以上の衝撃かもしれなかった。
「……育たなければ、か」
それでも、なんとか言葉を探した。
スアロー: そうだね……命はもっと、明るいものだと思っていただろうね。
FM(メリル): 「そうでなかったことが、これほど残念だったことはありません」そう言って、メリルは部屋から去って行きます。
スアロー: くそ、FMの野郎、不意打ちで一番の核心を突きやがって(笑)。
FM: さて、本日のイベントはもうひとつあります。忌ブキさん、【知覚】で判定して下さい。
忌ブキ: (サイコロを振って)……成功です。
FM: では、皇統種たるあなたの感覚は、その声を聞き取ってしまいます。
スアロー: 譲治が(笑)。
FM: 遠く、声が聞こえてくる。黒くおぞましい魔素。その声は、やがてあなたへと向かう(再びiPadを操作する)。
寝付けなかった忌ブキが、その感覚に目を見開いた。
普段は頭巾の幻術で隠している角が、おぞましい魔素に反応していたのだ。かすかにエィハも身じろぎしたが……その気配は少年だけが感じたらしかった。
そして、そんな少年の脳裏に、角を伝わって黒い声が響いたのだ。
「ほう、我が念に干渉するとは……そうか、お前が皇統種。あれの落とし子か」
ぞくり、と脊髄が氷で刺し貫かれた気分だった。
おぞましいのと、懐かしいのが、一度に少年をうちのめす。同じだけの隔絶した存在に出会った記憶が、一度に少年の内側から噴き出したのだ。
あれは、夢。
夢だと思っていた――初めて〈赤の竜〉と出会った、記憶。
忌ブキ: 〈赤の竜〉と、同じ――モノ――。
FM: 世界に存在する七竜の内でも、これが〈黒の竜〉であることは一瞬で理解できるね。概念としての『黒』が、忌ブキの脳裏にまで染み渡るようだ。
エィハ: い、忌ブキが穢されちゃう!
「……」
愕然と、忌ブキは動けない。
もはや、指一本すら自由にならぬ。
あれだけ敏感なエィハすら、少年の異常に気づけない。
そんな少年の様子にくつくつと笑って、〈黒の竜〉の思念は、続けた。
「ひとつ、教えてやろう。お前がニル・カムイを救うというならば……その方法はドナティアと組む以外にありえぬぞ」
スアロー: ……黒幕っぽいことを(笑)。
忌ブキ: ほかに、方法がない?
「救うとは、過去を継続させる概念だからだ」
一方的に、〈黒の竜〉は話しかけてくる。
「ニル・カムイをかつてありしカタチに育むというのならば、黄爛や革命軍とは手を組めぬ。黄爛は歴史を進めることにこそ固執し、革命軍が最上の結果を得ても、ニル・カムイの変化は免れまい」
「……」
反論は、できない。
できるはずもない。
それもまたひとつの真理だと、今の忌ブキには理解できてしまうからだ。
けして、〈黒の竜〉は偽りを述べてない。ひとつの国の興亡と変化を、竜の命と視点から正しく語っている。
「かつての豊かなニル・カムイのカタチを救いたいというのであれば……変化を望まぬドナティアと組む以外の道がない。お前はどう答える? 皇統種よ」
禍グラバ: すごい、こんなにも島のことを考えてくれる人が!
スアロー: 遥か彼方のドナティアの洞窟の中にいる〈黒の竜〉が、こんなに理解してくれてるなんて(笑)。
エィハ: 皮肉ですね(笑)。
禍グラバ: (真面目に考え込んで)しかも、これが一番人死にの少ない道かもしれない。
スアロー: でも僕の言うことでもないけど、植民地化がさらに進むよね。多分黄爛との戦いでも橋頭堡として使われる。
FM: では、忌ブキさん。このやりとりは、基本的に〈黒の竜〉からの一方的な思念ですが、イエスかノーの意思ぐらいは伝えられます。どうします?
忌ブキ: ちょ、ちょっと待ってください。
スアロー: これで、忌ブキさんがまさかのドナティア側についたら、俺はもっとシンプルになるのかな?(笑)。
忌ブキ: ……(しばらく考えた後)決まりました。あの、これ、メモで渡してもいいですか?
FM: もちろん、かまいませんよ。(メモを受け取って)なるほど。
婁: おやおや。
スアロー: 99%決まってるとは思ってるのですが、1%があるだけに気になりますな。
忌ブキが思念を返す。
すぐ、〈黒の竜〉は応じた。
「よかろう。お前の意思は尊重する。だが、お前の意思はお前が思ったよりも多くの血を流すことを忘れるな」
けして単なる脅しではないと、嫌と言うほど分かった。
それでも、忌ブキにはほかの返事ができなかった。
FM: では、その声と共に、黒い魔素は遠ざかっていく。あなたの身体にも自由が戻る。
忌ブキ: はあー……うわあ、ホントに汗搔いてる。
禍グラバ: 大丈夫です?
忌ブキ: あ、はい。すいません、禍グラバさんに相談に行きたいですがいいですか?
スアロー: あれだけエィハに釘をさされたのに、やっぱり禍グラバに相談に行くんだ!(机をバンバン叩きながら)。
エィハ: ……。
禍グラバ: 紅玉さんがすごい顔をしてる(笑)。
エィハ: いえいえ、もう! この! この子!(顔を隠し出す)。
FM: ここまですれちがうと面白い。奈須きのこがつやつやしてる(笑)。
スアロー: すれ違いは少女漫画の華ですよ!
FM: では、ここで一旦シーンを切りましょう。次は忌ブキが禍グラバの部屋を訪ねるシーンですね。
べったりと額に滲み出た汗を拭う。
「……うん、ちゃんと、やらないと」
少女を起こさないよう、静かにベッドを下りる。
そのまま扉を開けて、忌ブキは暗い廊下へと踏み出したのだった。