エレGY
CHAPTER 3-8『命の恩人』
泉 和良 Illustration/huke
「最前線」のフィクションズ。破天荒に加速する“運命の恋”を天性のリズム感で瑞々しく描ききった泉和良の記念碑的デビュー作が、hukeの絵筆による唯一無二の色彩とともに「最前線」に堂々登場! 「最前線」のフィクションズページにて“期間無制限”で“完全公開中”!
8『命の恩人』
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件名『無し』
差出『エレGY』
日付『2007/12/21』
アンディー・メンテのサイトに行ったら、閉鎖しますって書いてた。
もう死のうと思って、最後にメールだして、マックでビッグマック食べてた。
もしかしたらじすさんが現れるかもしれない、って思ったら、じすさんが窓の外に現れて奇跡かと思った。
走ってお店を出たら、じすさんは自転車に乗って逃げようとしてた。
よくも、逃げようとしたな、まゆお。
中学の時、お父さんが出てって、家が無茶苦茶になって、私が登校拒否になってた時……、雑誌の付録についてたCDの中に、アンディー・メンテの『PAIN』っていうゲームを見つけたの。
短くて、なんだかよく分からない内容だったけど、ゲームが終わってウィンドウを閉じようとしたら、「まだ、心痛い?」って質問ウィンドウが開いて、「はい」って答えたら、「つらかったね」ってメッセージが出た。
多分、何でもない時にやってたら、ただ意味が分からなくて、興味も持たなかったと思うけど、その時、私、パソコンの前で声を出して泣いちゃったよ。
それからは毎日サイトを見て、じすさんの日記読んで、
嫌な事や、悲しい事があった時には、いつもアンディー・メンテのゲームで助けてもらったんだ。
何度も死のうとして手首を切ったり、薬をたくさん飲んだりした時も、いつも、……死んだらもうアンディー・メンテのゲームできなくなるな、って思って、そしたら死にたくなくなってた。
だから、じすさんにはどんなに感謝しても、感謝しきれないの。
じすさんが居なかったら、今の私は居なかったんだよ。
じすさんは私の命の恩人です。
きっと、じすさんに会って、もっと近づきたい、って思ったのがいけなかったんだと思う。
じすさんは、私なんかに躓かないで、これからもずっと凄いゲームや音楽を作らなくちゃいけない人なの。
世の中には、私みたいに、じすさんのゲームで救われる人がたくさんいるはずだから。
あ、新作の『ひきこもりの魔法使い』やったよ。全然面白くなかった!!
あんなの普通のゲームと一緒じゃん!
あーあ、まゆおはダメだな!
お金に焦って作ったって丸分かりだよ。他の人は騙せても、私は騙せないんだから! ぐへへへ。
(なんちゃって、本当は前にじすさんがその事言ってたの聞いて、分かってただけ〜)
でも、じすさん、私知ってるの!
じすさんは、じすさんが作りたいと思ったものだけを作らなくちゃダメなの!
私や、じすさんに救いを求めてる人たちはみんな、それを待ってるんだから!
アンディー・メンテじゃなくても遊べるようなゲームなんて、価値はないんだよ!
分かったか、まゆお?
ありのままのじすさんが、大事なの。
でも実は、あのゲーム、私ちょっぴり好きなんだv
なぜって、このゲームは、じすさんが家賃とかに困って作ったゲームなんだって、私には分かってるから。そういうの、他のファンは知らないもんね〜。
『二人乗り』のゲームはとっても嬉しかったです。
私の光だったじすさんのゲームに、この私自身が出演できたんだから!
また時々出してくれないかな〜……
じすさんに迷惑をかけちゃいけないって分かってるのに、じすさんへの想いが消えません。
じすさんは、私がジスカルドしか見てないような事を言ってたけど、そんな事ありません。
私は、ジスカルドも泉和良も、どっちもじすさんの大切な部分だと思っています。
私はじすさんと直接会うまで、アンディー・メンテのじすさんしか知らなかったけど、今は泉和良の方もちょっとずつ知ってる。だからもっと教えて欲しい。
泉和良と会うまでに想像してた部分、想像とは違ってた部分、全部含めて好きです。何よりも……
だから苦しい。
苦しいけど、もしじすさんが、それでも私を遠ざけたいと思うなら仕方ない。
じすさんが切るなって言ったから、手首はもう切りません。安心して下さい。
返事来なかったらこれが最後のメールです。
へんじこなくても、じさつしません。
エレGY
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