レッドドラゴン
第一夜 第六幕・第七幕
「最前線」のスペシャル企画「最前線スペシャル」。三田誠がFiction Masterとしてシナリオを紡ぎ出すRPF、『レッドドラゴン』。参加者は虚淵玄、奈須きのこ、紅玉いづき、しまどりる、成田良悟の夢の5名。音楽を担当するのは崎元仁。最高の布陣で最高のフィクションを創造します。
『第六幕』
ニル・カムイにおいて、いまや首都といえる場所はない。
このちっぽけな島国は、かつての七年戦争においてドナティアと黄爛に蹂躙されたあげく、本来の王――契り子と呼ばれる皇統種をも失っていたからだ。掲げる王のなき今、それぞれの地方都市は独立せざるを得ず、かろうじて議会を通じたやりとりによってつながっている。
そして。
いまや首都とはいえなくなったとしても、独立都市シュカにはすべてが揃っていた。
近代的なドナティア租界。
長き歴史と伝統を備えた黄爛租界。
そして、わずかな自治権の代わりに、貧困と差別を押しつけられたニル・カムイ住民区。スラムと化した地域には奴隷市場や麻薬市場も密接しており、いつも腐った臭いがたちこめている。
そんな中に。
忌ブキとエィハの、姿もあった。
FM: ……というわけで、二ヶ月後、舞台はニル・カムイの独立都市シュカとなります。
忌ブキ: 時間飛んだー!
エィハ: (混乱しながら)あっという間なのか……それともすっごく長かったのか。
FM: さてさて(笑)。ともあれ、あなたがたはシュカまで辿り着きました。本来そこまでかかる距離じゃないんですが、食糧や路銀の確保も含めて、子供ふたりの限界といったところですね。
エィハ: (何度かうなずいて)……はい。
FM: 忌ブキさんの角は、この街だと目立つので、現状あの頭巾をしているということでいいでしょうか?
忌ブキ: あ、もちろんしてます。そっか。シュカに着いたんだ……(ため息)。
がっくりと肩を落とす一方、忌ブキの瞳にはかすかな好奇心の光も瞬いていた。
それだけ、珍しいものばかりだったからだ。地方の小さな村で育った少年にとって、シュカのような大きな街は初めての体験だった。
FM: もっとも、エィハにとっては、ひさしぶりの冷たい視線を受ける場所でもあるね。つながった魔物のヴァルを見れば、周囲を歩く人々はあからさまに表情を変え、中には唾を吐きかけてくる者もいる。
エィハ: ……ん、慣れてる。ヴァルの包帯に巻いた花だけは落ちないように、そばについて歩きます。
視線が痛いのも、唾を吐かれるのも今更だ。
ひどいときは、いきなり石をぶつけられることだってあった。
「……」
この島において、つながれものは便利だけど早死にする道具でしかない。エィハみたいにつながれものでありつつ、さらにまじりものでもあるならば、なおさらだ。
あのイズンは、それを変えたかったのかもしれないけれど。
「……自由」
小さく、言葉を舌に転がす。
何の味も、エィハには感じられなかった。
すぐ隣のヴァルが、小さなあくびみたいに、ぺたりと耳を動かした。
忌ブキ: ……エィハ、さん?
エィハ: 行きましょう。
忌ブキ: あ、あ、はい! ええと、この街で阿ギトさんのいるって場所分かります?
FM: 留置所か刑務所だろうけれど、さすがにシュカには着いたばかりですからね。ただ忌ブキさんはこの街にひとりだけ知り合いがいますよ。もともといた村の幼なじみが、シュカに引っ越ししてます。その住民区自体はなんとなく記憶しています。
エィハ: 幼なじみ!(プレイヤーがきらきら目を輝かせて机を叩く)。
忌ブキ: ちょ、食いつかないでください!(紅玉いづきを押さえつつ)わ、分かりました。ほかにあてもなさそうですし、幼なじみのところに寄っていきます。えと、名前は?
FM: 真シロ・サグラさんです。エィハはついていく?
エィハ: わたしがついていってもいいの? つながれものなのに?
FM: 忌ブキが記憶してる限りでは、真シロ自身はそうした差別の意識は薄かったはずですね。近くの孤児院にはつながれものの子もいましたが、楽しく遊んでました。
エィハ: ……じゃあ、一緒に行く。
住民区へ行く途中にも、いろんな人を見かけた。
異国の人も、多かった。
賑やかな市場を闊歩する金髪碧眼のドナティア人や、独特の民族衣装を着た黄爛人。
彼らを目にするたびに、ニル・カムイの人々は大きく離れたり――あるいは逆に、すり寄るように近づいたりする。
もっとも、
「……ぁ」
忌ブキが衝撃を受けたのは、もっと別のことだった。
つながれものやまじりものだけじゃなく、シュカには障害者がひどく多かった。
腕や目を失ったりした人が、道の外れに座り込み、わずかな金を目の前の皿にいれられるたび、おおげさにお辞儀する。多分その中の結構な数が、同情をひくため、自分や家族によって身体の一部を欠損したものだろう。
そんな話を、どこかで耳にしたことはあった。
目にしたことはなかった。
あの火山で死んだ革命軍にも、この街の出身者はいたのだろうか。
FM: では、小半時ほど歩いた頃、ふたりは目的の家に辿り着く。
忌ブキ: あ、はい。
FM: ニル・カムイ自治区の中でも、比較的マシな暮らしをしてるっぽい地域の小さな屋敷です。ややドナティアよりの煉瓦造り建築が目を惹きますね。
忌ブキ: ……良かったぁ。ちゃんと幸せそう(本当に胸を撫で下ろす)。
FM: 玄関でノックとかする?
忌ブキ: そうですね。手をあげて――
FM(少女): では、近づいてノックしようとすると、「え?」という女の子の声がする。
忌ブキ: あっ――
「あれ、忌ブキちゃん!?」
その声だけで、急に時間が巻き戻った気がした。
村が焼き滅ぼされるより前。あの竜に出会ってしまうよりも、さらに前。
こんな角が生えてしまう前の、平凡な自分。
孤児院のすぐ側、小さな屋敷に住んでいた、潑剌とした少女。
印象をそのままに――髪を伸ばした姿は見違えるほど綺麗になって、少女は忌ブキの目の前に立っていた。
忌ブキ: ……真シロ、ちゃん。
FM(真シロ): うん。間違いなく君の幼なじみの真シロ・サグラだ。くりくりした目をさらに大きくして、彼女は口を開くよ。「何があったの忌ブキちゃん!? すっごく疲れた顔してる!」
忌ブキ: えっと……ちょっと色々あったんだ、と濁します。
FM(真シロ): 「そうなんだ! え、え、ひとりなの?」
忌ブキ: 友達は……ひとりだけ一緒。
FM(真シロ): 「だったら連れてきてよ! 久しぶりなんだから、ご飯ぐらい一緒に食べよう? すぐにスープを温めるから!」
エィハ: じゃあ隠れてた通りの陰から出てきます。ヴァルも後ろからひょこひょことついてくる。
FM: ヴァルほどの大きな魔物は想定外なので、さすがに驚いた顔はしますね(笑)。「う、うん、大丈夫大丈夫。で、でも裏庭からじゃないと入れないかも! 今開けるから待ってて!」
エィハ: うん。
FM: ぴょこぴょこと少女が兎みたいに跳ねて裏口の門を開けると、ヴァルが隠れられるように庭に毛布を干してくれます。それから温かいスープをふたりに振る舞ってくれますよ。
忌ブキ: わぁ……なんか、この話が始まってから、初めてよいことに出会った気がする。
FM: 革命軍もあなたを歓迎してましたよ(笑)。
忌ブキ: 歓迎はしてくれましたけれど! あれがいいことかっていうと!
FM: はてさて(笑)。では皆さんが食卓について、落ち着いてスープとパンを頰張っていると、真シロさんは嬉しそうにその様子を見ながら、忌ブキに尋ねるよ。「……でも、どうしたの急に? 村のみんなはどうしてる?」
忌ブキ: ……あ、やっぱり聞かれた。……村は……ちょっと色々あって、今はないんだよ。
FM(真シロ): 「ない!? な、ないってどういうこと!?」
忌ブキ: い、色々、あったんだよ……。
FM(真シロ): 「色々ありすぎでしょ! まさか、噂になってる〈赤の竜〉に焼かれちゃったとか?」
忌ブキ: え、そういう噂もあるんですか。
FM: そうですね。あなたたちも耳にはしてると思います。なんでも、いくつかの村と町が〈赤の竜〉に焼かれたとか。
「……」
思わず、目を見開く。
あの後、竜の起こしたという悲劇を思い返し……やっとのことで、返事をする。
忌ブキ: ……それとは、また、別なんだ。
FM(真シロ): 「そうなんだ。それなら良かった……のかなあ?」と、真シロはしょぼーんとする。「もう、あたしがあの村にいたの四年も前になるね」
忌ブキ: そうだね。
FM(真シロ): 「今でも、あのころが一番楽しかった気がする。忌ブキちゃんがいて、孤児院のみんながいて、ハイネ先生もいて……あ、ハイネ先生っていうのは村にいた宣教師さんのことね」と、エィハにも説明するよ。
エィハ: 特に気にせずに、もむもむ食べてます。スープ美味しい(笑)。
FM: 分かりました(笑)。真シロも反応がないことはそんなに気にしません。「すっごくいい人だったんだ。ドナティアの人だったけど、どこの国とかどういう生まれとか、何にも気にしなかったし。神の恩寵は誰にでもあるよって、そんな風に教えてくれた」
忌ブキ: ……。
FM(真シロ): 「あれから、あたしは親戚が見つかってこのシュカに引っ越ししたけれど、今でもよく思い出すよ。……だから、村がなくなったのはすごく寂しいけれど……忌ブキちゃんが無事で、本当に良かった。忌ブキちゃんがひとりきりじゃなかったのも、すごく良かった」
忌ブキ: ……ああ、なんか返す言葉がないです。「ありがとう」、とだけ。
FM: 真シロはにっこり笑いますね。「でも、ここには何をしに来たの? まさかあたしに会いに来てくれただけってのじゃないよね?」
忌ブキ: あ、うん。……真シロは、この街の留置所の場所って知ってるかな?
FM(真シロ): 「留置所?」
FM(真シロ): 「ここの南の外れだけど……」場所は教えてくれるし、簡単な地図もくれるけど、留置所と聞いて心配そうな顔にはなるね。「……大丈夫? 無理なことしてない?」
忌ブキ: 大丈夫……だよ。
FM(真シロ): 「そっか……」じゃあ、エィハの方に深々と頭を下げる。「忌ブキちゃん、ちょっとトロいところがあるんだけど、よろしくお願いします」
エィハ: (平然と)知ってる。
忌ブキ: 知られてますね(笑)。
FM(真シロ): (笑)。「本当は、一日ぐらい泊まっていってほしいんだけど……ごめんね。多分おじさんが帰ってきたら、つながれものにいい顔しないと思うから……」
忌ブキ: 大丈夫。エィハさん、行こう、と言って家を出ます。
エィハ: 分かった。スープは飲み干していきます(笑)。
FM: 了解。じゃあ、「また来てね」と言って、真シロは君たちを見送って手を振る。いつまでもいつまでも、君たちが見えなくなっても、しばらくずっと手を振り続けるよ。
FM: では、再び場所は変わる。真シロの地図のおかげで、ニル・カムイ自治区の留置所には迷わずに到着するよ。
忌ブキ: (唾を吞み込んで)……はい。
FM: 異様に堅固な石造りの建物だね。周囲の施設もほとんど公的なものらしく、住民の姿は見あたらない。本来、つながれものは立ち入りを許されないそうだけど、阿ギト・イスルギの名前を出すと、一応許可が下りるよ。
エィハ: 入っていいの?
FM: うん。監視はつくけどね。革命軍指導者という経歴上、つながれものやまじりものの面会希望が後を絶たなかったためらしい。じゃあ、面会する?
エィハ: うん。
FM(阿ギト): OK、ではあなたたちが案内されるのは留置所の中庭だ。
暗い中庭で、忌ブキたちは待たされることになった。
四方を石に囲まれており、天井も金網で覆われている。つながれものが暴れたり、脱走しようとしたときのための備えだろう。ここまでの通路にヴァルが通れるほどの余裕が持たされていたのも、いかにもニル・カムイらしい配慮ではあった。
陰鬱な空間に、拭い切れぬ異臭がこびりついている。
やがて、向こう側の扉から、ひとりの男が警備員に連れられてきた。
忌ブキ: 阿ギト・イスルギ……!
FM: その通り。三十代半ばで、伸び放題に髭を伸ばした男だ。
長い牢獄生活のためだろう。
男の身体はひどく汚れていた。髭だけでなく、髪も伸び放題で、あちこち破れた服は垢じみている。肩のあたりを何匹も蠅が飛び交い、腕は鎖に繫がれたままだった。
だけど。
不思議と、明るい瞳をしていた。
子供のような無邪気さと、独特の繊細さを感じさせる瞳だった。
「おう、お前ら。知らない顔だが……革命軍の新入りか?」
忌ブキ: は、初めまして。忌ブキと言います。
エィハ: エィハ。この子はヴァル。
FM(阿ギト): 「そうか、よろしくな」鎖につながれたままではあるけど、阿ギトは君たちに手を伸ばす。
忌ブキ: あ、はい! 握手します!
エィハ: 阿ギトだけ? わたしの友達はいない?
FM: ここに捕まったのは阿ギトだけだよ。君の友達は別働隊だね。
エィハ: そう。じゃあ用件を話す。――あなたに会えと言われたの。
FM(阿ギト): 「へえ、誰に?」
エィハ: イズン。
FM(阿ギト): 「……あいつは、どうなった?」
忌ブキ: まあ、事情を話します。特に隠したりはしません。
FM: 分かりました。じゃあ、あなたが皇統種であるとか、そういう話に驚きつつも、最後の〈赤の竜〉の話に、阿ギトは深々とため息をつく。「そうか……。イズンのヤツ、俺を待てなかったか。そりゃ皇統種なんて代物に会ってしまえばな……」
忌ブキ: 待てなかった?
FM(阿ギト): 「あいつも、もう十四歳だったからな」と言って、無念そうに唇を嚙む。「つながれものとしてはほぼ限界だ。生体魔素の免疫関係上、十六歳まで保ったつながれものはいねえ」
忌ブキ: あ……っ!
忌ブキは、絶句する。
この島では常識過ぎて、忘れていた。つながれものは短命種なのだ。魔物と融合し、命を共有するという無茶は、長く続くものではない。
生体魔素の柔軟性が高い子供の内しか、命を保つこともできないほどに。
エィハ: ……黙ってます。つながれものが短命なことは知ってるので。
FM: ではそんなエィハと忌ブキを見比べて、しばらく阿ギトも黙り込む。それから、ゆっくりとこう切り出す。「お前たち、あれから〈赤の竜〉がどうなったか知ってるか?」
忌ブキ: ええと……村とか街が、いくつも焼かれたとか。
FM(阿ギト): 「俺が聞いただけで、すでに十四の村、五つの街が滅ぼされてる。最新の情報ではもっと増えているだろうが。皆がこう言っているよ。〈赤の竜〉は狂った、と」
忌ブキ: 狂った……!
FM(阿ギト): 「その被害があまりにも大きかったんだ。しかも、ドナティア租界だろうが黄爛租界だろうがおかまいなしだったから、少しばかりおかしなことになった」
エィハ: ……なぁに?
FM(阿ギト): 「非公式だがな。それぞれの組織から人員を出し合って調査隊をつくるってことになったんだよ。〈赤の竜〉が狂乱した理由を調査し――必要なら排除することも可能なほどの、精鋭調査部隊をな」
忌ブキ: わ、思ってもみなかった話なんで、身を乗り出しちゃいます。そんな部隊が!?
FM(阿ギト): 「ああ。だが、議会にはそこまでの武力はない。もともと、最低限の治安部隊しか持たないことで、ドナティアと黄爛のお目こぼしをもらってたぐらいだ。……それで、あいつらは俺の恩赦に条件をつけてきた」
忌ブキ: 条件……ってなんですか?
FM(阿ギト): 「恩赦の代わりに、革命軍の精鋭を寄越せだってよ。だから、もともとはイズンに頼むつもりだった。あいつの魔物なら、誰も文句はつけなかったろうからな」
エィハ: (素に戻って)うん、強かった。四十メートルだもんねえ。
FM(阿ギト): 「だが、イズンはもういない」鎖に繫がれた拳で、自分の膝を叩く。
忌ブキ: あ……。
何も、言えなかった。
言えるはずもなかった。
イズンにとって阿ギトが憧れなら、阿ギトにとってイズンは希望だったんじゃないかと、そんなことをとりとめなく思ったのだ。
そして。
FM(阿ギト): 「……なあ、忌ブキ、エィハ。このニル・カムイは本当にしんどい場所だぞ」
口ごもった少年を前に、阿ギトは語り出す。
忌ブキ: ……眼光の鋭さに、つい唾を吞み込みます。
FM: 分かった。阿ギトは続けて言う。「ドナティアはこの島を、黄爛への橋頭堡としか思ってない。黄爛だって魔素流を押さえるのに便利な土地としか思ってないだろう。そのふたつに土地も食糧も奪われたあげく、異常現象ばかりが多発する。ただでさえ少ない資源を奪い合って、一体何人が殺し合った? 大人が子供を殺し、夫が妻を殺し、友人同士が殺し合うような時間はいつまで続く?」
阿ギトは、語る。
たったふたりと一頭の魔物を、万人の聴衆であるかのように。
エィハ: (少し考えて)……わたしは黙ったまま。
FM: 了解。阿ギトはさらに続けて言う。「それでも……いいや、だからこそ、僕は旗を掲げたい」
阿ギトは、語る。
この狭苦しい中庭こそ、世界を決する大議会の壇上であるかのように。
FM(阿ギト): 「旗の名は自由だ。どんな場所だろうが時代だろうが、人はもっと自由であるべきと謳う旗だ。革命軍に自ら加わった人間なら、みんな心のどこかでそう思ってる。年も生まれも性別も、何ひとつ関係なく、これ以上奪われてたまるかと叫んでる」
忌ブキ: ……。
FM: そこまで一気に言うと、阿ギトは恥ずかしそうに拳を下ろすよ。「悪い。つい、昔の癖が出た。僕なんて、こんな髭面には似合わんだろ?」
忌ブキ: ……いいえ。全然、そんなことありません。
FM: そう言われると、困ったように笑う。それから、思い切ったようにこう切り出すよ。「……ふたりとも、身勝手な願いだが、頼めないか?」
エィハ: 頼むって、ひょっとしてさっきの条件? 精鋭部隊の話?
FM(阿ギト): 「ああ……先の話からすると、お前らふたりなら議会も文句は言わないだろう。恩赦さえ得られれば、俺は革命軍を立て直す。この島中を巡って、ニル・カムイを解放するための勇士を集めてみせる。そのための時間が欲しい。もし協力が得られるなら、これから調査隊が得るだろうドナティアや黄爛、〈赤の竜〉の情報も欲しい。……俺を、助けてもらえないか?」
忌ブキ: 阿ギトさんを……助ける?(かなり長く考え込む)それで、島が平和になるんですか?
FM(阿ギト): 「俺は、そうしたいと思っているし、そうするつもりだ。そうしなければならないという熱が俺の背中を押す」
熱、と阿ギトさんは言った。
そうしなければならない。そうでなければならない。そういう想いは炎にも似た熱量なのだと。
すとんと、ぼくの胸にその言葉が落ちた。
だから。
忌ブキ: ……それが、ぼくに出来ることなら手伝います。
FM(阿ギト): 「ありがとう」阿ギトはぐっと拳を握ってうなずく。さて、エィハはどうします?
エィハ: ……みんなどうして自由を欲しがるのか、わたしには分からない。
FM: ほう。
エィハ: 忌ブキの友達から、さっき一杯のスープを貰ったの。とても美味しかったわ。幸せの味だと思った。その一杯だけで、忌ブキは幸せに生きていけると思う。自由のために戦って死ぬことが、そんなに素晴らしいことだとはどうしても思えない。
FM(阿ギト): 「そうかもしれねえ。自由のために死ぬなんていうのは本末転倒かもしれん。だけど、俺は別の生き方を知らん。ほかの死に方なんてもっと知らん」
エィハ: ……そう。忌ブキも、自由が欲しいの?
忌ブキ: ぼく? ぼくは……ぼくにしかできないことがしたい。
エィハ: (FMの方へ振り返って)――ねえ、わたしは後どれぐらい生きられる?
FM(阿ギト): 「今、お前はいくつだ?」
エィハ: 十。
FM: では阿ギトは沈鬱な顔で答える。「正確には分からんが、六年以上ということはないだろう。十六まで生きられたつながれものは知らん。残酷なことを頼んでいると思う」
エィハ: ……わたしの友達、革命軍の別働隊にいるのだけれど、会える?
FM: 「やってみよう。どうせ連絡は取らにゃならん」
エィハ: だったら、それまでは忌ブキと一緒にいる。
FM(阿ギト): 「分かった。……できたらよろしく頼む」そろそろ面会時間も終わりです。阿ギトを手伝うなら、さきほどの調査部隊について集合場所と時間を教えてもらえますが、向かいますか?
忌ブキ: はい!
FM: 分かりました。ではここでシーン終了します。次からはいよいよ本編。全員でフィクションに参加となります!
『第七幕』
――そして、すべてはニル・カムイへと集う。
FM: (全員テーブルについたのを見ながら)お待たせしました。いよいよ本編開始です。皆さん、無事にそろって何より。
エィハ&忌ブキ: (ハモって)無事だと!?(笑)。
FM: ぶ、無事っぽく。
スアロー: あちら、まったく無事っぽくないリアクションですがー。
FM: や、プレイヤーは無事ということで。
婁: プレイヤーは無事ですねえ(笑)。
FM: ええ。ではまずスアローさんから行きましょうか。舞台はニル・カムイの独立都市シュカであります。
スアロー: はーい。
折から、シュカには雨がぱらついていた。
細く、長い霧雨だ。海の向こうはひどく煙って見えた。
しかし、そんな雨を切り分けるようにして、ドナティア租界の港へ一隻のガレオン船が停泊する。
ひとりの騎士と従者が、そこから降りてきたのであった。
スアロー: いや、これがニル・カムイか。うん、見る物すべてが新しい! 素晴らしい! この島は物に溢れている!
FM: お、おお。じゃあ従者のメリルさんが後ろで小さくため息をつくよ。「あなたが何を言っているのか、まったく分かりません……」
スアロー: だって見ろよメリル、あのやたら繁栄したドナティアの〈王都〉に勝るとも劣らない混雑ぶりだ! 黄爛文化とドナティア文化がここまで衝突した風景はないんじゃないかな! ほら、後よく分からない……えーと、土着民族もいるし?
FM: 土着民族って言った!(笑)。
スアロー: うん、今のは忘れてくれ。色々な工芸品が溢れてる。僕的にはちょっと、いいね。ベストプレイスだね。――と、目を輝かせながら、わーいとウキウキしている。
FM(メリル): 「そもそもここまで来るまでの間、どれだけ船酔いに悩まされたか……」
スアロー: それはそれ、これはこれだよ。
FM(メリル): 「ですが、正直予想以上の揺れでした。魔素流の影響で飛行船はおろか、脆弱な輸送船では島にすら近づけないというのは本当でしたね」
スアロー: あまり航海はしたことがないので、これが普通だと思いつつあるのだが(笑)。
FM: (疲れたように)……そうかー。
スアロー: いやまあそれなりには考えてるって! これでは軍隊も派遣できないし、必然的に少数精鋭になるわけだね。
FM: うん。便利な場所にあったり、特産物もあるわりに、貿易が限られているのもそういう理由。環境がニル・カムイの状況を決定づけてるわけだ。
スアロー: ふんふん。で、迎えとかは来るのかな?
FM: いや、いない。ここにいるのはあなたとメリルだけで……。
スアロー: マジかよ、僕はぼっちだったのか!
FM: ぼっち言うな! 非公式の調査隊言うたやろ! 一応、この島自体は黒竜騎士第三団の縄張りなんですが、そういう理由で迎えはありません。
スアロー: さもしい話だねぇ……。
FM: 集合場所が、この街の議員公館だっていうのは聞いているけれど。
スアロー: 旅先でいきなり仕事というのも何だが。まあ、ここは仕方ないか。その議員公館とやらに向かいますよ。
FM: OK。では、港近くはドナティアに似た風景だったが、租界を出た途端、風景が変わる。
異臭が、スアローの鼻をついた。
糞尿の臭いだというのは、嫌でも分かった。街を歩く者の服もすりきれ、荒んだ感じがきつくなる。
何よりも、目の光が失われた。
スアロー: みんな目が死んでるー!
FM: ドナティア租界から出てきた騎士の姿を見るだけで、人々がぱたぱたと散っていく。あるいは「おめぐみを……」とすりよってくる者もいるけれど。
スアロー: (無言で自分の懐をさぐる)あ、あの、め、メリルさん……。
FM: メリルはきっぱり首を横に振るね。「そういったものには関わらない方がよろしいかと」
スアロー: だよね。では、少し後ろ髪引かれながらも無視して行きます。
FM: じゃあ、ここで一旦切って次は婁にしましょう。
時を同じくして。
港の黄爛租界側に、堅固な帆船が停泊した。
すぐに、忙しく船員たちが行き来する。魔素流の関係上、船は堅固さが優先されるが、それでも大勢でかからねば片付かない程度の荷物はある。
そして。
そんな船員たちの間を、目立たぬ影が過ぎていった。
ほかとは違った雰囲気を纏う――黒ずくめの男がゆっくりと降りていったのだった。
FM: 黄爛の帆船に乗って、婁もシュカに降り立つ。受ける感じとしてはスアローとあまり変わらないけど、ドナティア租界よりは賑やかかな。
婁: 人は大勢なんですか?
FM: それなりに多いね。黄爛は商人が多いので、商業的な用語が飛び交っている。魔素流の問題こそ一緒だけど、距離的にはドナティアよりずっと近いし。
婁: ふむ。人が多い場所は好きだよ?
スアロー: 一方その頃、道を歩いてるスアローが、唐突に空に向かって「噓っ!?」と叫んだりする(笑)。
婁: (淡々と)いやいや、餌になる血袋は多い方がいい。
忌ブキ: うわあー!
スアロー: あー、もう、はじめから全開ですよこのキラーマシーン!(笑)。 自分の性癖を隠す気がまったくねー!
FM: では、あなたの背中の七殺天凌がしゃらりと鳴って、意思を伝える。「いい島だのう。濃密な血の臭いがする」
婁: 気に入っていただけたなら何より。
FM(七殺天凌): 「おおとも。この島では喰らう魂に不自由すまい」
婁: (うやうやしく)長逗留もよろしゅうございましょうな。
エィハ: 何ですこれ(笑)。
FM(七殺天凌): 「そうよの。婁、本当におぬしはわらわを退屈させないのう」……やばい、すげえ嚙み合う。
婁: 着いたあとの采配というか、どこで何をしろとかの指示は来てますか?
FM: そうだね。地図を渡されて、この街の議員公館に行けって言われてる。
婁: そこで例の混成調査隊と会う手はず?
FM: そういう風に聞いてますね。ニル・カムイ議長以外に、どんな人間がいるかまでは知りませんが。
婁: ……時間的な余裕は?
FM: 時間はそこそこありますよ。ちょっと街を回っていってもいいぐらい。
婁: なるほど……今の俺の格好は、この土地柄には馴染んでます?
FM: そうですね。黄爛租界、ドナティア租界、ニル・カムイ自治区と三つ地域がありますが、今着ている黒ずくめの服装だと、どこに行ってもそれなりには馴染むし、それなりには不自然です。言ってみれば三種混合ですから。
婁: ふむ。できれば、真っ先にその議員公館に行って、こっそり見張れる場所を確保したいかな? どんなやつらが来るのか見たい。
FM: だったら、議員公館に着いてから、〈隠密〉判定をすることになりますね。
婁: よし、すぐに向かう。
議員公館は、ニル・カムイ自治区の中心にあった。
ドナティア租界から見ても、黄爛租界から見ても、ほぼ等距離の位置。それぞれに気を遣った結果だろう。逆に言えば、両国に直接関係のない議員公館の建設さえ、それぞれに機嫌をうかがわずにいられないのだ。
FM: 公館までは迷わずに着きます。では、〈隠密〉判定を。方法は分かります?
婁: うん、覚えてる。(サイコロを振って)う……96。でも〈隠密〉技能は235%あるからこれでも成功?
FM: (沈鬱な顔で)いえ……大変残念ですが、96以上は無条件で自動失敗です。突発的な不幸で見つかってしまいます。
婁: む。
FM: こう、初めてのニル・カムイの雰囲気に浮き足立ったのか、隠れ場所を物色してるのが超目立ってる状況に。が、そのことに気づかない(一同笑)。
婁: あ、道の真ん中に怪しげな男が!
スアロー: ところでメリル、あれ何?(笑)。
エィハ: しっ、目を合わせちゃダメ!(笑)。
FM: まあ自動失敗だから、堂々としすぎてて隠れてるようには見えないかもね。ちょうどやってきたスアローたちと目は合うんだけど、怪しむかどうかはあなたたち次第で。
婁: じゃあ、そそくさと目をそらして、通行人のそぶりを装うかね。
スアロー: なんだ地元の人か(笑)。
FM(メリル): メリルは怪しんで、軽くスアローの袖を引っ張るよ(笑)。「スアロー様。今の方は……?」
スアロー: いや、初めて見る顔だけど? ここまでの街の反応からすると、ドナティアの黒竜騎士が珍しかったんじゃ?
FM: 対して、婁の背中で、七殺天凌もしゃらんと鳴るよ。「どうやら、あれがドナティアの黒竜騎士か」
婁: (重々しく)一発で見破られるとは、中々目聡いようで(一同爆笑)。
スアロー: やばい、婁さんの台詞に殺意しか含まれてない! 違うんだ、僕はただのボンクラなんだ、婁さんの正体とかまったく気づいてないですよー!
婁: 少し警戒した方がいいかもしれないなあ……ふたりいたということは、残りの調査隊の面子はひとりか?
FM(七殺天凌): 「どちらもドナティアの服装に見えたゆえ、女は従者かもしれぬ。騎士をひとりでやってこさせるわけにもいくまいし」
婁: (少し考えて)なるほど……。ちなみに、合流するにあたって身の証とか、風体の伝達とかは一切ない?
FM: 身分証明に、割り符をもらってるぐらいですね。
婁: 割り符? ほっほっほ、なるほどね。よし、では姿を見られてしまったし、一度退きます。先にスアローさんを進めておいてもらえますか。
FM: は? もちろん、それはかまいませんが。
スアロー: おおお、猛烈に不安になってきた(笑)。……ところで、メリルさん。
FM(メリル): 「何ですか?」
スアロー: 僕、今回の任務につくにあたって、何かすごく重大なことを聞き逃していないかな!?(一同笑)。
FM(メリル): 「そもそも任務の詳細はあなたしか聞かされていないのですが」
スアロー: そ、そう。そうだよね。ニル・カムイに行ってある任務をこなしてこいと言われてるんだが……。
FM(メリル): 「詳細はともかく、身分証明用の割り符でしたらわたくしが受け取っております」
スアロー: (指を鳴らしてからメリルを指さし)そ・れ・だ!
FM: ホント、ひどい会話だ(笑)。議員公館はもう目の前だから、このまま入れるけど?
スアロー: 入る入る。ええと、目的の人物は?
FM: 公館のロビーで、その相手もすぐ見つかる。というか、それなりに広い建物なんだけど、ほかの人間は衛兵以外見あたらない。
スアロー: ん、どういう人?
FM: ロビーの椅子に座った、四十過ぎの男だ。足が悪いのか杖をついているけれど、虚弱な印象はまったくないね。眉間にきつい皺を寄せて、狷介さと老獪さを強く感じさせる。
スアロー: うお、やり手っぽい。
FM: じろ、と男は君たちを睨め付けて問う。「ドナティアよりお越しの方々か?」
スアロー: 挨拶してさっきの割り符を渡せばいいのかな?
FM: そうですね。メリルが割り符を差し出すと、男はちらっと見ただけでうなずく。
男はゆっくりと立ち上がり、一礼する。
ただでさえ深い眉間の皺をさらにきつく寄せ、こう告げた。
「――初めましてと言おう。私がニル・カムイ議会議長、狗ラマ・カズサだ。もうお一方が到着するまで、こちらで待ってもらってもかまわないかな?」
婁: なるほど。そうなったか。では、こちらも進めていいです?
FM: あ、はい。大丈夫です。
婁: まず、この街で八爪会って人気的にはどうですか?
FM: 黄爛租界でなら、そこそこ人気ですね。
婁: たとえば八爪会での出世を急いでいる下っ端とか、そういうスタンスの人を捜せる?
スアロー: うわ。この人、この段階でもう退路を確保しようとしてる。足場固めだ(笑)。
エィハ: これが、ゲームなんですか……。
FM: 出目が悪くてもプレイングでカバーする、年季の入ったゲーマーの動きですね(笑)。そういう人を捜すなら、技能での判定が必要です。〈地域知識:黄爛〉か〈※専門知識:八爪会〉が適切ですね。
婁: じゃあ、〈※専門知識:八爪会〉で振ってみよう。(サイコロを振って)成功。
FM: [達成度]も出してください。技能の効果値に1D10(十面体ダイスを1回振った出目)を足した数値です。
婁: (サイコロを振って)12。
FM: [達成度]で10以上は「その筋のプロの領域」ですからね。十分です。八爪会の寺院近くで、そうした雰囲気の人間は何人か見つかります。
婁: そうだなあ……なるべく孤立しているヤツがいいな……。
国が違っても、婁の行動に迷いはない。
もとより八爪会の信者など、どの国でもそう違うものではないのだ。何人かを注意深く観察し、すぐに婁は都合の良い相手を選び出す。
婁: 八爪会での位階を示すようなものはあります?
FM: もちろんあります。八爪会の場合、服の刺繡なんかで区別するのが主ですね。こういう任務ですと服の裏地に刺繡されてるかと思います。婁の位階は結構高いですよ。
婁: では、それを見せた上で、こう言います。「ひとつ、手柄を立てる気はないか?」
忌ブキ: ぶっ!
FM: い、いきなり言われましたねえ。証明があるとはいえ信用するかな? 〈交渉〉技能で判定してください。必要な[達成度]は……これも10ぐらいですね。
婁: (サイコロを振って)判定は成功、[達成度]は12。
FM: (悶絶しつつ)あ、鮮やかな口車……! じゃあ下っ端ははっと息を吞んで、「本土で受戒された方だとは!」と言いつつ、拳に手の平を重ねる拱手の礼を取る。……うん、そうだよね。婁さん、ちゃんと受戒した僧侶なんだよね……。
スアロー: お、俺には殺人鬼にしか見えんが(笑)。
婁: (抑制の利いた声で)うむ。実は、霊母直々に密命を受けていてな。
エィハ: うさんくさいーっ!(笑)。
FM(下っ端): 「なんと霊母猊下から……! 私めなどでよろしければ、何でもお言いつけください!」
婁: ……この割り符を持って、今から言う所に行ってほしい。
FM(下っ端): 「はっ、分かりました!」……で、議員公館でいいの?(笑)。
婁: うん、議員公館。
FM: そうかー。こ、断る理由がない。
婁: その場にはドナティアの黒竜騎士もいるはずだ。業腹だとは思うが、ここは霊母からの密命ということで、委細その男の指示に従ってほしい。
FM(下っ端): 「黒竜騎士が……!」噓はついてないだけにひでえええええ。「そういうことであれば、異存はございませぬ」
婁: うん。後はひたすら陰からパーティを追いかけます、俺は(笑)。
FM: すげえ! そもそも合流しないとは想像もしなかった!
スアロー: ま、まあ、ある意味顔合わせはすんでるんだけどね。
婁: こいつが失敗したら失敗したで。別段俺に損はないですから。
FM: ……というわけで、スアローと狗ラマが待っているところに、新たな人物がやってきます。おお……。
スアロー: FM、その哀れな信者Aさんに、急いで名前つけないと。
FM: とりあえず名前は栄さんとしておこう(笑)。狗ラマ・カズサにスアローと似た感じの割り符を見せて、「栄と申します。八爪会よりまかり越しました」と言うよ。
スアロー: メリルにこっそりと。「あんまり覇気ないね」と(笑)。
FM(メリル): 「さっきの男かと思ったのですが、わたくしの勘違いだったようです」
スアロー: はっはっは。メリル、考えすぎだよ。
エィハ: あはは(笑)。
FM(メリル): 「……まさか、スアロー様にこんなことを言われるなんて……! 一生の恥です!」
スアロー: すまないメリルさん。君が正しいんだけど、スアローはこういう天然なんだ。……つーか、これは虚淵さんの機転が素晴らしい。
FM: まあ、こっちも想像しなかったからなあ。狗ラマも腑に落ちない顔はするけれど、積極的に疑う理由もない(笑)。
スアロー: まあ、人数も揃ったことで、改めて詳しい内容を聞かせていただけるかな?
FM: りょ、了解。じゃあ君たちを連れて、狗ラマは議員公館の奥、会議場へと案内するよ。
会議場は、思ったよりも広かった。
スアローが入ってきた門とは別に、より広い裏口も設けられている。
その裏口近くに、ひとりの少年と、犬と蝙蝠を掛け合わせたような魔物――そして、その魔物と一本の蔦でつながった少女が立っていた。
FM: さて、エィハと忌ブキも準備いいですか?
エィハ: ん、大丈夫。
忌ブキ: いつでもいいです!
FM: OK。じゃあ会議場のふたりのところへ、狗ラマ・カズサが騎士らしい青年と従者の女性、それに黄爛人と思しい若者を連れてやってくるよ。一応、君たちと狗ラマ・カズサはここに来たときに挨拶をすませている。
忌ブキ: 本当に、ドナティアの黒竜騎士……。
エィハ: ……この人たちが調査部隊?
スアロー: おお、つながれものかー。しかも一目で子供と分かる。じゃ、まずはコレを訊いておかないと。「ふたりとも随分と若いけど……君たちはあれかな、育たない系? それとも育っちゃう系?」
エィハ: 育っちゃう系? それ何?
スアロー: え? そこから説明しないと駄目?
FM(メリル): あ、それ言うんだ。だったら途端にメリルの顔色が変わる。ぎゅるりと腕を捻って、スアローに後ろから関節技、鎧の隙間から肘を強引にねじり込ませるぞ。
スアロー: ぎょあは!?
忌ブキ: き、騎士さん!?
FM(メリル): (最悪に冷ややかな口調で)「黙りなさい、このクズ」
エィハ: クズ!
スアロー: ちょ、ちょっと待って。イデオロギー的に気になって……いや、すまないねふたりとも。今のは忘れてくれ。ハッハッハ。
空々しい笑い声を聞き流して、メリルは仕方なさそうにスアローを解放する。
沸騰はしたが、理性を失ったわけではない。つまるところ、この主がいともたやすく人の逆鱗に触れたから、というだけ。
ただ、別のとある思考は、メリルから離れなかった。
(……子供が、調査隊に?)
だったら。
少しだけ、厄介だ。
本人の自覚があるかは知らないが、スアローは子供に甘い。
育っちゃう系どうこうという発言も――その意味は彼女が主をクズ呼ばわりするようになった理由でもあるので断固回想を拒否するが――つながりがあるのだと、思っている。
(それが、落とし穴にならなければいいですが……)
FM: じゃあ、栄さんは黙ってじーっと見てるよ(笑)。ちなみに、婁はその間どうしてます? 後で報告だけ聞きますか?
婁: んー、とりあえず建物だけは見張っておきたいかな。
FM: なるほど。この場を直接見たいなら、〈隠密〉判定とか必要ですが。
婁: ああ、中の会議には興味ないんで。
スアロー: ようし、殺人鬼のいない内に平和的に話をすませるぞ!(笑)。「場を仕切るようで申し訳ないが、僕らが調査隊のメンバーだというなら、お互い自己紹介をしあわないかい? キラン(笑)」
FM: げえ、こっちも相手をパージしにきた!(笑)。
忌ブキ: あ、そういうことだったら……頭巾とります。
FM: はいはい。じゃあ忌ブキが頭巾をとると、さっきまで見えなかった角がしゅっと生える。
スアロー: おお、幻術。
忌ブキ: 皇統種……ということらしい、忌ブキといいます。
スアロー: ということらしいって、婉曲すぎる表現! スアローも皇統種は知ってます?
FM: (サイコロを振って)〈地域知識:ニル・カムイ〉の判定に成功。メリルが知ってますね。「ニル・カムイの王族みたいなものです。なんでも魔素流を直接操れるとか」
忌ブキ: (困ったように笑って)最近、自分がそうらしいって知ったばかりなんです。ぼくにできることをやりたいって思ってます。
スアロー: なんて前向きな意見なんだ! 気に入った! で、君は?
エィハ: ヴァルにもたれたまま、名前だけ「エィハ」と言って、「この子はヴァル」終わり、です。
スアロー: う、こっちは苦手な気配がする(笑)。
FM: では続いてメリルがスカートをつまみ、片足を斜め後ろへ引いて、優美にお辞儀をします。「メリル・シャーベットです。スアロー様の従者をしております」
スアロー: (パントマイムみたいに手を振りながら)……あ、黒竜騎士団を代表してこの任に参加した、スアロー・クラツヴァーリと言う……よ。
忌ブキ: か、感想に困りますね……(笑)。
FM(狗ラマ): 「終わったかな? 一応付け加えると、そちらのエィハは正式な調査隊のメンバーではなく一時的な協力者というカタチだ。そしてふたりとも〈赤の竜〉と出会って生き延びた数少ない存在でもある」
スアロー: なるほど。……ふたりに質問してもいい?
FM: もちろんかまいませんよ。
スアロー: 〈赤の竜〉とは本当に実在するのかい?
忌ブキ: ……します。ぼくは、確かに会いました。
スアロー: (がっくり肩を落として)そっかー。やっぱするよなあ。黒いやつもいるんだもんなあ。よし、単刀直入に訊いちゃうぞ。〈赤の竜〉と出会って何があったんだ!
エィハ: みんな死んだわ。
スアロー: 七文字(笑)! 無口っぽいとは思ってたけど!(笑)。というかみんな死んだって、君たちはなんなのさ!
エィハ: 生き残ったのは忌ブキだけ。わたしは目を覚ました、起き上がったの。
FM: お、そこまで話すのなら、(サイコロを振って)これも、メリルが〈地域知識:ニル・カムイ〉に成功したので気がつくよ。「還り人という現象かもしれません」
スアロー: 還り人? なるほど、僕にも分かるよ(希望に満ちた顔でサムズアップして)。……メリル、この人たちあれかい? 俗に言う、ゾンビってやつかい?(一同爆笑)。
エィハ: やめて! エィハを腐らせないで!(笑)。
FM: まあ、この世界にもゾンビはいるけどね。「ゾンビは魔術によって操られたものですが、ニル・カムイにおける還り人は誰かに操られているわけではなく、死者自身が勝手に蘇る現象と聞いています」
スアロー: これが、ニル・カムイ名物・フレッシュ還り人……!
FM: さて、〈赤の竜〉やら還り人やら物騒な単語ばっかり出たので……(サイコロを振って)うむ、栄さんの【意志】判定が失敗。みるみるうちに八爪会から来たという人が挙動不審になります(笑)。
スアロー: お、僕も気づける?
FM: こういう場合はふたりとも判定して、[達成度]の高さで対決ですね。スアローさんは【知覚】とか〈礼儀作法〉で。
スアロー: 〈礼儀作法〉か。キャラ的にはそっちかな? (サイコロを振って)おし、成功! [達成度]は14!
FM: は、こっちはもう一回【意志】判定なんですが……(サイコロを振って)99! どんなに【意志】が強くても自動失敗する!(笑)。
スアロー: 流石にこの天然ボケスアローも、栄さんの挙動不審ぶりには……。ところで栄くん。
FM(栄): (思いっきり咳き込みながら)「は、はい! なんでしょう?」
スアロー: この場を引っかき回している僕が言うのも何だが、君はこの場がどういうものなのか、分かっているのかい?
FM(栄): 「も、もちろんです! おー、オーイエース」
スアロー: うん。まあ、相互理解は必要なので、君が承った任務内容というものを話してもらえないだろうか?
FM(栄): 「れ、霊母猊下、からの、み、み、み、みつめ……」まで言って、「あ、いや、この割り符を持って、議員公館に来いとしか……」
スアロー: 頭の中で、「僕と同じか」と(一同爆笑)。まあ、それは置いておいて(笑)。いくら何でもこれはおかしいので狗ラマさんに「……議長」
FM(狗ラマ): なんだね?
スアロー: どう思います、彼?(笑)。
FM(狗ラマ): 「精鋭を差し向けてくるとは言っていたが……ふむ」
スアロー: 噂に聞く黄爛の精鋭が、ここまで面白いとは思えない。より詳しくふたりの話を聞きたいんだが、その前に疑わしきは……。
FM: 問い詰めたいなら、誰かが〈交渉〉とかするといいですよ。なんなら狗ラマさんかメリルさんでもいいですが。
スアロー: じゃあもう、人を責めるのはメリルさんに任せましょう。「メリル、君の得意のいつものあれで、問い詰めてやってくれたまえ」
FM: では、メリルさんのデータで判定を……って、〈交渉〉120%もあるぞこいつ!
スアロー: ほら、そういう万能メイドなので(笑)。
忌ブキ: 万能過ぎますよ! というか、メイドなんですかそれ!(笑)。
FM: じゃあ、ダイスは本人が振って下さいね。
スアロー: (ダイスを振って)やべ、95! ぎりぎり自動失敗回避! ふう、名誉は守られた。[達成度]は14。
FM: こいつをそそのかした婁の[達成度]が12だったので十分ですね。では、メリルが問い詰めると、「じ、実は……」という風にべらべら喋ってしまいます。
スアロー: おやおやまあまあ。
FM(狗ラマ): 「なるほど、随分と用心深い御仁のようだ。……だが、そういうことであらば、いずれ君たちと合流するであろう」
スアロー: 大らかですな、議長。
FM(狗ラマ): 「というよりも、残念だが私は君たちに何も強制できんのだ」そう言いつつ、杖で床を叩いて衛兵を呼び、栄さんを帰らせます。
スアロー: お? グッバイ栄さんと思いつつ、ちょっと興味を引かれる。
狗ラマの、何気ない一言。
その言葉に、スアローの眉が片方だけあがった。
FM(狗ラマ): 「君たちが集められた理由はもう分かっているだろう?」
エィハ: (ぼそりと)〈赤の竜〉を、探すんじゃなかったの?
FM(狗ラマ): 「その通りだ。本来ならニル・カムイ議会だけで処理できれば良かったが、議会の戦力では到底〈赤の竜〉に及ばん。また、ニル・カムイに駐留する黒竜騎士団第三団、および黄爛の千人隊は、かつての戦争の経緯などもあって、うかつに動けば全面戦争になりかねない。
忌ブキ: ……どこも、一触即発なんですね。
FM(狗ラマ): 「ああ。結果として、それぞれの陣営がフリーハンドで秘密裏に動かせる戦力を出し合うことになった。――それがこの混成調査隊だ」
スアロー: そっかー、一番大事なところを聞き逃していたのか、僕は! まあ、今は置いときますが(笑)。
FM(狗ラマ): 「混成調査隊は、それぞれ独自の判断で動く権利を与えられている。代わりに、どこの組織も公的な援助は行えない。基本的に君たちは秘密裏に動き、秘密裏に事を終わらせるための調査隊だ。存在することすら、基本的には認知されない。……というのが、私も君たちに強制できない理由だよ」
忌ブキ: ええと、それぞれ同じ目的で人材を派遣し合うけれど……根本的に協力し合うわけではない、ということですか。
FM: そうそう。だから、独自判断で黄爛の人が合流しなかったり、別なことをしていても俺知らねーだ、というのが狗ラマさんの立場。
スアロー: なるほど、これは……その、まず僕らに大事なのは、友情というものらしいが、まず第一歩に参加していない男がいるわけか(笑)。
エィハ: ホントですよね(笑)。
「――おや、失敗したか」
議員公館の外。
壁にもたれかかっていた婁震戒は、腕を組んだまま片目を細めた。
婁: さっきの栄さんがひとりで出てきちゃうのは、こっちに見えるんですよね?
FM: そうですね、見えます。栄さんが衛兵にはじき出されます。
婁: ふむ、じゃあちょっと話は聞こうか。
FM: じゃあ、これまでのことをかくかくしかじかと話して、「申し訳ありません……」と。
婁: 「お前の正体を見破った人物だが……」
FM(栄): 「騎士の、従者でした」
スアロー: あ、俺じゃないんだ!?(笑)。
婁: まあ、顔は見てるんで「やはり、あの女が要注意人物ということか」うん、この男を使った甲斐はあったな。
スアロー: (必死に自分を指さしてアピールする)。
婁: 「よくやった、お前は務めを果たしたと思っていい」
エィハ: こ、殺されちゃう!?
FM: 「ありがとうございます……申し訳ありません!」と言って、栄は去って行きます。
婁: じゃあ、代わりに入っていく。
スアロー: あ、よかった。殺さないんだ?
婁: まだ人目があるからね。
FM: 理由はそれだけですか(笑)。堂々と入っていきます?
婁: 割り符はもう返されてる?
FM: はい。
婁: (ひとつうなずいて)じゃあそれを手に、改めて議員公館の正門から。
再び、会議場の扉が開いた。
さきほど黄爛の栄がつまみだされた扉である。
その扉から、黒ずくめの男が現れ、軽く会釈したのだった。
婁: 遅参して申し訳ない。黄爛側の代表として遣わされた、婁震戒と申します。
忌ブキ: (爆笑しながら)すごい、本当に堂々と入って来ちゃった!
スアロー: 婁震戒さん……(メモしていく)。僕は満面の笑顔で「スアローです。よろしく!」と言うけど、多分メリルが胡散臭そうな目になるよね?
FM(メリル): もちろんなりますよ! 「やはり彼でしたね……」とも呟きます。
スアロー: あ、それはそれで聞こえない(笑)。「まったく、メリルは疑い深いんだから、もう」、と頰を膨らませてる(笑)。
エィハ: わたしは気にせずに、「エィハとヴァル」とだけ、さっきと同じように言います。
忌ブキ: あ……皇統種の忌ブキです。
婁: ふむ。
「――おお、これは豪勢じゃのう」
婁だけに聞こえる艶やかな声が、背中からした。
FM(七殺天凌): 「つながれものに皇統種か。確か皇統種とは、この島の希少種じゃったの」
婁: お気に召されましたか?
FM(七殺天凌): 「もちろん。おお、黒竜騎士も……。これは素晴らしいの。満漢全席でも見るようじゃ」
スアロー: う、うわー。ぞくぞく悪寒がする。どれが美味しい子豚ちゃんかなって視線! あ、いや、プレイヤーとしての奈須きのこはともかく、スアローはまったく気づかない坊ちゃんなんですけどね。
婁: そうね、とりあえず手強そうなヤツとかを見破れるかな?
FM: そうですね、いくつか方法があります。ひとつめは〈威圧〉をかけてみる方法、ふたつめは〈専門知識:軍事〉で記憶から過去の実績を探り出す方法、三つめは〈※黄爛武術〉とかの戦闘技能で測定する方法。ただし戦闘技能で測定するのは本来の使い方じゃないので、[達成度]を半分にします。
婁: じゃあ〈※黄爛武術〉でいってみようかな。ひとりずつ振るんですか?
FM: いや、まとめてでいいですよ。
婁: (サイコロを振って)成功。[達成度]は半分にしても24。
FM: 婁の場合、もともとの技能が凄まじいですが……半分にしても、「一流の領域」たる[達成度]20以上ですか。足運びや体幹のバランスなどを見る限り、戦闘に一番優れているのはスアローでしょう、それは間違いない。
婁: ほほう?
FM: ヴァルという魔物も、筋骨やかすかな毒の臭気から判断する限り、強烈な戦闘力を有している。ただし、魔物とつながっているエィハ自身は大したことがないでしょう。
婁: なるほど。
FM: 忌ブキと名乗った少年は、まあそこそこ程度ですね。ただしあくまで体術だけの判断なので、魔術などを使える場合はその限りではありません。
婁: いやいや、十分貴重な情報です。
FM: あ、最後に、スアローの従者であるメリルも相当なものです。そこらの騎士では到底敵わないでしょうね。
婁: ……ほおう。やっぱり厄介なのはこの黒竜騎士たちか……。
スアロー: ああ、メリル……目、つけられてる。
婁: ちなみに俺は、よそを見ながらそれができるので(笑)。
スアロー: どうしてそういう技能ばかり特化させるんですかアナタは!
婁の特技である。
双眸は炯々とした光を放ちながら、視線の行方が判然としない。というのも、婁は視野の『隅』を『凝視』するという独自の技術を磨いており、正面に目を向けたまま真横にある物をじっくりと観察する、などという不気味な行ないをしてのけるのだ。
スアロー: 気づかない気づかない気づきたくない(笑)。うん、詐欺のような任務だけど、みんな仲良くやっていこうじゃないか。できるだけ……ひとりぐらいは生き残っているといいね!
忌ブキ: スアローさんも、それを素で言いますか!(笑)。
FM: では、狗ラマが杖で床を二回突く。「話を続けてかまわんかね?」
スアロー: ……あ、はいどうぞ。
FM(狗ラマ): 「三ヶ月、だ」と狗ラマは言う。「今回の調査部隊の結果を待つため、我ら議会とドナティア、黄爛は不可侵条約を結んだ。しかし、それも三ヶ月きりだ」
忌ブキ: 三ヶ月、だけ……。
FM(狗ラマ): 「さらに、〈赤の竜〉と関係ないところでの争いは条約の範囲外だ」
婁: 痺れるねえ……。
エィハ: つまり、〈赤の竜〉関係だけで争うことはないけど、〈赤の竜〉と関係ないところでは勝手に戦争をするよ、ってこと?
FM: そうそう。街でトラブルがあったり、それが理由でちょっとした戦になっても気にしない。あくまで三ヶ月だけ、本気の全面戦争はしないよ、程度の意味。
忌ブキ: ……うわあ。
FM(狗ラマ): 「その間に、〈赤の竜〉の狂乱した理由を調べ、問題があれば抹消してほしい」
スアロー: ちょっと、素朴な疑問なのだが。
FM(狗ラマ): 「何だね?」
スアロー: ニル・カムイに住む人間として、〈赤の竜〉はいなくなっていいモノなのかい?
FM(狗ラマ): (しばらく押し黙った後)「……苦しくないわけがあるまい。かつてあれはニル・カムイの守護神だった。議会の中でも今回のことを天罰と見る向きすらある。……だがな、今となっては、もはやあれは害毒に過ぎぬ」
スアロー: ……なるほどね。心の中の引っかかりがひとつ解けた。殺していいものなのか……。
婁: (スアローを向いて)貴殿は、竜が殺せるのか?
スアロー: うん? まぁ、命あるものならば、何らかの方法で死ぬことはあるんじゃないのかい?
婁: うーん、それが冗談なのか本気の自信なのかを察したい。
FM: なるほど、じゃあさっきと同じように効果値半分で〈※黄爛武術〉の判定でやるか、それとも〈礼儀作法〉で言葉の真偽を見抜くかですね。
スアロー: 怖いですわー!?
エィハ: 隣にいたくないですよね(笑)。
婁: まあ、〈※黄爛武術〉でやりますわ。(サイコロを振って)判定は成功して、[達成度]は23。
FM: じゃあさっきと情報はあまり変わりませんね。彼自身の強さは確かだってだけ。
婁: あー、なるほどね。ふむふむ……要注意だな。
スアロー: やべえ! も、もうちょっとこう、ゆるく行こうぜ(笑)。
婁: 現状の、〈赤の竜〉がいると思われる場所は分かっているのかな?
FM: それについて聞かれると、狗ラマは難しそうに片目をつむる。「もともと〈赤の竜〉はおよそ南方の山脈より動かなかったものだが、今は飛び回っていて詳しい生態が分からん」
スアロー: 飛び回るんだ……。内心驚いている(笑)。
FM: まあ、でないと村とかが色々滅ばないし。
スアロー: ですよねー。
FM(狗ラマ): 「だが、この島にひとりだけ、〈赤の竜〉と定期的に親交を持っていた者がいる」
忌ブキ: ……え?
忌ブキは、思わず声をあげていた。
あの〈赤の竜〉と、定期的に親交を持つ人間。その言葉が信じられなかったからだ。
忌ブキ: そんな人、本当にいるんですか!?
FM(狗ラマ): 「ああ。いるとも。記録上、たったひとりね。だが、かの男は完全な独立自治権を持っていて、我らも接触できなかった」
スアロー: 自治権?
FM(狗ラマ): 「かの男の国は分からない。だが、百年以上の昔からニル・カムイはおろか、ドナティアや黄爛とも深く関わってきたことは確かな人物だ。ばかりかドナティアと黄爛の双方に交渉し、いかなる対価を払ったのか、我らにも許されなかった完全独立自治権を獲得している」
婁: ……その人物の名は?
FM(狗ラマ): 「名は、禍グラバ・雷鳳・グラムシュタール。……ニル・カムイと、ドナティアと黄爛、すべての名を持っていると自称する、ふざけた不死商人だ」
スアロー: 商人! 僕は商人が苦手でねえ……おおっと! 後ろのメリルを気にしながら(笑)。
FM(メリル): (サイコロを振って)誰かさんのために商会を立ち上げたメリルは、「禍グラバという名前は存じております。確かに結構な有名人ですね」とだけ言うよ(笑)。
スアロー: そ、そうかー(棒)。
忌ブキ: (唾を飲み込んで)不死商人・禍グラバ……!
FM(狗ラマ): 「かの不死商人は、ニライ川の下流――ハイガの街を自らの縄張りにしている」ちなみに……(地図を取り出す)。
エィハ: あ、ニル・カムイ地図!
FM: (シュカを指さし)今、皆さんがいるのがこのシュカです。ハイガの街はこの辺。
婁: ほぼ反対側ですね。
忌ブキ: 歩くと……どれぐらいかかるんでしょうか?
FM(狗ラマ): 「いいや、徒歩の必要はない。公的な援助はできないと言ったが、この島を旅するための足と案内人だけは、街の入り口に準備させてもらった」
エィハ: あ、あるんだ。わたしはヴァルでいいけど(笑)。
FM(狗ラマ): 「すぐにでも旅立てるようにしている。好きに使ってくれ」
忌ブキ: ……はい!
スアロー: ……ふむ。この時点で、誰か意見はある?(笑)。
婁: そうねえ……まあ、しばらくは流れに乗るしかないしねえ。
スアロー: うんうん……(婁に向かって)ところで、何ではじめにあのような行為を? というか代理人を? 君はあれかな、シャイなのかな? いや一応ちょっとさぐりを入れてみる感じ。
婁: (淡々と)……まあ、仰せの通り人見知りするタチなもので。
スアロー: う、うまく切り返したな(笑)。ほら、これからは九十日間とは言え、みんな仲間なんだ。できれば、その、まあ、表向きだけでもいいので友人のように振る舞おうじゃないか! キラン(笑)。
婁: 異存はありませんな。
スアロー: あ、今の、「友人のように振る舞おう」って言った言葉、みんなどれぐらい本気にとってくれてるのかな。もちろんスアローは本気だからね!?
エィハ: 聞こえたのかどうかよく分からない(笑)。
スアロー: (爆笑しながら)そもそもそのレベルかーっ!
FM: 婁はどう考えてもどうでもいいよね?
婁: うん。
忌ブキ: あ、僕は素直に聞いてます! 婁さんの真意も気になりますし!
FM: 判定とかするまでもないね(笑)。そもそも聞いてない女の子と、友人とかありえなさそうな男と、目をキラキラさせてる少年です、はい(笑)。
スアロー: (ため息をつきながら)うん、ひとりでもいればなんとかやっていけるかな……っていうか、こうも綺麗にパターンが分かれるとはね。いやあ、大変な旅になりそうだ。
FM(狗ラマ): じゃあ、君たちの去り際、狗ラマが忌ブキとエィハのふたりにさりげなく言うよ。
「ところで君たち」
狗ラマが、もう一度杖をついた。
「阿ギトのことだが、今日の昼に恩赦になった。もしも最後に会うなら好きにしたまえ。もっとも、時間は待ってくれないが」
忌ブキ: 阿ギトさんが……。
エィハ: エィハはうなずくだけ。
婁: それは俺が去った後の話かな?
FM: いや、特に隠す必要もないので、婁も聞いていいよ。
スアロー: ふんふん。誰だか知らんが仮釈放、と。一応、心の隅にはとめておこう。
FM: では、一旦ここでシーンを終了します。