“サイコポップ”が『ダンガンロンパ/ゼロ』に至るまで——
後編
足かけ4年、ついに終わりを迎えた『うみねこのなく頃に』の旅。ラストエピソードとなる Episode 8 を発表直後の竜騎士07に迫る! 『うみねこ』は“何”を僕たちに残したのか?
少年・小高和剛
―― ちょっと話は遡るんですけど、小高さんはどんな子ども時代だったのですか?
小高 子ども時代……。僕、実は家族とかからものすごくイイヤツだと思われてるんですよね。
―― いいじゃないですか。ずっと東京なんですか?
小高 ずっと東京ですね。今もなんですけど、すごくイイ人間だと思われてるんです。
―― 「かずちゃん」みたいにね。
小高 気遣いも出来るし……みたいな。
―― 自分で言うか(笑)!!!
小高 よく言われるんですよね。「気遣いも出来るし、優しい」みたいなこと(笑)。
―― (笑)
小高 親族の葬式とか結婚式とかでそう言われるんですけど、彼らが『ダンガンロンパ』見たらどう思うんだろうっていう……(苦笑)。怖いですよね。
―― 割とまっすぐ育ってきた少年時代って感じですか?
小高 ただ中学生の中2のときに……。
―― 中2のときに!?
小高 中2のときは、一人も友達がいなかったですね。中1も中3もいたんですけど、中2だけ一人ぼっちで。私立の男子校だったんですよ。ほら、男子校の中学生っていろんなものが歪むじゃないですか。おしっこをテニスボールが入っている缶に入れてる奴とかいるんですよ。もう狂ってるじゃないですか。それが楽しくてしょうがないらしくて、キャッキャ言ってるんですよ。
―― 猿みたいなものですね。
小高 そうですね、お猿さんみたいなもんです。そういうのがあった挙げ句、中2は一番落ち込んでた時期で。とりあえず、授業終わったらすぐに家に帰って、12chの6時からのアニメを見るという生活で。それを毎日やっていました。あと、ホント周りに女の子がいないんで、とりあえずデートコースだけを考えるみたいな日々。
―― 渋谷に行って……みたいな?
小高 渋谷に行って、どっかの映画見に行って、オレンジジュース買って、コーラ買って、「おーい」みたいな、そういう変な……。
―― さぶっっっ!!!
小高 ホント、リアルにダメな中2。
―― 高校はどうだったんですか?
小高 高校はホント、「モテたい!」みたいな時期になっちゃいましたね。
―― モテました?
小高 モテませんでしたね。ま、男子校でしたからね。
―― 中高一貫?
小高 中高一貫ですね。ただその男子校のマインドは今でも生きてますね。たぶんそこに、歪んだものが全部入っちゃってる感じだと思います。
―― ものづくりはギリシャ哲学的な(笑)感じでやるのが一番ですよね。
小高 (笑)。だから、恋愛ものとかギャルゲーとか、すごく苦手で、やれと言われても多分出来ないなーと思います。中学の頃とか、まだそんなに数はなかったと思うんですけど、「女の子萌え」みたいなアニメとか小説とかを読むのもつらくて。そういうものに憧れちゃうのもつらいと。ホント、ロボットアニメとかばっかり見てました。
―― 大学に入ってからなんですか? 映画監督的なものを志すようになったのは。
小高 入ってからですね。僕、ものすごく受験勉強をしていたんですけど、そういう結果がわかるものがすごく好きだったんです。学生の頃って、努力が反映されて、頑張ってるかがわかるものって勉強くらいしかないじゃないですか。
―― 原くくるさんなんかはごくごく例外ですよね……。
小高 (笑)。社会に出たら結果なんて簡単に出ないですよね。営業の人とかは数字で明確に出ると思うんですけど。受験は今自分が何位とか偏差値いくつとか、すごくわかりやすくて。
―― 努力したらした分だけ上がりますからねぇ。
小高 そんなわけで、勉強はすごく好きだったんですけど、受験前に勉強し過ぎて疲れてきちゃって、急に「やだなー」とか思っちゃったんです。成績はすごくよかったんですけど。そんなとき友達から、「日本大学の芸術学部ってとこがあって、映画をやってるらしいよ」みたいなことを聞いて、映画が勉強なのかってちょっとびっくりしたんですよね。で、「そこに行きたい!」と思って、大学に入ってから、そういう進路を考えるように。映画をどっと見るようになったのもこの頃からです。
―― ふーん。
小高 それまではホント、趣味レベルでしか見てなかったんです。でも大学に入った時点で、なぜか「俺は作れる!」みたいなことを思ってて(笑)。
―― じゃあ、いつからゲームの方に行かれたんですか?
小高 卒業してからです。卒業した後、映画業界に行った先輩たちの手伝いをしてたんですが、知り会いのツテでゲームの仕事もフリーで受けるようになって、そこからですね。基本的には僕、全部後追いなんですよ。「やります!」みたいに手を挙げた後に、慌てて詰め込みで勉強するタイプで。
―― それはある種天才型ですね。
小高 いや、天才型ではないですねぇ(苦笑)。
―― 普通やれって言われても出来ないですよ。
小高 そうなんですかねぇ。でもホント、僕は……努力というか、吸収したものしか出せていないと思います。ある作家さんの話なんですけど、締め切りを過ぎてから1週間で書くとか、1回書いたものは見直さないとか聞いちゃって、そういうのが天才なんだなぁと思いますね。僕はこう、地道に書いて何度も何度も見直してじゃないと全然作れないんで。
―― いろんなパターンがありますよね。書き方も、頭から書く人もいれば、お尻から書く人もいたり、ランダムに書ける人もいたりとか。
小高 たぶん、『ダンガンロンパ』とかプレイした人や、『ゼロ』を読んだ人は、結構ノリで書いてそうだなと思ったりすると思うんですよね。文体とかもそうですし。でも実際すごく考えて、何往復もして、何回も見直して……。
―― 『ゼロ』のやりとりも、結構激しくしてましたもんね。
小高 そうですね。おかげさまで。
―― 4回くらいでしたっけ?
小高 そうですね。でもそれで足したところは……良くなったと思ってます。
―― 良くなりましたよね! 小高さん、すごく直しも的確だし。
小高 直しは、ゲームシナリオのところで培った部分が大きいです。ゲームシナリオはいろんなスタッフからあらゆる事を言われるので、そこから何を選んで何を直すか、全部自分で決めて自分で選んで、というのをずっと繰り返していたので。
―― それはゲームづくりがいい方向に作用してますよね。頑な人も多いんですよね。褒められ慣れてる人とか。
小高 僕は、全然褒められ慣れていないですね。逆に、誰かに一回見てもらって安心するっていうか。
―― なるほどなるほど。
小高 最初に太田さんに初稿を送った時も、「どうしよう……送るのやめよっかな……」って(笑)。でももう朝の5時くらいだったんで、「えいっ! 送っちゃえ!」と。そこでやっと安心するんですよ。
―― なるほどねぇ。いやでも、最初からホント面白い小説でね。ドキドキしながら読ませてもらいました。
小高 でも、ゲームシナリオでもそうなんですけど、やってる時はしんどくてしょうがないんですよ。最終的に、スクリプトを入れて、データも全部入って、プレイして初めて「うわ、面白え!」ってそこで思うんです。そのときの快感が唯一の原動力。書いている時は「今度こそダメだな……」って毎回思ってます。叩かれて終わるなと(苦笑)。毎回そう思ってるんですけど、でもまぁ、毎回なんとかしてきたんで、そこがホント唯一の原動力ですね。
―― いや、でもね、虚淵玄さんも奈須さんも三田誠さんも成田さんも、みなさん喜んでくれたみたいで。
小高 いやぁホント、有り難いですね。そうそうたる方々に見てもらって。しかも帯まで……。
―― 帯はすっごい豪華ですよね!
小高 本抜きで、帯だけでも買う価値ありだと思ってますよ。
―― この4人が並べば、確かにそれはあるかもしれませんね(笑)。僕も、帯でこれだけ豪華なのは初めて作ったんじゃないかっていう。
小高 そうですよね。他の方から「何だよこいつ……うらやましい!」みたいに思われてそうで……(笑)。
―― 妬みは買ってると思いますよ(笑)。
小高 「この4人に帯を書かせやがって……!」みたいな(笑)。「こんなノリで書いたような文章のくせに!」って……。
―― そんな……(苦笑)。
小高 それはノリではありませんので(笑)。計算したノリです!
―― 京極さんのデビューの時に、竹本健治さんと法月さんと綾辻さんが推薦文を書いてくださっていて、あれが念頭にあったんですよね。そういう本の作りをやってみようと思って。
小高 あれも衝撃的でしたもんね。
―― 今回はあれに近いことが出来たかなと自分も思っていて、そういう意味では『ゼロ』は僕にとっても大事なものになってます。実は、今回の本づくりで大変だったのはリードなんですよ。さっきも言ったみたいに、ファウスト・メフィストの作家さんが連合して『ダンガンロンパ』を書いてたんじゃないかって、まぁ笑い話なんですけど、そんな笑い話を小高さんに持っていったら、「小説にも影響受けてますけど、太田さんのリードにも影響受けてます!」っておっしゃってくださったじゃないですか。「えっ!?」と思ったんですけど、よく考えると僕、ウィキペディアとかに「最強」とか「天才」とかよく大袈裟に連発する傾向があるとか書かれているし……。
小高 「人類史上最大最悪」とか「希望の学園と絶望の高校生」とかファウスト的な……。
―― 太田イズム的な……(笑)。「確かに……!」とか思っちゃいましたもん。灯台下暗しみたいなね。で、そう気づいたときに、これはいよいよ真面目に書かなきゃみたいなところがあって。でも割といいリードが出来ましたよね。いい才能だっ! 自分でもよく書けたなぁって。
小高 まさに極まってますもんね。
―― そうそう。始まって極まるっていうね。最初に極まるの方を考えたんですよね。そうするとなんか始まるかなぁと思って。デザイン的にも綺麗になりますし。僕、最初帯のリード書いて小高さんに送ったとき、すっごいドキドキしましたよ。これで「なってない」って言われたらどうしようって。
小高 すごくカッコよかったです。
―― ありがとうございます。わりと素直に書けたんで。ああでもない、こうでもないといいながらも、ぐるっと回って帰ってきたみたいな。
小高 結果としてやっぱり、『ゼロ』でこの題材を選んで良かったなと思いました。最初は他のキャラクターたちの短編を15冊くらい、ひとつのボックスにボンッって入れて売ろうかなというのもアイディアとしてありましたけど、そうするとリードは「始まる」にはならないですもんね。
―― そうそう。あとファンの人が買って終わりっていうのになると思いますね……。ちなみに、リードだけでじゃなく原稿のやり取りで印象に残ったエピソードとかありますか?
小高 ありますあります! 編集者ってこうなんだ……って思ったのが、たぶん再校の時だったかな? 「このくだり面白いので、もっと面白くなると思います」って鉛筆で書き込みがあって、「ああ、こうやってハンドルしていくんだ……」って思いましたね。
―― 時々やります、僕(笑)。
小高 あんまり受けたことのないものの言われ方で、それが印象的でしたね。これが太田のやり方か、って。
―― 「やるな、ブライト!」みたいなね(笑)。最初は西尾さんにやったのかなぁ。その時、西尾さんにもウケたみたいで、以降、何度かやってます(笑)。
小高 あれはすごいですよね……。「こいつ〜!」とか思いつつ、直しますもん(笑)。
―― ありがとうございます。
小高 でも使いまくられると、どこかで「あれっ?」って思うっていう。
―― 毎回だと、作家さんが疑問に思っちゃうかもしれないから、一回しか使えないんですよ。「おかしいぞ?」「ホントに面白いって思ってるのか?」みたいな(笑)。危険なことばですよね。……これ、インタビューとかで言っちゃったら、もう使えないかもしれない(苦笑)。
小高 あれは印象的でした(笑)。
―― じゃあ、新しい奴を考えます。新しい手を。ただ、編集者的なテクニックもありますけど、最終的には作家とか作品に惚れ込むかどうかですよ。そういう意味では、『ダンガンロンパ』も『ゼロ』も惚れ込める作品だったので、幸せでしたよね。
読者からの質問
―― それでは小松崎さんにそろそろ合流して頂こうと思うのですが、その前にtwitterで募集した読者の皆様からの質問を見ていきましょう。
小高 そうですね、さくっといっちゃいましょう!
―― ではひとつめ。「以前『ダンガンロンパ』の作品のキャラクター達には誕生日やプロフィールなどすべて決まっていると聞いたのですが、今回の『ダンガンロンパ/ゼロ』のキャラも設定されているのでしょうか?」
小高 あの……ないですね。
一同 (笑)。
小高 『1』のキャラには全て誕生日設定していて、特に十神に関しては作中でも明言されてます。なので、十神の好感度イベントを見てもらえるとわかります。
―― つぎは「影響を受けたミステリ作品、または心に残っているミステリ作品を伺いたいです!」ということですが……。
小高 やっぱあれですね……清涼院流水さんの『コズミック』!!
あとはやっぱり東野圭吾さんですね。というより、ピンポイントで『容疑者Xの献身』。あれはホント、ミステリーの最高峰だと思っていて、あれと『コズミック』をミックスさせたらどんだけすごいものが出来るのだろうなって。
一同 (笑)
小高 そこが目標です(笑)!
―― 混ぜるな危険ですよ!!!
小高 いやそこを混ぜて、「混ざった!」っていうのをいつかやりたいなと思ってます。
―― よし、じゃあいつかやりましょうよ。
小高 東野イズムと清涼院イズム(笑)!
―― これはすごいミクスチャーですよ。よ、読みたい!
小高 一応そこが目標なんで。
―― なるほど……。では次の質問。「閉鎖的な設定や世界観はよく考えるテーマだったりするんでしょうか?」
小高 それは、『ダンガンロンパ』の作品的に、背景があまり用意できないなと思っていたので、逆に言ったら出来るところからやろうと思ってました。
―― 「閉鎖」ってしちゃうと、楽になるんですよね。
小高 そして『ダンガンロンパ』の場合、学校っていうのを取り払っちゃって、妙ちくりんな設定にしちゃったんで、結果としてはそんなに変わらなかったです(笑)。
(ここで小松崎さん合流)
―― おお! 小松崎さん! 下巻も素晴らしいイラストありがとうございました! 超よかったです!
小高 小松崎くんにも質問きてるよ! 「小松崎さんはイラストレーターになっていなかったら、何になっていましたか?」
小松崎 俺はイラストレーターっていうんですかね(笑)?
小高 とりあえずそういうことにしてさ!
小松崎 ゲームの仕事してなかったらってことですよね?
小高 グラフィックの仕事してなかったら……。
小松崎 全然想像つかないですね……。きっとプータローでしたね。
小高 彫刻家じゃないの?
小松崎 彫刻家ではないね。
一同 (笑)
―― 小高さんは何だと思いますか?
小高 僕は映画監督ですね。
一同 おぉ〜!
小高 なれないっていうのは、置いといてですね(笑)。
―― 難しい質問もきてますよ。「小高さんにとって『希望』とは何かをお伺いしたいです」
小高 頭のいい質問がきちゃいましたね。なんか……小松崎、先に答えて(笑)。
小松崎 俺ですか!?(笑)
一同 (笑)
小高 小松崎くん、例えばだよ! 例えば(笑)!
小松崎 例えば……ですか?
小高 小松崎くんにとっての「希望」って何?
小松崎 希望……なんだろう……。大喜利的に答える必要があるんですか(笑)?
小高 大喜利的に……(笑)?
小松崎 希望ねぇ……なんでしょうね……。
小高 ……「一分ほど黙る」って書いときましょう(笑)!!!
一同 (笑)
小松崎 なんも出てこないですねぇ。
小高 ……あんままともなこと言ってもなって感じもするしね。難しいよね。
―― 小高さんどうですか?
小高 希望と絶望は……、あんまり「リアルな世界ではないもの」じゃないかって気がするんですよね。絶対的な善と絶対的な悪みたいな気がして。人は結局その間をうろうろとしているんですけど、希望と絶望は、ある意味「フィクション」的というか、実は僕らと同じ地平にはないって思うんです。100%の希望は絶対ないし、100%の絶望もないから、神様みたいなものっていう捉え方で僕は書いていますね。
―― 『ダンガンロンパ』の最後も割とそんな感じだったかもしれませんね。
小高 結局あれは「希望だね」みたいなことを言ってるんですが、見ている人としては「これ希望なのかな」ってわからなくなると思います。結局だいたいの人がその真ん中にいるんだろうし、右に行ったり左に行ったり、振れ幅があるっていうか……。
―― 今回の主人公みたいに、絶望の方に振り切ったと思ったら、それが希望につながったりすることもあるだろうしね。
小高 僕、今回の江ノ島の最後のセリフが気に入っていて、希望しちゃってる絶望というのが、そもそも矛盾しちゃってるじゃないですか。やりたいことやってもそれは希望通りじゃないし。観念的だからこそ、さっきみたいに悩んじゃうんですよね。答えがないものなので。
―― いい話ですね。
小高 フィクションですね、やっぱり。
―― では小松崎さんに。今回のイラストは星海社FICTIONS最多の枚数となります。ありがとうございます! 相当贅沢な本になったと思います。
小松崎 そっか、これ枚数、キャラ紹介とかも含めると……。
―― めっちゃ描いてもらいました。
そこで小松崎さんに、「今回のイラストは全体的に、ゲームよりエロい気がするんですけど……」っていうのがアシエディ山中からの質問です(苦笑)。
小松崎 そう、太田さんに「エロい!」って褒められて調子に乗ったんだと思います(笑)。
―― 俺か(笑)! いやなんかね、エロいっていうかエロスがね! すごいよねぇ。いや、最初変な褒め方しちゃって、「絵の具に○○が混ざったようなすごい絵ですね!」みたいなひどい褒め方したと思ったんですけど(笑)。
小松崎 CGなので……(苦笑)。
―― でも、香り立つような、むせかえるようなエロスをすごく感じて、やっぱりいい絵なんですよね。
小松崎 ありがとうございます。
―― 普通に描いているだけなんですけど、なんか髪の毛の先からも……。
小松崎 髪の毛の先(苦笑)!?
―― うん。このあたりとか、もちろんエロいんですけど、ここら辺も結構エロいなって思うんですよ、僕!(イラストのプリントアウトを指さしながら)
一同 へぇ〜!
―― 小松崎さんの描く髪の毛はやっぱエロいですよ! あと、僕は持論があって、スカートの長さをきちんと決められる人はセンスがあると思ってるんですけど、小松崎さん、出来る人なんですよ!
小松崎 マジっすか……(苦笑)。
―― スカートが絶妙なんです! これ以上、上にいっても下にいってもダメになるっていう。
小松崎 これ短すぎるって結構言われるんですけどね。
―― これがジャストなんですよ! 「いい! この切り方!」みたいな(笑)。黄金比ですよ(笑)!! そこが素晴らしいなと思いますね。ちなみに小高さんと小松崎さんは、今回のキャラクターデザインについてどんなやり取りをしたんですか?
小高 今回、結構任せちゃったんじゃない?
小松崎 そうですね。ゲーム制作の場合、ちょっとした設定しかない状態でキャラクターデザインを始めることが多いんですが、今回は結構キャラが固まっていて、かつどういうセリフでどういうことする奴なのか分かった状態で進められました。読みながらイメージしたものを、そのまま描いて、そんなに変更点もなく……って感じでした。
小高 ゲームのときはそこに声優さんが絡んできたりとか、ゲームプレイが絡んできたりとか、色々複雑になってくるので、結構注文が多くなるんです。ただ小説の場合は小説の中だけで完結するものなので、ある意味任せたところはあります。……音無くらいだよね、調整したのは。
小松崎 うーん、そうですね。他は最初のラフからほとんど変わってないですね。
―― 普段ゲームのときは、設定が確立してないところからキャラ立てが始まるんですか?
小松崎 結構何もない状態ですね。
小高 そうですね。
―― へぇー。
小高 たぶん会社によっても違うと思うんですけど、『ダンガンロンパ』の場合は、シナリオもグラフィックも一斉にスタートするんですよ。そうすると、背景もキャラデザも何も決まらないままスタートしてしまうので……。本当はシナリオが先行してっていうのが多分正解なんでしょうけど。
―― そういう風にいうと今回の『ゼロ』は贅沢な仕事のやり方だったんですね。バタバタしないというか。
小高 それが正解のやり方のような気もするんですけどね。少なくとも誰も傷つかないやり方だと思います(笑)! みんな同時にスタートすると、誰かが傷つく。というか俺が傷つく。
―― 結局だれかが釣り合いをとらないといけないですもんね。
小高 そうですね。こういう風にしようか、って書き出すとあとで変わってきちゃったりとか……。結局他のスタッフに「変えて」って言うんですけどすごく迷惑がられたりします(苦笑)。
各キャラについて
―― それでは今回の各キャラについて、それぞれ細かく伺っていきたいんですけど、まずは涼子ちゃんについて。どうですか? 涼子ちゃんは。
小高 難しいですね……。たしか太田さんから一回書いたときに言われたんですけど……。なんでしたっけ、病んでる……。
―― 「かまってあげたくなるメンヘラ」じゃなかったでしたっけ?
小高 そうそう! それを聞いてから「なるほどー」って。鬱陶しくも、かまってあげたくなるような……。だから鬱陶しさは残したいなぁと思って。「あぁコイツめんどくさいな」みたいな。
―― うざいんですよ。ウザかわいい!
小高 だからこそ絵の方は、最初小松崎が描いてきたときは、それによりすぎて、あんまかわいくなかったんですよね。
小松崎 表情とか見えないくらい髪とかぼさぼさで、どっちかっていうと腐川に近いというか、もっと腐川寄りだったんです。でもそういう鬱陶しさはシナリオで出ていたので、逆に絵の方はかわいくしたっていう。
―― じゃあ、涼子ちゃんがかわいくなったのは、僕のおかげだったんですね(笑)。
小高 そうそう。
小松崎 最初の打ち合わせのあとから、シナリオ自体もだし、キャラも変わった気がします。
―― 言ってみるもんですね(笑)。でも、僕ホント涼子ちゃん好きなんですよね。
小高 最初初稿で見ていただいたときは、スピードが速すぎて、松田と涼子のやりとりが全然ない状態だって指摘を受けたから、そこを足していって……。
―― もっとラブを感じさせてほしいとか言った気がする。「愛の戦士になってほしい!」みたいな(笑)。
小高 それから、松田の毒舌さとか、涼子のめんどくささとかが一杯出てきたんで、尚更かわいい絵と相まってよかったかなと。
―― 松田はどうですか?
小松崎 確か松田も、太田さんから指摘をいただいたときに、最初はただの毒舌すぎるキャラで。
小高 そうだね。最初はあんまり、音無に対しての優しさが見えるキャラじゃなかったよね。それを足した感じですね。
―― 言ってました? 僕? もう全部忘れてるなぁ(苦笑)。
小高 でも僕、イケメン毒舌キャラって好きなんで、松田は結構好きですね。
―― 割と女の子のファンがつきそうですよね。「ひどいことを言われてみたい!」みたいな。
小松崎 そういうご時世ですからね……。
―― そういうご時世なんですか(笑)!? ……なるほど。優兎くんはさっきも話題に出ましたが、いいキャラですよね。戦刃とかも、今回きちんと書かれたんで、ファンは増えるんじゃないかなと思いますよね。いじらしいですよね、彼女は。
小松崎 そうですよね。途中で○○○になりかわっているとき、あ、こんなにはっちゃけられるんだってくらいはっちゃけてましたよね。
小高 一応●●があるからっていう設定なんですね(笑)。
―― 頑張ってるんですね(笑)。あとは斑井一式とかも、すごく悲しいキャラじゃないですか。
小高 なんか『ダンガンロンパ』だと、ああいった雑魚キャラとかは出せなかったんで、逆にいいやられっぷりの雑魚キャラを作ろうみたいなことで出しました。
―― 全員が主人公みたいなところが『ダンガンロンパ』の世界にはありますからね。でも、斑井さんは……キャラ立ってますよ! 彼は!
小高 彼は雑魚キャライズムのおかげでキャラが立った。
―― 究極の雑魚キャラみたいなところがありますよね。そうそう、全員が主人公っていうのも西尾イズムに繫がるところがありますよね。それでは、今回一番好きなキャラクターをそれぞれ挙げていただいても大丈夫ですか?
小高 僕は……ホントは神代……だけど、最後の戦刃が好きなんですよね、あの怒られているところ(笑)。
―― 怒られているところ(笑)! このドS!!!
小高 あそこは成田さんもすごく気に入ってくれてました。あんなひどい扱いされてたのに。
―― ホントひどいですよねー!
小高 あそこ読むまで、なんで戦刃は江ノ島に■されちゃったんだろうとか思うんですけど、最後のあれを見たら、江ノ島にはここまで弱いんだっていうか、さからえないっていうか……。安心しきっちゃってるし。ドMだし。「なんで私が■されちゃうの?」って感じです。
―― これ読んだ後だと、ゲームやるとよくわかりますよね。なるほどー! みたいな感じで。
小高 でも6章から、悲しい気持ちになるかもしれないですね。「むくろぉ〜」みたいな感じで(笑)。
―― 小松崎さんはどなたが好きですか?
小松崎 僕はやっぱ、斑井ですね。描いてて一番楽しくて……。本来、こういうのばっか描きたいんですよ。もっと特徴とか、気持ち悪い感じとかを出したいので。
小高 斑井は推理ゲームにいちゃいけないキャラだよね(笑)。
―― 小説の中だからOKだったかもしれないですね。
小高 でも今回、そういうのが一杯出せたのが良かったかなと思います。ゲームのキャラで音無がいたら、めんどくさくてしょうがないし、あと神代くんもゲームでどう表現するかってことになると思いますし。もちろん斑井も。そういう風に、推理ゲームでは出せないキャラが出せたのは良かったですね。
―― 先ほど小松崎さんがいらっしゃる前に、小松崎さんはすごいバトルが好きだって話をしたと思うんですけど、斑井がいると必然的にバトルになりますからね。そこがよかったんでしょうね。小松崎さんの絵の原点っていったいなんだろうなって思ってたんですけど、柴田ヨクサルさんがお好きなんですよね。「あぁなるほど!」って感じで。
小松崎 『谷仮面』から読んでます。
―― 『谷仮面』! 僕も好きです!
小高 あれか、『エアダイバー』から読んでる人とは違うよっていう。
一同 『エアマスター』です(笑)!!!
小高 僕はこの時点でダメっていう……(笑)。
―― 柴田先生の作品はいつ頃からお好きなんですか?
小松崎 あ、でも『谷仮面』の連載の時は知らなかったです。『エアマスター』が後半すごかったじゃないですか。「金太郎編」とか。あの辺でとんでもねぇ漫画家だなと思って、それから全部集めて。
―― ガッと読んで、みたいな?
小松崎 そうですね。ただ『ハチワンダイバー』はあんま読んでないですけど(苦笑)。
―― 将棋マンガですしね(笑)。
小松崎 途中までだいぶ似た感じだったのが、本当に将棋マンガになってしまって……。
―― いや、将棋マンガですから(笑)!
小高 でも将棋で人が死んでるよね(笑)。
小松崎 そうなんですか!
小高 最新刊は驚いちゃった。
―― メイドさんが蹴りを練習してますからねー(笑)! ……柴田さんの他にはどんな作家が好きなんですか?
小松崎 僕は漫画家さんが基本なんですけど、雑食だと思いますよ。
―― 豪先生とかどうですか? 永井豪先生。
小松崎 もちろん『デビルマン』も読みました。でも一番好きなのは弐瓶勉さんですね。
―― 弐瓶さん……。斑井にそういう雰囲気があるかもしれませんね。
小高 『ダンガンロンパ』やる前なんか、すんごい意識してたよね。
小松崎 まんま意識してましたね。
小高 『ダンガンロンパ』も最初は今みたいな雰囲気じゃなくて、弐瓶さんっぽい「シャー」っていうか。
―― 以前あんまり触れられたくないっておっしゃってたと思うんですけど、小松崎さんの絵って、元々彫刻をやられていたこともあってか、肉体を感じさせるイラストなんですよね。それはやっぱりやってるからだなっていう。太ももの筋肉のつき方とか、彫刻をやっていた方ならではだなって。
小高 彫刻で人を作ったことはあるの?
小松崎 ありますよ、もちろん(笑)!
小高 一応聞いておかないと(笑)。
新作について
―― ではそろそろ、新作の話もしていいですか? 『ダンガンロンパ』と『ゼロ』の間の物語については、いつか語られることはあるのでしょうか。
小高 やりたいですね。これは結局、書いてる途中に、『ゼロ』じゃなくて『ゼロゼロ』だなって気がしてたんですよね。『ゼロ』のさらに前の話だなって思ってたんですけど。
―― 今からタイトル変えます? もう無理ですけど(笑)。
小高 でもなんか、「人類史上最大最悪の絶望的事件」のところは、すんごいパワーがいりそうだよね、あそこは、クラスメートのちょっとした授業のところから始まって、そこからどんどん……。
―― 『ダンガンロンパ/ゼロ・ワン』みたいな感じでね。
小高 たぶん、その『ゼロ・ワン』のところがものすごいことになる……。めっちゃパワーもいる。
小松崎 つじつま合わせがね……。
小高 つじつま合わせっていうか、ホント迫力のところだもんね、たぶん。つじつまは合うんじゃない? 最終的にあの15人だけ生き残れば。
―― いずれやりましょう!
小高 そうですね。上・中・下くらいになっちゃうかもしれませんけどね。
―― では最後の質問を。ファンの皆様へのメッセージをそれぞれいただければ、ということなんですけど。
小高 『ダンガンロンパ』で全力投球したはずなんですけど、皆さんの応援のおかげで、壮大な「ダンガンロンパサーガ」が……一応「サーガ」といっていいのかな。ま、「サーガ」に話が及んできたので、皆さんを裏切りつつ、楽しませられるものをこれからも作っていきたいと思っております。『ダンガンロンパ/ゼロ』の方は、長いですが、下巻までお付き合いください。
―― いやぁ、早くネタばれ全開で語りたいですね! これねぇ……みんなそう思ってると思う! 小松崎さんはいかがですか?
小松崎 デザインとか話の感じも含めてゲームとはテイストが違う形で描けたと思うんで、是非最後まで読んで下さい!
―― 今日は本当にありがとうございました!