Fate/Zero 1 第四次聖杯戦争秘話

第3回

虚淵 玄(Nitroplus) Illustration/武内 崇・TYPE-MOON

あの奈須きのこがシナリオを担当した大人気ゲーム『Fate/stay night』の前日譚を虚淵玄が描いた傑作小説『Fate/Zero』が星海社文庫の創刊に堂々の登場! 1巻目となる「第四次聖杯戦争秘話」は『最前線』にて全文公開!

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後に残された遠坂時臣と璃正神父は、互いに無言のまま窓の外に目を向け、門から出ていく言峰綺礼の背中を見送る。

「頼り甲斐がいのあるご子息ですな。言峰さん」

「『代行者』としての力量は折り紙付きです。同僚たちの中でも、アレほど苛烈かれつな姿勢で修業に臨む者はおりますまい。見ているこちらが空恐ろしくなる程です」

「ほう信仰の護り手として、模範的な態度ではありませんか」

「いやはや、お恥ずかしながら、この老いぼれにはあの綺礼だけが自慢でしてな」

峻厳しゅんげんさで知られる老神父は、だが時臣にはよほど気を許しているものと見えて、てらいもなく相好を崩した。その眼差しからは、一人息子に向けられる信頼と情愛がありありとうかがえた。

「五〇を過ぎても子を授からず、跡継ぎは諦めておったのですが今となっては、あんなにも良くできた息子を授かったことがおそれ多いぐらいです」

「しかし、思いのほか簡単に承諾してくれましたな。彼は」

「教会の意向とあれば、息子は火の中にでも飛び込みます。アレが信仰に懸ける意気込みは激しすぎるほどですからな」

時臣は老神父の言を疑うつもりはなかったが、彼が璃正神父の息子から受けた印象は、そんな“信仰の情熱”などという熱意とはいささか食い違うものだった。綺礼という男の物静かなたたずまいには、むしろ虚無的なものを感じていた。

「正直なところ、拍子ひょうし抜けしたほどです。彼からしてみれば、何の関係もない闘争に巻き込まれたも同然のことだったでしょうに」

「いやむしろアレにとっては、それが救いだったのかもしれません」

わずかに言葉をにごしてから、璃正神父は沈鬱ちんうつに呟いた。

「内々の話ですが、つい先日、アレは妻を亡くしましてな。まだ二年しか連れ添っていなかった新妻です」

「それは、また

意外な事情に、時臣は言葉を失う。

「態度にこそ出しませんが、それでも相当こたえているはずです。イタリアには思い出が多すぎる。久しい祖国の地で、目先を変えて新たな任務に取り組むことが、今の綺礼にとっては傷をいやす近道なのかもしれません」

璃正神父は溜息混じりにそう語り、それから時臣のひとみを真っ直ぐに見据えて続けた。

「時臣くん、どうか息子を役立ててください。アレは信心を確かめるために試練を求めているような男です。苦難の度が増すほどに、アレは真価を発揮することでしょう」

老神父の言葉に、時臣は深々と頭を下げた。

「痛み入ります。聖堂教会と二代の言峰への恩義は、我が遠坂の家訓に刻まれることでしょう」

「いやいや、私はただ先々代の遠坂氏との誓いを果たしたまでのこと。あとはただ、あなたが『根源』へ辿り着くまでの道程に神の加護を祈るばかりです」

「はい。祖父の無念、遠坂の悲願、我が人生はそれらを負うためだけにありました」

責任の重さと、それを支えて余りあるだけの自信を秘めて、時臣は決然と頷いた。

「今度こそ聖杯は成るでしょう。どうか見届けていただきたい」

時臣の堂々たる態度に、璃正神父は胸中で、亡き朋友ほうゆうの面影を祝福した。

“友よ君もまた良い跡継ぎを得たのだな”