Fate/Zero 1 第四次聖杯戦争秘話
第14回
虚淵 玄(Nitroplus) Illustration/武内 崇・TYPE-MOON
あの奈須きのこがシナリオを担当した大人気ゲーム『Fate/stay night』の前日譚を虚淵玄が描いた傑作小説『Fate/Zero』が星海社文庫の創刊に堂々の登場! 1巻目となる「第四次聖杯戦争秘話」は『最前線』にて全文公開!
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結論から言って、間桐雁夜の精神力はついに苦痛に耐え抜いた。だが肉体はその限りではなかった。
三ヵ月目にさしかかる頃には、すでに頭髪が残らず白髪になっていた。肌には至る所に瘢痕が浮き上がり、それ以外の場所は血色を失って幽鬼のように土気色になった。魔力という名の毒素が循環する静脈は肌の下からも透けて見えるほどに膨張し、まるで全身に青黒い罅が走っているかのようだ。
そうやって、肉体の崩壊は予想を上回る速さで進行した。とりわけ左半身の神経への打撃は深刻で、一時期は片腕と片足が完全に麻痺したほどだ。急場凌ぎのリハビリでとりあえず機能は取り戻したものの、今でも左手の感覚は右よりもわずかに遅れるし、速足で歩く際にはどうしても左足を引きずってしまう。
不整脈による動悸も日常茶飯事になった。食事ももはや固形物が喉を通らず、ブドウ糖の点滴に切り替えた。
近代医学の見地からすれば、すでに生体として機能しているのがおかしい状態である。にもかかわらず雁夜が立って歩いていられるのは、皮肉にも、命と引き換えに手に入れた魔術師としての魔力の恩恵だった。
一年間に亘って雁夜の肉体を喰らい続けてきた刻印虫は、いよいよ擬似的な魔術回路として機能するまでに成長し、今では死にかけの宿主を延命させようと図々しく力を発揮している。
すでに魔術回路の数だけで言うなら、今の雁夜はそれなりの術師として通用するだけのものを手に入れていた。間桐臓硯から見てもその仕上がりは予想以上のものだったらしい。はたして、雁夜の右手には今やくっきりと三つの令呪が刻まれている。聖杯もまた間桐の代表として彼を認めたのだ。
臓硯の見立てでは、もはや雁夜の生命は保ってあと一ヵ月程度だという。雁夜当人からしてみれば、それは必要にして充分な期間だった。
もはや聖杯戦争は秒読みの段階にある。七体のサーヴァントが残らず召喚されたなら、明日にでも戦いの火蓋は切って落とされるかもしれない。戦闘の期間は、過去の事例を鑑みるに、概ね二週間足らず。雁夜の死期までには充分に間に合う。
だが、今の雁夜が魔術回路を活性化させるのは、すなわち刻印虫を刺激することを意味する。当然、その際の肉体への負担は他の魔術師の比ではない。最悪の場合、戦いの決着を待たずして刻印虫が宿主を食い潰す可能性も充分に考えられる。
雁夜が戦わなければならないのは他の六人のマスター達だけではなかった。むしろ最大の敵というべきは、彼の体内に巣食うモノだった。