レッドドラゴン
第一夜 第八幕・第九幕
「最前線」のスペシャル企画「最前線スペシャル」。三田誠がFiction Masterとしてシナリオを紡ぎ出すRPF、『レッドドラゴン』。参加者は虚淵玄、奈須きのこ、紅玉いづき、しまどりる、成田良悟の夢の5名。音楽を担当するのは崎元仁。最高の布陣で最高のフィクションを創造します。
『第八幕』
議員公館を出てすぐ、くるりとスアローが振り返った。
「……僕らには、コミュニケーションが足りないと思うんだ!」
FM: では次のシーンです。
スアロー: あ、公館の扉を出た瞬間にばっと振り返る! 「ところでみんな、これから任務に当たって、一番大事なものは何だと思う? それは、個々の戦闘力とか、お金とか、運とかじゃなくて……僕らには、コミュニケーションが足りないと思うんだ。任務に行くまでゆっくり酒場で……どうかな? お互いの素性とか話し合ったりしないかい?」と、一応空気を読んで提案してみる。
FM: まあ、メリルさんは何も言わないよ。じーっと見てる。どうせお金出すのは自分なんだろうなあぐらい。
スアロー: は、破産中なのでまあよろしく(笑)。みんな、どう? どう?
婁: それは素晴らしい(即答)。
スアロー: 何ーっ! お前が最初に賛成票だとぉ!?(一同爆笑)。
婁: (抑揚のない声で)ええ、私からも是非お願いしたい。
スアロー: やべっ! フレンドリーなことを言われてるのに、凄く怖い! 奈須きのこの恐怖とスアローの歓喜が乖離する! 何、この初めての感覚!(笑)。
忌ブキ: そうですね、ぼくもみなさんのこと知りたいです!
エィハ: ヴァルは? ヴァルも入れる?
スアロー: そういう店を探すしかないのかな?
FM(メリル): 「そうですね。私が探して来ましょうか」
スアロー: あ、うん。じゃあ……。
婁: ほう……このメイドさんは簡単にひとりきりになるんだな?(一同爆笑)。
エィハ: いやーっ!
スアロー: こ、この物語はどこに行っちゃうの?(笑)。
忌ブキ: (おずおずと)あの……案内人さんに、酒場を案内してもらうのはどうでしょうか?
スアロー: それだ! 少年、愛してる! じゃあ移動しようそうしよう! そして心の中で叫ぶ! 「全員に断わられると思ったのに! 一番最初にウザキャラを演じて、嫌われものになろうとしたら、みんな、みんなOKだと!? 何だこのパーティ、まったく読めない!」
エィハ: あはは(笑)。
五人と一頭の魔物は、シュカの街を移動する。
いかにシュカの街といえど目立つ顔ぶれではあった。それぞれの国の世間話などをかわしつつ、一行は街の入り口に辿り着いた。
そこにいたのは、巨大な三体の魔象であった。
FM: では街の入り口辺り。普通街の入り口といえば賑やかなものだが、シュカの場合それぞれの租界にも正門があるため、閑散としたものだね。
スアロー: やあ、見晴らしのいい、何にもないところだなあ。
FM: そう、見晴らしがいい(笑)。何もないあたりに、巨大な牙を生やした魔物の象が三匹立っている。だいたい体高四メートル体長八メートルに及ぶ、ガダナンといわれるニル・カムイの固有種だね。この島で輸送に使われてるぐらいは知っている。
忌ブキ: あ、じゃあそこに案内人さんが?
FM: です。ガダナンの横腹には、人が乗るための荷台と梯子がついていて、そこに身体をもたせかけるようにして、分厚いフードを被った女が待っている。「あんたらが、狗ラマさんところの人かい?」
忌ブキ: ……あ、はい。そうです! よろしくお願いします!
FM(女): 「そうかい。あたしは獣師の民でミスカという」
スアロー: ミスカさんね。ちなみに外見の年齢は?
FM: フードを被っているのでよく分からないけど、多分二十過ぎ――
スアロー: うん、アウト!(一同爆笑)。
(渾身のアウト発言に、たまらず突っ伏す紅玉いづきとしまどりるである)
忌ブキ: (腹を抱えながら)す、スアローさん……! 信じてたのに……!
エィハ: (悶絶しつつ)メリルさんにクズって言われてるのって、まさか……!
スアロー: あ、いや、このアウトとセーフにはちゃんと違った意味があるんだってば! ただのクズ野郎じゃないと思ってほしい!
FM: こ、これはひどい……(笑)。いやまあミスカさんは気にせず、「九十日の間、あんたたちの足を受け持つように言われている。ガダナンなしで旅するにはニル・カムイの土地は厄介だからね」って話すよ。
エィハ: あ、じゃあヴァルはどうするんですか? 象に乗れます?
FM: ああ。ヴァルの能力なら、ガダナンと大差ありませんよ。というか、ヴァルは飛べますし。
エィハ: (胸を撫でおろす)ああ、良かった。じゃあエィハはこのままヴァルに乗ってます。
FM: 了解です。すぐに旅に出かけてもいいですし、さっき言ってたとおり酒場などで一日潰してもかまいません。ただ、どの場合でも狗ラマの言っていた「九十日」には含みますからね。
忌ブキ: ここからもう九十日が……。
FM: では、旅のためのルールを説明しましょう。
(ニル・カムイの地図を取り出す)
FM: (地図のシュカに駒を置いて)皆さん今は、このシュカにいます。
エィハ: うん。
FM: で、さっき狗ラマが言ってたように、不死商人がいるハイガは反対側(地図のハイガを指さす)。ここまではいいかな?
忌ブキ: あ、はい。大丈夫です。
FM: では、ここからミスカが話す。「狗ラマから聞いてるが、お前たちがハイガへと渡るなら、基本的には二ルートだ。黄爛直轄地である仁雷府を中継した西回りルートか、ドナティア直轄地であるベルダイムを中継した東回りルート。このどちらかになる」
婁: なるほど……ほかには考えられる?
FM(ミスカ): 「船を雇ってイイナバから回り込むという手もあるが、せっかくのあたしとガダナンが無駄になるし、おすすめはしないな。樹海を通るルートもやめた方がいい」
エィハ: ふうん? どうして?
FM(ミスカ): 「最短距離ではあるが、あそこは私たち獣師の民ですら近づかないバケモノの巣窟だ。……もっとも、だから革命軍の本拠があるという噂もあるがね」具体的な移動のルールはこんな感じ。
一日の移動距離
- 道……2マス
- 荒れ地、砂漠……1マス
- 樹海、山岳地……0.5マス
婁: ふむ、道が断然移動しやすいわけだね。
FM: もちろん、ミスカの忠告を聞くも聞かないも自由ではあります。船を使う場合はこの移動ルールは使いませんしね。
忌ブキ: どうしましょうか……。
スアロー: んー、エィハくんと忌ブキさんはまだ子供なんだから、あまり厳しいことはさせたくないんだよな。てか、なんでこの幼いふたりがこんな過酷な任務に、って心配はしているんですよ。
忌ブキ: ……あ、ありがとうございます。
スアロー: いやまあ勝手な心配なんだけどね。えーと、僕としてはぱっと見、この西回り黄爛ルートがいいと思うかな。
FM: 距離は、東回りルートよりちょっと近いね。
スアロー: てか僕、ドナティアの先輩方のところに行くの……何か、やなんだよね(笑)。
忌ブキ: 自国なのに(笑)。
FM: まあ、ニル・カムイを縄張りにしてる黒竜騎士団・第三団はスアローと違う管轄ですしね。というか、黒竜騎士は第一団から第八団まであるんですが、新人のスアローは現状どれにも属してません。
スアロー: でしょうね。三人にはそれは漏らさない。僕がぼっちであることを(笑)。
FM: 分かりました。まあミスカは、あなた方がどういう選択をしてもかまわないというスタンスです。「雇い主はあんたらだから好きにしてくれ」とだけ。
婁: ふーむ……。
忌ブキ: どうしましょうね……。
FM: (様子を見て)では、あなたがたが悩んでると、ゴーン……と鐘楼を鳴らす音がする。
エィハ: ん、何時?
FM: 十二時、正午だ。その音を聞くと、ミスカは少し悩ましげな顔になる。「……そういえば、今日が恩赦の日だったか。血の雨が降らねばいいな」
忌ブキ: 血の雨って、何ですか?
FM(ミスカ): 「ああ、知らないのか? 今日が恩赦となっているのは、ニル・カムイの以前の統治者――先代の契り子が暗殺された日だからさ。その後に街を蹂躙した七年戦争のことを忘れず、誰もが赦しの心をもって、黙禱しようとそういう時間なんだ」
スアロー: かつて血の雨が降った時間……ってことか。なるほど穏やかじゃない。
婁: なにやら物騒な事情があるようだが……それでも、まずはこの街で一晩飲み明かすのかな?
スアロー: 心の中では飲み明かしたくないんだけど……パーティの親睦を深められるこのチャンスを逃すわけにはいかん。……いや、でも旅先でおいおい話せば……(考え込む)。
エィハ: スアローさん?
スアロー: うん! 僕から言い出して何だが、お互いの身の上話はこれだけの日程があれば、旅先で話せるだろう。何か、この街に留まるのはよくない気がするし、このカッチョいい乗り物に乗って、早速ハイガに向かうのはどうかな?
忌ブキ: ……うーん。ぼくは解放された阿ギトさんの様子を見に行きたいかな、と思ってます。
婁: さっき公館でも出た名前だな。その男と何か縁でもあるのかな?
忌ブキ: そうですね、ちょっとお世話になってるんです。
婁: ほほう。
エィハ: 阿ギトに聞けば、どっちのルートの方が革命軍の友達と合流しやすいか、分かるかしら?
FM: さて、どうだろう。どの程度今の革命軍と情報がつながってるかによるね。ほかの情報収集も含めて、どういう風に時間を使うかは君たち次第だ。
エィハ: ううん。どっちか一方にしか行けないのなら、わたし少し考えてみたい。
婁: 先を急がなくていいのかな? 九十日しかないんだよ?(笑)。
スアロー: スアローは「九十日もある」って思っちゃうんだよ! 誰かがこのボンクラを動かさないといけないんだけど……。
エィハ: ダメ?
スアロー: う……エィハくんの純粋……というか無機質? な眼差しにはかなわないな。よし。じゃあ、二時間ほど自由行動ということにして、それぞれ用事をすませ、このカッチョいい乗り物の前で合流しよう!
婁: ……なるほど。
スアロー: で、僕もこの二時間で、島の情勢をちょっと調べておきたい。
FM: そうですね、二時間だったらちょうどひとつ情報収集をするぐらいの時間、もしくはひとつイベントをこなすぐらいの時間はあります。
エィハ: ありがとう! 「じゃあ忌ブキ、わたしたちは阿ギトのところに行きましょう」って言って、忌ブキの首根っこをヴァルにくわえさせて、すぐさま移動します。
忌ブキ: わ、さらわれるー!(笑)。
「ふうん……」
騒がしく去っていく少年少女と一匹の魔物を、スアローはどことなく穏やかな表情で見守っていた。
スアロー: 美しい友情だ。人間はこうありたいよね、メリル?
FM(メリル): 「いえ……私は十分スアロー様に協力していると思いますが。特に金銭面において」
スアロー: サーセン(笑)。
FM(メリル): 「では、どういたしましょう? ご一緒に調べ物を? それともばらばらに?」と、一瞬婁の方を見る。
婁: ふむ……この土地は不案内なもので、できれば御同行させていただきたいところだが。
スアロー: こ、この男、こちらの情報収集に余念がねぇ……!(笑)。「まあせっかく知り合った仲だしね。ドナティアと黄爛という、今は敵対してる陣営同士ではあるが、この任務に関しては友人のように頑張ろうじゃないか、ははは」
婁: (睨めつけるようにして)……是非ともよろしく。
スアロー: 怖いよーっ!(一同爆笑)。スアローは本気で喜んでるんだけど、プレイヤーの僕は恐怖を感じてる! とはいえそれはおいて……情報収集するとしたら、どのあたりがいい?
FM: そうですね、まあメリルがある程度おおざっぱに分けてくれます。酒場、市場、奴隷市場、さっきの議員公館、ドナティア租界にある〈協会〉神殿、王立大学院付属研究所、黄爛租界にある八爪会寺院あたりが情報収集には向いてますね。
婁: ふむふむ。
スアロー: まあ、不死商人・禍グラバとここ二週間ほどの、〈赤の竜〉が起こした事件らしきものがあったら知っておきたいなと。これから絶対関わってくるだろうし。
FM: なるほど。
スアロー: (小声で)……後、できればメリルに頼みたい。「……隣にいる、この婁って人の素性とか調べられるかな?」
FM(メリル): 「分かりました。ではわたくしは別行動で調べてきます」
スアロー: よし! じゃあ、婁くん。男同士友情を深め合おうじゃないか。あ、メリルのことはほっといて(笑)。
婁: (目を細めて)ふーん、なるほどねえ……。
忌ブキ: なんでこんな騙し合いに(笑)。
エィハ: 仲間のはずなのに(笑)。
婁: (懐を窺うように)ご婦人をひとりにしてよろしいので?
スアロー: (心底意外そうな声で)……婦人? いや、メリルはああ見えて文武両道のたくましい子なので、大丈夫大丈夫。
婁: ほほう。
FM: 情報収集されてる(笑)。
婁: 大層たよりにしている様子ですが。
スアロー: まあ、幼い頃からの馴染みだし、それにまあ……そうだね、〈赤の竜〉が突然現われて暴れ出すぐらいの凶事がない限り、メリルは何があっても死なないよ。
スアローは、当たり前のように言う。
竜が相手でもなければ、あの従者――メリルが死ぬことはありえないと。
その言いぐさと、ここまで小心者っぽく話していた青年とのギャップがあって、婁はかすかに眉を寄せた。
婁: ……それだけ信頼されてると?
スアロー: そ、そうですねー。……もう、何なのこの会話(笑)。
婁: なるほどねえ……。
スアロー: と、ところで背中に背負っている剣は、婁さんのメインの武装なのかな? いや、今後戦闘に入ったときの参考にしたいので。
婁: ふむ……とは言いがたいですな。
スアロー: おや?
婁: なにせこの剣を抜くことは、今生に一度きりしか叶わない。
スアロー: ちょっと、その言葉にきゅんと来る(笑)。――ほう、一度しか扱えない剣を背負っておられると?
婁: それだけ、その一度きりが重要な瞬間というわけですな。まあ、私にとっては命より大切なものだとだけ申し上げておきましょう。
スアロー: 込み入ったことを聞くが、その剣は家宝とかそういうものなのかい?
婁: (軽く深呼吸して)「……そこまでこの剣に興味がお有りで?」(一同爆笑)。
スアロー: これは『かまいたちの夜』ですか!? 選択肢を間違ったら死ぬんですか、僕は!?(笑)。
エィハ: ち、近いかもしれない……(笑)。
スアロー: あ、あ、いや、実は剣と言うよりも、僕はその、どうにも道具というものに相性が悪くてね。
婁: ほほう?
スアロー: 色々あってね、僕は物に愛着が持てないんだよ。
婁: ほう。
スアロー: なので、一個の物にそこまで愛着を持つという人に会ったのも初めてだし、自分にないものなので、秘訣を知れるなら知りたいと思っているだけなんだ。
婁: ま、簡単な事ですな。あなたはきっと、道具に嫌われている。
「……!」
スアローの、呼吸が止まった。
いや、呼吸ばかりじゃなく、視覚も聴覚も嗅覚も――ほんの一瞬、あらゆる感覚がスアローから失われた。
凄まじい業物に、心臓を貫かれたかのようだった。
スアロー: 「……」メリルー! 助けてーっ!(一同爆笑)。いやでも、それけっこう急所にガキーンって来た。
婁: (淡々と)道具の方で人を選ぶということもあるのです。
スアロー: なんというリアリスト……っ! スアロー的にこれは好感を持たざるを得ない。あの、婁の兄貴と呼んでいいですかな!?
FM: 鞍替えしてる!(笑)。
スアロー: いや、その発想はなかった。確かに、あなたの言う通り僕は道具に嫌われている。まあ、ここだけの話……僕が使った道具は、十回……いや、百回中九十九回の確率で壊れてしまう。
婁: ……ほほう?
スアロー: うん。なので、物を大事に扱ったこともないし、物を長く使ったこともない。そもそも大事に扱うという感覚が分からないのです。まあ、聞くところによると正反対のようだけど、旅の仲間として上手くやっていきましょう。ははは。
空元気で、無理矢理に笑い飛ばす。
そうでなければ、立っていられない気分だった。いつも通りの笑顔をつくるのに、三回も深呼吸する必要があった。
スアロー: じゃ、そろそろ情報収集に行くかな? 何か怖いよこの会話。いきなりデスフラグ立っちゃうよ!(笑)。
FM: 了解です(笑)。さて、どこに行って何を調べます?
スアロー: まあ、一番中立な意見が聞きたいので……酒場は当たり前すぎるし、市場かな。このボンクラぼっちゃんと、殺人鬼で(笑)。
FM: では、適切な技能の判定で情報を得られます。例えば〈交渉〉で人から聞き出したりとか、〈地域知識:ニル・カムイ〉で知ってそうな人に聞くだとかいう感じですね。
スアロー: まあ、〈交渉〉より〈礼儀作法〉だよね。この、溢れるロイヤルオーラにしびれやがれっと、禍グラバさんのことを調べます。(サイコロを振って)判定成功。こうかはばつぐんだ――と[達成度]が13。
FM: おお、不死商人について、市場で聞くのはすごく正しいですね。
ニル・カムイ自治区の、市場。
一応正式に認可された場所なのだが、闇市場的な印象が強かった。正規ルートを通った品よりも、盗品や違法品の方が多いのではないかと思われる雰囲気。
ある意味で、スアローにとっては都合が良かった。
ドナティアの黒竜騎士を知らぬものはいなかったし、ドナティアの礼儀作法と軍隊から与えられた特注の鎧を見て、彼を騙そうと思う者はいなかったからだ。
FM: おおよそ、禍グラバについて得られる情報はこんな感じですね。
- 不死商人と呼ばれる由来は、一説では百年以上生きていることから。
- 各地に部下の商人を送り込んでいながら、自分のお膝元であるハイガの都は、市場以外閉鎖しているらしい。
- 多くのつながれもの、まじりものを雇いあげており、その戦力はかつてニル・カムイを騒がせた革命軍に匹敵するとも言われている。
スアロー: お、最後が重要っぽい。
FM: そうですね。ニル・カムイ議会が不死商人・禍グラバに手を出せないのは、これが理由でしょう。そして調べる場所と情報傾向が一致していたので、もうひとつ噂を聞きつけられます。
- 百年以上生き残ってるのは、身体の各所を宝術による秘儀――五行躰に置き換えているため。全身を置き換えた例は、禍グラバを含めて五指に満たない。
婁: 五行躰。サイバーパーツみたいなものですか。
スアロー: メカジジイかあ……!
FM: 一応付け加えると、最高レベルの五行躰であっても、二十年に一度は交換が必要だ。また、そのレベルのパーツをひとつつくりあげるのにも、ひとりから数人の宝術師が魂を捧げなくちゃいけない。
スアロー: それ計算すると……。
FM: うん。つまり、この不死商人のために、最低で数十人、最高で百人ほどの魂が捧げられている計算だね。
スアロー: これは……僕らが追ってるのは、とんでもない人物のようだな。そこまでして長生きしたいものなのか、僕には分からないが。婁の旦那は何をしています?
婁: え? ひたすらスアローの挙動を観察していますよ(一同爆笑)。
スアロー: あーもう、どうすればいいんだこれーっ!(笑)。真面目に! 真面目に仕事をしよう!
婁とスアローが市場で情報を集めている頃、忌ブキとエィハも留置所に向かっていた。
魔物のヴァルに背負われ、エィハの腰にしがみついたまま、忌ブキは自分が来てしまった距離と――これから旅する距離を、なんとなく考えてしまっていた。
FM: では、忌ブキとエィハに戻します。場所はシュカ留置所でいいかな。
エィハ: (挙手して)あ、その前に少し会話をしても大丈夫ですか?
FM: 大丈夫ですよ。
エィハ: じゃあ、忌ブキに向かって。――あなた、今なら多分逃げられるわ。逃げなくてもいいの?
スアロー: おお……素っ気ない無感動娘と思ってたのに……!
忌ブキ: (思いがけない顔で)え? 逃げる? ぼくが?
エィハ: そう。言ったでしょう? 一杯のスープだけの幸せもあるって。あなた今、逃げてもいいと思う。
忌ブキ: (しばらく考え込む)でも……ぼくのせいで……多くの人が死んだ。ぼくは、ぼくにしかできないことをやりたい。
エィハ: ――あなた、わたしを殺したのよ。
忌ブキ: ……。
ひんやりとしたエィハの言葉。
思いもかけず、黙り込むしかなかった忌ブキに、少女はさらに続けて口にする。
「でもいいと思うの、これは順番だから」
忌ブキ: ……順、番?
エィハ: 命と命が対峙したとき、肩を叩かれた方が死ぬ。それが順番。……あのスアローとかいう男。ひとりでも命があればいいと言っていたわね。
スアロー: あ、上手い。
エィハ: わたし、多分、あなたに生きていてほしいのだと思う。わたしの順番をあげたから。でもわたし、どうしてあのとき、あなたを助けたのかよく分からないのよ。……そう、ジュナと会えたら教えてくれるのかもしれないわ。あの子、とっても利口だったから。
忌ブキ: ジュナ? 言ってた友達の、名前?
エィハ: そうよ。わたしの友達。わたしを革命軍に呼び、未来というものを夢見てた……。わたしはあの子にもう一度会いたいけれど。逃げたくなったら言ってね。今なら、あなたを逃がしてあげるから。……という会話をしている内に、多分留置所に着くと思います。
FM: 了解です。見事な流れ……!
スアロー: ねえ婁さん、ドラマチックですよ、向こう。
婁: (取り澄ました顔で)ええ。
再び、留置所の前でヴァルが停止する。
昨日来たときは薄暗かった通りだが、今は初夏の陽光に照らされ、ことさら乾いた感じを漂わせていた。
FM: では、再び留置所です。
忌ブキ: はい。
FM: 恩赦ということで、さきほどまで混雑してたようですが、ほぼ終わった感じですね。無用な混乱を避けるためか、革命軍の迎えは禁じられているそうで、阿ギトひとりがちょうど出てくるところです。
エィハ: いた。
忌ブキ: ……あ、阿ギトさん!
FM: 君たちを見つけると、阿ギトは髭もじゃの顔に無邪気な笑みを浮かべて、「よう」と手をあげる。――さて、ここでふたりとも【知覚】判定してください。
忌ブキ: 【知覚】ですか?
エィハ: つながれものわたしは、ヴァルの【知覚】でも判定できます?
FM: もちろんできます。
エィハ: じゃあ、ヴァルの【知覚】で判定を行ないます。ヴァルだと120%あるんで……自動失敗以外は大丈夫。(サイコロを振って)19で成功。さらに1D10を足して、[達成度]は19。
忌ブキ: (サイコロを振って)こっちも成功です。[達成度]は18!
FM: では、15以上なのでふたりとも気づきます。すぐ近くの建物の屋上に、阿ギトへ向けられているクロスボウがあります。
エィハ: はい。
忌ブキ: は、はい!?
FM: そしてそれとは別に、通りのあちこちに隠れて、どう見ても武器を隠して持ってるじゃん、っていうヤツがさらに四人。
スアロー: あ、荒事が始まってるよ! 婁さんを連れて行かないと!(笑)。
婁: 無益に殺したくはないんだよねえ(笑)。
スアロー: なるほど。価値ある殺し(笑)。
(FMが戦闘用のマップを出し、駒を置き、曲を変更)
忌ブキ: わ、マップが出てきた! 音楽もバトルっぽく!
FM: 端にいるこれが、阿ギトさんです。で。北側の辺にクロスボウを持った敵がひとり、反対側の通りの裏に四人。今回は戦闘ルールを全部使いますよ。
忌ブキ: は、はい!
FM: ちなみに、通りの四人の武器はそれぞれ棍、黄爛剣、双節棍、素手といった感じですね。どうします? 何もしなければ、クロスボウに阿ギトが胸を射抜かれて終わりですが。阿ギトさん、戦闘能力的には普通の人なんで。
忌ブキ: も、もちろん止めますよ!
エィハ: (少し考えて)……忌ブキが止めたいなら。わたしも聞きたいことがあるので。
FM: 分かりました。では、戦闘を始めます!
阿ギトさんを狙うクロスボウ。
それを見た瞬間、反射的にぼくの身体が動いていた。
いいや。正確にはぼくの身体じゃない。ぼくの身体を取り巻くチカラ――大地と天空を巡る魔素が!
FM: このゲームの戦闘はいくつかのタイミングに区分けされてます。一番最初がレディセット。全員の動く順番――【反応速度】を確認するタイミングです。エィハから宣言を。
エィハ: 22です。ヴァルは56で動きます。
スアロー: 速っ! さすが獣。
FM: じゃあ、忌ブキ。
忌ブキ: 24です。ヴァルの半分以下……。
FM: 代わりに、忌ブキさんはこのタイミングで使える、皇統種ならではの【恩恵】がありますよ。
忌ブキ: (キャラクターブックをめくって)あ、ここに書いてる《魔素の勲》ですか。これって毎回使えるんですか?
FM: はい。黒竜騎士の【黒き契約印】、つながれものの【魔物】と同じく、その【恩恵】は皇統種だけのものです。代償があるかどうかは種類によりますが、《魔素の勳》は何度でも使える力ですね。
忌ブキ: わ、すごい! 使います使います!
意思を、込める。
それだけで、周囲の魔素が舞い踊る。ほかの誰にも見えない――だけど、確かに感じられる、ぼくに囁きかけてくれるチカラ。
この角が生えたとき、初めて気づいたぼくの味方。
そのチカラで、ほんの少し、エィハさんとヴァルの背中を押す。
スアロー: なるほど。皇統種は世界を味方にできるんですな。
FM: そんな感じですね。皇統種である忌ブキは、本人の戦闘能力はともかく、広範囲で他人を支援する術においては圧倒的にほかを上回ります。――では、十面体ダイスを四つ振って、結果を出してください。
忌ブキ: はい! (サイコロを振って)1、1、9、9(笑)。全部足して20です。
婁: 綺麗に平均値(笑)。
FM: では、忌ブキの呼び声に応じて魔素が群れ集い、周囲五マス内の味方の身体能力を強引に活性化します。エイハとヴァルの【反応速度】が+20されて、42と76になりました。
スアロー: ちょ! はええええええええ!
魔素によって活性化された、迅雷のごとき速度で、ヴァルが飛んだ。
その速度に、慣れてるはずのエィハも目を見張る。
「これって、忌ブキが……!?」
エィハは知らぬ。
現存する魔術――ドナティアの三大にも、黄爛の三大にもあらざる力。
かつてのニル・カムイにて、加わった軍すべてに勝利をもたらしたという、伝説の皇統種のチカラを。
FM: では、行動順はヴァルがダントツでトップですね。どうします?
エィハ: (少し考えて)これは、倒さなきゃいけないんですか?
FM: そうですね。倒す以外にも、阿ギトを連れて逃げるという手はあります。ただ、追っ手につかまらないようにしないといけませんね。
エィハ: ……よし、倒しましょう。
スアロー: この子も決断早い!
エィハ: 死ぬか殺すか、ですから。ヴァルの背に乗って、まず阿ギトを狙ってるクロスボウの暗殺者から倒しにいきます。がぶがぶ!(笑)。
通りの建物の間を縫って、音も立てずにヴァルが跳ねる。
背にはエィハも乗ってるというのに、羽毛のごとき身軽さ。暗殺者に気づかせもせず、その背中へと回り込み――主の視界を借りて、盲目の獣は獰猛なる牙を剝く。
FM: ヴァルの〈格闘〉技能は200%。このゲーム、技能が100%以上なら、成功確率を分割することで、複数回攻撃できます。この場合、100%で二回攻撃とか、66%で三回攻撃とかできますよ。
エィハ: じゃあ66%の三回攻撃でたくさん殴ります! まず牙で! (サイコロを振って)57で成功! [達成度]は25!
FM: それは命中しますなあ。(表を見て)当たった場所は胸部。
忌ブキ: 胸部? 場所とかあるんですか?
FM: ですよ。腕とか足とか頭とか、それぞれ命中部位があります。その部位ごとにヒットポイントが二種類あって、表層の筋肉や脂肪をあらわすFP、骨や内臓をあらわすBPという風になってます。後、全身の活力そのものを示すスタミナですね。
忌ブキ: うわ、細かい……。じゃあ、頭部のBPだと。
FM: 頭だと、BPは脳のヒットポイントということになりますね。ではダメージください。ヴァルの牙ですと、4D10+6に、今の[達成度]を足したものです。
エィハ: (サイコロを振って)6、6、5、9。ええと……全部で57点!
忌ブキ: 前の革命軍の兵隊さんは13ダメージとかだったのに……。
FM: ごじゅうなな? 57が胸……ん、っっ……57が、牙で、胸? あ……(ぱたんとクロスボウ持ち暗殺者の駒を倒す)。
忌ブキ: なんです?
FM: ヴァルの牙が、暗殺者の着ていた皮鎧を貫通。肉どころか骨髄まで抉られ、肺を食い破られて、クロスボウを持っていた暗殺者が死亡する。厳密にはスタミナだけ残った瀕死状態だけど、助かる可能性はまずないね。
一瞬だった。
ほんの一瞬で、杭のようなヴァルの牙が、暗殺者の胸板を穿っていた。
ぶるんと首を振って、絶命した暗殺者の身体を払い落とすと、再びヴァルが跳ねる。
スアロー: け、獣怖ぇ……。
忌ブキ: エィハさん……!
FM: エィハを止める?
忌ブキ: いえ、我慢します。ぐっと胸元を握りしめて、ぶるぶる唇を震わせます。
ここまでの旅だって、無事じゃなかった。
エィハに助けられてきて、必要なら人の命を奪ってきて。殺す必要なんかないってなまっちょろいぼくを、エィハはいともたやすく「でないとあなたが死ぬわ」と退けてきた。
だから――今更動揺なんかしない。
するものか。
エィハ: うんと、残りの攻撃は――
FM: このクロスボウ持ちはひとり別の場所にいたんで、意味ないですね。近くにいたなら、あまった攻撃を使えたんですが。というわけで、ヴァルの行動はこれで終了です。
エィハ: はい。
FM: 行動が終わると、最初の【反応速度】から【行動FT】という数字を引きます。これは一連の行動にどれぐらい時間がかかったかをあらわしてます。で、また【反応速度】の速いもの順で行動なんですが……ヴァルの【反応速度】、いくつになりました?
エィハ: ええと、【反応速度】が52になりました。
FM: ……うん。やっぱり、まだヴァルがトップですね。さっきの忌ブキの《魔素の勲》で、凄まじく加速してる。
エィハ: じゃあ、通りの裏に並んでる四人のところまで跳ねて、攻撃します! (駒を移動させて)また三回攻撃! がぶがぶがぶ!(笑)。
スアロー: がぶがぶ言っても、全然可愛くねえ!(笑)。
ヴァルの身体が、舞い上がる。
まるで、風だ。殺戮の白い風。
血に濡れた牙を剝きだし、エィハを乗せた魔物は、向こう側の通りに隠れていた暗殺者たちへも襲いかかる。
エィハ: 三回攻撃で、やります!
FM: 殺すって書いて殺るですね(笑)。
ふたりめは、ヴァルの接近に気づくだけの間があった。
棍を掲げ、受け止めようとするが……かなわない。頭上から地面へと、驚くほど低く沈み込んだヴァルの牙が、ふたりめの暗殺者の右足を嚙み砕く。
FM: 必死の棍ブロックも失敗か……。ダメージください。
エィハ: 45点です!
FM: 45が右脚に飛んできて、そっちの鎧と生来の防護点は……た、足りない! 神様足りないの!(笑)。肉のFP、骨のBPともに0! 右脚が鎧ごと弾け飛び、折れた大腿骨が皮膚から無惨に飛び出して、出血多量でショック死です(駒を倒す)。
エィハ: ショック死!
スアロー: この世界怖いわ(笑)。
FM: せ、せめて骨で止まると思ったのに……。で、ヴァルさん、まだ攻撃が残っていますが。
エィハ: はい、隣に残ってる暗殺者を殴りたいです(笑)。
婁: 殴るなんて可愛いもんじゃない(笑)。
後はもう、一方的だった。
いや、最初からだったんだろう。反撃など許さず、ヴァルの牙と爪が、暗殺者たちをいともたやすく八つ裂きにする。
魔物と人の、これが違いだというように……。
FM: よ、よし。今度は二撃は、耐えた、ぞ……。
エィハ: (サイコロを振って)最後の攻撃判定の出目は12。
FM: 12!? もとの技能、この場合〈格闘〉技能200%の十分の一――20%以下を振った場合、効果的成功となって、さらにダメージがあがります……!
エィハ: (嬉しそうに)はい!
FM: 攻撃の場合、効果的成功には致命表というのを使いますんで、もう一度D100を振ってください。
エィハ: D100……(サイコロを振って)31。
FM: 致命表の結果は「腕部防具の隙間へとねじ込まれる痛烈な一撃。[達成度]を二倍に計算する。相手の防護点を0として扱う」……うおああああ。じゃあ、ダメージは……。
エィハ: はい! (サイコロを振って)、8、8、7、6……全部で81点です!
FM: そんなの耐えられるか! 左腕の防具の隙間から牙が潜り込み、肉も上腕骨もぶちぶちとちぎって持っていく……今度はスタミナさえ残らない。可哀相な黄爛剣の持ち主、生死判定も抜きに死亡。
婁: どこの部位が一番美味しいか順番に試してるみたいですね。
エィハ: 美味しいところ(笑)。
スアロー: やっぱ肩ロースっしょ(笑)。
FM: (サイコロを振って)ああー、三人喰われたところで、暗殺者たちの【意志】判定も失敗。志気が瓦解して、「か、革命軍は来ないと聞いたのに……」「つ、つながれものだなんて、聞いてねえ……!」と、逃げ出していきます。
エィハ: 特に止めません。
FM: じゃあ、「く、喰われるのは嫌だ!」と、暗殺者たちは通りの向こうへ脱出(駒をマップの外に出す)。
スアロー: いやあ、凄いな(笑)。どうですか、忌ブキさん。下々の者が解決してしまったこの状況は?
忌ブキ: 女性は怖いですよね(笑)。
スアロー: うーん、何か、忌ブキさんとは心の友になれそう(笑)。
FM: では、戦闘を終了します。あ、そうそう。婁さんこちらを(メモを渡す)。
婁: (メモを見て)ああ、なるほど。そういうことなら。
スアロー: ん、何々?
FM: 大したことじゃないですよ。では続きを。
逃げた暗殺者たちを追わず、ヴァルは足を止めた。
その背中で、エィハがほんの少し息を弾ませる。魔物と魂を共有している少女は、自分の爪が人間の骨を抉り出すところまで、感じていたのだろうか。
「……」
吐き気をこらえて、深呼吸する。
そんな彼女とぼくへ、阿ギトさんは大きく目を剝いた。
FM: というわけで、音楽も戻そう(笑)。まさしく瞬きひとつの間に三人の暗殺者が食い散らかされた留置所すぐ近く。血まみれになったヴァルの元へ阿ギトが近寄って、「ああ……、ありがとう」とかすかにうわずった声で呟くよ。
スアロー: ありがとう(笑)。
FM: さしもの阿ギトも、呆然とした感じですね。「多くのつながれものを見てきたが……いや、これほどの猛者は珍しい。あのイズンが信頼していたのがやっと分かったよ。忌ブキくんも、今の妙に昂揚した感じは、君の力添えかな?」
忌ブキ: (手を振って)いえ、大したことはしてないんですけど。
FM(阿ギト): 「何にせよ、助けられた。こういうこともあるかとは思っていたんだが、議会は非協力的だし、すぐ連絡の取れる部隊もいなかったものでね。多分、妨害されてたんだろうな」
エィハ: そう。
FM: あ、ちなみにこのイベントを見逃していた場合、自動的に阿ギトさんが死亡して、大幅にシナリオに影響が出てましたよ。
エィハ: (素の声で)三田さん!?
忌ブキ: あわわ、それは困ります困ります! というか、そんな重大なイベントだったんですか!
FM: (すました顔で)ヒントは出しましたので。
エィハ: ハードなゲーム……! 死なない内に阿ギトに訊きます(笑)。――ジュナも同じように強かったわ。革命軍でわたしと同じ、まじりものでつながれもの。わたし、ジュナに会いに行きたいの。
FM(阿ギト): 「ジュナ。ああ、覚えてる。確かにあの子と、あの子の魔物も強かった」
エィハ: これから、分かれた道を行かねばならないわ。どちらに行った方がジュナと合流をしやすいの?
FM(阿ギト): 「どこに行くつもりだ?」
エィハ: ……なんて街だったっけ。
忌ブキ: (メモを見て)ハイガです。
エィハ: そう、ハイガ。
FM(阿ギト): 「ああ。目的地がハイガってことは、つまりベルダイム回りか黄爛仁雷府回りか、という話か」
忌ブキ: 分かるんです?
FM(阿ギト): 「議会との交渉のときに、少し聞いただけだがね。ベルダイム方面が〈赤の竜〉の被害は大きかったらしい。団長シメオンと副団長ウルリーカ率いる黒竜騎士団・第三団が、治安の回復に向かっているいうことだ」
エィハ: じゃあ、ベルダイムがいいの?
スアロー: やばい、このままではドナティアルートに(笑)。
FM(阿ギト): 「で、仁雷府の方だが、こちらは〈赤の竜〉による被害自体はマシだったが、竜の到来に引っ張られて、旧住民と行政府の睨み合いが強くなっているらしい。昔のままなら実質的なリーダーは千人長の祭燕と、軍師の甘慈のはずだが苦労してるだろうな」
エィハ: (少し考えて)……ジュナに会うのは、どっちがいいの?
FM: そう言われると、阿ギトは軽く肩をすくめるね。「どっちでもいいさ。ひとつ知り合いの家を教えてやる。そこで伝書鳩をもらって、どっちに向かったか教えてくれ。うまいこと合流できるよう、こっちから取りはからってみる」
忌ブキ: あ。そんな手が!
FM: でないと、阿ギトさん自身、合流できませんからね(笑)。エィハはそれでかまわないかな?
エィハ: うん。かまわない。これが訊きたかっただけだから、次はもう助けないわ。
スアロー: こえーっ!(笑)。
FM(阿ギト): 「そう言ってもらえると、少しは心が安らぐ」
エィハ: 安らぐの?
FM(阿ギト): 「これでも大人だからな。子供に借りっぱなしはきつい。実際のところは借りっぱなしどころじゃないが」
忌ブキ: ……そう、ですか。
FM(阿ギト): 「じゃあ、そろそろ行く。せっかく助けられたのに、また襲われたらかなわんからな。ふたりとも、いずれまた」快活に手を振って、阿ギトは通りの向こうに姿をくらますね。
忌ブキ: なんか、あっという間だった……。
エィハ: なんにせよ、あの人を助けることはできたみたいね。満足した?
忌ブキ: うん。……間に合って良かったと、そう思う。ありがとう。
FM: では、忌ブキが感謝の言葉を告げたところで、サブイベント、『阿ギト襲撃』を終了します。
エィハ: はい。
FM: シーン終了とともに、皆さん、婁さんだけを残して退席してください。
スアロー: な、何ぃ!?
『幕間』
通りの泥を蹴飛ばし、男たちは裏通りを必死で走っていた。
必死に身につけた隠身の技も、冷静さを保つための修行も、すべてが一瞬で消し飛んだかのようだった。
「あんな……バケモノ……もう来るはずが……」
呻きは、切れ切れに通りへ落ちていく。
実際、彼らはそう聞いていたのだ。革命軍の中核となる部隊のうち、ひとつは全滅し、もうひとつも行方をくらますのが精一杯でシュカには紛れ込みようもないと……その情報は確かなはずだった。
それでも。
自分たちだけは、命を長らえた。そう思っていた。
もうひとつ、影よりも暗い黒が、目の前へ現れるまで。
(ほかの全員がセッションの場から一時退席した後)
婁: では。
FM: では(笑)。婁は背中の剣に導かれて、スアローと離れ、とある裏通りへと足を踏み入れています。目の前にはふたり、自分と同じ稼業――暗殺者らしき風体の人物が、這いずるように歩いてる。
婁: どこまで、俺は理解してます?
FM: そうですね。もう留置所のすぐそばですし、争った気配ぐらいは分かります。それとさっきのミスカの恩赦まわりの発言からすれば、どのような事態があったかは十分推測できるでしょう。
婁: なるほど。……先の阿ギトとやらを、殺しそこねたと。
「おお、いたいた」
そんな念が、婁の背中から聞こえる。
婁の唇に、ほかの誰も見たことのない、淡い笑みが浮かぶ。
FM: 暗殺者たちは用心深く動きを止める。「お前、何だ……」
婁: 別に、恨みはない。素性に興味もない。ただ長い船旅の空腹をここらで満たしたい、と媛に言われたのでな。
FM(七殺天凌): 「下卑た味も、たまにはよかろうさ」背中から、あなただけに聞こえる声が。
婁: しばしお待ちを。七殺天凌を抜きます。
FM: あ、抜くんですね。じゃあ……(サイコロを振って)こっちの暗殺者ふたりも【意志】判定は成功してるけれど、[達成度]が足りない。足りるわけもないか。
暗闇に、その刃がほんの一筋だけ輝いて見えた。
ふたりの男が、目を剝き出す。その瞳に、こんな状況とはいえ、ありうべからざる強烈な感情が浮き上がった。
欲望。
理性ごときの制止など不可能な、ぎとついた欲望に、暗殺者たちが吞み込まれる。
「その剣」
「その刃、俺によこせ……っ!」
恐怖も忘れ、ふたりが駆け出した。
それこそは、妖剣・七殺天凌の持つ魔力のひとつ。
刃を見た者を残らず魅了する、いかなる戦士にも抗しがたい力。
FM: 刃の魔力にとらわれて、ふたりは殺到します。
婁: 斬れます?
FM: 男の【反応速度】からすると、婁が圧倒的に先手ですね。向こうから走ってくるので移動する必要すらない。
婁: はい。攻撃は〈黄爛武術〉……じゃなくて七殺天凌を使うから〈黄爛剣術〉ですな。こちらの技能は455%なので、成功率76%の六回攻撃としましょう。
FM: 知ってはいたけど、なんたる回数……。
婁: お前たちの今生で、ただ一度しか抜かぬ刃だ(サイコロを振る)。
結果は語るまでもない。
闇はただ闇に消えゆく。誰もその姿を見ることも、その足音を聞くこともない。
ただ、
「……ああ、堪能した」
そんな声と――生前が分からぬほどに干涸らびた、木乃伊のごとき死体が、通りには残されていた。
FM: では、この幕間を終了します。
『第九幕』
二時間。
ドナティアで使われる標準時刻の通り、全員は街の入り口に戻っていた。
乾いた砂が吹きつける門のそばで、ガダナンと呼ばれる魔象が大きく鳴き声をあげた。
FM: では、皆さんの合流からシーンを再開しましょう。
スアロー: おお、合流。……さっきは何があったんだ。
FM: さあ(笑)。さっきの阿ギトからの情報をまとめますと、魔物の被害が多そうなのが(地図をさして)こっちのドナティアルート、人間同士の問題がありそうなのがこっち、黄爛ルートですね。
忌ブキ: なるほど……。
FM: どちらのルートを選ぶかは、人間と魔物のどちらが大変と思うかによって変わるでしょうね。後、ややドナティアの方が道が長いぐらい。
スアロー: メリルはそろそろ戻ってくる?
FM: ええ。メリルも戻ってきて……スアローから言われていたことですよね? (サイコロを振って)判定は成功してますよ。
スアロー: あ、いやまあ、報告は後にテントで聞こう。
FM(メリル): 「分かりました」
スアロー: さて、人間同士のトラブルか、魔物相手の戦いか。後腐れない魔物との戦闘で、パーティの戦力を測っておきたいんだよね。
FM: どうします?
スアロー: まあ、そういうことは口にしないんだけどね!(笑)。多数決制度はよくないんだが、今回はそれでいこうか!
婁: (口元をさすって)ふむ、確かに難しい。つまり砂漠ルートか山岳ルートということでもあるな。
スアロー: え、砂漠があるだと!?
FM: ええ、地図にも書いてるでしょう。この黄色い部分は砂漠ですよ。
スアロー: ……僕ともあろう者が一番重要なことを聞き忘れていた。
FM: はいはい。
スアロー: このルート、どちらが快適なんだい?(一同爆笑)。
エィハ: ぼ、ボンクラ……(笑)。
忌ブキ: スアローさんって……(笑)。
スアロー: いや、厳しいのも大丈夫なんだけど(笑)。
FM(メリル): メリルがすごく嫌そうな顔をしつつも教えてくれるよ。「快適度だけなら、黄爛側のルートの方が短く、街での滞在が増える分だけ快適ではないでしょうか」んで、こう付け足す。「まさか、そんなことで選択されるとは予想もしませんでしたが」
スアロー: いや、違うんだ!
FM: まあ、同時に快適に睡眠を取らないと疲労するルールもあるんだけどね。
スアロー: それだ! 「そう、僕という人間は常にベストコンディションを保っていないと性能を発揮できないんで、その精神的な……」
FM(メリル): 「移動の準備をします」
スアロー: 人の話を聞いてほしいなーっ!(涙)。……まあ、そういうことも含めて、僕は黄爛ルートに一票かな
婁: では私もそちらに。
スアロー: くそう、隙見せねえ……(笑)。
忌ブキ: どうしようか、エィハさん?
エィハ: どちらでもジュナには会えるって言ってたし、どちらでもいいわ。――伝書鳩って言ってたのはもうもらっていいんですか?
FM: ええ。もうもらってます。特に問題なければ、ルート決定とともに伝書鳩を放ったことにしますよ。
忌ブキ: それじゃあ、この黄爛仁雷府を経由するルートで。
スアロー: おお、決定した!
FM: ルートが決定すると、待機していた獣師のミスカが「早速出かけようか」と声をかけるね。鞭の一振りとともに、三頭のガダナンが姿勢を低くして、梯子を登りやすくしてくれる。
スアロー: じゃあ年甲斐もなく、「一番! 僕が一番に乗ってもいいかな!?」と言いながら、答えも聞かずに乗っていく。わーい!(笑)。
忌ブキ: あ、じゃあスアローさんと同じガダナンに。
婁: 私は最後の一頭を。
エィハ: わたしは乗らない。ヴァルでいい。
FM: メリルは「こういう方でございますから」と頭を下げて、スアローの乗った象に乗ろう。ついにシュカから出て、移動とあいなります。
(ニル・カムイの地図に、移動用の駒を配置して、曲を変更)
スアロー: おお、駒が置かれて音楽が変わると、俄然移動してる感じ……。
FM: 言ったように、道を使ってれば一日に二マス移動できます。本日は情報収集でも時間を使ったので一マスだけですね。では、旅の間にどういうことがあったか、順番に移動表を振っていきますよー。
忌ブキ: 移動表!
FM: まあ、何かイベントがあったかどうかですね。いくらニル・カムイとはいえ何も起きない方が多くはありますが。今回もD100を振ってください。
忌ブキ: はい。(サイコロを振って)28。
FM: (表を見て)普通の道でこの出目だと、平穏な旅路の始まりですね。険しい山道もありますが、ガダナンはものともせずにがんがん踏破していきます。
スアロー: さすが王子、出目がいい(笑)。
ガダナンでの、初めての旅。
エィハとともにこのシュカへやってきたときとは、まったく違っていた。
舗装された道も、半ばが泥に埋まったような湿地も、すべておかまいなしにガダナンは踏みつけていく。中には足をとられるような場所もありそうなのに、それらはミスカさんが一声かけるだけであっさり回避されていった。
後で聞いたのだけど、口笛の変化や鞭に染み込んだ薬剤で、乗っていないガダナンでも簡単に操れるらしい。
獣師の民といわれる、秘術の数々。
「……まるで、違うんだ」
ぼんやりと、ぼくは呟いた。
山にでも乗ってるような、視点の高さ。頰を通り抜けていく風の匂い。ずしんずしんと座り込んだ腰に伝わる振動。
隣では、スアローは、楽しそうに鼻歌なんか歌っている。
黒竜騎士という触れ込みでやってきたこの人だけど、そんな感じはまるでしなかった。
重厚な漆黒の鎧とか、いくつも連なった不思議な剣の鞘とか、装備からかろうじて納得できるだけで――厳しさだけなら、メリルさんの方がよほどそれっぽいぐらいだ。
(……この人たちは、どういう人なんだろう)
やっと、そういう当たり前の疑問に、ぼくは行き着いていた。
FM: では一日目の野営に入って……特に何かすることがなければ、こうした野営とかの細々は飛ばしていきますが。
スアロー: あ、ごめん。野営のときにふたり用のテントがあるじゃない?
FM: はい。
スアロー: 「僕らはちょっと内々の話があるんで」って、メリルが持ってるふたり用テントに入ります。「さて、メリル。報告を聞こう。あの、ちょっと陰気なお兄さんについて」
FM: 了解(笑)。
婁: ほう。俺が一番警戒しているのはメリルさんなので、残りふたりの目をごまかせるんだったら、こっそり立ち聞きをしたい。
FM: でしたら、婁は〈隠密〉で判定をしてください。
スアロー: つまり、テントで話している横で婁さんが盗み聞きをしていると。……どんな絵面なんだよ(笑)。
エィハ: 地面の中かもしれませんよ(笑)。
婁: (サイコロを振って)おや? 00だと? これって確か100?
FM: 自動失敗! なんで〈隠密〉ばっかりこんなに運が!
エィハ: じゃあ、ヴァルか何かに見つかった形で。
忌ブキ: ヴァルがワンワン! と(笑)。
婁: むしろメリルの運が凄い。やはり、あの女には用心するしかないな(笑)。無表情に立ち去ろう。
スアロー: よし、これは素晴らしい情報が期待できるぞ(笑)。
FM: で、メリルからの情報はこんな感じです(メモを手渡す)。
メモの内容は、こうだった。
「可能な限りの範囲から探りましたが、黄爛側にもほぼ記録が残っていません。おそらくは暗殺者と思われます。確認がとれてませんが、過去には雇い主の将校を殺したとの噂もありました」
スアロー: (笑いを必死にこらえて)「メリルくん……スリーアウトだ」(一同爆笑)。
FM: いきなり(笑)。
スアロー: まあ、なるほど。これは他のふたりには聞かせられないな。……とはいえ、スアローは味方なら無条件で好意を、敵であるなら無条件で敵意を持つって信条なんで、婁の兄貴が味方である内はこの情報は伏しておこう。
FM(メリル): 「スアロー様のお気に召すままに」
スアロー: だがまあ細心の注意を。後、次の街に着いたら、忌ブキさんとエィハくんのふたりに何があったのか、可能な限り調べてほしいんだけど……まあ、あまり無理はしないように。
FM(メリル): 「情報が集まる場所となると仁雷府まで待つことになるかと思いますが」
スアロー: じゃあ、仁雷府あたりで。――うう、きな臭くなってきたなあ。
FM: 一日経過して、不可侵条約の消滅まで、残り八十九日となります……。
旅に出て二日ほどは、特筆するようなことはなかった。
荒れ野も鬱蒼と茂った森林も、ガダナンにかかってみれば、あっけないほど簡単に踏破できたからだ。シュカまで二ヶ月かけたわたしたちが馬鹿に思えるぐらいだった。
だけど、三日目の正午ぐらいに、小さな異変が起きた。
FM: では翌日。さらに駒を二マス移動させますね。
エィハ: (サイコロを振って)移動表は72です。
FM: (表を見て)荒れ野を過ぎて、あなたがたはガダナンとともに森林地帯を分け入っていきます。じめじめとした森の中は魔物も多く、街道も申し訳程度のものだけれど、ミスカの技量によってガダナンは不自由なしに通り抜けていく。さて、表の結果ですが――
エィハ: は、はい。
FM: 男がひとり、寝ています。
エィハ: は?
森の道の、ど真ん中。
そこに、三十過ぎほどの男が寝ていたのだ。
エィハ: 寝てる?
忌ブキ: 男の人が、道に?
FM: ええ、森の街道の真ん中に、大の字で。
口にするのは、簡単だろう。
寝転がるだけなど、誰でもできる。
だけど、ここはニル・カムイの森だ。魔物も山賊も跋扈し、横行する街道上だ。複数で見張りあう野営でもなく、わたしのヴァルみたいな存在もなしに、ただ寝転がるなんて、狂人でもありえない行為だ。
まして、いびきまでかいているなんて――
スアロー: ……ここは歌舞伎町か?(笑)。「ミスカさん、ストップ! ストーップ! 何か人が寝てまーす!」
FM: 「ん? ……信じがたいな」とミスカが呟くと、それに反応して男がふわあ……とあくびをかいて上半身を持ち上げるよ。「おお、良かった。通りがかってくれた人がいたか。すまない、水と食い物をくれないか?」
スアロー: うわあ、スアローは無条件で「そうか、それは大変だったね」って渡しちゃいそうなんだけど、メリルさんが止めてくれるのを期待する(笑)。
FM: まあ、メリルはそう言うね(笑)。「どう見ても怪しさしかないですよ、この人!」
スアロー: そ、そうか……。
忌ブキ: ど、どうしましょう……。
FM(男): 男はひたすらへりくだって頼み込むけどね。「や、その、すまん! 一文もないが恩には着るから!」って感じで(笑)。
婁: ……周囲は森なんだよね? ちょっと気配を探りたい。
FM: じゃあ【知覚】で。
婁: (サイコロを振って)判定は成功。[達成度]は13。
FM: 特にほかの気配はしないね。君たちがそんな風に顔を見合わせてると、男は勝手にべらべらと喋るよ。「いやあ、俺、黄爛の御用商人で瑞白って言うんだけどさ。先だって山賊に襲われちまってよ、馬車ごと何もかも持ち去られちまったんだ」
スアロー: ほっほー。奪還イベントかな。
FM(瑞白): 「で、どうしようもないと思ってさ。いっそ天運でも試してやろうかと、丸一日寝てたんだよ、はっはっは」(婁にメモを手渡す)
忌ブキ: 何か秘密のやりとりが!(笑)。
エィハ: やだねえ(笑)。
婁が、かすかに眉をひそめた。
瑞白と名乗る男が、ひそかに片手で示した符丁は、八爪会のものだったからだ。
「連れていってくれ」
端的に、男はそれだけを告げていた。
婁: ふーむ……。
スアロー: 何なんだろう、これ。
FM: いや、メモに「特に意味はない」って書いてるかもしれないよ?(笑)。
スアロー: あ、そうだよね(笑)。――それは災難でしたね。ところで、奪われた荷というのはどういうものだったんですか?
FM(瑞白): 「香辛料とかだったんだがね。まあいいよ、もう諦めてる。それより、良かったら仁雷府まで連れて行ってくれないか?」
スアロー: そのぐらいならおやすい御用ですが。――皆さんの反応は?
忌ブキ: 困っている人は、助けましょう!
スアロー: この島の未来は明るい……!(笑)。
エィハ: 無視!
スアロー: ごめん、暗かった!(笑)。
婁: 幸い、こちらにはまだ席に空きがあります、と自分が乗っているガダナンを示そう(一同爆笑)。
スアロー: (バンバンと机を叩きながら)あからさまに不釣り合いな親切っぷりですよねぇ!? なんだよ、この喋るデスフラグは!(笑)。
FM: じゃあスアローは反対?
スアロー: 口惜しいけど、性格的にできない(笑)。――ま、まあ、そ、そうですよね。空きがありますよね。じゃあ、婁さんと同席でよろしければどうでしょう?
FM(瑞白): 「いやあ、助かった。モノエに引き返そうかとも思ったんだが、あそこは最近やばい話が多くてね」
忌ブキ: モノエ? あ、このすぐ近くのとこですね。何かあったんですか。
FM(瑞白): 「ああ、ちょうど、先住民と黄爛の連中がにらみ合ってるんだよ」
スアロー: ん? それは聞き捨てならないな。にらみ合っているというと、それは街道が封鎖されてるとかそういうレベルなんですか?
FM(瑞白): 「うーん、封鎖はされていないんだが……ほれ、〈赤の竜〉がおかしくなったのは皇統種を滅ぼした黄爛のせいだ、とか旧住民が言い出しちゃってさ」
スアロー: ほう、そうなのかい?(忌ブキを見る)。
FM: 〈※地域知識:ニル・カムイ〉で成功すれば知ってますよ。
忌ブキ: あ、任せてください! それなら100%以上あります! (サイコロを振って)自動失敗じゃないんで成功です!
エィハ: 忌ブキは真面目に勉強してそう(笑)。
FM: OK。では、流石に忌ブキは知ってます。この島で三年前まで行われていた――俗に七年戦争と言われる事態のきっかけですね。皇統種の中からたったひとり選ばれる、この島の王たる契り子・耶マトが暗殺されたんです。
スアロー: うほ。暗殺……!
――契り子。
その伝説を知らぬ者は、ニル・カムイ人ではない。
皇統種の中でも特別な者が、秘せられた儀式を受けることで、この契り子となるのだ。契り子はニル・カムイの王であり、ニル・カムイそのものとして、島に君臨する。
実際の権限そのものは議会に委ねるところが多かったが、それでも島の人間すべてに行き渡る信仰をもって、ニル・カムイを統べていたのだ。
FM: 誰が契り子を暗殺したのかは分からない。だけど、当時はドナティア寄りだった契り子に業を煮やし、黄爛がやったのだという噂を、旧住民のいくらかは信じているようです。
スアロー: ……ふうん。その話は、今でも根強く?
FM(瑞白): 「まあ、さっきのモノエではね。仁雷府から治安用の軍隊まで派遣されたそうで、相当ヤバイ感じになってるぜ。
忌ブキ: ……人が、死んでるんですか?
FM(瑞白): 「俺が立ち去る直前には、死人が出る寸前、ってとこだったかな」まあ、余計に時間はかかりますが、モノエを迂回することもできますよ。
スアロー: どれぐらいのロスになる?
FM: そうですね、大体一日から二日のロスになります。でまあ、瑞白は興味深そうにあなた方を見回します。「しかしまた、随分と変わった旅模様だね。ドナティアの騎士さんとつながれものってだけでも珍しいのに……こちらの方は商人か何かで?」
婁: (澄ました顔で)似たようなものです。
スアロー: ぶっ!
エィハ: あはは(笑)。
スアロー: やばい、いろいろ婁の旦那の台詞が面白い(笑)。しかし、こういう質問に返せる共通の噓を考えてなかったな。「――まあ、たまたま仁雷に行く用事がありまして、それぞれ事情は違うのですが」
FM(瑞白): 「ははあ、旅は道連れってことか。まあ、俺もそのひとりで連れてもらうってわけだしね」
忌ブキ: (思い切った感じで)……あの。
スアロー: ん、何?
忌ブキ: モノエの争いは、僕たちで止められませんかね?
一瞬、スアローが口ごもり、まじまじと少年を見下ろした。
スアロー: ……君は、いい教育を受けているな。そう、皇統種でもドナティアの貴族でも、国は違えど貴族たるもの、争いの火種は消さねばならない! すばらしい! ――よし、モノエは迂回しよう!(一同爆笑)。
エィハ: 正真正銘のクズですね!(笑)。
FM: メリルさんも大層感心したように口を開くね(笑)。「大変人間的にどうかと思われる発言でございましたが……迂回という意見自体は肯定いたします」
忌ブキ: で、でも、みんな困ってるんですよ?
スアロー: 忌ブキくん、この国で困っていない人はいない……って言いたいんだが、これは我慢だな。子供に対しては好意的なので。
FM: じゃあ、どうします?
スアロー: うん。じゃあ、様子だけは見に行こう。で、よっぽどのっぴきならない事態で、かつ僕らにできることがあるなら、常識的な判断で、ある程度の活動はしてもいいんじゃないかな? どうだろう、婁の兄さん?
婁: 日数に限りがあることさえお忘れでないようであれば、これといって異存はございません。
スアロー: 婁の兄貴の言葉はいちいち含蓄があるな(笑)。で、エィハくんは……不干渉主義だよね?
エィハ: はい(笑)。
スアロー: 票数的にはほぼ拮抗か。……まあ、とりあえずはこの道通り、モノエに向かっていこう。
FM: 分かりました。では、残りは八十七日となります。次はモノエのシーンとしましょう。