レッドドラゴン
第一夜 第十幕〜第十六幕
「最前線」のスペシャル企画「最前線スペシャル」。三田誠がFiction Masterとしてシナリオを紡ぎ出すRPF、『レッドドラゴン』。参加者は虚淵玄、奈須きのこ、紅玉いづき、しまどりる、成田良悟の夢の5名。音楽を担当するのは崎元仁。最高の布陣で最高のフィクションを創造します。
『第十幕』
ガダナンに揺られていると、やがて森林が開けた。
目の前には、ゆるりと稜線を構築したナヅチ山脈。山岳地帯に足を踏み入れたぼくたちを迎えたのは、その山脈に貼りつくかのような、モノエの街だった。
FM: では、新しいシーンを介します。翌日、残り八十六日の時点で、モノエへと到着します。
エィハ: おおー。
FM: ナヅチ山脈にべったりと貼りついたような街なんですが、とりわけ印象的なのは、街の周辺の木材が伐採されて、禿げ山になってしまっていることですね。
忌ブキ: あ、じゃあマップのこの部分が白いのは……。
FM: もう少し北は雪山なんだけど、このへんは禿げ山になってるから(笑)。後ろで婁の隣に座ってる瑞白も口を挟む。「元は神聖な山だったそうなんだが、黄爛の入植が始まってから良質な鉄の産地として、ばっさばっさ切り倒したそうだ」
スアロー: 鉄鋼の街なのか……。それなりに潤ってる?
FM: そうだね。街のつくりからすると潤ってる感じはある。だけど、今はそれ以上に妙に物々しい雰囲気だね。
スアロー: ピリピリしてるねえ。僕らは目立つので、穏便に行きたいところなのだが……。
エィハ: なのだが?
スアロー: とりあえず、ちょっと様子を見るってことでいいかな?(笑)。
FM: ふんふん。そうすると、街の入り口やらあちこちで、黄爛兵士が警備に立っているのが分かるね。印象的なのは、黄爛でも上級兵士しか持っていないマスケット銃を持った人間が見受けられることだ。
スアロー: (小声で)あれが噂のマスケット銃か……。
FM: 仁雷府からの派遣に間違いないだろうね。一応、ミスカが口を利くと、街には通してくれるけど、宿屋とかに入る?
スアロー: 軽く寄って一杯ひっかけてみますか。
FM: はいはい。さっきの商人の瑞白は「こっちは厄介ごとに巻き込まれない程度にお茶を濁してるよ」と手を振るね。
スアロー: あいあいー。
街の中央へ、スアローはのんびりと足を踏み入れる。
青年の歩みには屈託がない。鎧からしてもドナティアの黒竜騎士団関係者であることは明らかなのだが、その姿が周りを威圧しないのは、ある種の人徳だろう。
ただ。
とろんとした感じのスアローの目が、一瞬だけ不快そうにひそめられた。
エィハに向けられる視線と囁き声を、認識したときだった。
FM: エィハとヴァルの姿を見ると、通りの何人かは聞こえよがしに「つながれものかよ」と囁くね。暴れられても困るんで面と向かっては言わないが、露骨に舌打ちされたりする。
エィハ: ……わたしは、街の入り口に戻ってます。
スアロー: さて……。
忌ブキ: ぼくらも戻ります?
スアロー: いや、まあ人の意見は様々なので、偏見を気にしていてもしょうがないからね。とりあえず宿屋か酒場に入って、話を聞きたいところ。
FM: ふむ。ここも街道沿いではあるので、君らみたいな旅人を相手にする酒場はすぐに見つかるよ。二階は宿屋になった場所だね。普段なら娼館も兼ねそうなところだが、そういう色気は今は感じられない。
スアロー: うんうん。とりあえず一杯引っかける。――メリル、お金。ほら、お酒飲まないと情報もらえないじゃん?(笑)。
FM: 冷たい眼差しながら、「拾っていいですよ」とメリルは十銀貨ほど出してくれるよ。どうなの、この主従関係(笑)。
スアロー: 偶に僕はメリルが一番怖い。まあ平均的な金額の酒を一杯頼んで、店主に訊いてみましょう。――何か街がピリピリしてるけど、何かあったのかな?
FM: なるほど。すると、店主は胡乱そうな目を向けつつも、スアローの騎士鎧を見ると、仕方なさそうに口を開く。「ああ……ここいらの自警団を名乗ってた連中がやらかしてね。黄爛の軍師を人質に取って、行政府に立てこもったらしいんだよ」
スアロー: ……テロキター。
FM(店主): 「おかげで、町中に黄爛の兵士が出張ってる。ここに来るまでも見ただろう?」
スアロー: 道理で、妙にいい装備してるはずだなあ。
FM(店主): 「幸い、籠城での睨み合いなんで、内外の流通まで止める必要はないって言い渡されてるがね。ま、行政府には近づかない方がいいぜ。もう軍隊が包囲してる上に、千人長まで来てるそうだ」
スアロー: んん? 千人長って、黄爛だと黒竜騎士に匹敵する扱いじゃなかったっけ。
FM: そうだね。この島には少なくともふたりの派遣が確認されている。捕まえられた軍師がそれだけ要人だったんだろう。それ以上のことが知りたいなら、〈※地域知識:ニル・カムイ〉か〈※地域知識:黄爛〉でサイコロを振ってもらいましょう。
忌ブキ: 振りますか?
婁: こっちも振ってみますか。
FM: あ、婁は振るまでもなく知っている。
婁: ほう?
FM: ニル・カムイに来る以前、最低限与えられた情報の中に、軍師の情報もあったからだ。名前は甘慈。軍師と言っても軍隊を直接操るより、むしろ兵站や情報操作、金銭方面で力を発揮する男だったという印象がある。
スアロー: 金銭方面の男! これ不死商人がらみのフラグ!(笑)。
婁: ふむ。こちらに来た千人長については分かるかな?
FM: そちらは判定してもらいましょう。
婁: 〈※地域知識:黄爛〉はないが、〈※専門知識:八爪会〉でいい?
FM: いいですよ。
スアロー: 故郷の地域知識がないのか? 殺すことしか興味がないんだな、この男(笑)。
婁: (サイコロを振って)判定は成功。[達成度]は11。
FM: OK。マスケット銃とかの装備を見る限り、おそらく来ている千人長は楽紹と呼ばれる女だろう。
婁: ほうほう。
FM: 下っ端から成り上がった女兵士で、特にマスケット銃を主体にした部隊運用に長けているとの噂がある。互いの実績からすると、一度か二度は同じ戦場にいたはずだけど、記憶してるかどうかは婁次第といったところ。
婁: なるほどね。
スアロー: ほっといても解決しそうな話ではあるのか。捕まってる軍師が例の禍グラバとつながりがありそうなのか……は、店主は知らないよなあ(笑)。
FM: まあ、店主は知らない(笑)。ただ、メリルは後ろから「普通に考えれば、ニル・カムイでの活動が長い不死商人と黄爛軍師で、何の関係もない方がありえないかと」っていう風には補足するよ。
スアロー: だよねー。何の手土産もなしに、百年以上生きているサイボーグ爺ちゃんに会いに行くのは、僕としては正直避けたい。
忌ブキ: (ぐっと顔を出して)このままこれをほっておくと、お互い死傷者が出ちゃうんですよね?
FM: まあ、確実に出るね。それは間違いない。
婁: 迂闊に首を突っ込めば、住民の不興を買うことになるが。
FM: それも間違いない。
スアロー: そうだね。我々が助けなくても人は死ぬし、助けても人は死ぬんだ。
ひとつ、スアローがため息をつく。
変わってもいいと思うことほど、ドナティアでもニル・カムイでも変わらない。
もちろん、それを哀しいと思うようなセンチメンタルな人格でもないし……正直なところ、いくら人命が失われたところで自分は……。
(――)
そこで、無理に思考を止める。
ぽっかりとあいた空白から、意識的に目を背ける。
FM: もちろん、マスターとしては何の強制もしないよ。あなたがたが首を突っ込もうが突っ込むまいが、おかまいなしにゲームは進むからね。
忌ブキ: ううん。……これ、自警団の原住民はニル・カムイ人ですよね?
FM: ニル・カムイ人です。ちなみに、旧住民と言っていただきたい(笑)。
スアロー: うん、忌ブキさんだけは原住民と言ってはいけない(笑)。
忌ブキ: そ、そうですよね、旧住民ですよね(笑)。
スアロー: これがね、捕まってるのが十代の子供だったら助けに行くんだけど。
忌ブキ: いや、誰でも助けに行きましょうよ!
FM: あ、これは店主からも聞けるけれど、決起した自警団には被差別階級――つまりつながれものも交じっているそうだから、確実に十代の子供は交じってますね。
スアロー: なんと……! (視線を泳がせつつ)むむ。未来を奪われる前途ある子供達への同情はあるのだが……。
(――やっぱり、落とし穴でしたか)
言い訳するスアローを見て、メリルはひそやかに思った。
子供と聞いた瞬間、スアローの表情が目に見えて変わったからだ。
ドナティアのように、一定のモラルの醸成された土地ならともかく、この島のような場所では、幼いというのは弱いという意味しか持たない。つまり、こんな事態はこの島のどこだって起こっている。
主だってそれは分かっていように。
だから。
「本当に、クズですね……」
不満と侮蔑と腹立たしさと――ほんの少しだけ別の感情を込めて、メリルはそう口にした。
スアロー: な、何、メリルさん!?
FM(メリル): 「なんでもございません。ですが、もし介入されるなら早い方がいいかと存じます。状況を聞く限り、旧住民が皆殺しになるのは時間の問題かと」
スアロー: あー、まあ、戦力的にはそうだよねえ。
婁: 楽紹は腕利きなのかな?
FM: 間違いなく。自警団レベルの戦力では、勝負にすらならないでしょう。
忌ブキ: ……(うつむいて考え込んでいる)。
スアロー: ん、忌ブキさん?
忌ブキ: ……あの。それって、ぼくが説得して旧住民側を投降させることはできませんか?
スアロー: ほ。
エィハ: あ、なるほど!
FM: そうですね。一度、〈地域知識:ニル・カムイ〉で判定を。成功さえすればいいですよ。
忌ブキ: 成功です!
FM: 了解。皇統種は信仰の対象としては絶対的です。このような事件を起こす輩であればあるほど、効果的でしょう。投降を呼びかけることも不可能ではないはずです。もちろん、角は見せることになりますが。
その発言によほど緊張したのか、忌ブキの顔は真っ赤になっていた。
小鼻はふくらみ、両手の拳はぎゅっと握りしめられている。もともと小さな身体をさらに小さく縮めこませるようでもあった。
それでも、
「……彼らに、投降を呼びかけたいんですが、どうでしょう?」
もう一度、同じ内容を少年は言った。
スアロー: 忌ブキさんに護衛がつくのなら賛成かな。
忌ブキ: 護衛、ですか。
スアロー: うん。相手に同じつながれものがいるなら、エィハくんの方が適切かなあ。――あ、別に僕がチキンだからじゃないよ? 誠に残念だが、この状況では僕が行くよりも忌ブキさんとエィハくんの方が……。
FM: (サイコロを振って)では、そこまでスアローが話したところで、後ろから声がかかるよ。「何々、あんたら、あんなのいちいち関わるの?」
忌ブキ: え。
FM: 商人の瑞白ですね。街を一通りまわって、同じ宿屋に辿り着いたらしい。きょとんとしてる感じからすると、皇統種まわりの話直後から聞こえたようだね。
スアロー: すっかり忘れてた(笑)。「――当然だ。だってこれは、人民を助けることと、お互いの利益になるからね!」
FM(瑞白): 「そ、そうか。まあ物騒なのが落ち着いたら超ありがたいけど」
スアロー: ……あ、そうだ。瑞白は今捕まってる軍師と面識はあったりするのかい?
FM(瑞白): 「あるわけねえじゃん!」
スアロー: デスヨネー。そんな都合良くいかないよなあ。じゃあ、この方針で行くとして、うまくいったら軍師さんと内々に話させてもらおう。いいね、忌ブキさん。
忌ブキ: あ、はい。
スアロー: よし、説得イベントに入れる?
FM: そうだね。あ、そうそう。感心したように聞いてた瑞白が口を挟むよ。「あのさ。ホントにそんなことするんだったら、黄爛軍と接触できる人がいないとやっばいんじゃねーの?」
スアロー: うお、それは確かに忠言。(婁を指さして)……では駄目?
FM: もちろんOKです。
スアロー: やって……もらえるかな? 婁兄さんが軍隊と渡りをつけてから、説得役として忌ブキたちを派遣する感じで。
婁: ふうむ。……甘慈、楽紹どっちにしても、俺って素行的に憶えはいいかな?
FM: そうですねえ。婁の感覚だと、楽紹からの憶えはそう悪くないはずです。やっぱり下っ端からの成り上がりだし、戦場を駆け抜けてきた間柄なので、婁を覚えてるかはともかく無碍には扱わないでしょう。甘慈はまったく分からない。
婁: なるほど……。(スアローを向いて)まあ、私でお力になれるのであれば。
スアロー: いやー、婁お兄さんいい人だ! ……騙されてる! スアローは騙されてるーっ!(笑)。
FM: 何か凄い勢いで、婁が信頼を勝ち得ていくのが怖い(笑)。では、ここで一度シーンを終了します。
『第十一幕』
あらかたの木々を伐採したせいか、モノエの景色は異様なほど殺風景だった。
代わりに、あちこちに立った煙突から、もうもうと黒い煙があがっている。ニル・カムイのたたら場と、黄爛の高炉が入り交じった風景。おそらく、後者のほとんどは黄爛が侵入してきたこの十年でつくられたものなのだろう。
そんな山岳の中腹に、行政府への関門は打ち建てられていた。
FM: 次のシーンは、関門からですね。行政府への通り道には何人かの衛兵たちがいて、「止まれ!」と声をあげます。
婁: では、身の証として、例の八爪会の刺繡なりなんなりを見せましょう。
FM: 分かりました。その刺繡はかなり強烈なので「八爪会の方が……何か?」ぐらいの態度には変わりますよ。八爪会が黄爛霊母の憶えめでたいことは有名ですし。
婁: 事態を収拾できるという人材を、ここに連れてきた。
FM(黄爛衛兵): 「そちらのドナティア騎士や、つながれものたちが……ですか?」
婁: その通り。できれば交渉を任せてもらいたい。
FM: OK。では伝令が出されてすぐに戻ってくる。「千人長がお会いになるとのことです。どなたがお会いになられます?」
婁: そうだね……。楽紹の気性として、ドナティアやつながれものに悪感情があったりしたら知ってる?
FM: つながれものはともかく、黒竜騎士にはあるだろうね。なにせ、黒竜騎士と千人長は、どこの土地でも睨み合ってる間柄だ。
婁: ははあ、なるほど。
スアロー: でも、僕は綺麗な黒竜騎士ですよ?(一同爆笑)。
婁: ここは忌ブキくんだけを連れて行きましょう(笑)。
エィハ: ……わたしも行っていい?
婁: うーん……。まあ、是非にも、というならば拒む理由はないな。
忌ブキ: (小声で)助かった……(笑)。
スアロー: じゃあ、ハブにされた僕は――(指を鳴らして)メリル、お茶の準備と見物用の望遠鏡を。みんな行ってらっしゃーい!(笑)。
FM(メリル): 「……ええ、ただいま準備をいたします。少し見直しそうになった私が間違っておりました」
スアロー: いや、だって仕方ないでしょう!?
なんとなく慣れてきたふたりのやりとりを背に、婁たち三人は行政府を睨む高台へと案内された。
その高台には、いくつものテントが張られていた。
数は多くないものの、忙しく衛兵たちが行き来する、黄爛軍の野営地であった。
FM: 高台にはいくつか黄爛のテントが張られているけれど、その中央に幕で遮られた本営が配されている。君たちが案内されると幕が開かれ、髪を短く刈った女千人長――楽紹が視線をあげるね。
忌ブキ: わ。
FM(楽紹): 「ああ。やはりお前だったか。婁震戒」ニル・カムイではこちらの発音にならって、『ろう・しんかい』と呼びかけるね。
婁: 覚えてたのか。――では、お久しゅうございます、と。
FM: 短い髪と鋭い瞳、背中に抱えた特製のマスケット銃が印象的な女だね。「戦場で会ったのは一度きりだが、その顔は覚えている。その剣も一緒にな」
婁: 恐悦至極です。
スアロー: しまった、一緒にいればよかった! 婁さんの尻尾がつかめたのに!(歯を剝いて悔しがる)。
婁: (息を吐いて)……聞けば、ずいぶんな難事に晒されているというお話ですが。
FM(楽紹): 「ああ、あの甘慈のヤツが……」と、ここから急に砕けた口調になって。「ヘマうって攫われちまいやがってさ。正直ごり押しすりゃなんとでもなるんだが、あいつがうっかり死ぬ可能性も一、二割は捨てきれなくてよ。面倒だったらありゃしない」
婁: でしたら。(忌ブキを向いて)このふたりを使えば、事態を円滑に収拾できるかと。
FM(楽紹): 「ふぅん? まあ、確かに、決起した奴らが反乱軍寄りの思想だってのは聞いてる。つながれものの方がうまく交渉できるかもしれねえが、逆に奴隷ごときって侮られる可能性もあるぞ」
エィハ: ……実際に革命軍じゃない以上、つながれものをどう思ってるかは分からないってことね。だったらただの奴隷だもの。
婁: ええ、もちろん切り札がございます。(忌ブキに目配せする)あれを。
忌ブキ: はい! 幻術の頭巾を脱ぎます。
ずっとかぶっていた頭巾に、手をかける。
脱ぐと同時に、忌ブキの額から一筋の色が現れる。
それは、ひどく純粋な色だった。形而上の概念にしか存在しないような――ほかのあらゆる色を拒んだ結果とも見える――いっそ純潔たる白。
純白の角が、少年の額から伸びていたのだ。
人の目を釘付けにせずにはおかぬその色と、その意味に、さしもの楽紹さえも大きく目を見張った。
スアロー: かっちょええ!
FM(楽紹): 「まさか……皇統種だと!? 本物か!?」
婁: まあ、数奇な縁でして。
FM(楽紹): 「少しばかり、噂は聞いたぞ。〈赤の竜〉に対する調査部隊が出ているとか」
婁: お察しの通りです。
FM(楽紹): 「……いいだろう。それなら交渉の価値はある。最悪あいつの首がとんだところで、あたしはせいせいするだけだしね」兵士を呼んで君たちに交渉許可を与えたことを伝える。「これでいい。行くなら好きに行きな」
婁: ありがとうございます。(忌ブキを見て)――さて、ではここからは君のお手並み次第というところだが。
忌ブキ: よろしくお願いします!
エィハ: ひとつ、聞いていい?
FM(楽紹): 「何だい」
エィハ: もし交渉がうまくいったら……行政府に立てこもってる人たちの命はどうなるの?
FM(楽紹): 「当然そういう話になるか」顔をしかめて仕方なさそうに言うね。「甘慈を放してもらえるなら、二日は見逃してやる。その間にあたしの見えないところへ行くように説得するんだね」
楽紹からの許可をもらって、三人はすぐ行政府へと向かう。
黄爛では伝統的な、中枢対称式の配置を取った建築物。マスケット銃の狙撃を警戒したものか、その窓にはすべて雨戸が下ろされ、正門もぴたりと閉じられていた。
FM: では、君たちは兵士たちに通されて、行政府の正門前まで辿り着く。
婁: さ、中の連中に呼びかけてみてはどうかな?
忌ブキ: (唾を飲み込んで)……そうですね。声をかけます。
FM: 呼びかけてみる? じゃあ、「誰だ! それ以上先に来るな!」と、気の張った男の声がする。
スアロー: ほうほう、こいつがリーダーかな。
忌ブキ: 皇統種です、説得に来ました。
エィハ: ちょ!
スアロー: わ!
FM: あまりにストレートすぎたので、ぴたりと止まる(笑)。印籠出すより先に水戸黄門ですって言われたような感じ(笑)。「と、止まれ! と、止まって……、くれ……。誰がそうだって言うんだ……」と、言葉にも困り出す。
忌ブキ: じゃあ、頭巾を取って証拠を見せる感じで。
FM: 本気でぽかーんとなる(笑)。「は……入って、くださってかまいません……」
エィハ: おお……本当に皇統種って信仰対象なんだ……。
婁: ふむ。まあ自分も格好だけでは黄爛の人間と分からないだろうし、ついていこう。
エィハ: 一緒に入っていきます。
中は、暗かった。
日の光が差さず、空気の流れも澱んでいる。
そんな中で何日を過ごしていたのだろう。幼いつながれものもまじった兵士たちは、残らず目の下に分厚いくまをつくり、リーダーらしき若い男も極度の疲労と緊張で土気色の顔となっていた。
そして、そのリーダー格らしい男に首根っこを押さえつけられて、黄爛の衣装を纏う官僚が悶えていた。
FM: 押さえつけられた瘦せ官僚は、無様にばたばたともがきつつ、声にならない声をわめきあげてる。切れ切れに聞こえるのが、「おぎゃー! もう勘弁してくれよー! こいつらぶち殺してくれよう!」みたいな感じ(笑)。
スアロー: あれが今回の契約相手……じゃなくて交渉道具だな(笑)。
FM: で、リーダー格らしい男は忌ブキの方を向いて、おののきながら口を開く。「本当に……? 皇統種さまが、どうしてこんなところに?」
忌ブキ: (何度か咳払いして)……は、はい。争いを止める為に来ました。
FM: 背後では、つながれものや兵士たちもざわめきだすね。「ほんとに、こうとうしゅさま?」「まだドナティアに囲われてない皇統種さまがいらっしゃったなんて……」あまりの事態に、誰もが動揺を抑えられない。で、ここからどうするんです?
忌ブキ: あ、え、えっと……。
エィハ: ロボットみたいに停止した(笑)。
FM(リーダー): 「まさか……皇統種さまが……黄爛にそそのかされたということは……」
事態が、再び暗雲の兆しを孕む。
黒い渦を巻くように、つながれものや兵士たちの間に疑念が生まれる。
ヴァルがかすかに鳴き、婁の手がさりげなくマントの内側へと入る。臨戦態勢を気取られないための構え。
スアロー: (望遠鏡越しに眺める格好をしながら)や、やばい! 三分クッキング並みのお手軽さで自警団が殲滅される! 忌ブキさん、何か言葉を!
忌ブキ: え、ええと、でも、その……。
エィハ: (考えてから手をあげて)……わたし、前に出る。
忌ブキ: エィハ?
戸惑う忌ブキの横から。
かすかに昂揚するヴァルを抑えて、少女が一歩前へ出た。
エィハ: ……わたしたち、ある使命を帯びてるの。
FM(リーダー): 「……使命?」
エィハ: そう。ニル・カムイのための使命。その使命を達成するために……そちらの軍師さんが必要なの。黄爛を助けるためじゃない。この島のために。
FM(リーダー): 「……」なるほど。皇統種を疑うとか、彼らはしたくないわけだから、そういう言い方は有効だなあ。
忌ブキ: あ。
エィハ: 噓は言ってないわ(笑)。
忌ブキ: そ、それにのっかります! みなさん、それぞれ譲れない考えもあると思います。でも、この使命はきっとニル・カムイのためになるはずです。少なくとも、ぼくはそう信じています。
婁: 純だなあ(笑)。
FM: なるほど。材料は十分ですね。では〈交渉〉の判定を。皇統種であることをうまく利用してますから、[達成度]にプラス3のボーナスを与えましょう。
忌ブキ: (サイコロを振って)判定は成功! [達成度]は27です!
FM: おお……さすがに皇統種。こちらから支えたくなってしまうような、圧倒的なカリスマですね。リーダーの目と身体から過度の緊張が抜けていきます。「そちらのつながれものや、護衛らしき方も、そのためのお連れ様で?」
忌ブキ: はい。
FM: しばらくリーダーは黙って考える。「……ひとつ、お願いがございます」
忌ブキ: 何でしょうか?
FM(リーダー): 「私に従ってくれた兵士やつながれもの、そして私自身も無事に逃げられるよう、交渉していただけないでしょうか?」
スアロー: お、エィハの交渉が活きた! そして紅茶を淹れた僕のカップがバキッ! メリル、次の!(笑)。
忌ブキ: 大丈夫です。二日は待ってくれるそうです。その間に別の土地まで逃げてもらえれば……。
FM: 重々しく、自警団のリーダーはうなずきます。「分かりました。でしたら街の出口まで退避してから……この甘慈を解放することを、お約束いたします」
その後の流れは、とてもスムーズにいった。
街の出口まで逃れた自警団は、甘慈を解放して姿をくらましたのである。
解放された甘慈は、すぐさま追撃を唱えたらしいが、楽紹は忌ブキたちとの約束を守り通した。
そして、上機嫌の楽紹のもとに、全員そろっての面会を許されたのだった。
スアロー: おかえりー! いやあ、うまくいってよかった!
FM(メリル): 「スアロー様はカップを砕いただけでしたね」
スアロー: ひ、ひどい!
忌ブキ: いや、全部エィハさんのおかげで……。
エィハ: わたしは思ったことを言っただけ。虐げられる立場の言葉だったから、届いたのかもしれないけれど。
FM: うんうん。ともあれ君たちは、無事に奪還できた行政府でのささやかな宴に招待されるよ。無駄弾も使わずに事をおさめられて、楽紹は大変上機嫌だね。マスケット銃は強力な反面、金食い虫でもあるので。
忌ブキ: わ、宴とか初めて!
婁: 皇統種なのに(笑)。
少なくとも忌ブキにとって、行政府での宴は十分に華やかだった。
つい半日前まで反体制派が立てこもっていたとは思えぬぐらい、床も壁もあっという間に磨き抜かれた。野営地に持ち込まれていた食糧もふんだんに使い、杯をかわしあう人々には朗らかな笑顔が浮かんでいた。
FM: で、その宴の最中、楽紹が忌ブキに声をかけてくる。「……なあ。あんたさ、黄爛につく気はないかい?」
スアロー: さあ来た!(笑)。
FM(楽紹): 「そのカリスマと皇統種の力、黄爛なら悪いようにはしない。もちろん任務が終わってからでいいんだ。あたしも口利きしてやるし、それなりの支援もできる」
忌ブキ: ぼくは……みんなが平和に暮らせれば……。
FM(楽紹): 「下手に革命軍なんかにつくよりも、よっぽど上手くこの島を平和にできるぜ。もちろん、あんたは皇統種なんだし、一定の自治ぐらい認めさせられるかもよ?」
忌ブキ: ……今のぼくには判断ができないので時間をください。
FM(楽紹): 「ああ。どうせ、不可侵条約の間はできることも知れてるしね。楽しみに待ってるよ」そう言って、楽紹は離れていく。
婁: (抑揚のない口調で)よかったな、あなたの思惑通り無駄な血が流れずに済んだようだ。
スアロー: なんで、平和的な台詞なのにいちいち物騒に聞こえるんだ(笑)。
忌ブキ: 刺さるみたい(笑)。でも、良かった……。
「みんな、助かったんですね」
ほんのりと甘い黄爛の茶を片手に、ほほを赤く染めて、忌ブキが呟いた。
初めて。
初めて、自分の手で何かを為したような気分になれた。この旅に出て、この調査隊に加わって良かったのだと、そう思うことができたのだった。
エィハ: ……お疲れ様、忌ブキ。
忌ブキ: (嬉しそうに)うん!
スアロー: あ、ついでに助けた軍師の、甘慈さんとも会える?
FM: もちろん彼も宴にいるよ。助けた当初は反乱した自警団どもをぶち殺せとか息巻いていたけれど、今は打って変わったにこにこ顔でやってくる。「やあ、すいません! さきほどはちゃんとした挨拶もできませんでしたな、皇統種さま!」
スアロー: こいつ話が分かりやすくていいなあ(笑)。「世間話はとりあえずおきますが、こちらの目的……単刀直入に言って、この不揃いな一行を見て……。
FM(甘慈): 「話は聞いておる」と、黒竜騎士には嫌そうに言おう(笑)。
スアロー: まあ、ここは国家間の争いには目をつぶって、〈赤の竜〉討伐――じゃなかった調査隊に協力を求めたい。最有力情報候補者の禍グラバ氏に会いに行く途中なのだが、いきなり訪ねて、好意的な協力を仰げるか難しいところなんだ。
FM(甘慈): 「ふむ」
スアロー: よかったら、あなたからも一筆いただけないだろうか?
FM: 一応〈交渉〉判定をして下さい。
スアロー: 僕の〈交渉〉は70%か。[達成度]以前に、失敗率30%はやばいな。
婁: お、殺し屋より低いのか、あんた(笑)。
スアロー: (サイコロを振って)よし、42で成功。[達成度]は13。
FM(甘慈): 「分かった、ではこちらから紹介状をお渡ししよう」
スアロー: ありがとうございます。
FM(甘慈): 「だが、禍グラバ氏はこの数ヶ月、誰とも会っていないそうだ。こちらの書状でも会ってくれるかどうかは保証できんぞ」
スアロー: きっかけができるだけで十分さ。ところで、その禍グラバ氏が数ヶ月完全に籠もるということは稀なのかい?
FM(甘慈): 「完全に連絡を絶つのはな」
スアロー: 何かあったと見るべきか……。むう、悠長に紹介状をゲットしている場合ではなかったかもしれんな。
FM: ま、そんなやりとりも最低限に、甘慈は忌ブキにすり寄ってくるよ(笑)。「いやあ、さすが皇統種さまでした! 是非うちにも力を貸していただきたく。別にまだ、革命軍に参加したというわけではないのでしょう?」
忌ブキ: あはは……どうなんですかね?(笑)。
スアロー: やばい、忌ブキさん結構押しに弱いっぽい(笑)。
エィハ: そうですよ(笑)。一緒にいたら、ヴァルをけしかけるんですけどね。悪い虫除けに。
FM(甘慈): 「我々は、ドナティアのような野蛮な輩とは違います。あくまで平和裏に、経済的に一体化しようとしてるのですよ」
スアロー: ドナティアが暴力的であることは認めるが、経済面に走ることも、それはある意味暴力なのではないだろうか。――と、こっちも小さく呟いておく(笑)。
FM(甘慈): 「先進的と! 仰っていただきたい!」
スアロー: あ、あい! そうですね! 便利な言葉ですね! さて、じゃあ先を急ぐ旅なので……! 腹いせに会場中の高価な物をぶっ壊してやろうかという欲望もあるんだが、とりあえず先を急ぎましょう(笑)。
FM: 分かりました。それではこれでモノエのイベントを終了致します。一番平和なルートに行きましたね。
忌ブキ: あ、そうなんですか?
FM: 行政府に忍び込んで、全員ぶっ殺す手もあったし。
スアロー: それは、婁の旦那が「三分だ」とか言ってひとりでやっちゃうね(笑)。
婁: まあ、(背中をちらと見て)お腹空いたって言われたらやぶさかじゃないがね(笑)。
FM: では、このイベントで一日が経って、残り八十五日となります。次からは旅路。再び移動表の出番ですよー!
『第十二幕』
それから仁雷府までの旅は、いろんな出来事に満ちていた。
魔物の蜂に追いかけられたり、氾濫する河にガダナンごと吞まれかけたり、打ち捨てられた装甲馬車を見つけてスアローがおおはしゃぎしたり。
とても、とても賑やかだった。
スアロー: (地図の駒を移動させつつ)……今回はイベントフルだった。
忌ブキ: 河に吞まれかけたのはやばかったですね……。装甲馬車はスアローさん浮き浮きでしたけど。
スアロー: だ、だって十枚も金貨見つかったんだよ!? 僕、メリルに財布握られてるから銅貨しか持ってないんだよ!?
エィハ: これはクズクズしいです(笑)。
FM: では、そんなこんなで残り八十三日となった夕方頃、あなた方は黄爛仁雷府に到着いたします。シュカからここまで、およそ一週間の旅路でしたね。
黄爛仁雷府は、〈小黄爛〉とも呼ばれる港町だった。
母国の性質を反映して、港も街道も商人で賑わっている。魔素流の関係上、半端な輸送船ではニル・カムイ自体に近づけないのだが、それをものともしない繁栄ぶりだった。
行き交う人々も、大きく違う。
徒歩の商人、早馬の配達人や装甲馬車はもちろん、スアローたちのようなガダナン、果ては道術でつくられた機械馬さえ見かける有り様だった。
新しい街の新しい風景を、忌ブキたちは高鳴る心臓とともに見つめていた。
忌ブキ: ……凄い街ですねえ。
婁: 懐かしい感じではありますな。
FM: で、ここまで来ると、一緒にガダナンに乗ってた瑞白が大きく息を吐き出す。「はぁー、着いたー!」
スアロー: あ、そいつもいた。
忌ブキ: いましたね(笑)。
FM(瑞白): 「いやあ、助かったよ!」
スアロー: ……何か、正直君と初めて会ったときには怪しさしか感じなかったが、僕の勘違いだったようだ。非礼を詫びるよ。
FM(瑞白): 「ありがとう! 俺も君たちが不思議な組み合わせすぎて、ちょっと物騒だなあとか思ってたんだ! 許してくれ!」(笑)。
スアロー: 超・共感する(笑)。
FM(瑞白): 「あ、代わりにこれやるよ」と瑞白は割り符を取り出す。「一応俺、御用商人だからさ。もしここの取引所か行政府に行くんだったら、こいつを見せたらそれなりの扱いをしてくれるはずだぜ」
忌ブキ: わ、ありがとうございます! 思いがけない役得(笑)。
スアロー: お互い笑顔で別れよう。うん、いいことはするもんだ。――で、ひさしぶりの大きな街だけど、ここまで疲労とかたまってないかな? 食糧とか大丈夫?
FM: そうだね。疲労や睡眠のルールもあるけれど、ここまでは無理してないから大丈夫ですよ。食糧補充とかに必要な金銭は、先払いでミスカさんに渡されてる。
スアロー: うほ、たのもしい! じゃあこの割り符を有効活用したいね。前に千人長に恩を売ったことだし、やはりこの街の行政府に行くべきかな。そういう情報収集を子供達に任せるわけには……ってこの言い方はよくないか。
忌ブキ: え?
スアロー: ん、ふたりは何歳?
エィハ: 十です。
忌ブキ: 大体十三ぐらいです。
スアロー: 子供達だった!(笑)。
FM: どこからどう見ても立派な子供達ですよ(笑)。
スアロー: じゃあ、また数時間の自由行動としますか。
FM: 了解しました。では、それぞれに行動を聞いていきます。婁はどうしますか?
婁: 悩みどころだな……。とりあえずメイドさんとスアローは一緒に行動する?
FM: 現状一緒ですね。
婁: なるほど。うーん……そろそろお腹が空いたと言われるかどうかにもよるが。
スアロー: ヤツか(苦笑)。
FM(七殺天凌): 「まあ、シュカでいささか喉を潤したからの」と、婁の背中からの声。「さほど飢えているということもない。ドナティア側の道を辿っていれば、黒竜騎士に目移りしたかもしれんが」
エィハ: ……わぉ。
スアロー: ひ、ひそかに悔やんでたんだが、やはりこっちのルートでよかったっぽい……?
婁: お気に召すような料理があればよいのですが。
FM(七殺天凌): 「まずは不死商人とやらを楽しみにするさ。魂さえあれば五行躰であろうと喰らえる。百年以上生きた魂であれば、さぞ美味であろう」
婁: そうですね。要らぬ前菜で舌を紛らわせるのもどうかと思います。……ここはそうだなあ……スアローとメリルが黄爛の都市で隙を見せるとも思えないし、バラバラになった振りをしてエィハと忌ブキを見張ろう。
FM: 了解。〈隠密〉します?
婁: ……しとこう。(サイコロを振って)成功。[達成度]は28。
FM: 30近辺の数字は超人の領域ですね。成功さえすれば、あなたの隠密を見破れる者はほぼ存在しません。では、まず忌ブキとエィハのシーンとしましょう。
市場に続く通りは、いままでに見たどんな街よりも豊かだった。
朱と黄金の色が踊る、数々の建築物。その軒下で所狭しと並んだ屋台。扱う品も服や食事といった生活必需品から、武器、鎧、果ては簡易な魔術の品――低級の道宝までと幅広い。それでいて貨幣の質をはかるための天秤が見あたらないのは、この市場で扱われるのがほぼ黄爛の統一貨幣に限定されているためだろう。
忌ブキとエィハもまた、街の入り口でいくらか両替してもらった黄爛貨幣を手に、そんな通りを歩いていた。
やはり、つながれものへの視線は厳しかったため、自然と道の端を歩くことになりはしたが、エィハとヴァルに窮屈そうな素振りはなかった。人の数倍の体重はあるヴァルだが、誰にぶつかることもなく、すいすいと歩を進めていく。
FM: 忌ブキとエィハが仁雷府の街を歩き、婁が密かに追跡している、といったシーンだね。何か調べることはあります?
エィハ: 特にないです。ただ、ぼんやり話してるぐらい。「忌ブキはどこに行っても誰かが寄ってきて未来の話をされるのね。皇統種っていうのはとっても大変ね」
スアロー: 今しか生きてない、この娘(笑)。
忌ブキ: 大変か、どうかは、よく分からないんだけど――
エィハ: ……わたしには、連絡来ないな。
FM: さて、そんな感じでふたりが話しているところで、祭りのように賑々しい仁雷府の通りを、ひとりの女性がやってくる。赤くて長い髪。ニル・カムイ独特の衣装に身を包みながら、その顔立ちはドナティア人と思しい相手だ。
忌ブキ: え?
赤い髪の、女の人だった。
思わず見惚れてしまいそうな、綺麗な人。
ゆるくカールしたその髪で顔の左半分を覆い、ぼくらの方を見遣ると、その女性は唇をそっとほころばせた。
「あら、やっと会えたわ。随分と捜したのよ?」
忌ブキ: 見覚えは、ないですよね?
FM: ないね。だけどこう言うよ。「あなたが、噂の皇統種さまでしょう?」
忌ブキ: 幻術の、頭巾をしてるのに!?
エィハ: 忌ブキが驚いたのを見て、ヴァルが頭を低くします。いつでも動けるように。
FM(女性): 「そう身構えないで。だって、その頭巾を作ったのは私ですもの」
忌ブキ: つく、った?
婁: 会話の内容を立ち聞きできる距離まで近寄ります(一同爆笑)。サイコロはまた振る?
スアロー: すげえわ、ここまで徹底しているともう完璧だわ(笑)。
FM: サイコロはいいです。最初の〈隠密〉判定に入っていますから。「阿ギトから聞かなかった? 別働隊を指揮しているユーディナ・ロネ。あなたの味方よ」
忌ブキ: ユーディナ・ロネ……。
FM: そうですね、どう聞いてもニル・カムイじゃなく、ドナティアの名前ですね。(エィハの方を向いて)「そちらの子がエィハでいいのかしら?」
エィハ: (無言でうなずく)。
FM: では、ユーディナのすぐ後ろの壁のところから、大きな煙管と、そこから浮かび上がった煙が見える。「んぅ? 会えたのぅ?」と聞き覚えのある、とろりとした声。
エィハ: え? ジュナ!?
裏道から現れたのは、幼さに似合わず、ひどく嫣然とした少女だった。
こういうのを、こわく的というのかもしれない。柔らかそうな肢体はもちろん、仕草のひとつずつがこちらに訴えかけてくる。
手には独特の大きな煙管を持ち、そこから流れる煙と少女の香りとは、渾然一体となって、こちらの頭まで痺れさせるようだ。
淡く媚びを含んだ瞳で、少女はぼくらを向いた。
「ああ……エィハ。やっと会えたねぃ」
とろりとした、甘い言葉。
それで忌ブキも――少女から発した一本の蔦が、通りの裏へと伸びていることに気づいた。
この少女も、つながれものなのだった。
エィハ: 駆け寄ります! ジュナに駆け寄ります。――ひさしぶり、ジュナ。
FM(ジュナ): 「ひさしぶりだねぃ。前に会ってから、何度月が落ちたかな?」
エィハ: 日数は数えていないわ。――過去の日数も、もちろん未来の残り時間も、という意味で。
FM(ジュナ): 「あぁ。あたシも数えなかったよぅ。どうせ会うと思ってたし、ずっとこのユーディナについていたからねぇ」
忌ブキ: エィハさんが、ずっと言ってた友達……。
FM: ジュナとエィハがそんな話をしてると、今度はユーディナがうなずいて口を開くよ。「阿ギトに言われたの。あなたたちが禍グラバを捜すのを支援するようにって。あなたたちなら、きっとこの悲劇をニル・カムイを良くするためのチャンスに変えてくれる――そう信じているって」
忌ブキ: 阿ギトさんが。わ……助けられて良かった……。(うなずいて)はい、頑張ります。
FM: ユーディナもにこりと笑う。「良かった、初めて会う皇統種さまが、あなたみたいな人で」
それから、ユーディナさんは一拍おいてこう口にした。
「大事な情報を、伝えにきたの」
忌ブキ: 大事な、こと?
FM(ユーディナ): 「ええ。つい十日前まで、私とジュナはベルダイムの方に潜ってたの」
スアロー: お、ドナティアルートの街ですな。
FM: ですです。ユーディナの言葉をジュナが継ぐよ。「そう、ベルダイムに潜ってた。お祭りとか使って隠してるけれど、ドナティアは不死商人を確保するために軍隊の準備をしてるよぅ?」
忌ブキ: えっ!
エィハ: ほんとなの? ジュナ。
FM(ジュナ): 「あたシがあんたに噓を言ったことがあったかぃ? 指揮をとってるのは、黒竜騎士ウルリーカ・レデスマ。黒竜騎士団・第三団副長ねぃ。数少ない女性の黒竜騎士なのと堅実な戦とで知られてるわよぅ? 最近不死商人が静かなことから、休眠期かもしれないと目をつけたみたい」
忌ブキ: ウルリーカ・レデスマ……。(顔をあげて)あの、休眠期……って何です?
FM(ユーディナ): 禍グラバの不死が、定期的な五行躰の交換によるものなのは知ってる? 一定以上多くのパーツを交換するとき、禍グラバは否応なしに休眠せざるを得ないのよ。記録では二十年に一回といったところね」
忌ブキ: 身体を、交換……!
スアロー: あ、その話は忌ブキにしてなかったかも。
婁: (独特の口調で)興味深く聞いております(一同笑)。
忌ブキ: じゃあ、その禍グラバさんが眠ってる間に……。
FM(ユーディナ): 「ええ、ドナティアは不死商人の街――ハイガごと落とすつもり」
忌ブキ: また、戦いに……!
言葉に、ならない。
胸元を握りしめて、ぼくは絶句してしまう。
FM: さて、ジュナは、それと別にエィハに尋ねるよ。「エィハはどうするのぅ? 合流できたし、あたシたちについてくる?」
エィハ: (少し考えて)ジュナ。わたし、赤い竜を見たわ。
FM(ジュナ): 「うん。あんたはイズンと一緒にいたのだものね」
エィハ: みんな、そこで死んだの。わたしも一度死んだのよ。……それでもわたし、まだあなたの友達かしら?
FM: ジュナも、その言葉に少しだけ目を細めるね。でも、すぐにいつものとろりとした笑みを浮かべる。「……ああ、還ってきたんだ? いいよ。還ってきても友達は友達、あんたがあんたである限りねぃ。現にあんたは、こうしてあたシともう一度会うために来てくれた……でも、あんたがモノになったら、あたシが潰してあげる」
あなたがあなたなら。
そして、あなたがあなたであることをなくしたら――
とても単純に、ジュナというつながれものは、エィハの存在を割り切る。
それが冷たいからではなくて、とても大切にしてるからだと、分かってしまう。
母のようで、姉のようでもあった――たったひとりの、エィハの友達。
だから。
エィハも、それを聞いて、言葉を返した。
エィハ: ……わたしたちには未来がある。そんなこと、あなた昔言ってくれたわよね?
FM(ジュナ): 「うん。覚えてるよぅ」
エィハ: わたし、まだそうは思えない。だけど……忌ブキには未来がある?
FM(ジュナ): 「あると思う者にはあるんだよぅ? エィハはまだないって思ってる?」
エィハ: まだ、ないと思っている。だけどわたし、きっとあの時……死ぬ順番を取りかえて上げたんだ。だから、少しでも忌ブキには生きていてほしいんだと思う。この考え方は、間違って、ないかしら?
FM(ジュナ): (くすくす笑って)「エィハがいいと思うなら、間違いなんかないよぅ」
エィハ: ……ありがと。
FM(ジュナ): 「でもまあ……そうね、それだったら、今は忌ブキについている方がいいかもねぇ」と、煙管を一吞みして、ぷかぁと白い煙を吐き出す。「エィハは前よりいい顔してるよぅ」
エィハ: ……そう?
FM(ジュナ): 「珍しもの好きの貴族様のところにいた時より、あたシたちと初めて行動するようになった時より、ずっといい顔。死んでないよぉ、エィハ。あんた生きてる」
エィハ: ……(嬉しそうに)ジュナがそう言うならいいわ。わたし、忌ブキと行く。
FM(ジュナ): 「……そ。本当は、あんたにうたを教えたかったんだけどね……」
エィハ: うた? つながれもののうたなら知ってるわ。
ことりと、エィハが首を傾げた。
うた。
エィハとジュナを結ぶ絆の、秘せられたカタチだった。
いまだ忌ブキにも、ほかの皆にも聞かせていないカタチに、ジュナはそっとかぶりを振った。
FM(ジュナ): 「いいや、別のうただよ。還り人になったあんたには必要かもしれない。……また時間があったら、訪ねておいでね」
エィハ: うん。
FM: じゃあ、今度はユーディナが懐から一枚の札を取り出す。「これ、渡しておくわね」
忌ブキ: (覗き込むようにして)札ですか?
FM(ユーディナ): 「念話の護符。これで遠くにいても会話できるわ。ただ、ニル・カムイの魔素流は複雑で強大だから、回数は限られてる。いつも使えるわけでもないから、気をつけて」
忌ブキ: (受け取りながら)何回ぐらい、使えるんです?
FM(ユーディナ): 「五回は確実に大丈夫。六回目からは分からない」
忌ブキ: 分かりました。
FM(ユーディナ): 「じゃあ、見つからないうちに私も行くわ。……そうだ、ひとつ聞き忘れてた」
忌ブキ: はい?
FM(ユーディナ): 「秘密の調査部隊だと言ったわよね? あなたたち以外の人はどんな人?」
忌ブキ: (少し考えて)……優しい人たちです(一同爆笑)。
そう言って。
すとん、とぼく自身の胸に、納得の感触が落ちた。
シュカから、この旅に出て一週間――とりわけ、あのモノエで初めて協力し合ってから。
あの大人たちを、自分は好きになりはじめているのだと。
スアロー: (笑いながら)確かに、忌ブキさんから見たら婁さんは優しい(笑)。
エィハ: ここまでの行動はとっても優しい(笑)。
FM: ユーディナは驚いた顔をするね。「黒竜騎士と婁震戒が優しい? ……いえ、そうね。私も情報でしか知らないし、そうかもしれないわ。また会いましょう。その頭巾、大事にしてね。つくるのに手間かかったんだから」
忌ブキ: はい!
FM: ではシーンを終了しましょう。次は個別行動をとってるスアローです。
行政府。
黄爛仁雷府のそれは、鶴翼仕立てと呼ばれる鋭角の屋根で、つとに知られていた。道の配列にのっとって、魔性の類を睨みつける獅子の彫刻も要所に刻まれている。現在では、これらの配列を毎年決定づけるのが八爪会の僧侶の仕事となっていた。
市場ほどではないにしろ、多くの民衆と官僚が行き来する施設内部。
スアローが割り符を見せたのは、その行政府の――とりあえず最初に目についた受付であった。
FM: スアローのシーンを再開します。行政府に行くんだっけ?
スアロー: まずは瑞白さんに貰った割り符を持って行って……。
FM: じゃあ、その割り符を見せられると受付の人間が表情を変えるね。「ちょ、ちょっと待ってください!」
スアロー: ふえ?
FM: すぐ、小走りで受付は戻ってくるよ。「千人長の祭燕さまがお会いになるそうです、どうぞ」
スアロー: え、待った! 黄爛の千人長に僕が会っていいのか? (一秒だけ考えて)まあいいだろう。よし、会おう。――うおおお、会おう、じゃねえのに、こいつの性格だとこういう返事に!(笑)。
FM: まわりも、明らかに黒竜騎士団在籍だろう君の鎧姿を見ると、「なぜ?」って感じにはなるけどね。
スアロー: (咳払いして)うん、ドナティアとか黒竜騎士とか、そういう縛りにあまりとらわれてはいけない(笑)。行くぞ!
案内されたのは、広い執務室だった。
行政府内のほかの調度や、部屋の広さに比べると質素な、実用本位な雰囲気の部屋だ。
おそらく、主の性質によるものだろう。
そして。
その主たる老人は、刀傷も痛々しい盲目の顔を、スアローへとあげた。
FM: 執務室に待っているのは、六十ほどの盲目の老人だ。いかにも武人といった感じが強く、両目を塞いだ刀傷もいかめしい。執務室にもかかわらず、簡素な鎧に身を包み、君の方を向くね。
スアロー: (気がついて)ん? 盲目なのに?
FM: うん。盲目なのに、正確に君の方をだ。
スアロー: (視線を避けるように何度か身をよじる)。
婁: ふおっ!(笑)。
FM: お、面白いことするなよ!?
スアロー: いや、つい性分で(笑)。まあまずは名乗ろうか。――スアロー・クラツヴァーリという。ゆえあって、黒竜騎士団の一員となっている。
FM: では、老人は重々しく口を開く。「割り符を確認させていただいた。黒竜騎士団がどこで白叡様とお会いになられた?」
スアロー: あれ? 白叡? 白叡さんって誰? ……え、もしかして瑞白さんが白叡なの? ……待て、きのこも混乱してきましたよ?
FM(老人): 「瑞白? ああ、それはあの方ががよく使っておられる偽名ですな。あの方の本当の名前は白叡。私の上司たる万人長ですよ」
スアロー: な――。
万人長。
黄爛にも六人しかいない、ほぼ最高位たる軍人の階級だった。
黒竜騎士団の各団長にも匹敵するその言葉に、スアローは思わず口笛を吹きそうになった。
スアロー: ……まったく、婁さん多分知ってたな? どうして教えてくれないんだろう、と思いつつ、動転しないように気を落ち着けよう。すーはーすーはー。(本当に深呼吸して)……ええと、道中柄、ちょっとした縁で助力して、そのまま懇意にさせていただいた。
FM(老人): 「あの方はニル・カムイに赴任されたばかりでな。この島の状況を知りたいと、身分を隠して飛び回っている」
スアロー: (合点して)ああ、なるほど。そりゃただの商人が道に寝っ転がってるほどの剛胆な人物のわけがないもんな。うん、最初はそれで疑ってたんだ。すっかり忘れてた!(笑)。
忌ブキ: ぼくも忘れてました(笑)。
スアロー: だよねえ! まあ、僕としても数奇な縁だった。この縁は大事にしていきたいと思うのだが……それはそれとして、今回は〈赤の竜〉の追跡調査、ないし討伐の任を受けている。
FM(老人): 「ああ、我らは中立でいるつもりだったのだが、この割り符を持ってきたからには最低限の協力は行おう。改めて名乗らせていただく。千人長の祭燕と申す」
スアロー: 祭燕さん、か。――うん、正直僕らも全面的な協力が得られるとかは思っていない。僕らは独立愚連隊と言うか、生きていても死んでいても公にはならない身だしね。ただ、解決の糸口と聞いて禍グラバという商人に会いたいのだけど、その手助けだけ頼めないか?
FM(祭燕): (窺うようにして)「……三十人目の黒竜騎士と聞いていたが、随分素直で正直なのだな」
スアロー: 素直さだけが特技でね、と切り返して誤魔化そう。
FM: 後ろのメリルさんは、大変不服そうに、眉をひそめるけどね。
スアロー: しょうがないでしょ! 黙って、黙って!(笑)。
FM: では、祭燕は軽く身を乗り出す。「いや、君がそういう人物なら、こちらからも話がある」
スアロー: ほう?
FM(祭燕): 「内密に願えるかな。無論、ドナティアの黒竜騎士としての職務の範囲内でかまわん」
スアロー: う、急にやり手っぽいオーラを。職務の範囲内でいいと言われたら、逆らいにくいな。……具体的には?
端的に、千人長・祭燕は告げる。
「我々は、君たちの捜す不死商人――禍グラバの身柄を確保しようと思っている」
スアロー: げえ、忌ブキたちの話とぶつかったあああああああ!(絶叫)。
忌ブキ: (混乱しつつ)え、え、え? ど、ドナティアだけじゃなくて、黄爛までですかあああああああ!(一緒に絶叫)。
FM(祭燕): 「あの不死商人について、どこまでおぬしらが知っているかは知らん。だがな、この島のバランスは、事実上ずっとあの不死商人が保っていたのだよ」
スアロー: ふんふん……と取り繕うけど、内心逃げ出したい(笑)。は、早く忌ブキと情報共有してえー。
FM(祭燕): 「〈赤の竜〉。あれをニル・カムイの重石と呼ぶなら、不死商人もそうだろう。ただし、竜が表なら、不死商人は裏だ」
スアロー: むむむ。……よもやとは思うのですが、〈赤の竜〉が狂ったといわれるように、その裏の重石たる禍グラバ老人も、精神や最近の行動に、異常を来たしているとでも?」
FM(祭燕): 「ふむ。案外勘がいい。では、まず前提となる情報を渡しておこうか」
スアロー: ……。
FM(祭燕): 「もともと、七年戦争が七年で終わったのは、禍グラバ・雷鳳・グラムシュタール――三つの国の名を名乗るあの愚かな商人が、両方の軍隊を疲弊させたがゆえだ」
忌ブキ: はい?
スアロー: へええ?
婁: (淡々と)こちらも面白そうになってきましたな。
FM(祭燕): 「あの商人は、大量にマスケット銃を売り渡した上で、黒色火薬の相場をつり上げるという荒技を行ってな。戦線を維持するだけの金を、無理矢理こっちからもぎとっていった。ドナティアにも似たようなことを行った結果、互いに戦争が継続できなくなったわけだ」
スアロー: ……予想以上にデタラメな御仁だ(笑)。
FM(祭燕): 「まったくだ。まあそういう事情があってな。逐一動きを見張っていたわけだが……この数ヶ月、禍グラバは外出していない。おそらくだが、命を保つための、五行躰の交換時期だと思われる」
忌ブキ: あ、こっちにもその話が出てきた!
スアロー: どこの陣営も情報戦してるなあ。……では、その間は誰にも会う気がないと?
FM(祭燕): 「いや、休眠状態のはずだ。禍グラバはほぼ全身を五行躰に換えていてな。交換時期には休眠せざるを得ない。しかも数ヶ月というのは、記録上最も長い時間となる」
スアロー: ふむ……。
FM(祭燕): 「もともとが百年以上の老体だ。場合によっては、このまま目覚めんかもしれん。身柄を確保するとなれば、今しかないのだ」
力強く、千人長が告げる。
その言葉に一瞬気圧されながらも、スアローは訊き返した。
スアロー: 予想外のことにスアローくんも混乱しているのですが……。身柄の確保というのは、このまま裏舞台から消えられるのも困るし、目覚められてまた暗躍されても困ると?
FM: 祭燕は小さくうなずく。「その通りだ。不死商人の街・ハイガにはそれなりの戦力が揃えられているが、ヤツさえ目覚めなければ千人隊で押しつぶせる。そこで、君たちにも遊撃隊として協力してほしい」
忌ブキ: (茫然自失して)うわー……。
スアロー: 僕もうひゃあと言いたい。いや多分言ってる(笑)。勝手にパーティの行動を決めちゃうのもなんだが……僕ら、確かに武力は持ってるしな。不死商人の居場所は分かる?
FM(祭燕): 「ハイガの要塞だろう。常に強力なつながれものやまじりものを控えさせているということだ」
スアロー: (長く考えて)……ひとつ、条件がある。
FM(祭燕): 「何だね?」
スアロー: こちらが特殊な集団であることは理解してもらえていると思う。なので、極力そちらの組織には組み込まれたくない。協力関係ではあるが、あくまで不干渉でいてほしい。
FM(祭燕): 「大変残念だな。まあ、しかし構わんよ。そう言うだろうと思っていたし、さすがに黒竜騎士を飼うのは不可能だ」
スアロー: よし。では、突入するタイミングをうかがおう。こちらもそれに合わせて、禍グラバを確保すべく行動する。あ、協力する報酬として、あなたがたが禍グラバを確保しても、意識が戻ったときには話をさせてほしいのだけど。
FM(祭燕): 「突入するのは四日後。報酬はもちろんそのつもりだ」
それから、もうしばらくスアローは祭燕と条件を詰めた。
メリルは、その主の姿を黙って見つめている。こうした話であれば、意外なほどの有能さを主が発揮するのは分かっている。かつての自分は、そんな主に追いつこうと努力したものだった。
今は……どうだろう。
スアロー: (しばらく話してから)……うん、ではその方向で話をまとめて……。
FM(祭燕): 「お互い有益な相談ができたようで何よりだ」
スアロー: ありがとう。頭をくらくらさせながらも、メリルに寄りかかるようにして立ち去るよ。ううむ、やはり快適さなんかで黄爛ルートを選ぶべきじゃなかったか(笑)。
『第十三幕』
自由時間が終わり。
最初に決めていた宿に、全員が集まった。ひさしぶりのベッドに毛布、温かな食事。
もっとも、ぼくたちにそれを楽しむ余裕なんてなかったのだけど。
FM: じゃあ、再開しましょうか。黄爛仁雷府の宿屋でいいですか?
忌ブキ: はい。
エィハ: いいわ。
スアロー: うん。みんなが集まったところで、情報を共有しようか。
FM: すごいこと決めてきたもんな(笑)。
スアロー: で、皆さんに話があります。――いや、内々の話だけどね。ハイガは四日後、大変なことになる。
行政府でのやりとりを、スアローは順序立てて話す。
禍グラバが、その全身を五行躰という魔術の品に換装していること。
この交換時期に入っているため、禍グラバはおそらく意識不明であること。
眠っている間に禍グラバを確保しようと、黄爛軍が四日目に動き出そうとしていること。
そして――黄爛軍に協力すると、取り引きしたこと。
忌ブキ: 黄爛の千人隊と協力、ですか。
スアロー: うん。ただ僕としては、自分たちだけで禍グラバを確保したい。そしてそのままとんずらぶっこきたい。
エィハ: (瞬きして)凄く正直。
スアロー: ああいう島のバランスを崩すような人物を一陣営に渡すのはよくない。うん、喧嘩はよくないよね!
忌ブキ: あはは(笑)。
スアロー: なので、協力はするけど、基本的には互いに不干渉ということにしてる。勝手な行為だったとは思うけど、ひとつみんなよろしく。――で、その間、みんなはどんな情報を手に入れてくれたのかな? ぜひぜひ共有したいな(笑)。
婁: まあ、これといって面白いこともなく(一同爆笑)。
スアロー: (肩を震わせながら)ろ、婁さん。僕は婁さんに言いたいことがある。もうちょっと真面目にやろう。――スアローから見ると、婁さんは日々楽しく生きているように見えちゃうんだよな!(笑)。
FM: では、婁にだけ聞こえる七殺天凌の声が。「この黒竜騎士、面白い御仁じゃのう……喰うときが楽しみになってきたぞ」
婁: まあ、しばらくはご辛抱を。
スアロー: こえーよー!(笑)。
話し好きなスアローと、無言の婁。
黒竜騎士と武装僧侶の不思議な組み合わせに、ことりとエィハが首を傾げる。
自分とジュナと、似てるようで何か違う組み合わせ。
エィハ: わたしからも報告。革命軍に、会った。
忌ブキ: そうですね。ぼくも正直に話します。――ユーディナという女の人に話を聞きました。
スアロー: ほほー? ユーディナ? それってけっこう有名な人物なの?
FM: 名前はそれほど知れ渡っていないね。革命軍の第二指導者であるってぐらいで。それ以上の情報は、〈※地域知識:ニル・カムイ〉で成功すれば分かるかな。
スアロー: 僕はともかくメリルは知ってるかな? メリルの〈※地域知識:ニル・カムイ〉で判定していい?
FM: いいですよ。
スアロー: うし、メリルの〈※地域知識:ニル・カムイ〉は65%、ばっち来い! (サイコロを振って)92……。
FM: 失敗ではどうにも(笑)。「名前は聞いたことがあるんですが……」
スアロー: そうか、メリルが知らないなら大した人物じゃないな(笑)。先に進んでくれたまえ。
FM: あ、ちょっと待った。〈※地域知識:ドナティア〉でも振ってみてくれ。
スアロー: ドナティア? それなら85%あるけど。(サイコロを振って)ひゃー、85ジャスト!
FM: だったら、メリルが「あ」と声を上げます。「革命軍のユーディナ・ロネと言う人物は存じ上げませんが、ドナティアの考古学者としてなら存じております」
スアロー: は? ドナティアの考古学者がニル・カムイの革命軍に?
FM(メリル): 「確か現象魔術の使い手で、独自の魔術理論に基づいて遺跡を解析することで、有名な論文を出しておりました」
スアロー: ううむ、掘れば掘るほど厄ネタが出てきそうだな、この島……(笑)。
FM: ぼそりと耳元でメリルは囁く。「必要ならば調べて参りますが?」
スアロー: いや、先にやることがある。(忌ブキを向いて)前のモノエの騒動から薄々勘づいてはいたが、面と向かって言おう。「……君らは革命軍なのかい?」
忌ブキ: ……ぼくは……(かなり考えてから)革命軍……です。
エィハ: ええ。ジュナがいたから。
ふたりが、認める。
もとより、隠そうと思っていたわけではない。言う機会がなかっただけだ。
阿ギトの恩赦の条件として、自分たちが調査隊に差し出されたのだと、その事実を忌ブキは素直に話す。
スアロー: なるほど。……〈赤の竜〉を追ってるのが、単に革命軍の指示なのか、本人の目的なのかは気になるけれど……このへんを突っ込むのはまだ後かな。
FM: 気配りのスアローだ(笑)。
スアロー: 少しずつ理解しあわないといけないからね(笑)。で、革命軍と再会して何を話してたわけ?
忌ブキ: あ、そうです! ドナティアの黒竜騎士団が、やっぱりハイガを攻めるつもりだって! 確か、副長のウルリーカさんが軍隊を集めてるとか!
スアロー: よし、それを聞きたかった。――ドナティアまで? こりゃ四日後はよーいドンの競争になるぞ。ウルリーカさんは分かる?
FM: 名前は知ってる。凜々しい女黒竜騎士だとか。ただスアローと会ったことはないね。
スアロー: それはまあそうか。
FM: で、メリルさんが耳打ちしますよ。内容はこうね(メモを渡す)。
メモの内容は、こうである。
「よろしいのですか? この分では、ドナティアを敵に回すかもしれませんが」
スアロー: (メモを見て)ああ、メリル流石だ。僕は今ほど、君のように腹黒いメイドを持ってありがたいと思ったことはない。
FM(メリル): (冷たい口調で)「……何を仰ってるのか分かりません」
スアロー: ええと、ちょっと急用を思い出したということで部屋を離れよう。廊下の隅とかでメリルと話すよ。無理なら手話的にこう(笑)。(FMにメモを渡す)。
FM: (メモを返す)。
スアローのメモ: 「つまり、ドナティアに情報を回して、協力させろと?」
メリルの返答: 「そういう手もございます」
スアロー: (天井を仰いで)この美しい返答。常々思うんだが、君は婁さんときっと気が合うと思うよ。
FM(メリル): 「お褒めにあずかって光栄です」
婁: (マップを睨んで)街道沿いに進めば、ハイガまでは三日というところですか?
FM: そうなりますね。ドナティアの準備が黄爛と同程度なら、争奪戦が始まる一日前には突入できます。もっとも、ドナティアの準備の程度までは分かりませんが。
婁: なるほど。
スアロー: 一日前……か。もう少しメリルと会話を(メモを渡す)。
FM: はいはい(メモを返す)。
スアローのメモ: 「メリル、婁さんには知られないよう、ドナティアに黄爛の情報を渡すことは可能かい?」
メリルの返答: 「流石に軍と接触しなければ難しいです」
スアロー: (メモを見て)……ドナティアという国に絶対的な忠誠心はないんだけど、嫌いではないんだよね。なのでドナティアを裏切るのや、ドナティアの不利益になるのは避けたい。
FM: そうですね。まあ、裏切る意味もない。
スアロー: そうそう。避けたいのだが……。そもそも、ドナティア側の今の考えも分からないしなあ。現状示せる最大限のモラルは、四日後のXデイまでに、僕が得た情報をドナティアのウルリーカさんに流して黄爛の裏をかくぐらい?
FM: そうなると思います。
スアロー: で、ふたつの勢力がドンパチやってる時に僕らは漁夫の利を得るか、もしくは禍グラバを確保して協力を仰ぐか。このへんが堅実なところかな。ただ、この大変前向きな案を、今皆に説明できないことだけが、僕の心残りだ(笑)。
忌ブキ: むむ。メモが飛び交ってて、まったく分からないです(笑)。
エィハ: (無言でかぶりを振る)。
スアロー: うん、じゃあ部屋に戻ろう。(皆に向かって)――とりあえず、四日後にXデイが来るのは間違いないから、真っ直ぐハイガに向かった方がいいと思う。で、現地の黄爛軍と協力しようと思うんだけど、どうだろうか?
エィハ: ……わたしはかまわない(忌ブキの様子をうかがって)。
忌ブキ: (うつむいて)……できたら、犠牲者が少ない方法が、いいです。
FM: まあ、忌ブキさんは常にそういうスタンスだよね。
婁: ふむ……異存はないですな。まあ、普通に進んだところで三日掛かる行程。今夜ゆっくり英気を養って……。
スアロー: いや極力急ごう……って、このゲーム疲労するんだっけ?
FM: 徹夜で進んだりすると、一気に疲労がたまりますね。代わりに倍進めますが。
忌ブキ: 倍!
婁: これから荒事を控えている以上は、英気を養っておくのが得策かと思いますが。
スアロー: (怪しむようなそぶりを見せつつ)ん……うん、異論は、ないよ。
婁: (素に戻って)快適なルート選んだんだろうが、そもそも(笑)。
スアロー: それを言わないで!(笑)。
『第十四幕』
夜半。
宿の窓が、そっと開いた。
夜に溶け込むようにして、婁震戒の身体が躍り出たのだった。
婁: じゃあ、夜中にこっそり抜け出します。ここの千人長の名前はなんでしたっけ?
FM: 祭燕です。
婁: ふむ。では、行政府の祭燕さんに接触をとれます?
FM: 分かりました、もちろんOKです。八爪会の刺繡を見せると、衛兵たちはあっさり通してくれます。実用本位の執務室に待っているのは、盲目の老武人、祭燕ですね。
千人長・祭燕。
その噂は、婁も知っていた。
いわく盲目の射手。黄爛の三大――混沌術を操り、その矢は百の兵をも穿つと。
FM(祭燕): 「八爪会が、どのような御用向きですかな?」
婁: (抑揚なく)ドナティアの黒竜騎士と誼を通じられたそうで。
FM(祭燕): 「中々面白い御仁ではあった。どこまで信用できるかどうかは分からぬが、素直な御仁であるとはお見受けしたよ」
婁: ゆえに、付け込む隙もあろうというものでしょう。
スアロー: ぶっ!(笑)。
FM(祭燕): 「よく分かるとも。……では、何のご相談で?」
婁: (メモ用紙を手に取る)。
スアロー: メモ用紙来たーっ!(笑)。
婁: いや、どうしよう。うん、このへんでいっそ、皆にオープンでやってしまいましょうかね(メモを下ろす)。――霊母猊下からの直々の命により、決してドナティアに遅れを取るなという勅命を受けております。
FM(祭燕): 「それはまあ、当然でしょうな。〈赤の竜〉を討伐した者がどちらか、というだけでも大事ですし」
婁: ええ。禍グラバの握る〈赤の竜〉の情報は、決め手となるやもしれません。情報、それに禍グラバの身柄。そろって我々で独り占めした方が得策というものでは?
FM: にまにまと祭燕は大きく笑うよ。「なるほど。是非そうありたいですな」
忌ブキ: うわー……。
エィハ: (まじまじとふたりのやりとりを見つめている)。
婁: ここでひとつ、私の影武者を用立てられませんでしょうか?
FM(祭燕): 「ほほう?」
スアロー: またかよ! こ、この獅子身中の虫! 婁兄さん無双が始まるよ!(笑)。
婁: (淡々と)ここまであえて朴念仁に振る舞ってきました。上手く顔さえ似せれば、おそらくは腹の内を探られることもないかと。
忌ブキ: あえて(笑)。
エィハ: 最初から計算されてる……!
スアロー: (拳を振り回しながら)お、お、お、お前ーっ!(笑)。
FM: では、くつくつと喉を鳴らして笑う。口調が変わる。「ひとつ面白い手を思いついた」
婁: ほう?
FM(祭燕): 「ああ、いるとも。完璧な影武者を用立てられる」
す、と自分の顔を祭燕が摑む。
そのまま、ぐにゅ、と指がこめかみに埋め込まれた。手の平も鼻や唇を押しつぶすように、顔全体にめりこんでしまう。
数秒して手を離すと、老人の顔は――その目さえ開き、婁の顔そのものとなっていた。
婁: (感嘆の息を漏らし)恐れ入りました……。
FM(祭燕): 「混沌術の応用だ。婁殿の真似ぐらいは務まるだろう。そうそう、その剣も……」と、近くの筆を手にとって、自分の髪を塗り込める。しゅっと二本の指を滑らせると、形だけ婁の七殺天凌そのものとなる。
混沌術。
世に有名な、黄爛の三大魔術のひとつは、自らの身体を無限に変化せしめる。
極まるところ不老不死も可能というが、これほどの達人と出会うのは、婁にしても初めての経験だった。
婁: ですが、ここの行政府の執政はいかがいたします?
FM(祭燕): 「君たちが助けてくれた甘慈と楽紹が、明朝には戻る。言づてしておけば十分だろう。このような機会、他人に預けるつもりもない」
スアロー: あ、あいつ、助けるんじゃなかったー!
忌ブキ: (しみじみと)やっちゃいましたねえ……。
婁: では、祭燕殿に骨を折ってもらった隙に、私は早馬で一足先にハイガへ忍び込もうかと思います(一同爆笑)。
スアロー: (座っている椅子をばしばしと叩く)。
FM(祭燕): (拱手しつつ)「分かった。最高の馬を用意しよう。君と交誼を迎えられたことを、天に感謝する」
婁: ありがとうございます。それでは、私は早速にでも。逗留中の宿はこちらになります。これは紙で渡しておこう。
FM(祭燕): 「ご武運を」
やがて。
宿に黒ずくめの男が戻ってくる。
FM: ええと、スアローとメリルはまだ起きてるんだよね? じゃあまずは、みなさんのところに婁さんが帰ってきます(笑)。
スアロー: 「あ、婁さんお帰りー」
FM(祭燕): 「ああ、席を外して申し訳ない。明日からの準備をしておりました」
スアロー: 婁さんは、いつもぽっと消えるよね。こう、ジャブをいれる感じで軽く聞いておこう。
FM(祭燕): 「自覚がないもので」
スアロー: 自覚がないと来たか(笑)。……ちょっと、これは反則気味ではあるんだけど。このスアロー、物を破壊するがゆえに物にまったくこだわってないようで、しかしだからこそひたすらにこだわってるんだぜ。こう、具体的にはあれだけ美しい宝剣だし、真贋を見抜けないかな?
FM: こちらの魔術との対決判定になりますね。【知覚】で振ってみてください。
スアロー: (サイコロを勢いよく握って)うおし、こいクリティカル! 砕けよ銀河! とどろけ俺の瞳!
FM: そうですね、クリティカルなら……。
スアロー: (サイコロを振る)……だ、駄目。失敗……。
FM: そちらが失敗では、対決にすらたどりつきません(笑)。
スアロー: うむ、怪しくもなんともないな! 完璧だ、完璧な婁さんだと思っている(笑)。もうダメだ!
FM: では、邪魔するものもなく、婁は早馬で仁雷府を出発します(笑)。
祭燕の用意してくれた馬は、確かに最高だった。
山岳や湿地ではガダナンの踏破力に及ぶべくもないが、その分平地では凄まじい速度を弾き出す。婁の騎乗技術もあいまって、ほぼ限界と言えるだけの速度を捻出していた。
FM: いやあ、面白いことになっちゃったなあ。では、まず婁の移動を先にやりましょう。深夜から飛び出した婁は翌日の昼までに、早くも二マス移動する。移動表どうぞ。
婁: (サイコロを振って)62。
FM: 地形は平地だね。(表を見つつサイコロを振って)なら、紛争で焼け出された難民十数人に出会う。彼らは食糧も医薬品も大変に不足しており、もし貴方が仏心を出して面倒を見るなら、一日が費やされるが……。
婁: ……ホトケゴ・コロ?(笑)。
エィハ: なんて発音(笑)。
婁: ホト、ケゴコロ? どちらだろう? まあどっちにしてもよく分からないのでガンスルーでございます(笑)。
FM: うおおおお、本性が超出てる(笑)。で、ここから休養を取らずに全力で進むと、疲労状態になります。疲労の間はすべての判定が不利になりますが……かまわないんですよね?
婁: かまいません。
FM: くわえて、疲労状態での行動はスタミナへダメージを受けるようになります。
婁: 覚悟の上です。
FM: で、スアローたちも仁雷府を出て移動ですね。
スアロー: (いろいろ抑えきれない表情で)は、はい……。いやあ大変な事態になってるし、僕たちは万全の体調を保ってハイガに着かないと、ね!(笑)。
エィハ: (ぷるぷる肩を震わせながら)……そ、そうね。(サイコロを振って)移動表は11です。
FM: 平地ですし、特に何も起こらないですね。「いや、穏やかな日々です」と婁がうなずきます(笑)。
忌ブキ: どうしよう。あ、あっと言う間に終わってしまう……(笑)。
『第十五幕』
夜を駆ける流星のごとく。
あるいは、草原を馳せる風のごとく。
ほとんど馬を使い潰す勢いで、婁がニル・カムイの荒れ野を疾駆する。休みらしい休みは、それこそ馬が限界を迎えた一度のみ。馬の口から泡が吹き出しても表情ひとつ変えぬ有り様は、確かに修羅そのものであった。
FM: では、残り八十一日の正午となったところで、早くも婁さんがハイガに到着ですね。ただ疲労状態になってからさらに丸一日近く、不眠不休の全力で移動していたので、20D10――10面体ダイス20個分ほどのスタミナダメージがきますよ。
婁: さすがに強烈ですな。(サイコロを振って)93。
忌ブキ: 婁さん、事実上二徹ですよね……。
婁: もとのスタミナが175ですから、一気に82となりましたな。せめて疲労状態は脱したいところですが。
FM: それには六時間の休養が必要ですね。スタミナの回復を待つとさらにかかりますが。
婁: まずは疲労状態の回復だけでいいです。ハイガの様子は?
FM: ええ、あなたが着いたのは街道沿いにつくられたハイガの市場とその関所ですが、さらに奥は城塞都市となってる感じですね。
後方に広がる樹海と崖。
それを利用してつくられた、天然の要害ともいえるのが城塞都市ハイガであった。
街道沿いの市場こそ、先の仁雷府にも劣らず賑やかだが、それも城門までのこと。内側の様子はまるで知れず、そびえる城壁には蟻の通る隙間もない。城門に立つ衛兵たちはいかめしい目つきで周囲を見つめていた。
婁: (目を細めて)これはなかなかの備え。さて、どうしたものか。
FM: 一応、祭燕が潜り込ませてる間者との接触方法は教えてもらってますが。
婁: そちらを先にしましょう。書状なりなんなりで事情を説明して、状況を訊いてみる。
FM: では市場の、黄爛風の茶館での接触となりますね。間者は事情を聞いて表情を厳しくし、「そういうことであれば協力を惜しみません」と言いますよ。
婁: 頼みます。
FM(間者): 「まずは、この街の説明から」
(スタッフがハイガ周辺の地図を取り出す)
婁: おお。このようなものが。
FM(間者): (地図を指し示しつつ)「この街道沿いが市場、色をつけている各所が関門と城壁、ふたつめの城壁の奥が禍グラバめの要塞となっております」
婁: ほうほう。城壁がふたつ?
スアロー: やべえ。あそこだけゲームが変わってる(笑)。
FM(間者): 「はい。ひとつめの城壁内部は住宅地なのですが……(少し困惑した声音で)この街は変わっておりまして、つながれもの、まじりものを大いに歓迎しているのです」
婁: ふむ?
FM(間者): 「戦力となるものは兵士として徴用してるようなのですが、そうした能力を持たないつながれもの、まじりものを、この城壁内部に住まわせているようです。理由はいまいち分かりませんが、生活自体は快適なようです」
婁: 家族ぐるみの雇用ということですかな。
FM(間者): 「かもしれません。禍グラバ不在の間の名代も、ソルとシャディというまじりものとつながれものがやっております」これは似顔絵を見せてくれるよ(イラストを取り出す)。
エィハ: あ、可愛い!
婁: (イラストを見ながら)ソルとシャディ……。このソルは、尻尾を見る限りサソリのまじりものってこと?
FM: そうですね。まじりものは自分の体内に魔物の因子を持つ人間の総称ですが、ソルがサソリのまじりものなのは間違いないでしょう。シャディは蛇のつながれものということです。
婁: なるほどねえ……禍グラバめは、やはり要塞に?
FM(間者): 「おそらく。何人か潜入を試みましたが、帰ってきたものはおりません」
婁: 分かりました。まずは夜まで休息の準備をお願いしたい。――それと、登攀道具など揃えていただきたく。
FM(間者): (驚愕の表情で)「まさか……あの崖を登るおつもりで? 軽く百丈(三百メートル)は超えておりますぞ!」
婁: (淡々と)昔はよくやりましたよ。
スアロー: よくやりましたよ、じゃねえよ(笑)。
FM: 間者の驚愕の視線が、やがて尊敬へと変わっていくね。「分かりました、早速用意させます。そうだ、何人か崖を調べた者もおりますが、そちらも要塞近くでは魔術の仕掛けがあるものと見ております」
婁: なるほど……それは厄介だな。回避する方法はないものですか?
FM(間者): 「魔術的なものゆえ、魔術師であればなんとかなるかもしれませぬが……」
婁: ふーむ……。
FM: もちろん、ものすごい隠密で駆け抜けていくという選択肢はありますよ。具体的には、〈隠密〉の[達成度]がすごく必要になります。
婁: なるほど。でもそれは頑張るしかないな(笑)。――心得ておきましょう。
FM(間者): 「は。ではまずお体を休めてくださいませ」
婁: ええ。闇に紛れて仕掛けます。
FM: ええと、では忌ブキさんたちの移動表を。
忌ブキ: (サイコロを振って)27です。
FM: (表を見て)突然、平穏な旅になりましたねえ。何もない。
スアロー: のんびりと、「忌ブキさんの好きな食べ物は何だい?」「そっかー」とかそういうのんびりした会話を(笑)。
FM: いつにも増して婁さんは無口です(笑)。
エィハ: ああ、やっぱり……。
スアロー: (両手をうきうき振り回しながら)ハイガに着いたらいろいろ策を弄するぞーとか思ってるんです。思ってるんですが……ひょっとして着いたら何もかも終わってます?(笑)。
『第十六幕』
三刻。
ドナティアでは六時間とされる単位で、ぴたりと婁は目を覚ました。
FM: では六時間後、間者に用意された宿に泊まって、無事疲労状態を脱しました。
婁: すっきりした(笑)。早速、闇に紛れて進むとしましょうかね。
FM: OK、どこから行きます?
婁: (地図を見ながら)そうですねえ……。地図のこのあたりが全部崖なんですね?
FM: ですね。切り立った崖です。緑の部分が樹海で、禍グラバという男は無理に森を切り分けず、要害として利用してるのが分かります。
婁: なるほど……ん? この赤いところは見張り台?
FM: あ、そうです。……チェックすげええ(笑)。
婁: (地図を睨みつけながら)……崖の登りにくさはどこも均等な感じですかね?
FM: 地図だけでは分からないですね。見張り台のあるあたりは、当然ですが〈登攀〉判定と〈隠密〉判定が同時に必要になります。ただし、いくぶんかは登りやすいでしょう。
婁: ふむ、狙い目は……そうだな、(地図をさして)北西のここだな。見張りが居るなら、魔術の監視も薄いかもしれん。
FM: ううむ、ひとりになった途端、凄い勢いで本来の性能を発揮していく(笑)。
エィハ: すごいスタンドプレイ(笑)。
スアロー: 一方その頃僕らはどっすんどっすんと。「象はいいねえ」とかやってる(笑)。
婁: (キャラクターブックを確認しつつ)後、俺の《軽身功》って使えますかね?
FM: 使えますね。その能力だと、縦方向に14メートルぐらいジャンプできますから。
スアロー: え、何々? 僕、認識を間違えてたみたいだけど、婁さんって人間じゃなかったの?(笑)。
FM: いつから人間だと思っていた?(笑)。
婁: (キャラクターブックを閉じる)よし、とりあえず行ってみましょうか。
夜。
都合良く、空は曇っている。
間者が揃えた道具の確認を終えて、婁はハイガの樹海側へと回り込んでいた。
手鉤。足鉤。打ち鉤。小槌。いくつかの固定具。十分な長さの鉤縄。
いずれも標準的な代物だ。
背中の七殺天凌を除き、婁は愛用の道具というものを持たない。あればそれなりに便利なのだろうとは思うが、そういう意欲が湧かないのだ。
だから、彼はその場にあるもので――あるいはなくても――仕事をこなすことに特化している。とりわけ、こうした潜入任務は、暗殺者となるより以前からよく依頼されたものだ。
今、彼の前には、樹海をまたいだ川が滔々と流れている。
この川を渡り、禍グラバの要塞へ接近するつもりだった。
FM: このルートですと、樹海に入ってから川までは見つからないですね。川を渡るのには〈水泳〉判定が必要です。判定の成功はもちろん、[達成度]も12以上必要です。
婁: (サイコロを振る)成功。[達成度]は21。
FM: では、川の流れをものともせず、婁は泳ぎ切る。そのまま視線をあげれば、要塞の崖が見渡せますね。ここからの〈登攀〉判定は、全部で三段階あります。判定での成功だけじゃなくて、それぞれ[達成度]も要求されますよ。
婁: はい。
FM: 一段階目は崖の下部。必要な[達成度]――難易度は10です。
婁: ういっす。
FM: 二段階目が中部。オーバーハングなども増えてきて、難易度は20。
婁: うい。
FM: そして、最後が要塞に潜入する上部。魔術的な警報なども出てくるため、難易度は30になります。
婁: おお、なるほどね。やはり最後が厳しいな……。特技などの使い方によっては難易度を下げられます?
FM: それはもちろんです。
婁: 《軽身功》を使って、二段階目と三段階目を乗り切りたいんですが。
FM: そうですね。たとえば、ひとつの判定を二回に分けて――《軽身功》で、崖の登りやすい位置を跳び回ることで、難易度30を難易度25の二回判定に分けるなどができますね。
婁: なるほど。
スアロー: が、頑張れ要塞! 僕らの希望は君にかかってる!(笑)。
婁: ……後は、夜を見通す《猫の目》かな。これで足場を探ります。
FM: 暗所の不利を打ち消せる特技ですね。分かりました、難易度を一律3ずつ下げましょう。
婁: (キャラクターブックとマップを見比べながら)……まだ運頼りだな。仕方ない。見つかりやすくなるかもしれんが、最後は直接見張り台から登れます?
FM: (少し驚いて)……見張り台のあたり、どころか、直接見張り台ですか。最後の〈隠密〉判定はだいぶ難しくなりますよ? 代わりに、最後の難易度30は《猫の目》も含めて、17まで下がります。
婁: では、そのプランで。最悪、見つかったのがひとりやふたりなら、《百歩掌》で遠距離から落としましょう。
スアロー: おっかねえー! こいつ、どんだけ能力を隠してたんだよ!
婁: (そっけなく)使う必要がなかったもので。
エィハ: 戦闘を回避しちゃったものね(笑)。
婁が、崖を登り始める。
慎重に見定めたルートの岩質を、さらに掌で確かめる。
安全だと思えば鉤を打ち込み、縄を固定して、ひとまずの安全を確定させてから、さらに上へと登っていく。
婁: (サイコロを振って)まず、一段階目の判定は成功。[達成度]も21で問題なし。
FM: ええ、一段階目は、婁にしてみれば遊び場のようなものですね。
婁: 問題は、ここからなんですがね……。
FM: はい。オーバーハングは出るわ、岩が硬くて鉤も弾くわで、一気に人間を拒絶する感じになりますよ。難易度は17。
婁: (サイコロを振って)これも成功。[達成度]は3が出たのでちょうど17。
忌ブキ: (目を覆って)わ、ぎりぎり!
ぐらりと、手元の岩が揺れた。
崩れる石を即座に放棄。気を練って、軽身功を発動。横へと流れた婁の身体は、やもりのごとく、一気に離れた岩盤へと取りつく。
FM: 一瞬ひやっとした場面はありつつ、第二段階目も突破しましたね。
スアロー: 婁さんはあれですよね。ここ一番をドジかギリギリでいくよね(笑)。
婁: (胸を撫で下ろして)いやあ、ドキドキでございます。では三回目。自動失敗も怖いし、《軽身功》で判定は増やさず、むしろ一気に見張り台へと飛びつきます。
FM: 分かりました。サイコロをどうぞ。
婁: (サイコロを振って)04!
FM: おお、効果的成功! [達成度]が倍ですよ!
婁: なら、[達成度]は38です。見張り台を避ければよかった(笑)。
FM: 悔やんでも仕方ないですね(笑)。〈登攀〉は完璧でしたが、見張りを避ける判定は別ですから、〈隠密〉も振ってください。
婁: ういっす。(サイコロを振って)〈隠密〉も効果的成功(一同爆笑)。
スアロー: 何だよこれ、見張りが目の前なのにスルーだよ。ゴーストかよ。
エィハ: まるで空気みたいな(笑)。
婁: [達成度]は60。
FM: (サイコロを振って)見張りもそれなりに精鋭なんですが、こっちの【知覚】判定の[達成度]は16。「この要塞に乗り込むヤツなんかいるわけねえよなあ。禍グラバ様は本当に用心深い」とのびをしてるよ(笑)。生体反応で動くはずの魔術の仕掛けすら、その〈隠密〉レベルでは発動しませんね。
婁: 見張りの後ろから、そっと入っていきます。
FM: では、要塞の地図を。
(スタッフが要塞地図を取り出す)
婁: ほう、これが要塞地図……(しげしげと眺めつつ)。
FM: 〈隠密〉の[達成度]も高かったですから、どこから侵入するかは自由です。基本的には正門と、ふたつの窓からになりますね。
要塞。
確かに、その名にふさわしい建築物だった。
各所の見張り台はもちろんのこと、ガダナンの突進にさえ耐えそうな分厚い壁。軍隊が押し寄せても、分断・迎撃しやすいよう、巧みに構造をつくりあげている。
また、採光もほぼ専用の天窓からに限定し、侵入者が入れる隙を最低限まで削っていた。
婁: (地図を睨んで)まあ、まずは北側の窓から入るか。うーん、真ん中のエリアを目指してみようかな。
FM: 分かりました。では中に入ったので、改めて〈隠密〉判定をお願いします。中にも見張りはいるので、新たに接近するたび判定が必要になります。
婁: (サイコロを振って)14、効果的成功。
忌ブキ: ろ、婁さんが止まらない……。
FM: じゃあ[達成度]を聞くまでもない。呼吸や体温といった生体反応すらごまかして、婁は自分の存在を殺しつつ、禍グラバの要塞を進んでいく。どの部屋に入ります?
婁: そうですね、まずは東の応接室っぽいところへ。
FM: では、もう一度〈隠密〉判定。
婁: (サイコロを振って)成功。[達成度]は29。
FM: OK。ほんのわずか開いた扉の内側では、少年と少女が話し合っているのが分かる。隣で丸まっているのは蛇の魔物。――先に、間者が似顔絵を見せた、禍グラバの名代だね。
スアロー: あ、そうか、あのふたりか。
婁: ほほう? ソルとシャディとかいったか。まずは聞き耳を立ててみようかな。
「……禍グラバさまは、いつ頃起きられるだろうか?」
温かそうな暖炉と、シャンデリア。
豪奢ではありつつ、品のある応接室で、スーツを着た少年がきゅっと唇を引き結んでいた。そのズボンからはサソリの尾が覗いており、まじりものであることを窺わせる。
「大丈夫だよ! 戦争になる前に禍グラバさまは絶対起きてくれるよ! いつだってそうだったじゃん!」
少年を励ましているのは、もう少し幼い、ふわふわした感じの少女だ。少年とお揃いらしいスーツを纏い、ツインテールをしましまのリボンでまとめている。
エィハ: 可愛い……。
婁: (冷たい声で)なるほどね……。
FM: 少年――ソルと教えられた方は、「しかし、ドナティアと黄爛がこちらに手下を寄せているという話もあります。到底楽観視できませんよ」と、おおよそそんな話をしてるね。
婁: ふむ、事態は理解してるのか。……ぱっと見た感じ、手強そう?
FM: 前と同じ感じで〈黄爛武術〉での判定はできますよ。
婁: 成功です。
FM: OK。ぱっと見た感じ、メリルほどではないってぐらいかな? 十分以上に強力ではあろうけど、君の敵じゃない。
婁: なるほどね……。いや、片方を始末して片方を尋問しようかと思ったのよ(一同どよめく)。
エィハ: 死んじゃうーっ!
忌ブキ: お、鬼ですか(笑)。
婁: ただ、やはり二対一はヤバイんで、できれば不意打ちで片方を仕留めたいんだが。
FM: 不意打ちで仕留めるなら、つながれものでしょうね。魔物こそ強力ですが、つながってる少女は普通の人間です。
スアロー: つまり、隠密とか暗殺が有効なのは女の子の方と。
エィハ: ひぃっ! 可愛い方がやられてしまう!
婁: ……食指は動きますか、媛?
FM(七殺天凌): 「ふむ……確かに旨そうではあるがの。まずは不死商人を喰ってからじゃろう。騒ぎになって不死商人を逃がしては本末転倒じゃ」
婁: 畏まりました。
スアロー: まずは原始肉を喰ってからか(笑)。
婁: ではそっと離れて、こちら側――妙に大きい真ん中のエリアを探索しましょう。
FM: 了解しました。(スタッフに)……すいません、例のモノをお願いします。
忌ブキ: 例のもの?
スアロー: なんだなんだ? またバケモノか?
FM: まあ、まずは中に入って〈隠密〉判定をどうぞ。
婁: (サイコロを振る)成功。
FM: では、この部屋には見張りはいません。代わりに、道術のものと思しい魔術の道具がいくつもいくつも転がっている。中でも、とりわけ目を惹くのは奇怪な液を満たしたポッドだ。
婁: ポッド?
ひんやりとした部屋だった。
人の気配はなく、石の床には奇怪な扇や護符、指輪が散らばっている。
(ほう……)
七殺天凌が、その品の気配に震えた。強い魔素の気配だった。
婁は詳しくないが、おそらくどれひとつとっても、秘宝と呼ばれてしかるべき品なのだろう。下手をすると、この部屋の品だけで小国ぐらいは買えてしまうかもしれない。
まるで、竜のねぐらだ。
大量の宝物を抱えた、竜の棲み家。
そして、その奥で、いくつも連なった透明な筒のひとつに――奇怪なモノが浮かんでいた。
婁: ほう?
FM: はたして、モノか、人か。それさえ分からない。その姿が奇怪すぎるためだ。具体的には、こんな格好をしている(イラストを見せる)。
婁: うわーっ!(笑)。
スアロー: ……今、吹きそうになった。やべえ、これは百年生きる(笑)。今からお爺さんの時計と呼んでいいかい?
(スタッフが扉をノックする)
FM: あ、例のモノの準備ができたようです。皆様、拍手でお迎えを。
忌ブキ: え? え? え?
スアロー: え、何、どういうこと?
婁: ……もしかして……この怪物がNPCではないというオチですか、これは?
FM: プレイヤーの皆さんにはずっと秘密にしていましたね。キャラクターメイキングも各種打ち合わせも、ずっとこの四人と僕でやってきました。ですが――
(扉が、開かれる)
禍グラバ: (禍グラバのお面を被って、顔だけを部屋の中に出す)。
全員: あはははははは!(爆笑)。
スアロー: そんな馬鹿なーっ! ちょっと待ってよーっ!(笑)。お前どう見ても成田じゃねえかああーっ!
エィハ: お久しぶりです! お疲れ様です!(笑)。
婁: やべえ、どうしよう?(笑)。
FM: ……皆様には内緒にしていましたが、このゲームには五人目のプレイヤーが参加しています。今回もセッション風景をパスワードをかけたUstreamの秘密中継で見てもらいつつ、ずっと待機していただきました。禍グラバ・雷鳳・グラムシュタール担当プレイヤー、成田良悟です!
禍グラバ→成田良悟: いやあ、皆さん。今日は必死にキャラ立てして、いろんな未来予想図を描いてきたと思いますが、全っ部ぶち壊しにきましたっ!(笑)。
スアロー: (机を叩いて悶絶する)く、くくくくく……。
FM: では、禍グラバさん。緊急覚醒して下さって結構です。目の前には、やたらと剣吞そうな男が(笑)。禍グラバの発言を最後に、シーンを終了します。
成田良悟→禍グラバ: はい、分かりました!
婁に反応したのか、ゆっくりとポッドの液が下がっていく。
あまりの奇怪さに、さしもの婁が反応できない。七殺天凌でさえも、その念をぴたりと止めていた。
やがて。
その男――かどうかは分からぬが――は、手をあげた。
親しみ深い声で、こう告げたのだ。
禍グラバ: (咳払いして重々しい声で)「……おはよう。見知らぬ人よ。一緒に朝食でも如何かな?」
一夜・終幕
(眩しいばかりの光)
(いまや、華やかな光を浴びる舞台)
「――さて皆様」
(緊張も解け、いささか伸びやかになった男の声)
「寝坊していた役者が到着したようです。彼の名前は成田良悟。世界の富の尾を握る、百年以上の時を閲した不死商人」
「物語を握るはこの五人。与えられた夜は残り五夜」
(一礼)
「次なる夜を――皆様、どうぞお待ちくださいませ」
〈一時閉幕〉