くくるの異常な空想――または私は如何にしてリア充するのを止めて演劇を愛するようになったか――
演劇少女・原くくる 1stインタビュー 前編
都大会優勝、関東大会優秀賞受賞と、2010年度の高校演劇界を文字どおり震撼させた都立六本木高校演劇部による『六本木少女地獄』。脚本、演出、出演のすべてを務めた18歳の女子高校生演劇家・原くくるはいかに生まれ、どこに旅立っていくのか――!? 『最前線』が迫る1stインタビュー!! 聞き手:さやわか・太田克史(『最前線』編集長)、構成:さやわか、撮影:青山裕企
太田 原くくるさんのデビュー作『原くくる処女戯曲集 六本木少女地獄』が星海社FICTIONSよりこの8月に出版されます。創立してまだ1年の新興出版社がよりによって「戯曲集」の出版、しかも著者は18歳の女子高生……ということで相変わらず「無謀」と書いて星海社と読む! 的な出版活動をやっているわけですが、今日はその謎の女子高生「原くくる」さんをお招きして、さやわかさんと一緒にお話を伺っていきたいと思います。
さやわか 原くくるさんという人がどんな人なのか、世にはまだあまり伝わっていないですよね。タイニイアリスでの『六本木少女地獄』公演もネットで話題になっていましたけど、演劇というのは観た人でないとわからないところがある。そこで今日は、原さんがどういう人となりで、『六本木少女地獄』がどんな作品なのかおぼろげながらわかるようなインタビューにしたいと思います。
太田 それでは、まず最初にお伺いしたいのですが、「原くくる」のペンネームはどうやって決めたんですか?
原 本名でなければなんでもいい、と思って。最初の案は「二階堂市子」でした。
太田 それはなぜ?
原 焼酎の「二階堂」と「いいちこ」を足したんです。
太田 U-20が付けてはいけない名前だ(笑)。
原 いろいろ考えて、喰始さんとか吉田戦車さんみたいなノリがいいなー、と思いまして。でもペンネームを決めた当時は本当に精神状態がヤバくて、これはもう「腹を括る」しかないな、と思って「原くくる」でいいや! って決めた感じです。
太田 なるほど。付けてみてどうですか?
原 ちょっ……、……大丈夫です。気に入ってます。
太田 何、今の「ちょっ」は?
原 ちょっとだけ後悔することもあります(笑)。
太田 僕は、作家さんの才能をペンネームと処女作のタイトルで判断するんです。たとえば、京極夏彦/『姑獲鳥の夏』って才能しか感じないですし。舞城王太郎/『煙か土か食い物』もすごくいいと思った。原くくる/『六本木少女地獄』もとてもいいと思いました。
原 ありがとうございます。一発屋にならないようにがんばります。ペンネームの別案では私、フェデリコ・フェリーニの奥さんのジュリエッタ・マシーナが大好きなので「マシナ樹梨絵」の案もありました。ただ、「ブリブリしすぎてる」と友達に一瞬で却下されました……。
さやわか 高校は六本木ですが、もともと生まれが東京なんですか?
原 東京です。広尾病院です。
太田 ピンポイントすぎる(笑)!
原 広尾って六本木にすごく近いじゃないですか。だから「ああ、生まれた場所に帰ってきたな」って感じで。その広尾病院で生まれてからは大阪の高槻の団地に住んだり、いろいろ転々としてきたんです。私、阪神淡路大震災を被災してるんですよ。
太田 初めて聞いたよ! 早く言ってよ! さやわかさんも被災者ですよね?
さやわか 僕、西宮に住んでたんですよ。
原 私は尼崎でした。ただ、全然記憶がないんですよ。92年生まれで、震災の当時は2歳だったので。5歳のときに東京に戻ってきて、今に至るという……。
太田 『新世紀エヴァンゲリオン』放映の時、3歳! 三つ子の魂百までなのか!!
さやわか 子供の頃はどんな感じだったんですか?
原 普通の子供だったと思います。リア充の幼稚園児。
さやわか 幼稚園児でリア充って(笑)。
原 普通に友達と外で遊んで、みたいな。ままごととか、リボンを作るとか、女の子の遊びはあまりしなかったですね。鬼ごっことか、鉄棒に登ったりしてました。ぬいぐるみとかもあまり好きではなかったです。着ぐるみとかもすごく怖かったです。「中の人がどんな顔してるかわかんなくて怖い~」って泣いて逃げてたらしいです。
さやわか 中に人がいるのが前提か! なんかややこしい怖がり方ですね(笑)。
原 あとお芝居が上手かったらしいです。キリスト教系の幼稚園に通っていて「キリストが生まれた日」みたいなのをやったんですね。
さやわか キリスト教系の幼稚園は、よくクリスマスの出し物で聖書の一節を演じますね。
原 そうです。でも主役のマリア様は人気があって争奪戦になるわけですけど、私は特に興味がなくて「村人3でいいや」という感じだったんですけど、私が芝居をし始めると他の子よりも上手すぎて、周りのみんなは笑っていたそうです(笑)。
太田 やけに上手くて、存在感のある村人3だったわけですね(笑)。誰かに演技のやり方を教わったわけでもなく?
原 感じたんじゃないですかね。「村人3」を。
さやわか そこでみんなから褒められて楽しかった、と。
原 うーん……かといって「やったぜ!」という感じではなかったです。
さやわか なるほど。幼稚園で、普段はどんな感じでしたか?
原 やっぱりイジメっ子のグループとかがいたんですけど、私の作ったものとかが壊されていたらしいんですよ。ただあまり気にしていなかったらしいです。
さやわか 醒めた感じの子供だったとか?
原 「ああ、壊すのか……」という感じで。あと幼稚園にすごく仲のいい友達が何人かいたんですけど、その子たちが行かない小学校に一人で行ったんですよ。理由はわからないんですけど。
さやわか わからない? 家から近いとかいう理由でもなく?
原 いえ。登校に25分くらい歩く、むしろすごく遠い学校でした。母が、子供の頃から何もかも自分に決めさせるんですよ。それで「友達がみんな行く学校に行くのか? それとも25分歩く学校に行くのか?」と母に聞かれて、私が遠い方に行くと答えたから、そこに通わせてもらったんです。
さやわか そこで「幼稚園の友達がいなくなっちゃう」とか思わなかったんですか?
原 思わなかったですね。「まあ、そんなもんだろ」みたいな感じでした。
さやわか サバサバしているというか……。小学校に入ってからもそんなタイプだったんですか?
原 でも、小学校まではリア充だったんですよ。人と話したりするのも好きだし、本を読むのも好きだったし……。
さやわか 幼稚園の頃から本が好きだったんですか?
原 好きでしたが、自分の人生の大部分を占めていた、という記憶は全くないですね。
さやわか 子供の頃はどんな本を読みましたか?
原 小学1年生のときのクリスマスプレゼントが『ハリー・ポッター』だったんですよ。
太田 やだねー(深いため息)。聞きたくないねー。
さやわか 年の差を感じますか(笑)。
原 初めてしっかり読んだ本が『ハリー・ポッター』でした。「おお、これが本か! おもしろいじゃないか!」という感じで。それで、しばらくはファンタジーものとか普通の小学校低学年向けの本が好きで読んでいましたね。それがある日、父が図書館に行くというので「何かおもしろい本を借りてきて」と頼んだら、ミステリー短編集の『怪奇雨男』を借りてきたんですね。「なんでこんなものを借りてくるんだ!?」と思いつつ読んでみたらおもしろかったんです。特にエドガー・アラン・ポーの作品がお気に入りで。そこからずっとポーばかり読んでました。
太田 アニメとかは観なかったんですか?
原 小さい頃に『それいけ! アンパンマン』は観てました。2歳違いの妹がいて、加えて震災の影響があったので、両親が私の面倒をみたり、かまったりすることが難しかったんですね。となると私は『アンパンマン』を観るしかなかったわけです。当時のホームビデオを観ると妹はあやされていたりするのに、私はずーっとテレビの前で『アンパンマン』を観てるんですよ。
さやわか お母さんにかまってもらえなくて悲しんだり、愚図ったりはしなかったんですか?
原 アンパンマンがいたから大丈夫でしたね。そこで私の「愛と勇気だけが友達」観念が生まれたんですよ。愛と勇気が友達だから、一人で歩いて25分の学校に行っても大丈夫だろう、と。
原 小学2年生のときにそれまで仲のよかった友達が離れていってしまって、一人でいる期間が続きました。イジメとかではなかったんですけど、その友達とは空気感が合わなくなっちゃったので「なら私は本を読むぜ!」という感じでした。なので2年生のときはずーっと本を読んでました。で、3年生からはまた仲のいい友達ができて。
さやわか あまり人寂しいとか思わないんですか?
原 私、人に対しての概念がないんですよ。
さやわか 今でも?
原 今はあります。最近になって芽生えてきました。ここ2年くらいでようやく、「人って大事!」と思えるようになったんです。でも当時は「アンパンマンはずっと一人で飛んでいるし、人がいなくても自分があれば大丈夫なんだろう」と思ってたんですね。
さやわか じゃあ、友達が向こうから来れば楽しく遊ぶし、来なければ一人で本を読む、という感じだったんですね。マンガではなく小説や児童文学が好きだったんですか?
原 はい。小説は書いてもいました。小3のときに。「つくる」という作業が楽しいと思ったんですね。たぶん。脳が動いている感じが楽しい、みたいな。猿がものを触って「この感触は楽しい」ってずっと触り続けるみたいな感じです。それで一緒に小説を書く友達ができたんですよ。「あなた本好きなの? 私は書いてるんだけど……」「私も実は書いてるんだ」みたいになって。
太田 いいなあ。『まんが道』の才野茂と満賀道雄みたいだね。
原 夏休み毎日、その作家志望の子と集まって昼2時から夜7時くらいまでずーっと小説を書いてました。
さやわか 当時書いていたのはやっぱり『ハリー・ポッター』みたいなファンタジーですか?
原 はい……。中2病的な……。
さやわか いやいや、中2病じゃないでしょう。小学生なんだから(笑)。
原 でも能力者とか出てきてました……。
さやわか 固定されたキャラクターがいるシリーズものだったんですか?
原 シリーズもので、「第○巻でこのキャラクターを殺そう」みたいな……。内容は全く覚えてないんですけど、原稿用紙に180枚ぐらいまで書いたところで一度全部捨てたりして。「駄目だ、こんなものじゃ!」と思って(笑)。
さやわか だんだんテクニックが向上すると前に書いたものが許せなくなってくるんですかね。
原 そうですね。あと内容に矛盾が出てきてしまって、直すしかないと。で、そのころから世田谷文学賞とかを目指してました。結局、投稿はしませんでしたが。あと当時とても流行っていた『ダレン・シャン』(小学館)の奥付に「山田武美」と編集者の人の名前が記載されていて、「そうか、小学館の『山田武美』に声をかければ本を出せるのか……」と思ってて。
太田 そういうことがあるなら、ちょうど今、2002年生まれくらいの子が星海社の本を読んで「太田克史」に声をかければ、なんて思ってるかもしれないんだな……。
さやわか そうこうしている間、作家志望の友達は隣で書いていたんですか?
原 寝てました。
太田 書いてねーじゃん!
原 でも、すっごい楽しかったですね。あのとき既に思ってましたもん。「今が人生で一番楽しいんだろうなー」って。
太田 うーん、いやな小学生だな……。
原 いや、ほんとに思うんですよ。で、中3くらいになって「実際そうだったなー」って。それと、5年生のときに転校してきた女の子に人生を狂わされてしまいまして(笑)。
さやわか よくない影響を与えられたんですか?
原 とても(笑)。その子は今も親友なんですけど、彼女はモラルの欠片もないんですよ。いや、モラルはあるけどマナーがない、という子でした。常識はないけどモラルはある。例えると「万引きはするけど、妊婦さんには席を譲る」みたいな。
さやわか 田舎のいいヤンキーみたいな。
太田 「ツッパリ」だ!
原 その子に会って、だいぶ自分の価値観が変わりましたね。めちゃくちゃ自己中心的で、「自分が世界で一番偉い」と思ってる。私は舎弟みたいなもんでした(笑)。でもさっぱりしてて、人として魅力的なんですよね。
さやわか ……なるほど。じゃあ、小学生の頃は主にその2人と遊んでいたんですね。
原 仲よかったですね。作家志望の子と遊ぶときは普通に小説を書いてましたし。
原 中学に入って、モラルない方の子は他県の学校に行きました。そこから私は、相当きついイジメを受けることになって、そこから暗黒時代に……。
さやわか 演劇を始めたのは中学に入ってすぐなんですか?
原 はい。中学に入学して必ず部活に入ろうと思っていました。で、自分に一番合っていると思ったのが演劇部だったんですね。
さやわか 最初から「こんな演劇がやりたい!」というのはあったんですか?
原 そのときは子供だったので、顧問に言われたことしかできないわけですよ。ただ、その顧問の方は大変素晴らしい人でした。恩師ですね。
さやわか その先生はどういう影響を与えてくれたんですか?
原 私がすごく演劇をがんばったんですよ。そしたら「原はがんばるから、支えてやろう」という感じでかわいがってくれたんです。
さやわか で、そこでなぜイジメが?
原 イジメだったのかは、いまだに曖昧なんですけど…。一人の女の子とすごい愛憎劇になったんです。その子は、小学校はいわゆる超お嬢様学校に通ってたんですね。その子自身も相当なお嬢様なんですけど、でもその小学校の中ではありふれた感じで、結構なイジメをうけていたらしいです。それでものすごく心がねじ曲がった状態で普通の公立中学に転校してきたんですね。で、いろいろなことが起こるわけです……。
太田 「なんで私がこんな愚民どもの巣にいなければいけないの!」みたいな。
原 まさにそんな感じです。「どうして私がこんな汚い場所にいなければいけないの!」みたいな。外で遊ぶことに対して「5万円の洋服が汚れちゃうじゃない!」って言い放ってましたからね……。
さやわか その子とどういう愛憎劇を繰り広げるんですか?
原 その子も演劇部に入って、私が部長でした。話をするとすごい揉めてしまって、「お前のこういうところがいやなんだよ!」と言っても理解してくれなくて、仕方なくこちらが彼女の言うことを受け入れてしまう感じでした。
さやわか 演劇部内、大変ですね。
原 とんでもないことになりました。あの、本当は私、最初は脇役がやりたかったんですよ。主役がやりたいというよりも「作品」というものが好きだったので。こんなこと言うと周りから、しらーっとした目で見られるんですけど。
さやわか 幼稚園の頃の村人みたいな。
原 そうです。でも彼女は「やっぱり劇に出るなら主役じゃないとね」って言って主役になりきって台本を読んでるんですよ。そんなとき、たまたま私が彼女のしていた役の台本を読まされる機会があったんですけど、それが自分でもびっくりするくらいうまかったんです。ピタッとはまったんですよ。声を出した自分も、それを聞いていた周りも、びっくりしたんですけど。それからは「あたし、できるんだ!」と思ってがんばりました。
さやわか で、その子は怒ったんですか?
原 すごいこと言われました。「主役にこだわって他の役をおろそかにする人ほど愚かな人はいないわ!」みたいなことを。
さやわか だんだん『ガラスの仮面』化していますね……。
太田 (爆笑)。相手はお嬢様だしね。
原 もう大変でした。雨の中でずーっと立ってて私を睨みつけてきたり……。
さやわか ドラマティックだ(笑)。すごい学園生活ですね。
原 女は怖いですね……。
太田 怖い!
原 ただ、私は男気質なので、そういうとても女々しい人に好かれちゃったのかな、と思ってたりします。メールをハッキングとかされましたからね。
太田 何それ? なんでそんなことできるの?
原 彼女が言うには、業者を呼んだそうです。
太田 業者!?
原 お金があるので。「なんで私のプライベートな話をこんなに知っているんだろう」と思っていたら、その子が「あのさあ、私、実はあなたのメールのパスワード知ってるの。業者に頼んで教えてもらってさあ」って言ってきて。
さやわか なんだそれ(笑)。ほんとだとしたら犯罪じゃないですか!
太田 ヤバいね! なんで友達やめなかったの?
原 私は演劇がやりたかったんです。でも彼女は「私、今回の芝居は出ないから。プンッ」みたいなことをするので、それをさせないためにずーっと耐えていたんです。
さやわか 周りの生徒は気付かなかったんですか?
原 彼女は頭がよくて、私以外の人には完璧に見えるように振る舞うんですよ。
さやわか マンガみたい(笑)。
原 彼女は人から「すごい」と言われたあとで、褒めてくれた人のことを「あの人はこういうところが馬鹿だから私に騙されるのよね」とか言ってくる子なんですよ。たぶんそうすることによって私と対等の立場を保っていたんですね。
太田 その人は今何やってるの?
原 保母さんを目指してます。
さやわか それもすごい話ですけど……(笑)。演劇部は他にはどんな感じでしたか? 恩師の方にはいろいろ指導をしてもらったんですか?
原 というよりも、私がだんだんうまくなっていくにつれ、先生は事務職に専念するようになって、私が演出を担当することになりました。
さやわか 中学で演劇部に入る生徒は、役者として活動する場合が多いと思うんですけど、脚本や演出を担当する生徒というのはどのくらいいるものなんですか?
原 めったにいないと思います。
さやわか やりたいと思ったんですか?
原 というより、できたんですね。例えば「私に今言ったセリフだけど、ここはこういうシーンだからこういうふうにしたほうがいいんじゃないの?」と指摘することが次第に増えていったんです。それで気が付いたら自分が一番前に立っていました。
さやわか それで、大会に出て賞を取ったんですか?
原 1年生のときは主役で都大会に行きました。
さやわか 1年生から主役をやるなんて、生意気だとか言われませんでした?
原 3年生の先輩は泣いてました。
さやわか (笑)。
原 恩師に「あなた主役をやりたいんでしょう? だったらそう言いなさい」と言われて、「ええーっ!? いいの?」という感じで主役をやりました。中学演劇ではめったにないことなんですが、都大会で講評の人に名指しで褒められました。
さやわか なるほど。普通だったらあんまり序列をつけないで「みんながんばったね」という横並びな感じで評価するんでしょうね。
太田 レフトウイング的に「みんな1等賞!」ですよ、きっと。
さやわか 2年生のときは?
原 大会直前に盲腸になって、出られませんでした。でも3年生のときはまた都大会に出て。
さやわか 3年の頃には主役だけでなく、演出も脚本もするようになっていたと。小学校のときは小説を書いていたわけですけど、演劇のほうが楽しくなって次第に書かなくなったのでしょうか。
原 そうですね。完全に演劇にはまってしまいました。四六時中滑舌していました。オタク体質で、一つのことに集中するとそれしか見えなくなってしまうんです。「あのシーンはこうしたらいいんじゃないか」って電車で一人でぶつぶつ言ってました。
さやわか お、かっこいいですね。
原 どうなんでしょうね。危ない人ではないかと……(笑)。でも脚本は書いてたんですよ。ただ、お粗末なものばかりで、書いては顧問に見せ、書いては顧問に見せ、の繰り返しでした。
さやわか 「ここがいい」「ここが悪い」と指導を受けたわけですね。
原 それは言われなかったんですよ。具体的にどこが悪いとは。でもそういう指導の仕方はとてもよかったと思っています。何も言われないと、なぜ駄目なのか自分で考えるようになるので。
さやわか その頃にはもう、「高校に行っても演劇をやろう」と思っていたんですか?
原 それが第二の転換期ですね……。中3のときにミュージカルに出会ったんです。『キャッツ』を観に行って、「私、ミュージカルがやりたい!」と思ったんですね。
さやわか 劇団四季はけっこう観に行ったんですか?
原 はまりましたね。もうオタでした。役者の名前を言われたら顔と声が出てくる、といったくらい。ミュージカルばかり観ていました。『キャッツ』とか『ライオンキング』とか。
さやわか ミュージカルをするために歌も練習したんですか?
原 昼休みに一人で練習してました。『レ・ミゼラブル』とか。ミュージカル役者になろうと本気で思ってました。
さやわか 演劇ではなく?
原 演劇とはまた別の次元だと思ってたんです。で、中学卒業後にミュージカルの学校に行ったんです。……そしてまんまと辞めたという(笑)。
太田 高校中退かー。それはちょっとした事件ですね。
さやわか どうしてそんなことになってしまったんですか?
原 私、病気になっちゃったんですよ。
さやわか ミュージカルができない身体になってしまったと。それは仕方がないですね。学校の授業も自分には合わなかったですか?
原 授業で一番最初に言われたことが「役者は演出家の言うことだけを聞いていればいい。演技をするな、感情なんて考えるな」ということで、私は「それは違う」って思ってしまったんです。
さやわか それまで中学で学んできた演劇は、そういうものではなかったんですね。
原 はい。だから単純に「それは演技じゃない」と思ったんです。
さやわか そうすると、授業のすべてが信じられないようになってしまいそうですね。
原 そうです。すごかったです。あと、ダンスが苦手でついていけなかったり。
さやわか ミュージカル志望なのに(笑)。
原 ミュージカル志望なのに(笑)。歌だけで勝負できると思ってたんです。頭でっかちで、全部頭で考えてしまうんですよね。だからその当時の自分の演劇にその学校は合っていないな、と思ってしまったんです。
さやわか それで辞めてしまったと。入学してからどのくらいの時期ですか?
原 2カ月です。
太田 早いね!
原 朝、学校に行くときに吐くようになってしまったんですよ。
さやわか 友達とかはできなかったんですか?
原 いや、できたんですよ。それなのに、という感じで。不思議ですね。
さやわか で、学校に行くのが難しくなってきて……。
原 『新世紀エヴァンゲリオン』の壊れたアスカみたいになっちゃったんですよ。
太田 それはヤバいですね……。
原 ある日、発病したんですよ。喋れないなーって。いきなり涙が出てきたりして。
さやわか 既に中学で実績があるのに、全然違うことを上から押し付けられるのがつらくなったんですかね。
原 うーん……。実力はあったのでやっていけるだろう、と思って入学しちゃったんですね。でも、そこまで自信がなかったからアスカ状態になってしまったと思うんです。
さやわか なるほど。
太田 それはすべて学校の授業のせいなのでしょうか?
原 いや、たぶん中学のときにあまりに受けすぎた精神的ストレスのせいもあるんじゃないかと。
さやわか 愛憎劇のストレスはそこまで続いていたんですか?
原 はい。でも、私のこと大好きだったんですよ。あの人。
さやわか 愛してほしかったんですね。
太田 お互いにキツいね……。
原 私も、その子が心にすごい傷を負っていると思ったので、愛してあげたかったんですよ。
さやわか 優しいんですね。
原 優しさというより、私にとっては「愛と勇気が友達」だったので……。
太田 いやー、ろくでもねー! ろくでもねーよ! 「愛と勇気」は!
さやわか アンパンマンの慈愛の精神が、相手には違うかたちで伝わっていたんですかね(笑)。
原 どうなんでしょうね(笑)。
さやわか しかし、吐いて学校に行けなくなるってきついですね。
太田 ある意味では、ハイパーな5月病だったんじゃないかな?
原 ああー。ものすごくひどい5月病だったんでしょうねー。いまだに『Hello Goodbye』とか聞くと、あの人のことを考えて泣けてきます。ああ、どうして私が「ハロー」って言うと、彼女は「グッバイ」って言うのだろう、と。私が「ハイ」と言うと、彼女は「ロウ」と言うのだろう、と。一緒にいたいのに、みたいな。
さやわか トラウマみたいなものになったんですか?
原 夢に出てきます。彼女が私を追いかけてくる夢を何日も何日も見ました。
さやわか でも、そこまで気にするほどの愛情はあったんですね。今はどうですか?
原 ないです! こないだ彼女が夢に出てきたときに、やっと追い返すことができたんですよ。だから進歩したなー、と。
太田 以前、やけに女の子にモテまくっている僕の友人が「好きになるより好きになられるほうがつらいよ……」って言っていたなあ。自分から好きになるぶんには感情を自分でコントロールできるけど、好きになられたら「やめてくれ」とは言えない、って。
原 そうですね。怖いですね。ただ、イジメっ子もモラルない子もそうでしたけど、私は「自分が世界で一番偉い」と思っている人が好きなんですよ。
太田 それはなぜ?
原 なぜでしょう……。Mだからかな?(ドヤ顔で)
さやわか ある種の編集者にも似てますね。
太田 編集者はMッ気がないと務まらないからねー。
原 その人は私のことをいじめるけど、本当は私をいじめないとその人は生きていけないんだな……というか。
太田 わかるぜーーーーっ!(絶叫)
さやわか それはすごく編集者っぽい(笑)。それが誇り高きMの姿ですよ!
次回、2011/08/17(水)掲載予定!