エレGY

CHAPTER 5-3『二人乗り再び』

泉 和良 Illustration/huke

「最前線」のフィクションズ。破天荒に加速する“運命の恋”を天性のリズム感で瑞々しく描ききった泉和良の記念碑的デビュー作が、hukeの絵筆による唯一無二の色彩とともに「最前線」に堂々登場! 「最前線」のフィクションズページにて“期間無制限”で“完全公開中”!

3『二人乗り再び』

自転車のぐにゃぐにゃの前カゴにエレGYのバッグを入れた。

僕が「いいよ」と言うと、エレGYは後部座席に跨り、僕の胸に両腕をまわしてしがみついた。

ペダルをぐっと踏み込む。

じょじょに自転車が進み、最初はぐらついていたハンドルがジャイロ効果によって安定していく。

止まっていた景色が動き出し、スピードを得る。

車輪の回転は尚も加速して、貪欲に輪力を食らい続けた。

もうただでは止まらない。

「もっと速く! もっと! 光速を超えろーー!!」

彼女の物理的不可能な要求を受けて、二人を乗せた自転車は必要以上の速度で疾走した。

夜の風に体が溶けていく。

速さが分かつ別の次元に到達したかのようだ。

歩道と車道を区切るアイツが見えた。

深夜のおかげで車は一台も走っていない。

準備は整った。

時は満ちたり。

彼女の悲鳴のような笑い声と共に、僕らは猛スピードで分離帯の上に乗り上げた。